経済に関するデータは改定される。特に日本は大幅に改定されることで知られている。一例を挙げると2009年7-9月期の実質GDPは一次速報では前期比年率4.8%だったが、-0.6%に引き下げられている。
今回はこのリアルタイムのデータ(当時の政策当局者が持ちえた情報)とその後改定されたデータを用いて、当時の政策当局者の意図(プロシクリカルであったかカウンターシクリカルであったか)を調べた研究を紹介する。この記事とこの記事のワールドワイド版のようなもの?…
FISCAL POLICY IN REAL TIME
by Jacopo Cimadomo
多くの実証研究は、途上国、先進国を問わず、財政政策がプロシクリカルの方向で行われてきたと報告している。この結果は、大部分が財政政策反応関数の推計から引き出された。そこで用いられたデータは改定されたデータだ(研究者にとって研究が実行されたときに利用可能だったデータ)。経済変数は改定により大きく変動するので、改定データは政策当局者が予算編成時に用いていたデータとは異なるかもしれない。データの時系列面での利用可能性に関するありえない仮定により、当初の政策意図の評価がミスリードされたかもしれない。
ここでは、財政政策の政策意図が関心の対象であるので、リアルタイムデータが用いられるべきであることを示す。予定されていた財政出動の実際の実現には、財政当局の制御外にある多くの要因に依存しているかもしれない。この意味で、過去において計画された裁量的な財政出動と同年の、事後において観察された値とに大きな開きがあるだろう。
改定データとリアルタイムデータを用いて、財政政策のスタンスは事後的に評価するならプロシクリカルであることを示す。財政政策ルールの推計にリアルタイムデータが用いられたならば、事前のスタンスはカウンターシクリカルであることを示す(注 気づいたと思うが、これは間接的に財政政策が過去において意味がなかったことを示している)。
1 Introduction
裁量的財政政策は多くの新古典派学者から批判されてきた。
安定化政策としての財政政策は以下の理由から無効、または有害であるかもしれない。
1)リセッションは自然に終わるかもしれない
2)長く不確実な時間ラグがある
3)制度的制約が財政政策の適時での使用を妨げる
4)財政政策の決定は変更ができない
新古典派理論によると、市場は不況から回復する道筋を通る。
企業家が不況が進行中だと認識すれば、新規の顧客を獲得するため価格を引き下げる。
労働者は失業を逃れるために賃金要求を引き下げる。
実質貨幣残高と総需要は自動的に上昇し、政府の介入なしに、産出ギャップは縮小する。
近年になって財政政策はケインジアンの示唆するのとは逆に、プロシクリカルの傾向があることが示されてきた。ラテンアメリカの国々は、上昇期に緩和を行い、下降期に引き締めを行っていたという。さらに先進国より途上国でこの傾向は見られたという。
途上国に関しては強いプロシクリカルの傾向があるという合意ができていて、先進国に関しては論争がある。上昇期にプロシクリカルな傾向があるという点は別だが。
これらの研究は、事後または実現した財政スタンスの評価を示すのには有用であるものの、真の、または意図した政策スタンスの評価には適していない。
オルファニデスの研究により、金融政策の分野ではリアルタイムデータの使用が増加した。財政政策の評価にとってもこの問題が重要であるにも関わらず、この分野ではわずかな分析しか行われていない。例外はForni and Momiglianoだ。彼等はリアルタイムデータが用いられたら、裁量的財政政策スタンスはユーロ、非ユーロ圏を問わず、下降期のみにカウンターシクリカルであることを示した。しかし、財政政策の意図が知りたい時、データの時系列に関する正確な評価が重要になる。t-1年の各夏に、財政当局はt年の予算を承認する。財政法は経済の状態に対する事前の見通しや受け継がれた財政赤字、債務に基づいて作成されている。加えて、計画していた財政出動の実現は実行ラグに大きく依存している。これらの要因は、事前に承認済みの裁量的な財政出動と決定が行われてから数期間に渡って観察されるであろうデータの間の開きに関わるだろう。
この研究では、財政計画時に政府に利用可能であった情報を厳密に再現する。
我々の知っている限り、これは財政政策ルールの推定に使われるすべての材料にリアルタイムデータを組み込んだ初の試みだ。特に、予算編成時に提出された財政計画が組み込まれてある。
(興味の関心事から離れてきたので省略)
6 Conclusions
興味の対象が財政政策スタンスの意図だとすると、リアルタイムデータを財政政策ルールの推計の中に組み込むべきだ。事前の関係を調べる時には、改定データの使用では符号とバイアスの大きさが影響を受けることを示した。さらに、測定誤差間の共分散を用いてそのバイアスを正確に予想することができた。改定値を使用するとプロシクリカルな財政政策スタンスを示すのに対して、リアルタイムデータではその意図はカウンターシクリカルであったことを示した。さらに財政政策の裁量的な振る舞いに対して、複数のレジームが見られるかどうかも調べた。中立からカウンターシクリカルへの意図的な財政政策スタンスの変更が、産出が均衡水準に近い時に見られた。その一方、改定データを使用すると財政政策スタンスに関して閾値効果を識別することはできなかった。
債務残高の増大に対する財政政策スタンスの反応に関して、複数のレジームの存在は常に棄却された。全体として、景気循環を微調整するための裁量的財政政策の効果に関して疑問を投げかける。政策意図がカウンターシクリカルであるにも関わらず、事後で見るとプロシクリカルな行動に見えてしまう。予算編成過程の背後にある長く不安定なラグの存在が、予算編成時の産出ギャップの正確な測定の困難さをともなって、適時の財政出動の実行を妨げていることを示唆する。
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