2012年12月1日土曜日

Recent Trends in Top Income Shares in the USA

by Richard V. Burkhauser Shuaizhang Feng  Stephen P. Jenkins Jeff Larrimore

アブストラクト:所得格差研究の大部分は民間に公表される統計局のデータを元に行われるが、最近流行の内国歳入庁の納税申告データを元にした研究はそれと比較して高い水準の所得格差と上昇トレンドを示している。この二つのデータの不整合は統計局の内部データを用いることにより、さらに所得分布を同様の方法で定義すれば大部分解消されることを示す。1967-2006の統計局の内部データを用いることにより、Piketty and Saez (2003)により示された歳入庁データに基づく所得上位層の所得シェアの推計と一致させられることを示す。

Introduction

・民間に公表されるThe March Current Population Survey (CPS)データは所得格差のトレンドを研究する主要なデータとして用いられてきた
・これらのデータを元にした研究は所得格差は70年代と80年代に大幅上昇したが、90年代にはその速度はゆっくりとなっているというのがコンセンサスだった
・所得格差を研究するもうひとつのデータは納税申告から得られる
・Piketty and Saez (2003)は歳入庁のデータを用いた
・彼等の研究は納税データを用いた最初の研究となった
・彼等の主要な貢献は以前の研究と比べてずっと昔からの所得格差のトレンドを観察することができるというものだ
・納税データは他の統計よりもずっと昔にさかのぼって利用できる
・しかし彼等の研究は論争を巻き起こした
・Reynolds (2007)はPiketty and Saezの研究がこれまでの見方をいかに変えたかを議論し、そして彼等の結果を批判した
・統計局のデータとは対照的にPiketty and Saez (2003, 2008)は、上位所得層の所得シェアが90年代に上昇し、2000-2002年間の例外を除いて、その後も上昇していることを示した
・どうして二つのデータは違うのか?
・まず考えられる理由として、どちらかまたは両方のデータに欠点がある可能性が挙げられる
・統計局のデータにはトップコーディングと過少申告の問題があるという批判がある
・このデータを用いた場合、所得格差を誤計測する恐れがある
・IRSのデータも欠点がある
・納税申告は納税が最少になるよう申告する金銭的動機があり、申告行動は個人所得税率の変化に敏感だという批判がある
・最高税率の変化と所得申告ルールの変化に敏感ないくつもの所得操作戦略がある
・これらには所得を労働賃金か法人所得のどちらか税率が低いほうに付け替える戦略も含まれる
・または賃金報酬の替わりとして非課税の給付として受け取る可能性が考えられる
・報酬の繰り延べが行われる可能性も考えられる
・上位所得層は受取所得や申告所得を最も調整できる層なので、納税データは上位所得層の所得変動をつかめていないかもしれない
・Slemrod (1995) and Reynolds (2006)は1970年代からの税制の変化は上位所得層にSubchapter-C corporation profits(個人所得という形態では申告されていない)から、S-corporation profits and personal wage income(個人所得という形態で申告)へと申告所得を移し変える動機を与えたと指摘する
・納税データの使用は上位所得層の所得の上昇を過大評価させると指摘する
・Feenberg and Poterba (1993)はこの問題に関する初期の議論をしており、納税データで上位所得層の所得を計る難しさをまとめてある
・Piketty and Saez (2003)はこの問題を認識してはいるが、その効果は短期の問題であって彼等が焦点をあてているのは長期の傾向だという
・しかし短期の傾向に関心がある研究者にとっても、所得の時間シフトは報酬の繰延計画の時間枠に関連して問題となるかもしれない
・さらに、所得の時間シフトは短期にしか効果がないかもしれない一方で、労働賃金以外の方法で受け取った所得(非課税の給付、または前年には企業利益と申告されていた所得が労働賃金として申告)は個人所得税という形態で申告されることはなく、長期のトレンドに影響を与えるかもしれない
・他の問題点はそれぞれのデータの所得の定義の違いと所得の分布がどのように形成されるかにある
・CPSとIRSでは所得の定義に違いがある(前者は政府の移転と非課税の所得を含み、後者は含まない)
・単位の違い(納税者 vs 世帯とその中の個人)
・所得格差の定義の違い(上位所得層に限定するか vs ジニ係数のようなより広範な方法か)
・CPSとIRSのデータの橋渡しをした研究は今まで存在しなかったのでここではそれを試みる
・1967年からの所得格差のトレンドをPiketty and Saez(2003)の方法と所得分布の定義を用いてCPSの内部データに適用して調べてみた
・そうすることによって彼等の結果をほぼ再現できた
・結果は上位1%層を除いて、上位10%層で同一だった
・トレンドもわずかな違いしかなかった
・その上位1%層に関してもトレンドは大まかに捉えることができた
・1990年代の間の6年間に関してだけはデータの違いで説明できない乖離が生じた

Data

・我々は統計局の研究者が用いているCPSの内部データを用いて分析している
・これらのデータは一般に公開されるCPSのデータよりも上位所得層の所得をよく補足している
・回答者の匿名性を保持する為、統計局は個々の収入源を検閲している
・内部CPSを用いる利点はトップコーディングの適用率が極めて低いことだ
・例えば、内部データでは0.5%の所得源がトップコードされていたが、公表CPSデータでは4.6%だった
・このわずかな検閲でもバイアスを生むかもしれない
・この問題を修正するために多重代入法を用いる

(省略)

Methods: Three Definitions of the Income Distribution

・CPSに基づく研究とIRSに基づく研究では3つの違いがある
・第一に所得格差の計測方法だ
・その他の違いは所得分布の定義の違いだ
・CPSに基づく研究は所得をキャピタルゲインを除いた課税前移転後の所得と定義している
・この所得は世帯レベルで集計され等価尺度で割り引かれる
・世帯人数を調整した所得を個人に割り当てることにより個人間の所得分布を調査している
・IRSに基づく研究は納税申告された所得はすべて所得として定義している
・これは、給料、賃金、中小企業、事業所所得、組合、信託所得、配当、利子、賃料、ロイヤリティ等を含む
・最も大きな違いは納税データは移転所得を含まないことだ(課税所得に含まれず、納税申告もされない)
・それゆえにIRSのデータは個人の市場所得に近い(研究者にはなじみの深い課税前移転前所得)
・Piketty and Saez (2003)は世帯レベルではなく課税単位のレベルで所得を集計しており、課税単位のサイズの違いを調整しておらず、個人間というよりも課税単位間の分布を調査している
・この中で重要なのは、米国のすべての個人が納税しているわけではなく特に納税していない人たちは一般的に低所得層であることだ
・それゆえ上位10%の納税者の所得シェアの推計は非納税者が含まれる場合に比べて納税者の数を過少評価することになる
・全体の所得格差を計測するために、この潜在的納税申告者が含まれなければならない
・この問題を修正するため、Piketty and Saez (2003)は潜在的課税単位の数を推計している
・彼等は既婚の夫婦や、離婚、死別した個人、20歳以上のシングルを潜在的課税単位と定義している
・所得の定義や単位の分析は重要だ
・例えば、移転所得を所得に含めることは格差を縮小すると予想する
・さらに、費用を分担して生活費を下げる必要のある低所得者は大世帯で暮らす傾向がある
・それゆえ、世帯レベルで所得を集計することと、等価尺度で規模の経済を調整することは推計値を縮小させると予想する
・伝統的なCPSのデータは”CPS-Post-HH"とここでは仮に命名する
・IRSのデータは”CPS-Pre-TU”と命名する
・課税単位の識別子はCPSのデータに含まれていないので、ここではPiketty and Saezの手続きに従う
・CPS-Post-HHとCPS-Pre-TUの比較は上位所得層の所得シェアの違いがどのぐらい所得の定義の違いによるのか知るのに役立つ
・CPS-Pre-TUとPiketty-Saez(2003, 2008)の比較はその違いがどの程度データそのものの違いによるのか知るのに役立つ
・3つの系列の違いを強調するため、上位10%を3つのグループに分類した
・p90-p95グループ、p95-p99グループ、1%グループだ

Top Income Shares: IRS- and CPS-based Series Compared

・図1から図3に結果を掲載する(図1はp90-p95、図2はp95-p99、図3は1%グループ)
・3つの系列の中でCPS-Post-HHは最も低い
・ここで定義の違いを調整したらCPSとIRSからの推計値の違いは大幅に小さくなる
・p90-p95とp95-p99のグループの推計値はCPS Pre-TU seriesとPiketty-Saezのものでほとんど似通っている
・所得シェアの比較に加えて所得源の違いも調べてみる
・CPS Pre-TUではp90-p95グループの所得の85.1から89.3%は労働賃金から来ている
・IRSでは86.9から91.6%となっている
・p95-p99については、CPSでは74.8から85.7%の所得が労働賃金で、IRSでは73.3から84.4%となっている
・上位1%はどうか?
・これまでのグループと違い、定義の違いを調整した後でもまだギャップが残っている
・ギャップが他のグループに比べ大きくてもCPS Pre-TUとIRSの絶対値の差は相対的に見て小さいことは強調しておく必要がある(特に過去においては)
・1986年以前ではこの差は1、2%だった(後年に拡大するが)
・研究者にとってより関心があるのは水準よりもトレンドのほうだ
・CPS Pre-TUとPiketty-Saezもp90-p95とp95-p99グループに関しては1980年代より1990年代になってからペースが縮小している
・簡潔にいって上位1%の所得シェアに何が起こったのか?
・1986年以前では3つの系列とも驚くほど同一のトレンドを示していた
・表1に7つの期間に分割した上位1%の所得シェアの平均年間成長率を示す
・1970年代は低成長が続いていた
・系列に違いが現われだしたのは1986年の後だけだ
・初めの違いは1986-1988年に現れた
・Piketty-Saezでは22.1%もの上昇を示した一方で、CPS-Pre-TUでは穏やかな2.0%の上昇だった
・1988-1992年の間、Piketty-Saezでは0.6%の成長だったのに対してCPS-Post-HHではほぼ0だった
・CPS-Pre-TUでは0.2%だった
・1986-1988の例外を除いて、1967-1992間のトレンドは定義が統一されればほとんど同一だった
・1992-1993の間にトレンドはまた乖離した
・CPSは40%上昇したがIRSは4.9%下がった
・だがIRSのデータが下がったのはこの期間だけだ
・1993-2000の間、IRSは4.1%のペースで上昇した(1980年代の2倍)
・CPS-Pre-TUは1980年代より低い1.5%のペースだった
・2000-2006の間は再びトレンドは収束した
・過去40年の大部分に関して、トレンドは同一だった
・例外は1986-1988、1992-1993、1993-2000の間だけだった

Explaining the differences in trends in the share of the top 1 percent

・この3つの期間に何が起こったのか?
・最初の2つに関してはよく知られたIRSのデータの制約とCPSのデータの制約に関するものだと考えている
・1986-1988に関して、所得の実質的な変化ではなく税制の変化の反映を示していると思う
・1986年の税制の改定は申告所得をSubchapter-C corporationsからSubchapter-S income and wage incomeへと切り替える多大な動機を与えた
・税制の変更は所得の申告のされ方に影響を与え、観測された所得シェアの上昇をもたらした
・Slemrod(1996) and Reynolds (2006)がこの件に関して詳細に報告している
・Feenberg and Poterba (1993)は税制データを用いることの問題点をより一般的に議論している
・Piketty and Saez (2003)はこの可能性を認識していたが、所得シェアの長期のトレンドに関心があるとして詳細に踏み込まなかった(というか無視した)
・1992-1993の変化はCPSのデザインの根本的変化を反映している
・三年間で、統計局は紙ベースのデータ収集からコンピューターによる収集を含む多くの変更を行った
・この変更により特に上位所得層の所得を記録する能力が高まった
・CPSに関して、この変更でこの間の上位1%の40%の所得シェアの上昇を説明できると思う
・IRSではこの期間の上昇ははるかに穏やかだった
・1993–2000はどうか?
・この間に税制の変更があった
・ストックオプションが課税所得として申告が求められるようになった
・この考えによると、上位1%の所得シェアは観察されていたよりも以前から高かったことになる(Piketty-Saez and CPS-Pre-TU seriesで大きな乖離があったことを暗示する)
・さらに、この二つの系列に基づくトレンドは元から同様で、90年代の納税データの急激な上昇は税制の変更の反映ということになる
・その他の説明として、税金を繰り延べできる貯蓄勘定(401k plans, Keogh plans and IRA tax shelters)の使用の急激な増加がある
・分母の所得を小さく見せるので、上位1%の所得シェアの上昇の部分的説明になるかもしれない
・この説は我々が示したp90–p95 and p95–p99の所得シェアの動きとも整合的だ

Income inequality trends using Gini coefficients

・表4にCPS Post-HHに基づくジニ指数とCPS Pre-TUに基づくジニ指数を示す
・所得の定義と所得単位が無関係なら、両者の系列でジニ指数は同様の水準とトレンドを示すはずだ
・実際には、移転前-課税単位のデータを用いるとジニ指数はかなり高くなる
・移転後-世帯所得を用いた場合、ジニ指数の推計は1968の0.35から2006の0.46となる
・移転前-課税所得に切り替えると、1968の0.47から2006の0.59と30~40%高くなる
・結果が変わるのには二つの理由がある
・第一に、課税単位では両親と暮らす成人した子供や家族から支援を受けているが所得を持たない個人を独立していると数える
・その結果、所得を持たない人口の割合が課税単位を用いた場合、世帯を考慮する場合に比べてはるかに高くなる
・計測される所得格差も大きくなる
・第二に、移転所得は低所得層が大部分受け取る
・移転所得を無視すると低所得層の所得を小さく見積もることになる
・これらは上位1%の所得シェアの計測に影響を与える
・世帯所得と課税単位所得の所得格差の違いはジニ指数を用いた方が大きい
・ジニ指数は所得分布全体の所得格差の情報を反映するからだ
・移転所得はジニ指数のような指標に大きな影響がある

Comparing income inequality trends using Gini coefficients and top income shares

・最後に、指数の選択が所得格差の計測に影響を与えるのかどうか調べる
・表2に3つの指数を用いた所得格差の平均年間上昇率を1967年から現在までを7つの期間に区切ったものと、全40年間のものとにわけて掲載する
・2つの所得系列を見ると、40年間で区切ったものは、上位1%の所得シェアはジニ指数よりも速い上昇を見せる
・だが、この上昇は1992年と1993年の集計方法の変更が大きな要因となっている
・7つの期間に分割すると、結果はばらばらになる
・CPS Post-HHを用いた場合、上位1%の所得シェアの上昇率は平均1.6%で、ジニ指数は0.2%となる
・CPS Pre-TUを用い場合はそれぞれ、平均1.5%と0%となる
・この結果はなぜIRSを用いた研究は90年代にも所得格差の上昇を報告し、CPSを用いた研究はそうでなかったのかの説明になる
・所得分布全体の所得格差に関心がある研究者にとって、90年代の所得格差の上昇は80年代に比べて劇的に減少した
・上位所得層の所得シェアに関心がある研究者にとって、上昇が減少したとは言えなかった

Summary and Conclusions

(省略)




一番下の線が単位が世帯で所得の移転を考慮した(ジニ係数などによく用いられる)場合の所得シェア。1992-1993の上昇はデータ収集の方法の変更を反映していると思われる。ここで最も重要なのはPiketty and Saezでは見られる1986から1988の上位1%の所得シェアの大幅な上昇がCPSの内部データではまったくといっていいほど見られないということだ。これはPiketty and Saezにとっては完全に致命的だ。


同様に1992-1993の上昇はデータ収集の変更の反映と思われる。



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