2013年3月31日日曜日

北欧信者終了のお知らせ?

人口が3億のA国と人口が3000人のB国があったする。全人口のうち1割が研究開発、技術開発などに携わるとしてAとBの間に一切の情報その他のやり取りがなかったとする。AとBは人口の規模以外はまったく同一の条件で同じ所得水準からスタートしたとする。100年後豊かになっているのはどちらの国か?新古典派成長理論はこの場合圧倒的にAだと答えるが現実のデータを見るとどうもそうはなっていない。それは何故なのか?について書かれた論文。

Scale Effects and Productivity Across Countries:Does Country Size Matter?

by Natalia Ramondo Andr´es Rodr´ıguez-Clare Milagro Sabor´ıo-Rodr´ıguez

1 Introduction

成長がイノベーションによりもたらされるモデルには自然に規模の経済が伴う。Jones (2005)によると「規模の経済は知識をもとにした成長モデルと密接に結びついていて一方を否定することはもう一方を否定することにつながる」。Romer (1990)、Kortum (1997)、Jones (2005)で説明されているように規模の経済は知識は非競合性を持つという仮定に従っていて標準的な成長モデルでは所得水準は国の規模と共に上昇すると暗示されている。だがデータを手早く見た限りだと小国は大国に比べて貧しいように見えない。ベルギーとフランス、香港と中国を見よ。

この研究の目的はこの一見したところの非整合性の原因を調べることにある。我々は条件を一にするならば小国は大国よりもずっと貧しいだろうということを暗示したKortum (1997)の研究から出発する。例えば我々のカリブレーションによるとデンマークの所得水準はアメリカの所得水準の34%になるだろうことを示す。これは観測される91%に比べてはるかに低い水準だ。このギャップを「デンマークパズル」と呼ぶことにする。だがこれはOECD加盟国の小国すべてに共通するパズルだ。

このパズルを解消する候補はすぐに2つは浮かび上がる。第一に国は互いに対して完全には隔離されていない。第二に国は完全には国内で統合されていない。国は隔離された存在ではないという考えを取り入れるためにKortum (1997)のモデルに貿易と多国籍生産を組み込む。よって我々のモデルでは国は貿易と多国籍生産(以下 MP)を通して統合される。国は統合された存在ではないという考えを取り入れるために各国をいくつかの地域の集合体とし地域間の貿易と多国籍生産に摩擦が掛かるようにモデル化する。国内摩擦は国レベルでの規模の経済の効果を弱め大国に不利に働く。極限では国内摩擦が国際間摩擦と同じぐらい強ければ規模の経済は消滅するだろう。

2章では性質は同一の複数の地域から構成された閉鎖経済からモデル化する。閉鎖経済モデルを貿易とMPをどのように導入しその摩擦が規模の経済を弱めるかを最もシンプルな方法で説明するために用いる。次にこのモデルを国際間の貿易と国際間のMP(ある国の任意の地域を起源に持つ生産のための知識を他の国の任意の地域で用いる)へと拡張し実質賃金が国内摩擦と貿易に対する開放から得られる利得(これ自体も貿易とMPの関数となる)の関数であることを示す。

3章ではモデルをカリブレートしそして開放度と国内摩擦がデンマークパズルを解消するのに果たす役割を調べる。デンマークの場合ではモデルはデンマークの実質賃金がアメリカの実質賃金の76%(データでの91%に対して)であることを示唆している。従って2つの経路を合わせるとパズルの70%以上を説明できる。国内摩擦が開放度よりもはるかに重要でデンマークパズルの3分の2以上を説明し貿易とMPは5%を説明することが分かった。残りの4分の1が残されているが貿易やMPと関連しない他の形態の開放度(企業の外で行われる知識の国際間の拡散など)の存在が考えられる。4章と5章でこの点に関して触れる。

注5 適切な用語がなかったのでMPという用語を同国内の他の地域からもたらされた知識を用いて(同国内の)ある地域で行われる生産に対しても用いる。例えばウォルマートのアーカンサス州以外での活動もそれがアメリカ内の活動であったとしてもMPと呼ぶ。

注6 その他の極限として国内摩擦が存在せず国際間の摩擦が無限大である場合が標準的な成長モデルだ。

この研究は国の規模、開放度、所得との関係を調べた一連の研究と関連している。Ades and Glaeser (1999)、 Alesina, Spolaore, andWacziarg (2000)は国の規模と貿易が所得に対して正の効果を与えていると報告した。そして規模の経済は貿易に対する開放度によって弱められることも報告した。Frankel and Romer (1999)、Alcala and Ciccone (2004)はは国の規模と開放度は所得の高さと関連すると報告した。Alcala and Ciccone (2004)は貿易、制度の質、地形を制御して規模に対する所得の弾力性が0.30であると報告した。我々のモデルの結果に極めて近い。この分野では小国は貿易からより利益を得ていると報告される傾向がある。だが我々のモデルではその効果は小さい。開放度はデンマークパズルをほとんど説明できない。

国内の地域はすべて同質であるという仮定は強すぎるかもしれない。国の内部構造は国内貿易の費用とMPの費用、さらに地域の数で完全に特徴付けられる。Redding (2012)は貿易からの利益を国が複数の非対称な地域から構成されるという設定の下での計算の仕方を示した。原則的にはこれにMPを組み込んで各国が複数の非対称な地域から構成されるという設定の下で貿易とMPからの利益を計算するように拡張できる。だがこの拡張には全世界の地域のすべての組の間の貿易とMPのデータ(アメリカのすべての州とカナダのすべての州の間の貿易とMPのデータのようなもの)を必要とする。そしてそのようなデータは単純に存在しない。

国内の地域はすべて同質であるという仮定は強すぎるかもしれない。国の内部構造は国内貿易の費用とMPの費用、さらに地域の数で完全に特徴付けられる。Redding (2012)は貿易からの利益を国が複数の非対称な地域から構成されるという設定の下での計算の仕方を示した。原則的にはこれにMPを組み込んで各国が複数の非対称な地域から構成されるという設定の下で貿易とMPからの利益を計算するように拡張できる。だがこの拡張には全世界の地域のすべての組の間の貿易とMPのデータ(アメリカのすべての州とカナダのすべての州の間の貿易とMPのデータのようなもの)を必要とする。そしてそのようなデータは単純に存在しない。

2 The Model

3 Quantitative Analysis

19のOECD加盟国を対象とする。オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、スペイン、フィンランド、フランス、イギリス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、日本、オランダ、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガル、スウェーデン、アメリカだ。これらはEaton and Kortum (2002)、Ramondo and Rodr´ıguez-Clare (2010)と同じだ。

3.1 Calibration of Key Parameters

最後に3番目の方法はAlcala and Ciccone (2004)の結果を用いるものだ。この弾力性は式(17)の文脈内で解釈できる。HnとDnは地形を、Tnは制度を、式(17)の最後の3項が貿易とMPの開放度に対する制御変数になっているとすればMn=Ln/Lと(1+η)/θの係数は0.3と等しくなりうる。η=0.5ではθは5に等しい。

θ=6をベースとなる値として選び θ=4、θ=8を頑健性の確認として調べた。実質賃金の弾力性ln'(wn/Pfn)/ln'Lnは(1+η)/θ=1/4でJones  (2002)の1/5とAlcala and Ciccone (2004)の1/3に近い。この値は都市経済学の文脈での弾力性に比べて高いように思われるかもしれない。例えばCombes et al. (2012)は密度に対する生産性の弾力性は都市レベルでは0.04から0.1の間だと報告している。だがこれは誘導型の弾力性であって我々のものは構造型の弾力性であることに注意する必要がある。よって小国が強い規模の経済で示唆されるよりも豊かなのと同じ理由(国内摩擦と開放度)で観測される都市の規模の経済の効果は低められることになる。

注19 この結果はRose (2006)の小国は貧しくないという結果と対立するものではない。彼は何も制御していないのに対してAlcala and Ciccone (2004)は制度、地形、貿易を制御しているからだ。

3.2 Preliminary Results: the Danish Puzzle

国内摩擦のない閉鎖経済モデルから始める。そのケースではH=D=1だ。さらにMnTn=Ln~Tnとなる。よって実質賃金は以下で与えられる。

wn/Pfn=~γ(Ln~Tn)^(1+η)/θ  (20)

~TnがR&Dに従事する人数の割合と直接的に変動すると仮定してカリブレートする。R&Dに従事する人数の割合はWorld Development Indicatorsの90年代のデータの平均値を取って用いた。Lnは実効労働量を示す変数でKlenow and Rodr´ıguez-Clare (2005)のものを用いた。

図1にR&D集約度とLn~Tn=MnTnで調整した規模と実質賃金との関係を図式化した。緑の点は閉鎖経済下のモデルの実質賃金を描写していて黒の点は実際のデータのものだ。閉鎖経済モデルは小国の所得水準を過小予測していることが簡単に見て取れる。


(アメリカの賃金水準を1とした場合の各国の相対的な賃金を表したグラフ。黒が実際のデータで緑がスピルオーバーがないと仮定した場合に予想される実際のデータ)。

3.3 The Gains from Openness

始めに閉鎖の下での実質賃金と観測されるデータとの間のギャップが国内摩擦のないモデルの貿易とMPからどのぐらい説明できるかを調べる。この文脈では開放経済の下での実質賃金は閉鎖経済のものを開放度で強化したものと同じだ。式(17)と式(18)から実質賃金は以下で与えられる。

wn/Pfn=~γ(Ln~Tn)^(1+η)/θ×GOn  (21)

GO(*Gains from Opennessの略)は次に説明するデータから直接計算される。

3.3.2 Does Openness Resolve the Danish Puzzle?

図2にn国の貿易からの利益(GOn)とR&D調整した規模Ln~Tnとの関係を示す。小国は大国よりも多くの利益を得ている。開放度はデンマークパズルをどのぐらい説明するのか?


国内摩擦のないケースで開放経済の下でのn国の相対的な実質賃金は以下になる。

wn/Pfn/wus/Pfus=(Ln~Tn/LusTus)^(1+η)/θ×GTn/GTus/GMPn/GMPus  (22)

GT(*Gains from Tradeの略)は貿易からの利益を示す。GMP(*Gains from MPの略)はMPからの利益を示す。

表1の列1は国内摩擦がない場合での閉鎖経済下の実質賃金を示す。以前述べたようにモデルは小国は実際のデータよりもずっと貧しいことを示している(列1と列6)。列2に貿易からの利益を、列3に貿易だけを組み込んだモデルから示唆される実質賃金を示す。列4に開放度からの利益を示す。列5に式(22)から示唆される実質賃金を示す。サンプルの中で最も小さい7つの国に焦点を絞る。表10にすべての国の結果を示す。


実質賃金はアメリカに対する相対値であることに注意が必要だ。デンマークが開放度から大きな利益を得ていたとしても(1.35)、アメリカもまた利益を得ている(1.23)。よってデンマークパズルを解消する純効果としては開放度は大きくない。実質賃金のギャップは大きいままだ。モデルはデンマークがアメリカの37%の実質賃金であることを示唆している。デンマークに対しては開放度はギャップの5%を説明するに過ぎない。この様子が図1から簡単に見て取れる。

中間段階として表1に貿易からの利益の貢献度を示す。開放度は既存の研究でのデンマークパズルの解消の自然な候補だった。だがベルギーを除いては貿易はパズルの解消に大して貢献していない。小国は貿易からの利益を加えたモデルでよりも実際のデータの方がずっと豊かだ。

注22 この直感に反する示唆はEaton and Kortum (2002)、Alvarez and Lucas (2007)、Waugh (2010)の貿易だけを組み込んだモデルでも共有されている。より正確に言うとこれらはすべてパラメータTが実質賃金のデータに丁度適合するようにカリブレートされている。だが直感に反するのは小国でT/Lがはるかに高いことだ。これはデンマークパズルを別の視点から見たものだ。

3.4 Domestic Frictions

開放度と国内摩擦を組み込んだ場合では実質賃金は式(17)で与えられる。n国のアメリカに対する相対的な実質賃金は以下のようになる。

wn/Pfn/wus/Pfus=(Ln~Tn/LusTus)^(1+η)/θ×GOn/GOus(Hn/Hus)^-1/θ(Dn/Dus)^-η/θ  (23)

国内摩擦の果たす役割はこの表現の右側の第3項で捉えられる。これら摩擦の役割を評価するためにはすべての国のdnn、hfnn、Mnをカリブレートする必要がある。

貿易とMPに対する国内摩擦は分析の上で重要な変数だ。第一にdnnはアメリカのものとその他の国で同じと仮定している。基本となる推計ではdnn=1.7で2002のデータでθ=6に対応する。第二に最終財のMPへの摩擦は貿易への摩擦と同じぐらい大きいと仮定している(hfnn=dnn)。以下で頑健性を確認する。

3.4.2 Do Domestic Frictions Resolve the Danish Puzzle?

結果を見る前にhfnnとdnnが結果に対してどれぐらい重要なのかを示す。図3にこれら2つの国内摩擦の間の関係とモデルによって示唆されるデンマークの相対的実質賃金を示す。図3の左側でhfnn=1.7に固定したままでのdnnの変化を考慮する。データではデンマークの相対的実質賃金は0.91だった。モデルではデンマークの相対的実質賃金はdnnとともに上昇する。dnnの1から4への上昇はデンマークの相対的実質賃金を0.6以下から0.85へと上昇させる。最終財のMPへの国内摩擦だけでデンマークパズルの45%(0.6から0.85)が解消されるだろうことを記す。


同様に図3の右側はdnn=1.7に固定したままでデンマークとアメリカのhfnnの変化を考慮する。特にhfnnが4の場合にモデルはデータで観測される相対的実質賃金とほぼ完全に適合する。最終財に対する高い摩擦により規模の経済は非常に弱くなり開放度から得られるデンマークのアメリカに対する相対的に高い利益(1.36と1.23)が規模の小ささとR&Dに従事する人数の割合の低さを埋め合わせる。最終財の国内MPが摩擦なしで行われるならば(hfnn=1)デンマークの実質賃金は0.45となりデンマークパズルの20%を解消するだろう(0.34から0.45)。

驚くべきことではないが貿易とMPのどちらかへの高い国内摩擦は小国よりも大国に影響を与え小国がキャッチアップするのを可能にする。だがMPへの国内摩擦が上昇した場合にデンマークはアメリカに対してより速くキャッチアップする。そうなる理由は最終財への国内摩擦が中間財への国内摩擦よりも実質賃金に対して強い影響を与えるからだ(式(17)のHn^-1/θとDn^-η/θの指数の中に1/θ>η/θとして反映されている)。

表3に国内摩擦がdnn=hfnn=1.7とカリブレートされた場合での実質賃金を示す。今度もサンプルの中で最も小さい7つの国に焦点を絞る。Appendixにすべての国の結果を示す。


列1に閉鎖経済下での実質賃金を示す。列2に開放度からの利益を示す。列3に国内摩擦を示す。列4に国内摩擦と開放度を組み込んだモデルから示唆される実質賃金を示す。列5に実際のデータでの実質賃金を示す。

国内摩擦は規模の経済の効果を減少させ小国の手助けをする。デンマークの実質賃金は国内摩擦を考慮した場合には2倍以上になる。国内摩擦は開放度よりもデンマークパズルの解消に大きく貢献している。国内摩擦により実質賃金は閉鎖経済下での0.34から0.69へと上昇する。一方で開放度はわずか0.37へと上昇させるに過ぎない。国内摩擦だけでギャップの3分の2以上を解消することが出来る。

注25 データの制約により各国間のdnn(とhfnn)の違いを考慮することが出来ない。だが各国間のHnとDnの違いを利用することは出来る。これがモデル上で小国の所得水準を押し上げる結果へとつながっている。

図4に実際の実質賃金(黒点)、閉鎖経済下での実質賃金(緑点)、摩擦のある開放経済下での実質賃金(紫点)を示す。各国はR&Dで調整した規模Ln~Tn=TnMnの順に並べてある。すべての変数はアメリカに対する相対値で示してある。この図はギャップを解消するのに最も貢献しているのは開放度ではなく国内摩擦の存在であることをはっきりと示している(図1の赤に対する緑、図4の紫に対する緑)。


4 Discussion

デンマークパズルの残りの部分を説明できる鍵となる要素は何か?

1つの可能性として小国はよい制度から利益を得ていることが考えられる。これはR&D部門に投入される労働者の割合から示唆されるよりも高い技術水準Tnとして反映される。よい制度はそもそもとしてこれらの国が小国として独立していられることを可能にしてきたかもしれない。この可能性を調査するためにR&D集約度ではなく実効労働一単位あたりの特許数を技術水準Tnに対する代理変数として用いる。

基本となる結果は変わらない。さらに小国は就学年数、政府の汚職、官僚制度の質、法の支配などの点で有利かどうかを調べてみた。これらの変数とR&Dで調整した規模(~TiLi)との相関は0.30、-0.17、0.12、0.22だった。小国がよい制度を通して生産性を向上させているという考えはデータから支持されなかった。

他の可能性として貿易とMP以外から開放度による利益を得ているということが考えられる。明確な例として地方の企業が外国の技術を用いることを可能にする国際的な技術の拡散がある。残念なことにライセンスを通して発生するわずかな部分でしか直接的に技術の拡散を追跡した資料は存在しない。

間接的ではあるがいくつかの資料は国際的な技術の拡散の重要性を指摘している。Eaton and Kortum (1996, 1999)は国際的な特許のデータを用いて間接的に技術の拡散の流れを推測するモデルを開発している。彼等はアメリカを除いたほとんどのOECD加盟国の生産性成長は外国の研究からもたらされていることを示した。そのようなモデルと我々のモデルを統合することは将来の研究課題だ。ここでは技術の拡散がデンマークパズルをどのように解消するかを簡単に確認する。

l国の技術を用いて行われるi国での生産量の何割かがMPとして記録されないと仮定する。中国でフォックスコンにより生産されるアイフォンの例を考える。これはアメリカの技術を用いて中国で生産が行われているがその生産が中国の企業により行われているのでMPとして記録されない。φ>0と設定することによりこの現象を捉えその重要性を調べることが出来る。φの値は開放度からの利益の計算に影響を与える。ΣYfni=wnLnである最終財の場合を考える。すでに述べたようにYfniをn≠iに対してMPデータから計測する。そしてwnLnをn国のGDPとする。次にYfnnをYfnn=wnLn-ΣYfnnの残差として得る。φ>0の場合に外国の技術を用いたn国の実際の生産量は1/1-φΣYfniで故にYfnn=wnLn-1/1-φΣ Yfniとなる。高いφの値は低いYfnnを示唆し故に最終財のMPから高い利益を得る。ある程度同様のことが中間財でも起こる。

注32 小国は大国に比べて高い特許の生産性を示さない。実効労働1単位あたりの特許とR&Dで調整した国の規模との相関はアメリカと日本が含まれる場合には正で0.7ぐらいだがこの2国が除かれた場合には0.35へと減少する。

注34 例えばベルギーのような国の特許は97%が外国によって登録されている。

φは各国間で同じで高いφの値は技術の拡散の大きさを示唆していると仮定した。図5にφがデンマークの相対的な実質賃金に影響を与えるかを示す。φ=0に対してデンマークの実質賃金は0.75になる。φ が上昇した場合にデンマークの実質賃金は上昇し が0.30に近づいた場合に実際のデータと一致する。φ>0.30の場合にデンマークは急速にキャッチアップしφが十分に高くなった場合にさらに豊かになる。この演算は妥当な水準の技術の拡散で残りのギャップを埋めるのに十分であろうことを示唆している。


5 Conclusion

(省略)

(追記)残りの表をいくつか掲載する。


(日本とスウェーデンの1人あたり実質GDPが際立って低いのが目立つ)


(就学年数にかなりの差があることはあまり知られていないようなので記しておく。他に目を引くのは1人あたり特許件数だ)

アメリカの貧困率は出鱈目だった?

If The US Spends $550 Billion On Poverty How Can There Still Be Poverty In The US?

by Tim Worstall

統計局はちょうど貧困率を発表したところだ。毎年のことながらここで疑問へと直面する。アメリカは膨大な額を貧困の削減に費やしているのにどうして貧困率が高いのか?

これに対してシンプルな回答がある。単に貧困の削減に費やしたお金をカウントしていないというものだ。つまり膨大な額を費やしていながらあたかも何の効果がなかったかのように振る舞っているのだ。

ここに統計局の発表した数字がある。

「2011年の貧困率は15.0%だった。貧困線以下の所得で暮らす人が4620万人いたことになる。3年連続で上昇したが2011年の数字は2010年の数字から変化しなかった」

アメリカのように豊かな国に対する数字としては高すぎるということが出来ると思う。実際多くの人々がそのように議論している。だがこの数字には問題がある。我々は貧困層と定義された人々全員を55兆円で貧困から引き上げることが出来るのだ。*これはGDPの3%から4%に相当する。そのぐらいの費用で貧困の大部分を解決できるのなら良いことのように思われるだろう。

この数字は貧困線を見ることから確認できる。成人につき110万円と少しだ。5000万人を下回る人々が貧困層と定義されている。よって彼等に110万円を配れば貧困はなくなる。問題は解決しその費用は55兆円ぐらいになる。

これは費用としては上限額であることに注意する必要がある。例えば4人家族(2人の大人と2人の子供)の所得が440万円を下回っていたからといって彼等を貧困層とは呼ばない。昔あった話に結婚した2人は生活費を1人分まで削減できるというのがあったがそこまではいかないものの2人家族の生活費は単純に2倍にならないというのは事実だ。(貧困率の計算では)4人家族の所得が230万円を下回った場合に彼等を貧困層と呼ぶことに定義している。だがここではすべての個人を1人の成人として扱って彼等1人1人に110万円を与えればアメリカに貧困はなくなると計算している。その費用が55兆円だ。この数字はさらに彼等の市場所得がゼロだと仮定している。だからこれは上限の数字だ。

そうすべきだろうか?それは政治的質問で私のような外国人が取り扱う範囲を超えている。指摘したいのはこれは許容できる範囲の正確性ですでに成されているということだ。55兆円はすでに費やされていてよって本来なら貧困層はすでに存在しないはずなのだ。未だ貧困層が存在している理由は我々が定義する方法によって、その55兆円を貧困の削減に費やされたとカウントしないことになっているからだ。非常に奇妙な方法に思われるだろう。

メディケイドは低所得層のための医療給付だ。この費用は2010年で40兆円になる。SNAPは同年に7兆円だった。EITCは5.5兆円だ。これらを足すと52兆5000億円になる。アメリカの貧困を撲滅するのに十分な額だ。仮にこのお金を現金の形で渡したら貧困層はいなくなるだろう。

どうして貧困層がいなくなるのに十分な額を費やした後でも未だに5000万人近い人が貧困層として存在するのか?単純にこのお金をカウントしていないからだ。分かってる、分かってる、とても信じられないと言いたいんだろう?でも統計局もまったく同じことを言っている。

「貧困率は貧困線と課税前の貨幣所得を比較して推計する。非現金給付は含めない」

この「課税前」はEITCも含まれていないことを意味するように思われる。税体系を通して機能するからだ。SNAPは現物給付だ。メディケイドも同様だ。住宅バウチャー(そう、HUDを通して費やされるほとんどすべてのお金は含まれない)のような多くの他のプログラムも同様だ。

貧困を消滅させるのに必要なお金を費やしながら貧困層と定義される人々の人数をまったく減少させない理由になっている。

貧困の削減をしようと考えている人々のうちで幾人かはこのことに気づいているようだ。Dylan Matthewsの主張はここにある。彼等は貧困層に現金を与えれば貧困が削減されると主張している。彼等はそのお金で何人ぐらいが貧困層でなくなるかも計算している。だが我々はその計算に慎重でなくてはならない。

彼等は統計局の定義を使っていない。彼等はNational Academy of Sciencesのものを使っている。統計局は絶対的貧困率を用いている。1960年代に必要な栄養を摂取するのに掛かった食料費の3倍として定義されている。これはインフレ率で更新する以外には他には何の変更も加えられていない。この期間に食糧の相対価格が大幅に下落したのでこれは誤解を生む指標となっている。現在の妥当な推計では食糧は家計の予算の10-15%で30-35%ではない。よってかつてよりも現在ではより多くのお金を食糧以外のものに費やすことが出来る。

NASのものは相対的貧困率だ。中央所得を求めそれに対する割合で定義する。その割合を下回った所得を貧困と定義する。これは貧困の指標というよりも所得格差の指標だ。だがEITC、SNAPなどによって貧困層でなくなる人数の計算はこのNASの定義にもとづいて行われている。統計局のものではない。

上記の数字や議論は必要以上に挑発的であったように見える。詳細に見れば上記の議論の細部に穴があるということは可能だ。だが基本的な主張に変更はない。アメリカは現在貧困を消滅させるのに十分な額を費やしている。統計局が用いている定義によれば貧困層に物やサービスを渡すかわりに現金を与えれば貧困率はゼロになるだろう。そうなっていない理由は単に貧困率の計算にその額を含めていないからだ。

これは本当に奇妙なことだ。アメリカは50兆円以上を費やしている。これは$500,000,000,000以上だ。この数え方によるとこれだけ費やしても貧困は只の1人も削減されないことになるのだ。

ここからメディケイドを取り除くことも出来る。それでも$125,000,000,000を貧困をまったく削減することなしに費やしていることになる。すでに述べたようにこれは非常に奇妙なことだ。

*これは非常にラフな計算であることに注意して欲しい。桁数の計算は合っている。これらの数字に関する不確実性を考慮すれば見掛けの正確性ということはありうるだろう。

アメリカの貧困率はスウェーデンよりも低い?

America Has Less Poverty Than Sweden

by Tim Worstall

こう聞くと意外に思われるかもしれない。だが実際にアメリカの方がスウェーデンよりも貧困率が低いということはできるのだ。普段聞かされている話とは違うだろうと思うがでも聞いて欲しい。

選挙が近づいているこの時期がEconomic Policy InstituteにとってState of Working America reportを提出するよい機会だったに違いない。選挙の直前はもちろん関心を集める絶好の機会だ。このことが彼等のチャートを興味深いものにしている。


これはよく目にするアメリカの貧困率を示したものではない。これは国際的に比較可能でその国の中央所得の50%以下の所得で暮らす人口の割合を示した相対的貧困率だ。このチャートは市場所得と税引き後移転後の所得の両方の貧困率を示している。

注意深く見れば市場所得でのアメリカの貧困率は26.3%であることが見て取れるだろう。スウェーデンは26.7%だからアメリカの方がスウェーデンよりも貧困率が低いと実際言うことができる。だが人々が知りたいのは貧困を削減するものをすべて加えた後の貧困率がどうなるのかであるかもしれない(注 このグラフと非常によく似た再分配前後のジニ係数の推移を示したグラフを持ち出してもっと再分配をしさえすればアメリカのジニ係数はヨーロッパよりも低くなるんだ、違いは再分配だけなんだと(この記事の数年後に騒ぎ出した)ニューヨーク・タイムズなどの左翼は誰も理解していないが、他の国と比べて巨額の報酬を受け取っているアメリカの所得上位1%というのが虚像に過ぎないということをそれらは暗に示唆している。市場所得とはまさに生の所得のデータで再分配前ではジニ係数がほとんどの国はアメリカと大して変わらないかもしくは高いということは10億円、20億円と受け取っている人たちの割合がそれほど変わらないということを示唆している。驚くことに?経済学者までもがこの相矛盾する主張を平然と行ってその矛盾に気が付かないでいる)

上記の数字からはアメリカの貧困率はスウェーデンの貧困率よりも高い。スウェーデンは貧困率を大きく低下させている。

だが私はこれが本当だとは納得していない。このチャートを作成するのにOECDからどの数字を用いたのかEPIは説明していないので少しやっかいなことになっている。そこで1つの仮定をしてみる。

EPIのものと同じ数字を用いて同種のチャートを作成した。彼等がどの数字を用いたのか説明していないのは残念だ。だが図Cを作成するのに用いられた方法と図Dを作成するのに用いられた方法は同様のものであると仮定することができる。その方法とは以下だ。次のように説明されている。

注意:貧困率は可処分所得の中央値の50%に貧困線を設定して計算している。各国は貧困率の低下割合の降順に並べてある。「税と移転」は家計に課税されたすべての所得税額を考慮し給付はすべて直接家計の所得に影響するものを考慮してある(現物給付や現金性の給付を除く)。

この方法は相対的貧困率の実際の計算方法と同じであると仮定できる。税引き後移転後に中央所得の50%以下の所得の人がどのぐらいいるのかを示しているのだ。だがそれらは現物での移転を含めていない。そしてこれはアメリカにとっては大きな問題になる。ほとんどすべての国は貧困を緩和するのに低所得層に現金を渡している。アメリカはそうではない。低所得層に現物で渡している。

この計算にアメリカの2番目に大きい給付プログラムであるEITCを含むのかに関してはっきりとしない。所得税として支払われたものならば含まれるだろうしそうでないならば含まれないだろう。EITCは所得税の一環として機能するが実際に所得税として支払われたものではない。この取り扱いが結果をどのように歪めるか例を挙げたい。私の母国のイギリスは勤労控除と呼ばれる非常によく似た制度を持っている。この効果はイギリスの貧困率の計算に含まれている。アメリカの貧困率には含まれているかもしれないしそうでないかもしれない。

アメリカの貧困率の計算に確実に含まれていないのは最大の給付プログラムであるメディケイドだ。3番目に大きいSNAPも含まれていない。もう一度イギリスとの比較に戻るとイギリスでは食糧を買うのにお金を必要とする人々には現金が送られる。これは確実に上記の計算に含まれる。アメリカではSNAPは計算に含まれない。住宅バウチャーも計算に含まれていない。対応するイギリスの住宅給付は確実にイギリスの計算に含まれている。

EPIの数字の問題点はアメリカの税引き後移転後での貧困率はある意味市場所得での貧困率を見ているのとさして変わらないというところにある。他の国はすべて税引き後移転後での所得で貧困率を計算している。よってアメリカの数字が他の国より高かったとしてもまったく驚くべきことではない。

ところで私はアメリカが他の国より相対的貧困率が高くないと主張しているのではない。その計算がおかしいと述べている。

次に彼等が数年前に作成した興味深いチャートを紹介する。現在ではウェブで見ることができないようなので参照だけ掲載する。


このチャートはとても興味深いと思う。

彼等は直接の比較が可能となるように数字に一連の調整を加えている。まず下位10%と上位10%が得る中央所得に対する比率を示している。さらにPPPで調整しているので人々の実際の購買力を示している。最後に税引き後移転後の調整がしてあるのでアメリカと他の国とで貧困を緩和するものを加えた後での比較が可能となっている。それはEITCと住宅バウチャーも含んでいる。

このチャートで私が非常に興味深いと思うのはこの部分だ。レポートが提出された時に以前私が述べたことを再度掲載する。

「このチャートをどのように解釈するか?下位10%は中央所得の39%しか得ておらず上位10%は中央所得の210%を得ているのだと。フィンランドと比較してみよう。上位10%は111%を得て下位10%は38%を得ている。我々は嘆き悲しみ全員に課税しなければならないのだろうか?」

「だがちょっと待って欲しい。このチャートから示されたのはそういうことではまったくない。アメリカの下位10%は中央所得の39%を得ていてフィンランド(とスウェーデン)の下位10%は38%を得ている。細かい数字の違いについてとやかく言うのはやめてこれをアメリカの低所得層はフィンランド(とスウェーデン)の低所得層と同じ生活水準をしているのだと解釈しよう。意味深い数字だとは思わないか?懲罰的な税率や再分配や平等主義?や平坦な所得分布などが低所得層の生活水準に簡潔に言って何の変化も与えていないのだ」

もう少し細かく見ることもできる。スウェーデンの医療は低所得層に対して寛大かもしれない。下位10%が確実にメディケイドを受給しているのかも定かではない。だがこれらの数字を引き出す際に引用されたTim Smeedingはある研究でこれらの差は微々たるものだと述べている。医療はアメリカでより高価かもしれないということは可能だ。だが食糧はアメリカでずっと安い。だから彼の言うようにこれらの差は微々たるものだと言うことができるのだ。

重要な疑問へと答えることができるようになった。貧困に関してまったく異なる4つの言明をすることができる。:アメリカは(他の国よりも貧困率が)低い、高い、同じ、またはわからないだ。我々が適用する基準に単に依存している。

市場所得での貧困率はアメリカがスウェーデンよりも低い。消費格差ではアメリカの貧困率がより高いということができるだろう。貧困を緩和するものを加えていないからだ。最後にアメリカとスウェーデンの低所得層は同じ生活水準だということがはっきりということができる。だから貧困が多いか少ないかは定義次第だ。あなたならどの定義を選ぶか?

アメリカのジニ係数はドイツやフランスよりも小さい?

The Amazing Thing About American Inequality:How Equal The Country Is

by Tim Worstall

統計局は所得格差に関するデータを丁度発表したところだ。。データ好きな私のようなタイプにとってはすごくおもしろい読み方も出来る。これらの数字に関してわずかしか理解されていない興味深いことがある。これらの数字を用いて多くの人がアメリカはなんて格差が大きいんだろうと叫ぶ。数字が示しているのは実際にはアメリカは他の先進工業国と変わらないということなのにだ。

問題はアメリカの数字をそのまま他の国と比べる場合に起こる。様々な目的のために集められた数字をそのまま比較してはいけない。以下はNYTの例だ。

「アメリカの2011のジニ係数は0.475で2010の0.469より上昇した。ジニ係数は昨年20の州で上昇した。他の州では変化が無かった」

「ニューヨーク州のジニ係数は0.503でこれは同州の所得分布がコスタリカと同じであることを意味する」

彼等が用いた数字はここにある。この数字を見てあなたは次のように思うかもしれない。アメリカの数字が0.475でスウェーデンの数字が0.23だとして低い数字が所得格差が小さいことを意味するならばスウェーデンがアメリカよりも所得格差が小さいことを示しているのだと。その前提によればそうなる。ただしそれは数字からそうなるのではない。

アメリカの数字は税引き前移転前のものだ。スウェーデンの数字は税引き後移転後のものだ。アメリカの数字は所謂市場所得と呼ばれるものでスウェーデンの数字はそうではない。

これをウィキペディアで見ることが出来る。市場所得の所得格差、税引き後移転後の所得格差の両方が掲載されている。市場所得基準でのアメリカの所得格差はイタリア、ドイツ、フランスよりも小さく、フィンランドと同じで、イギリス、スウェーデンよりもわずかに大きい。普段我々が聞かされている話と全然違う。のみならず最新の数字について語られている話とも違う。

人々がアメリカと他の国に関してのまったく異なる数字を如何に当然のように報告しているかという点を強調したいと思う。ここにまた統計局のレポートがある。これは所得格差に関する政府の公式のレポートだ。こちらにはヨーロッパの所得格差に関する情報が掲載されている。これらはまったく異なるものだ。アメリカは市場所得の所得格差を報告していてヨーロッパは税引き後移転後の所得格差を報告している。

さらに2つの強調したいポイントがある。再度NYTからだ。

「統計局の新しいレポートによるとすべてのアメリカの州でニューヨーク州が最も所得格差が大きかった。ワイオミング州が最も所得格差が小さかった」

その結果は極めて予想どうりのものだ。データが大きくなるほどそのばらつきが大きくなることが予想される。2000万人のニューヨーク州が50万人のワイオミング州よりも所得格差が大きいと自然に予想できるだろう。

例題を変えて気温の話にしよう。気温が一年を通しても年度毎にも変動することを我々は知っている。より多くの年度で気温を測定した場合により極端な値を観測する確率が上昇するだろう。同様のことが降水量やハリケーンの発生頻度などにも当てはまる。この効果は多くの分野で懸案事項となっている。つまりこの外れ値はトレンドに何か変化が起こったのか、それともデータがより拡大したからなのかと。気候変動の研究で例えるとある年に極端に暑い夏を経験したとしてそれは我々が気温を何百年に渡って観測してきたからかもしれない。そのような外れ値は時々やってくるかもしれない。最近の夏が平均的に以前の夏よりも暑いと思うようになった場合にばらつきではなくトレンドについて考えるようになるかもしれない。

同様のことが人口が増加した場合の所得のばらつきに関しても当てはまるだろう。ニューヨーク州がワイオミング州よりも所得のばらつきが大きいことは自然だ。さらにニューヨーク州にはバッファローとウォールストリートがあるので人口が多いこと以外にもニューヨーク州の所得格差が大きいと予想する理由がある。

人口が3億を超えているアメリカの場合を考える。3億の人口のアメリカと900万の人口のスウェーデンとを比較することは正しいのか?より興味深いのは3億の人口のアメリカと5億の人口のヨーロッパ連合との比較だろう。または元共産主義国家を除いたEU 15だ。ヨーロッパ連合だろうとEU 15だろうと大して問題にならない。どちらもジニ係数は同じ0.30だからだ。これは税引き後移転後の数字だ。アメリカは0.38だ。そう、アメリカがヨーロッパよりも所得格差が大きいことになる。だがその幅は人々が考えているものよりもはるかに小さくなる。または流布されているものよりもはるかに小さくなる。

次のポイントに移ろう。このアメリカの数字でさえ過大申告されている。税引き後移転後でさえアメリカの数字の取り扱い方は適切ではない。所得格差にしても貧困率にしても低所得層が受け取る現金を加えている。だが低所得層が現物支給の形で受け取る物(Medicaid, SNAP, Section 8など)は加えていない。EITCも含まれていない可能性もある。EITCが貧困率統計に含まれていないのははっきりとしている。だが所得格差統計には含まれているかもしれない。他の国はそのような政策の効果をすべて含んでいる。他の国は現物の形で給付を行わず単に現金を渡して自分達で買いなさいと伝えるだけだ。これは低所得層がいくらお金を持っているかを表す統計にははっきりと示される。

アメリカは所得格差が非常に大きいのか?それは政治的、価値観的質問なので答えることが出来ない。しかし統計局が発表している数字は市場所得に関してだ。その基準ではアメリカはドイツやフランスよりも所得格差が小さい。この基準では特に所得格差が大きい国ではない。税引き後移転後の所得で見た場合にはアメリカは他の国より所得格差が大きくなる。だが個々の国でなくヨーロッパ全体と比べた場合にはその差は0.30と0.38とはるかに小さくなる。

(付け加えると私はヨーロッパ全体のジニ係数を信じていない。ものすごく低すぎるように見える。このことについてはもう少し考えてみたいと思う。これはヨーロッパ全国民のジニ係数というよりは個々の国のジニ係数の算術平均ではないかと思う)

(実際、ヨーロッパの数字ははっきりとおかしいと今では感じている。このジニ係数はヨーロッパ全国民の所得格差を示す数字とは明らかに違う。EU 15とEU 27の数字が同じ0.30だからだ。旧共産圏の国を加えてもヨーロッパ全国民としての所得格差が上昇しないとは単純に信じられない。それは不合理に思える)

母子家庭の家庭環境がアメリカとスウェーデンで変わらない?Part2


Family Structure and Child Outcomes in the United States and Sweden


by Anders Björklund Donna K. Ginther Marianne Sundström

1. Introduction

両親の揃っていない家庭の子供は両親の揃っている家庭に比べて平均して成績がよくないことが知られている。例えばアメリカで片親の家庭で育った子供の高校卒業率と大学進学率は低い。スウェーデンでも子供の成績がよくないことが報告されている。だが家族構成が子供の成績に与える影響の研究は入り組んでいる。観測された相関は家族構成と子供の成績両方に相関する非観測の変数の効果を反映している可能性があるからだ。この効果は家族構成が子供の成績に与える影響の推定にバイアスをもたらす。この研究ではスウェーデンとアメリカのデータを用いて家族構成が子供の成績に与える影響を分析する。

2. Previous studies

2.1 Family Structure and Child Outcomes in the United States

McLanahan and Sandefur (1994)は4つのデータセットを用いて分析している。彼等は高校卒業率、大学進学率、大学卒業率が低いことを報告している。さらに十代での妊娠率が高く経済活動も低調であると報告している。Biblarz and Raftery (1999)は家族構成が子供の成績に与える影響の研究は家族構成をまとめる際の定義や調査期間に依存していることを強調している。母親の雇用状態や職業を制御した後では母子家庭の子供は父子家庭の子供や継親に育てられた子供よりもよい職業に就き教育達成度も高いと報告している。

再婚家族についての研究(継子とその異母兄弟)では継親と一緒に住む子供の成績との相関を調べている。Wojtkiewicz (1993)はNational Longitudinal Survey of Youthを用いて調査した。彼は継親と一緒に生活する期間の長さと子供の高校卒業率との間に負の相関があると報告している。より最近ではWojtkiewicz (1998)は大学進学と家族構成との関係、または家族構成の変化との関係を調べている。National Educational Longitudinal Surveyを用いて彼は安定した家族構成を1988から1992に掛けて変化しなかった家族として定義している。安定した片親家族の子供(この期間中に変化が無かったのでこの場合も安定に入る)は不安定な片親家族の子供や継子よりも大学に進学する傾向が高いと報告している。PSIDを用いてBoggess (1998)は継父-継子関係にある家族の子供は高校卒業率が低いと報告している。Ginther and Pollak (2003)は継母-継子関係と継父-継子関係の両方とも子供の成績は似通っていて伝統的な核家族の子供に比べて低いと報告している。

この分野の研究の多くは両親の揃っていない家族の子供の学習到達度は総じて低いと報告している。だがこれらの研究には因果関係の解釈に関して問題がある。家族構成に関して選択バイアスがないと仮定しているからだ。Manski, Sandefur, McLanahan, and Powers (1992)はこの問題を考慮して家族構成が高校卒業率に与える影響を調査している。彼等は家族構成の影響は課せられた仮定に依存していると報告している。「効果をよりはっきりと推定したいならば家族構成と子供の成績を生むことになった過程についての事前の情報が必要だ。この過程に関して研究者の信念がお互いにおいて異なる限りその推定結果もまた同様に変化するだろう」と述べている。その後の研究はこの結論を念頭においている。

研究者は固有効果の推定を用いて選択バイアスを制御している。妥当な仮定のもとではこれにより選択バイアスを制御できる。Gennetian (2001)はNLSY-Childデータを用いて調査している。家族間と個人間の非観察の異質性を制御することにより彼女は母子家庭の子供に長期にわたる負の影響を与えるが継親や異母兄弟のいる家庭の子供では影響は有意でなくなったと報告している。Sandefur and Wells (1999)はNLSYの兄弟のサンプルを用いて教育達成度の関数を推定している。非観察の異質性を制御した後では両親の揃った家族以外の構成は小さな負の影響を与えていると報告した。Case, Lin and McLanahan (2001)はPSIDを用いて生物学的母親、そうでない母親と暮らす子供の学習到達度を調べた。彼等は生物学的母親から離れて暮らす子供の学習到達度は低いと報告した。最後にEvenhouse and Reilly (2001)はNational Longitudinal Study of Adolescent Healthのデータを用いて再婚家族の子供の幸福度を調査した。再婚家族の兄弟と比較して継子の成績は異母兄弟と比較してよくなかった。すべてではないもののこの研究のいくつかの結果は片親家庭で育つ子供や継子として育つ子供は負の影響を与えていることを示した。

他の研究者は親の死を準自然実験として家族構成が子供の成績に与える影響を調べた。そして親の死による家族構成の変化は子供の成績に対してわずかな影響しか与えていないと報告した。Lang and Zagorsky (2001)はNational Longitudinal Survey of Youth(NLSY)を家族の多様な背景構造を制御するために用いた。死による不在を制御した後では家族構成は子供の成績に対してわずかな影響しか持たなかった。Biblarz and Gottainer (2000)は父の死により母子家庭となった子供と離婚により母子家庭となった子供とを比較した。離婚のケースが死別のケースよりも教育達成度が低かった。

最後に研究者は離婚の前後で子供の成績を比較した。Cherlin et al. (1991)はでその親が最終的には離婚してしまうelementary schoolの子供は家族構成の変化に先立って成績が悪くなっていることを示した。Painter and Levine (1999)は未婚での出生、離婚、再婚が十代に与える影響が子供達や親が元々持っていた属性によるものであって家族構成によるものでないのかを調べた。1988のNational Educational Longitudinal Surveyを用いて元々の属性は成績の違いを説明するには不十分で家族構成が十代の成績に影響を与えていることを示した。

上記から家族構成は子供の成績と相関していることが示された。だが選択バイアスを制御した研究では仮定によって異なる結論を報告していた。

3. Data and empirical approach

3.1 Data

Measuring Family Structure

一見したところ家族構造の測定は簡単に見える。子供は1人か2人の親と暮らしているのではないのか?この簡単なやり方では複数の兄弟がいる世帯や家族構成の時間による変化を考慮することが出来ない。複数の兄弟がいる世帯では兄弟の1人が生物学的両親と暮らし異母兄弟は生物学的親と継親と暮らすという可能性がある。家族構成の測定は親と兄弟間の関係性を考慮しなければならない。

加えて家族構成は時間と共に変化する。例えば継子は3つの家族構成を経験する可能性がある。生物学的両親と暮らす、片親と暮らす、継親と暮らすの3つだ。子供の特定の年齢で測った家族構成(NLSYでは14歳)はこれらの関係性を十分に把握できない可能性がある。多くの研究はある年齢での測定を子供時代を通した家族構成の代理指標として用いる。Wolfe, Haveman, Ginther, and An (1996)はこの代理指標の妥当性を調査して信頼できない推定結果をもたらす可能性があると報告している。

3.2 Samples

両国の家族構成の分布を表1a-cに示す。アメリカの2つのサンプルは互いに少し異なっていることが見て取れる。この違いはPSIDでの低所得世帯のオーバーサンプリングから来ている。両親の揃っていない家族で暮らす傾向が高い。スウェーデンのサンプルは逆にNLSYのものに近い。例えば子供の70%はその子供時代を両親と暮らし父親と継母と暮らすというのは最も少ない。子供時代の大部分を片親と暮らす子供の割合はアメリカの方がスウェーデンよりも高い。

次に両国の教育達成度と所得の分布を見る。そしてその概要を得る。

平均就学年数はアメリカの方が長いがそれの家族構成による違いは非常に似ている。子供時代を両親と暮らした子供は高い水準を示しそうでない子供はその逆だ。両国で両親と暮らした子供はそうでない子供と比べて追加で1年長く学習に費やしている。

3.4 Empirical approach

次に外生的な選択を仮定して横断面の分析を行う。簡単化のために2人の子供がいる家族を考える。1人の子供に対する人的資本への投資は家族の経済資源、観測可能な親の特性(教育)、家族環境、兄弟構成の関数とする。家族jの子供iは以下の投資の意思決定を行っているとする。

HCij =α Sij + β FSij +γWij +δ Xij + uij (1)

HCijは子供の成績または所得だ。Sijは兄弟構成を示す。FSijは両親と暮らした子供時代の期間を示す。Wijは観測可能な親の特性で、Xijは個人の特性で、uijは誤差項を示す。

誤差項を3つの部分に分解できる。μij=φj+ηi+νij、φjは家族固有の部分で、ηiは個人特有の部分で、νijはランダム項だ。φjが家族構成と相関していれば兄弟間で差分を取れば選択バイアスは消滅するだろう。だが家族構成が個人固有の部分と相関していれば選択バイアスは残ったままになる。家族構成は家族固有の効果φjを通してのみ影響を与えると仮定し、さらにすべての家族効果は兄弟間で不変Wij=Wjと仮定し、式(1)を兄弟で差分を取ることにより以下の式を得る。

ΔHC =αΔS + βΔFS +δΔX + Δu (2)

この仮定のもとでこのモデルは家族内で変化しない観察、または非観察の任意の変数を取り除く。ここで取る方法は式(1)の変種を推定するために横断面での回帰を行うというもので異なる制御変数と家族の固定効果を式(2)を用いて制御する。

4. Results

4.1 Cross-section estimations

まず就学年数と異なる形態の家族で過ごした子供時代の期間の割合との関係を年齢と性別を制御して推定する。結果は表4aに示してある。興味深い事に両国での関係は驚くほど似通っていることが判明した。

次に子供時代を両親が同じ兄弟とともに暮らした期間と異母兄弟と暮らした期間とを家族構成に補完してみた。その際に両親が同じ兄弟の人数と異母兄弟の人数とを一緒に暮らしているかいないかに関わらず制御した。この分析にはPSIDのデータしか用いる事が出来ない。NLSYは子供時代全体を通しての兄弟構成に関する完全なデータを有していないからだ。さらに継親や生物学的親の教育水準も制御する。子供時代の兄弟構成と親の教育水準を制御した場合に両親の揃った家族とそうでない家族の教育成績の差は減少することが判明した(表4b)。さらに両親が同じ兄弟と過ごす期間と就学年数には有意ではない正の相関がアメリカであったがスウェーデンでは負だった。しかし異母兄弟と過ごす期間と就学年数には両国で負の相関があった。教育成績と兄弟の人数との関連はともに負だったが両親が同じ兄弟の方でより大きかった。

さらに同様の式を用いて年間所得と異なる家族形態で過ごした期間との関連を両国の年齢構造と性別構造を制御して推定する。結果は表5aに示す。これらの関係も両国でとても似通っていることが判明した。兄弟構成と親の教育水準を制御した場合(表5b)に両親の揃った家族とそうでない家族の教育成績の差はまた減少した。加えて今度は兄弟構成は両方のサンプルで重要だった。PSIDでは所得と両親が同じ兄弟の人数とに負の相関があった。さらに異母兄弟と過ごす期間とも負の相関があった。スウェーデンでは所得は両親が同じ兄弟の人数と異母兄弟の人数の両方に負の相関があった。これらの結果は大家族は子供の人的資本の蓄積にわずかな資源しか投資していないことを示唆している。さらに兄弟構成は子供の成績の変動に対して家族構成よりも相対的により重要であることを示している。

4.2 Family fixed-effect models

表6aに家族構成と教育達成度との関連を推定した結果を示す。スウェーデンに関しては異父兄弟と教育達成度との関連を調べるのに十分なサンプルサイズがある。表4aでは家族構成と就学年数と負で有意の相関があった非観測の異質性を制御した場合には両国でもはや有意ではなくなった。これは両親が同じ兄弟、異母兄弟ともに同じだ。表6bに家族構成と所得の関連を固定効果モデルで推定した結果を示す。非観測の異質性を制御した場合に家族構成変数の係数は低下しさらに有意ではなくなった。例外はNLSYデータでの継母と生物学的父親という家族構成と所得との関連だ。非観測の異質性を制御した後でも子供時代を継母と暮らした場合には所得に対して負で有意の相関があった。

5. Conclusions

(省略)

母子家庭の家庭環境がアメリカとスウェーデンで変わらない?Part1

ちなみに筆者はスウェーデン出身。

Krugman fundamentally misunderstands Sweden

by Tino Sanandaji

Paul Krugmanはスウェーデンに感銘を受けたようだ。彼の夢見た理想の社会は1980頃のスウェーデンだという。彼はアメリカを空想の社会へと変貌させようと努力しているみたいなので彼の理想郷を理解する手助けをしたいと思う。不幸にも彼の望んだ結果にはならないだろうが。

Ross Douthatsのコラムに対する応答として彼は「スウェーデンでは半数以上の子供は未婚の両親から生まれてくる。だが彼等はその境遇を苦にしていないように見える。それは福祉が充実しているからだ。我々も同じことが出来るはずだ。だろう?」と述べている。

これはとてもミスリーディングだ。スウェーデンでは家族の伝統がアメリカとは大きく異なる。同棲は社会的に認知され法により婚姻とほぼ同等として扱われている。標準的なスウェーデンのカップル同士は同棲をして子供を作りその後になって初めて結婚する。スウェーデン統計局は以下のように説明している。

「結婚をせずに共に生活することは一般的だった。そしてスウェーデンの子供の大多数は同棲している未婚の両親から生まれてきた。同棲はほとんど結婚と変わらず未婚のまま子供を持つことが受け入れられていた。このような状況にも関わらず多くのカップルは最終的には結婚を選んだ。このレポートで調査した2010の終りまでに共に生活しているカップルのうち73%が結婚を選択し残りの27%が同棲を選択していた。カップルの10%は子供が誕生した時に一緒に生活していなかった。だが大多数のカップルは子供が生まれる前と後でも一緒に生活していた。カップルのうち3%が一度も一緒に生活をすることなく子供を設けた。

だからわずか10%の子供が誕生時に結婚していないまたは同棲していないカップルから生まれたことになる。これでもまだ誇張がある。なぜなら子供が誕生してから同棲を始めるカップルも多いからだ。関心があるのは明らかに2人の親から生まれた子供で伝統的(キリスト教的)な結婚をしているまたは同棲をしているカップルの子供ではない。スウェーデンの子供のわずか3%!しか片親から生まれていない。スウェーデン人は普段の行動が恐ろしく社会保守的なために政治的にリベラルなイデオロギーを保持し続けているのだ。

公平を期すとヒスパニックの子供の半数以上が未婚の両親から生まれてくるといったときそこにも同棲が含まれている。離別や離婚を考慮するとスウェーデンで片親しか子供のいない世帯が全体に占める割合は18.7%だ。アメリカのヒスパニックでは対照的に37%だ。

New York Times自体がこのことを記事にしている。「片親しかいない家族のもとで暮らしているラテン系の子供の割合は2000から6%上昇し38%になった。黒人や白人よりも増加率が高い」と。Krugmanはスウェーデンの片親世帯で育つ子供(私のような)は「その境遇を苦にしていないように見える。福祉が充実しているからだろう」と考えているようだ。これもまた正しくない。アメリカと同様にスウェーデンの片親家族の子供も両親のいる家族の子供と比べて社会的問題を抱える確率がはるかに高い。

「貧困に陥るリスクは片親しかいない子供の方が両親のいる子供よりも3倍以上高い。2009で28.2%、9.1%だ」

中道左派の経済学者Anders Björklundとその共著者はアメリカとスウェーデンの子供を直接比較している。

「我々は家族構成と子供の教育達成度、所得との関係をスウェーデンとアメリカのデータを用いて調査した。アメリカとスウェーデンの比較は両国の家族構成や政策の違いが大きいので興味深いものになる。両国の福祉の違いを要因としてスウェーデンにおいて家族構成は子供に負の影響を少ししか与えない可能性が考えられる。。だが我々は両国の政策や社会的環境の違いにも関わらず家族構成と子供との関連は驚くほど似通っていることを発見した。つまり家族構成は子供に対して負の影響を与えていた」

スウェーデンでもアメリカでも母子家庭の子供の所得は低く大学への進学率も低かった。この結果がどの程度家庭環境自体からよるのか交絡要因によるのかはわからない。両国で片親環境は低い社会資本へとつながり他の社会問題とも関連していた。結局片親しかいない子供の家庭環境は悪かった。

Krugmanは福祉国家では家族が崩壊していても大した問題ではないと考えていたようだ。上で示したようにこれは正しくない。Krugmanは実際の分析ではなく自身の頭の中にある空想のお花畑に依拠しているようだ。

真の問題はKrugmanのようなリベラル派がスウェーデンについての子供じみたファンタジーを信じていることではない。問題なのは彼等がスウェーデンについての表面的な理解にもとづいて急進的な提言をしていることだ。KrugmanのRoss Douthatsに対する返答は従って「多分、我々も同じことが出来るはずだ。だろう?」という(要領を得ない)ものになる。

私にRoss Douthatが何を伝えようとしていたのか言わせて欲しい。彼は何十年に渡る戦いの末、リベラル派は保守派との戦いに勝利したかのように見える(注 大統領選挙が終わった直後のこと)、だがリベラル派はその勝利を一般のアメリカ人に福祉国家を受け入れるように説得する形で手に入れたのではない、仮に選挙民の人種構成が十数年前のままだったとしたらRomneyは地滑り的な勝利を収めていただろう、リベラル派は人口構造と社会的分断という2つの力学により勝利を得たに過ぎないのだと(注 おそらく何のことかわかりにくいと思われるので補足する。ヒスパニック層は民主党に投票する傾向があるといわれている。そのヒスパニック層の総人口に占める割合が上昇したので選挙に対して一定の影響を与えるようになったといわれている。日本の例に例えるなら日本に住む韓国人の人数が増える→(仮に本当に日本の民主党が韓国びいきだとすれば)日本の民主党の支持率が高まる→支持基盤に有利な政策を行う→さらに支持を確保するというまさに普段ネトウヨが妄想している自体が現実にアメリカで起こっていることになる。ネトウヨの妄想が実現した非常に珍しい例といえる。ただしこの結果は非常に流動的なものなので本当に民主党に有利に働くかは定かではない)。

1980のスウェーデンを特徴付けるものは高い最高税率ではなく両親の揃った家族構成をもとにした極めて同質的な社会の方だ。リベラル派の勝利したというやり方では妄想の中のスウェーデンを再現するよりむしろ事態を悪化させるだけに終わるだろう。

UPDATE

Reihan Salamはこの記事に対してコメントしている。

「(*前後の文脈がはっきりしないので意味が取れないが)スウェーデンの社会政策が家族の分離の悪影響を緩和している可能性がある。そして外部の観察者はスウェーデンの福祉国家それ自体が家族を一つにしていると結論を下すだろう」

この点に関してスウェーデン人を祖先に持つアメリカ人を対照群として何らかの結論を出したいと思う。2006-2010の American Community Surveyを用いてこの群の子供を持つ未婚世帯の割合を計算してみた。

スウェーデン人を祖先に持つアメリカ人でこの割合は18.1%だった。これはスウェーデンでの数字と大体同じでアメリカの平均値より下だった。彼等はアメリカで生まれたスウェーデン人を祖先に持つアメリカ人だということを強調したい。よってスウェーデンの福祉国家に影響を受けていない。スウェーデン系アメリカ人がスウェーデンの家族と似たような結果だったことは文化や社会資本が経済政策よりもより重要な要因であることを示唆している。

アメリカ政府の保有資産は1京2800兆円?

Selling Federal Assets

by Alex Tabarrok

Institute for Energy Researchによると連邦政府が保有する石油とガスは1京2800兆円以上に相当するという。私はその数字は楽観的であるのではないかと思っているがそれでも資産の売却を検討してもいいのではないかと思う。

連邦政府の資産は主に石油、天然ガス、石炭などの鉱物、エネルギー資源だ。例えばアメリカは何百万エーカーの土地、何百億バレルの石油を保有している。現在、連邦政府は石油と天然ガスの開発に対して沖合海域のわずか2%、陸上の6%以下を貸し出しているに過ぎない。連邦政府が石油とガスの開発のために開放できる地域は以下になる。

・Arctic National Wildlife Refugeに1兆400億バレルの石油と8兆6000億立方フィートの天然ガス

・外洋大陸棚に8兆6000億バレルの石油と420兆立方フィートの天然ガス

・Naval Petroleum Reserve-Alaskaに896億バレルの石油と53兆立方フィートの天然ガス

・アラスカの外洋大陸棚に2兆5000億バレルの石油

・北極圏の北側の地質区に9兆バレルの石油と1京669兆立方フィートの天然ガス

・コロラド、ユタ、ワイオミング州を流れるGreen Riverに98兆2000億バレルのシェールオイル

これら119兆4000億バレルの石油と2京1500億立方フィートの天然ガスは納税者の所有物だ。石油を1バレルあたり100ドル、天然ガスを千立方フィートあたり4ドルで計算すると石油資源は1京1940兆円、天然ガス資源は860兆円となり合計は1京2800兆円になる。またはアメリカの債務の8倍に相当する。

2013年3月23日土曜日

債務比率が90%を超えても成長率が1%低下しない?

1 Introduction

高い水準の公的債務は成長率を低下させるのか?拡張的な財政政策が例え短期において有効であったとしても長期では成長率を低下させるかもしれない。そして財政政策の効果を部分的、または完全に打ち消してしまうだろう。

公的債務と成長率の関係は低成長率が高い水準の債務を生み出しているのかもしれない(それはやっぱり拡張的財政政策の失敗なのでは)。債務と成長率の間の相関はこれら2つの変数に影響を与える第三の要因によって引き起こされている可能性もある。債務から成長率への因果関係を確立するためには債務に直接の効果を持ち成長率には直接の(または間接的に、ただし債務を経由してのものは除く)効果を持たない操作変数を見つける必要がある。

我々の方針は外国通貨建ての債務の存在を前提にして、為替レートの変動は直接的、自動的な影響を債務/GDP比にもたらすというものだ。従って公的債務の通貨構成に関する詳細なデータを集めそれを2国間の為替レートと照合し為替レートの変動によってもたらされた変動効果を変数として構築する必要がある。

第一に必要とされるのは操作変数の関連性だ。操作変数は内生変数と関連を持つ必要がある。弱操作変数検定の結果、操作変数の関連性が確認された。我々は変動効果が操作変数の外生性を満たしていないことを認識している。変動効果は自動的に為替レートと相関するが為替レートは成長率に影響を与えるかもしれない。変動効果はさらに外国通貨建ての債務の比率と相関しボラティリィティの増加を通して成長率に影響を与えるかもしれない。

だが債務の構成や実効為替レートの変動を制御してしまえば変動効果(変数)が成長率に直接的な影響を持つと考える理由は特になくなる。

我々の用いた除外制約は妥当であると思われるがモデルが丁度識別であるためそれを確かめることが出来ない。そして除外制約は過剰識別モデルでのみ検定できる。そのためKraay (2012)によって開発されたベイジアンアプローチを用いる。

既存の研究は債務が100%を超えた場合に債務と成長率の間の負の相関が強まることを発見している。我々のデータの中でもそのような閾値を調べてみたが構造変化を示唆する強い根拠は得られなかった。我々の結果は他の研究者が用いたより長期で大規模なデータでの閾値の存在を否定するものではない。補足として高債務、低債務でサンプルを分割して操作変数法を用いて回帰分析を行った。低債務の国で変動効果変数を操作変数として回帰分析を行ったところ債務と成長率の負の相関は消滅した。しかし我々の分析は高債務国に対してうまく適合しなかった。そこでFisher’s (1966)のcovariance restrictionsを用いて識別を行ったところ債務と成長率の間に負の相関を見出すことは出来なかった。

2 Addressing Endogeneity

内生性の問題を最も簡単に記す方法は以下になる。成長率は債務の関数だ。

G=a+bD+u (1)

債務は成長率の関数だ。

D=m+kG+v (2)

bは以下のように求められる。

^b=(bρ2v+kρ2u)/(ρ2v+k2ρ2u)

OLS推定量のバイアスは以下になる。

E(^b)-b=k(1-bk)/ρ2v/ρ2u+k2 (3)

kがゼロならばまたはなんらかの偶然によりbk = 1ならば式(3)は不偏推定量だ。kが負かつbk < 1ならばOLS推定量は負のバイアスを持つ。

もちろん内生性を認識しているのは我々が初めてではない。既存の研究は内生性を債務/GDP比のラグ値を用いたり(Cecchetti, Mohanty and Zampolli, 2011)、GMMを用いたり(Kumar and Woo, 2010; Presbitero, 2012)、債務/GDP比を近隣国の平均債務を操作変数とする(Checherita and Rother, 2010)ことで解決しようとしてきた。

これらは有益な第一歩であったが内生性を取り扱うには十分でないと考える。まずラグ変数の使用には問題がある。債務と成長率には持続性(慣性)があるからだ。債務比率の持続性はGMMの有効性を制限する。さらにこれらの階差GMMやシステムGMMは横断面でのサンプルが相対的に少ない場合の扱いに適していない。公的債務を近隣国のもので操作変数とするのには問題がある。大域的なショックと金融面、実物面でのスピルオーバーが存在するからだ。仮にi国の成長率がj国の成長率に影響を持つならばi国の公的債務はj国の公的債務に対する操作変数として用いる事は出来ない。

我々は内生性の問題を外国通貨建ての債務と為替レートの変動との相互作用によってもたらされる変動効果(以下VE)を操作変数とすることによって解消する。

公的債務がN種類の通貨(このNには国内通貨も含む)で発行されている国を考える。さらにDijをi国の発行するj国通貨建ての債務残高とする。eijをi国とj国の通貨の交換レートの対数とする。それからt+1期のi国の公的債務残高の操作変数を以下のものとする。

VEi,t=ΣDij,t(eij,t+1-eij,t)/ΣDij,t  (4)

VEは関連性と外生性を満たす必要がある。まず関連性から議論を始め外生性に戻る。

関連性はVEと債務/GDP比率に自動的な関係があることから保障されているように思われるかもしれない。しかしVEは外国通貨建ての債務が存在しない国かまたは非常に安定した為替レートを持つ国があれば話はややこしくなってくる。対象が新興国だけだったらこれは問題にならなかっただろう。OECD加盟国では関連性が問題になるかもしれない。

表1に各国のVEを示す。VEはフランス、ドイツ、日本、オランダ、アメリカでほぼゼロに近い。残りの12国ではVEの分散は0.15%から1.89%の間にある。全体の分散はほぼ1%だ。各国間の分散は0.26%で国内での分散は0.94%だ。

この値がVEが公的債務に対する操作変数として妥当かどうかは適切なテストを通して判断されることになる。それは次の章に持ち越すとしてここではVEのラグ値と公的債務残高に相関があることを示す。

VEのラグ値の1%ポイントの増加は債務/GDP比率の1.5%ポイントの増加につながること示す(図1)。結果は日本をサンプルから除いた場合でもほとんど変わらず(図2)、外国通貨建ての債務が非常に少ない5つの国をサンプルから除いた場合に少し強くなる(図3)。すべてのケースで係数は正で1%の水準で有意だ。

次に外生性に移る。我々のモデルは丁度識別なので除外制約の妥当性をテストすることが出来ない。よって妥当性を論理的に示す必要がある。VEが成長率に影響を与える2つの潜在的な経路があると考えている。第一にVEは外国通貨建ての債務と相関している。その外国通貨建ての債務が今度は景気反循環的な政策実行能力を低下させるかもしれない。そしてボラティリティの増加が成長率を低下させる可能性がある。

第二にVEは債務比率で加重平均した(貿易比率ではなく)実効為替レートだということと関係している。比率が違うといってもVEが貿易比率で加重平均した実効為替レートと相関する可能性がありうる。それが今度は成長率に影響を与えるかもしれない。

仮にVEが成長率に影響を与える経路がこの2つしかないのであれば外国通貨建ての債務の比率と実質為替レートの水準を制御すれば直接的、間接的(公的債務を経由するものを除いて)な影響を取り除くことが出来る。言い換えれば我々の除外制約は債務構成と実質為替レートの水準を制御する限り妥当であることが示される。

その他にVEが成長率に影響を与える経路を我々は認識しないが除外制約の妥当性に異議を唱える人もいるかもしれない。それ故、ベイズ流に操作変数に対する信頼区間を構築する。

目標はCecchetti et al. (2011)の結果を出来る限り忠実に再現することにある。これは1980-2005の18のOECD加盟国を調査したものだ。数ヶ月に及ぶ探索の結果18のうち17の国のデータを入手することに成功した。次の章で彼等の結果をすべて再現できたことを示す。

3 Debt and Economic Growth: Causation versus Correlation

公的債務が成長率に与える影響を調べるためにCecchetti et al. (2011)の研究をなるべく忠実に再現する。以下の回帰式を推計するため5年間の重複期間成長率を用いる。

GROWTHi,t+1,t+6=αYi,t+β(Debt/GDP)i,t+γ'Xi,t+μi+τt+εi,t (5)

Yは1人あたり実質GDPの対数値でμiとτtは国と年度の固定効果を示す。Xitは制御変数の行列でGROWTHは%表示での1人あたり実質GDP成長率の平均値だ(i.e., GROWTHi,t+1,t+6=(Yi,t+6-Yi,t+1)×100/5)。

この分野で重複した期間を用いるのは標準的ではないのは認識している。しかし17ヶ国のサンプルで重複しない期間を用いるのは効率性の面で大きなコストとなる。重複期間を用い誤差項に組み込まれた移動平均構造を修正することに最善を尽くす。さらに重複しない期間を用いても同様の結果が得られることも(ただしかなり弱くなる)示す。

3.1 Baseline estimations

まずGDP成長率を公的債務比率のラグ値、1人あたり初期GDPの対数値、貯蓄率、人口成長率、平均就学年数、貿易依存度、インフレ率、従属人口比率、銀行危機ダミー、流動負債/GDP比率に回帰する。これがベースラインとなる。

表2の列1に示すように債務比率の10%ポイントの上昇は0.18%ポイントの成長率の低下につながる。これはCecchetti et al. (2011)が示した0.17%ポイントに非常に近い値だ。公的債務の係数は1%水準で有意だ。サンプルにわずかに違いがあるとはいっても基本となるモデルの結果は彼等のものとほぼ同一だ。

債務比率をL.VEで操作変数とした場合に第一段階の回帰式で操作変数と公的債務に強い正の相関があるのを確認した(表2の列2に示す)。興味深いことに列3の第二段階の回帰式では債務は有意ではなくなり係数の符号も負から正となった。

有意性が消滅したのは操作変数法が有効でなかった可能性もあるが符号の変化は大きな負のバイアスがOLS推定量にあったことが明白だ。これは成長率から公的債務に負の関係がある場合にまさに我々が予想した結果に他ならない(前章でのk<0のケース)。

表2の下段に過小識別検定と弱操作変数検定の結果を示す。Kleibergen-Paap LM統計量とWald統計量は過小識別の帰無仮説を棄却する。よって我々の操作変数は階数条件を満たす。Kleibergen-Paap F testは9.2となる。これはStaiger and Stock (1997)の経験則である10に近い値だ。そしてStock and Yogo (2005)の5%と15%の最大バイアスの間にある。弱い操作変数の存在に関する最大バイアスは10%より大きく15%より小さいと思われる。Angrist and Pischke (2009)は弱い操作変数に伴うバイアスは我々のもののように丁度識別のモデルでは小さい傾向があることを示している。そしてバイアスは操作変数と内生変数の相関が0.1よりも大きい場合に消えることを示した。

さらにMoreira’s (2003)の条件付尤度比検定(CLRT)を用いて弱い操作変数の存在下で有効な信頼区間を構築した。操作変数法での信頼区間とCLRTの信頼区間を比較して後者がより広く(-6.8、7.4に対して-5.31、19.39)、右にシフトしていることが分かった。弱い操作変数の存在により操作変数法の推定量はOLS推定量の側へバイアスが掛かるかもしれないのでこれは驚きではない。これも我々の推定結果(債務が成長率に影響を与えるという根拠がない)により自信を深める理由だ。

ここまでは通貨構成と為替レートを制御していなかった。表3に基本となるモデルに外国通貨の構成と(貿易比率で加重平均した)実質実効為替レートを加える。さらに通貨構成のラグ値と実質為替レートのラグ値を加える。

まずOLS推定の結果は債務と成長率に関して負で有意の相関を示す。債務比率の10%ポイントの増加は0.15%ポイントの成長率の低下につながる。係数は1%水準で有意だ。予想したように外国通貨建て債務と為替レートの増加は成長率と負の相関を示している。

列2の第一段階の回帰式はL.VEと債務比率との間に強い正の相関があることを示している。Kleibergen-Paap LM統計量とWald統計量は表2よりも大きく過小識別を5%水準で棄却している。Kleibergen-Paap first stage F testは16になった。Staiger and Stock (1997)の経験則を大きく上回り、Stock and Yogo (2005)の最大10%バイアスの閾値にほぼ等しい。第二段階では公的債務の係数の符号は変化しさらに有意ではなくなった(表3の列3)。前回同様内生性を制御すると債務と成長率の負の相関は消滅した。点推定の結果(2.05)は有り得ないほど大きいように思われる。だがt値は0.5で係数は有意からはほど遠い。今度もCLRT信頼区間は右にシフトし操作変数法での信頼区間よりも広くなった。

OECD加盟国において債務から成長率への関係は示唆されなかったことが表2と表3で示されたと強く信じる。既に述べたようにこの結果は弱い操作変数の存在により引き起こされたのではない。残った問題を以下で取り上げる。

3.2 Weak Exclusion Restrictions

L.VEは成長率に影響を与えないというのが推定の鍵になっている。モデルは丁度識別なのでこの制約の妥当性を検定することが出来ない。代わりにKraay’s (2012)のベイズアプローチを用いてこの除外制約を緩めた場合にどうなるかをテストする。

彼の方法論を示すために式(1)に戻る。(G)は(D)の関数だ。(D)は内生性を持つのでE(D,u)≠0となりOLS推定量はバイアスを持つ。(D)と相関し(u)と相関しない変数(Z)を見つけることが出来れば対象とする構造パラメータを得ることが出来る。しかしE(Z,u)=0は満たされるとは限らない。

E(Z,u)=0の仮定を緩めE(Z,u)の分布にゼロが含まれるようにする。精度を犠牲にする代わりに構造パラメータの識別を可能にする。彼の方法は除外制約の妥当性に関する不確実性を構造パラメータの推定の精度に関する不確実性へと移し替えて定量化する。

彼は誘導型の誤差項と操作変数間の相関についての事前分布を除外制約の妥当性についての事前の不確実性を近似するものとして用いる。特にφを(-1,1)の範囲にある一様分布のランダム変数として、1/ηを除外制約の妥当性についての不確実性の度合いとする。事前分布は以下で求められる。

g(φ )=(1-φ 2)η (6)

事前の不確実性はη=0の場合に最大になる。ηの値が増加すれば不確実性は減少する。η=5の場合にg(φ)が(-0.46,0.46)の範囲にある事前確率が90%になる。η=100でg(φ)が(-0.12,0.12)の範囲にある確率が90%になりη=500でg(φ)が(-0.05,0.05)の範囲にある確率が90%になる(η=1000の場合に90%信頼区間は-0.04-0.04になる)。

彼はサンプリングによって事前の不確実性を構造パラメータの事後の周辺分布へと移し替えることが可能なことを示した。彼のシミュレーションによると中程度の事前の不確実性でさえパラメータの精度に大きな影響を及ぼすことが分かった。驚くべきことに精度の低下は操作変数の関連性が高いかつサンプルが大きい場合に大きくなることを彼は示した。言い換えると操作変数の関連性が高いほどモデルの特定化の誤りが大きくなることを示した。

除外制約に関する仮定を大幅に緩めた場合、信頼区間は非常に広くなることが分かった(表4)。特にη≦10の場合(90%の確率でg(φ)が(-0.34.0.34)の範囲にある)で、信頼区間は操作変数法の場合(g(φ))と比べて5倍大きくなる。η=100の場合、信頼区間は操作変数法の場合よりわずかに大きい範囲に留まる。

3.3 Other Robustness Checks

(省略)

4 Looking for thresholds

今度は公的債務と成長率の関係に閾値があるかを確認する。Reinhart and Rogoff (2010a,b)は公的債務がGDPの90%を超えた場合に成長率の中央値が1%低いことを示した。さらに平均値が4%低いことも示した。Cecchetti et al. (2011)は債務の水準と背成長率の間に明確な関係を見出せなかったと報告しているがそれはサンプルが小さかったからだろうと示唆している。

彼等はDΨを債務比率がΨを下回った場合に1を取るダミー変数と定義しΨの範囲(50,120)に対して以下の回帰式を提示した。

GROWTHi,t+1,t+6=αyi,t+γXi,t+φDΨi,t+β1{(Debti,t/GDPi,t)×DΨi,t}+β2{(Debti,t/GDPi,t)×(1-DΨi,t)}+μi+ τ t+εi,t  (7)

次に彼等は尤度比検定を用いて式(7)に最もよく適合する閾値を探し出し閾値周辺の信頼区間を求めた。その結果閾値は96%と推定された。

(途中省略)

ここで行える方法として閾値の値を様々に変化させてβ1とβ2を比較することが出来る。図11の上段の実線は50-120の範囲の閾値に対するβ1の点推定の結果を描写している。実線は非常に安定していて大抵の範囲で有意だ。下段はβ2の点推定の結果を描写している。これも安定していて全範囲で有意だ。

β2の方がβ1より正確に推定されているが2つの係数に大きな差がないことが図11から確認できる。実際、債務比率が50%を下回る場合(図10の上段の最初)と債務比率が120%を上回る場合(図11の下段の最後)で点推定の結果は同じだ。

2つの係数が互いに有意に異なるのかテストしてみた。図12の実線は債務比率が80%を下回る場合にβ1はβ2より大きい傾向があることを示している。80%を超えると関係は逆になる。点線は係数の有意差に関するp値を描写している。点線は差がほとんど有意にならないことを示している。この結果は真のテストとはいえないものの閾値が存在しないかもしれないことを図12は示唆している。

Reinhart and Rogoff (2010a)は閾値の存在に関する操作変数を見つけることは困難だと述べている。我々もそれに同意するがそれでもなお行ってみる。1つの閾値に対して2つの内生変数があるので2つの操作変数を必要とする。原則としてL.VEが債務に強く相関するならばL.VE×DΨはDEBT×DΨに対する操作変数になり得る。そしてL.VE×(1-DΨ)はDEBT×(1-DΨ)に対する操作変数になり得るだろう。問題はこれらの操作変数は債務の成長率に与える効果を識別出来るほど強力ではないかもしれないことだ。

表12の第一段階の回帰式は低水準の債務に対して操作変数がうまく機能していることを示している。よってサンプルを分割する。まずOLSから始める。低債務のサンプルでは係数は負であるものの有意ではなかった(表13の列1)。列2の第一段階の回帰式では操作変数法は期待された符号を示したが有意ではなかった。過小識別検定の結果により操作変数は階数条件を満たしているがF検定の結果から操作変数の関連性は低いかもしれないことが判明した(しかし丁度識別のモデルでは弱い操作変数の存在は大きな問題にならないかもしれないことに留意する必要がある)。列3の操作変数による回帰式では係数は正で有意でなかった。列4-6で操作変数なしで推定してみた。結果は列1-3と同一だった。

表14では表13の実験を債務がGDPの90%を超えた事例に絞って繰り返してみた。予想したように操作変数が弱く結果は無意味だった。

表14で注目なのはOLSでさえも係数が有意でなくなったことだ(列1)。これは自由度が十分でなかったからかもしれない。またはサンプルがプール可能でなかったからかもしれない。列4に制御変数を減らして自由度を増加させた場合の結果を示す。係数は表2と表3のものに近くなり10%水準で有意になった。

5 An alternative identification strategy

操作変数法が高債務国に対してうまく機能しなかったので他の方法を用いる。式(1)と式(2)の単純なモデルに戻って操作変数を加える。

G = a + bD + γTPGROWTH + u (8)

D = m + kG + v (9)

TPGROWTH(注 trading partner growthのことと思われる)は債務式の中に含まれていないので成長率が債務に与える影響は識別することが出来る。しかしさらなる仮定なしには我々の知りたいbは推定することが出来ない。

だがFisher (1966)が示したようにuとvが真の構造ショックであれば(つまりE(u,v)=0)、式(8)や式(9)のようなモデルはkとbともに識別することが出来る。彼はこれを共分散制約と呼んだ。Hausman and Taylor (1983)は共分散制約が操作変数型の表現型を持つことを示した。Hausman, Newey and Taylor (1987)はaugmented三段階最小自乗法(a3SLS)を提案した。

この方法は滅多に用いられない。実装が面倒だからだ。だがShapiro (1987)は丁度識別の2つの方程式体系ではa3SLSの実装は4つの単純な過程として構成できることを示した。第一段階はGをTPGROWTHに回帰することから始まる。そして^Gを得る。第二段階ではDを^Gに回帰して^kを求める。そして^vを求める。今までの構成から^vはDと相関し仮定からGと無相関となる。従って^vをDの操作変数として用いることが出来る。第三段階ではDを^vに回帰して^Dを得る。第四段階でGを^Dに回帰してbを推定する。

よってuとvを真の構造ショックと仮定して成長率の操作変数を見つけることが出来れば債務が成長率に与える影響を識別することが出来る。Panizza and Jaimovich (2007)は貿易相手国の加重平均されたGDP成長率から構成される外生的ショックは成長率の良い操作変数となることを示した。彼等は外生的ショックを以下のように定義した。

JPi,t = EXPi/GDPiΣφ ij,t-1GDPGROWTHj,t (10)

GDPGROWTHj,tはj国のt期の実質成長率を示す。φij,tはi国からj国への輸出の割合を示す。EXPi/GDPiはi国の平均輸出比率を示す。

操作変数JPが年率の単位ではうまく機能することが判明しているもののより長い期間では機能する保証がない。よってJP(t+6,t+1)と等しくなるように変数TPGROWTHを作成しTPGROWTHが5年の成長率に対して良い操作変数となるのか回帰分析を行う。分割しないサンプルに対して結果は芳しくなかった(表15の上段の列1)。TPGROWTHは有意ではなく表14の最初の列のテストにすべて不合格だった。

債務比率が90%を下回ったサンプルに対してTPGROWTHの係数は10%で有意で過小識別の帰無仮説を棄却した。だがその符号は予想していたものと逆だった。点推定の結果は貿易相手国の高い成長率はi国の成長率を減少させていると示唆しているように見える。これは正しくないだろう。

高債務国では結果が改善する(表15の上段の列3と列4)。90%以上の債務比率では係数は正で有意となり許容可能なF検定の結果を得た(とはいえまだ低いが)。

サンプルを90%以上の債務比率に限定することの問題点はわずか90の観測値しかなくなることだ。そこで閾値を80%にしてみたが(119の観測値になる)操作変数の係数は未だ正で有意だった(列4)。過小識別検定と弱操作変数の問題は行3のものよりも悪くなったがAngrist and Pischke (2009)の基準によればまだ許容可能だ。閾値をさらに下げた場合では操作変数は最早機能しなかった。

表15の上段の結果にもとづいてHausman, Newey and Taylor’s (1987)の三段階最小二乗法を適用してみた。表15の下段の列1には債務比率90%以上のOLSの推定結果を示す。表14と同様に係数は負でしかし有意ではなかった。三段階最小二乗法では正で有意であることが分かった。(このケースでは)係数が有意であったことにそれほど大きな意義を持たせたいのではない。しかしこの結果は表2と表3での結果と完全に整合的であることを強調したいと思う。OLSでは債務と成長率に負の相関があったが操作変数法では逆だった。

表15の下段の最後の2列にサンプルを債務比率80%に拡大した場合での結果を示す。OLSでは係数は負で有意で(列3)、三段階最小二乗法では有意ではないものの正だった。

適切な操作変数を発見することは困難で特に閾値の存在に対する操作変数を見つけることは難しい。だが我々は閾値の効果が以前考えられていたほど強くはないという根拠を発見した。さらに債務水準が低いサンプルに対する適切な操作変数と高債務のサンプルに対してうまく機能する戦略を求めた。そしてどちらも債務が成長率に影響を与えるという根拠を示さなかった。

6 Conclusions

ここでの結果は現在の論争に対して重要な意味を持つと信じている。不況期であっても緊縮を行う多くの良い(または悪い)理由があるだろう。ここでその議論に立ち入りたくはない。しかし先進国で高債務が成長率に影響を与えるという根拠を得ることは出来なかった。よって現在の我々の知識では債務と成長率の関係は財政再建の議論への支持として用いるべきではないと考える。

債務と成長率に負の相関を発見することが出来なかったからといってこれはどんな水準の債務でも維持できることを意味しない。持続不可能となる債務の水準が間違いなくある(例えば利払いがGDPより大きくなった場合など)。またはデット・オーバーハングが効果を発揮する債務比率に達した場合など。ここでの結果が示したものは先進国は債務が成長率に対して負の効果を持ち始める閾値をまだ下回っていることを示唆しているように思われるということだ。

2013年3月16日土曜日

債務比率が90%を超えると成長率が1%低下する?

要点だけ箇条書きしました。後で追加します。

I. Introduction

・26のケースで成長率は平均1.2%下落した
・それぞれの成長率は2.3%対3.5%
・高債務期の平均期間は23年
・累積損失は膨大
・産出水準は四分の一低い
・長期の関係なので高債務→低成長が一時的な現象ではないことを示唆する
・今回の方法では戦間期と平常時または金融危機とを区別する
・高債務期と実質利子率との関係も示す
・26のうち11のケースで実質利子率は低いか変わらなかった
・高債務の弊害が利子率上昇を通して伝わるのには時間がかかるのかもしれない

II. Preamble: Varieties of Debt Overhangs
・政府債務に焦点を充てているとはいえ民間債務を無視するのは問題
・暗黙の債務もある
・これらすべて低成長をもたらす可能性がある
・高債務は例えば課税の歪みや政府投資の減少を通じて低成長につながる
・高債務→デフォルトの危険が高まることにより問題は複雑になる
・不確実性は利子率を引き上げ(課税の歪みと加えて)投資活動を不活発にする
・債務に直面した家計は支出を切り下げ総需要を通して成長を低下させるだろう
・金融抑圧により政府の借り入れコストを低下させるなら、結局は同様に成長を阻害するだろう
・外部からの借り入れは問題を急激にする
・債務を減少させるのに用いる手段が限られているからだ
・インフレーションや金融抑圧が実行できない
・債務の種類の違いによる相互作用は複雑であまり理解されていない
・例えば民間債務はしばしば政府のバランスシートに吸収される
・最近アイルランドで起こった例だ

2.1. Public debt
・表1に1900-2011の先進国、発展途上国合わせた70の国の平均債務/GDP比を掲載する
・低成長と関連する閾値は先進国、発展途上国ともに依然述べたように90%
・22の先進国の2011年平均はすでに90%を超えている
・これらの国はデット・オーバーハングに陥っている

2.2. External debts: Public and Private

・表2に政府と民間のグロスの債務を示す
・相互作用は外部債務の方が急激だ
・以前示したように民間の債務は危機時に政府債務に取り込まれている
・ヨーロッパ諸国の先導により2000以降の外部債務は先例のないほど急激に上昇した
・以前の研究では新興諸国の外部債務の閾値は60%
・だが先進国では同様のデータはない
・以前の研究で先進国の外部債務の閾値も政府債務と同じ90%であることを示した
・ヨーロッパ全体で民間と政府の外部債務は既に90%の閾値を二倍超えて不確実性の源となっている
・これはユーロ間の債務も外部債務と見做したからだ。一次の近似としては正しいが債務を少し過大視している可能性がある

2. 3. Private Domestic Debt

・表3に民間の国内信用を示す
・主として銀行融資
・簡単に比較するにはわかりやすいが不完全な方法であるのに留意が必要
・表4に民間レバレッジの測定方法を示す
・危機前の国内信用の上昇は外部債務のパターンと酷似している
・これは国内信用の上昇と資本流入が結びついているので驚きではない

2. 4. Summary

・現在先進国が直面している政府、民間、国内、海外債務の範囲と規模は先例のないものに達している
・なので過去から得られた高債務と低成長の関係は現在にあてはめた場合に危機を過小評価している可能性がある

IV. Features of Episodes of High Debt

・民間債務を組み込んだより広い概念のデット・オーバーハングと国内、海外債務の区別する
・まず政府債務に焦点を絞る
・政府債務のデット・オーバーハングをGDP比90%以上を5年間越えた場合と定義する
・1800から22の先進国の26回の事例を調べる
・これには現在展開中の危機の事例は含めない
・しかしギリシャ、イタリア、日本は含める
・危機の開始が1993、1988、1995だから

1. The episodes

・表1と2にデット・オーバーハングの基準を満たした事例を掲載する
・表2に高債務ではあるが短期間で済んだ1930年代の事例を載せる
・22の先進国のうちデット・オーバーハングに陥らなかったのは9カ国だった
・残りの13カ国は一度以上経験している
・1列目はサンプル国
・次の6列は実質成長率平均、実質短期利子率、実質長期利子率
・それぞれに対して債務/GDP比が90%以下と以上の平均を示してある
・列9に90%を超えた年数の割合を載せる
・例えば1848から現在までのうち56%でギリシャの債務は90%を超えている

・表1は10年以上続いた例に充てられる
・個々の国に関してその国に別の危機があったかどうか表2と照らし合わせる
・その次から最後の行までに個々の事例の期間を載せる
・コメント欄にその債務がどのように発生したと思われるのか(銀行、インフレーション、為替変動、債務)述べる
・可能であれば債務と利子率のピーク水準とその他の関連する出来事があったか示す(デット・コンバージェンス、金融抑圧)

2. Causes and duration

・多くのケースで戦争が原因になっている
・WW2とWW1で集団を形成している
・歴史的高債務国のギリシャとイタリアは第一集団を形成(56%と48%)
・少し驚きなことにオランダとイギリスはほとんどない(3%と2%)
・これはナポレオン戦争が原因
・兌換制の前にはインフレーションや金融抑圧はWW2後ほど頻繫ではなかった
・金本位制の時代には負の実質利子率を通した政府債務の清算は簡単には実行できなかった。
・19世紀には債務を削減するには長い時間が掛かったことを意味する
・19世紀にはその他の方法が用いられた
・債務の支払と削減を容易にする移転があった
・オランダはインドネシアから債務削減のための収入を得ていた
・さらには金融抑圧を伴った利子率制限があった
・平和時の高債務集団はベルギー、カナダ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、日本がある
・短いのはカナダ、アイルランドで8-11年
・日本の巨額の債務は1991年の銀行危機を起源にもつ

3. Public debt overhang and slow growth, with and without interest rate drama

・課税の歪み以外で、教科書では公的債務と成長の関係についてリスクプレミアム経路を強調している
・高債務によりリスクプレミアムが増加し長期実質利子率が増加する
・最近の研究が示すように債務と成長率の関係は非線形で同様に債務とリスクの関係も非線形だ
・急激な実質利子率の上昇は投資や非耐久財の消費、住宅投資にとって悪い影響をもたらす
・公的債務が90%を一度でも超えた国であっても90%を下回った期間の実質成長率の平均は3.5%だった(つまり回復した?)
・高債務期は2.3%
・中央値は2.1%
・しかし例外が3つあった

・表1と表2に国ごとの成長率と利子率の違いをまとめる
・図表1と図4に期間ごとの詳細を示す
・図表1は2行2列
・上段は高債務期でも成長率が高かった国
・下段は低かった国
・右の列は低利子率
・左の列は高利子率
・真ん中は高債務と低債務の間で利子率に変化がなかった
・教科書のリスクプレミアム経路で予想されているように高い実質利子率は高債務期で一般的だ
・だが図表1が示すように無視できない期間で低成長と低利子率期が並存している
・教科書ではこれは説明されていない
・さらに高債務期において平均利子率が最も上昇した事例と成長率が最も下落した事例には関連がほとんどない
・(ようするに利子率と成長率にあまり関連が見られない)
・図4にこれを示す
・左のパネルは成長率の差分を示す
・図4の上部においてベルギーのWW1後6年間の高債務期は再建期のブームもあって3.7%とそれまでの平均を上回っていた
・戦後のインフレが大幅な実質利子率の低下をもたらした(-8%)
・WW2後6年間の高債務期の成長率は軍の展開があったので低かった(さらに都市全体を再建する必要がなかった)
・現在の状況と関わって来るのは平時の高債務が密接に低成長と結びついていて実質利子率と関連がないことだ

4. The cumulative effects of debt overhangs

・低成長の累積的影響を簡単な数値例で示す
・ベースラインシナリオでは実質成長率を3.5%とした
・23年後には100から221になる
・もう一つのシナリオでは2.3%とした
・23年後に100から169になる
・ベースラインに比べて24%低い

V. Conclusions

・省略

2013年3月7日木曜日

構造改革は(やっぱり)インフレ対策ではなかった?

Globalization and Global Disinflation

by Kenneth Rogoff

過去10年、世界のインフレ率は30%から4%に低下した。中央銀行の努力によるところが大きいだろう-中央銀行の独立性の強化、保守的な中央銀行、コミュニケーションの向上など-。さらに高いインフレを構造問題、財政問題に対処する手段として用いることは間違っているという認識が政治家や民衆の間に広まったことも大きいだろう。中央銀行はインフレ率の低下に貢献しているだろうがしかし本当にすべて彼等の力だろうか?ディスインフレの環境に恵まれたのではないのだろうか?この好環境は将来にわたってこのまま保持されるのだろうか?財政規律の強化や生産性の向上はそのような環境要因(として挙げられるもの)の一例だ。ロゴフはそれらの代わりにここでは財市場、労働市場における競争の激化、規制緩和、政府の役割の縮小に焦点をあてたいと思う。

競争により価格は低下する傾向があるのでグローバル化、規制緩和、政府の役割の縮小等が織り成す相互作用はインフレ率に直接的な影響をもたらすはずである。だがここでは競争の影響は政治経済学的過程を通して長期のインフレ率のトレンドに影響を及ぼすことを述べたいと思う。競争は物価水準を低下させるのみでなく価格(と賃金)をより流動的にする。結果として予想されない金融政策の効果は小さくなりさらに一時的なものになる。よって中央銀行にとってインフレを起こす動機は小さくなり政治家にとって彼等に圧力を掛ける意義も小さくなる。同様に重要なこととして産出と雇用は競争の厳しいところでより高くなる。これもまたインフレを起こそうとする動機を小さくする。これら圧力の低下により中央銀行への信頼性は高まりインフレ率は低下する傾向を見せるだろう。

先進国でのインフレ率の低下はよく知られている。1980年代の前半以降にインフレ率は9%から2%にまで低下した。これに比べてはるかに知られていないのは途上国でのインフレ率の低下で1980-84の31%から2000-03には6%以下まで低下した。90年代の前半にラテンアメリカのインフレ率は230%、移行経済のインフレ率は360%、アフリカのインフレ率は40%だった。これら3つの地域の平均インフレ率は2003に一桁になると予想されている。

平均インフレ率の低下だけでなく例外的に高いインフレ率も同様に消滅した。アルゼンチンの物価水準は1970年代から100兆倍になりブラジルは1000兆倍、コンゴ共和国は1京倍になった。現在では184のIMF加盟国のうちわずか3ヶ国-ミャンマー(40%)、アンゴラ(75%)、ジンバブエ(400%)-が40%の閾値(多くの研究者が実際にインフレの損害を確認できた閾値)を超えたに過ぎない。20%を超えたのは11ヶ国で30%を超えたのは6ヶ国だ。この水準のインフレ率は未だ問題ではあるものの10年前と比較してはるかによくなっている。

インフレ率低下の要因としてまず財政規律から順に焦点をあてていく。貨幣の発明以来、直接的間接的を問わず政府債務のファイナンスに対する圧力はインフレの最大の動力だった。しかしだからといって財政規律の改善が近年のインフレ率の低下をもたらした最大の要因かどうかはまったくといっていいほどはっきりとしていない。ラテンアメリカとアフリカでプライマリーバランスが改善したことは事実だ。しかしその他の地域では傾向ははっきりとしない。先進国ではプライマリーバランスは最近また悪化するまでは改善したが高齢化の影響による長期の財政の見通しまで考慮すれば全体像はよくてまちまちだ。他の多くの新興国や発展途上国では政府債務は過去15年で所得比に対して大幅に増加した。

次の章ではディスインフレに貢献したとよく引き合いに出される世界的な生産性の動向について述べる。結論を言えば生産性に関する話はアメリカの90年代後半からの話には適合するものの他の地域への一般化(例えばヨーロッパへの)は明白からは程遠い。

I. THE NEAR UNIVERSAL FALL IN INFLATION

A. Global inflation trends

一つか二つでも高いインフレまたはハイパーインフレの国があればその地域の平均を歪めてしまうのでここでは国毎にデータを分解する。分解は二通りの方法で行う。表2に1992のインフレ率がゼロを下回ったか10%を超えた国すべてを掲載する(または2003に予想されている国)。この表からはインフレ率がゼロから10%の間の国は除かれてある(ただし1970-2003期間のすべての国のインフレ率をAppendix table A1に掲載してある)。1992には44の国のインフレ率が40%を超えていた。その半分以上は移行経済が占めていたもののその他はすべての地域から満遍なく構成されていた。2003には先程述べたように3つの国だけが40%のインフレ率を超えている。


どちらかといえば現在では高いインフレ(40%超)よりもデフレーションの方が直面する事態となっている。CPIのよく知られた上方バイアスを考慮すれば(新製品バイアス、アウトレットバイアス等)、さらにバイアスを考慮してデフレーションを0.5%か1%で定義すればデフレは大きなカテゴリーを占める(図1に示す)。


図2a-2bにより長い時間軸での各国のインフレ率を示す。黒い太線はインフレ率がゼロから10%の間の国の割合を示す。ラテンアメリカでは1980の10%以下から2003にはほぼ80%にまで上昇している。中東では1980には33%だったが2003にはやはり80%に達している。アジアでは20%から70%に上昇している。高率のインフレ率はこの逆パターンだ。

B. Persistence

もちろん比較的限られた期間のデータから多くを語ることは出来ない。例え十年の期間であってもだ。歴史の語るところによるとインフレのサイクルは非常に長期にわたることが知られている(図3に示す)。


II. FACTORS UNDERPINNING THE GLOBAL REDUCTION IN INFLATION

60年代や70年代の中央銀行は悪いケインズ理論に支配されていた。70年代や80年代の大インフレはマクロ経済学教育の失敗の副産物だ。インフレは中央銀行のコミュニケーションと技術の問題だというのが80年代には意識されるようになってきた。しかしおそらくこの見方は過去(60年代、70年代)の政策当局者の能力を過小評価しすぎで現代の政策当局者の能力を過大評価しすぎだろう。

私は中央銀行制度や政策当局者の能力が改善したという意見にほぼ賛成するがインフレが世界のいたるところで低下したこと(弱い制度、不安定な政治情勢、人材不足の中央銀行等の国でも)を顧みればその他の要素も大きな働きをしたと考えられる。中央銀行の独立性が世界的に上昇したことは事実なので通説的見方にきちんとしたコアがあることも事実だろう。

A. Greater Central Bank Independence

世界的なディスインフレと金融政策体制との関係を描写するには為替相場制度とインフレのパフォーマンスとの関係を見るのが分かりやすい。

図4に“Natural Classification Scheme” of Reinhart and Rogoff (2004)にもとづいて為替相場制度を5つに分類する。おおまかにいうとこの分類法は為替制度を政府が公表している形でではなく実際の為替相場の変動にもとづいて分類している。図は為替制度をペッグ、制限された変動相場制、管理フロート制、完全変動相場制、通貨危機と分類している。制限された変動相場制と完全変動相場制がインフレに関して最も成績がよい。ただ通貨危機を除いてその差は比較的小さい。


図5に示すように主要な経済圏や地域でグループ分けを行っても同じ結論が得られる。完全変動相場制と管理フロート制のほとんどの国のパフォーマンスは似通っているのでインフレ安定化の万能道具のようなものはないという見方に支持を与える。

注16 ペッグ制度が途上国で相対的によい結果を示しているのは驚きではない。特に図5にあるようにペッグ制度崩壊の後の高インフレ率はペッグ制度以外に振り当てられるからだ。

B. Tighter Fiscal Policy

90年代以降多くの国の財政状況は改善してきた。表5にあるように先進国の平均プライマリーバランスは1990-2002に2.8%となり1970-1989の-0.1%から改善していることがわかる。この図は過去2、3年を除けばさらに改善する。新興国と途上国も同様の改善を見せる。ラテンアメリカの各国は平均-0.1%から1.3%に改善した。アフリカの各国は1990-2003も-1.6%の赤字だ。だが90年代以前の-3.4%から見れば改善している。

もちろん財政赤字または債務の増加にも関わらずインフレ率が低下している例が豊富にある。インドは継続的にGDPの10%の財政赤字を示しているがそれでもインフレ率は低下している。日本は継続的にGDPの6-7%の赤字を示し債務/GDP比率は150%を超えているがデフレを経験している。もっと一般的にReinhart, Rogoff, and Savastano (2003)は過去15年に多くの新興国と途上国は債務を大幅に積み増していることを示した。金融抑圧からの解放、関税収入の低下、高い財政赤字がこのトレンドの背景にある。それでもこれらの国のインフレ率は低下している。

C. Productivity Growth and the Technological Revolution

ディスインフレーションに対するその他の説明として生産性の向上が挙げられる。予期されない生産性の上昇は少なくとも一時的にはインフレ圧力を和らげる。成長により財政状況が改善する効果と金融引き締めの必要性が低下するからだ。生産性向上のストーリーはアメリカではよく適合する。が、単純化した形での生産性仮説は世界的なディスインフレに対する説明としてはうまく適合しない。実際ヨーロッパのケースでは単純に逆相関している。つまりインフレ率はこの期間低下しているが生産性成長率もまた同様に低下している(順相関じゃないかというつっこみはやめてください。気分の問題です)。図6に示すようにヨーロッパでは90年代後半に生産性成長率は大幅に低下してそのトレンドは継続している。途上国では生産性-特に貿易財の-はおそらくインフレ率低下の要因となっているかもしれない。その影響をグローバル化の効果から分離するのはとても難しいことだろう。そしてこの点を次の章で見る。


D. Globalization, Deregulation and Declining Monopoly Power

はっきりとした根拠はまだ限られているもののグローバル化、規制緩和、政府の役割の縮小等の相乗作用が競争を激化させ独占的企業の準レントを減少させたことは確かなように思われる。70年代以降OECDE加盟国で準レントが減少したことを示した研究もある。ヨーロッパでの財市場と資本市場の統合が最初の重要な一歩をもたらした。EUに加盟した中央ヨーロッパへ向けて生産がシフトしている現在のように生産はその後コストの低い国にシフトしていった。

80年代の間に規制緩和の速度はイギリス、ニュージーランド、オーストラリア、カナダで大幅に加速した。実際これらの国は10年前に規制緩和を始めたアメリカの水準とほぼ等しくなった。ヨーロッパはこれら英語圏の先頭集団に遅れたものの90年代に大幅な進歩を見せた。だがこの地域はまだ高い障壁を残している。限界費用に対する価格マークアップはイギリス、アメリカと比べてまだかなり高い(IMFの2003のWEOによると0.40と0.15)。途上国では貿易の解放は国内企業の独占的レントの大幅な低下につながった。常にそうだったわけではないものの民営化も競争の強化につながった。

独占的価格交渉力の低下は金融政策の影響を一定とすれば実質価格の低下へとつながる。金融政策当局者はもちろんその名目物価水準効果を打ち消すように金融政策を調整することが出来る。だが彼等は実際にはその効果をインフレ率の低下に用いるだろう。

グローバル化は間接的な効果だけでなく直接的な効果も持つ。アジアの新興国との貿易は財の実質費用に低下圧力を掛けるだろう。労働者の実質購買力はグローバル化以前と比べて増加する。中国だけだと世界の貿易の5%を占めるに過ぎないがアジアの新興国の合計ではほぼ20%を占める。直接効果と間接効果が同時に働いているのでアジアの新興国が世界のインフレに与えている影響を評価することは難しい。例えば貿易(可能)財が最大でアメリカのGDPの20-25%を占めるに過ぎないと仮定しても他の部門へのスピルオーバー効果がある。貿易財は中間財(例えばコンピューター等)も多く含みこれは非貿易財をある程度代替することが出来る(注 IT化によりコールセンターの仕事が海外に移転するような事例を指していると思われる)。

注19 資源価格にも90年代以降低下圧力が掛かっている。これも資源輸入国のインフレ率低下に対して好環境を作り出している。この要因はここで私が挙げた要因よりもより重要かもしれない。そして更なる考慮を必要とする。

E. Increased competition and anti-inflation credibility

最近になってニューケインジアンモデルやニューオープンエコノミーマクロモデルの研究者から独占的競争がキドランド-プレスコット-バロー-ゴードンモデル(以下KPBG)のミクロ基礎となるとの指摘を受けることが多くなった。この新しい枠組みでは財市場、労働市場での独占は独占下での雇用水準と競争均衡下での雇用水準との間に歪み(ウェッジ)を作り出す。この歪みは中央銀行にインフレを引き起こして自然水準以上へ雇用水準を引き上げようとする動機を生み出す。この歪みが小さくなれば予期されないインフレからのゲインは少なくなる。中央銀行のインフレタカ派としての信頼性は何の制度の変更がなかったとしても高まることになる。結果として均衡インフレ率は低下する。よってグローバル化によるものであろうと規制緩和によるものであろうと競争の激化は実質価格を低下させるのみでなく低インフレ均衡へと向かわせることになる。

第二のメカニズムは価格の流動性の増加だ。多くの理論的、実証的研究によれば農業や半導体のように非常に競争の厳しい部門では高い労働組合組織率を持つ部門に比べて価格はより流動的であることが知られている。価格がより流動的である部門では金融政策が実質経済に与える影響はより小さくなる。予期されないインフレからのゲインがより小さくなれば金融政策当局者の低インフレに対するコミットメントはよりクレディブルになる。

F. A Simple Mathematical Formalization of the Effects of Increased Competition on
Equilibrium Trend Inflation

まずグローバル化と規制緩和が経済をより競争的にし歪み(ここではkとする)を減少させ期待インフレ率を低下させた。この一連の流れは独占価格の低下によるインフレ率の低下といったことが原因で引き起こされているのではない。中央銀行が選択しない限り相対価格効果はインフレに対して影響を持たない。むしろ歪みが小さくなったことにより中央銀行のインフレへの誘惑を抑え低いπの値を選択させる。歪みkに影響を与えるのでない限り正の生産性ショックは一時的な効果しか持たず長期において効果はなくなる。

最近のミクロ基礎を持つモデルによれば独占の低下はさらなる効果を持つ。競争の激化が価格をより流動的にするのならば中央銀行の目的関数は以下のように書き換えることが出来る。

[μ(π - πe) – k – z]2 + χ(π – π*)2

μは価格の流動性の逆数だ。均衡期待インフレ率、現実のインフレ率は以下になる。

πe = π* + μ k/ χ and π = π* + μ (k - z)/ χ

μが高ければ価格の流動性が低いことを意味する。そしてインフレへの誘惑が大きい。この設定のもとで競争の激化はkに加えてμも低下させる。インフレタカ派的政策への信認をより強化する。

(1)トレンドインフレ率に関して真に重要なのは中央銀行のインフレへの誘惑だ。よくインフレと混同される相対価格へのショックの重要性は2次的なものでしかない。

(2)予期されない生産性へのショックはインフレ率を低下させる可能性がある。しかしそれは一時的なものだ。インフレ率のトレンドに対する説明としては競争や価格の流動性の増加のようなどこか他の要因に求めなければならない。

G. Reduced conflict

近代に平和時でのインフレーションを何度か目撃したことはあったにせよ歴史の中で高率のインフレを引き起こしたのは戦争であったり市民の衝突だった。これは図3の中で既に見た。第2次大戦やその後のインフレーション、70年代のインフレーションだ。データを第一次大戦前まで遡ればその効果はより劇的なものになるだろう。今日のわずかに残った数少ない高インフレ国も過去の衝突の産物だ。仮に高いインフレがこれから起こるとしたら衝突がその最大の要因の一つになるだろう。90年代に多くの悲惨な戦争を目撃したが全体的な状況は過去よりも穏やかになっている。テロ事件以降の世界には幾分かの揺り戻しがあるかもしれない。

III. WILL INFLATION COME BACK??

多くの国で退職給付がインフレ率に連動されているといっても予期されないインフレや非インデックス化を組み合わせて債務削減を試みようとする国がまだあるかもしれない。

今日の低インフレへの最大の脅威はもちろん中央銀行の独立性に対する揺り戻しになるだろう。特に成長率のトレンドが低下した場合には(その原因はグローバル化や自由化からの逃避であるとなるだろうが)。中央銀行の独立性が強いままである限り今日の実質ゼロインフレーションは長期間に渡って維持されるだろう。