2012年12月7日金曜日

アメリカの健康格差は縮小?

An alternative perspective on health inequality

by Benjamin Ho Sita N. Slavov

1. Introduction

所得格差の研究はメディアの注目を集めている(e.g., Picketty and Saez 2003; Autor, Katz, and Kearney 2008; Heathcote, Perri, and Violante 2009; CBO 2011)。

注1 これらの研究に対して論争がある。例えば、Burkhouser, Larrimore, and Simon (2011)は他の見方を示している。

しかし所得は幸福度の一要素にしか過ぎない。そして幸福度の格差はほとんど上昇していない、または下落しているかもしれないことを示す研究がいくつかある。

例えば、Aguiar and Hurst (2008)は低所得層の余暇の時間が他の集団に比べて大幅に増加していることを発見した。さらに、Stevenson and Wolfers (2008)は主観的な幸福度の格差は減少していることを示した。

最後に、消費の格差は所得の格差ほど増加していないことを示す研究がある(e.g., Krueger and Perri 2006; Hassett and Mathur 2012)。

注2 またもや、これらの研究に対して論争がある。例えば、(e.g., Aguiar and Bils 2011)だ。

幸福度のその他の重要な側面は健康だ。多くの健康格差の研究は人種や所得によって定義される社会経済的な集団間の格差に焦点を絞っている。

だが集団間の格差に焦点を絞ることは主要な健康格差の源泉を無視することになる。健康格差の大部分は集団間ではなく集団内で発生するからだ。つまり集団内の最高の健康状態と最悪の健康状態の差は集団間の平均的な健康状態の差よりもはるかに大きい。ここではその他の研究とは対照的に集団間、集団内の健康格差について調べる。言い換えれば、最も健康状態が悪い人が最も健康状態が良い人に比べて利益を得たかどうかを調べる。そしてこのトレンドを集団内と集団間の健康格差に分解する。

ここでは健康状態を、実現した寿命によって計測する。この方法によれば、早い年齢で死亡した個人は貧しいと定義され80歳を超えて生存している個人は豊かと定義される。我々は、過去100年間に渡って寿命の分布のほとんどで健康格差は劇的に減少していることを発見した。所得格差が上昇したといわれる過去40年間に渡っても健康格差は減少していることがわかった。quality-adjusted life year (QALY)を用いると、最も健康状態の悪い人は最も健康状態の良い人の8倍の利益を得ていることがわかった。金額に換算すると相対的利益は4000万円(1ドル=100円で計算)になる。個人の生涯所得に対してかなりの額だ。この健康格差の減少は集団内での健康格差の減少からもたらされている。この結果は主観的な幸福度格差の減少を示した研究とも整合的だ。

2. Literature and Conceptual Framework

寿命格差が劇的に減少していることを示す研究は他にもいくつかある(e.g., Wilmoth and Horiuchi 1999; Edwards and Tuljapurkar 2005; Smits and Monden 2009; Edwards 2010; Shkolnikov, Andreev, and Begun 2003; Fuchs and Ersner-Hershfield 2008)。だがこれらの研究はその結果が示す社会的意味までは考慮していない。

その一方で、Gakidou, Murray, and Frenk (1999)は正しい健康格差の計測方法は実際の健康格差ではなく健康リスクの分布にもとづくべきだと議論した。つまり、健康リスクが全員にとって同じである限り実現した健康格差に焦点を絞るべきではないと議論した。そのような健康格差は個人の属性に対して無関係という意味で純粋にランダムなものだ。この議論を受け入れるならば、我々の研究は所得格差に関する伝統的な分析への挑戦と見做されるかもしれない。寿命格差の純粋にランダムな部分が重要でないのならば、実現した所得格差の純粋にランダムな部分がどうして重要なのかはっきりとしなくなるからだ。しかも所得格差の研究は実現した所得格差と所得形成過程内にある格差との区別をほとんど行っていない。

我々の研究にはいくつかの制約がある。第一に寿命と健康との相関は集団間で異なるかもしれない。そしてその違いは我々が行った分解に対して特に意味を持つかもしれない。第二に寿命には他の指標と異なり生物学的上限があるかもしれない。これらの制約はあるがそれでもなおこの研究は価値があると思われる。

3. Data and Methodology

寿命格差の傾向を調べるためにここではSSAのコーホート生命表を用いる。この表は性別や誕生年によって分割される。コーホート死亡表は特定の誕生年のコーホートの年齢に関連した死亡率を生涯に渡って示す。例えば、1900に誕生したコーホート表は1900の0歳の死亡率、1901の1歳の死亡率、1920の20歳の死亡率を含む。まだ生存しているコーホートには将来の死亡率に関する見通しが必要になる。ここではSSAの生命表を用いて1900から2012までのコーホートの0歳と25歳の全体の寿命の分布の変化を調べる。寿命の確率分布は個人が各年齢で死亡する確率の男性と女性の平均を取ることにより決定される。ここでは分布のnパーセンタイルを累積死亡確率がnを超える最少年齢と定義する。寿命の平均値は死亡がその死亡年のちょうど中間地点で起こったという仮定で計算する。例えば、25歳で死亡した個人(つまり25回目の誕生日と26回目の誕生日の間)は25.5歳まで生存したとして記録される。

寿命格差は2つの部分に分割できる。集団間の寿命格差と集団内の寿命格差だ。

Var(L)=E(Var(L|G)+var(E(L|G),

Gは社会経済的集団を示す。Lは寿命を示す。Eは期待値演算子で、varは分散を示す。つまり全体の寿命の分散は集団内特定の分散の平均と集団間の分散の和に等しい。寿命格差の減少は集団間の寿命格差の減少からかもしれないし集団内の寿命格差の減少からかもしれない。

4. Results

表1に0歳時(表の上段)と25歳時(表の下段)の寿命の分布の1、10、50、90、99パーセンタイル値の変化を示す。それぞれのパネルはいくつかの主要な数字を含んでいる - 99と90パーセンタイル値と50パーセンタイル値の比率(分布の上段の寿命格差を示す)、50パーセンタイル値と10、1パーセンタイル値の比率(分布の下段の寿命格差を示す)、90パーセンタイル値と10パーセンタイル値の比率(上段と下段の間の寿命格差を示す)。0歳時での寿命格差は1900以来劇的に減少している。1900生まれのコーホートでは分布の10パーセンタイルは1年間でさえ生存していなかった。2012になると10パーセンタイルは64歳まで生存する。そして1パーセンタイルは18歳まで生存する。対照的に分布の上段での伸びはより穏やかだ。従ってp90-p10比率は1900から1950の間に劇的に減少した。そしてその後穏やかになった。0歳時での減少の多くは乳幼児死亡率の減少からもたらされている。だが25歳時(表の下段)での死亡率を見ても寿命格差は1900以降一貫して減少し続けている。分布の10パーセンタイルで寿命が22年伸びた一方で90パーセンタイルでは8年しか伸びていないからだ。


表2に性別にもとづく集団間、集団内の寿命格差がどのように変化したのかを示す。今度も上段は0歳時の結果で下段は25歳時の結果だ。この表から寿命格差の大部分は集団内の寿命格差からもたらされていることがわかる。集団内、集団間の寿命格差はともに減少している。0歳時ではどちらも同じ割合で減少している。25歳時では集団間の分散の方が大きく減少している。従って、性別間の寿命格差が減少しただけでなく(男性の方がより寿命が伸びている)それぞれの性別内での寿命格差も劇的に減少している。


表5に人種毎の結果を示す。分解を男性と女性別々に行う。0歳時では人種内、人種間の寿命格差は男性、女性ともに減少した。集団間の寿命格差の減少は人種間の寿命格差の減少によってもたらされている。25歳時では集団内、集団間の寿命格差の減少は男性に関しては停滞している。女性に関しては両方とも減少している。今度も寿命格差の大部分は集団間ではなく集団内の寿命格差によってもたらされている。


5. Discussion

ここでの結果はアメリカで健康に関する格差が劇的に減少したことを示す。この結果を用いてこの利益がどの程度であったかを簡単に試算する。最近の研究はQALYに対して2000万円(1ドル=100円で計算)が妥当な値だと示している。この値は多くの連邦機関で用いられるValue of Statistical Life (VSL)と整合的だ。我々の計算では寿命の増加とQALYの増加は一対一に対応する。もちろんQALYは寿命と同義ではない。だが簡単な試算のためにはそれほど非現実的な想定ではないと思われる。

表1によると1975から2012の間に10パーセンタイルは56年から64年へと8年間寿命を延ばした。誕生時からの実質割引率を2%として10パーセンタイルの寿命の延びは現在価値で4833万円になる。年間所得に換算すると64年間に渡って130万円になる。対照的に90パーセンタイルは97年から99年へと2年間寿命を伸ばした。現在価値では568万円に相当し年間所得に換算すると12万円にしかならない。

我々の結果は社会経済的集団間で健康格差が拡大したと報告した過去の研究と矛盾するものではない。つまり集団間での分散が大きくなったとしても集団内や全体の分散が小さくなることは十二分にあり得ることだからだ。さらに我々の結果は集団内の分散が集団間の分散をはるかに凌駕するので集団間の分散にのみ研究の焦点を絞ることは重要な側面を見落とさせることを示唆している。

健康のその他の指標がここでの結果と違うトレンドを示す可能性があるかもしれない。ここでの結果は健康の指標として寿命を選んだことによる産物である可能性もあり得る。過去には乳幼児の死亡と集団間の寿命格差に政策の焦点が絞られてきた。

(省略)

6. Conclusions

(省略)

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