この表は比較的最近になってOECDによって立ち上げられたタスクフォースの資料を参考にしている。
上から、急性心筋梗塞、狭心症、胆石症、心不全、乳房の悪性新生物、気管、気管支及び肺の悪性新生物、正常分娩、肺炎、虫垂切除、帝王切開、胆嚢切除、大腸切除、冠状動脈バイパス術、除細動器挿入(修復、交換、除去)、椎間板切除、血管内膜切除、股関節置換、子宮摘出、膝関節置換、乳腺切除(4分の1切除)、乳房切除、前立腺切除、ペースメーカー挿入(修復、交換、除去)、経皮的冠動脈形成術、末梢血管バイパス術、肺切除、鼠径ヘルニア修復術、甲状腺切除、経尿道的前立腺切除を意味する。比較対象とするのはオーストラリア、カナダ、フィンランド、フランス、イタリア、ポルトガル、スウェーデン、ノルウェー。その他の国は所得水準が大きく違うのでここでは比較の対象にしない。それと質の違いは考慮されていない。
個別に見ていくと200万円すると言われていた盲腸が80万円(他の国は50万円~60万円)、300万円すると言われていた出産が40万円(他の国は30万円)となる。他国と比較して価格があまり変わらないケースとして狭心症(30万円)、心不全(50万円)、肺炎(50万円)、帝王切開(70万円)、大腸切除(160万円)、椎間板切除(80万円)、血管内膜切除(80万円)、子宮摘出(70万円)、末梢血管バイパス術(160万円)、甲状腺切除(70万円)、経尿道的前立腺切除(60万円)がある。興味深いのは空欄が多いものの大体のケースでノルウェーの方が価格が同じか高いことだ。
Comparing Price Levels of Hospital Services Across Countries
by Francette Koechlin Luca Lorenzoni Paul Schreyer
アブストラクト:医療サービスはGDPのかなりの部分を占めしかも増加している。その支出も国によってかなりの違いがある。その違いが消費量の違いによるのか価格の違いによるのかは政策に大きく関わってくる。医療サービスの価格の国際比較が行われることはほとんどなくしかも測定の問題を抱えている。この研究ではOECD加盟国の医療サービスの国際比較を行う。データは病院サービスの産出の準価格を反映しているという点で特徴がある。従来では産出価格は投入の価格(医療従事者の賃金率)を比較することにより算出されていた。新しい方法は投入ではなく産出へと焦点を切り替えている。この方法だと国による生産性の違いを捉えることが可能になり(注 ここではそれは行われていない)より意味のある比較への第一歩となる。
BACKGROUND
医療支出はGDPのかなりの割合を占めしかも増加している。支出が増加した時、政策当局者や市民はその増加が消費量の増加によるのか価格の増加によるのかに興味を持つと思われる。同様の疑問が国際比較においても持ち上がる。Bに対してAの支出が多い時、それはAの消費量がBに対して多いからなのかそれとも価格が高いからなのか?この質問に答えるためには医療サービスの相対価格に関する情報が必要になる。国際比較では特定の財、特定のグループの相対価格はPPPと呼ばれる。この研究の主目的は医療サービスの大きな部分を占める病院サービスのPPPの測定方法を示すことにある。
INTRODUCTION
財やサービスが政府などによって供給される場合、消費者に課される価格は市場価格を大きく下回ることがある。いくつかの場合では価格はゼロかもしれない。そのような価格を比較することには何の意味もない。それ故、市場によって供給されていない財やサービスの費用の比較を(一般の)PPPで行うことが慣例になっていた。
費用を比較するには主に2通りの方法がある。投入によるものと産出によるものだ。投入ベースの方法は例えば外科医の賃金率を比較する。言い換えると、価格の比較は投入1単位あたりの賃金や価値の比較を通して代替される。国際間で賃金を比較するのは非常に難しい(経験や年功賃金の影響を制御するのは難しい)という点の他にこの方法の主要な欠点は生産性の違いを無視するということにある。つまりある国で医療サービスが効率的に供給されているとしても投入価格にもとづくPPPでの比較では区別がつかない。
費用を比較する2番目の方法は産出にもとづくものだ。ここではPPPは産出1単位あたりの費用を比較することにより計測される。医療サービスの場合ではこれは治療1単位あたりの費用になる。医療では産出1単位あたりの費用は簡単には観測できない。だが産出の価値を示す替わりとなる情報源がある。多くのOECD加盟国では医療サービスは医療費償還制度を通じて管理される。治療1単位あたりの償還価額は価格が他の財やサービスに対して行っているのと同様の役割を果たす。我々は交渉価格、管理価格を準価格(必ずしも市場取引の結果でない、または生産者と消費者の間の取引に適用される価格ではない)と呼ぶ。治療1単位あたりの準価格の比較は産出ベースのアプローチで基本的に各国の生産性の違いを反映することが可能だ。従って、投入ベースのアプローチより概念的には好ましい。この研究では医療サービスの主要な部分の一つである病院サービスのPPPの結果を示す。
方法論に移る前に新たに内外価格差の概念を導入する必要がある。内外価格差は普段人々が特定の財の価格を国際間で比較する時に自然に行っているものだ。A国通貨で表示されたA国のある財を市場為替レートを用いてB国の通貨に変換する。その結果の価格(現在はB国通貨で表示されている)はB国の実際の同一の財の価格と比較される。変換されたA国の財の価格がB国の財の価格を上回ればA国の財の価格はB国よりもより高いということになる。内外価格差はこの計算をPPPレート(A国で観察される価格とB国で観察される価格の比)を市場為替レートで割ることにより代行する。その比が1を超えたらA国の物価水準はB国の物価水準よりも高いということになる。内外価格差のもう一つの表示方法は同量の財を購入するのに要した共通通貨の量を示すものだ。注意しなければならないのは内外価格差は市場為替レートに依存していることでこのレートは短期間に変動しまたその変動幅も大きい。内外価格差は注意を持って見る必要があり特定の基準年への参照を必要とする。
内外価格差の概念はhospital PPPを対応する為替レートで割った比較の結果に適用される。結果は二国間ではなく多国間のものとして得られる。計算は複雑になるが基本的な内外価格差の概念は不変のままだ。
METHODOLOGY
The products: case types
産出ベースのhospital PPPの推計方法は2つの特徴を持つ。(1)産出は症例に関して計測される。(2)準価格はこの産出を評価するのに用いられる。この2つの特徴を順番に見ていく。
以下の基準が代表的な症例を決定したり症例の比較を行うのに用いられる。
・一般的(稀なものではない)な医療行為、または診断を表す
・病院の支出のある程度の割合を占める
・一回の入院期間に行われるであろう主な医療行為を表す
・分類可能な状態を表す
財はさらに内科的と外科的に分類される。臨床上での行為は各国によって異なる可能性がありある国で内科的と分類される行為が他の国では外科的と分類されるかもしれない。
The valuation: quasi-prices
管理データは準価格を作成するための情報を提供してくれる。準価格には交渉価格と管理価格がある。前者は個々の交渉を通じて決定される。そして必ずしも直接的に費用を反映しているとは限らない。この研究に参加している国の中で、7ヶ国は交渉価格を使用していると報告しており7ヶ国が管理価格を使用していると報告している。これが結果にどのようなバイアスを生んでいるのか評価するのは難しい。
例えば、交渉価格は利潤を含む可能性がある(サービスが他からの補助金によって賄われている場合には損失も含む)。一方で管理準価格は平均費用を反映している可能性がある。交渉価格、管理価格は医療行為に対する評価のもとを形成する。サービスの平均費用を反映している管理準価格の場合は管理価格の費用の範囲が各国で共通なことが重要だ。一般的な原則として、各国はすべての費用が反映されているか確認を求められる。これには従業員の報酬、資本の減耗、中間財投入、生産に対する課税等が含まれる。どちらの費用も直接費、間接費が反映されなければならない。費用の要素の全リストはAnnex 1 Table A.1.3に示してある。
Linking quasi-prices to case types
価格、準価格の比較は医療サービスの質の違いが考慮されなければならない。そこには2つの側面がある。医療サービス自体の質の違いと補助サービスの質の違いだ。この研究では価格の比較を行う際に質の違いを考慮に入れていない。これはそのような調整を行うのが単に難しいからだ。さらに治療の適切さも考慮に入れていない。これは患者と支払い側の観点からは重要な問題だ。だがこの研究の範囲から外れている。
PILOT STUDIES
OECDはthe Australian Institute of Health and Welfare, the Australian Government Department of Health and Ageing, the Canadian Institute for Health Information, the National Institute for Health and Welfare (Finland), the Agence Technique de l’Information sur l’Hospitalisation and the Institut National de la Statistique et des Études Économiques (France), the German Federal Statistical Office, the Ministry of Health (Israel), the Ministry of Health (Italy), the Yonsei University and the Health Insurance Review and Assessment Services (Korea), Statistics Netherlands, the Norwegian Directorate of Health and Statistics Norway, the Instituto Nacional de Estatistica (Portugal), Statistics Slovenia, Statistics Sweden and the National Board of Health and Welfare (Sweden), the Office of National Statistics (United Kingdom), and the Agency for Healthcare Research and Quality (United States)と共同でこの研究を行った。
Box 1. A note regarding the United States
病院費用:試験研究ではNationwide Inpatient Sample (NIS)からの推計を用いた。これはアメリカの地域病院のおよそ20%に相当する1000の病院の500-800万の入院日数のデータを含んでいる。この記録は総請求額の情報を示している。それからCenters for Medicare and Medicaid servicesから利用可能な病院全体とすべての支払い側の入院費/請求率の記録が費用の推計に用いられる。
RESULTS OF THE PILOT STUDY FOR THE YEAR 2007
How results were compiled and how they should be interpreted
結果を見る前に、イントロダクションで説明したが医療PPPを一般のPPPにリンクさせるのが役に立つ。治療は生産物の役割を果たし準価格は市場価格の役割を果たす。2種類の生産物(内科的治療、外科的治療)が病院サービスを構成する。
結果は12の国について編集してある。参加国の平均を100とした指数の形式で表示している。PPPは基準国の選択に対して不変となるように計算している。計算はアメリカを基準国として開始し、それからPPPを市場為替レートで割ることにより内外価格差が求められる。そしてグループ平均は各国の内外価格差の幾何平均として求められる。この平均は100に設定され各国の内外価格差はこれとの対比で表示される。内外価格差は価格水準の違い(同量の財を購入するのに必要な共通通貨の量)を示す。我々の例では、共通通貨は存在しないので価格水準の絶対水準を参照しているのではなく相対水準を参照していると見る必要がある。例えば、表1の数字は以下のように読む。2007のアメリカの入院患者の病院サービスの価格水準はグループ平均を100とした場合の163で44%(163と113)カナダより高い。
注10 ノルウェーとドイツは準価格の推計に固定資本の消費が含まれていないことから除いてある。オランダの結果も示されていない。対応するオランダのデータが埋められていないからだ。しかしグループ平均の計算にはオランダは含まれている。
Significant spread of quasi-prices across countries and correlation with income levels
内外価格差は為替レートに依存していて為替レート変動の影響を大きく受けるかもしれない。病院サービスの内外価格差と全体の内外価格差の比較により為替レートとは独立したその他の財と病院サービスの相対価格の示唆を得ることができる。グラフ2にその比較とさらに各国の1人あたりGDPで定義された1人あたり実質所得を補完する情報として示してある。
表1とグラフ2にあるように病院サービスの価格水準には57(韓国)から164(アメリカ)と大きな幅がある。イタリア、オーストラリア、フランス、スウェーデン、フィンランドの価格水準は高い。価格水準が低い国はポルトガル、スロベニア、韓国のように所得と全体の価格水準も低い。
(注 このグラフは左のバーが病院サービスの価格水準、右のバーが一般の物価水準、折れ線が1人あたりの所得水準を示している。アメリカの例だと一般の物価水準が低くそれと比較して病院サービスの価格水準が高いが所得水準も高い、イタリアの例だと一般の物価水準と病院サービスの価格水準が高いが所得水準は大幅に低く結果として所得と病院サービスの価格水準との差は最大になっている)
Similar results for medical and surgical inpatient services
外科的治療と内科的治療で価格水準はかなり似通っている。2つのカテゴリーで韓国の例外を除いて並びは同一だ。韓国の場合には、例外的に長い外科的治療の入院日数がこの違いを説明している。外科的治療の内外価格差は似通っているが内科的治療のデータにはある程度ばらつきがある。外科的治療が内科的治療よりも大きな割合を占めることは記しておく必要がある。そして総病院サービスの内外価格差の違いの大部分を説明する。大抵の場合で、外科的治療は総病院サービスの費用の70%以上を占める。
Consistency of results within categories
Large variations in costs per hospital day and average length of stay
平均入院日数(ALOS)はノルディック諸国、アメリカ、オーストラリアで短く、韓国で長い。平均入院日数はイタリア、ポルトガルで非常に長い。平均的に、外科的治療で内科的治療よりも大きな違いがある。
各国によって報告された入院日数の違いは生産物レベルでも見られる。これは全体の入院日数の違いは各国の制度や慣行上のものが重要な要因であるかもしれないことを意味する。
表3に入院一日あたりの価格水準を示す。従って、各国の入院日数の違いを制御してある。いくつかの国では一日あたりの準価格は総合の価格水準とは大幅に異なっている。オーストラリア、カナダ、フィンランド、スウェーデンでは外科的治療の価格水準は大幅に上昇(150くらい)する。OECDの2009の報告では入院日数について以下のようにコメントしている。「入院日数は効率性を表す指標と見做される。その他の条件を一定にして入院日数の短さは費用を抑え一般急性期の施設への移行を可能にするだろう。しかし入院日数の短縮化により一日あたりの費用は高くなる。入院日数があまりに短すぎると健康に対して副作用をもたらす可能性があり患者の回復を遅らせる可能性がある。これが患者の再入院率の増加につながれば費用は下落しないかもしれない」。ここで与えられた2つの説明は価格の比較に対してまったく異なる意味を持つ。入院日数の短さが集中的な治療によってもたらされたものであれば価格の比較は入院日数の違いを考慮しないで行われるべきだ。入院日数の短さは効率性の高さの指標となるからだ。逆に、追加の入院が治療の結果を高めるのなら、またはより多くの治療へとつながるのなら入院日数の違いを考慮することが正当化されるかもしれない。各国が異なる治療の組み合わせを行っている場合には一般的な命題は引き出せないかもしれない。この問題を取り扱うためには、治療全体に関する膨大な情報が必要になるだろう。この研究ではこの問題を代表的な症例にのみ焦点を絞ることにより取り扱おうとしている。まとめると、入院日数の違いを考慮していない表1を見出しの数字として用いることが妥当だと判断した。
Results by case type
各国の価格の違いをよりよく理解するために詳細な結果を見る必要がある。表4に例として2つの生産物の平均価格を示す。正常分娩と膝関節置換の事例だ。
Annex 3に内外価格差を計算するのに用いた基本表を示す。表A3.1に各国の症例数を示す。表A3.2と表A3.3に平均入院日数とその変動係数を示す。表A3.4に各国通貨で表示した症例の平均準価格を示す。表A3.5にドルで表示した症例の平均準価格を示す。これは参照表となる。カナダは部分的にしか準価格が推計されていない。表A3.4と表A3.5のいくつかのセルが空白な一方、表A3.1-A3.3の対応するセルが空白でないのはこれが理由だ。表A3.6に症例の比重を示す。表A3.7に症例の内外価格差を示す。さらに平均と変動係数も示す。
結果が通常の枠に収まらないいくつかの事情がある。情報の不足であったり各国の事情であったりを反映しているかもしれない。これらの背景を特定するためにより調査が必要になるだろう。
CONCLUSIONS AND NEXT STEPS
いくつかの情報が研究に参加した各国から引き出された。
hospital-PPPの試験研究は質の違いをサービスを区別することにより行った。つまり、質の違う生産物は別の生産物として取り扱った。この仮定に関して再検討が行われるかもしれない。十分に同質と思われるサービスに関する情報がすべての国で利用可能でない場合には特にそうだ。さらに異なる技術が利用可能で医療の提供に用いられている場合にも検討が必要になる。
最後に、この研究はまだ試験段階であることを述べておく必要がある。他の国が参加したり、参加国が利用可能なデータを向上させたら、結果は改定され改善されるだろう。よって、ここでの結果は注意を持って見る必要がある。だがこの初期段階のものでさえ分析者や政策当局者は関心を持つだろう。
(追記)入院日数を考慮するかしないかについて他の可能性も考えられる。ある国では考慮した方がよく、ある国では考慮しない方がよいという選択的な場合だ。本文中ではさらりとしか触れられていなかったが基準は必要と思われる治療が施されたか否かになる。こちらで触れた点が関係してくるかもしれない。
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