2016年3月19日土曜日

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート4

LOTT'S NUMBERS: The Truth About Obama's Health Care Plan, Part 2

John R. Lott

「それから費用の増加の問題がある。私たちは他のどの国よりも1.5倍多く医療に支出している。医療はアメリカ経済の6分の1を占めている。この部屋にいる誰もが、このまま何もしなければ何が起こるだろうかを知っている。財政赤字は拡大するだろう。多くの家庭が苦しむだろう。多くの企業が倒産するだろう。多くの人が保険を失うだろう。その結果として、多くの人が亡くなるだろう」とオバマは2009年の9月9日に議会で演説した。

よく持ちだされるのがGDPの6分の1が医療に支出されているという数字だ。その数字は1400兆円のGDPを220兆円とされている医療支出で割って求められている。オバマはこれらの数字を政府が介入して医療費をコントロールする必要があることの証拠としている。だが、どちらの主張にも問題がある。よく議論で用いられる医療費の数字は二重に計上されていてしかも価格コントロールによって歪められており、そしてここ数十年間のアメリカの医療費の増加率は政府が管理しているはずの他の国よりも低いということだ。

第一に、二重計上の問題を見てみよう。220兆円という数字には保険会社、個人、政府が医療に費やしたものだけではなく、建物や医療設備に対する支出が含まれている。明らかなように、MRIの使用に際して患者によって支払われたお金と病院がMRIに支払ったお金とを両方計上することはできない。MRIの購入の為の費用は結局はMRIの使用に対する支払いでカバーされる。

220兆円という数字は「医療部門で活動する組織(プロバイダー、サプライヤー、保険会社)の手に渡る」すべてのお金を測っている、とAmerican Enterprise InstituteのJoseph Antosは語ってくれた。その数字は「医療が経済に占める割合を示すための指標ではない」と彼は述べた。

研究に支出されるお金に関する会計上の問題もある。医療費全体の数字と云われているものにはNIHの全予算とNSFの予算のかなりの部分が含まれている。だがそれらのお金の大部分は医療の研究とはほとんど関係がなくその支出されたお金も研究が生み出したものによって一部は回収される。

NIHに渡された資金は大学の運営全般に関わる費用の為にも用いられる。Tuck Business SchoolのBob Hansenは「NIHのような場所からの助成金は管理運営費の50%近くに達している。NIHの予算には大学一般の管理運営費の為の資金がかなり含まれている。国際比較は、他の国が大学に直接資金を提供している場合には問題になる」と記している。

この二重計上を合計すると36兆3000億円ぐらいになる。GDPの6分の1(16%)ではなく、正しい数字は8分の1近く、要するにGDPの13%ぐらいということになる。他の国との医療費の違いはほとんどが消滅した。フランスを例にしてみよう。フランスはGDPの11%を医療に支出している。

医療費の乖離は、他の国が薬などに価格コントロールを敷いていることを考慮すればさらに小さくなる。アメリカ人は一人あたりで見て他の国の2倍ぐらい薬に費やしている。アメリカの製薬会社は新薬の開発に膨大な費用を支出している。そしてアメリカ人はその市場価格を支払っている。一旦新薬が開発されると、薬の生産費用や再生産費用それ自体は安いので、価格コントロールを敷いている他の国は生産費用と販売費用だけを負担する結果になる。従って他の国は、アメリカが開発した世界中の人の命を救う薬の研究に「フリーライド」していることになる。

もしアメリカ人が他の国と同じぐらいの額に薬の支出を抑えれば、私たちは医療費をGDP比で見てさらに1%ポイント削減することができるだろう。だがこれには恐ろしい副作用がある。製薬会社は、膨大な研究費用と承認の負担を回収できない限りは新薬の開発を続けることができなくなるだろう。アメリカ人は世界中の薬の負担を一手に引き受けていることに不満を感じているかもしれない。だが私たちの国に価格コントロールを敷くのではなくて、その解決策は他の国が規制を廃止することかもしれない。

現在議論となっているのは、医療費がこれからどうなっていくのかだろう。議会演説でオバマが語ったように、医療費の上昇を抑えるというのが政府が医療保険を提供しようとすることや数多くの規制で医療の「無駄」を削減しようとすることの動機になっているのだろう。「連邦政府の赤字を制御下に置く唯一の方法は医療を何とかすることだ。皮肉なことに、この医療法案は財政赤字の削減に非常に重要なものだ」とオバマは語った。

OECDは30ヶ国の医療費のデータを集めている。1998年から2007年と過去10年間のデータを見てみよう。その期間に、アメリカの一人あたり医療費は年率7.2%で増加した。他の国の医療費はそれより1%ポイント多い年率8.2%で増加した。アメリカを除いた24ヶ国のうちの14ヶ国は、アメリカよりも医療費の増加率が高かった。同様のパターンは過去20年間でも当てはまる。

OECDの平均的な国では、政府支出が医療費の72%ぐらいを占めている。アメリカは45%ぐらいなので、最も割合が低いグループに位置している。政府支出が医療費の80%ぐらいを占めている国は全体の3分の1ぐらいある。だがアメリカの政府支出の割合を高めることは費用の削減には結びつかないように思われる。実際、その逆が正しい。政府の支出する割合が最も高い国々の方が、一人あたりの医療費が最も増加している。1960年から2007年までの利用可能なすべてのデータに一人あたり所得やその他の要因なども考慮に加えると、医療費に占める政府支出の割合が1%上昇する毎に医療費は0.4%ぐらい増加する傾向がある。

だが費用の水準や増加率という話以外に、もっと大きな疑問がある。そもそも費用のことを気にする必要はあるのか?どうしてアメリカ人が大きな家や豪華な車、より良い医療に対する支出を避けなければいけないなどというのか?どうしてアメリカ人が股関節置換術を受けられるようになったり早期にがんを発見できるようになったことを喜ばないのか?アメリカ人は医療よりも住宅に多くのお金を支出してきた。だがそのことは住宅にお金が支出されすぎているということを意味しないはずだ。

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート3

The U.S. Is The Third Lowest Health Spender of 13 Developed Countries

John R. Graham

Commonwealth Fundと提携した経済学者たちが、最近になってまた医療システムの国際比較の報告書を作成した。これらの報告書はいつもメディアによって歓迎され、アメリカの医療システムはなんて高額なのかと嘆く一連の記事が紙面に並ぶことになる。アメリカと他の国との違いは他の国が公的医療保険を持っていることだとCommonwealth Fundに結論を煽動され、多くの人はそのような「改革」によってアメリカの医療費を削減することができると刷り込まれる。

その結論は的はずれだ。その報告書によると、アメリカの医療支出は2013年でGDPの17.1%ということになっている。2番目のフランスは11.6%だ。ドルに換算すると、アメリカの医療支出は一人あたり90万円ほどでスイスは63万円ほどしか支出していないということになっている(これらの価格はPPPレートで表示されている。その問題点は以前に指摘した)。

これらの数字を見ていると、このお金に見合うだけの価値を得ているのかという疑問が浮かんでくる。だがこの支出がアメリカの負担になっているのかどうかはアメリカの所得が非常に高いことを考えればまったくもってはっきりしない。表1はアメリカのGDPから医療支出を引いたものを表示してある。医療支出を差し引いてもまだ一人あたりで見て他のものに440万円をアメリカ人は支出できることが分かる。これより多いのは、ノルウェーとスイスのたったの2ヶ国しかない。例えば、医療支出を差し引いた後のイギリスの一人あたりGDPは348万円でしかない。従って、もしアメリカの医療支出がイギリスより本当に多かったとしてもそれを差し引いた後でさえアメリカ人はイギリス人よりも91万円以上多く支出できることになる。同様に、カナダ人に対しても60万円以上多い。


実際、高い一人あたりGDPが高い医療支出の原因だということを示した幾つかの証拠がある。David Cutler and Dan Lyは外科医の所得がアメリカの医療支出を幾らか押し上げていると主張した。アメリカの外科医の平均所得は2010年で2300万円ほどで他の12ヶ国は1290万円ほどだ。

これは見た目には大きな違いだ。だが医療システムとはほとんど関係がない。むしろ、労働所得の分布に関係がある。他の国の高額所得者の所得自体がアメリカよりも低い。Cutler and Lyは「高額所得」を所得分布の95パーセンタイルから99パーセンタイルと定義している。彼は、アメリカの外科医は平均的なアメリカの高額所得者よりも37%所得が高いことを示した。だが、他の国の外科医はそれぞれの国の高額所得者よりも45%所得が高い。

アメリカの外科医が給料が低いと嘆くのは他の職業の方が所得が高いからだ。従って、アメリカの外科医の所得を低下させながらも十分な供給が保たれるなどということはまったく起こりそうもない。

興味深いことに、Commonwealth Fundに協力した経済学者たちは医療サービスだけではなく社会サービスに対する支出も調査している。これは極めて妥当だ。何故なら社会サービスは医療サービスを容易に代替するからだ(アメリカでは医療費に計上されているものが他の国では社会サービスに計上されているので)。だがGDPに占める割合として社会サービスの支出が医療サービスの支出に加えられると、アメリカの支出は外れ値ではなくなる。両者の合計はGDPの25%で、アメリカはノルウェーと同じ位置でスイス、オランダ、ドイツ、スウェーデン、フランスを下回る(表2を参照)。社会サービスと医療サービスを差し引いた後で残った所得を比べてみると、アメリカよりも高いのは最早ノルウェーしかない。平均的なフランス人の所得は平均的なアメリカ人よりも150万円も所得が低い。


最後に、アメリカの医療システムと他の国の医療システムは本当にそれほど大きく異なるのか?ということをよく考えてみる必要がある。医療システムが「ユニバーサル」かどうかで定義するのは他の特徴に比べればほとんど重要ではないだろう。表3は13の国を自己負担の割合と政府、民間を問わず第三者が支払う割合とで並べている。アメリカの自己負担率はたったの11%でしかないので、この指標ではアメリカは9番目に位置する。スイスは25%以上を自己負担で支払っている。カナダでさえアメリカよりも自己負担率が高い。


自己負担率の上昇は患者にコスト意識を持たせる上で重要だ。それにも関わらず、Commonwealth Fundは未だに「自己負担率の高さ」がアメリカで問題になっていると主張している。この国際的なデータからは、その結論は真逆であるように思われる。

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート2

Hospital Pricing And The Uninsured: Do The Uninsured Pay Higher Prices?

Glenn A. Melnick and Katya Fonkych

アメリカの医療システムは過去10年間に多くの構造変化を経験してきた。その中でも最も重要な変化の一つが病院の価格の決め方とその支払い方法の変化だ。1980年代の前半とは保険プランによる選択的契約とメディケアによるprospective payment system (PPS)の導入だ。この両者の下で、病院は治療に掛かった費用または病院が請求した請求価格(リストプライス)に基づいて再償還されるのではなく、その治療費はPPSのルールまたはマネジドケアプランとの交渉を通して決められる一定の定額に基づいて支払われるようになった。その期間に価格競争は加速し病院による価格のディスカウントが広範に行われるようになった。その一方で、病院は請求価格を引き上げ続けていった。アメリカの病院の請求額は1994年には治療の費用の174%だったものが2004年には治療費の254%になった。

病院の請求額のこの増加トレンドはアメリカの医療システムにとってほとんど無害だと考えられてきた。何故なら、「病院が請求する請求価格(リストプライス)を実際に支払う人は誰もいない」と考えられてきたからだ。だが、Wall Street Journalと最近になって他の新聞社も保険の非加入者がリストプライスに基づいて支払いを求められるかもしれないみたいな記事を書いた。仮にそうだとすると、保険の非加入者は請求価格が継続的に上昇しているので保険の加入者が支払うよりも同じ医療サービスに対して高い価格を支払っているかもしれない。

病院側の代表者はこの主張に対して幾通りもの方法で何度も反論している。第一に、多くの病院は保険の非加入者や低所得の患者に対して補助金やディスカウントを行う援助プログラムを行っていると指摘した。だが幾人かの非加入者はそれらのプログラムの存在を知らずに応募しないかもしれない。従って、保険の非加入者は保険の加入者よりも高い金額を払うかもしれない。それに対して、病院の代表者は毎年多額の債務の帳消しを行っていると語っている。そして自己負担のある患者が不利な状況に追い込まれているのではないと語っている。最後に、メディアの注目と弁護士による集団訴訟が起こったことで多くの病院は援助プログラムの存在を報告するようになっている。

注3 AHAの代表Dick DavidsonのStatement on the House Subcommittee on Oversight and Investigation’s Look at Hospital Billing and Collection Practicesでの演説。

(省略)

Study Data And Methods

データ: California Office of Statewide Health Planning and Development (OSHPD)は2001年から2005年の期間の病院レベルでの請求額と実際の収支とを保険非加入者と加入者とに分けたデータを提供している。この研究にはカリフォルニア州のほぼすべての病院がサンプルに含まれる。例外は、1年に50人以下しか保険非加入者が入院しなかった病院と子供向け病院と特別病院だ。最終的には、サンプルには300の病院が含まれカリフォルニア州で保険の非加入者が受ける治療の全体の80%をこれらの病院が提供している。

「保険に加入していない」の定義: OSHPDは患者を5つに分類している。メディケア、メディケイド、民間の医療保険、所得の低い患者、そして「その他」だ。OSHPDはそれぞれのカテゴリーを重複がないように設定しているので、「その他」のカテゴリーには自己負担患者とチャリティケアを受ける患者だけが入っていることになる。郡が費用を負担する(州よりも小さい行政単位)所得の低い保険の非加入者はOSPHDでは郡が支払うというカテゴリーに分類されている。従って、自己負担の保険非加入者に含まれていない。自己負担の保険非加入者の中には高度な治療を求めてやってくるアメリカ国外からの患者が含まれている。だがそれが全体に占める割合は低いので分析には影響を与えないと思われる。保険非加入者のグループには自動車などの事故による患者が含まれているかもしれない。それらの支払いは実際には自動車保険によってカバーされている。だが自動車事故に関連したすべての入院の12%を保険非加入者が占めるだけなので、この誤分類による影響は限られるかもしれないことが示唆される。最後に、登録時に患者が間違って分類されて後に再分類される可能性が考えられる。請求は最初の登録時の分類に基づいて行われるかもしれないので(支払いは最終的には正されるものの)、これは測定誤差を生み出す。

(省略)

注7 専門家へのインタビューを試みたところ、保険非加入者からの高い回収率はありえずそのように記載してあればそれはデータエラーの結果か保険非加入者からの支払いは一纏めにして記載されるからだとしている。

Study Results

図表1は保険非加入者が病院をどのように利用したかがまとめられている。2005年には、保険非加入者の入院回数は14万9000で入院日数は84万2000以上、外来回数は396万だった。2001年では、保険非加入者は請求額の39%を支払っていた。民間の保険の支払い率もこれと大体同じだった(41%)。メディケアとメディケイドは35%、30%だった。この比率はすべての支払者に対してその後低下した。これはリストプライスが上昇したことを反映している(請求額/支払額比率はこの期間に3.1から3.8に上昇した)。2005年には、保険非加入者はメディケア、メディケイドよりはまだわずかに支払い率が高いものの民間の保険よりは支払いが少ない。2000年から2001年では、保険非加入者の57%がメディケアよりも支払い率が高い病院に行っていた。民間の保険よりも支払い率が高いのは41%だった。この期間の最後では、民間の保険よりも支払い率が高いのは大体25%ぐらいでメディケアよりも高いのは50%ぐらいとなっている。


Discussion

保険非加入者の人数が問題だとされている。だが保険に加入していないにも関わらず、彼らは病院での治療を相当量受けていることを私たちは発見した。2005年には、保険非加入者はカリフォルニア州の病院治療の5.5%を利用している。その支払い率はメディケア、メディケイドよりはわずかに高いが民間の保険よりは低いように思われる。この期間に、メディケアよりも支払い率が高い保険非加入者の割合は57%から49%へと低下した。民間の保険に対する変化はこれよりもさらに大きかった(41%から27%だった)。これらの変化は病院が保険非加入者に対してネットの価格を低下させたか保険非加入者がこの期間により安い価格を提示している病院へと向かうようになったかあるいはこれらの組み合わせの反映かもしれない。

(それほど重要ではないので、以下省略)

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート1

THRILLS, CHILLS AND HOSPITAL BILLS: MAYBE THEY'RE NOT SO CRAZY AFTER ALL

John R. Graham

先日、私はサンディエゴ市のScripps Health hospitalsに対する集団訴訟の無意味さを調査していた。保険に加入していない人たちのほとんどは医療費をどちらにしても払っていない!にも関わらず、「多額の」医療費を請求された(と主張するように弁護士にそそのかされた)と主張する保険の非加入者に対してディスカウントを与えるようにと訴えた裁判のことだ。

今日、私たちは2001年から2005年の期間にカリフォルニア州の病院に入院した患者で医療保険の非加入者、加入者、メディケア加入者、メディケイド加入者それぞれの支払額と請求額の比率を知ることができた。その論文の筆者たちは、民間の医療保険は請求額の38%、保険非加入者は28%、メディケア加入者は27%、メディケイド加入者は27%を支払っていたと結論している(アメリカの病院にはリストプライスというものがあってメディアがアメリカでは盲腸の手術が200万円もするとか騒ぐ時に使っている元ネタがこれ。このリストプライスというのは参考にならないメーカー小売希望価格のような偽の価格だということがアメリカ社会では常識となっていた。そのことを知らなかったもしくは知っているのに意図的に一連の捏造記事を書き始めたのがWSJと云われている。今回の論文はそれを改めて確認したもので、例えば病院側が医療費として100万円を請求したとすると実際に支払われる額はというより正確にはそれぞれの保険が実際に病院に支払う額は民間の保険で38万円、保険に加入していない人で28万円、メディケアで27万円、メディケイドで27万円だったということが明らかにされている)。

これは興味深い発見だ。私の以前の記事では、緊急救命室(ER)にやってくる保険非加入者のほとんどは医療費を支払っていないと指摘した。従って、病院が提示する請求額の一部を支払っている人がわずかにいるのかもしれない。この歪みにも関わらず、保険の非加入者が支払う額は民間の保険よりも少ない。

これは私の論文で議論したことを確認している。保険の非加入者は、保険の義務付けを行うために病院側が主張していることとは異なり病院にとって大した負担ではないということだ。その期間の患者全体の入院日数のわずか5.5%を保険の非加入者は占めるにすぎない。その論文では2005年では請求/費用比率が3.8だったと報告している。従って、保険非加入者が請求額の28%を支払ったと仮定すれば、病院側の費用の106%(0.28×3.8)を説明することになる!

私の論文で、カリフォルニア州の病院は恐らく黒字で保険加入の義務付けを通した政府による救済をほとんど必要としていないだろうと議論した。この論文はそれを確認している。

より詳細な説明はパート2

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート6

The Scope of Vitamin D Deficiency in African Americans

10代の黒人が示唆となるのであれば、アメリカの黒人の半数近くはビタミンDが不足していることになる。これらの人々はビタミンDが不足している人全体の5人に3人、57.2%を占めている。

それをどうやって知ったのかはここにある。今年の始めに、ニューヨーク市のWeill Cornell Medical Collegeの研究者たち、Sandy Saintonage, Heejung Bang and Linda M. Gerberによって行われた研究、Implications of a New Definition of Vitamin D Deficiency in a Multiracial US Adolescent Populatuion: The National Health and Nutrition Examination Survey III in March 2009がPediatricsに掲載された。

その研究はビタミンD不足の閾値の引き上げが提案されているのに対応して、アメリカの成人でどの程度ビタミンDが不足しているのかを把握するとの目的で行われた。その当時では、ビタミンDの不足は血清中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が1mlあたり11ナノグラム(ng/mL)を下回ることとして定義されていた。最近になって、新基準として20 ng/mLにまで引き上げられた。

その研究にはNational Health and Nutrition Examination Survey IIIのデータが用いられた。これは1988から1994の期間の12歳から19歳までの全国的に代表的な2955人のサンプルを社会人口統計学的な特性を考慮に入れた上で横断的に調べたものだ。その過程において、その研究の筆者たちはビタミンD不足が旧基準では2%であったものが新基準では14%または2955のサンプルのうちで414に上昇したことを示した。

10代の黒人に対しては、ビタミンD不足の増加はより広範だ。旧基準の下では、11%がビタミンD不足とされていただろう。新基準の下では、その数字は50%にまで跳ね上がる。

その研究が元にした調査には12歳から19歳までしか含まれていなかったので、そのサンプルに含まれていた黒人の人数をアメリカの人口全体に占める黒人の割合で拡張することにした。その調査は1988から1994に行われていたので、1988に19歳だった人の誕生年、1994に12歳だった人の誕生年を調べることにした。それにより1969から1982の期間に生まれた人を調べれば良いことが分かった。

それからCDCに記録されているその期間に生まれた人の人数を人種ごとに調べることにした。1969から1982にアメリカで生まれた人の人数は4783万1224人だった。その中で、765万4595人が黒人と数えられていた。それは全体の16.00%に相当する。

その割合を元にして、2955のサンプルのうち何人が黒人だったのかを今では計算することが出来る。この数字に16%を掛けるとサンプルのうちで473人が黒人だったことが分かる。このうちの50%が新基準ではビタミンDが不足していると数えられている。それは236になる。

サンプル全体では、14%がビタミンD不足ということなので414になる。従って、414のうちの236なので黒人が占める割合は57.2%ということになる。

その研究は非ヒスパニック系の黒人は非ヒスパニック系の白人よりも20倍以上ビタミンDが不足している傾向にあることも示している。236を20で割って数字を丸めると、白人でビタミンDが不足していると数えられたのは12人、サンプル全体の2.9%ということになる。

ビタミンDが不足しているとされた残りの165人は全体の40%を占める。その筆者たちの他の観察結果もこのブログの長年の読者には驚きではないだろう。ここに、2009の4月27日のLempert Reportに寄せられたLinda Gerberのコメントの一部がある。

「以前のガイドラインはくる病の防止を目的に策定されていた。研究者たちは血清中のビタミンD濃度の高さが生涯を通した最適な骨の形成に必要であることを示した、とその研究の共著者のDr. Linda Gerberは語った」

「牛乳が子供たちの主なビタミンDの摂取源だった。成人になってくると、牛乳はソフトドリンクやジュース、他の飲料などのビタミンDをあまり含まない飲み物に取って代わられていく。さらに、特定の民族の10代の多くはラクトース耐性を持っておらず牛乳を避ける。他にもビタミンDの供給源となる食品は存在するが、10代の多くはビタミンDの栄養価の低い食品を食べている、とGerberは語った」

「体重過多ぎみの子供に適量のビタミンDレベルを達成させることはまた別の問題だ。ビタミンDは脂溶性なので、もしビタミンDが脂肪の中に隠れてしまうとビタミンD不足の問題はさらに深刻になるかもしれない。体重過多ぎみの子供に対しては上限である2000 IU/dayの経口からの投与が必要となるかもしれない、とGerberは語った」

「ビタミンDの不足は多くの慢性疾患病のリスク因子となっているかもしれないと新しい証拠は示唆している。それ故、成人を研究することにより、これらの病気の発症を防ぐことが出来るかもしれない、と彼女は語った」。

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート5

A Seemingly Simple Solution

黒人と白人の平均寿命の違いは黒人のビタミンDの不足で説明することが出来るのか?このビタミンD不足を解消することによってその乖離を解消することが出来るのか?

どちらの質問に対する回答も、そうだと仮定しておく。そしてそれが見た目ほど簡単な話ではないということを見ていく。

理由を理解するために、人体においてビタミンDがどのような働きをしているのかを詳しく見ていく。そして黒人に多い慢性疾患病にビタミンDがどのように作用するのか、黒人のビタミンD不足が彼らの死亡率にどのような影響を与えているのかを見ていく。さらに、どうしてアメリカ政府がビタミンDの摂取を強化することを義務付けるよう制度化しているのにそれが黒人に対してほとんど効いているようには見えないこと、ビタミンD不足を有効に解消するにはどうしたら良いのかを最終的には議論する。

Background Information on Vitamin D

The Role of Vitamin D in Human Physiology

体内におけるビタミンDの主な働きは血液内のカルシウム濃度を一定に保つ手助けをすることだ。ビタミンDは消化器系内の食物源からのカルシウムの吸収を促進したり骨の成長を促したりミネラルの吸収を促したりする。以前の結核の記事で見たように、ビタミンDはカテリシジンの生成においても重要な働きをする。これは免疫システム内において感染性の病気に対する抵抗力を高めるのに重要な枠割を果たすものだ。

Where Vitamin D May Be Obtained

ビタミンDは2つの主要な源から得られる。一つ目は、太陽の光だ。二つ目は、食物やサプリメントだ。ビタミンB同様にビタミンDにも様々な種類がある。太陽の光から生成されるのはビタミンD3で多くの食物にやサプリメントに含まれるのはビタミンD2やビタミンD3だ。サプリメントとして最も推奨されているのがビタミンD3だ。

How Much Vitamin D Do People Need?

19歳から50歳までの成人に対してU.S. Food Nutrition Boardは一日のビタミンD摂取量を200 IU (International Units)と定めている。これは5 mcg (micrograms)に相当する。American Academy of Pediatricsはこの秋にビタミンDの摂取量の新たなガイドラインを発表する予定になっている。それによると乳幼児、児童、成人は400 IU (or 10 mcg)を摂取することが求められることになっている。これは51歳から70歳までも同様だ。70歳以上の人には600 IU (or 15 mcg)を摂取することが求められている。

これらの水準は、太陽の光から皮膚に浴びる紫外線の量は予測が立てにくく天候や住んでいる地域によって影響されることを理由に求められている。北部に住んでいる人たちにとっては特に不利となる。他の要因、衣服や紫外線防止用品、皮膚に含まれるメラニンの量なども紫外線への暴露によって生み出されるビタミンDの量に負の影響を与える。

ビタミンDの取り過ぎも問題だ。一日に2000 IU (50 mcg)以上を継続的に摂取することは有害な効果を生み出すかもしれない。この量は初期には吐き気などに推奨されていたが腎臓へのダメージ、腎石、筋肉量の低下、過度の出血に繋がる恐れが指摘された。限定された期間であれば高用量の使用も問題ないかもしれない。

How Vitamin D Deficiency Contributes to Shorter Lifespans

皮膚のメラニン色素が多い黒人は白人よりもビタミンD不足の影響を遥かに受けることが予想される。ビタミンDと密接に関連していてビタミンDが体内の量を制御しているカルシウムに関しても同様だ。

下に、黒人に特に影響している慢性病や健康状態を表にまとめた。さらにそれらとビタミンDの不足、カルシウムの不足との関連の有無、さらにそれらの関係性が確立されているのであればそのつながりの証拠となっている論文を一覧にした。

この表からは、ビタミンDの不足が黒人に多いとされる病気や健康状態に深く関連していることが分かる。

Accounting for Disparities Between Black and White Life Expectancy

ここまでで、私たちは慢性疾患が黒人の死亡率を高めていることビタミンDの不足がそれらすべての病気のほとんどの主要な原因となっていることを突き止めてきた。

私たちが提示しようとしている仮説とは、黒人のビタミンD不足が黒人と白人の死亡率の違いのほとんどすべてを説明するというものだった。その詳細を見ていこう。

1.生存率は1年目から違いが発生していることを最初の記事で見た。黒人の母親は白人よりも遥かにビタミンDが不足している割合が高いので、これが未熟児の誕生、低体重の主要な原因である妊娠中毒症の割合の高さの原因となっていると仮説を立てる。未熟児、低体重ともに黒人の乳幼児死亡率の高さの大きな原因となっている。

1歳から20歳までの間で黒人と白人の間に死亡率の違いはほとんど見られない。これは乳幼児や成人と比べてこの年代は日光を浴びる量が増加するのとアメリカ政府の児童に対するビタミンD摂取の義務付けが有効であったとの複合仮説を立てる。だが以下で手短に説明するように、ビタミンDが強化された食物からの日常的な摂取は成人になるにつれて有効性が失われていくと考えている。

黒人が成人に達してビタミンDが強化された食物を摂取しなくなると、日光量の相対的な低下が黒人に対して大規模なビタミンD不足を引き起こすと仮説を立てる。その結果として、ビタミンDの不足が主な原因となっているすべての慢性疾患が黒人の死亡率を大幅に高める。

ビタミンDの不足は、どうして黒人の10代の母親の方が20代や30代の黒人の母親よりも未熟児、低体重の割合が少ないのかも説明している(普通は、10代の方が圧倒的に多い)。ビタミンDは脂溶性なので、10代の黒人の母親は、すでに毎日の食物からの摂取をやめているとしても、体内に十分な量のビタミンDを蓄えている可能性がある。それより上の年代の母親は他の食物源からの補給がなければかなり前に体内のビタミンDを消費してしまっていると考えられる。

メラニン色素の増加は紫外線によって生み出されるビタミンDの量を低下させる。都市部近郊に住む黒人は郊外や田舎に住む黒人と比較して太陽の光に曝される量が遥かに少ない。この違いが都市部近郊の黒人の死亡率の高さをほとんど説明すると仮説を立てる。

さらに緯度の高い地域に住む黒人は同様に負の影響を受けると記すべきだろう。地球の曲率はこれらの地域の地表面に降り注ぐ太陽光の密度を低下させるからだ。

ネイティブの黒人と黒人の移民との死亡率の違いも、黒人の移民は恐らくは田舎に住む黒人と同程度の太陽の光を浴びているのかもしれないということによって説明できるのではないかと疑っている。たばこ消費量の少なさも相まって、この要因は黒人の移民の方が遥かに死亡率が低いことを説明するのだろうと思われる。

一方で、80歳以上の黒人の平均余命が長いのは彼らが主に何処に住んできたのかと関連しているのではないかと思っている。恐らく、アメリカの郊外や田舎の地域と一致していてビタミンDを多く含む食生活を送っている地域なのではないかと予想している。

Why Dairy Doesn't Work For the Adult Black Population

以前にどうしてビタミンDの食物摂取からの有効性は失われていくのかを説明すると約束したと思うのでそれを今行う。アメリカの黒人の圧倒的大多数はサハラ砂漠以南の西部を起源としている。その結果として、彼らは大人になるに従いラクトース耐性を失っていく。乳製品を消化できるようには出来ていないからだ。

アフリカを起源に持つ人のすべてがこのグループに属するという訳ではない。アフリカ東部の人々は乳製品を消化する能力を持っている。この違いは酪農を営んできた何世代にも渡る人たちが発展させてきた遺伝的適応を原因とする。アフリカ東部の人々は牛を飼いならしてきた長い歴史を持つ。それは3000年から7000年前まで遡る。対照的に、アフリカ西部の人々は酪農の歴史が遥かに短く同じような遺伝的適応を経験していない。

そして、それがアメリカ政府によるビタミンDを多く含んだ乳製品の摂取の黒人の成人に対する義務付けがどうして機能していないのかを説明している!恐らくは、アフリカ東部からの移民にしか機能しないのだろう。アメリカへの黒人移民の平均寿命の長さも部分的にはこのことによって説明されるかもしれない。

What Would Work Better

ビタミンDを自然に含む食品はほんのわずかしかない。乳製品以外ではこのようになる。タラの肝油、サーモン、サバ、ツナ、いわし、マーガリン、卵、牛の肝臓。サーモン、ツナ、卵、マーガリンぐらいだったら知っているかもしれない。でも他のものとなると食欲をそそるだろうか(タラの肝油…)?

より真面目には、政府からも推奨されているビタミンDを多く含むシリアルがある。もちろん、乳製品に替わる直接の代替物もある。それらの中で、第一の選択肢となるのはラクトース耐性を持たない人も摂取できるように改良された乳製品となるだろう。豆乳のような他のミルク代替物(これも食欲をそそるだろうか?)も役に立つかもしれない。だが豆乳は男性よりも女性によく機能するだろうと思う。

一方で、ビタミンDタブレットはいつでも利用可能だ。スーパーマーケットに行けば400 IU分のビタミンD錠剤が90日分400円ほどで購入できる。これは年間の購入代金も1200円から2000円で購入できることを意味する。

Conclusion

しばしば、答えるのが最も困難な質問には「ここではこうなっていて、でもこっちではこうなっていないのか?」といったようなものが含まれる。

この一連の記事を通して、それが私たちの挑戦だった。何故黒人の乳幼児死亡率は白人よりも高くて、だが1歳から20歳までの死亡率は白人とほとんど変わらないのか?何故黒人成人の死亡率は白人よりも高くて、だが80歳以降ではそれが白人よりも低くなるのか?何故都市部近郊の黒人は(医療機関へのアクセスに大幅に恵まれているにも関わらず)田舎に住む黒人よりも平均寿命が短いのか?何故10代の黒人の母親は黒人の他の年代よりも未熟児、低体重児を出産する割合が低いのか?何故統計を見ると母国では遥かに平均寿命が短いにも関わらず彼らがアメリカに移民してくるとネイティブのアフリカ系アメリカ人を平均寿命では圧倒するのか?

これらの疑問に答えるために、私たちは何度か自問自答を繰り返した。白人と比較して各年代毎に黒人の死亡率に大きな影響を与えている健康状態とは何か?どのような要因または要因たちがこの原因となっているのかというのもこの質問の答えとなっているだろう。

次回は、この一連の記事の最後のまとめとなる。そこでは、これまで見てきたすべてのデータに対して回答を与え一つの統合された説明を提供することになるだろう。

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート4

African Blessings, African Curses

「人を死に至らしめなかったものが、人を強くする」。

80歳以上の黒人の方が白人よりも死亡率が低いということをここで記事にして以降、eメールで何度も私たちの元に送られてきたのが上記のような内容の文章だ。公平に言うと、上記の内容にも一欠片の真実があるかもしれない。もし人が困難を乗り越えたならば、その人は技を磨き将来の他の困難にも立ち向かえる力を身に付けるかもしれない、よってそれらの困難を防ぐこともできるようになるだろうとその論理は続く。

だが人間の生態学がそれに関わるようになると、物事はそのようには一般的に動かなくなる。

水疱瘡の例を考えてみる。アメリカでは比較的一般的な児童の病気だ。一度子供が水疱瘡を発症すると、その人はその後はその病気に再び罹ることはない。だが免疫システムを強化させるのではなく、他の病気によって身体の免疫力が低下するまでウィルスは活動を休止する。そしてウィルスは以前に水疱瘡に罹ったことがある成人にのみに、だが今度はより悪い形で再び表れるかもしれない。

人を死に至らしめなかったものが、人を強くするとは限らない。生態学では、むしろそのような事例の方が少数派だ。人を死に至らしめなかったものが人をむしろ脆弱にし、現実的にはこちらの事例の方が多いだろうが有害なものから人を守った(祝福)と思われたものが実際には人を死に至らしめるものに対しては人をより脆弱にする(呪い)。

この概念は、どうしてサハラ砂漠より南を起源とする人たちは多くの病気に対してこれほどまでに脆弱なのかを考える際に繰り返し繰り返し登場することになるだろう。

そして、アフリカの呪いと祝福は相互に結びついていることをこれから見ていく。

The Challenges of Sub-Saharan Africa

他の地域と比較して、サハラ砂漠以南のアフリカ人は健康に対して最も大きなチャレンジに晒されている。よく知られている感染症が毎年何百万人もの命を奪っている。あまり知られていない感染症もこの地域全体に蔓延していて何百万人もの健康に影響を与えている。

HIVのような幾つかのウィルス性の病気も、この地域に最も集中している。

寄生性の感染症に最も脆弱なのは子供たちだ。サハラ砂漠以南の乳幼児、幼児の死亡率は衝撃的だ。下の図は、アメリカのアフリカ系アメリカ人のために組織されたGivewellという団体が作成した資料を参考にした。

そこからは、マラリア、呼吸器系の感染症、下痢、周産期の病気、麻疹、HIV/AIDSによって生まれた子供の90%が5歳までに死亡することが分かる。これらの病気による死亡を除くと、5歳未満のサハラ砂漠以南の子供の96%が5歳の誕生日を迎えることが出来る。それらの数字を99%が5歳まで生存するアフリカ系アメリカ人の数字と比較する。

サハラ砂漠以南のアフリカ人と黒人との間の生存率の差は60歳から縮小し始めるまではどんどん拡大していく。

Blessings and Curses

様々な種類のマラリアを引き起こす様々な種類のマラリア原虫に数千年も晒されてきたことを思えば、生き残った人たちはそれらに対する遺伝的な防御機構を発展させてきたことは不思議ではないのかもしれない。2008の6月に掲載されたWeijing Heによる研究、Duffy Antigen Receptor for Chemokines Mediates trans-Infection of HIV-1 from Red Blood Cells to Target Cells and Affects HIV-AIDS Susceptibilityによると今ではほとんど絶滅したマラリアの一種からサハラ砂漠以南のアフリカ人を守ってきた突然変異がHIV-1に罹患する確率を大幅に高めることを示しているように思われる。その論文の筆者たちはアフリカのHIVの約11%はこの遺伝的適応によって引き起こされた脆弱性に直接的に関係していると試算している。

アフリカ系アメリカ人に対しては、この遺伝的突然変異を持たない人と比較して、これはHIVに感染するリスクが40%高まることを意味する。これは何故、アメリカの黒人のHIV感染率が他の人種と比較してそれほどに高いのかをよく説明している。ただ、良いニュースもある。それをそのように思えばだが。その遺伝的適応はそれを持っていない人と比較してHIVの進行をも遅らせているように見えることだ。他の研究がこれらの事柄をすでに確認し始めている。

HIV/AIDS and Parasitic Worms

話は異なるが、3日熱マラリア原虫を原因とするマラリアへの遺伝的適応だけが寄生虫由来の感染症とHIVへの脆弱性との唯一の相関ではない。Agnès-Laurence ChenineらによるAcute Shistosoma mansoni Infection Increases Susceptibility to Systemic SHIV Clade C Infection in Rhesus Macaques after Mucosal Virus Exposureという新しい研究は、住血吸虫症の背後にあるのと同じ寄生虫が感染したものをHIVに対して脆弱にすることが示唆されている。サハラ砂漠以南のアフリカは寄生虫の感染が蔓延している地域なので、これは他の地域に比べてこの地域にHIVがこれほど蔓延しているのかを説明する手助けとなるかもしれない。

Melanin and Tuberculosis

この地域は日射量が地球で最も多い熱帯に属するので、遺伝的適応の最たるものがメラニンレベルの増加だ。皮膚のメラニン色素が多い人たちは(黒い皮膚の色に対応する)、そうでない人たちと比較して太陽の光と紫外線の直射に遥かに強い。

その太陽の光への耐性には非常に高い代償が伴っていたことが最近発覚した。結核は、主にサハラ砂漠以南のアフリカではあるが世界的に800万人に感染し200万人を死亡させている結核菌によって引き起こされる病気だ。2006の2月に掲載されたPhilip T. LiuによるToll-Like Receptor Triggering of a Vitamin D-Mediated Human Antimicrobial Responseによると、アフリカを起源に持つ人たちに見られるメラニン濃度の高さは日光への暴露によって生み出されるビタミンDの少なさを説明している。そしてそれが結核菌への脆弱性に対応している。

紫外線は人体においてビタミンDの生成を促す。皮膚のメラニン色素が多い人は紫外線をより吸収するので、紫外線からによるビタミンDの生成は制限される。

ビタミンDは感染症に対して免疫システムの中で重要な枠割を果たすので、このことは非常に重要となる。血液内のビタミンD濃度が低いと病原菌が体内に侵入した時に生み出されるカテリシジンの量は遥かに少なくなる。カテリシジンは殺虫剤のような働きをする。結核菌のような感染性の病原菌を殺す働きをするということだ。これはどうしてアフリカを起源に持つ(そしたら全員だろうという批判はなしで)人たちが、結核に対してそれほどまでに脆弱なのかを説明している。

アメリカでは結核の感染や死亡はほとんど存在しないが、黒人は他の人種/民族集団と比較して8倍結核に対して脆弱であることが示されている。研究者たちは、ビタミンDの増加が黒人に与える影響を調査するため実験室での実験を行った。

ビタミンDの増加は血液サンプル内のカテリシジン濃度を上昇させた。この結果はビタミンDを補うサプリメントが黒人の結核率を低下させるのに非常に有効な方法となりうることを示唆している。結核が蔓延しているアフリカやアジアでこれらの結果が大きな規模で再現できるか結核の感染率が低下するかをテストする提案が出されていた。

A Simple Vitamin Deficiency?

ビタミンDの不足はどうして黒人が白人に比べて様々な慢性疾患病に弱いのかを説明できるだろうか?そしてビタミンD不足を解消することでこの乖離は消滅するのだろうか?

明日見ていくように、それが答えのように思われる。そしてそれから、解決策は思ったほど簡単ではないのかということも見ていく予定だ。