by Audra J. Bowlus Jean-Marc Robin
1 Introduction
個人は所得分布内での位置の変化を伴う様々なイベントに遭遇するのでクロスセクションのデータは賃金格差に関して不十分な情報しか与えない。失業や賃金の流動性の影響を考慮するために長期の賃金格差を調べることが重要だ。
この研究での目的は幅広い応用が可能な信頼できる長期のシミュレーションを構築することにある。初めに賃金のデータから構造的流動性を取り除く。賃金は性別、教育、技能などの観察可能な特性に関する関数と仮定する。分析は男性と女性で分割して行い、共変量は賃金と教育、技能の時間変化に関する従属関係と仮定する。分析では観察できない異質性も取り扱う。固定効果と残差項の分布の推定をノンパラメトリックで行う。次に周辺分布内での残差項の個々の順位の変動をモデル化するためにコピュラ法を用いる。それからこれら2つの部分をまとめ実現値を計算する。最後に生涯所得格差と基準年の所得格差の比から所得の平等化効果を求める。
加えて過去の研究で指摘された賃金の変動に関するいくつかの特徴もモデルに組み込んである。モデルは恒常的部分と一時的部分を持つ。恒常的部分は固定効果を持ち一時的部分は単に一階のマルコフ過程に従う。前者の部分はAlvarez et al. (2007), Altonji et al. (2007) and Pavan (2008)らと比較して我々のモデルはわずかな非観測の異質性しか組み込んでいない。後者の部分は例えばMeghir and Pistaferri (2004)と比較してはるかにシンプルだ。
ここでは個人に特有の非観測の要因を固定効果として扱い測定誤差を扱わない。この扱いによりモデルはとてもシンプルになる。しかしパネルデータの短さが原因で一致性を満たさない恐れがある。異質性を無視すれば賃金流動性は過大になる。固定効果モデルは賃金流動性を過小にする傾向があるがその代わりに賃金の順位相関のパターンをよく再構成する。固定効果があるモデルと固定効果がないモデルは賃金の平等化効果の上限と下限を示す。ランダム効果モデルは推定が難しいが我々の方法は標準的な計量ソフトウェアしか必要としない。
対象国はアメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツだ。1998を基準年として90年代後半の3-7年間のパネルデータを用いる。大部分の過去の研究は80年代から90年代初期のデータを用いているが、90年代後半のデータを用いることでより最近の傾向を知ることができる。
主要な結論は以下になる。第一にモデルはデータに極めて良く適合する。モデルは分布の裾の形状もよく捉えている。第二にアメリカが最も賃金流動性が高く、次にイギリス、カナダ、ドイツ、フランスと続く。第三にアメリカが最も雇用流動性が高く、次にイギリス、カナダが続く。フランスとドイツは他の国に比べてはるかに雇用流動性が低い。第四に賃金流動性だけを組み込んだ生涯賃金格差の各国の順位はクロスカントリーの賃金格差の順位と基本的に変わらない。第五に雇用流動性を含めると各国の差はかなり小さくなる。雇用流動性はアメリカ、イギリス、カナダに平等化効果をもたらすがフランス、ドイツにはないからだ。従って現在時点間で賃金に大きな違いがあっても生涯賃金格差ははるかに小さい。そしてその程度は異質性を含めるか含めないかに依存している。
注7 1996のOECD Employment Outlookには1986-1991期間のアメリカ、フランス、ドイツを含むOECD加盟国に関して以下のような結論を引き出している。「各国の賃金流動性は似通っていてこれは階級間の移動を調査対象にしても同様の結論が引き出される。デンマーク、イギリス、アメリカ、(そしておそらくフィンランド)はフランス、ドイツ、イタリア、スウェーデンよりも幾分か流動性が高いことを示している。しかしそれでも全体像としては似通っている」。Contini (2002)はOECD(1996)のデータを用いてEmployment Outlookの内容を再調査し以下のような結論を引き出している。「賃金流動性により暮らし向きがよくなる労働者の割合はアメリカの方がヨーロッパよりも高い」。従って、この研究で我々が見出した各国間の賃金流動性の違いは90年代に増幅された比較的最近の現象だろうと思われる。
この研究で得られた結果から賃金流動性は賃金格差をアメリカ、カナダ、イギリスで20-30%減少させ、フランス、ドイツでわずかに減少させると我々は推計している。我々が調べた対象の国では相対的に高い賃金格差のある国は同時に流動性の高い国でもあることが示される。従って、流動性を考察に加えることにより長期の賃金格差に関して北米型の労働市場と欧州型の労働市場ではより似通っていることが示される。
この研究で我々が用いた方法はFlinn (2002)、Bowlus and Robin (2004)、Cohen (1999)、Cohen and Dupas (2000)らの方法と密接に関連している。これらの研究はサーチモデルを用いて個々人の厚生の現在価値を求めている。これらの研究はすべて賃金流動性がアメリカにおいて大きな賃金平等化効果を持っていることを示した。賃金平等化効果により長期の賃金格差がアメリカとイタリアで等しくなり(Flinn, 2002)、アメリカとフランスで等しくなる(Cohen, 1999)ことを示した(奇妙なことに、アメリカとイタリアの生涯(長期)賃金格差は同じ、だから実はイタリアの賃金格差はあまり知られていないがアメリカ並みに大きいんだ!とでも言いたげだった馬鹿な経済学者をツイッターで見掛けたことがあった。言うまでもなく解釈を真逆に間違えている)。結果において同様であるものの我々のモデルは異質性を含める点、サーチモデルに制約されない点においてよりフレキシブルなものになっている。
2 The Model
2.1 Model Specification
上記の必要事項を満たすために(注 省略している)以下のモデルを構築する。第一に賃金の対数値を時間ダミーに対して回帰することによって賃金からトレンド成分を取り除く。Whtは時間tにおける労働者hの非トレンド化した賃金を示す。次に以下の回帰式を仮定する(興味がない人は飛ばして構わない)。
lnWht = Xht + fh + eht, (1)
Xhtは教育ダミーを含む回帰変数のベクトル。fhは固定効果(または比較のために含めない)を示す。パラメータβの一部分はwithin-group推定によって推計される。パラメータβの残りの部分と固定効果fhはwithin-group回帰の残差項にOLSを適用することにより推定される。
さらに以下の条件付不均一分散を仮定する。
Var (eht|xht) = xhtγ, (2)
パラメータγは^e2htをXhtに対して回帰することにより推定される。効率性を高めるためにβとfhを重み付き最小二乗法により再推定する。
Gを残差項μht = eht/√Xhtの累積分布関数とする。Gを実際の^μht = ^eht/√Xht^γの累積分布関数を用いて推定する。rht = G(μht)は分布Gの中での残差項μhtの順位を示す。rhtを^rht = ^G(^μht)を用いて推定する。最後にQhtはrhtの離散型を示す。
qht = max{[Nrht] + 1/N, 1} , (3)
[·]はinteger part functionを示す。QhtはWhtが最低所得だとしてもゼロにはならない。Qht = 0は個人hが時間tにおいて失業している場合に用いる。状態を{0, 1/N , 2/N , ..., 1}の範囲のQhtの値で表す。分析においてNは10とする。
就業と失業の間の状態の遷移を分析に組み込むことはこの分野の研究においてはあまり前例がない。分析期間中の全年度において賃金が正である個人の記録が必要とされることがあるからだ。しかし失業のリスクは単年度の賃金の変動だけでなく生涯賃金格差においても重要な影響を与えることが示されている(Bowlus and Robin (2004)、Altonji et al. (2007)、Pavan (2007))。加えて失業のリスクには各国間で違いがありこれを分析に加えることは各国間の比較をする際に意義があると思われる。従って分析では失業を遷移行列の中の状態の一つに加える。失業期間中の賃金の水準を決定することはアドホックな作業になるので感度分析を行いこの選択が適切かどうか判断する。
P (i, j|Xht) = exp[Xhtκ (i, j)]/NΣm=0exp[Xhtκ (i,m)]. (4)
これら多項ロジットモデルの共変量の組は技能の2次の項や教育ダミーの集合を含む。ここでのケースでは(特定の教育*技能の属性を持つ集団に関する)一部のサンプルサイズが小さいので教育*技能の交差項は含めない。
与えられたXhtのもとでの時間tと時間t+1における順位の同時分布の近似を求め、最近隣法を用いて順位の近似を求める。与えられたRhtとXhtのもとで多項ロジットモデルにより時間t+1における階級Qh,t+1を予想する。それに最も一致するRhtとQh,t+1を得られるようなRh,t+1を予想する。
2.2 Simulation of the Value Functions
各個人に対してある時間tからそれ以降の賃金の経路をシミュレートするにあたって現在の就業状態と賃金をスタート時の状態とする。次に時間tから退職年までの期間に対して状態の列をランダムに選ぶ。その状態は(年齢に従って上昇する)技能水準と個人の特性(周辺分布Gと遷移確率行列Pによって表される)にもとづいて変化する。年齢の変化をモデルに組み込み、さらにマクロ経済環境を時間tでの状態に固定して賃金変動がマクロ経済の変動から影響を受けないようにする。
就業していれば個人は年率換算した賃金を受け取る。失業中の所得は各国固有の失業保険の所得代替率×(前期就業していれば)前期の年間所得、(前期就業していなければ)最小所得水準wに等しい。最後に年齢aでの退職以降の所得はゼロとする。
Eat(w)を時間tにおいて賃金がwであった個人の退職時年齢a時点での将来の予想賃金流列の和の割引値とする。同一のコーホート内だけでなくすべての個人間での比較を可能にするためにstock valueではなくannuity valueを求める。stock values Ea(w)をannuity valuesに変換するために利子率rで以下の公式を用いる。
Aat(w) = Eat(w)/a−a+1Σt=11/(1+r)t = rEat(w)(1 + r)a−a+1/(1 + r)a−a+1 − 1. (5)
分析では利子率rは年利5%とする。
3 Data Description
1998-1999のデータを用いるのみでは遷移確率の正確な全体像を得るのにサンプルサイズが十分ではない国がある。従って多項ロジットモデルを推定するためにサンプル期間中に観測された遷移をすべて用いる。アメリカだけが十分なサンプルサイズと11×11の遷移行列を得られるだけの賃金流動性の水準を持つ。他の国に関しては(セルに関して)サンプルサイズの問題に直面する(特定の遷移に関してはゼロの場合さえある)。この問題は最も高い賃金から失業へと遷移する場合(またはその逆)に特に顕著だ。この問題を元の階級が[i−1/10 , i/10]で|j − i| > kとなるようなすべての遷移先の階級[j−1/10 , j/10]を一纏めにすることによって解消する。カナダ、イギリス、ドイツに対してはkは3としフランスにはより制約の少ない4とする。
表1に我々が予想した遷移確率から得られる定常均衡分布を示す。就業状態に関する流動性のみを取り出せたならば各列内の要素は等しくなければならず1から均衡失業率を10で割った値を引いたものに等しい。ほとんどの国においてそして男性と女性において(固定効果を含めない)モデルから得られた均衡分布は階級間で幾分か偏っている。アメリカの場合は中央付近の階級にわずかな偏りがあるに過ぎない。しかしイギリス、カナダの場合は上位階級にはっきりとした偏りが見られる。フランスでは下位階級に、ドイツでは分布の両裾に偏りが見られる。固定効果を含める場合にはイギリス、カナダ、ドイツでは結果が大きく改善する。フランスの場合は今度は中央付近に偏りが発生する。これは固定効果を含めたモデルを推定するに際してサンプル期間が3年では不十分であることを示唆する。より長期のパネルデータ(フランス以外)に関しては我々が行ったデータの非トレンド化は成功していることを示唆している。さらにサンプル期間中の失業率を適合させることに関してもこの方法でうまくいっているようだ。
4 Data Analysis and Model Fit
4.1 Cross-Section and First-Order Markov Dependence
適合度に関して、モデルは賃金データの特徴を原系列でも対数値でもよく捉えている。表2と表3に対数化した賃金の平均値と分布を実際の値、モデルによる予測値に対して示す。対数化した賃金の平均値と標準偏差は実際のデータとほとんど正確に一致する。原系列の賃金分布の平均値と標準偏差も実際のデータとよく一致する。歪度と尖度は完全には一致しないが大半の場合で妥当な水準にある。どちらのモデルも平均と分散は良く一致するが固定効果モデルの方が歪度と尖度に関してより一致する。
多項ロジットモデルにより得られた相対的賃金流動性がどれだけ実際のデータと一致しているかを調べるためにスピアマンの順位相関係数を用いる。その準備として隣接する期の実際の賃金の対数値に対する順位相関と、初年度の実際の賃金の対数値とモデルから得られた次年度の賃金の対数値の予想値との順位相関を計算する。モデルでは残差項を用いて推定しているが、このテストでは残差項の順位相関ではなく賃金データの順位相関を調べる。従ってこのテストはモデルが観測された賃金流動性をどれだけ再現できているかを効果的に捉える。(所得の)水準ではなく順位相関を調べるのは我々が関心があるのが分布内での順位の変動であって水準の変動ではないからだ。さらにシミュレーションにおいては周辺分布は固定しているので賃金流動性は完全に順位の変動から来ている。表4に結果を示す。適合度は全体として非常に良いが分布の中央付近で分布の裾よりもわずかに良い。(固定効果ありなしの)どちらのモデルも分布の中央付近でデータに良く一致するが固定効果モデルが分布の裾でわずかに良く一致する。
この表からいくつかの特徴が浮かび上がる。1)アメリカの順位相関が他の国より大幅に低い。2)順位相関は分布の中央付近よりも分布の裾で高い。3)最も賃金が高い階級が最も賃金が低い階級よりも順位相関が高い。4)各国内での男性と女性の順位相関の水準は極めて似通っている。2番目と3番目の結果が我々の手法の妥当性を判断する上で特に重要だ。つまり、単一の相関係数では分布全体を通しての特徴を捉えることはできない。
4.2 Long Run Dynamics
最初の方に述べたようにモデルの定式化はフレキシブルな形で行われたのでこの結果が得られたことは驚きではない。生涯賃金に関して真のテストは長期の変動だ。モデルの長期のパフォーマンスを測るために(パネルの長さが許す限りで)すべての組み合わせに対してスピアマンの順位相関係数を求める。つまり2年、3年、4年などの組に対して実際の賃金水準間の順位相関と、初年度の実際の賃金と2年、3年、4年後の賃金水準との予測値との順位相関を求める。表5にこの方法でのスピアマンの順位相関係数を示す。
注22 例としてアメリカの場合は4つの観測値(1996、1997、1998、1999)がある。従って各回答者に対して最大で2つ(1996-1998 & 1997-1999)、それと1つ(1996-1999)の観測値がある。実際の数字に関して両方の期間に就業している回答者だけを計算に含め、予測値に関して初年度に就業していて後期に就業していると予測される回答者だけを計算に含めている。
固定効果のないモデルでは長期の変動を捉えるのがうまくいっていない。特に時間の経過に対して賃金流動性を高く予想する傾向があり実際のデータよりも相関が速く減少する結果となっている。例えばアメリカの場合は実際のデータでの1年後の相関が0.76だったものが3年後には0.66にまで減少する。しかしモデルは3年後の相関を0.49と予測している。この傾向はすべての国で男性、女性ともに見られる。比較して固定効果のあるモデルは実際のデータよりも高い相関を予測する傾向がある。実際、固定効果モデルは時間の経過に対して非常にわずかしか相関が減少しない。固定効果モデルは分布内の個人の順位をほとんど維持していることが示唆される。これら2つのモデルは実際の順位相関を挟み込むような結果を示し、各国の賃金流動性に関して有益なベンチマークを提示してくれる。
前回の結論同様に今回も、アメリカの賃金流動性が最も高く他国を大きく引き離している。イギリスは2番目に高い流動性を示すがカナダとドイツは驚くことに非常に似通っている。最後にフランスは最も流動性が低く1年後との相関が最も高くさらに2年後にも相関が減少していない。興味深いことに所得分布自体に違いがあるにも関わらず男性と女性で同じ傾向を示す。
表5の全サンプルに関する相関は表4の相関よりもずっと高い。これは全体の相関の大部分は階級間で発生していて残りが階級内で発生していることを示唆する。これはアメリカに特に当てはまる。
相関の傾向が教育、または技能によって変化するのかを調べる。表6に男性の教育に関する結果を、表7に技能に関する結果を示す。一般的に若く教育水準の高くない個人は高い流動性を示し賃金の経路も大きく変動する。これは多項ロジットモデルの教育と技能に対する係数がすべての国で負の傾向であることから確認できる。この効果はアメリカ、イギリス、ドイツで強くカナダ、フランスで弱い。技能に関する効果は教育に関する効果よりは各国で似通っているがそれでもフランス、カナダで弱い。最後に1年後の相関に関してモデルは人口全体の時と同様にデータによく一致する。時間の経過とともに固定効果のないモデルは相関が低めに固定効果のあるモデルは相関が高めになる。
5 Lifetime Inequality
5.1 Education and Experience Earnings Differentials
賃金とannuity valuesにどの程度違いがあるかを把握するために表8に性別毎の教育、技能間での賃金差を示す。すべての国で男女間に賃金差があることがまず確認できる。この差は当期の賃金とannuity valuesでほぼ同一だ。よって賃金流動性は男女間の賃金差を変化させない。この研究での男女間の賃金差は他の研究で報告させるものよりも大きい。女性労働者の割合が多いパートタイム労働者を含んでいるからだ。女性のパートタイム労働の割合が特に高いイギリス、ドイツでは男女間の賃金差は顕著に大きい。
教育と技能について、すべての場合で教育プレミアムはannuity valueの方が高い。逆に技能プレミアムは低くなる。よって賃金流動性は教育水準の違いを強化し技能水準の違いを低下させる。後者に関してそのようになる理由は初期時点の技能水準の低さはannuity valueで見た場合の将来の賃金の成長を意味し逆に技能水準の高さは将来の所得の減少を意味することになるからだ。教育水準の差は長期での賃金格差を拡大する傾向があり技能水準の差は縮小させる傾向がある。
以上の傾向は固定効果のないモデル、固定効果のあるモデル両方で成り立つ。よって固定効果モデルを採用したとしてもこれらの比較に影響を与えない。
ここで賃金と生涯賃金格差の比較に戻る。表9に賃金とannuity valuesの固定効果のないモデルでの格差の水準についてp90/p10比とジニ係数を男性と女性別々に示す。表10に同様の結果を固定効果のあるモデルに関して示す。この表は長期の賃金格差に対する賃金流動性と失業リスクが与える影響を示す。
流動性の種類の相対的重要性を理解するために様々なシナリオでシミュレーションした。上方への賃金流動性のみ、下方への賃金流動性のみ、そして両方の場合で行った。結果は上方への流動性、下方への流動性ともに等しい大きさの賃金平等化効果を持つことが示された。そして両方の場合ではさらに賃金格差が縮小することが示された。
注30 例えば失業からの退出率はフランスが0.27、アメリカが0.75だ。
フランス、ドイツの失業リスクの効果の確認は表11と表12でできる(それぞれ固定効果がない、固定効果があるに対応する)。この表では失業期間の所得水準がゼロと仮定してある。失業リスクが最小のアメリカ、イギリス、カナダでは結果は基本的に変化しない。しかしフランス、ドイツでは長期の格差の水準は上昇しさらにはクロスセクションでの水準を超えてしまう。
失業リスクが生涯賃金格差の重要な位置を占めるということはAltonji et al. (2007)、Pavan (2008)でも確認されている。この研究の結果はFlinn (2002)、Cohen (2000)のように賃金流動性と失業リスクとをサーチ理論の枠組みを用いて組み込んだ研究の結果とも整合する。特に固定効果のないモデルはクロスセクションでの賃金格差の水準に違いがあるにも関わらず生涯賃金格差の水準は各国で驚くほど似通っていることを示している。結果の類似性は異質性を組み込んでいないが失業リスクは組み込んであることに一因がある。
(省略)
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