What Is the Evidence on Taxes and Growth?
by William McBride
Introduction
課税が経済成長に影響を与えるかどうかが政治的係争となり、メディアなどの間で論争となっている。論争となっている原因は、何が経済成長をもたらすのかに関して幾つかの理論が対立しているためだ。幾人かは需要側の要因を挙げ、他は供給側の要因を挙げる。またはこの2つの組み合わせを挙げるか、まったく異なる独自の理論を挙げるものもいる。事実から、この論争に対する何らかの手掛かりが得られるはずだ。だが、経済は複雑なためどのような理論であってもデータの中に何らかの根拠を見出すことが出来るだろう。
例えばCongressional Research Service(CRS)は、税が経済成長に対してまったく影響を与えないという主張の根拠とするものをアメリカの第二次世界大戦後の歴史と法定最高限界税率の劇的な変動の中に見出した。彼らは最高税率が90%以上だった1950年代の成長率が最も高かったと主張した。だが、彼らはこの手の分析を行う上で重要な最も基本的な問題を無視している。例えば、税率が適用される課税ベースの変動の問題、特に法人税などのその他の税の変化の問題、課税の短期と長期の影響を識別する問題、経済成長が逆に税率に影響を与える問題などだ。これらの問題は経済学会ではよく知られていて様々な方法により取り扱われている。そういう事情があるのでCRSの研究は経済学の査読誌ではまったく相手にされないものとなっている。
では、経済学の査読誌では税と経済成長の関係に関して何と言っているのだろうか?方法とデータ元に関して色々と違いがあるものの、様々なその他の要因(例えば政府支出、景気循環、金融政策など)を制御した後でも、一貫して有意な負の影響があることを結果は示している。過去の研究を調べ直す中で、1983以降の26の研究のうち3つを除くすべてがさらに過去15年間の研究すべてが課税の負の影響を示していることを発見した。税の種類を区別している研究の中では、法人所得税が最も有害で次に所得税、消費税、財産税となった。
これらの結果は新古典派の考えを支持している。それは所得と資産が初めに生み出されそして消費されるので生産要素への課税(資本と労働)は富の形成に有害という考えだ。法人と株主への課税は投資して資本を形成するインセンティブを低下させる。投資の減少は雇用の減少を意味し対応して賃金も低下する。所得や賃金への課税は労働のインセンティブを低下させる。累進的な所得課税は教育からの報酬を低下させる。人的資本を形成するインセンティブを低下させるためだ。累進的な課税は投資的、リスク選好的、起業的活動をも低下させる。これら活動の大部分を高額所得者が行っているからだ。
これらの要素のうち幾つか(特に人的、物的資本の形成)は長期的メカニズムによるものだ。これら研究の多くは(5年かそれ以上の)長期の影響を調査の対象としている。だが同時に短期の影響も調べているものが多くある。短期の影響(税の需要側への影響)は長期のものほどは頑健ではなく説得的ではない。恐らく、短期の要因を識別することと出来事を揃わせることの困難さが原因だろう。だが、長期の(供給側の)影響が以前に考えられていたよりも早く(例えば政策の変更から数年以内に)現れることを示した研究が幾つかある。
いずれにしても、経済学の研究から言えることは長期の経済成長は税制から大きな影響を受けるということだ。現在の不況は多くの要因が絡んでいるが工業国の中で最も高い法人税は助けにはならない。株主や労働者に増税を課すような提案も同様だ。投資を加速させたいのであれば資本に対する税率を低めなければならない。雇用を増加させたいのであれば労働者と彼らを雇う企業への税率を低めなければならない。
Literature Review
経済学の査読誌に掲載されたほとんどすべての研究が、増税が経済成長に有害であることを発見している。ここでは、1983以降の26の研究を調査し表1に示した。それらのうち3つを除くすべてが、そして過去15年間のすべての研究が負の影響を発見している。表には、各研究の発見の概要が示してある。そして最も最近の最も影響力のある研究を以下でより詳細に紹介する。
最近の研究の多くは税の種類を区別している。この例外がDavid and Christina Romerで、彼らは第二次大戦以降の連邦税負担全体がGDPに占める割合を指標に用いている。彼らは税制の変更に関する大統領演説、議会記録などの叙述的記録を分析し、財政赤字を削減するための目的、長期の経済成長を促すための目的などの「税ショック」を識別することを試みた。分析から経済の変化の結果であるような税制の変化(景気刺激が目的であったり、政府支出に結びついているようなものであったり)を除くことにより統計的問題を最小化することをこの技法は可能にしている。彼らはすべての税制の変更を一緒くたに取り扱っていた以前の研究と比べてはるかに大きな税の負の影響を発見した。彼らは例えばGDPの1%の増税は約2年後の実質GDPを約3%低下させることを発見した。最大の効果は経済成長を促進することを企図した税制の変更からでそしてその主な経路は投資だった。これらの結果は、経済の状態、金融政策、政府支出の動向などを制御した様々な特定化に対して頑健だった(*ただし頭が完全におかしくなる前のIMFから効果の大きさに関して少し反論があった)。
その他の種類の研究は財政再建の試みの事例と景気刺激の事例を調べその過程で、税制がどのように経済成長に影響を与えるかを推計している。Alesina and Ardagnaは1970から2006の間にOECD加盟国で発生したそのような事例を大規模に調べた。彼らは減税に基づく景気刺激は財政支出の増加に基づくものと比べて成長率を上昇させることを発見した。さらに彼らは政府支出の削減と増税なしに基づく財政再建の試みの方が増税に基づく財政再建の試みよりも財政赤字と債務の削減に成功しやすく不況に陥りにくいことも発見した。同様にIMFも過去30年間の15ヶ国に渡る170の財政再建の試みの事例を調べ政府支出の削減の方が増税よりもダメージが小さいことを発見した。IMFは例えば1%の政府支出の削減は経済成長に対して有意な影響を与えないが1%の増税は2年後のGDPを1.3%低下させていたと報告した。Goldman Sachsやその他の研究も同様の結論に達している。
幾つかの研究はアメリカの州の税と経済成長のデータを調べている。その中で最も完全で最も頑健なものがReedのものだ。彼は5年の期間で平均したパネルデータを用いた。そして税の負担と経済成長に頑健な負の関係があることを示した。さらに彼はこの結果が「同時期の」税負担の変化(5年の期間の)と税負担の初期水準の両方に対して頑健であることも発見している。同じ定式化の下で年次データを用いた場合には、同時点での効果は正で前期4年間での税負担の変化の効果はすべて負だった。彼は州のレベルで年次データを用いるには測定誤差とラグの問題があり、税と経済成長の間にある頑健な関係を発見することを妨げるかもしれないと議論している。
「私の分析は、税の効果が完全に現れるには時間が掛かることを示唆している。これらの効果を拾い上げることが出来るぐらい定式化が一般的なものであれば、税と経済成長の間に負の関係が現れることが見て取れる」。
彼の研究は数多くの頑健性テストを備えた完全な分析だ。だが、税の負担の中に連邦税が含まれていない。その負担は州税と地方税の2倍ぐらい大きい。さらにその負担は極めて累進的なので所得が高い州の納税者は所得の低い州の納税者に比べてはるかに大きな負担に直面する。
先に述べたように、最近の研究の多くは税の種類を区別するようになっている。法人と株主への税は主に投資と資本の形成に影響を与えると考えられ、所得税は家計の労働と貯蓄さらに非法人事業主の投資に影響を与えると考えられる。売上税などの消費税は労働と資本の供給に等しい大きさの影響を与える。法人税と所得税が労働と資本に与える影響の大きさは等しくない。将来の消費に対する二重課税であるためだ。これらの研究は法人税と所得税が最も有害で次に消費税と財産税が有害であることを一般的に示している。
Mertens and Ravnはローマー型の叙述的分析(*俗にいうナラティブ・アプローチ)を戦後のアメリカの税制の変更に対して行い、さらに(*ローマーらとは異なり)所得税と法人税を区別した。彼らは所得税の減税により税収は減少するもののGDPは(法人税と比べて)即座に急増すること、法人税の減税は長期で経済成長を生み出し課税ベースを拡大させることにより税収が不変となることを発見した。例えば、彼らは1%の所得税の平均税率の引き下げが1四半期後の一人あたり実質GDPを1.4%、3四半期後には1.8%増加させることを発見した。さらに1%の法人税の平均税率の引き下げが1四半期後の一人あたり実質GDPを0.4%、1年後には0.6%増加させることを発見した。実際には法人税の影響は税収1ドルあたりで見れば所得税よりも大きい。法人税の税収は所得税の4分の1だからだ。乗数という意味で言えば、彼らの推計した税の乗数は他のほとんどの研究の支出乗数よりもはるかに大きい。
OECDと協同した経済学者は最も有害な税のランク付けを行った。彼らは、法人税が最も有害で次に所得税、消費税、財産税(法人でなく家計に課税した場合)であるとした。彼らは1971から2004の21のOECD加盟国を調べ、そして経済成長に影響すると思われる様々な要因(物的、人的資本の蓄積、人口成長、時間や国固有の要因)を制御した。さらに各国の全体の税負担もGDPに占める割合として制御した。これにより税収、支出が中立の下での各種の税の影響をそれぞれの税が税収に占める割合に基いて識別することが可能になった。彼らは例えば所得税(法人所得税、個人所得税の両方)から消費税、財産税に1%の税収をシフトさせることにより長期の一人あたりGDPが0.25%から1%の間で増加するだろうことを示した(*これまでpersonal income taxを所得税と訳してきたがここでは不都合が生じたので個人所得税とする)。さらに彼らは所得税の累進性が経済成長を低下させることも発見した。さらに各産業レベル、各企業レベルでの投資と生産性の成長を見ることによりこれまでの結果をさらに支持する証拠を発見した。彼らは法人税(法定税率、実効税率ともに)投資と生産性の成長を低下させることを発見した。さらに彼らは所得税の最高税率の引き上げは生産性の成長を低下させることも発見した。それに加えて「所得税の最高税率の引き下げは潜在的に起業の率の高い産業の生産性を上昇させる。従って、所得税の最高税率の引き下げはOECD加盟国の中でそのような産業のシェアが高い国の経済全体の生産性を高めることに貢献するかもしれない」とコメントしている。アメリカは起業と非法人による事業が大きなシェアを占める国だ。
Barro and Redlickは1912から2006までの平均限界所得税率(AMTR)を作成した。それには連邦と州の所得税、それに雇用主と従業員の給与税も含まれている。これを計算するに際して、彼らはIRSのデータやNBERのTAXSIMなどを参考にした。彼らはAMTRの変化が翌年の一人あたりGDP成長に与える影響を防衛支出の変化、失業率、信用市場の状態などを制御して推計を行った。彼らは例えば1%ポイントの平均限界税率の減税が翌年の一人あたりGDPを0.5%増加させることを発見した。乗数の意味で言えば、税の乗数が-1.1(*符号がマイナスなのは税負担↓の効果がGDP↑だから)である一方、防衛支出の乗数は0.4から0.8の間であることを意味する。これは財源が増税で賄われる防衛支出はGDPを低下させることを意味する。
Lee and Gordonは1980から1997の期間の70の国を調べ、法人税が低い成長と関連していること他の税が統計的に見て強い関連を持たなかったことを発見した。基調となる横断面での回帰分析では、彼らは例えば10%の法人税の法定税率の引き下げにより一人あたりGDP成長率が0.7ポイントから1.1ポイント上昇することを発見した。高い方の推計値は操作変数を用いることにより得られている。彼らはさらにパネルデータ(時間による変動を加えたもの、より多くの観測値が利用できる)を用いて推計を行った。年次のデータをそのまま用いるのではなく、景気循環の影響を取り除くために(最小化するために)また変数の長期の影響を考慮するために5年でデータを平均した。そのデータに対して彼らは最小二乗法と(国固有の要因を制御した)固定効果モデルで分析を行った。その結果は10ポイントの法人税の引き下げは一人あたりGDP成長率を0.6ポイントから1.8ポイント上昇させることを示している。ここでもまた、高い方の推計値は操作変数の使用から得られている。彼らは周辺国の税率を操作変数として用いた。周辺地域の経済成長がその地域の税率に与える影響を制御するためだ。彼らは、法人税が起業的活動を低下させることにより成長を低下させるという幾らかの証拠も提出している。
Ferede and Dahlbyは1977から2006のカナダの州の法定税率を用いてLee and Gordonの結果の更新と確認をしている。彼らは例えば10ポイントの法人税の引き下げが一人あたりGDP成長率を1ポイントから2ポイント上昇させることを発見した。彼らはこれが一時的な刺激だとしているが、それは彼らの定式化が(技術水準の変化によって決まる定常状態の成長率に回帰することを前提としている)新古典派の成長モデルに基いているためだ。それでも長期での産出は「大幅に増加」している。彼らは州固有の影響を制御した場合に所得税と経済成長の間に有意な関係が見られなかったとも報告している。また、売上税の引き上げがGDPを増加させたとも報告している。これは売上税が投資に掛かる税を代替したのが原因かもしれない。多くの研究は国際間の比較を行っているが、州の方が国際間よりも類似性が高いので税の影響を識別しやすいと彼らは論じている。
最後に、Gemmellらは1970年代から2004の17のOECD加盟国のデータを用いて調べた。彼らは変数を、歪曲的な税(所得や利益への課税)、非歪曲的な税(財やサービスへの課税)、生産的な支出(公共投資)、非生産的な支出(移転支払い)、財政赤字に分けた。そして歪曲的な税が最も有害で次に財政赤字と非歪曲的な税だった。彼らが述べているように、「歪曲的な税やその他の税は財政赤字よりも成長に対して有害なので、これらを増税して財政赤字を削減することは経済成長に悪影響を与える」。彼らは財政施策への長期の調整が比較的早い数年で起こることも発見している。
Conclusion
このレビューが示しているように、経済学の査読誌に掲載された論文間の意見の乖離は大きくない。所得税と法人税が最も有害で次に消費税と財産税というのが専門家の間のコンセンサスだ。これは経済成長が究極的には生産、イノベーション、リスクテイキングから生じることによる。
このレビューではそれにより税制が判断される基準も提示している。その基準で見ればアメリカが先進国で最も非効率な税制ということになる。工業国の中で我々の法人税が最も高い。法人税を10ポイント引き下げることが出来れば(それでも他の多くの国よりも高い)、税収を失うことなく(何故なら外国からの資本の流入と国内投資、雇用、労働意欲の増加により課税ベースが拡大するから)GDP成長率を1ポイントから2ポイント上昇させることが出来るだろう。圧倒的多数の証拠により、ほとんど全員が法人税の引き下げに賛成するだろう。多くの人は、(証拠が示しているのとは異なり)法人税の引き下げにより税収が失われると主張するだろうが。
我々は、現在ブッシュ減税の期限切れにも直面している。減税が停止されればアメリカの配当税とキャピタル・ゲイン税は先進国で最も高い税率となる。多くの研究は株主への課税を取り扱っていない。これは税収としては比較的少ないのと、そもそも多くの国はそのような課税を行っていない。だが株主課税は法人所得への追加の二重課税で、それ故法人税と同じく投資と経済成長に対して有害な影響を与える。
ブッシュ減税の期限切れにより、カリフォルニア、ハワイ、ニューヨークなどの幾つかの州では所得税の最高税率が50%を超える所が出てくるだろう。これもまたほとんどの先進国より高い。OECDによると、我々はすでに先進国で最も累進的な税制となっている。ブッシュ減税の期限切れによりさらにそうなるだろう。OECDは累進的な課税が生産性と経済成長を低下させることを発見している。さらに、アメリカは事業と事業所得の大半(個人事業、パートナーシップ、Sコーポレーションなど)がこれら累進的な所得税として課税されるという点でユニークだ。ある研究は1%ポイントの所得税の増税が1四半期後の一人あたり実質GDPを1.4%、3四半期後には1.8%低下させることを発見している。
要約すると、アメリカの税制は経済の重石となっている。法人税と所得税の負担を削減させる成長促進的な税制改革により、景気の回復を早め、アメリカをより高い成長軌道へと押し上げるだろう。
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