How the Poor May be Saving More for Retirement than the Rich
Andrew Biggs
アメリカ人の多くは老後の蓄えが十分かどうかを気に掛けている。だが政策担当者が最も気に掛けているのは低所得者に関してだろう。低所得者は401kプランに加入していないことが多い。加入を求められたとしても、多くはそれを拒否する。401kに加入したとしても、所得が高い労働者に比べて貯蓄に回す割合が低いことが多い。ようするに、低所得者は老後の蓄えが十分ではないことが多い。
このような話が通説のように語られていた。実際には、(社会保障年金のおかげで)低所得者は中間所得者や高額所得者よりも多額の年金を受け取っている可能性が高い。アメリカ人の老後の蓄えが十分かどうかを知るには、401kに加入しているかどうか、負担額がどれぐらいかを見ているのでは分からないだろう。
ほぼすべての労働者に社会保障年金への支払いが求められている(労働者の負担分が所得の6.2%、雇用主の負担分が6.2%)。ようするに401kに加入する前から、アメリカ人のほぼ全員が所得の12.4%を老後に備えて貯蓄していることになる。退職後の所得の基本部分としては悪くない数字だ。
だが低所得者にいたっては実効貯蓄率はその12.4%を上回っている。それは社会保障年金が、401kや伝統的な企業年金とは異なり(他の国とも異なり)、累進的であるためだ。保険料率は全員が同じだが、低所得者は中間所得者や高額所得者よりも負担額と比較して多くの給付を受け取っている。
それはどれぐらいか?社会保険局(SSA)のデータがその疑問に答えてくれる。この数字(「所得の対価比」と呼ばれることもある)は、個人が生涯を通して受け取る給付額と生涯を通して支払う負担額との比率を示す。これが1であれば、所得の12.4%と(SSAがそのように計算しているため)それに掛かる利子を社会保障年金を通して貯蓄したことになる。
低所得者はこの数字が1以上になる。ここではSSAが「非常に所得が低い」と呼んでいる労働者に焦点を当ててみよう。彼らの所得は平均的な所得の4分の1でしかない(1ドル=120円として150万円ほど)。平均的に見て、彼らは自分たちが支払った額の1.7倍を給付(年金)として受け取る。彼らは所得の12.4%しか負担していないかもしれないが、22%を貯蓄に回していたものとして給付を受け取る。
彼らが老後に備えてどれぐらいの額を貯蓄しておくべきなのかは定かではない。22%で十分かもしれないし、そうではないのかもしれない。だが、自分に問い掛けて見て欲しい。自分の所得が150万円ぐらいだったとしてすでに所得の22%を貯蓄に回しているのであれば、その人はもっと貯蓄に回すだろうか?現実的な回答は恐らく、そうしない、だろう。
ここまでは話の一面でしかない。低所得者が負担額よりもより多くを受け取る一方で、高額所得者の給付は負担額よりも少なくなる。下の表には所得が150万円から1344万までの労働者の社会保障年金実質貯蓄率が示されている。「非常に所得が低い」労働者の所得の対価比は1.7で実質貯蓄率は22%だったが、所得が1344万円の労働者は負担額のわずか0.5倍しか給付を受け取れない。その実質貯蓄率は12.4%の0.5倍だから6.2%ということになる。
貯蓄が十分かどうかを低所得者と高額所得者とで比較して見ると、非常に興味深いことが分かる。所得が150万円で401kや他の年金プランには加入していない労働者を仮定しよう。累進的な給付により、彼の実質貯蓄率は22%となる。次に、所得が1344万円で401kに180万円を負担している労働者を仮定しよう。社会保障年金を通した貯蓄率は6.2%で、401kの負担分は彼の所得の13%に相当する。合計した貯蓄率は19.2%で、「非常に所得が低い」労働者の22%を下回っている。
Retirees' Incomes Rising, Dependence On Social Security Benefits Lower
「退職者は社会保障年金にどんどん依存するようになっている」とU.S. News and World Reportというサイトでは語られている。「社会保障年金は1962年には65歳以上の高齢者の所得の30%ぐらいでしかなかったのが、2009年には所得の38%にまで上昇している」、「SSAが公開したデータによると、2009年には66%以上の高齢者が所得の大部分を社会保障年金から受け取っている。1984年には62%で、1967年には51%だった」など。
これらの数字はメディアによって広く喧伝されていて、アメリカ人は貯蓄を十分にしていない、401kは機能していない、退職者には社会保障年金以外に頼るものがない、などといった主張のサポートに頻繁に用いられている。そして、事態はどんどん悪くなっていっている、という台詞が必ずと言っていい程付け加えられる(#どんどん悪くなっていっているのはメディア関係者たちの頭の方だというのに)。
だが、これらの主張がすべて間違いだと言ったらどう思うだろうか?退職者の所得は増加しており、過去と比べて社会保障年金への依存度は減っており、民間の貯蓄プランの増加がその理由だと言ったとしたら?IRAと401kからの引き落としを正しく把握しているデータを見れば、退職者の所得は急激に増加していること、ほとんどの退職者の「所得代替率」は高いということが分かるだろう。
それを今から説明する。退職者の所得に関するSSAの数字(メディアの多くが根拠としている)は、Current Population Survey (CPS)を参照している。CPSは失業率や貧困率など、政府の公式統計の最大の参照先だ。理論上では、CPSは退職者が頼りにするすべての所得を示すことができるとされている。
問題は、CPSが何を「所得」としてカウントするのかにある。CPSでは、お金はそれが定期的に受け取る形態であった場合にのみ所得としてカウントされる。例えば、毎週であったり毎月であったりと。不定期でお金を受け取っていれば、それは所得としてカウントされない。
これは、定期的に給付を受け取る形態であったDBプランから退職者が必要に応じて貯蓄を引き下ろす形態のIRAや401kなどのDCプランへとシフトしたために大きな問題を生み出している。退職者がIRAや401kなどから受け取っている給付の大部分はCPSでは所得としてカウントされていない。そして、DBプランからの一括の支払いなども所得してカウントされていない。労働者が伝統的なDBプランからより魅力的なDCプランへと大脱走しているため、IRAや401kの口座残高がどれほど巨額になっていようともCPSに所得として表れることはない。
この問題はどれほど大きいのか?幸運なことに、何を「所得」としてカウントするのかに関してIRSはCPSほど正気を失ってはいない。IRSでは定期的に引き落とされるか、一括して引き落とされるかどうかを区別していない。もしDCプランからお金が引き落とされたとすれば、それはIRSにきっちりと把握されるだろう。IRSのデータを用いて、退職者貯蓄プラン総額の55%しかCPSは把握していないと私は過去に計算している。伝統的なDBプランが巨額の給付を未だに定期的に支払っていることを考えると、このことはIRAや401kからの給付をCPSがまったくと言っていいぐらいに所得としてカウントしていないことを示している。センサスのAmerican Community Surveyによる分析も(ACSはCPSと同じような調査方法を採用している)、ACSが退職者所得の55%しか把握していないことを示している。
よって、退職者の所得が過小にカウントされていて、そしてこの問題は時が経つに連れて大きくなっていくと考えられる十分な根拠があるということを私たちは今では理解しているという訳だ。だがこのことが分かったからといって、私たちはアメリカの退職者の貯蓄に関するこれまでの考えを改めるべきだろうか?
国勢局(センサス)の2人の経済学者による最近の論文が、これまで何の疑問も呈されることなくまるで真実であるかのようにメディアによって語られていた通説を覆すかもしれない。C. Adam Bee and Joshua MitchellはIRSやSSAなどの(関係者しかアクセスできない)内部データを用いてCPSなどに見られるこの問題を修正しようと試みた。彼らのターゲットは女性の退職者だった。だが男性の働き手を含む家計全体の所得を彼らが示してくれていたので、分からないのは未婚の男性の所得だけとなっている。
彼らが示した姿は、これまでメディアによって語られていた話とはまったく異なるものだった。例えば、民間の貯蓄プランから所得を受け取っている65歳以上の高齢者の割合は1984年には29%だったのが2007年には26%に低下したとCPSでは云われていた。それが、社会保障年金への依存度が高まっており退職者たちは危機を迎えているというSSAの報告書の内容に沿ったものでもあった。だがそれは、CPSの問題を知っている人にとっては容易に予想できる結果でもある。
対照的に、(この問題に関して)より正確なIRSのデータの方は民間の貯蓄プランから所得を受け取っている高齢者の割合が同期間に23%から45%へとほぼ2倍になっていることを示している。このことだけでも、人々は老後に対する備えを自らの手では行うことができないというイデオロギーへの打撃となっている。
上昇しているのは所得を受け取っている割合だけではなかった。Bee and Mitchellは社会保障年金、民間の貯蓄プラン、それらから受け取る利子や配当、それに受給者の所得なども示してくれた。CPSを情報源とするのであれば、1989年から2007年までの65歳以上から69歳までの所得の世帯中央値は(実質で見て)420万円から504万円へと21%の上昇を示したのだと結論してしまうだろう。18年間に21%だから、それも決して悪い数字ではない。
だがより正確なデータの方はというと58%の上昇を示している。ようするに、2007年には731万円に達している(一体、今はいくらになっているのか?)。言い換えると、メディアがアメリカ人や政策当局者に対して伝えている数字は普通の退職者世帯の所得を228万円少なく教えている。
社会保障年金に対する依存度が高まっているという主張の方はどうか?
1989年から2007年の間に、社会保障年金の給付の実質価値は65歳から69歳までの高齢者に対して25%上昇した。民間の貯蓄プランの方はというと141%上昇した。1989年には、民間の貯蓄プランの給付は社会保障年金の給付の32%ぐらいでしかなかった。2007年には、それが62%まで上昇している。社会保障年金に対する依存度は低下している、民間の貯蓄プランは普通のアメリカ人にとって機能するものではないというイデオロギーとは完全に矛盾する事実だ。
Bee and Mitchellは世帯の中央値しか示してくれなかった。だが彼らは低所得の世帯や高所得の世帯に関して推量を可能にするデータを提供してくれている。先程述べたように世帯中央値の上昇は58%だったが、(所得分布の)25%タイルの世帯では52%の上昇、75%タイルの世帯では50%の上昇だった。この上昇の大部分は民間の貯蓄プランの給付が増加した(先程も語ったように141%の上昇)ことによるものと考えて良さそうだ。
最後に、彼らのデータは退職者は退職前の生活水準(ここでは所得)をどれぐらい維持できているのかに関する新たな情報を提供してくれている。ファイナンシャル・アドバイザーの多くは、退職者は退職前の所得の70%を維持するべきだと推奨している。仕事上仕方なく払っていた費用や税金、退職に備えての蓄えの必要性などが軽くなることで、退職前の生活水準を維持するには70%ぐらいで十分だと彼らは説明している。
Bee and Mitchellは退職から1年後そして退職から5年後の退職者の所得を、内部データを用いて私たちに教えてくれた。それにより、所得の代替率を計算することが可能になる。退職者の退職1年前の所得の中央値は583万円だった。退職から5年後の所得の中央値もほとんど同じだった。所得の代替率はほぼ100%で、ファイナンシャル・プランナーたちのアドバイスを大きく上回っている。退職3年前の所得のデータも提供してくれているが、それも結果は同じだった。
彼らは大学卒業者、非卒業者、既婚の女性、未婚の女性の所得の代替率も計算している。そこにも大きな違いはなかった。すべての例で、退職5年後の所得は退職前の所得とほとんど同じだった。
これらのデータは、多くの人たちが「壊れている」と叫んでいたアメリカの民間の貯蓄プランに対する考えを改めさせるのでなければならない。そうだ、民間の貯蓄プランは縮小させるのではなく拡大させる必要がある。そのためにやらなければならないことはまだまだ多いだろう。だが、退職者の貯蓄は高く民間年金からの所得は過去のどの時点よりも拡大していて、他のどの国をも圧倒的に上回っていることが明らかになった。
これらのデータは有用ではあるものの、SSAやメディアなどはこれからも誤ったデータを用い続けるだろう。SSAはこの問題に気が付いていないかのようだが、それは違う。1970年時点ですでに、自分たちが使用しているデータはIRSに報告されている資産からの所得の半分ぐらいしか把握していないとする内部文書を彼らは作成している。最近でも、SSAの職員たちはIRAや401kなどからの所得をCPSはほとんど把握できていないとする内容の報告書を内部向けに幾つも作成している。だと言うのにこの組織はCPSのデータに基づく「Income of the Population Aged 55 and Over」という報告書を提出し続け、アメリカ人を欺き続けている。
Middle Class Retirement Accounts At Record Levels; Low-Income Households Still Saving Little
ピケティとサエズはアメリカの左翼が大好きなフランス人の経済学者だ。アメリカのリベラルたちは彼らのデータを根拠に再分配を叫び続けている。長期間に渡る彼らの所得のデータは、彼らの結論に賛成していない経済学者たちからも一定の評価を集めている。彼らの同僚のGabriel Zucmanとともに提出された新たな論文は、だがアメリカの中間層の退職貯蓄が急激に増加していることを示していた。アメリカの中間層が老後に備えてこれほどまでの資産を保有していたことはかつてなかった。対照的に、低所得者たちは少ししか貯蓄していないように見える。どうしてかを考えてみよう。
彼らの新しい論文は「Distributional National Accounts: Methods and Estimates for the United States」と題されている。その中に含まれているのはかなりの数のデータで、それもウェブサイトからダウンロード可能であるため、彼らの関心事は所得と資産の格差であったにも関わらず、それに関心のない経済学者も好き勝手にデータを利用するようになっている。私の関心事は、貯蓄が十分かどうかだ。
彼らのデータには所得分布の下位90%(所得分布の10%から100%)、中間層(所得分布の30%から70%)、所得分布の下位50%(所得分布の50%から100%)の所得と資産に関する情報が含まれていた。具体的な数字で言うと、2014年の所得分布の下位90%の所得は1584万円以下、中間層は204万円から780万円、所得分布の下位50%は420万円以下だった(納税単位な上に個人の所得なので世帯所得より遥かに低くなる)。従って、どのようにスライスしたとしてもここで見ているのはプライベート・ジェットで飛び回っている人々ではなく低所得からアッパー・ミドルまでということになる。
彼らは伝統的なDBプラン、(401kや403b、IRAsなどの)DCプランを合計した退職貯蓄プランの資産総額のデータを提供している。退職者の貯蓄が十分であるかどうかをそのデータから簡単に計算することができる。その定義はここでは年間所得に対する資産の割合とするのが妥当だろう(二重計上を防ぐため投資からの所得はここでは除外している)。
退職時に、人々は所得を資産で補おうとするためこの考えは妥当だ。この比率がどれぐらい高ければ十分であるのかは分からない。多くの金融会社が主張しているより低いだろうと個人的に考えてはいるが。どれぐらいであれば十分であるかは分からないが、その方向性は見ることができる。この比率が停滞したままであれば、アメリカ人は寿命の増加に併せた貯蓄を十分に行っていないのかもしれない。比率が低下しているのであれば、アメリカ人はメディアが騒いでいるような退職危機とやらに直面するかもしれない。
彼らのデータによると、実際にはアメリカ人の貯蓄は劇的なまでに増加している(それらの貯蓄が置き換えると想定されているはずのその所得でさえもが増加しているというのに)。(所得分布の40%を占めるとして定義される)中間層では、年間所得に対する退職貯蓄口座の資産の比率は1970年が33%であったのが1980年には53%、1990年には101%、2000年には168%、2014年には210%にまで上昇している。株式市場が大きく下落した時に一時的にこの比率が低下することはあった。だがトレンドとしてはほぼ一直線に上昇に向かっている。
所得分布の下位90%と所得分布の下位50%に関しても、同様のトレンドが見られる。ただ、所得分布の下位50%に関しては他と比べてその上昇の速度は相対的に低い。
データに見られるような貯蓄の急激な増加と、メディアの主張とを整合させることは非常に困難だ。不幸なことに、ピケティたちのデータには社会保障年金に関するデータが含まれていない。先程も説明したように、これらは低所得世帯に対して重点的に分配される。低所得世帯の貯蓄の増加の速度がどうして他の世帯よりも相対的に低いのかを知りたいのであれば(#要するに社会保障年金によってすでにカバーされているからだと示唆している)、もっと良いデータが必要だろう。
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