市場所得のジニ係数が90年以降急激に上昇している。
というわけで普段目にするOECDのデータと大きく食い違うことがわかった。
しかも水準だけでなくトレンドが一致していないように見える。
というわけでスウェーデンの統計局にあたってみた。
そっくりだ。上のグラフと少し違って見えるのは縮尺の違いと思われる(それと2010年度までと2005年度までの違い)。というわけで違いはキャピタルゲインを含むか含まないかということがわかった。
On the Role of Capital Gains in Swedish Income Inequality
by Jesper Roine and Daniel Waldenström
アブストラクト:キャピタルゲインの実現益(以下、単にキャピタルゲイン)は、普段は所得格差の研究においては対象から外されている。スウェーデンのケースでは、この扱いは実際の所得格差の拡大を大幅に過小評価することを示す。ミクロのパネルデータを用いて長期に渡って所得を平均し、さらにキャピタルゲインを除外した所得で個人を並べ直すことにより、上位1%の個人にとってキャピタルゲインが単なる一時的な所得ではなく更なる所得の増加となっていることを示す。同じことを低所得層に行っても結果に変化がなかった。さらにこの上昇の要因の元を調べてみた。その結果、1980以降の急激な株式市場の上昇が疑わしいと思われる。
1 Introduction
キャピタルゲインは、長期においては大抵の国で、上位1%の所得シェアに大した重要性を持たない。例えば、Saez and Veall (2003) and Veall (2010)は、カナダにおいてキャピタルゲインを含む系列と含まない系列は非常に似通っていてほとんど同じ特徴を持っていることを示した。Piketty and Saez (2003, p. 18)は同様の結論をアメリカのデータに対して示した。
キャピタルゲインをすでに所得分布の上位にいる個人が得ているならば、キャピタルゲインを所得格差の分析から除外することは実際の格差の上昇を過少評価してしまう。ここでの目的は、スウェーデンにおいて、80年代に始まった所得格差の上昇におけるキャピタルゲインの真の役割を知ることにある。
次に、上位1%の所得シェアをキャピタルゲインを含めた場合と含めない場合で再計算する。今度は、個人を数年間の長期平均所得に従って配列する。これにより、階層間の移動を一定にしたままで、キャピタルゲインの影響を知ることができる。
注9 ここでは3年と5年しか掲載していないが、期間を5年以上に延長しても結果は変わらなかった。
我々の主要な貢献は以下にある。スウェーデンでのキャピタルゲインによる所得格差拡大効果は実際の現象で、以前に使用されていたデータにあった問題によるものではない。そして、これはスウェーデンの所得格差の全体像を大きく塗り替える。キャピタルゲインを含む場合、含まない場合の所得に従って個人を並べ替えても、上位1%の所得シェアを長い期間に渡って計算しても、キャピタルゲインの影響が残る。さらに量的違いが重要だ。上位1%の所得シェアに、キャピタルゲインが与える影響は拡大している。1980の50%(4.3%から6.5%)から今日の70%(4.3%から7.4%)へとだ。キャピタルゲインの影響は上位1%にほぼ限定されていて、その他の階層にはほとんど影響を与えていなかった。
この変化の要因を特定することは出来なかったが、株式市場の上昇が主な要因と思われる。
2 Data and method
納税データの使用は優れた面も持つ一方、問題点を持つ。
グループ化されたデータを用いて、キャピタルゲインの分析を行うにあたっての主な問題点は、実際の個人にそれを割り当てられないことにある。おそらくより重要なのは、多くのキャピタルゲインを得た上位集団が次年度も同一人物で構成されているのか分からないことだ。
キャピタルゲインを適切な個人に割り当てるためには、さらに、上位1%の入れ替わりの問題に対処するためには、水平的なデータを必要とする。我々はスウェーデンのパネルデータであるLINDAを用いる。
分析の整合性はキャピタルゲインの適切な取り扱いにかかっている。データは納税申告にもとづいているので税制に影響を強く受ける。例えば、税率の変更や損失の控除の可能性は実現のタイミングと同様に課税対象となるキャピタルゲインの割合に影響を与える。
次にキャピタルゲインを含めた場合、含めない場合の総所得の3年、5年平均を計算する。それから対応する期間の総所得に従って個人を配列する。そして上位1%の所得シェアを計算する。
3 Main Results
3.1 The role of capital gains across the distribution of market incomes
3.2 Are capital gains mainly transitory and unrelated to other incomes?
3.3 Are large capital gains a top phenomenon only?
3.4 Are the capital gains associated with labor earnings or wealth returns?
上位1%が獲得した全体のキャピタルゲインに対する割合を調べることにより、2つのことがわかった。第一にそれは極めて高い。キャピタルゲインを含めないで個人を配列した場合でさえ全体の20-25%は上位1%が獲得している。第二に1980以降明確なトレンドは存在しない。
3.5 Have capital gains become a more important source of income in the economy?
1980年代の初期以来、利子所得と配当所得は総所得に占める割合が4%から2%に下落してきた。2004からはまた上昇してきたが。キャピタルゲインは1980の1%以下から近年の平均でみると4%以上に上昇してきた。現在では8%だ。
4 The Swedish Transition – a possible explanation?
スウェーデンの株式市場は大幅な変化を経験してきた。1960から1979の20年間、スウェーデンの経済は年率3.4%の成長率で成長してきた。しかし同時期の株式価格は平均2.6%下落していた。新株発行に対する制限がこの要因の一つと思われる。1980頃からスウェーデンの株式市場はブームを迎え、80年代の平均上昇率は13%、90年代の上昇率は16%を超えるようになった。参考として、ニューヨーク株式市場は80年代に3%、90年代に6%の上昇率だった。スウェーデンとアメリカの実質株式価格とスウェーデンの実質GDPを示した表7にこれらがはっきりと示されている。
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