2012年12月23日日曜日

Measuring the Impact of Health Insurance on Levels and Trends in Inequality and How
Health Reform Could Affect Them

by Richard V. Burkhauser Kosali Simon

Introduction

アメリカの所得とその分布の水準とトレンドを調査するのに最もよく用いられるのはCPSだ。統計局は前年の中央世帯の課税前現金所得(政府と民間からの所得源)とこの所得がどのように分布しているのかを毎年報告している。CPSを用いる統計局外の多くの研究者はこの現金所得に注目している。数少ない例外を除いてこれらの研究は非賃金報酬の重要性を考慮していない。(所得の研究と)類似の賃金の研究でもCPSを賃金とその分布の水準とトレンドを計測するのに用いている。賃金格差の研究では単に個人の賃金の違いを比較するだけでその個人の世帯に他の稼ぎ手がいるかどうかは考慮しない(市場での様々な種類の労働者への報酬に主に焦点を絞っているため)。だが所得格差の研究と違い、数少ないけれども重要な研究が賃金格差の研究では行われてきた。賃金報酬にのみ焦点を絞ることは個人に支払われる報酬を過小評価するのみでなくその水準と分布にも影響を与えることを認識した研究だ(Pierce 2001, 2007)。

ここでは賃金格差の研究から得られた考察を非賃金報酬の最も重要な部分を占める医療保険の雇用主負担分(無償の非賃金報酬の32%を占め、非賃金報酬全体の22%を占める)に焦点を絞ることにより所得格差の研究に適用する。家計が利用できる資源としての医療保険の重要性を整合的に示すために雇用主の提供する保険と政府が提供する保険が家計の所得とその分布に与える影響をともに考慮する。

以下の手順が用いられる。

1.医療保険の雇用主負担を従来の課税前移転後所得に加えたより広い範囲の所得を推計する。重要なのは雇用主が負担する保険の事前の費用を家計が受け取った価値として用いることであって家計が医療サービスに用いた事後の医療費支払いではないことだ。

2.所得の水準と分布を示す従来の方法が非賃金報酬の等価所得価値の付加に対してどのように影響を受けるかを示す。我々が注目しているのは世帯人数調整後の個人所得だ。人口全体を調べるとともに各年齢ごとの集団も調べる。全体の人口を4つの年齢に分類する。0歳から17歳(子供)、18歳から24歳(青年)、25歳から61歳(労働人口)、62歳以上(引退人口)だ。

3.従来の方法が公的保険の等価所得価値の付加に対してどのように影響を受けるかを示す。

4.課税前移転後世帯人数調整後の所得格差が1995-2008の期間にどのように変化したかをこの広い範囲の所得の定義を用いて調べる。

5.この方法を用いて現在議論されている医療保険改革が所得の水準と分布に与える影響を示す。

Related Studies

いくつかの研究が労働報酬の測定に付加給付を含めることの重要性を認識していた。Pierce (2001, 2007)はEmployment Cost Index (ECI)を用いて付加給付に対する雇用主負担が含められた場合に労働報酬の水準とトレンドがどのように変化するかを考察した。Chung (2003)はこの考察をECIからのデータをCPSのデータに統合することにより拡張した。Levy (2006)は性別と人種による賃金格差が医療保険の付加によりどのように影響を受けるかを調べ、性別の賃金格差は縮小する一方、人種間の賃金格差は大きくは変化しなかったことを示した。これらの研究はいずれも従業員に対する雇用主負担に焦点を絞っており報酬の付加が所得分布全体に与える影響を示していない。労働者は家族や世帯員と住み賃金を彼等と共に使うので非賃金報酬の付加が全体の所得分布に与える影響を示すためには世帯人数の組み合わせを考慮し医療保険が与える影響を把握する必要がある。

医療保険の雇用主負担かメディケア、メディケイドを所得の測定に含める研究がわずかしかなかった一方で統計局は独自にこれらの値を推計して1995以降公表を行っている。統計局は民間の医療保険の事前の保険価額を推計し、さらにメディケアやメディケイドの保険価額を推計している。民間の医療保険の場合と違い統計局はメディケア、メディケイドの低所得層に対する事前の保険価額部分しか勘定に入れていない。

我々は民間の医療保険の雇用主に掛かる費用をメディケア、メディケイドに掛かる費用と同様の方法で推計することを試みる。この推計が保険の概念になるべく沿うように行う必要がある。我々はこの事前価額を加入者全員に割り当てるので、保険料を支払ったものの事後に医療を受けなかった場合にゼロを割り当てるという計算は行わない。ただしメディケア、メディケイドを通して医療保険を提供された低所得世帯に対してはゼロを割り当てる。

Method and Data

外部の情報源から医療保険に対する雇用主負担分と政府の医療保険の事前価額を帰属させなければならない。その後にこれらの値を両方のデータに含まれる属性を用いてCPSのデータと照合させる。雇用主負担に関するデータはMedical Expenditure Panel Survey Insurance Component (MEPSIC)を用いる。この調査は統計局により実施されAgency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)から資金が提供されている。これは1996以降毎年実施されていて最も新しいデータは2008のものを含む。

Results

統計局は世帯所得の中央値を毎年公表している。図1に1995-2008の期間に関して再現したものを示す。所得中央値は1990年代に増加し2000にピークをつけた後2004まで下落しその後は2007まで上昇している。だが2007まで課税前移転後所得中央値は2000のピークまで戻っていない。推計した医療保険の価額を含めて再計算した場合には驚くべきことではないが所得中央値はすべての年度で高くなる。注目に値するのはこの期間に渡って雇用主負担は増加しているので賃金の下落をある程度相殺していることだ。図1とAppendixの表1に示すように所得中央値は増加していて2008の所得中央値は2000のそれを上回っている。


図1に医療保険の付加が平均的な世帯にどのような影響を与えるかを示す。次の表で医療保険が世帯人数調整後の所得の分布に与える影響を示す。表1に2008時点での所得の分布を示す。最後の列に総価値を示す。行1にあるように平均所得は最上位層の1361万円から最下層の56万円まで分布している(1ドル=100円で計算)。全体の平均所得は446万円だ。次の4つの行に民間の医療保険とメディケイド、メディケア、そしてその和の平均値を階層毎に示す。最後の2つの行に所得と医療保険の和の中央値、さらに医療保険が全体に占める割合を示す。医療保険が(世帯人数調整後)全世帯所得に占める割合はわずか9.93%しかないが低所得層の所得に占める割合はこれより大きい。

所得分布の変化と医療保険の与える影響を把握するために表2aに1995(列1)の所得分布と2008(列2)の所得分布を示す。表1と同様にこの計算はそれらに課税前移転後世帯所得を割り当てることによりなされる。最後の行に全世帯の平均を示す。列3に階層毎の平均所得の変化を示す。一番下の階層を除いたすべての階層の平均所得はほぼ同率で増加したことを示す。次の3つの列では同様の計算を今度は所得に医療保険の価額を加えて行っている。結果は大幅に変化した。この所得の定義では下から3つの階層の所得が他の階層の所得よりも明らかに速く増加した。最後の2つの列に民間と政府の医療保険の価額の増加を示す。医療保険は低所得層の所得のポートフォリオの一部分として急激に増加している。表2aに医療保険の価額の増加が低所得層の相対的な所得の増加の理由であることを示す。表2bに表2aで示したパーセンタイル比の変化を示す。


(%Change in Incomeと%Change in Total Incomeに注目して欲しい。左側では第一階層を除いてほぼ同率の増加率なのに対して右側では低所得層の方が増加率が高い。)

前の4つの表は所得の水準とその14年間の変化を所得格差とその変化を計測する手段として用いた。表5では所得格差の研究で最もよく用いられるジニ係数に焦点をあてる。さらに4つの年齢階層毎のジニ係数も調べる。

賃金格差の研究ではよくp90/p10が用いられるがBurkhauser, Feng, and Jenkins (2009)で論じたようにトップコードの問題が取り除かれればジニ係数や他の指数を所得格差の研究に用いることができる。(注 ここでは示していない)表にp90/p10、p90/p50、p50/p10、p75/p25も示してある。

表5の列1に1995-2008の期間の全世帯の課税前移転後所得のジニ係数を示す。この期間に所得格差はゆっくりと増加し2006にピークをつけた後、2007に減少し2008に再び増加している。列2に民間の医療保険の付加がすべての年度の所得格差を減少させることを示す。この結果は表1の列2で示した結果と一致する。民間の医療保険の付加が所得格差のトレンドに与えた影響を識別することは困難だ。列3に民間の医療保険を加えずメディケイドのみを加えた場合にもすべての年度で所得格差が減少することを示す。この減少の大きさは民間の医療保険の場合と大体等しい。列4に同様にメディケアの付加がすべての年度で所得格差を減少させることを示す。減少の大きさはメディケイド、民間の医療保険の場合よりも大きい。最後の列にすべての医療保険を加えた場合の所得格差に与える影響を示す。


(ここではTotal Incomeに注目して欲しい。1995と2008でほとんど変化がない。さらに水準自体もIncomeに比べて低い。)

Discussion and Conclusion

我々は民間の医療保険の付加が所得中央値の水準を増加させるだけでなく2000のピークを超えていることをまず示した。所得の改善と所得格差の減少は階層平均やジニ係数でも見られた。民間の医療保険の付加は所得格差を減少させるとともに計測された所得格差の増加自体も減少させた。メディケア、メディケイドが加えられた場合には効果はより大きくなる。表6で示したようにすべての医療保険が加えられた場合に所得格差は大きく減少し1995-2008の期間に増加した所得格差の増加のすべてを打ち消している。

0 件のコメント:

コメントを投稿