Was Japan’s Real Interest Rate Really Too High During the 1990s?
The Role of the Zero Interest Rate Bound and Other Factors
by Hiro Ito
1. Introduction
The Role of the Zero Interest Rate Bound and Other Factors
by Hiro Ito
1. Introduction
仮に日本の実質利子率が1990年代に相対的に高かったのかまたは十分に低くなかったのならば長引く不況の原因を高い実質利子率に求めることも可能だろう(*絶望的に低い確率だとは思いますが(笑))。だがそのような主張をする前に問題となっているのは相対的な実質利子率の水準であることに注意をしなれけばならない。つまり日本の実質利子率が高いというなら何に対してそしていつそうだったのか?理論上は実質利子率が高いという場合それは均衡利子率に対して高いことを指す。よって実質利子率の振る舞いを調べる場合は均衡水準との相対比とそこへ回帰する速度が重要だ。ここでは日本の1990年台の実質利子率を過去との対比で調べる。節2で説明するECMにより均衡水準へ回帰する速度と短期の事前、事後の実質利子率の振る舞いを分析することが可能になる。
名目利子率がゼロの場合に実質利子率は直接的にインフレ期待またはデフレに影響を受けるようになる。実質利子率はそこでは価格変化の予想のみの関数となるからだ。これは実質利子率の振る舞いにレジームシフトが含まれる可能性を示唆している。さらに実質利子率の振る舞いが価格粘着性の程度に直接的に影響を受けることを意味している。そのような環境の下で価格に下方粘着性があったならば価格水準はあまり低下しないかもしれずデフレ期待も特に発生することはないだろう。従って名目利子率がゼロの環境であっても価格が粘着的ならば実質利子率は上昇しないかもしれない。逆に価格が伸縮的であればデフレ期待が発生して実質利子率が上昇するかもしれない(*その場合にはなぜ不況なのかという疑問が残る)。
2. Model specifications
2.1 Overview
実質利子率の振る舞いが長期で見て定常だと仮定することにより短期の振る舞いが長期的水準へと回帰するその力学を考察することが出来る。さらに合理的期待形成を仮定することにより実質利子率の事前値は短期の均衡水準と等しくなるのではあるがそれが必ずしも長期の長期の均衡経路上であるとは限らない。事後の実質利子率は平均ゼロの予測誤差を加えた事前の実質利子率周辺に表れる。だが事前と事後の実質利子率の長期水準からの乖離は一時的現象でなければならない。より直感的にわかりやすく言うと長期均衡は金融市場と財市場が均衡している場合に発生し短期均衡は金融市場のみが清算している場合に発生する。名目粘着性により財市場は清算するのに幾らかの時間が掛かるかもしれない。それにより短期均衡が長期均衡と乖離することが可能になる。よって財市場に価格の粘着性がなく家計の期待(予想)が正しければ観測される実質利子率は長期の均衡経路から乖離することはない。
2.2 ECM Approach
上記の議論により均衡実質利子率は定常状態の成長率とインフレ率に整合的な経済変数の関数となる。
(1) rt^eq=β'Xt^ss
r^eqは均衡実質利子率でX^ssは定常状態と整合的な変数のベクトルだ。r^eqを直接観測することは出来ないので事後の実質利子率(rt)を用いて以下のようにそれを表現する。
(2) rt=β'X+ωt
合理的期待形成が成立すると仮定しているのでwtは平均ゼロの系列相関のない変数となる。従って式(2)の通常のOLS推計は一致性を満たす。さらにこの回帰分析の適合値は事前の実質利子率に等しくなるだろう。短期に於いて実質利子率を均衡から乖離させるようなショックが発生するが式(1)の長期の関係に回帰するという状況を考える。式(2)は以下のような誤差修正モデルで表現することが出来る。
(3) Δrt=ΣθjΔrt-1+ΣβjΔXt-j-B(rt-1-b'Xt-1)+νt
Xtは経済変数のベクトル、νtは平均ゼロの定常ランダム変数だ。すべての変数を定常かまたはI(1)と仮定すると式(2)と式(3)は互いに等しくなる。さらに長期の均衡が安定であることは0 < B < 2で保証される(Hinkle and Montiel (1999)。回帰速度はB=1の場合に最速でBが1から乖離するにつれて低下する。Bが1を下回る場合には単調に回帰し1を上回る場合には振動する。
この誤差修正モデルは以下のようにrtを再定式化しているに過ぎない。
(4) rt=Σθjrt-j+ΣβjXt-j+νt
式(3)と式(4)を比較することによりB=1-(Σθj)とb=Σβk/Bが成立しなければならない。さらに収束は安定性条件が満たされている場合に発生する。
2.3 Coefficient Instability and Nonstationarity – Preliminary Linear Tests
上記の変形を通して実質利子率の短期と長期の振る舞いを調べることが出来る。だがこの形式の分析が有効なのはrtまたはωtが定常である場合だけだ。多くの実証研究は実質利子率の振る舞いが一定でも定常でもないと報告している。Fama (1975)はアメリカの実質利子率が1953-1971の期間で一定であったと報告したもののMishkin (1981)は1953-1979と1931-1952の期間で強く否定している。Rose (1988)はアメリカと17のOECD加盟国で実質利子率が非定常であったと報告している。
Huizinga and Mishkin (1986a)は単純な多変量モデルを用いて(これ以降はH-M modelと呼ぶ)アメリカの実質利子率の振る舞いに構造変化が含まれていると報告した。彼らはb ˆの安定性を検証し連邦準備が1979の10月と1982の10月に金融調節の手法の変更を発表した月に有意に構造変化が起こったと報告している。
Walsh (1988)はH-Mの結果は名目利子率を説明変数に加えていることでミスリーディングだと指摘している。何故なら係数の不安定性が実質利子率と無関係に単にインフレの方に構造変化が起こっただけだとしても名目利子率の不安定性として捉えられてしまうからだ。彼はH-Mを再推計し1979の構造変化は検出できたが1982のものは検出できなかったと報告している。
H-Mの結果に多少の傷はついたものの構造変化の可能性を考慮に含めることはその後の研究に於いて慣行となっていった。構造変化やレジームシフトの存在は単位根仮説を棄却させるのを難しくさせる傾向があったからだ。Garcia and Perron (1996)は平均と分散のシフトが考慮されれば変数の自己相関は消滅し事前の実質利子率は各レジーム内部で一定であることを報告した。
H-Mモデルを日本の実質利子率に適用してみるとこれにもレジームシフトが含まれていることがわかった。定数項、実質利子率の1、2、3、6、9、12ヶ月のラグ、失業率の2ヶ月のラグ、工業生産成長率の2、3ヶ月のラグ、サプライショックの2ヶ月のラグ、マネーサプライ成長率の3ヶ月のラグを用いて単純な最小二乗法による推計を試みる。表1はこの方法が全サンプル期間に適用するのに適したモデルでないことを示している。結果に自己相関とARCHの影響が見られるからだ。
Appendix 1で示すように全期間を構造変化があったと思われる7つの期間に分割する。各説明変数に関する係数はそれぞれの期間内で変化する。表2は係数の安定性が1979:4を除いて強く棄却されたことを示す。
日本の実質利子率が幾度のレジームシフトを含んでいても驚きではない。金融市場、財市場ともに何度も制度変化を繰り返しているからだ。従って単純なADLの仮定に基づいた誤差修正モデルを適用することは妥当ではない。線形モデルは実質利子率と説明変数間の長期の安定的な関係を発生させることが出来ないからだ。さらに合理的期待の仮定を無効化する系列相関と交絡する恐れがある。上記の事情により我々は日本の実質利子率の振る舞いをBekdache (1999)のモデルを用いて再推計を試みる。
2.4 The ECM Analysis Based on the Time -Varying Model
Bekdache (1999)の多変量モデルはH-Mと同じ変数を用いるが係数が時間によって変化することと分散が2つの状態を取りうることを許容している。よって彼のモデルは以下のように示せる。
(5) rt=Wtβt+εt
βt=βt-1+νt (transition equation)
εt~N(0,ht)
νt~N(0, Q)
ht=ρ0^2+(ρ1^2-ρ0^2)St, ρ0^2<ρ1^2
Wtは説明変数のベクトル、βtは係数ベクトル、Qは係数の遷移方程式の誤差の分散共分散行列だ。実質利子率はマルコフ過程に基づいて低いか高いかいずれかの状態を取る。
これは日本の実質利子率の振る舞いが不安定であるという上記の結果を踏まえてのものだ。説明変数は前回と同様だ。
この方法の長所はGarciaやHamilton (1988)らの非連続的なレジームシフトでは実質利子率の平均と分散の両方に非連続な変化が起こることを必要とするがこのモデルでは2種類の変化を同時に取り扱うことが出来る。つまり係数の連続的な変化と分散の比連続的な変化だ。よってこのモデルは説明変数の影響の時間的な変化を表現することが可能でそして長期の振る舞いに影響を与える制度的、環境的変化を組み込むことが出来る。さらに以下で見るようにこのモデルは自己相関や分散自己回帰の影響から逃れることが出来る。
上記の議論から式(4)を以下のように変形することが可能だ。
(6) Δrt=ΣθtjΔrt-j+ΣβtjΔXt-j-Bt[rt-1-b't-1Xt-1]+εt
最初の2項は短期の振る舞いを表現していて括弧の中の項は長期の関係を表している。この定式化では均衡利子率は長期均衡式に基づく(rt^eq=bt~'Xt)予測値で観測値である実質利子率はBtの速度で長期の均衡に収束していく。力学の特性はBtが1より上か下かに依存している。1より上の場合は振動を繰り返しながら長期均衡へと収束していく。1より下の場合は単調に収束していく。
単純化のためにモデルを以下のようにスカラー型で示す。
(6)' Δrt=Δβt1rt-1+Δβt2rt-2+Δβt3rt-3+Δβt6rt-6+Δβt9rt-9+Δβt12rt-12+Δγt1μt-2+Δγt2IPGt-2+Δγt3IPGt-3+Δγt4Supplyt-2+Δγt5Moneyt-3-Bt[rt-1-rt-1^eq]+εt
rt^eq=αt/Bt(L)+γt1μt-2/Bt(L)+(γt2+γt3L)IPGt-2/Bt(L)+γt4Supplyt-2/Bt(L)+γt5Moneyt-3/Bt(L)
Bt=Bt(L)=1-βt1L-βt2L^2-βt3L^3-βt6L^6-βt9L^9-βt12L^12で上記の方程式の解はすべて単位根の外にあると想定する。
最後に重要な修正を加える。工業生産成長率の項は長期均衡解から覗かれなければならない。定常状態均衡での非零の成長率は理論と矛盾するからだ。式(6)の2重括弧の中にあるIPGt-2の項をゼロと仮定した場合に式は以下のように簡略化出来る。
(7) rt^eq=αt/Bt(L)+γt1μt-2/Bt(L)+γt4Supplyt-2/Bt(L)+γt5Moneyt-3/Bt(L)
3. Empirical Results and Analysis
3.1 Results with the Time-Varying Parameters/Markov-Switching Model
図3に結果を示す。Kim (1993, 1994)はモデルの特定化を系列相関に対する予測誤差を調べることにより検証できることを示した。予測誤差に対するQ統計量はQ(12) = 15.85、Q(24) = 30.18、Q(36) = 45.58でこれらはすべて自己相関を棄却している。従ってモデルは事後の実質利子率の振る舞いをよく捉えていると言うことが出来る。
図3から係数がすべてサンプル期間中に大きく変化していることが見て取れる。1960年代と1970年代の間では係数は極めて不安定だった。図の垂直線は構造変化の候補点を示している。係数の変化のうちでいくつかのものは候補点の周辺で起こっているように思われる。図4は1978の1月以前には実質利子率は大きな分散の状態に属していてその後は小さな分散の状態に推移したことを示す。分散の大きな状態は分散の小さなものの4倍以上分散が大きい。予測誤差の分散の大きさは図3で示した1960年代と1970年代の係数の変動の大きさと整合的だ。1978以前の変動の大きさはインフレ率の変動の大きさが原因だ。
3.2 Ex Ante and Ex Post Real Interest Rates in the 1990s
図5に事前と事後の実質利子率を示す。
事前の実質利子率は1980年代の後半に下落しているように見える。名目利子率は円の増価とブラックマンデーへの反応として引き下げられていったが1990と1992に再び引き上げられる。1992以降には事前の実質利子率は経済が減速し始めたので再び低下する。だが興味深いことに実質利子率の水準は1980年代のバブル期のものからそれほど大きく異なるわけではない。1999に実施されたゼロ金利政策は事前の実質利子率の低下に貢献したように見える。全体として事前の実質利子率が懸念される限りでは1990年代の実質利子率は過去と対比して相対的に低いまたは少なくとも高すぎることはないように思われる。
図6に1990以降のこのモデルの予測誤差を示す。定義により予測誤差は家計のインフレ率に対する期待誤差に等しい。1992から1998の間に予測誤差は正であったことが示される。これは観測されたインフレ率は予想されたものよりも高かったことを示している。家計はこの期間に低いインフレを予想していたようだ。日本のデフレ状況に関する議論は1990年代の後半に入って活発化したが?インフレ期待の低下は1990年代の前半に既に始まっていたようだ。1998以降になって初めて事前の実質利子率は事後の実質利子率よりも低くなり始める。これは実際のディスインフレまたはデフレは1990年代の終わりになってようやく開始されたことを意味する。
3.3 Dynamics of the Real Interest Rate Process – Time-Varying ECM Analysis
ここではマルコフスイッチングモデルからの結果を用いて均衡実質利子率とその調整速度を計算する。図7に均衡実質利子率と事後の実質利子率を示す。均衡実質利子率は事前の実質利子率と比較してより安定的なように見える。r^eqは1960年代と1970年代に低かったが日本のバブル期(1982-87)とその後(1991-92)には相対的に高かった。1990年代の終わりにはr^eqは最も低い水準を記録した。図8は1980年代と1990年代の均衡実質利子率と事前の実質利子率を、図9は同時期の均衡実質利子率と事前の実質利子率とを比較している。均衡実質利子率からの事前の実質利子率の乖離は事後のものの乖離と比較してそれほど大きくない。
図10に事後の実質利子率と均衡実質利子率との乖離を示す。この図は日本の金融政策当局の実際の政策スタンスを理解するのに役立つ。2つの利子率の差が正の場合では、つまり事後の実質利子率が長期均衡利子率よりも高い場合では、実際の金融政策の効果はより引き締め的であると言うことが出来る。逆に差が負の場合ではより緩和的であることを意味する。引き締め政策は1977-78、1986-87、1999-2001で見られ緩和政策は1976-77、1988-89、1993、1996-1997で見られる。図10に収束速度が時間によって変化している様子を示す。収束速度は第一次オイルショックの後では極めて遅いように見える。この時期の事後の実質利子率は均衡実質利子率よりも低かったので収束速度の遅さと併せて緩和政策が継続されたと言うことが出来る。収束速度は1992以降に再び低下を始め1997に最も低くなる。前回のオイルショックの時期とは異なって今回の収束は振動を伴っていて実質利子率が均衡利子率を上回っていたことを示唆する。
図11と図12は均衡利子率と事後の実質利子率の間の差と均衡利子率と事前の実質利子率との間の差を示す。2つの図の明白な違いは図11が観察されたまたは事後の金融政策のスタンスを示すのに対して図12は均衡実質利子率との対比で家計の予想がどのように変化したかを示す。1980年代の緩和時期、特に1982-1985、1988-90の期間に金融政策は事前、事後の実質利子率ともに緩和的だったように見える。1990以降はこの2つの利子率は一致した振る舞いを見せない。1994と2000を除いて事前の利子率は長期均衡率よりも高く事後の利子率は1999まで長期均衡率よりも低い。事前の実質利子率は短期均衡なので図12の結果は価格が家計の予想していたよりも下方粘着的で実際のインフレ率が予想よりも高かったことを示唆している。これは図6が示すことと整合的だ。従ってデフレ期待が実質利子率を均衡よりも高く導いたとしても観測された実質利子率が高すぎるということにはならない。実際にデフレが始まったのは2000になってからだ。2001以降は事後と事前の実質利子率に関して金融政策は引き締め気味だったように思われる。
実質利子率が均衡から乖離するようなショックが発生した場合にx%まで回帰するのに要した期間を|Bt – 1|t =1 – xを解くことによって計算できる。以前も述べたようにBtは収束速度だ。図13は乖離の95%まで実質利子率が収束するのに要した期間を示している。この図から乖離の期間が1993以降顕著に増加したことは明らかだ。1980年代の平均期間は1.2ヶ月で1990年代のものは2.1ヶ月と約2倍近くになっている。そして1996-99では3.2ヶ月だ。よって1990年代後半以降は実質利子率が均衡から乖離した場合に均衡に回帰するのにより長い期間を要するようになっている。
ここまでの定式化ではモデルの動学的構造の変化と実際の(経済上の)出来事との関連を憶測するだけで構造変化の直接の原因を識別することは出来なかった。これは1990年代のように深刻な事態が次々に発生した時期に特に問題になる。よってレジームシフトと関連があると思われる変数を識別する必要がある。名目利子率の水準も議論の対象だ。いくつかの研究が非負制約の存在により金融政策の有効性が損なわれると報告している。これらの問題を取り扱うためにSmooth Transition Regression(STR)モデルを導入する。
4. Further Analysis on the Real Interest Rate Series in the 1990s Using the
Smooth Transition Regression (STR) Model
4.1 STR Model Specification
STARモデルは取り扱われる変数が2つのレジームの加重平均である時系列モデルだ。レジームシフトが発生する確率は閾値からの遷移変数の相対的位置で決定される。STARモデルを用いると実質利子率の振る舞いは以下のように表現できる。
(8) rt=Φ1'Xt+Φ2'Zt~[1-Gτt-d;γ,c)]+Φ3'Zt~G(τt-d;γ,c)+εt
Xtは係数がレジームシフトの対象とはなっていない変数の行列でZtはその逆だ。このモデルでは重み付けは各レジームが発生する確率によって決定される(その確率は以下の関数G(τt-d;γ,c)によって決定される)。
(9) G(τt-d;γ,c)=1/1+exp[-γ(τt-d-c)]
この中で特定の閾値cに対する遷移変数の相対的位置が変数がどのレジームにいるのかを決定する。正のパラメータgは遷移がどの程度の頻度で起こるかを示す。式(9)のロジスティックス関数はτt-dに対して単調に増加する。
自己回帰係数はXtに含まれマクロ経済変数はZtに含まれる。さらに前回の分析で示したようにrt-12、Moneyt-3、IPGt-2、IPGt-3は1990年代には無視出来るものになる。これらの変数はここでの分析に含めない。よって説明変数のベクトルはXt = (Const, rt-1, rt-2, rt-3, rt-6, rt-9)とt Z~= (ut-2, Supply t-2)になる。
他のレジームスイッチングモデルとは異なりSTRは様々な検証が可能だ。線形性はLM統計量を用いて簡単に行うことが出来る。そしてこの線形性のテストによりレジームシフトと遷移変数との関係を識別することが可能になる。
例えばいくつかの候補から最も適した遷移変数または最適なラグを線形性の帰無仮説がどれだけ強く棄却出来るかで識別することが出来る。詳細はAppendix 3で述べる。
我々は名目利子率に注目する。日本の金融政策の状況が実質利子率の振る舞いに影響を与えたかに関心があるからだ。名目利子率が遷移変数であったのならばその水準が実質利子率のデータ生成過程に影響を与えただろうからだ。
4.2 Regression Results of the STR models
結果を表3にまとめる。表の中で名目利子率の5ヶ月のラグは最も有意で名目利子率の水準が実質利子率の振る舞いに変化を生じさせていることが示唆される。
線形モデルとSTRモデルの推計結果を表4に示す。非線形STRモデルの方が推計するパラメータの数が多いにも関わらずSSRと残差標準誤差とAICが低いことが分かる。つまり、日本の実質利子率は1990年代に非線形性を示したことになる。列2の結果は名目利子率に関して閾値0.62%でレジームの遷移が起こったことを示唆する。gとcの意義は図12でよりはっきりと見られる。図は1995の5月(名目利子率が0.62%以下に低下した時期)、ゼロ金利政策が実施される3年前にレジームシフトが起こっていたことを示している。この結果は極端に低いゼロではない利子率が実質利子率の振る舞いにレジームシフトを発生させることを示唆している。
頑健性の確認のためにその他の候補となる遷移変数を検証する。候補となる変数は年次と月次のインフレ率、貨幣乗数、金融ショック変数だ。月次と年次のインフレ率は実質利子率がインフレ率の水準に影響を受けるかどうか検出することが出来るかもしれないからだ。貨幣乗数は経済が流動性の罠に陥っている程度を示す。金融ショック変数は貸出の成長率を工業生産の成長率で回帰した場合の予測誤差だ。
非線形性のテスト結果を表3にまとめる。月次のインフレ率の1ヶ月のラグと貨幣乗数の1ヶ月のラグが最も有意になった。流動性の罠と関連が深い変数として注目に値する。対照的に金融ショック変数は有意ではなかった。しかし実際にSTRによる分析を実行してみるとこれらのモデルは有意な結果を生み出さなかった。月次のインフレ率(1ヶ月のラグ)はOLSと比較してSSRまたは残差標準偏差を減少させずAICは増加した。gとcさらにほとんどの係数は有意にならなかった。貨幣乗数はインフレ率と比較してよかったものの名目利子率より明らかに適合性が低かった。
5. Concluding Remarks
(省略)