2017年4月23日日曜日

GDPは欠陥品だという宗教を広めたがっていたスティグリッツは何がしたかったのか?

Chales JonesとPeter Klenowの新しい論文をかいつまんで紹介する。「Beyond GDP? Welfare across Countries and Time」という題からも分かるように、彼らは厚生を測る指標としてGDPは不足だとしてそれに代わる指標を提案した。最近類似した指標を見掛けることがあるがそれらはすべてここで紹介したものと同じ欠陥を抱えている。

We propose a simple summary statistic for the welfare of a country’s population, measured as a consumption equivalent, and compute its level and growth rate for a diverse set of countries. This welfare measure combines data on consumption, leisure, inequality, and mortality using the standard economics of expected utility. The focus on consumption-equivalent welfare follows in the tradition of Lucas (1987), who calculated the welfare benefits of eliminating business cycles versus raising the growth rate.

ここからも分かるようにGDPでは無視されることが多かった消費、余暇、格差、死亡率などを考慮に入れることによって広い範囲での厚生を測ることができると彼らは主張している。

そして国ごとの詳細なデータが得られない場合には(多くの国を扱う場合には)、

log λ i simple = ei − eu s_e_us ( u + log ci + v ( ℓi ) − _ 12 σ i2 ) Life expectancy
                       + log ci − log cu s    Consumption
                       + v( ℓi ) − v( ℓu s )    Leisure
                       − _21 (σ i2 − σ 2u s).    Inequality

という簡易バージョンを、家計の消費調査などが利用可能な場合には、

log λ i__y ̃ i = Σ a Δs a i ua i    Life expectancy
                 + log c– i / yi − log c– us / yu s    Consumption share
                 + v( ℓ i – ) − v ( ℓ – us )    Leisure
                 + E log ci − log c– i − (E log cu s − log c– us) Consumption inequality
                 + Ev( ℓi ) − v( ℓ – i ) − (Ev( ℓu s ) − v( ℓ – us )) Leisure inequality

という風に使い分けている。

Looking at welfare relative to income simply changes the interpretation of consumption in the decomposition. The consumption term now refers to the share of consumption in GDP. A country with a low consumption share will have lower welfare relative to income, other things equal. Of course, if this occurs because the investment rate is high, this will raise welfare in the long run (as long as the economy is below the Golden Rule). Nevertheless, flow utility will be low relative to per capita GDP.

ここで説明されているように、GDPに占める消費の割合が低いと(所得で見た場合に比べて)厚生が低いとされる。

To calculate consumption-equivalent welfare, we use household survey data from
the United States, Brazil, China, France, India, Indonesia, Italy, Malawi, Mexico,
Russia, South Africa, Spain, and the United Kingdom. See Table 1 for a list of the
datasets, years, and sample sizes. A detailed description of the data and programs used in this paper are available in the online Appendix.

家計調査を使用したのはこれらの国々に対してで、


このようにデータには実施された年度に大きなばらつきがある。

アメリカの場合、CEというのはConsumer Expenditure Surveyのことで、これは消費の総額がnational income and product accountのpersonal consumption expenditure(ようするにGDP統計の個人消費)よりも数百兆円少ないことが知られている(この点を無視して消費の格差を測れると主張する怪しい論文の結論に依拠している)。主な違いはCEがout of pocket(自己負担額)だけを計上するのに対してPCEではメディケア、メディケイドなどを含むすべての保険料支払いが計上される。他の国の消費統計がそれに準ずるものなのかは定かではない。

このような設定の下で、彼らは3つのポイントを挙げた。

1.一人あたりGDPは厚生を測る指標として大部分の国において非常によく当てはまっている。一人あたりGDPと彼らの指標は0.98と極めて高い相関を示す。それでもこの2つの指標間の違いは重要で、先程の13の国では乖離の平均値は35%にも及ぶ。

2.平均的な西ヨーロッパの国々の厚生水準は所得で見た場合よりもアメリカの水準に近くなる。

3.発展途上国の多くは平均寿命、消費水準の低さ、消費の格差が原因で所得(GDP)で見た場合よりも厚生水準が大きく低下する。

A second reason that welfare is lower than income in several countries is that average consumption—as a share of income—is low relative to the United States. Utility depends on consumption, not income. Of course, an offsetting effect is that the low consumption share may raise consumption in the future. To the extent that countries are close to their steady states, this force is already incorporated in our calculation. However, in countries with upward trends in their investment rates, our calculation will understate steady-state welfare.

投資がGDPに占める割合が上昇している(単に高いだけではなく)国はあまりないだろうし、

though correcting for this has a modest effect.

と彼らは主張している。

結果が下の表にまとめられている。


この表から分かるように、ヨーロッパの厚生の水準が(相対的に)上昇しているのはLife expectancyとC/Yがプラスとマイナスで概ね打ち消し合っているのに残りの3つ、余暇と消費の格差と余暇の格差によって大幅に押し上げられているためということが分かる。

余暇の格差をどうして取り上げたのかは分からないが、これはあまりにひどく、彼らの主張の真逆を指しているようにさえ思われる。例えばアメリカの場合、低所得者ほど労働時間が短く(高齢者がかなりの割合を占める)高所得者ほど労働時間が長いことが指摘されているが(というか所得上位1%などを除けばその要因だけで所得格差の大部分が説明できてしまう)、これは所得の格差などを打ち消す方向に働くからだ(余暇の時間が長い方が人々の幸福度が高まるとされているため)。その程度に応じてこの指標の符号は逆にするべきだった。

消費の格差については先程簡単に触れたので、余暇についてもヨーロッパの余暇の時間は実は長くないという最近の調査を無視している。よってこの3つの指標がヨーロッパの厚生の水準を押し上げるかは少しも定かではない。

そして最悪なのが平均寿命で、以前の記事でも紹介したようにせめて中央値を使用すべきだった。例えばイギリスの場合、以前の記事にもあったように中央値は平均値よりも7歳以上も長い。例えばイギリスの平均寿命を80歳とするとイギリス人が100万人生まれたとして50万人は80歳までに死亡しているような印象を与えるが実際には87歳になっても半数以上が生存しているというように現実とは大きく乖離している。というわけでヨーロッパの厚生の水準を押し上げている要因はすべて消滅して所得に占める消費の割合C/Yの押し下げ要因だけが残る…といいたいところだがこの指標もよく見ると変だ。アメリカとイギリスを比較するとこの指標の差は7%ほどだが(その数字も怪しいが)厚生の違いは-14%ポイントほどと評価されているのに対してアメリカより10%低いはずのフランスとアメリカの厚生の違いは-15%ポイントでイギリスと1%ポイントしか違わない。

ここまでをまとめると、ヨーロッパの厚生水準を押し上げていた4つの要因のうち3つはほとんど消滅して余暇の格差はむしろ符号が逆(消費の格差、所得の格差とは打ち消し合う関係にあるから評価は難しいが)、消費の水準の低さと相まって所得で見た場合よりも消費で見た場合の方がヨーロッパの厚生の水準はやはり低下する。

East Asia.—Differences between welfare and income are also quite stark for East Asia. According to GDP per person, Singapore and Hong Kong are rich countries on par with the Untied States. The welfare measure substantially alters this picture. Singapore declines dramatically, from an income 117 percent of the United States to a welfare of just half that at 57 percent. A sizable decline also occurs for South Korea, from 58 percent for income to 45 percent for welfare. Both countries, and Japan as well, see their welfare limited sharply by low consumption shares. This force is largest for Singapore, where the consumption share of GDP is below 0.5.

シンガポールと香港の一人あたりGDPはアメリカより高いと思っていたのに消費ではアメリカの半分程度というのは意外だった。

2017年4月12日水曜日

結局、アメリカの医療費が世界一安かった?

High US health care spending is quite well explained by its high material standard of living

by Random Critical Analisys

アメリカの一人あたり医療支出は他の国と比べて多いわけではないという記事を今から2年前に作成した。多くの人がその記事を見たことに加えてコメント欄で批判を受けたため、証拠のアップデート、批判に対する回答、私の議論をサポートするための新たな証拠の付け加えが必要だと感じていた。

アメリカは所得比(GDP比)で見て他の国よりも医療費を多く費やしているという主張をしたい人たちによって作成されたこの手のグラフが数多く存在する。


(以降のグラフはクリックするとすべて拡大する)

彼らの主張やグラフは、アメリカは所得比で予想される額の2倍を医療費に費やしているとの印象を強く与える。だが彼らの主張やグラフは誤りだ。

GDPは「豊かさ」を表す指標としては欠陥があり、医療費の予想を行うに際して他の指標よりも大きく見劣りする。

アメリカは、彼らの主張やグラフが示すよりも現実には遥かに豊かだ。

都合よく幾つかの国が抜き出されていることによって(この文脈における)GDPの問題点が覆い隠されているということは以前に指摘した。そのせいで、豊かさと医療支出との関係の実際の強さが多くの人に理解されていないという皮肉な事態に陥っているということも指摘した。

それら2つの変数を線形で比較することは、医療費が所得や消費などに占める割合が考慮の対象である時に、トレンドからの乖離を見掛け上大きく見せてしまう。

正しいデータで分析を行い詳細に目を配れば、アメリカの医療支出はその豊かさと比較して多いわけでも何でもないということが極めて明らかになるだろう。以下ではそれを説明していく。

Healthcare is a superior good

第一にそして最も重要なことに、医療に対する支出は上級財だということを理解する必要がある。人々は豊かになると今までよりも多くの割合を医療に費やすようになる。これを指摘しているのは何も私だけというわけではない。事実、経済学の教科書などでもよく指摘されている内容だ。だが話がアメリカの医療支出のことになると、経済学者たちはこのことを完全に忘れてしまうかその意味するところを不当に歪めようとしてしまう。

経済学の教科書ではこのことをGDPに絡めて説明している(省略)。

これらの弾力性は、GDPが増加するとGDPに占める医療支出の割合が増加することを意味している(省略)。

もしくは(現在の医療システムが確立される遥か前の)アメリカの長期の医療消費のデータを見て欲しい(省略)。

指摘したいのは、豊かさと医療支出との関係は私の分析やデータに特有のものではないということだ。国が豊かになると人々はより多くの物を(広く深く)購入するようになり、それら労働集約的な財やサービスの価格水準は他の財やサービスと比較して相対的に上昇していく。

「一人あたり実現個人消費」(AIC)はアメリカがヨーロッパすべての国を併せたよりも(EU連合)50%以上も多い!


一人あたりGDPがアメリカより高い国も幾つかの小国しかないが、アメリカは一人あたり消費で他の国を大きく引き離している。さらに、ヨーロッパのほとんどの国々は所得で見るよりも消費で見た方がその差が小さくなる。これは、消費に政府からの移転、補助金など、それに医療費や教育支出などが含まれていたとしても結果は変わらない(AICにも当然それらが含まれている)。

AICには(特に政府からの)医療費や教育支出が含まれないと勘違いした人が多いようなので繰り返す。AICから除外されている唯一の種類の消費は個人や家計に直接には振り分けることのできないものだけだ。ようするに、軍事品の調達のような政府による集合的支出(買い付け)だけだ。

AICは(1)国民経済計算などから計算(2)OECDや他の機関が直接公表している(3)私以外の他の人からもGDPよりも豊かさを表す良い指標として見做されている。

国全体の総消費以外にもアメリカの消費が高いことを示す証拠が幾つかある。

例えば、



この表の内容自体は少し古くなっているが、その傾向は今でもほとんど変わっていない。

PISAが(テストのついで?に行っている)家計の豊かさ調査とAICの比較はここにある。


(PISAの家計調査は極めて単純なもので(例えば、家に机があるかどうか、自分の部屋があるかどうかなど)、恐らくはレンジ制約の影響を受けていると思われる。そしてわずかの富裕層によっては大きく歪められることはない。だがこの基準で見てすらもアメリカはNo.1で、ヨーロッパの高所得の国々(ドイツ、フランス、イギリスなど)が低所得の国々(例えばギリシャ、スペイン、ポーランドなど)につけている差よりも大きな差を付けている。これらは国民経済計算の中にだけ見られる些細な消費の差というわけでも何でもない!)

Consumption is a strong predictor of HCE

AICを用いることにより、ほとんどすべての年度の国際間の医療費の違いの大部分をそして医療費総額の時間発展の推移を40年以上に渡って説明することができる!(医療経済学者の衝撃的なまでの間抜けさを理解できるだろうか?)


(これより以降のグラフには時間の経過によって動く動的グラフが多く含まれている。動的に表示されていなかったら何らかのエラーが発生している)

切片項に小さなトレンドが見られるものの、その影響は極めて小さなものだ。医療費はほとんどすべての地域で増加しているが、その国際間の違いや年度ごとの違いは国際間の消費の差によって極めてよく説明できる。ようするに国が豊かになるとその国のHCEはそれに従って増加していく。PPPで調整した一人あたり消費で見て数十年前のアメリカの水準である国は、その頃のアメリカが支出していた額とほとんど同じ額を医療に費やしている傾向にある。

(私は10を底としてこのグラフの両軸を作成した。それにより成長率をパーセンテージで簡単に比較できるようになる。そして残差項の相対的な大きさを調整できるようにした(5000ドルの時の1000ドルと25000ドルの時の1000ドルでは相対的な大きさが異なる)。

同様に、医療費を(GDPなどではなく)AICの割合としてプロットした場合にも同じような傾向を見ることができる。


割合で見ればノイズが多くなったようにみえる。だがそれでも極めて安定した長期のトレンドをはっきりと確認することができる(ノイズの幾つかは経済の好不況や新たな国が統計に加わったことなどが原因だ)。

HCE increases with GDP too (even if less well correlated)

X軸をAICではなくGDPに置き換えたとしても、両者には強い相関が見られる。国の所得が増加すると、医療への支出も増える。



AICとGDPのグラフをよく見比べてみると、GDPのグラフはOECD加盟国以外に対しては当てはまりが悪くなっていることに気が付くだろう。この記事ではOECD加盟国以外は分析の対象とはしていないが(それは以前の記事で行った)、その問題はより多様な形態の経済のデータを観察することにより明らかになる(例えば、輸出の割合が高い、投資の割合が高い、外国との労働者のやり取りが盛ん、観光業が大きな割合を占めるなど)。


AICはこれら多様で極端な形態の経済であっても極めてよく説明する。実際、一人あたりGDPが示唆するよりもこれら極端な形態の経済の消費の水準は遥かに低い。

AIC fits HCE substantially better than GDP

(省略)


It matters how a country generates its GDP

GDPの中身は額が同じであればすべて同じだと考えている人が多いようだ。だがそれは明らかに間違っている。GDPが同じ2つの国のことを考えてみよう。一方はGDPの半分が純輸出で(支出ベース)もう一方はゼロだとする。定義により、後者の方が前者よりも遥かに生活水準が高い(その違いは、例えば資本の形成ではなく消費に見られる)。

輸出などの活動は確かに市民の生活水準を高める(利益や賃金、税などにより)。だがその効果はGDPの支出の他のカテゴリー(特に消費で)すでにはっきりと捉えられている。同じことが資本形成の活動にも当てはまる。結論としては、GDPの消費の部分がその国が消費やその他の活動に割り当てることができるお金をどれだけ持っているかを私たちに最もよく教えてくれる。従って、その国が医療にどれだけ費やすことができるかも教えてくれる。

GDPに対する支出側のアプローチは以下のように定義される。

最小二乗法を用いて医療費の予測値を求めるのに際してOECDの公表している数字(GDPの消費部分)を参考にした。

モデル(1)は年度間の固定効果だけを計量モデルに組み込んだ(ようするに、各年度の切片項が年度ごとに変わっても良いとした)。AICPCの対数とHCEPCの対数を取った説明変数での係数が1.6の値で極めて有意であることが見て取れるだろう。モデル(2)のように最終消費支出からAICを引いた変数で(ようするに前に説明した政府による集合的支出)制御を行ったとしても、AICの係数はわずかに低下するものの結果はほとんど変わらず集合的支出の係数よりも遥かに大きいことも見て取れる。AICからHCE(Health care expenditure)を取り除いたとしても(HCEの大部分はAICの中に含まれるため自動的にこの関係が強化される、という批判に前もって答えるため)、結果はほとんど変わらなかった!


モデル(3)ではAICとGDPからAICからを引いた変数(実質的には集合的支出+純輸出+固定資本形成)との比較を行った。両者の係数は大きく異なるものだった。モデル(4)のようにさらに掘り下げて、AICからHCEを差し引いたとしてもAICがGDPの他のどのコンポーネントよりも説明能力の点で大きく優れていることが確認できる。


さらに推し進めてGDPをそれぞれの構成要素毎に分解したとすれば(さらにAICからHCEを差し引く)、GDPのそれぞれのコンポーネントは医療支出の額に対して異なる影響を与えていることがはっきりと見て取れるだろう。



(省略)

他の変数を加えたりダミー変数を加えたりしたとしても(1)他の変数は滅多に有意となることがない(2)モデルの当てはまりは改善されない(3)アメリカをダミーとしてみても結果はほとんど変わらない。


Comparing model predictions to observations

上記のモデルを用いて、医療費が年度ごとにどのように推移していったかをこのシンプルなモデルによってどれぐらいうまく説明できるか見ていく。

両軸を対数にしたものがこちらで、


線形のものがこちらだ。


(アメリカとルクセンブルグだけは線形での回帰の場合、1990年あたりから他の集団から離れていっているようにみえる。線形でグラフを表示した場合、上でも説明したようにこれらの残差の相対的な大きさが誇張されて見えてしまう傾向にある)。

両軸を対数でプロットした時のその回帰の残差をグラフにすると(ようするに、モデルで特にAICで説明できなかった部分)、アメリカは他の国から大きく離れているわけではないことが分かる(所得で回帰していた時には、回帰線から大きく上方に乖離していたのとは対照的)。

(アメリカの残差項の中央値は1標準偏差を少し上回る程度だ。イギリスは逆に1標準偏差を少しだけ下回っている。ヨーロッパの他の国々も所得で見た場合と比較して予想を上回る範囲にあり、アメリカとほぼ同じぐらいの支出であることが分かる)

Modeling health expenditures as a percentage of GDP

対数-対数モデル/残差の意義を理解できていない人もいるかもしれないので、今度はこれをGDP比として分析を行う。問題なのはGDP(本当は、消費であるべきだが)に占めるHCEの割合をどのように定義するかで、ここで実際に回答したい疑問は以下のようになる。GDPの割合として見たアメリカのHCE支出はモデルの予想値から何%ポイントぐらい離れているか?ここではGDPのコンポーネント毎に回帰分析を行ってその疑問に答えようと思う。

以前の分析からも分かるように、GDPの構成要素毎に係数は大きく異なることが予想される。定義により分母に対しては等しく働くのに対して、医療費の増加を予想する(実際に、増加させる)のはそのうちの一部でしかないからだ。この回帰分析を行うまでもなく、純輸出と固定資本形成はHCEがGDPに占める割合に有意な負の影響を与えているだろうと最初から容易に予想された。そして結果は予想通りだった。


モデル(1)を見ればAICの10000の増加は医療費がGDPに占める割合の3%ポイントの増加に対応していることが分かるだろう。それとは逆に純輸出や固定資本形成の10000の増加は1.6%ポイント、2.3%ポイントの減少に対応している(そのすべてがp値で見て1%水準で有意)。モデル(2)と(3)はその結果はアメリカやルクセンブルグを加えても変わらないことを示している。モデル(4)から(6)はAICではなくAICからHCEを差し引いた変数で分析を行った。以前にも説明したようにHCEはAICに含まれているためだ。それでも結果に変わりは見られずこの変数の10000の増加は医療費がGDPに占める割合の3%ポイントの増加に対応し、純輸出と固定資本形成もはっきりとマイナスのままになっている。そしてモデル(5)のようにアメリカを加えても結果は変わらないなどなど。

モデル(1)が最も好ましいと思われるのでここからはモデル(1)の結果を使用していく。

Modeling HCE as a percentage of AIC

AICが最適な変数だと考えているのでここでは多くの時間を割かないが、医療費が消費に占める割合の結果も示しておこうと思う。


一人あたりAICの10000の増加は医療費がAICに占める割合の3.6%ポイントに対応する。



AICに占める割合として見た場合、アメリカの医療支出は他の国と比べて多いわけではないという結果がさらに強められることになる。

A bit on the spending divergence in the 80s

今から数年前にCowen、McArdleらがこのようなグラフを記事にすることがあった。そのグラフはアメリカは1980年代頃から医療費で見て他のOECD加盟国から離れだしたということを示していた。


これですべてが説明できると主張しているわけではないが、GDP成長率とGDPの構成要素の変化を見れば、アメリカはむしろ他の国から大きく離れて当然だと私のモデルは示唆している。




繰り返しだが、AICに占める割合として見た方がここでは意味がある。

A bit of spending data on volume

医療費全体だけではなく(驚くべきことではないが)、診療、手術などの支出の大きな部分を占めるものも国際間と一国内で(同じ国の年度毎)でAICと相関している。都合よくデータを抜き出したとの批判を避けるため、ここではすべてのデータを提示した。アメリカのデータはすべてにおいて利用可能というわけではないが、豊かな国ほど医療の支出が多い様子がここでもはっきりと見て取れる。




こちらのグラフは先程より不明瞭だ。だがそれでもかなりの部分が国の豊かさと極めて強く相関していることがはっきりと見て取れる。アメリカのデータが揃っている場合では、それは大抵の場合トップに位置している。






Overall pharmaceutical spending is not extremely high

アメリカの医薬品への支出は平均を上回っている。だがここにも国の豊かさとの関係が見られる。アメリカの支出はその意味で他の国からかけ離れているという訳ではない。



医者や看護師への給与もAICと比較して多いというわけではない。




アメリカの医者(平均3000万円)や看護師の給与は他の国と比べた場合の私たちの生活水準と比較すれば、極めて整合的な水準にある。

Admin costs are substantially above trend, but don’t drive large differences in spending

OECDは各国の各項目毎のすべての集合的支出を記録して「Governance and health system and financing administration」と呼ばれるカテゴリーとしてデータを提供している(例えばCDCやHHS、CMS/Medeicare/Medicaid、民間の保険会社、非営利のサービスなどなど)。

その支出の関係性は30年以上に渡って安定しているように見える。





線形で回帰すればもちろんこの関係は極端なものであるかのように見える(実際にはそうではないのに)。


だが(1)アメリカの医療システムのマネジメント費用は大体半分ぐらいが政府のもので民間ではない(2)実際の金額の違いは他の国と比べても極めて小さい(リベラル派は民間の医療保険のマネジメント費用の方が遥かに高いから民間の保険を政府の保険に置き換えれば他の国よりも医療費が安くなるとすぐバレる嘘をずっと昔からつき続けていたという背景がある)。ようするに、医療システムのマネジメント費用では国毎の医療費の違いをまったく説明することができない(AICであればすることができる)。

US price levels well explained by AIC

アメリカの医療費の大きな部分を病院が占めアメリカの病院の費用は平均を大きく上回るというのは事実だが、これもまたAICで非常に簡単に説明することができる。

OECDから協力を依頼された幾人かの経済学者たちは医療全般のそして病院に関連する物価の水準を投入側からのアプローチ(例えば労働費用や病院の設備の水準など)と産出側からのアプローチ(例えば、Xという治療を行うのに掛かった平均費用など)によって求めた論文を最近になって出版した(その際にはできうる限り同じ内容、同じ治療となるように注意が払われた)。そして一人あたりAICが国毎の物価水準の違いの大部分を説明していることを示した。


「価格水準」指数は、それぞれの国の消費水準で重み付けされた各国の医療PPPを(EU28ヶ国の価格水準の平均からの乖離で割ったものの)比率として定義される。以下はOECD自身による説明だ(省略)


この方法も完全という訳ではない。だがそれでも相対費用を表す指標としては素晴らしいものだ。そして国がどれぐらい豊かかと同じ治療が(他の国と比較して)どれぐらい費用が掛かると予想されるのかという命題に関して非常に強い関係をはっきりと見ることができる。

彼らは、経済全般(GDP)のprice level indices(PLIs)が高ければ医療関連のPLIsはさらに高い傾向にあることを示した。言い換えると、医療関連と経済全般のPLIsは正で相関しており医療関連のPLIsはGDP PLIsよりも速く上昇している。


例えばスイスのGDP PLIsはEU-28平均よりも55%も高いが医療関連のPLIsはEU-28平均よりも106%も高い。逆にマケドニアはGDP PLIsが60%も低いが医療関連のPLIsは73%も低い。

このことはこの問題を深く考えている人々にとっては驚くべきことではない。医療の生産性は、例えば製造業や農業などとは対抗できない。

彼らは、医療全般のPLIsそして病院関連のPLIsのどちらで見てもアメリカはEU-28平均をわずかに上回っているだけだということを示した。そして医療財と医療サービスの消費量はEU-28の2倍であることも示した(すなわち、一人あたりAICの水準から見て医療価格は大幅に安く医療サービスの消費は大幅に多い)。

彼らのデータを簡潔にプロットしてみる。




上のグラフ(消費量)はアメリカの医療サービスの消費量は他の国より遥かに多いことを強く示唆している。このデータは、アメリカの医療支出をトレンドより押し上げているのは医療価格(情報の非対称性による市場の失敗に起因する)だという(ほとんどすべての人たちから)長きに渡って語られてきたことが誤りであったことを極めて強く示唆している。すなわち、このデータはコストはAICから予想されるよりも遥かに少なくて消費量はAICから予想されるよりも大幅に多いことを表している(さらにどうしてアメリカは医療のマネジメント費用に平均以上費やしているのかもよく説明している)。

医療の価格(水準)指数とGDPの価格(水準)指数との比率も計算してみた。


この比率は、生活水準が高い国ほど医療がより高額な傾向にあることを示している。彼らが用いた方法はしっかりとしたものであり、AICと価格水準の関係は非常に強い。ヨーロッパと医療システムが同じであれば、アメリカの医療価格は遥かに高くなっていたはずだ。

今度は、一人あたりAICと個別の治療に掛かった病院価格との関係を見ていく。


(1つがアメリカを含んだ場合のトレンドで、暗くなっている部分が信頼区間、赤線がアメリカを除いた場合のトレンド・ラインだ)

全体的に見てアメリカの病院価格がレンジの高い方に位置しているというのは事実だが、すべてのグラフで(1)病院価格は(アメリカのデータを除いたとしても)一人あたりAICと強く相関している(2)アメリカの病院価格の水準はトレンドラインから外れていない(アメリカのデータを除いた場合の方が傾きは急であることが多いし、そもそもトレンドラインを大きく上回っているものは1つもない)ということも明らかだ。

より正確な推計を行うにはもっとデータがあったほうが好ましい。だが本当にアメリカの病院価格がリベラルが言うように天文学的だというのであれば、もっと大きく目立っていたはずだ。ところが明らかにそうではない。これはアメリカの病院価格は(生活水準が格段に低い)ヨーロッパと比較してみれば大幅に高く(天文学的に)見えるのかもしれないが、アメリカの国の豊かさから考えれば極めて妥当であることを示唆している。

さらに病院部門全体のすべての一人あたり支出を見れば、AICと極めて強く相関していることが分かる。そしてここでもアメリカは通常の範囲内にある。


Comparison of volume of goods and services (PPP study)

上で説明したのと同じ方法を用いることによって(すなわち国民経済計算の最終支出をそれぞれの国の通貨で項目毎に計算して、それをそれぞれのPPPで割る)、EUの平均を基準とした財とサービスの相対的な消費量を求めることができる(EU28=100)。


グラフから分かるように、医療だけではなく例えば集合的消費、耐久消費財、非耐久消費財、レクリエーション、娯楽、外食など主要なカテゴリーのすべてでアメリカは他の国よりも遥かに消費量が多い。同様に、医療の消費がトレンドを下回る国の多くはそれらの消費のカテゴリーでもトレンドを下回っている。

同様に、一人あたりAICはそれらのカテゴリーの多くと相関が強いことも確認できる。


Comparison of multiple price levels

カテゴリー/財毎の価格水準の違いには小さなばらつきしか見られない。ようするに、カテゴリー毎の価格水準は一国内において強く相関している。


OECD加盟国間の食料消費の違いや教育支出の違い、アルコール消費量の違いなども豊かさの違いで説明できる。

多くのカテゴリーにおいて、AICの方がGDPよりも項目ごとの消費量の違いをよく説明している(医療だけではなく!)。

繰り返しになるが、OECDが調査した2011年の購買力平価のデータを用いれば、価格水準の多くは1つの国の内部において極めて強く相関している。例えばGDPやAICのように経済全体の価格水準が分かったとすれば、医療などの個別のサービス毎の価格水準も極めて正確に予想できるだろう(少なくともOECDに協力を要請された経済学者たちによって注意深く決定/定義された価格水準であれば!)。GDP PPPやACI PPP(の国毎の違い)は(国毎の)医療の価格水準の違いの92%を説明している。

従って適切なPPPでもって調整を行っていれば、例えば医療などの特定の価格指数のデータは新たな情報を何も付け加えてはくれないということができる。これは(一国内における)項目毎の価格水準に違いが存在しないと言っている訳ではない。だがそれは国全体の価格水準を示す指数の中にすでによく反映されている。


教育などの他の労働集約的なサービス支出もAICと強く相関しているのが分かるだろう。


サービスの価格水準が高い国は財の価格水準も高い傾向にある。だがその上昇率は大きく異なる。


言い換えると、サービスの価格水準は国が豊かになると財の価格水準よりも速く上昇するようになる。だがアメリカは相対的に見れば価格水準の比率(サービスと財の価格水準の比率)が高いとは言え、そのAICの水準から予想されるより実際には低い方に位置している(ようするに先程と同じように、相対的に見てサービスの価格は安くその消費量は多い)。


医療の価格水準の比率もサービスの価格水準の比率とまったく同じに見える!


ようするに他の価格水準のデータも医療の価格水準のデータと極めて整合的であるように思われる。これは、医療費がGDPに占める割合が高いのは(増加させていたのは)他の国よりもコストが高いから(他の国よりもコストが速く増加したから)ではないという考えを支持している。私たちはある特定の財や特定のサービスに対してよりお金を費やしているかもしれない。だが平均的に見れば私たちは高い価格(費用)を払っているのではないと最良のデータは示している。そうではなく消費量が多いからでもっともよく説明できる(もしくは他の国では利用することができないサービスを消費しているからか)。

Even my models may overstate actual US excess

以前の記事では私はより多くの国のデータを集めているWHOや世界銀行のデータを用いて分析を行った。その一方でこの記事ではOECDがデータを提供している加盟国を分析の主な対象としている(データがより信頼できると思われる)。低所得国のデータにエラーが含まれていたとしても、NHE(national health expenditure)とAICとの間に非線形の関係があるのは自明のことだとその時から思っていた(経済学者を含む他の人たちはどうして線形の関係を想定しているのか不思議で仕方なかった)。


(AREはアルゼンチンだと思うが、アルゼンチンは経済のデータを改ざんしているという疑惑がここからも確認できる)

Rでこのデータを再び描写すると、これが(医療経済学に関わっている人間であれば全員が)採用すべきデフォルトの結果であるように思われる。

こちらはAICの割合として計算している。


緑の線は非線形で誤差が最小のラインでもう一つのラインは線形のものだ。OECD加盟国の大部分は線形のトレンドよりも上に位置しているように私には見える。中位の所得の国はトレンドより下に、所得の低い国はトレンドより少し上に見える。よくフィットしているようには思われない。

AICを用いた場合、線形のモデルでさえもリベラルが宣伝していたより残差が遥かに小さかったわけだが、この関係性はそもそもが線形のものであったようには思われない。実際の関係性が線形ではないとすると、これまでほぼすべての人たちが線形を仮定してきたために豊かさで見て遥か右側に位置するアメリカを不当に罰してきたことになる。逆に実際の関係性が線形だと言うのであれば、医療システムが極めて有効に機能しているとリベラルが宣伝してきたヨーロッパのほとんどの国がどうしてトレンドより大きく上方に位置しているというのか?この問題はデータの質や幾つかの外れ値によって説明できるとは思われない。


このバイアスがどれぐらい深刻となりうるかを見てみよう。

赤の上に重ねられている緑の点は2011年のOECDのデータだ。青の回帰線はデータ集合全体(OECDのデータを含むWHOのデータ)で、緑の回帰線はOECD全体の線形トレンド、黄色の回帰線はAICが20000ドル以上のOECDのデータの線形トレンドを示している。青の回帰線が正しいトレンドだとすると、他の回帰線との乖離が(非線形と比較した場合の)バイアスの大きさを表している。一方で黄色の回帰線はAICが20000ドル以上のトレンドをよく表している(私のモデルもOECDに協力を要請された経済学者たちのモデルもAICが20000ドル以下の国を含んでいる!)。


豊かさと価格水準、豊かさと消費量が相互に影響を与えている以上、何らかの非線形性が現れるのは私には当然のことのように思われる。すなわち(1)豊かな国はより多くの医療サービスを消費する(2)豊かな国の医療などのサービスの価格水準は他の財やサービスなどと比較して(特に貿易財などと比較して)大幅に押し上げられる。何らかの非線形性が見られるのは当然だろう。

言い忘れていたが、GDPはここでも良い仕事をしていない。



アメリカの州の内部においてもHCEに違いが見られるが、ここでも消費の違いがそれをうまく説明する。


最も多く医療に支出しているDC(コロンビア行政区)は最も支出が少ないユタ州の106%以上支出している(2倍以上)。DCは州ではないので除外したとしても、マサチューセッツ州は(ユタ州より)84%も支出している!これは極めて大きな違いだ。

AICではなくPersonal Consumption Expenditure (PCE)に変えても結果に変わりは見られない。この指標でもアメリカの州毎の医療費の支出の違いの大部分を説明することができる。


今度はこれでHCEと比較してみよう。

Personal Incomeも比較的よく機能している。だがPCEはそれよりもよく機能している。



DCを外れ値として除外しても、PCEはGDPを大幅に上回っている。


PCEは本当であれば購買力などで調整されるべきだ。それでもPCEは州間のHCEや所得の平均を説明するのに機能している(GDPよりは間違いなく良い)。


国毎の医療費の違いで大騒ぎをしている人たちは州毎の医療費の違いに目を向けるべきで、単一保険のようなものが存在しないにも関わらずどうしてある州の支出は他の州よりもそれほど多いのかを説明するべきだろう。

Conclusions

これまで声高に叫ばれていた主張のすべて(例えば価格が高いのは支払い側に価格交渉力が欠如しているためだ、アメリカの医者の所得が高いせいだ、民間に任せているせいだ、価格規制が存在しないためだ、単一の(政府による)保険ではないせいだ、などなど)は、すべてが的はずれでありその人たちは何を根拠にこれまで喋っていたのかその分析能力に重大な疑問の声が挙げられている。現在利用可能な最良の証拠は、アメリカの医療に関する労働費用と価格水準は私たちの豊かさと極めて整合的であることを示した。アメリカの一人あたり費用はもしかしたらトレンドを少し上回っているのかもしれない。だがそれは消費量が他の国より多いためであるように思われる(EU28の平均の2倍以上)。ところがそのことでさえアメリカが他の国より圧倒的に豊かであるためという理由で、大部分が簡単に説明できてしまう。

私が言っているのは、私たちは思う存分医療に支出するべきだということではない。私が言っているのは、私たちが直面している問題はヨーロッパが直面している問題と非常に似通ったものだということだ(そして私たちが数十年前から直面している問題と同じものだ)。それらは程度の違いであって、種類の違いではない。

以下、アメリカ人のコメント

cardiffkook says:

またもや素晴らしい記事だった!私が思うにあなたは他の誰よりもこの問題に関する理解を深めたように思う。知識を広げてくれて感謝している。

JJoos says:

この記事は非常に説得的だった。だがあなたは格差や予防的医療のことを考慮に入れていない。

rcafdm says:

(前半部分は省略)

格差を考慮に入れよとはどういうつもりで言っているのか意味がよく分からない。格差が小さい方が消費が増えると誤解しているのか?仮にその仮定を受け入れたとしても、低所得者の医療費がほんの少し増加し富裕層の医療費が減少するだけで大部分が打ち消されるだろう。だがそれ以前に所得による医療費の支出の違いは年齢や健康状態などを考慮するとほとんど大きくないため、全体の支出に与える影響はほとんどないと言っていいだろう(貧しい人々は治療を受けられないという通説とは異なり、その他の特性を考慮に入れなければ低所得層の方が実際には医療により多く支出している)。私が考える所では、一人あたり消費はスピルオーバー効果のように間接的に作用する(サプライチェーンが確立されるためにはある程度の需要を必要とする、治療の標準が切り替わる、保険のカバレッジがより寛大になる、主観的な命の価値が高まる、などなど)。従ってその影響は国と国の間などでははっきりと見ることができるが、特定の時間における特定の地域に住む個人の間を見ているのではその影響を感じ取ることはできないだろう。ようするにその国の長期の医療に対する需要の量を決定するのは平均所得の水準や平均消費の水準で、所得の分布が大きな影響を与えるとはとてもではないが思われない。