2016年6月5日日曜日

ブラッド・デロングは対数を習わなかったのか?

Delong and Logarithms

John H. Cochrane

ブラッド・デロングはウォールストリートジャーナルに寄稿した私の記事を批判している。彼は私の書いたグラフを批判し、


自分で代わりにグラフを作成した。


(どうしてブラッド・デロングの解釈は適切ではないのか。第一に、上のグラフとは違ってこのグラフは対数グラフになっていない。第二に、x軸がスケール一定とは限らない。第三に、このグラフには(上のグラフにもだが)時間軸が存在していない。このグラフはこの指数を83から100にまで上昇させると一人あたりGDPが即座に1600万円を超えるということを示しているのではなくて83の時よりも100の時の方が(いずれは)1600万円に速く到達する(はずだ)ということを示している)

彼は私が作成したグラフと彼のものとの違いをいつものように紳士的な抑制のきいた口調でこのように表現した。

『「信じられないほどにお粗末!!」、「凄まじい愚かさ」、シカゴ大学とウォールストリートジャーナルは非常に深刻な質の問題を抱えている』

などなどだ。

ブラッドの記事を読んだ人は、あのグラフを作成するのに私がどんな不正を用いたのだろうと不思議に思うかもしれない。ここでその秘密を皆さんにお教えしようと思う。それはシカゴ大学流の数学的技法でシカゴ大学ではこのように呼ばれている。

対数だ。

私は所得の対数とビジネスのしやすさ指数とをグラフにプロットしたのだった。

ではこれがどれぐらい悪いことなのかを見ていこう。成長理論は当然経済成長を取り扱っているので対数なしではとても大変になる。成長率を考えるに際して、所得の対数で回帰分析を行うことが作為のある右翼のトリックだというのであれば成長理論と実証経済学の99%を捨て去らなければならないのではないかと憂慮している。

先程のグラフをもう一度見て欲しい。この作為ある技法(対数)が教えられている初年度の計量経済学の授業を受けている学生を連れてきて私のグラフと彼のグラフのどちらが適切か、そして水準でのフィットと対数でのフィットのどちらが適切かを教材にしてみてもいいだろう。

彼はすべての実証研究に当てはまる一つの妥当な懸念を挙げた。内生性だ(リンク先を見てもそのようなことは書かれていなかったような…)。そのグラフは相関があることを示してはいる。ビジネスのしやすさが良いビジネスを生むのであって良いビジネスがビジネスのしやすさを生むのではないということをどのように知ればよいだろうか?(ヒント、中国)。

私はこのことに記事の中では触れなかった。それは単にスペースが足りなかったためだ(950単語では少なすぎる)。だが以前の記事の中ではそのことに触れている。

「ここで見られる相関を逆因果だとして批判する人もいるだろう。だが北朝鮮と韓国、東ドイツと西ドイツ、それに中国やインドの例を見て欲しい。これらの例は悪い政策が本当に甚大な被害を起こしうるということを物語っているように思われる。そしてアメリカとイギリスはGDPが遥かに低かった時から非常に素晴らしい制度を持っていた(Hall and Jonesは操作変数法を用いてこの種の内生性を制御している)」。

(その記事は見つけるのが難しいというわけではない。私はウォールストリートジャーナルの記事の中にリンクを張っておいた。もし「ジョン・コクランは内生性に関して何か云わなければならないことがあるのではないか」と疑問に思った人がいるのであれば(当然の疑問で、私はすべての授業毎に2回ぐらい尋ねている)、メールをして欲しい)。

その記事では良い制度が経済成長にどれぐらい重要なのかを調べた多くの研究を紹介していた。

だが以下のように考えてみて欲しい。北朝鮮や東ドイツはまず貧しくなってから悪い制度を持つに至ったのか?イギリスやアメリカはまず豊かになってから法の支配や財産権の保障などを構築していったのか?逆因果がすべてという説明は本当に妥当に思えるだろうか?思いつく限りのすべての歴史的事例がその逆を示していることに気が付くだろう。

内生性は経済学ではよく問題になる。だが彼がしているような見当はずれの主張(この相関は明確に逆の方向性がすべて)は(あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて考えたこともなかったのだが)どう見ても成立していないように思われる。

それ以前に彼はグーグルのことや、事実を確認するということ、簡単な確認のためにメールをするということを知らないのだろう。そうでなければ私がすでにシカゴ大学に在籍していないということを知っているだろうから。

大学が「質の管理」をしなければならないというのは言論の自由が制限されつつある現在では興味深い考えだ。Brad、君が望んでいるものがどんな結果を招くかをよく考えてみた方がいい。君のような人間の倫理を管理することが真っ先に挙げられるかもしれない。

まだ誰か関心がある人がいるのであれば私のウェブサイトにデータとプログラムをいつでもダウンロードできるようにしてある。このようなことが論争になるとは思ってもいなかったのできちんと整理されてはいない。だが少なくとも私がどのような手続きをしたのかは記述されている。

更新1:多くのコメントとツイッターの嵐から、読者の多く、訓練を積んだはずの経済学者までもが、この基本的な事実を理解していないことは明白だ。私のグラフはこの分野の数百の論文から得られた結論をきれいに表している。これが決定的な証拠だと言っていないし特に優れたものだと言った覚えもない。それは他に存在する。このグラフはJones、Acemoglu、Barro、Klenow、そしてその他多数を含む、成長理論からの結論を簡易に表現しただけに過ぎない。制度は経済成長に重要だ。悪い統治は驚く程の悪影響を経済成長に与える。このことをもっとはっきりとさせるべきだった。だがこの分野は平均的な経済学者にはよく知られたものだと思っていた。

更新2:所得の対数とビジネスのしやすさ指数との回帰にはEvan Soltasが暗黙的に指摘したように深刻な特定化の誤りが含まれるように思われる。私はこの指数のことをこの理由のために「単純」で「原始的」と呼んだ。だが再び、この自明と思われた点にも説明が必要なように思われる。

世界銀行が作成しているこの指数は大部分が起業のしさすさに重点が置かれている。アメリカでの規制の厳しさのことを考えるとそれは遥かに広範囲な現象、税制であったり、社会保障プログラムによるディスインセンティブであったり、医療や金融に対する連邦政府の関与の大幅な拡大であったり、オバマ政権による縁故主義であったり、オバマ政権による法の支配の無視などなどが影響してくる。これらは大企業にも影響を与えるがそれよりも中小企業に特に影響を与える。

国際間のデータを見てみれば、ビジネスのしやすさはこれら広範囲の法律的、規制的問題と相関しているだろう。全体的に悪い制度を持つ国はこの指数でも悪いことが予想できる。だが明白なことに、より大きな問題である法律的、制度的問題を解決することなしにこの指数だけを改善させても経済に対してそれほどの大きな改善は得られないだろう。

他の多くの記事で記した規制の問題は、この理由だけを取ってみてもこの指数が扱っている範囲を大きく超えている。

更新3:自明なので説明する必要もないと思っていたことに説明がまた必要なようだ(これで3度目だ)。数人のコメンテーターがこの指数をどこまで拡大できるのかに疑問を呈している。あるポイント以上からは制度が完全になるのでその改善からは新たな所得は生まれないだろう。そのポイントとはどれぐらいか?90?100?110?それは分からない。だが局所微分をしてみてもそれでも十分に高い。このラインを100まで延長できないと考えたとしても、82から83への改善はそれでも非常に大きな効果を持つ。