(途中、わからないところがあっても読み飛ばして意味は通る)
Relative or absolute poverty in the US and EU? The battle of the rates
Notten, Geranda and Neubourg, Chris de
アブストラクト 相対的貧困率を用いるとアメリカの貧困率はヨーロッパの貧困率よりも高い。ところが絶対的貧困率を用いた場合は結果が一変する。この論文では絶対基準、相対基準双方を全ての国に適用する。貧困水準の差を分析してその差がどうして発生したのかも検討する。1994-2001の年間データを用いてその差のどれぐらいが絶対基準、相対基準の選択の違いに由来するのか、またはそれぞれの推計方法の違いによって生じているのかを示す。それにより絶対的基準、相対的基準どちらか単一の指標を用いて所得格差を論じることは誤りであることを示す。
1. Introduction
・EU基準を用いるとアメリカの貧困率は23.5%、ベルギー13.3%、スウェーデン10.4%
・だが、米国基準を用いると、アメリカ8.7%、ベルギー3.6%、スウェーデン6.7%
・EU基準は相対基準(閾値60% マスコミ報道で目にするのは50%)
・米国基準は絶対基準
・貧困調査がなされてから初めてこの論文では両方の基準を用いて推計した
・相対基準だと米国が高い値を示す
・地中海諸国とアイルランドも高い
・絶対基準だとアメリカの貧困率はヨーロッパ諸国と大差なくなる
・ギリシャ、スペイン、ポルトガルはアメリカの4倍高くなる
・地中海諸国を除けば絶対基準を用いたほうが相対基準より低くなる
・ベルギーに関してはスウェーデン(アメリカと大差ない)よりもずっと低い
・新規にEUに加入した国は絶対基準で計算できないものの相対基準に関しては大きな違いがある
・リトアニアの貧困率は17%だが新規加盟国チェコはEU最小のわずか8%しかない!
・相対と絶対の差は貧困率の水準だけでなくそのトレンドにも影響を与える
・アイルランドは絶対基準で見れば10.6%から9.5%へ減少したが相対基準では2.3%ポイント上昇し21.4%になった
・絶対貧困率と相対貧困率の違いを知ることは重要だと思われる
・両者の差は概念的、方法論的な違いの結果なのか?
・単に社会や経済政策の違いを反映しているのか?
・さらにPPPレート(購買力平価)の与える影響と貧困線の更新法の影響を調べる
・最後に等価尺度の変更が与える影響についても調べる
2. Poverty measurement: concepts and definitions
・貧困分析は厚生指標、貧困線、観測単位、分析単位、等価尺度、貧困の定義から構成されている
・この論文では厚生指標として可処分所得を用いる
・所得が貧困線を下回った時、その世帯(個人)は貧困状態と判断される
・情報が集められる段階(観察単位)と貧困が計算される段階(分析単位)とは異なる
・所得の情報は世帯単位で収集される一方、貧困は個人単位で計算される
・これは所得と支出は一般的に世帯単位で共有され、その世帯人すべての厚生に寄与するからだ
・yを成人等価所得、F(y)をy以下の所得を持つ個人を観測する確率を与える累積分布関数とすると
・F(y)=∫f(y)dy
・f(y)を所得yを観測する確率とする
・貧困線zは、0<z<ymaxの間を取る
・ymaxは所得の最高値
・貧困比率は以下のようになる
・H=F(z)=∫f(y)dy
・貧困線は主観的な基準(最低限の生活を送るための費用)で決定される
・また、ある社会の標準的な生活水準との関連で設定されることもある
・前者を絶対的、後者を相対的と呼ぶ
・この用語はミスリーディングだ
・絶対的という単語は客観的な印象を与えるのに、実際には主観的に決定されている
・絶対的貧困線は物質的欠乏に対して固定されていて、その領域は変化しない
・相対的貧困線は対照的にその領域を変化させ、平均的な生活水準が高くなるほど高くなる
・絶対的貧困線はZa=f(x)
・f(x)はある基準xを達成した時の値
・相対的貧困線はZr=k*[m|f(y)] 0<k<1
3. Methodology and data
(省略)
3.1 Laeken and Orshansky poverty measurement methods
(省略)
3.2 Data
(省略)
3.3 Making the comparison . definition and construction key variables
(省略)
4. Dissecting the Laeken and Orshansky methodologies: what’s in a number?
・図1に結果を示す(この図はクリックすれば多分拡大する)
・最初に述べたようにアイルランドは絶対基準で減少している一方で、相対基準で上昇している
・ドイツ、オランダ、ベルギー、アメリカは同じ傾向を示す
・大部分の国で相対基準の方が絶対基準より高い
・ただポルトガル、ギリシャ、スペインには当てはまらない
・両指標の差はアメリカ、ルクセンブルグで大きく、オランダ、デンマーク、スウェーデンで小さい
・ここでは三つの点に焦点をあてる
・貧困率の水準、トレンド、貧困に陥るリスクについて
・絶対、相対貧困率ともにアメリカの貧困線をEUの価格水準に変換する操作に影響を受ける
・絶対、相対貧困率のトレンド(時間変化)がインフレと所得格差の変化に影響を受けるかを調べる
・最後に、等価尺度が両方の基準に影響を与えるか調べる
4.1 Differences in poverty levels
・両者の水準がどうして違うのか大きな二つの理由がある
・所得格差自体とPPPの使用(アメリカの貧困線を他の国に固有の閾値に変換する際に用いる)
・所得格差の違いは相対的貧困線の水準には影響を与えるが絶対的貧困線の水準には影響を与えない
・生活費用の違いとPPPは絶対的貧困線の値に影響を与える
・相対的貧困率の国ごとの違いは、ある国が他国に比べ低所得層側(分布の左側)により大きなばらつきを持つことから発生する
・相対基準は標準的居住者を定義するところから始まる
・EU基準では標準的居住者は中央世帯で貧困線はその中央世帯の所得の60%に設定される
・相対基準では、所得格差が大きいと貧困率が高い値を示すのは特定の条件の下でのみだ
・これは条件をより形式的にすると明らかになる
・まず、焦点を全体の所得分布から分布の左側のみに絞る
・Fm(y)を標準的居住者の所得y(m)までの累積所得分布とする
・Fm(y)=∫f(y)dy
・f(y)は0<y<100、y(m)=100となるようにy(m)で単位を変換する
・貧困線zは標準的居住者の所得の一定割合として決定される
・二つの国の累積所得分布がFa(y)とFb(y)で表せたとする
・その特定の貧困線zで評価した場合のみ、AはBより高い貧困率になるとする
・Fam(z)>Fbm(z)
・言い換えるとAの貧困線以下の所得のばらつきがBのそれよりも大きい
・もしkの値を別にしたり、標準的居住者を中央世帯から変えたらBはAよりも高くなりうる
・相対的貧困率は表2で示すような他の指標とも矛盾しうる
・中央値以下で高いばらつきを示す国は相対的貧困率も高くなる
・さらに絶対貧困率、相対貧困率の差も大きくなる
・図2に2000年の所得分布を用いたボックスプロットを示す
・所得分布の左半分のみを示す
・それぞれの国の中央所得値を100に設定する
・ボックスが広いほど中央所得値以下での所得のばらつきが大きいことを示す
・60%のところにある垂直線は貧困線を表す
・この線より左側にある観測対象は相対的貧困とされる
・中央値以下の所得のばらつきが大きい国は相対的貧困率も大きい(アメリカ、イギリス、アイルランド、ポルトガル、イタリア、スペイン)
・太字の黒線の位置も重要だ(中央所得以下の人たちの25%から75%が位置する)
・アメリカの黒線の位置がもう少し右だったら相対的貧困率はもっと低い
・または基準を中央所得の40%と定義すれば(他の国の貧困率はあまり低下しない一方で)それだけでアメリカの相対的貧困率は激減する
・表2(クリックすれば拡大)に絶対的、相対的貧困率とを他の指標と関連付ける
・第二列は2000年のユーロを基準とした場合の国ごとの中央所得値を示す
・第三列と第四列は所得分布全体のジニ係数と左半分の分布に基づいたジニ係数を示す
・この指標が高い国は相対的貧困率も高い傾向にある
・それでもどの指標を用いるかで順位は変わりうる
・オランダのジニ指数はルクセンブルグより低い
・しかし下半分のみを取ればオランダの方が高い
・その上、下半分はオランダの方が高いにもかかわらずオランダの相対的貧困率はルクセンブルグより低い
・ポルトガルとスペインにも同様な現象が見られる
・絶対的、相対的貧困率が最も乖離しているケースはアメリカだ
・この要因は中央値以下の所得の分散の大きさと閾値の位置の違いで説明できる
4.1.2 Cost of living
・ここまで調べた国は異なる通貨を使用し異なる価格水準を持っている
・国際比較は貧困線が同一の生活水準を反映した時に初めて可能になる
・1993年の購買力平価を用いて1993年のアメリカの閾値をヨーロッパ各国の閾値に変換した
・その他の年度はそれぞれの国のCPIを用いて更新した
・PPPを用いることの意義と基準年の変更が与える影響は後で示す
・PPPを用いることの問題は貧困線周辺の所得水準の人々が消費する財やサービスの費用を反映していないかもしれないことだ
・第一に消費財以外の価格も含んでいる
・第二に平均的所得水準の人は貧困線以下の所得の人とは別の物を消費しているかもしれない
・財の相対的消費量も所得によって変化する
・現在P(Poverty-relevant)PPPが開発中だが使用できない
・よってPPPを使用する
・1993年のポルトガル人の40%が基本的な生活水準を満たすことができないというのは信じがたい
・ポルトガル、ギリシャ、イタリア、スペインなどはPPPPを用いれば絶対的貧困率がもうすこし低くなるのではないかと予想する
・貧困推計は基準年の選択に影響を受ける可能性がある
・A国のt時点の貧困線zはアメリカの閾値にPPPレートqを掛けることによって得られる
・Zat=Zust*qt
・そこからインフレ率πを用いて更新される
・Za+1=Zat*(1+πt)
・A国の生活費用がアメリカの生活費用とともに上昇したら、PPPレートも上昇する(貧困線も上昇する)
・インフレ率が一定だとしても為替レートの変化がPPPレートに変化を与え貧困線に影響を与える可能性がある
・PPPの基準年の選定は貧困推計に影響を与える可能性がある
・1993から2000にかけてギリシャ、スペイン、アイルランド、イタリア、ポルトガルは大きなPPPの変動を経験した
・ギリシャを例にとる
・1993に0.494だったPPPレートが2000に0.685に上昇した
・グラフ3に基準年の選定によって絶対的貧困がどのように変化するか示す
・線は1993年のPPPレートを用いた貧困線の推移
・点線はアメリカの閾値をギリシャの生活水準に毎年変換した場合の推移
・2000年のPPPレートを用いたらギリシャの2000年の貧困率は26%でなく30%だっただろう
・基準年の違いは絶対的貧困率の水準には影響を与えているがそのトレンド(時間変化)には影響を与えていないことが分かる
・ギリシャ以外の国のPPPの変化は小さく、貧困の水準に与える影響は小さい
・結論として基準年の選択に裁量の余地はあるが、為替レートやインフレ率が異常に変化した年を除けば問題はないと思われる
4.2 Differences in poverty trends
・絶対的貧困率の推移は物価水準の変化と所得の変化をつきあわせることにより説明できる
・相対的貧困率の推移は所得分布の変化に対応する
・このメカニズムが絶対的、相対的貧困率に与える影響を貧困線の年度ごとの変化と所得分布の変化を分離して分析する
4.2.1 Method for updating the poverty lines
・式8で示したようにアメリカの閾値は消費者物価指数に基づいて毎年更新される
・%ΔZa=π
・相対的貧困率は中央所得の変化で更新される
・%ΔZr=%Δym
・金融当局の努力により物価変化は経済成長より安定的になった
・これは相対指標で用いられる更新メカニズムが自動安定化装置として機能することを意味する
・好況期には閾値は中央所得とともに上昇する
・不況期にはより下落する
・下の図はオランダの絶対的、相対的貧困線が更新される様子を示す
(注 特定の国を除いてはメディアンを用いてもCPIを用いて更新しても貧困率に大きな差はないように見える)
4.2.2 Changes in inequality
・前の章では相対的貧困率が経済発展に応じて変化することを示した
・他の重要な要因は所得分布の変化だ
・相対的貧困率は全ての所得階層の所得が同率で変化した時には変化しない
・相対的貧困線と全員の所得が同率で更新されるからだ
・低所得層の所得が中央値の上昇以下だったら相対的貧困率は上昇するだろう
・低所得層の所得が実質で上昇したら絶対的貧困率は下落する
・このことをわかりやすくするためにgrowth incidence curves (GIC)を使う
・GICは個々のパーセンタイル値での所得の成長を示す
・Yt(p)=1/F(p)=L't(p)ut (Y't(p)>0)
・Lt(p)はローレンツ曲線
・ローレンツ曲線は低所得層の所得が全体の所得に占める割合を示す
・所得pthパーセンタイルの所得の成長率は
・gt(p)=[Yt(p)/Yt-1(p)]-1
・gt(p)=L't(p)/L't-1(p)(γt+1)-1
・γt=(μt/μt-1)-1は平均所得の成長率
・格差に変化がなければGICは平均所得成長率で水平線になる
・gt(p)がpに関して減少関数ならば格差は減少する
・その分布を構成する個々人の実際の所得変化を反映するものではない
・なぜなら個人は所得分布内を移動するから
・職を失ったり、昇進したり、引退したりすると所得が変化する
・低所得とは個人に該当する状態であって、pthパーセンタイルにではない
・単純化のために、所得階層間で移動がまったくない状態を想定する
・同じことだが、移動があってもその変化がちょうど相殺されるような状態を想定する
・絶対的貧困はインフレ率のみで更新される
・絶対的貧困の変化は貧困線周辺の実質所得の変化で説明できる
・絶対的貧困は貧困線のちょうど上(下)の世帯の実質所得の成長率が負(正)のとき上昇(下落)する
・相対的貧困は貧困線周辺の実質所得の変化と中央値の変化の組み合わせで説明できる
・相対的貧困は所得中央値の実質所得成長率が貧困線の上(下)のパーセンタイル値の所得の成長率より高い(低い)とき上昇(下落)する
・1993年と2000年の所得分布を用いた個々の国のGICを図表6に示す(縦軸はそれぞれの国でスケールが違うので注意)
・さらに平均年間実質成長率を示す
・曲線はGICを表し、(点線の)水平線は中央所得の平均年間成長率を反映している
・全ての所得が同率で成長すればGICは平坦で、所得格差に変化はない
(少々気になる点は次回以降に後回し)
(画像が小さいがクリックすれば多分拡大する。縦軸が所得の成長率、横軸が0から低所得世帯、100に近づけば高所得世帯を表す。水平の点線が中央世帯の所得成長率を表す。これより高いか低いかで貧困率は影響を受ける。それぞれの国の水平線は値がかなり違うので注意。例 デンマーク 1% ドイツ 0% オランダ 1% アイルランド 6% フランス 2% アメリカ 3%等)。
・国の成長パターンは成長の水準もさることながら所得成長の分配のされ方においても大きく異なっている
・多くの国で、低所得層は経済成長から最も恩恵を受けている
・だが、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、オランダ、アイルランドではこれはあてはまらず逆になっている
・貧困の推移がこの成長パターンでどのように説明できるかを見るために貧困率周辺での所得パーセンタイルと中央値に焦点を充てる必要がある
・アイルランドがわかりやすい事例だ
・アイルランドは高い経済成長を記録した
・全ての所得階層がこの恩恵を受けた
・パーセンタイル毎の所得成長率は殆どが4%かそれ以上だった
・絶対的貧困線は実質で見て変化しないので、アイルランドの絶対的貧困率は下落した
・1993年ではアイルランドの絶対的貧困率は30%を超えていた
・2000年には11%を下回った
・しかし、GICを見ると中間所得層が他の層より多くの恩恵を受けていたことがわかる
・中央所得成長率は6%を超えていた
・貧困線周辺(16-21パーセンタイル)の所得成長率は5%だった一方、相対的貧困線もまた6%以上の率で上昇した
・その結果相対的貧困率は17%から21%に上昇した
・貧困率が低かったり、成長率が低かったりするとその効果を図で示すのは難しくなるが
・高い成長を示した国々の間にも著しい違いがある
・ギリシャ、スペイン、ポルトガルでは下位20パーセンタイルが中央所得より高い成長を示したが、アイルランドは逆だった
(大部分省略)
・等価尺度の比較
・例 家族構成が両親、子供一人の場合、OECD基準は1.8、米国基準は1.55で評価している
・OECDの基準と米国基準はこの表が示しているように部分によっては大きく異なる
・この違いと人口構成の違いがどのぐらい貧困率に影響を与えるかを示したのが以下の図
・もしかしたらわかりにくいかもしれないので事前にポイントを説明する
・元々絶対的貧困率はほとんどアメリカでしか用いられていない
・上でも説明があったように等価尺度もアメリカとヨーロッパで基準が異なる
・これまで説明されていた絶対的貧困率の数字はあくまでもアメリカ基準の等価尺度を用いた場合での数字
・仮に等価尺度をOECD基準に切り替えた場合は、例えばギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの絶対的貧困率は表2の数字からさらに10%ポイント以上跳ね上がることを意味している
・絶対的貧困率にOECD基準を適用した場合、ほとんどの国で貧困率は上昇する
・相対的貧困率はあまり変わらない
・これは元々の絶対的貧困率がOrshansky(絶対的貧困率の開発者)尺度を用いていたため
・だが変動の最も大きな要因はそれぞれの国の人口構成
・元々の等価尺度の差がそんなに大きくないので
・例を挙げると2000年のスウェーデンとドイツの絶対的貧困率はそれぞれ5.7%と5.1%
・絶対的貧困率の等価尺度をOECD基準にすると6.8%と7.7%になる
・表1にこの数字を+した値がOECD基準の等価尺度を用いた場合の絶対的貧困率になる
省略
5. Conclusion
省略
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