Scale Effects and Productivity Across Countries:Does Country Size Matter?
by Natalia Ramondo Andr´es Rodr´ıguez-Clare Milagro Sabor´ıo-Rodr´ıguez
1 Introduction
成長がイノベーションによりもたらされるモデルには自然に規模の経済が伴う。Jones (2005)によると「規模の経済は知識をもとにした成長モデルと密接に結びついていて一方を否定することはもう一方を否定することにつながる」。Romer (1990)、Kortum (1997)、Jones (2005)で説明されているように規模の経済は知識は非競合性を持つという仮定に従っていて標準的な成長モデルでは所得水準は国の規模と共に上昇すると暗示されている。だがデータを手早く見た限りだと小国は大国に比べて貧しいように見えない。ベルギーとフランス、香港と中国を見よ。
2章では性質は同一の複数の地域から構成された閉鎖経済からモデル化する。閉鎖経済モデルを貿易とMPをどのように導入しその摩擦が規模の経済を弱めるかを最もシンプルな方法で説明するために用いる。次にこのモデルを国際間の貿易と国際間のMP(ある国の任意の地域を起源に持つ生産のための知識を他の国の任意の地域で用いる)へと拡張し実質賃金が国内摩擦と貿易に対する開放から得られる利得(これ自体も貿易とMPの関数となる)の関数であることを示す。
3章ではモデルをカリブレートしそして開放度と国内摩擦がデンマークパズルを解消するのに果たす役割を調べる。デンマークの場合ではモデルはデンマークの実質賃金がアメリカの実質賃金の76%(データでの91%に対して)であることを示唆している。従って2つの経路を合わせるとパズルの70%以上を説明できる。国内摩擦が開放度よりもはるかに重要でデンマークパズルの3分の2以上を説明し貿易とMPは5%を説明することが分かった。残りの4分の1が残されているが貿易やMPと関連しない他の形態の開放度(企業の外で行われる知識の国際間の拡散など)の存在が考えられる。4章と5章でこの点に関して触れる。
注5 適切な用語がなかったのでMPという用語を同国内の他の地域からもたらされた知識を用いて(同国内の)ある地域で行われる生産に対しても用いる。例えばウォルマートのアーカンサス州以外での活動もそれがアメリカ内の活動であったとしてもMPと呼ぶ。
この研究は国の規模、開放度、所得との関係を調べた一連の研究と関連している。Ades and Glaeser (1999)、 Alesina, Spolaore, andWacziarg (2000)は国の規模と貿易が所得に対して正の効果を与えていると報告した。そして規模の経済は貿易に対する開放度によって弱められることも報告した。Frankel and Romer (1999)、Alcala and Ciccone (2004)はは国の規模と開放度は所得の高さと関連すると報告した。Alcala and Ciccone (2004)は貿易、制度の質、地形を制御して規模に対する所得の弾力性が0.30であると報告した。我々のモデルの結果に極めて近い。この分野では小国は貿易からより利益を得ていると報告される傾向がある。だが我々のモデルではその効果は小さい。開放度はデンマークパズルをほとんど説明できない。
3 Quantitative Analysis
19のOECD加盟国を対象とする。オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、スペイン、フィンランド、フランス、イギリス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、日本、オランダ、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガル、スウェーデン、アメリカだ。これらはEaton and Kortum (2002)、Ramondo and Rodr´ıguez-Clare (2010)と同じだ。
最後に3番目の方法はAlcala and Ciccone (2004)の結果を用いるものだ。この弾力性は式(17)の文脈内で解釈できる。HnとDnは地形を、Tnは制度を、式(17)の最後の3項が貿易とMPの開放度に対する制御変数になっているとすればMn=Ln/Lと(1+η)/θの係数は0.3と等しくなりうる。η=0.5ではθは5に等しい。
θ=6をベースとなる値として選び θ=4、θ=8を頑健性の確認として調べた。実質賃金の弾力性ln'(wn/Pfn)/ln'Lnは(1+η)/θ=1/4でJones (2002)の1/5とAlcala and Ciccone (2004)の1/3に近い。この値は都市経済学の文脈での弾力性に比べて高いように思われるかもしれない。例えばCombes et al. (2012)は密度に対する生産性の弾力性は都市レベルでは0.04から0.1の間だと報告している。だがこれは誘導型の弾力性であって我々のものは構造型の弾力性であることに注意する必要がある。よって小国が強い規模の経済で示唆されるよりも豊かなのと同じ理由(国内摩擦と開放度)で観測される都市の規模の経済の効果は低められることになる。
注19 この結果はRose (2006)の小国は貧しくないという結果と対立するものではない。彼は何も制御していないのに対してAlcala and Ciccone (2004)は制度、地形、貿易を制御しているからだ。
3.2 Preliminary Results: the Danish Puzzle
wn/Pfn=~γ(Ln~Tn)^(1+η)/θ (20)
~TnがR&Dに従事する人数の割合と直接的に変動すると仮定してカリブレートする。R&Dに従事する人数の割合はWorld Development Indicatorsの90年代のデータの平均値を取って用いた。Lnは実効労働量を示す変数でKlenow and Rodr´ıguez-Clare (2005)のものを用いた。
図1にR&D集約度とLn~Tn=MnTnで調整した規模と実質賃金との関係を図式化した。緑の点は閉鎖経済下のモデルの実質賃金を描写していて黒の点は実際のデータのものだ。閉鎖経済モデルは小国の所得水準を過小予測していることが簡単に見て取れる。
3.3 The Gains from Openness
始めに閉鎖の下での実質賃金と観測されるデータとの間のギャップが国内摩擦のないモデルの貿易とMPからどのぐらい説明できるかを調べる。この文脈では開放経済の下での実質賃金は閉鎖経済のものを開放度で強化したものと同じだ。式(17)と式(18)から実質賃金は以下で与えられる。
wn/Pfn=~γ(Ln~Tn)^(1+η)/θ×GOn (21)
GO(*Gains from Opennessの略)は次に説明するデータから直接計算される。
3.3.2 Does Openness Resolve the Danish Puzzle?
国内摩擦のないケースで開放経済の下でのn国の相対的な実質賃金は以下になる。
GT(*Gains from Tradeの略)は貿易からの利益を示す。GMP(*Gains from MPの略)はMPからの利益を示す。
表1の列1は国内摩擦がない場合での閉鎖経済下の実質賃金を示す。以前述べたようにモデルは小国は実際のデータよりもずっと貧しいことを示している(列1と列6)。列2に貿易からの利益を、列3に貿易だけを組み込んだモデルから示唆される実質賃金を示す。列4に開放度からの利益を示す。列5に式(22)から示唆される実質賃金を示す。サンプルの中で最も小さい7つの国に焦点を絞る。表10にすべての国の結果を示す。
実質賃金はアメリカに対する相対値であることに注意が必要だ。デンマークが開放度から大きな利益を得ていたとしても(1.35)、アメリカもまた利益を得ている(1.23)。よってデンマークパズルを解消する純効果としては開放度は大きくない。実質賃金のギャップは大きいままだ。モデルはデンマークがアメリカの37%の実質賃金であることを示唆している。デンマークに対しては開放度はギャップの5%を説明するに過ぎない。この様子が図1から簡単に見て取れる。
注22 この直感に反する示唆はEaton and Kortum (2002)、Alvarez and Lucas (2007)、Waugh (2010)の貿易だけを組み込んだモデルでも共有されている。より正確に言うとこれらはすべてパラメータTが実質賃金のデータに丁度適合するようにカリブレートされている。だが直感に反するのは小国でT/Lがはるかに高いことだ。これはデンマークパズルを別の視点から見たものだ。
開放度と国内摩擦を組み込んだ場合では実質賃金は式(17)で与えられる。n国のアメリカに対する相対的な実質賃金は以下のようになる。
wn/Pfn/wus/Pfus=(Ln~Tn/LusTus)^(1+η)/θ×GOn/GOus(Hn/Hus)^-1/θ(Dn/Dus)^-η/θ (23)
国内摩擦の果たす役割はこの表現の右側の第3項で捉えられる。これら摩擦の役割を評価するためにはすべての国のdnn、hfnn、Mnをカリブレートする必要がある。
貿易とMPに対する国内摩擦は分析の上で重要な変数だ。第一にdnnはアメリカのものとその他の国で同じと仮定している。基本となる推計ではdnn=1.7で2002のデータでθ=6に対応する。第二に最終財のMPへの摩擦は貿易への摩擦と同じぐらい大きいと仮定している(hfnn=dnn)。以下で頑健性を確認する。
同様に図3の右側はdnn=1.7に固定したままでデンマークとアメリカのhfnnの変化を考慮する。特にhfnnが4の場合にモデルはデータで観測される相対的実質賃金とほぼ完全に適合する。最終財に対する高い摩擦により規模の経済は非常に弱くなり開放度から得られるデンマークのアメリカに対する相対的に高い利益(1.36と1.23)が規模の小ささとR&Dに従事する人数の割合の低さを埋め合わせる。最終財の国内MPが摩擦なしで行われるならば(hfnn=1)デンマークの実質賃金は0.45となりデンマークパズルの20%を解消するだろう(0.34から0.45)。
驚くべきことではないが貿易とMPのどちらかへの高い国内摩擦は小国よりも大国に影響を与え小国がキャッチアップするのを可能にする。だがMPへの国内摩擦が上昇した場合にデンマークはアメリカに対してより速くキャッチアップする。そうなる理由は最終財への国内摩擦が中間財への国内摩擦よりも実質賃金に対して強い影響を与えるからだ(式(17)のHn^-1/θとDn^-η/θの指数の中に1/θ>η/θとして反映されている)。
列1に閉鎖経済下での実質賃金を示す。列2に開放度からの利益を示す。列3に国内摩擦を示す。列4に国内摩擦と開放度を組み込んだモデルから示唆される実質賃金を示す。列5に実際のデータでの実質賃金を示す。
国内摩擦は規模の経済の効果を減少させ小国の手助けをする。デンマークの実質賃金は国内摩擦を考慮した場合には2倍以上になる。国内摩擦は開放度よりもデンマークパズルの解消に大きく貢献している。国内摩擦により実質賃金は閉鎖経済下での0.34から0.69へと上昇する。一方で開放度はわずか0.37へと上昇させるに過ぎない。国内摩擦だけでギャップの3分の2以上を解消することが出来る。
図4に実際の実質賃金(黒点)、閉鎖経済下での実質賃金(緑点)、摩擦のある開放経済下での実質賃金(紫点)を示す。各国はR&Dで調整した規模Ln~Tn=TnMnの順に並べてある。すべての変数はアメリカに対する相対値で示してある。この図はギャップを解消するのに最も貢献しているのは開放度ではなく国内摩擦の存在であることをはっきりと示している(図1の赤に対する緑、図4の紫に対する緑)。
4 Discussion
デンマークパズルの残りの部分を説明できる鍵となる要素は何か?
基本となる結果は変わらない。さらに小国は就学年数、政府の汚職、官僚制度の質、法の支配などの点で有利かどうかを調べてみた。これらの変数とR&Dで調整した規模(~TiLi)との相関は0.30、-0.17、0.12、0.22だった。小国がよい制度を通して生産性を向上させているという考えはデータから支持されなかった。
間接的ではあるがいくつかの資料は国際的な技術の拡散の重要性を指摘している。Eaton and Kortum (1996, 1999)は国際的な特許のデータを用いて間接的に技術の拡散の流れを推測するモデルを開発している。彼等はアメリカを除いたほとんどのOECD加盟国の生産性成長は外国の研究からもたらされていることを示した。そのようなモデルと我々のモデルを統合することは将来の研究課題だ。ここでは技術の拡散がデンマークパズルをどのように解消するかを簡単に確認する。
l国の技術を用いて行われるi国での生産量の何割かがMPとして記録されないと仮定する。中国でフォックスコンにより生産されるアイフォンの例を考える。これはアメリカの技術を用いて中国で生産が行われているがその生産が中国の企業により行われているのでMPとして記録されない。φ>0と設定することによりこの現象を捉えその重要性を調べることが出来る。φの値は開放度からの利益の計算に影響を与える。ΣYfni=wnLnである最終財の場合を考える。すでに述べたようにYfniをn≠iに対してMPデータから計測する。そしてwnLnをn国のGDPとする。次にYfnnをYfnn=wnLn-ΣYfnnの残差として得る。φ>0の場合に外国の技術を用いたn国の実際の生産量は1/1-φΣYfniで故にYfnn=wnLn-1/1-φΣ Yfniとなる。高いφの値は低いYfnnを示唆し故に最終財のMPから高い利益を得る。ある程度同様のことが中間財でも起こる。
注32 小国は大国に比べて高い特許の生産性を示さない。実効労働1単位あたりの特許とR&Dで調整した国の規模との相関はアメリカと日本が含まれる場合には正で0.7ぐらいだがこの2国が除かれた場合には0.35へと減少する。
φは各国間で同じで高いφの値は技術の拡散の大きさを示唆していると仮定した。図5にφがデンマークの相対的な実質賃金に影響を与えるかを示す。φ=0に対してデンマークの実質賃金は0.75になる。φ が上昇した場合にデンマークの実質賃金は上昇し が0.30に近づいた場合に実際のデータと一致する。φ>0.30の場合にデンマークは急速にキャッチアップしφが十分に高くなった場合にさらに豊かになる。この演算は妥当な水準の技術の拡散で残りのギャップを埋めるのに十分であろうことを示唆している。
5 Conclusion
(省略)
(追記)残りの表をいくつか掲載する。
(日本とスウェーデンの1人あたり実質GDPが際立って低いのが目立つ)
(就学年数にかなりの差があることはあまり知られていないようなので記しておく。他に目を引くのは1人あたり特許件数だ)
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