by Bruce D. Meyer James X. Sullivan
1. Introduction
アメリカ経済はこの30年間成長を続けている。しかし、低所得層と中所得層の所得が向上していないというセンチメントがある。経済評論家は、職の喪失、賃金の停滞または下落、生活費用の上昇により中間所得層が締め出されていると批評している。
いくつかの世論調査では60%の人が中間所得層の生活水準が良くなっていないと思うと回答している(CBS News 2007)。
注1 だが近年の自分自身の生活水準について尋ねられた時には多くのアメリカ人は彼等の生活水準が年々向上していると回答している(Gallup 2011)。
この統計は幾つかの理由により正しくない。第一に、所得の定義が狭い。政府の統計からは税や現物移転、さらに申告されていない所得源が無視されている。例えば、政府の統計は限界税率の低下や税控除の拡大等を捉えるのに失敗している。第二に、上方バイアスのある価格指数を用いている。これにより所得の上昇を過小評価している。第三に、経済的豊かさの重要な要素、ようするに消費の動向を把握するのに失敗している。
我々の結果は過去30年にわたって低所得層、中間所得層ともに物質的豊かさの面で大幅な進歩が見られたことを示している。
注3 これは政府の統計が所得の向上を過小評価していることを示した最初の報告ではない。
経済評論家と政策当局者は共に注意しなければならない。彼等の言動は欠陥のある政府の統計にもとづいている。オバマ大統領は2008の選挙中に中央所得が下落しているという政府の統計を何度も引き合いに出した。中間所得層の停滞といわれる現象は移民、貿易、グローバル化、政府の債務、雇用の成長の鈍化、高いインフレーションなど様々な要因が絡んでいるとされた。
(省略)
政府の所得と貧困に関する統計は一般的に課税前の貨幣所得にもとづいている。
よって、税と給付を加えることによって政府の統計を改善できる。実際、統計局は税と非現金給付を含めた所得と貧困に関する代替指標を発表している。
いくつかの研究は、課税前貨幣所得以外に注目することの重要性を強調している。包括的な貧困調査の研究の中で、National Academy of Sciences (NAS) panelはいくつかの点で指標の変更を推奨している。NASの調査以降、多くの研究で代替指標や政府の統計の改良が提案されてきた(Short et al. 1999; Joint Economic Committee 2004; Dalaker 2005; Besharov 2007; Eberstadt 2008)。
Accounting for Inflation
統計局の調査の中では、価格変化を調整するために、貧困線はConsumer Price Index for All Urban Consumers CPI-Uにより調整される。中央所得はCPI-U-RSを用いて調整される(現行法が過去に用いられていたならばCPIがどのようだったかをモデル化した指数)。
注8 CPI-Uのバイアスを意識して、最近の調査では統計局は中央所得のトレンドを調べる時にCPI-U-RSを用いている。しかし貧困率の調査をする時には用いていない。この節で述べるようにCPI-U-RSはCPI-Uのバイアスのほとんどを修正できていない。
バイアスには4つの種類がある。代替バイアス、アウトレットバイアス、品質バイアス、新製品バイアスだ。ボスキン委員会はこれらのバイアスについて最も広範に認められている数字を提供している。それによるとCPI-Uのバイアスは報告書作成時で1.1%、1996以前には1.3%であると報告している。
注9 労働局はCPI-Uに近年いくつかの改良を加えている。Gordon (2006)は、それにも関わらず0.8%のバイアスが残っていると指摘している。
全体として、中央所得は政府の統計が示すよりも上昇していて貧困率の長期トレンドも政府が示すものよりも改善している。我々はCPIのバイアスを修正することを試みる。5節と6節で示すように、このバイアスは所得に対して大きな変更をもたらす。
所得や消費に対する調査が正確な情報をつかんでいるのかに関して意見が分かれている。大部分の人にとって所得は申告が容易だ。だが所得は消費よりも調査の対象により敏感に反応する。低所得層に関しては所得が消費よりも申告しやすいかは明らかではない。これらの世帯は多くの所得源を持ちながら記録がつかない傾向がある。平均的な母子家庭はその所得の10%を4つの所得源のいずれかから得ている。そして申告された仕事からはわずかしか得ていない。所得は過小申告されているように思われる。そして過小申告の度合いは時とともに増加している。消費にも過小申告がある。だが消費はこれらの世帯では所得を上回っているので消費の過大申告(わずかな根拠しかないが)について懸念すべきと考える。
所得調査の重要質問事項に関する無回答率の高さは所得調査に対する重要な懸念事項だ。勤労所得や投資所得などの所得の要素に関する回答が欠損している場合、ランダムに選ばれる同様の特性を持った調査の回答者から値が割り振られ補完されている。主要な所得調査、貧困調査の情報源となる調査で、近年では課税後所得の半分以上が補完されている。これらの補完率は時とともに上昇していて、消費調査よりもはるかに高い。豊かさや所得格差に関する調査に対してバイアスを生み出す恐れがある。
低所得層では、申告された支出は申告された所得を大きく上回る傾向がある。表1にCurrent Population Survey (CPS)から所得を、Consumer Expenditure Survey (CE)から支出のデータを各パーセンタイル値毎に示す。支出の5パーセンタイル値は所得の5パーセンタイル値を44%上回る。支出の10パーセンタイル値は所得の10パーセンタイル値を8%上回る。これらは分布のパーセンタイル値の比較であって、低所得層の同一の個人に関しての支出と所得の比較ではないことに注意が必要だ。所得分布下位5%の所得と支出を比較すれば支出は平均で所得を9倍上回る(データに誤りがあることの大きな示唆となる)。債務や貯蓄の取り崩しはこれらの乖離の説明とはならない。低所得層で所得が過小申告されていることを強く示唆している。所得からもっと正確に物質的豊かさを反映する他の指標を開発することの必要性を示している。
消費をベースにした過去の研究は所得をベースにしたものと大きく異なっている。Cutler and Katz (1991)は消費格差は所得格差に比べて穏やかにしか上昇していないことを示した。Johnson (2004)は消費の貧困率は70年代に所得の貧困率より上昇した後1995まで安定していることを示した。Krueger and Perri (2006)は消費格差はほとんど上昇していないことを示した。Slesnick (2001)も同様だ。
さらに所得と消費の他に住宅と乗用車の特性も併せて調査する。これらの調査(住宅の部屋の数等)は説明のために価格指数を必要としない。これらも物質的豊かさを測る指標となる。
4. Data and Methods
Accounting for Price Changes and Family Size
物質的豊かさがどう変化したかを捉えるために価格変化をきちんと考慮にいれなければならない。2節で述べたようにCPI-Uには上方バイアスがあるので代替的な指標を用いる。CPI-U-RSはCPIに改良を加えた指標だ。それでもバイアスの大部分は残っている。ここではCPI-U-RSから0.8%ポイント引いたadjusted CPI-U-RSを用いる。これは大きな調整ではあるけれども、バイアスに関する保守的な推計にもとづいていることを念頭に置く必要がある。
5. The Well-Being of the Middle Class
この節ではその結果を示す。住宅や車とともに所得中央値と消費中央値を分析する。これらはすべて中間所得層の物質的豊かさは80年代以降顕著に向上しているという方向性で一致している。だが、そのパターンは少し異なっている。この点については7節で述べる。
3番目は2番目のものをadjusted CPI-U-RSを用いて計算したものだ。この場合では中央所得は1980から2009まで46%上昇している(CPI-U-RSを用いた場合は17%の上昇)。近年に注目してみると、2000から2007まで中央所得は5%上昇し、次の2年で同程度下落している(つまり2007までだと51%の上昇)。バイアスを除いた価格指数を用いると中央所得は80年代と90年代に大きく上昇し、00年代の初めに上昇した後下落している。
表3に消費中央値のトレンドを示す。消費中央値の水準は所得のそれを下回っている。これは貯蓄や教育、医療に関する支出を除いているためだ。全期間に渡って、消費中央値の変化と所得中央値の変化は対応している。1980から2009までに課税後所得中央値+非現金給付は58%上昇する一方、消費中央値は54%上昇している。しかしそのパターンは年代ごとに異なっている。80年代には所得中央値は実質で23%上昇したが消費中央値は10%しか上昇しなかった。リセッション前の00年代では消費中央値は所得より速く上昇している。全体としてこの30年間所得、消費ともに顕著に上昇してきたことを示している。
注15 所得と消費がadjusted CPI-U-RSを用いると大幅な上昇を示す一方、unadjusted CPI-U-RSを用いたとしても上昇していることを示すことができる。この場合1980から2009までに所得中央値は26%、消費中央値は23%上昇したことになる。
注16 消費中央値の上昇は住宅価値の上昇によるものではない。この期間の住宅を除いた消費中央値は含めたものとほぼ等しい。
この節では低所得層の物質的豊かさを示す指標に焦点をあてる。
表4に表2で表示したものと同じ10パーセンタイルの課税前貨幣所得を示す。政府の統計では30年間にわずかな上昇しかしていない。1980から1993まではまったく変化していない。そこから1993から1999にかけて19%上昇しその後下落した。家族人数を調整し、家族レベルで定義した場合では40%高い。加えてそのトレンドも少し異なっている。例えば80年代の初期と00年代の初期に顕著に下落した。CPI-U-RSのバイアスを除いた後では80年代と90年代に大幅な上昇を示した。1980から1999の間30%以上上昇した。だが、最近では10%以上下落する事例があった。
表6と表7に所得と消費の貧困率を示す。比較のために政府の発表している貧困率とCPI-U-RSを用いたものも示す。価格指数のバイアスが貧困率に大きな影響を与えていることがみてとれる。表6が示すようにadjusted CPI-U-RSを用いた課税前貨幣所得の貧困率はこの期間に3%ポイント以上下落している。CPI-U-RSを用いた貧困率は変化がない。そして政府の発表している貧困率(CPI-Uを用いている)は1%ポイント以上上昇している。
この節ではこの変化の要因を分析する。例として税と移転支払いの効果について分析する。さらに労働(時間)と家族構成の変化が果たした役割についても分析する。我々の分析は課税政策が大きな影響を与えたことを示唆する。特に税改革が中間所得層と低所得層にいくらかの所得をもたらしたことを議論する。非現金給付はほとんど影響を与えていなかった。同様に人口構成の変化は改善の主要な要因とはなっていないように思われる。逆に経済全体の成長は中間所得層、低所得層の所得、消費の上昇と整合的だった。
課税前貨幣所得と課税後所得+非現金給付を比較することにより貧困率に税が与えたと思われる影響を表7に示す。後者の測定も税と非現金給付を含むとはいえ本質的にこの両者の変化の違いは税により説明できる。
1981のthe Economic Recovery Tax Actにより税率が軽減され大多数の人の所得区分がインデクゼーションされるようになった一方で、基礎控除や個人非課税(ともに税率がゼロのブラケットの値を決定する)は1984までインデックスされていなかった。この期間の高めのインフレーションにより、より多くの低所得世帯が課税所得の範囲に流れ込むようになった。結果としてこの期間では税を考慮した貧困率がそうでないものよりも相対的に上昇することになった。この状況は1986のthe Tax Reform Actにより変化する。EITCが拡大された最初の期間だ(加えて個人非課税と基礎控除が増加した期間)。EITCの効果は1990から1996の間により顕著だ。この期間に課税後所得の貧困率は貨幣所得のものよりも1.2%より下落した。
(省略)
この節の分析により税と移転政策の変化、または人口構成の変化が所得と消費に変化を与えたことをみてきたものの、これらの要素はこの期間の物質的豊かさの向上のほんの一部分を説明するものでしかなかった。それにも関わらず中間所得層と低所得層の豊かさの向上は驚くべきことではない。この期間のアメリカ経済は一人あたり実質で60%以上上昇したからだ。
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