2013年1月31日木曜日

医療保険に加入していない人はカナダのほうが多い?

当初の予定が狂ったため、後で加筆することにします。

Canadian Health Policy Failures

by Brett J. Skinner

Introduction

US-Canada comparisons

医療資源へのアクセスという面に関してアメリカの医療システムはカナダの医療システムを凌駕している。これは特に最先端の医療技術や治療に関して顕著だ。カナダ政府が医療に必要なすべての治療に関して保険を提供しているというのはある意味で事実だ。だがカナダ政府は「医療に必要な」を政府の支払う意思にもとづいて定義している。カナダ政府は医療保険給付の実質的な経済価値を急速に減少させている。実質的な医療へのアクセスという面でカナダはアメリカよりも優れていない。行列へのアクセスは医療へのアクセスと同じではない。

The ‘cost’ of health care in Canada and the US

幾人かの研究者はカナダとアメリカの医療費の伸びを比較してカナダは医療費の伸びを抑制していると主張している。実際、メディケアの導入以前には両国のGDP比はほぼ同一だった。1970にメディケアが導入されてからはアメリカのGDP比がカナダのGDP比よりも速く伸びている。

だが、Ferguson (2002a)は両国の1人あたり医療費の伸び率を両国の1人あたりGDPの伸び率から分離して分析した。彼は両国の総医療費は80年代の後半までほぼ同率で増加したことを示した。だがアメリカのGDPは70年代と80年代前半を通してカナダよりも伸び率が低かった。

彼によるとこれがこの期間にGDP比がアメリカの方がカナダよりも速く増加した理由だ。この要因が考慮されなければカナダが医療費の抑制に成功したとの錯覚を作り出してしまう。さらに彼は仮にカナダのGDPがアメリカのGDPと同率で成長したらカナダのGDP比はアメリカのGDP比よりも高くなっていただろうということも示した。彼によるとカナダの医療費がアメリカの医療費よりも低くなり始めたのはカナダ政府が保険給付の範囲を制限し、価格を制限し、医療の割当を行うようになってからだという。カナダが70年代と80年代に医療費の抑制に成功したという主張は両国のGDP成長率の差が作り出した錯覚だ。80年代後半からの医療費の抑制方針は医療の割当によってもたらされたのであって効率的な医療資源の配分によってもたらされたのではない。

Hidden costs of Canadian health policy

カナダの医療政策は膨大な隠れ費用をもたらしている。その費用とは例えば以下のものだ。

膨大な隠れ債務と政府が直面している財政危機。
医療資源の不足、特に最先端の技術や治療に関して。
実効的な医療へのアクセスを欠く多くの国民。
医療に必要な治療の範囲の縮小とそれへのアクセスの遅延。
医療従事者への政府の所得制限。
技術開発に対するディスインセンティブ。

カナダと比較してアメリカの方がより多く所得を医療に費やしているというのは事実だ。だがアメリカ国民がアクセスの速さとより良い治療を受けているというのもまた事実だ。表1に両国の医療資源の利用率と医療保険加入者の割合を示す。アメリカ国民が医療資源を多く利用できるという傾向がはっきり見て取れる。

Health insurance coverage in Canada and the US

利用資源の利用に関して返ってくる反応はカナダは国民全員が医療資源にアクセス出来るがアメリカではそうではないというものだ。だがその保険の実効加入率に目を向けるとカナダはアメリカとそれほど変わらない。待ち行列へのアクセスは医療へのアクセスと同じではない。例えば第2章ではカナダでの医者の不足に関して論じている。その章ではかかりつけ医へのアクセスがない、または救急救命室を通してしかかかりつけ医へのアクセスがないカナダ国民の人数に関するカナダ統計局の推計を示している。その分析によるとカナダ人の7.4%はこの分類に該当する。これらのカナダ人は実効的な医療へのアクセスという点に関して保険に加入していないとされるアメリカ人とほとんど同一だ。家庭医へのアクセスがなければ診療や専門医への紹介、処方箋を得るのは非常に困難だ。カナダ人が医療へのアクセスを得られないのは医者が見つからなかったり待ち時間が非常に長いのが要因でこの意味で保険に加入していないのとあまり違いがない。

アメリカ政府は国民全員への保険加入を義務付けていないが救急医療へのアクセスは義務とされている。アメリカ政府は医療機関へ救急の治療が必要な患者への治療を行うことを法律として定めている。保険に加入していない人は病院の救急救命室や慈善機関や地域の医療機関へ支払いの前払いなしに緊急でない通常の範囲の治療を頻繫に受けに行くというというのもまた事実だ。

この点を見るために実際の保険に加入していないアメリカ人の人数は統計局の報告している人数の半分以下でさらにその状態は一時的なものだということを示す研究を示す(Herrick, 2008; Graham, 2006)。統計局によると最も最近のCurrent Population Survey (CPS)では4500万人(不法移民等1100万人を含む)が保険に加入していないと報告している。だがその推計値に関してはアメリカ国内で大きな論争になっている。表2はその問題点を簡潔に示す。この表はそれぞれの医療保険に加入しているアメリカ国民の人数を示している。民間医療保険加入者と公的医療保険加入者と医療保険未加入者の合計は統計局のアメリカ国民の全人口の推計値を大幅に上回っている。明らかにありえないことだ。不正確な回答者の人数は少なくとも3200万人に及ぶ。


Herrick (2008)はCPSのデータを分析しメディケイドの受給資格を得るには所得が高すぎるが120万円する高価な家族向け保険を購入する余裕のない国民の人数を推計している。彼によるとアメリカ国民の85%は何らかの形の保険に加入している。保険未加入者に関して、1800万人は所得が500万円を超えていて保険を購入する余裕がある。1400万人は政府プログラムの受給資格があるがまだ加入していない。彼によると3200万人、つまり保険未加入者の70%は保険を購入することが出来るがそれを先延ばししている。95%のアメリカ国民は保険に加入しているか保険へのアクセスがある。

彼によると2007の実際の保険に加入していない人の割合は全人口の5%だ。この数字は概念的に同一なカナダ人の割合(7.4%)よりも低い。実際カナダ統計局が推計しているかかりつけ医へのアクセスがまったくなく、それ故非常に限られた医療へのアクセスしか持たないカナダ人の割合(3.25%)とあまり変わらない。これらの数字にはかかりつけ医へのアクセスはあるものの治療を受けるために待っている人の人数は含まれていない(注 ついでにこちらも参照)。

2013年1月23日水曜日

医療保険に加入していない人は高所得者が多い?

Crisis of the Uninsured: 2008

by Devon Herrick

How Big Is the Problem?

統計局の2007のデータによると、

85%(2億5350万人)のアメリカ人は民間医療保険かメディケア、メディケイド、S-CHIPなどの公的医療保険に加入している。

保険未加入者のうち1800万人が暮らす世帯の年間所得は500万円(1ドル=100円)を超えていて保険を購入する余裕がある。

ブルークロス・ブルーシードによると保険未加入者のうち1400万人は政府のプログラムの受給資格があるが加入していない。

3200万人、または保険未加入者の70%は保険に加入することが容易であるが保険に加入することを渋らせている。これは全人口の95%が保険に加入しているかそれへのアクセスがあることを意味する。残りの5%は年間所得が500万円を下回っている。このグループはメディケイドの受給資格を持っていないし家族向けの保険を購入する余裕がない。定額の税額控除がこのグループが保険を購入する手助けになるだろう。

How Serious Is the Problem?

過去10年で保険に加入した人の数は2600万人増加した一方で保険に未加入だった人の数は140万人しか増えなかった。数が増加したのは人口が増えたからだ。概して保険未加入者は短期間保険に加入していない。CBOは2100万人から3100万人が1年間保険に加入していないと2002に推計している。現在保険に加入していない人の半分以上は12ヶ月内には保険に加入している(こちらも参照)。

Who Are the Uninsured?

よく保険未加入者は全員低所得層だと仮定される。だが250万円以下の所得の世帯ではこの10年で保険未加入者の数は21%減少している(グラフを参照)。保険未加入者は多様な集団で構成されていてそれぞれ異なった理由を持っている。


移民:外国生まれの住民の1240万人は保険に加入していない(保険未加入者の27%を占める)。2007では外国生まれで市民権を持たない住民の44%は保険に加入していない。最近のEmployee Benefits Research Instituteのレポートによると1994から現在までの保険未加入者の増加の55%を移民が占める。所得も要因かもしれないが唯一のものではない。この増加の部分的な説明は移民の多くは民間の保険を購入する慣習があまりない地域から来ていることにあるかもしれない。加えて移民が公的保険の受給資格を得るには合法の住民になってから5年以上経たなければならない。

若年者:18歳から34歳のうち1800万人は保険に加入していない。彼等の大多数は健康で付随的な支払いは自己負担で払うことが出来ることを知っている。稼いだお金を保険の支払いに廻すことは彼らにとって優先順位が低い。

高額所得者:グラフで示したように保険未加入者の中で過去10年最も速く増加したのは中所得層、高所得層だ。1998から2007の期間に500万円以上の所得で保険に加入していない人の数は500万人以上増加した。500万円~750万円の所得がある世帯では27%増加し750万円以上の所得がある世帯では65%増加した。

Why the Poor Are Uninsured: The “Free Care” Alternative.

多くの人々が政府の公的保険に加入しないのは彼等が病気になった時に無料の医療を受けられることを知っているからだ。連邦法は保険の有無や支払い能力の有無に関係なく、救急患者を拒否することを禁じている。最近のUrban Instituteの研究によると保険未加入者は毎年16万8600円相当の医療行為を受ける。このうちで、5万8300円が自己負担で残りの11万300円が地方と民間の慈善医療だ。これは連邦と地方政府による30兆円以上の無料の公的保険であるメディケイドやS-CHIPを含まない。さらに治療の必要性が発生した時にいつでも家族が契約できるので公的保険に加入する動機がわずかしかない。

How to Reduce the Number of Uninsured: Uniform Tax Credit.

Lewin Groupによると1000万円以上の所得がある世帯は250万円の世帯に比べて4倍の控除を受け取る。最大の補助金は必要性の乏しい人が受け取る。定額の税額控除ならば低所得層と中所得層は高額所得者と同額の税額控除を受け取るだろう。

How to Increase the Number of Insured: Allow Competition.

Arizona Rep. John Shadegg (R)により導入された法案は任意の州の住民に他州のコストの低い保険を購入することを認める。これは地方の市場に競争をもたらすことと住民に高価な保険以外の選択肢を与えることにより保険を手軽なものにするだろう。消費者はインターネットや電話または地方の代理店を通して保険を購入することが出来る。プランは保険会社の本部がある州の法律に従うだろう。消費者はより自分に合ったプランを選択できる。さら州間の競争は州の政策担当者にコストの掛かる規制を緩和させるように働きかけるだろう。ミネソタ大学のSteve Parenteらはこの変化により新たに1200万人の人々が保険に加入するだろうと推計している。

Conclusion.

(省略)

2013年1月17日木曜日

カナダの方がアメリカよりも医療費/GDP比が高かった?

EXPENDITURE ON MEDICAL CARE IN CANADA: LOOKING AT THE NUMBERS

by Brian S. Ferguson

EXECUTIVE SUMMARY

なぜカナダの医療システムは世界最高と謂われていたかつての姿ではないのか?なぜシステムは慢性的に資金不足で債務を抱えているのか?かつてシステムが機能していたのならばなぜ現在の我々はその負担に耐えられないのか?メディケアの黄金期から何が変わったのか?

答え:一言で言えば何も変わっていない。変わったのは医療ではなく我々の支払い能力の方だ。

過去の政策担当者は支払いをしなくてもいいと考えていたようだ。だから我々は借りた。支払いをクレジットカードで済ませた。最初からメディケア(カナダの医療システム)の支払いを全額負担させられていたら現在我々が直面している負担の苦しみも感じることはなかっただろう(最初から苦しんでいただろうからという意味と負担を先送りしなければ現在の苦しみはもう少し軽減されていただろうにという2つの意味が込められている)。そしてシステムを持続可能な形に設計することも出来ただろう。

政府は最早借金をする余裕がない。医療費は歳入から支払われなければならなくなった。選択肢は増税か支出の削減か民間の関与に絞られる。90年代を通して政府はサービスを制限することにより支出を削減しようとした。その結果アクセスは制限されるか不可能となり待ち時間は長くなり医療従事者は群れを成してアメリカへ向かった。

メディケアの利点とされていることにメディケアはアメリカに対して費用の面で優位に立っていると主張されることがある。この主張の問題点はそれが事実ではないということだ。メディケアが費用逓減に成功してきたという錯覚が生まれた理由は両国の経済成長率の違いを考慮し忘れたことにある。データの取り扱いが適正であればメディケアの導入が費用の逓減に貢献していないことが分かる。

我々の所得をどの程度医療に支出しているかという質問に対してはカナダは特にうまくやっていない。単に運が良かっただけだ。

カナダの医療費/GDP比がアメリカの数字よりも低い理由は両国の医療費の伸び率に違いがあるからではなくメディケアを導入した時期にカナダの実質成長率がアメリカの実質成長率を上回る時期と重なったという幸運に恵まれたからだ。カナダの成長率が70年代、80年代を通してアメリカの成長率と同じであればカナダの医療費/GDP比はアメリカの数字よりも高くなっていただろう。

この状況は90年代に入って政府が医療費の削減に真剣に取り組み始めるようになって初めて変化した。

増税が選択肢になくメディケアの費用抑制効果が錯覚だったのなら我々に残された選択肢は民間の関与だ。現在の政策は経済が良い時に支出を増加して経済が悪い時に支出を減少させているように思われる。

SECTION 1 INTRODUCTION

医療費全体に占める民間部門の割合は1975の23%から1998の30%以上へと上昇してきた。民間部門の割合はメディケアが導入される以前よりも現在の方が高いぐらいだ。この状況はメディケアに対する民間部門の成長からの脅威として受け取られてきた。だがこの民間部門の成長が人々がより高価な眼鏡を購入するためであったりマッサージ治療を受けるためであったり歯科の治療やサプリメントの購入などに関連するようなものであれば然したる問題ではないはずだ。

(省略)


(カナダの医療費全体に占める公的部門の割合)


(アメリカの医療費全体に占める公的部門の割合)

SECTION 2 RATES OF GROWTH OF EXPENDITURE

我々が真に関心があるのが医療費の増加率であるならばそれを直接見たほうが良い。図8に3つの系列の年間成長率を示す。カナダの1961-98の期間の名目医療費、実質医療費、1人あたり実質医療費だ。図から明らかなようにインフレーションの影響は大きい。

図8が示すようにこの期間の医療費の成長率は継続してプラスだ。しかしその増加率は減少傾向にある。実質と1人あたり実質の系列は全体の系列と同様のパターンを示している。それら2つの系列は1995と1996にマイナスの年間成長率を示している。そして1人あたり実質の系列も1993にわずかにマイナスになっている。

SECTION 3 CANADA–US COMPARISONS

カナダでの医療費に関する議論はカナダとアメリカとの支出の比較になる。それらの議論の大半は図11、図12、図13で示すようなグラフで始まる。


図11は1960-98の期間の医療費/GDP比を示している。両国は医療費に関して同様の定義と計算方法を用いているので最も直接的に比較可能だ。

図11は両国の支出の比較に関してよく聞かれる特徴を示している。1970まではカナダの医療費/GDP比はアメリカの数字とほとんど同一でそして同率で増加していた。

だが1970以降カナダの比率は増加しなくなる一方、アメリカの比率は増加を続けた。アメリカが増加を続ける一方70年代を通してカナダは7%のままだった。

医療費/GDP比が一定であるためには医療費の増加率とGDPの増加率が同率でなければならない。これはカナダは70年代を通して全体の医療費は増加したがGDPも同率で増加したために医療費が国民所得を飲み込むことがなかったことを意味する。

両国の医療費/GDP比が乖離し始めた現象に対する最もよく為される説明はメディケアの導入だ。

この議論は図12を見た時に説得力を増すように思われる。この図は1948-98年間の両国の診療サービスがGDPに占める割合を示している。



50年代と60年代を通してアメリカのMDの割合はカナダのMDの割合よりも一貫して高かった。両者は1968まではほぼ同率で増加していた。1968-72の期間にカナダはメディケアを導入した。カナダの割合はアメリカの割合を上回って増加した。

1972にカナダのGDP比はわずかに減少しそれから80年代初めまで横ばいで推移した。そこから再び上昇を開始し90年代初めにもう一度横ばいになる。カナダのGDP比は最初に増加した後下落する。90年代後半を通してほぼ横ばいで推移した。アメリカのGDP比は70年代以降増加を続けた。アメリカのGDP比は90年代初めに落ち着きを見せ始めるがそれはカナダのGDP比とほぼ同一の時期だった。

議論はしばしばGDP比の乖離のタイミングについて為される。図12と図13が示すのはメディケアの導入の直接的な効果だと説明される。カナダで導入されたメディケアが医療費の抑制に成功した一方でアメリカは医療費の抑制に積極的ではなかったとされる。

両国のGDP比が1968以前にほぼ同一なのはメディケアの導入以前にはカナダ人は民間から医療保険を購入していて実質上アメリカと同一のシステムだったという事実に求められる。正確に言えば1968にメディケアが導入されたとはいえそれが適用されたのは医師の診療サービスだけだった。両国が同時期に病院での治療に費やした費用のGDP比を見るとMD比よりもはるかに穏やかにしか増加率が減少していないことが見て取れる。入院治療費/GDP比の増加率が大幅に減少を始めたのは1990あたりでおそらく政府による費用の削減が原因だと思われる。

ここまでの所、メディケアの導入が医療費の抑制にある程度の成果を挙げてきたという見方に支持を与えるように見える。

だがその見方は極めて明快な疑問へと結び付く。メディケアが70年代と80年代に費用の抑制に成功してきたのならばなぜ我々は現在費用の急騰に苦しめられているのか?なぜ90年代に医療へのアクセスを制限することなしに支出を抑えることが出来なかったのか?なぜ70年代と80年代にしたことを今してしまわないのか?

現在起こっていることをより理解するために過去のGDP比の変化に何が起こったかを調べる必要がある。

診療サービスをMDXとしてそれをGDPで割ることにより診療サービス/GDP比(SHMD = MDX/GDP)とすると以前に述べた。図12はそれぞれの国のSHMDの系列で図11と図13はそれぞれ医療費全体と入院治療費に対応する。

この計算で最も重要なことはSHMDはMDXが変化した場合かGDPが変化した場合に変化するということだ(または同時に変化した場合)。

図14にカナダの1961-99年間の1人あたり実質GDPと1人あたり実質医療費の年間成長率を示す。


図15に2つの系列を示す(グラフの形がほとんど同じなので一つのように見えるがよく見れば2つあるのが分かると思う)。四角の印があるものは図11から計算したカナダの医療費/GDP比の変化率だ。砂時計の(ような)印があるものは図14で示した2つの系列の差から求めたカナダの医療費/GDP比の変化率の推計値だ(つまり毎年の医療費の変化率からその年のGDPの変化率を引いたもの)。近似は非常に近い。1961-98年間で2つの系列が正確に一致しないのはわずか3年しかない。


図16にカナダとアメリカの1人あたり実質GDPを対数表示したものを示す。


(グラフが不鮮明なので分かりにくいが下側から急速に伸びて上側の線を一時上回っているのがカナダのものだ。ただ下の文章で書いてあるようにこれはカナダの1人あたりGDPがアメリカの1人あたりGDPを上回ったことを意味するのではない)

ここでの対数表示の利点は任意の2地点間のグラフの傾きはその2地点間の増加率を示す。両国のグラフの傾きが等しい場合は1人あたり実質GDPの成長率が等しいことを意味する。

両国の系列は自国の通貨建てで表示してある。後で比率を取る時に通貨単位の変換は打ち消しあうからだ。従ってカナダの系列がアメリカの系列よりも高くなることがあるのは(共通の通貨単位で見た場合に)カナダの1人あたり実質GDPがアメリカの1人あたり実質GDPよりも高いからではなくて(どの期間でもそのようなことは起こっていない)、カナダドルで見たカナダのGDPがアメリカドルで見たアメリカのGDPよりも高いからだ。傾きの比較によれば1948-98年間にカナダの1人あたり実質GDPがアメリカの1人あたり実質GDPよりも速く成長した期間が確かにある。

このグラフで我々にとって興味深いのは70年代初めのリセッションだ。アメリカのGDPでは減少がはっきりと表われているのに対してカナダのGDPでは成長率の減少は見られるものの横ばいの期間があるだけで実際のGDPの減少は見られない。この期間に対して医療費/GDP比を計算した場合(カナダの州がメディケアを導入した初めての年と一致する)アメリカの医療費/GDP比がカナダの医療費/GDP比よりも速く増加する傾向があったことを意味する。

1960-1968年間の年率平均成長率を見るとカナダは3.6%、アメリカは3.1%だ。1968-1972年間ではカナダが3.5%、アメリカが1.6%だ。1972-1975年間ではカナダは3.5%、アメリカは0.4%だ。この期間にはプラス成長した年もあればマイナス成長した年もあったからだ。1975-1987年間ではカナダは2.4%、アメリカは1.8%だ。明らかにカナダはこの期間において速く成長している。

もちろんこれはGDPの側を見ただけに過ぎない。図17に両国の自国通貨建ての1人あたり実質診療サービス支出を対数表示したものを示す。ここでもグラフの傾きは両国の成長率の違いを示す。


前回示した診療サービス/GDP比の図とは違い両国の診療サービスは60年代を通してほぼ同率で成長している。つまり2つのグラフの傾きはほぼ平行だ。

60年代後半と70年代前半にカナダの支出は加速する。そしてその後元に戻る。これは以前に述べたメディケア導入の効果で(注 省略している)アクセスが容易になったことによる。

メディケア導入の効果が剥落した後、カナダの支出はメディケア導入以前よりも低い率で成長を再び始める。1960-1968年間の年間平均成長率を見るとカナダは5.5%、アメリカは5.2%だ。1968-1972年間ではカナダが8.8%、アメリカが4.7%だ。1972-1975年間ではカナダは-0.81%、アメリカは2.9%だ。1975-1987年間ではカナダは4.2%、アメリカは4.8%だ。成長率に違いはあるが大きなものではない。

図18と図19に今度は各年の成長率を直接比較したものを示す。

図18に両国の1人あたり実質GDPの年間成長率を示す。そして図19に1人あたり実質診療サービス支出の年間成長率を示す。


目を引くのは図19だろう。ここでもメディケアの導入による支出の増加とその効果が剥落したことによる支出の一時的減少がある。


70年代後半まで両国の支出の成長率はほぼ同調していた。実際他のどの期間よりもこの期間の関係が似通っている。2つの系列が再び乖離を始めるのは80年代の中頃から後半のことでカナダ政府が支出の削減を真剣に考えるようになってからだ。

このグラフの中に、メディケア導入による過渡的な効果を見ることが出来る。だがそれは診療サービスに対して永続した効果を与えていない。基本的に支出の成長率に対して何の効果も与えていない。カナダの診療サービス/GDP比がアメリカの診療サービス/GDP比よりも低いのは支出の成長率とは関係がない。カナダはメディケアの導入時期にカナダの成長率がアメリカの成長率を上回るという幸運に恵まれた。

その幸運の効果がどのぐらいの規模かを知るために図20に3つの系列を示す。1つは実際のカナダの診療サービス/GDP比で、1つはアメリカの診療サービス/GDP比で、最後がカナダの1人あたり実質GDP成長率がアメリカの1人あたり実質GDP成長率と同じだったと仮定した場合の仮想的なカナダの診療サービス/GDP比だ。


(本文中では診療サービス/GDP比とあるがおそらく誤植でグラフでは医療費/GDP比となっている。1990あたりからそれまでは一致していたアメリカの比率と仮想的なカナダの比率が乖離し始めるのは本文中でもあるようにカナダ政府が行った医療費抑制方針が仮想的なカナダの比率にも影響を与えているからだと思われる)

楕円の印がついた仮想的な系列は実際のカナダの系列とは大きく異なっている。カナダのGDP成長率が70年代、80年代を通してアメリカの成長率と同じであればカナダの医療費/GDP比はアメリカの医療費/GDP比よりも高くなっていただろう。繰り返しになるがこの状況が変化したのは90年代に入ってからだ。

最初になぜカナダの最近の費用の抑制の努力は70年代や80年代のように混乱をきたすことなしには行えないのかと尋ねたが今となってはその費用の抑制に成功したという考えがそもそも錯覚だったように思われる。

メディケアの導入は費用を抑制した時期や費用を抑制する効率的なメカニズムをもたらしたということはない。我々が所得のどの程度を医療費に費やしているかという疑問に関して言えばうまくやったのではなく単に運が良かっただけだ。

SECTION 4 INTERNATIONAL COMPARISONS

SECTION 5 CONCLUSIONS

不幸なことに、現在または当時の社会支出に関する意思決定を行った人々は自分達自身の財布から支払わなくてもよいという考えを持っていたように思われる。だから借金をした。

図27にカナダの統合政府の1人あたり実質純借入額(基本的に統合政府の赤字額の合計に等しい)を示す。

図28と図29は1人あたり実質で見た連邦政府と統合政府の純債務水準を示す。図30に再度、統合政府の純債務とGDPを示す。

図31に1人あたり実質医療支出と統合政府の1人あたり実質赤字額を1970-1997年間に渡って示す。ほとんどの年で赤字額は医療支出とよく一致する。


(ただこの後筆者は債務は極めて流動的なものなので医療費と他の支出によって引き起こされたであろう赤字とを区別することにそれほど意味はないと述べている)

(追記1)ここでの議論は日本に対しての方がより大きな効果として成立すると思われる。

(追記2)以前から論文筆者と同じ疑問を持っていたがこんな単純なことを誰も指摘しないのは何か理由があるのかと思っていたが別にそういうわけでもなかったようだ(笑)。ただ医療水準の低い国は医療に多額の投資を行う必要があるので医療費の伸び率は高くなる傾向があっても不思議ではないように思われる。ここでの議論は両国の医療水準が同一でない場合には少し修正が迫られる気がする。出発時点の両国の医療費/GDP比が同じで1人あたりGDPがアメリカ>カナダならば1人あたり医療費もアメリカ>カナダとなるのでアメリカの方が医療水準が高いと仮定しても差し支えないと思われる。そうだとすると素直に考えれば医療費の伸び率はカナダ>アメリカとなりそうな気がするが本文中でもあったように医療費の伸び率は大体アメリカ=カナダだったのでそういう意味ではカナダに医療費抑制効果が働いていた気もする。しかしそういうことがあったとしてもそれがメディケアと関係があるのかははっきりしない。導入以前以後でほとんど変化がないとあったのでやっぱり関係がないのだろう。

2013年1月9日水曜日

ヨーロッパはアメリカよりも低福祉だった?

Public Transfers to the Poor: Is Europe really more Generous than the United States?

by M. Dolores Collado Iñigo Iturbe-Ormaetxe

1 Introduction

通説では低所得層への所得移転はヨーロッパの方がアメリカよりもはるかに多いということになっている。この研究の目的はこの主張が正しいのかどうかを確認することにある。簡潔に言えば低所得層に対してどちらが寛大であるかを比較したい。

2種類の公的移転を考慮する。第一には現金移転のみで、第二には現物移転を含める。

最初の定義を用いた場合は低所得層1人あたり平均現金移転はアメリカの方がヨーロッパよりわずかに高くなる(21万円と19万円)。現物移転を含めるとこの差はさらに大きくなる。低所得層1人あたり平均移転額はアメリカが52万円、ヨーロッパが35万円になる。こうなる理由はアメリカの現物移転がヨーロッパに比べて低所得層に集中しているからだ。

つまり公的移転の額がアメリカとヨーロッパで大体同じだとしても、その分布はアメリカの方が遥かに累進的だということを意味する。低所得層1人あたりが受け取る移転額はアメリカの方がヨーロッパよりも20%大きい。

2 Aggregate Data

表1の列1に2001年のデータを示す。公的社会支出がGDPに占める割合はアイルランドの13.8%からスウェーデンの29.8%まで幅がある。ヨーロッパの平均値は23.8%だ。対応するアメリカの数字は14.7%なのでヨーロッパの方が62%高い。アイルランドだけがアメリカの数字を下回っている。だがこの結果には2つの欠点がある(注 他にも欠点がある。各国の高齢化の違いを考慮していない点だ)。

第一に上のデータはグロスの社会支出を示している。多くの国では現金移転は課税所得として扱われる。課税前の移転額は実際に受け取る個人へ与える影響を正確に反映していないことを意味する。移転に対する各国の課税の取り扱いの違いは社会支出が可処分所得に転換される程度に異なる影響を与える。例えばオランダではほとんどすべての社会給付は課税所得である一方、ドイツでは給付に対する課税は制限されている。我々が知る限りではネットの社会支出を計算した唯一の研究はAdema and Ladaique (2005)だ。彼等はネットの社会支出をグロスの社会支出-受給者が支払った税額+社会目的のための税控除として定義している。彼等は23のOECD加盟国のネットの社会支出をGDP比として計算している。それらのデータを表1の列2に示す。ヨーロッパのすべての国で政府は控除よりも多くの額を課税により徴収している。これはネットの社会支出はグロスの社会支出よりも常に少ないことを意味する。最大の差はデンマーク、スウェーデン、フィンランド、オーストリアで見られる。例えばデンマークのネットの社会支出が21.8%であるのに対してグロスの社会支出は29.2%だ。平均でデンマーク人の家族はグロスの移転額の4分の3しか受け取っていないことになる。ヨーロッパの12の国のネットの移転の平均は21.8%でグロスの移転は24.0%だ。これは9%の減少を意味する。アメリカはこのパターンに該当しない唯一の例だ。ネットの社会支出はグロスの社会支出よりも多い(ネットは15.9%、グロスは14.7%で8%の増加)。この増加の理由の一つにはEarned Income Tax Credit (EITC)のようなプログラムの存在がある。グロスの移転の代わりにネットの移転で考慮すればアメリカとヨーロッパの社会支出の差はかなり縮小し62%から37%になる。

(注6 Adema and Ladaique (2005)に含まれていないヨーロッパの3つの国が含まれれば差はさらに縮小する。)

第二に仮にA国がB国より社会支出が多かったとしてもこれはA国で低所得層がより保護されていることを意味しない。それを知るには社会支出がどのように分布しているかを調べる必要がある。例えばA国で移転の大部分は中間所得層が受給していてB国で移転の大部分は低所得層が受給している状況を想定する。これは実際にB国の低所得層がより保護されている事例といっていいだろう。ヨーロッパでは多くの公的プログラムは直接的に低所得層をターゲットとしていない。例えば年金給付は過去の負担と強く関連していて多くの国で所得代替率はほぼ一定だ。取り得る手段としては貧困削減を狙いとした移転だけを考慮することが考えられる。だがヨーロッパではそのような移転は移転全体のわずかしか占めないためにこの方法でアメリカとヨーロッパを比較することは困難だ。アメリカでは低所得層をターゲットとした公的プログラムが多くある。それらは福祉プログラムと呼ばれる。実際アメリカでは福祉という単語は公的補助と同義で低所得世帯への基本的援助を提供するプログラムを意味する。これらプログラムの受給資格は純粋に所得により決定される。年金や失業保険のような他のプログラムは福祉プログラムとは見做されない。よって原則的には低所得層を対象とした移転と全体を対象とした移転とに区別することができる。2002年のアメリカの所得制限のある給付の支出はGDPの5%以上だ。

注8 アメリカには低所得層を主な対象とした80以上の政府プログラムがある。これらにはTANF (Temporary Assistance to Needy Families)、Medicaid、SSI (Supplemental Security Income)、Food Stamps、EITC(Earned Income Tax Credit)、Pell Grantsがある。

注9 この表現は完全には正しくない。年金給付は低所得層により多くの給付が与えられるように算定されているからだ。これは年金もある意味で福祉プログラムと見做されうることを意味する。

注10 総額は52兆2200億円(1ドル=100円で計算。さらに数字が古く現在ではさらに増加している可能性がある)に相当する。このうち37兆3200億円が連邦政府の拠出で14兆9000億円が州政府や地方政府の拠出だ。最大のプログラムはメディケイド(25兆8000億円)でSupplemental Security Income(3兆8000億円)、Earned Income Tax Credit(2兆8000億円)、Food Stamps(2兆4000億円)、Low-Income Housing Assistance(1兆8500億円)、Temporary Assistance for Needy Families(1兆3000億円)、Federal Pell Grants(1兆1000億円)だ。

表1の列3に所得制限のある社会支出がGDPに占める割合を示す。ヨーロッパのすべての国でアメリカよりも少ない。割合はルクセンブルグの0.65%からイギリスの4.09%まで様々だ。ヨーロッパの平均は2.7%だ。別の表現にすると社会支出の90%に所得制限がないことになる。社会支出の大部分は直接的に低所得層を対象としていない。だがこれは低所得層が社会支出の最大の受給者ではないということを必ずしも意味しない。

以下に簡単な計算を行う。所得にもとづいて人口を5つに分割する。そして(所得制限のない)社会支出が5等分されていると仮定する。所得制限のある社会支出に関してはすべて低所得層が受給すると仮定する。人口の20%として定義されるヨーロッパの低所得層は2.7%+4.2%(所得制限のない支出の5分の1)=6.9%を受給する。アメリカでは5.0%+1.9%=6.9%を受給する。この計算ではグロスの社会支出を用いた。ネットの社会支出を用いるとヨーロッパは2.7%+3.8%=6.5%、アメリカは5.0%+2.2%=7.2%になる。この試算はかなり粗いものだがマクロのデータが如何に誤解を生むかを示している。より正確な情報を得るにはミクロのデータを用いる必要がある。

3 Micro Data and Methodology

3.1 Public Transfers in Cash

3.2 In-kind Health Transfers

現金移転のみを考慮するならば公的支出のかなりの部分を除外してしまうことになる。大まかにいってOECDの分類の9つのうちの6つが現金移転に対応している。この6つの分類が総支出に占める割合はヨーロッパでは69%、アメリカでは57%だ。現物移転を含めるとヨーロッパでは95%、アメリカでは99%になる。

4 Main Results

列4と列5に低所得層とその他への現金移転の平均値を示す。ここでの低所得層(その他)は貧困線を下回る(上回る)かで判断される。列4と列5の値は国際間で比較できるようにPPPで示してある。ヨーロッパでは低所得層への現金移転はイタリアの10万円からベルギーの37万円まで幅があり平均値は19万円だ。アメリカの低所得層への現金移転は21万円でヨーロッパの平均値を少し上回る。ヨーロッパのうち7つの国がアメリカよりも少なく8つの国がアメリカよりも多い。貧困線よりも上の層への現金移転になるとベルギー、デンマーク、アイルランドを除くすべてのヨーロッパの国で低所得層よりも多くの現金移転を受け取っている。ヨーロッパでは貧困線を上回るすべての個人が平均で低所得層よりも37%多く受け取ることからこの傾向が確認できる。逆にアメリカでは低所得層とその他はほぼ同じ額の現金移転を受け取る。列6に総支出のうち低所得層が受け取った割合をそれぞれの国について示す。列6の値が対応する列3の値を上回れば低所得層が全体として自らの割合よりも多くの移転を受け取ったことを意味する。例えばオーストリアでは貧困率は7.1%だ。仮に総支出がすべてのオーストリア人で等分割されていれば低所得層は総支出の7.1%を受け取る。だが列6にあるようにオーストリアの低所得層は総支出の5.6%しか受け取っていない。

列7-9に現物移転の貨幣価値を加える。結果は大きく変化する。ヨーロッパの低所得層への平均移転額は35万円に増加するが、アメリカの低所得層への平均移転額は52万円にまで増加しヨーロッパよりも46%高くなる。ヨーロッパの15の国のうちベルギーとデンマークだけがアメリカよりも多い。結果が変化した理由はアメリカの現物移転はメディケア、メディケイドなどの存在によりヨーロッパよりもはるかに累進的だからだ。その他の層への移転については結果は逆になる。ヨーロッパでは平均で42万円である一方、アメリカでは39万円になる。

表3と表4に移転額と受給者の所得との関係を示す。この表を作成するために以下の作業を行った。すべての個人を所得にもとづいて分類し人口を5つの集団に分割した。第一階層は所得分布の下位20%が占める。ここでは第一階層を低所得層を表わすものとする。次にそれぞれの階層が受け取る移転の平均値を計算する。この計算を2回繰り返す。表3には現金移転のみを示し表4には現物移転も加える。表3の列1にすべての個人の平均現金移転額を示す。アメリカの平均移転額は21万円でヨーロッパは25万円だ。列2から列6に5つの階層の平均移転額を示す。列7-11に総移転額に対するそれぞれの階層が受け取った移転額の割合を示す。ヨーロッパの9つの国とアメリカで最上位の階層の割合は最下位の階層の割合よりも高かった。ヨーロッパを全体としてアメリカと比較した場合にも同様の結果になった。よって現金移転は各階層で大体同じだと結論できる。

図1に表3と表4から得られた結果を示す。点線は階層毎の平均現金移転額だ。太線は階層毎の現金移転と現物移転の合計額の平均だ。ヨーロッパの場合は全体として現金移転だけの場合とあまり変化がない。すべての所得階層はより多くの移転を受け取る。だがその上昇はそれぞれの階層で大体同じだ。アメリカの場合は現物移転が強く累進的なのを確認できる。アメリカの分布の所得下位20%が寛大に扱われていて所得上位40%がその逆だということをはっきりと観察できる。

5 Discussion

我々は分析をアメリカとヨーロッパの9つの国に絞る。これはこの9つの国がヨーロッパの中で相対的にアメリカと比較可能な集団だからだ。この集団はオーストリア、ベルギー、フィンランド、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、スウェーデン、イギリスだ。対象を限定しても主要な結論は変わらない。現金移転は20万円で、対応するアメリカの数字は21万円だ。EU-15では19万円だ。

現物移転を加えても先程の結果とほとんど変わらないがその差はわずかに縮小する。EU-9の現物移転も含む平均移転額は36万円で、アメリカの平均移転額は52万円なのでまだアメリカの方が42%高い。低所得層以外も分析に加えるとEU-9の平均移転額は少し減少することが分かった。平均現金移転額はEU-9で25万円、EU-15で26万円、アメリカで21万円だった。低所得層以外の総移転額はEU-6(注 おそらくEU-9の誤字と思われる)で42万円、EU-15で43万円、アメリカで39万円だった。

6 Conclusions

(省略)