2015年1月13日火曜日

「大きな政府(増税)が経済成長にとって有害ではないというのは経済学者の間でコンセンサスになっている」というのは一体何だったのか?Part2

Tax Increases and Behavioral Responses

by Arpit Gupta

昨日、上院の共和党は迫る減税の期限切れへの対応と債務上限引き上げの承認に関する論争に決着がつくまではあらゆる審議に応じないと表明した。幾人かはこれを議事妨害と見做す可能性はあるが、これら2つの議案が持つ重要性は決して見過ごすことが出来ない。それに議論の時間がわずか数週間では短すぎる。減税の期限切れの議論だけを考えてみても、提案されている増税がもたらすすべての影響を(特に経済に与える影響を)考慮することが重要だ。

ブッシュ減税の期限切れに関して、オバマ政権の提案しているほとんど大部分の減税の延長案に注目が集まっている。この案では、所得が(*1ドル=100円として計算)2000万円以上の個人(夫婦で2500万円以上)の限界税率は高くなる。納税上位1%が連邦政府の個人所得税収の3分の1以上を負担しているのでこのグループの増税に対する反応を理解することは特に重要だ。

このグループに対する減税の延長に反対する理由として、オバマ政権は「富裕層」に高価な「贈り物」をしている余裕などないとしている。すべての減税の延長を支持する共和党は、富裕層のものとされている所得は実際には中小企業の事業所得で不況期での増税は回復を遅らせると主張している。

だが、どちらの側も所得の高い世帯が増税にどのように反応するのかという議論を避けている。税と行動の間に強い関連があるならば、高額所得者への減税の失効は高い代償を伴うだろう。数多くの学術的研究がそれが実際に起こることだと示唆している。

Elasticity of Taxable Income

増税は様々な行動的反応を引き起こす。人々は労働時間を減少させたり、給料の低い仕事に就いたり、または労働市場から完全に退出するかもしれない。長期では、人々は(さらなる教育を求めるなどの)将来の所得を増加させる為の投資を避けるかもしれない。この投資に対する報酬を税が低下させるからだ(税引き後の所得の低下という形で)。これらの反応はすべて経済効率を低下させる。他にも、人々は納税負担を少なくさせるために所得の申告方法を変更するかもしれない。例えば、より控除を受けられるような経済活動を積極的に行うことなどにより。それらの活動は必ずしも経済産出を低下させるとは限らないかもしれないが、政府が受け取る税収を低下させる。

経済学者は増税が経済効率と申告所得の両方に影響を与えることに同意しているものの、その定量的影響を完全に把握することは難しい。この効果を計算するに際して、経済学者はあるパラメータの重要性を強調する。それが課税所得の弾力性(ETI)だ。このパラメータは限界税率の上昇に対して人々の課税所得がどのように変化したかを示している。課税が個人の行動に影響を与えるその特定の経路を特定する必要なく(課税の影響を)分析することを可能にするので魅力的だ。

例えば、納税者達が10兆円の所得を稼いだと仮定する。この所得には35%の税率が掛かったとする。人々が増税に対してまったく反応を見せなければ増税の影響を分析することはシンプルなものになるだろう。40%への限界税率の引き上げにより税収は機械的に5000億円増える。人々が増税に対してその申告所得を変化させれば増税を行っても税収の増分は小さくなる。ETIを0.40だとすると、税収の増分は最初の例の3分の2の3300億円になる。ETIを0.80だとすると、増分はわずか1500億円になる。

ETIにはその他の計算にも有用だ。例えばETIを0.40だとすると、税収を最大化する税率(ラッファーカーブの頂点に対応する)は61%になる。ETIを0.80だとすると、44%になる。これらの値よりも高い税率では税率を引き下げることでしか税収を上げることは出来なくなる。

その他の有益な使用方法は、課税の限界超過負担を調べる時だ。それは課税の追加の費用と考えることが出来るだろう。そして(支出の)便益に対してバランスしなければならない。あるプログラムの支払いのために増税を行うのであれば、そのプログラムの便益が増税の費用を上回っていると主張しなければならない。ETIが0.40だとすると、高額所得者への1万円の増税は5300円の限界負担に対応する。ETIが0.80だとすると、限界負担は2万2200円になる。

課税の影響は政府の支出プログラムに大きく関連する。法定税率が税収最大化税率を超えていれば、政府は税率を引き下げることでしか税収を集めることが出来なくなる。だが仮に税率が税収最大化税率を下回っていたとしても、増税を避けるべき良い理由がある。例えば、(課税の限界費用が大きい)ETIが0.80の時の税収最大化税率44%は現在の連邦政府の所得税の最高限界税率35%と比べてそれほど高い訳ではない。税率をラッファーカーブの頂点に設定することにより税収は最大化されるが、限界税率をその水準以下に設定するほうが望ましい。税率が税収最大化税率に近づくに連れて、課税の限界費用は際限なく大きくなる。

Responsiveness of High Income Individuals

限界税率の引き上げの影響は行動的反応の大きさに依存する。増税に対して人々が行動をより大きく変化させるほど、経済全体の損失は大きくなる。反応性が高いほど、増税は経済成長に悪影響を与え政府が受け取る税収も少なくなる。

だが、その反応性は個々人で一定なのではない。特に、富裕層は様々な理由により増税に強く反応する。項目別控除などの各種の非課税措置を利用しやすいのがその理由の一つだ。富裕層はそもそも元から高い限界税率に直面しているので、さらなる増税は彼らに集中的に損害を与える。Alan Viardが説明しているように、

「納税者は課税所得を変更することが出来るという事実は所得課税が非効率であるということを示している。課税が経済的負担を課していることを意味している。その非効率性は限界税率に依存する。さらにその非効率性は限界税率に対して級数的に増加し、大まかに言って限界税率が2倍になると4倍になる」。

数多くの研究が富裕層の課税所得がより強く反応していることを文書に残しているし、その大きさを定量的に分析している。

Emmanuel Saez and Jonathan Gruberはその内の一つだ。彼らは全体のETIは0.40だが、所得が1000万円以上(*1992の1ドルを100円として)の個人は0.57だと報告している。項目別控除を申請している個人にいたっては0.66とさらに高い。

その他の推計値も以下の表にまとめてある。

推計値は研究毎に異なるものの、高額所得者への課税が経済に対して大きな損失を与えるという点ではすべての研究が一致している。高額所得者の弾力性は(その弾力性がはるかに大きいであろう)超富裕層を除くと平均して0.50から0.60の間にある傾向がある。それらの値は課税への反応により、期待させる税収の増分の半分以上が失われることを意味する。また、メディケア、法人税、州税と地方税も考慮すれば現在の税率が税収を最大化する税率からそれほど離れていないということも意味する。

これらの研究は現在参照可能なものとしては優良だが、(両方の方向に)潜在的なバイアスを抱えているという点で問題がある。

上方バイアス:前述の研究はすべて、個人所得の申告所得を課税所得として用いている。だが、高額所得者は所得の申告方法を変える選択肢を持っている。例えば、医者は増税に対して法人の形で仕事を行うことにより対応するかもしれない。結果として個人所得としての課税所得は減少するが、法人所得は増加しそして法人所得税として支払う。それ故個人の課税所得だけを見ているのでは、(課税所得の形態の変更であった場合)実際の行動的反応を過大に見積もってしまう。この問題を修正するために、上述の表にある別の列では申告所得の変化の半分は税の申告方法の変更であると仮定してさらにこの所得に30%の税率が掛かるとして結果を計算している。

下方バイアス:前述の推計で把握されていない行動の変化は他にも数多くある。

例えば、個人が仕事、余暇、消費の形態を変えるだけの時間がある長期では課税に対する反応ははるかに大きくなるかもしれない。事業家は増税に対してすぐには事業を止めないかもしれないが早めに引退することを選ぶかもしれない。これまでに紹介した研究は短期や長くても中期のみを対象としたものだった。それ故、長期の影響を把握できていない。

これまでよりわずかに長めの期間の効果を推計しようと試みた研究の一つがAuten, Carroll, and Geeだ。ブッシュ減税への反応を対象として2000から2005のデータに基いて全体のETIを0.67と彼らは推計している。この値は過去の推計よりも大きく、そして高額所得者の反応はさらに大きいだろう。この反応は所得の全般的な増加からも生じる可能性が(*少し)あるので、すべてをブッシュ減税の影響と見做すことは出来ない。だが、この研究は課税の長期の影響が大きなものであるかもしれないことを示している。

反応が大きなものであることを示す他の例として、高額所得者が納める税金の劇的なまでの増加が挙げられる。James Poterba and Daniel Feenbergが指摘しているように、申告所得の急増は80年代に始まった最高限界税率の大幅な引き下げと一致している。


(*もちろん偶然という可能性は完全には排除しきれないにしても、この見事なまでのタイミングの一致に対して、格差が拡大していると主張している経済学者がまともな反論を行ったことは一度もない)

「この高額所得者の申告所得の急増には複数の要因があると思われる。だが、申告所得と最高限界税率との強い結びつきは税制の変化がこの結果の大部分を生み出していることを示唆している。これらの結果は高額所得者が税率の変化に対して極めて敏感であることを示したこれまでに引用した研究と整合的だ」。

Institutional Factors

税の影響は課税の対象となる個人に限定されるのではない。課税は労働と余暇のトレードオフに関するもっと広い社会的選択にも影響を与える。これらの社会全体のマクロ経済学的効果を評価するため、ある研究者はアメリカとヨーロッパの差を指摘している。アメリカの税率はヨーロッパより低く、そしてその所得水準はヨーロッパよりはるかに高い。この所得水準の差に基いてETIを推計すればその値は極めて高くなり、課税に対する反応は極めて大きくそして現在の経済学の研究では把握できていない経路を通してであることが指摘できる。

アメリカとヨーロッパの所得格差がすべて税によるものかどうかは分からない。他にも幾つかの要因がある。だが、アメリカとヨーロッパの所得水準の差は課税に対する反応が極めて大きいことを示唆している。

課税に対する反応をもっと柔軟に把握しようとした研究者の1人がRaj Chettyだ。デンマークの納税記録から得た証拠を調べた論文の中でChettyらは、ここで紹介した過去の論文は職についてからの個人の反応しか取り扱っていなかったことを強調する。だが長期では、増税は企業が提示して従業員が受け入れる職の種類にも影響を与える。政府の政策は個人の選択だけでなく社会的な規範や制度にも影響を与える。

サーチ費用の存在は短期ではこれらの効果を弱めるかもしれない。だが時間が経つに連れ、課税に対する反応は大きくなっていくだろう。それにより、初めは少ない人数だけに影響していた課税が最終的には大多数の労働者に影響を与える経路も生まれる。

別の論文の中で、Chettyは短期の反応に影響する可能性のある摩擦に関して考察している。新しい税制に対応するための費用が存在する他、個人が税の変化を完全に理解できていない可能性もある。彼は摩擦を組み込んだ新しい方法で課税に対する反応を推計した。その結果、国民全体のETIは0.50となりこれまでの推計よりも高い値となった。高額所得者の税に対する反応はさらに大きいだろう。

Conclusion

(省略)

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