2012年10月14日日曜日

政府の大きさと貧困率の間に関係はなかった?

以前の記事にも関係する内容なので詳細を知りたい人はそちらへ。

The relationship between alternative measures of social spending and poverty rates

by Koen Caminada Kees Goudswaard

1. Introduction

国毎の貧困率の違いは大きい。この大きさの違いは政府の大きさによって説明されることが一般的だ。多くの文献が社会支出と貧困に関連があると主張している。そして貧困と社会支出の間に強い負の相関があると主張している。

これらの研究の問題点の一つは貧困には多くの要因が影響するかもしれないということだ。これらの要因は社会支出と貧困の間の関係に影響を及ぼすかもしれない。我々は以前の研究において関連のあると思われる人口要因、経済要因等を取り扱った。それでもなお社会支出と貧困の間に強い負の相関がみられた。

これらの研究のさらなる問題点は社会支出をどのように計測すべきかだ。多くの研究は社会支出比率を貧困削減への社会的努力の代理指標として用いている。だが社会支出を国毎の社会的努力の違いとして見做すことには多くの問題がある。OECDは社会給付の受給者が真に利用可能な資源を計測することを目的とした指標を開発している(Adema, 2001)。これには公的プログラムの代替となる民間の社会給付に関する情報を必要とする。さらに税制の違いが支出に与える影響を考慮する必要がある。

この論文では調整を加えた社会支出の指標が用いられてもなお、高い支出比率が低い貧困率に結びつくという馴染みのある主張が成立するのかどうかを調査する。この論文はAdema (2001 and 2010)にもとづいている。最初に我々は貧困率と社会支出/GDPの間の関係性をクロスカントリー分析を用いて調査する。その際、サンプルをEU15とnon-EU15に分割する。次に社会支出比率を税と民間の社会支出の影響を修正して再度分析する。

2. Research design

2.1 Measuring poverty incidence

絶対的貧困率や主観的分析法ではなく相対的貧困率を用いる。多くの論文では貧困線は等価可処分所得の中央値の50%に設定されているが、ここではEUの用いている定義である60%も使用する。注意しておかなければいけないのは研究者の間に特定の貧困の計測法の優劣に関して合意があるわけではないということだ。

表1に28の国の貧困率を示す。このサンプル内の貧困率は11.4%から25.3%の範囲に収まっている(所得中央値の60%の定義で)。だが人口のかなりの割合が50%と60%の閾値の間に分散している。これはなぜ50%の閾値の方が貧困率が大きく低下するのかの理由になる。



貧困率の平均で見て、EU15(16.6%)はnon-EU15(18.5%)よりも低い。

₋ EU15 countries:オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリス

₋ Non-EU15 countries:オーストラリア、カナダ、チェコ、ハンガリー、日本、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、スロベキア、スイス、トルコ、アメリカ

2.3 Measuring social effort

社会支出は単に公的なものだけが含まれてきた。だが貧困削減に対する社会的努力は公的領域のみに限定されていない。民間のプログラムも考慮に入れる必要がある。

加えて、税制も社会的努力に関係する。税が与える影響は主に3つある。国によって現金給付が課税される国とそうでない国がある。前者ではネットの支出はグロスの支出よりも少ない。給付受給者による消費に対する間接課税もまた全体像を誤らせる。間接税が高ければ受給者の実効購買力は低下する。社会的目的のために税制が用いられることがある。税控除は直接支出を代替する。アメリカのEITCが税控除の分かりやすい例だ。

Adema (2001)はnet total social expenditureという指標を開発している。

税を考慮に入れると支出比の平均は下落する。特にノルディック諸国とベネルクス諸国、オーストリアで顕著だ。

2.4 Tests on the linkages between social protection and poverty

本来なら前回のように多変量アプローチを取るのが理想的だ。しかしながらデータの不足により今回は出来ない。ネットの社会支出は限られた期間のデータしかない。一方で過去の研究は社会支出と貧困の関係を調査する限りでは二変量アプローチと多変量アプローチでは結果にあまり違いがないと報告している。

3. Welfare state effort and the alleviation of poverty: an empirical analysis

3.1 Linkages between poverty rates and gross social spending

表2に2007のグロスの社会支出/GDPと2003~2005の貧困率との相関を示す。結果はすでに述べた通りだ。ここではEU15の方がnon-EU15より相関が低いことがわかる。



3.2 The impact of private social expenditure

既存の研究の結果は民間の社会支出を無視することに影響されているのかもしれない。(省略した)前の段落で民間支出の割合が社会支出全体に占める割合が高い(低い)ほど貧困率は高い(低い)と我々は予想した。

表3に民間の社会支出を含めた結果を示す。



結果は顕著に変化した。non-EU15ではグロスの社会支出と貧困率の間に負の相関は見られなかった。調整済み決定係数は0.10から0.11だった。はっきりとした負の相関が見られないことから社会支出の増加が貧困の削減につながるかはっきりとしたことは言えないことになる。対照的にEU15では負の相関が見られた。調整済み決定係数は0.47から0.57だった。これらの国に関しては民間の社会支出は重要であるように思われる。

3.3 The impact of the tax system

次に税の影響を考慮する。表4に修正を加えた社会支出比率を示す。ネットの総社会支出比率と貧困率の間の関係はグロスの総社会支出比率と比べてはるかに弱くなる(調整済み決定係数がすべてのケースで大きく低下する)。税の影響を考慮すればEU15、non-EU15ともに個別では有意でなくなった。すべての国を合わせると有意ではあるけれど税を考慮しない場合に比べてはるかに弱い相関しか見つからなかった。さらに貧困線を60%水準に定義すると有意ではなくなった。



5. Conclusion

税の影響を考慮すれば社会支出比と貧困率の関係は弱くなる。ネットの社会支出がより実態を反映しているので(Adema, 2001)、我々の結果は社会支出比率が高いと貧困率が低いというお馴染みの主張はトーンダウンする必要があることを示している。

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