2015年8月12日水曜日

「大きな政府(増税)が経済成長にとって有害ではないというのは経済学者の間でコンセンサスになっている」というのは一体何だったのか?Part4

書き溜めておいたものを一気に投稿します。

What Economic Research Says About Fiscal Austerity and Higher Tax Rates

Robert P. Murphy

政治家に影響を与える狙いでまたは一般大衆を煽動しようという目的で、経済学者はアメリカの「財政の崖」とヨーロッパの「緊縮財政」を巡って(醜い)宣伝合戦を繰り広げている。ケインズ派の経済学者は素人の読者に向けて税率が経済成長に影響するまたは財政赤字の削減のために政府支出を削減することは不況の間でも好ましいというのは保守派の神話だと暗示させるような記事を一生懸命書いている。これはそのような保守派の主張を支持する理論的、実証的研究がかなりの量存在するにも関わらず為されている。興味深いことにそのうちの幾つかは今日最も声が大きい批判者によって書かれている。

Overstating the Keynesian Case

2つの例を見てみよう。ケインズ派の経済学者、Paul Krugmanとマクロ経済学者、Christina Romerだ。

金融危機が発生して以降、Krugmanは財政赤字を懸念する見方を批判している。以下の2010の記事からの引用が良い例だろう(*省略)。

Christina Romerも早過ぎる景気刺激策の打ち切りの危険を警告している。だが彼女は限界税率の引き上げが経済成長を阻害するという考えも標的にしている。2012の3月のNYTの記事で彼女は以下のように記している。

「もしあなたがこれらの税率の変動と経済のパフォーマンスの間に一貫した関係性を見出だせるとすれば、あなたはローマーよりもクリエィティブだ。成長率は実際1970年代の方が1960年代よりも低かった。そして税率は70年代の方が高かった。だが成長率は2000年代よりも1990年代の方が高かった。90年代の方が税率が高かったのにだ」。

「限界税率のインセンティブ効果は小さいという証拠がある以上、増税の反対派は新しい議論が必要だ。ひどいサプライサイドの神話を呼び起こすことは助けにならない」(*馬鹿?)。

これらの引用が示すように今日のケインズ政策の提唱者の多くは単に批判者に反対しているだけではない。それだけではなくただ唯一ケインズ派だけが科学的研究から支持されていると一般大衆に信じさせようとしている。これから私が示すようにその考えは単純に間違いだ。

Research Showing the Important Effects of Taxes on the Economy

「サプライサイド経済学」の理論的根拠は明確だ。人々はインセンティブに反応する。起業家、投資家、労働者の得られるものが少なくなるので限界税率の引き下げは起業や投資、労働供給を低下させる。これが長期の財政赤字の削減のために高額所得者の税率を大幅に引き上げるという提案に対して保守派やリバタリアンが持つ懸念の背後にあるロジックだ。

基本的な理論には論争の余地がないもののそのようなサプライサイド効果の大きさを調べることはテーマの一つになっている。幸運なことに査読誌に掲載されたかなりの数の研究がそれを行っている。Christina Romerが与えたがっていた印象とは完全にかけ離れて多くの経済学者は税が重要だということを発見している。

例えばPadovano and Galli (2001)は1951から1990の23のOECD加盟国のデータを用いて最高限界税率の高さと税の累進性が長期の経済成長と負に結びついていることを発見した。2002の追試研究で彼らは最高限界税率の10%の上昇が成長率を0.23%ポイント低下させると推計した。

Engen and Skinner (1996)は2倍強力な関係を発見した。彼らはアメリカと諸外国の税率と経済成長の関係を調べた20以上の研究を調べた。そして、「限界税率を5%引き下げた税制改革は(中略)長期の成長率を0.2から0.3%ポイント上昇させていた」と結論した。

Young Lee and Roger Gordon (2005)は法人税を調べて同様の結論に達した。1970から1997の70の国のデータを用いて彼らは法人税の10%の引き下げが成長率を1から2%ポイント上昇させることを発見した。この発見は衝撃的だ。成長率の1から2%ポイントの上昇は単に足されるのではない。複利される。成長率が1%上昇すれば20年間で複利されて実質GDPは22%増加する。

皮肉なことに最も強力な効果を発見したものの一つは他でもないChristina Romerとその共著者David Romerだ。2010の論文で彼らはアメリカの戦後のすべての主要な税制の変更を分類して以下のように結論した。

「我々の結果はGDPの1%の外生的な増税は実質GDPを3%低下させることを示している。第三に、外生的な増税に対して投資は急激に低下する。事実、投資の極力な反応は税率の変化に対する産出の反応がなぜそれほどまでに大きいのかを説明する手助けとなっている。第四に、税率の変化が産出に与える効果は極めて永続的だ」。

その後の論文では彼らは1920年代と1930年代のアメリカの所得税の限界税率の変化を調べてそれよりも弱い効果を示唆している。そうはいっても上記の引用はNYTの読者に向けてChristina Romerが行った査読論文の解説とはまったく整合的でないように思われる。事実、数多くの国と期間を調べた基礎のしっかりした研究は税制が経済のパフォーマンスに強力な影響を与えることを示している。

Research Making the Case for "Expansionary Austerity"

上で紹介した研究は氷山の一角に過ぎない。税が経済成長に負の影響を与えることを実証的に示した研究は数多くある。それと同時に多くの研究がケインズ派の「財政政策」の効果に関して疑問を投げ掛けている。この分野の研究が示していることの意義の一つは例え短期であっても債務を多く抱えた国は政府支出の大幅な削減から利益を得ることが出来るということだ。この現象は「拡張的な緊縮」と呼ばれる。

拡張的な緊縮が機能する理論的経路には様々ある。例えば幾人かの経済学者は「実物的景気循環理論」を挙げるだろう。この枠組の中では政府支出の増加は単に(市場ではなく)政治的手段によって配分される資源の割合を増加させるに過ぎない。家計と企業はすべての政府支出は最終的には(恐らくインフレか、将来の増税によって)支払われなければならないという事実を正しく考慮に入れる。この枠組の中では債務の増加によって賄われた減税の影響は家計貯蓄の増加によって完全に打ち消される。さらに債務の増加によって賄われた政府支出の増加の影響でさえも家計と企業は将来の増税を予想するので経済を刺激することはないかもしれない。

だからといって拡張的緊縮を支持するのにRBC理論を信じる必要はない。例えば投資家がその債務履行性に疑念を持つまでに政府が債務を積み重ねた場合には利子率はそれを予想して上昇し破局へと向かっていくだろう。債務を抑えるために政治的に極めて難しい政策の変更を採用することにより政府は債券市場へシグナルを送ることが出来るようになり利子率を低下させることが出来るようになるかもしれない。

Krugmanや他のケインズ派の主張とは異なり「拡張的緊縮」が機能した多くの歴史的事例がある。例えばECBはユーロ圏の5つの「財政再建」の事例を調べている。彼らは増税よりも政府支出の削減に基づく財政再建策の方が経済成長を損なう確率が低いと説明している。その報告書はさらに他の研究にも触れ、以下のように記している。

「この分野の実証研究はユーロ圏の財政再建が短期において経済拡張効果を持ったのかどうかに関して様々な結果を示している。上で紹介したある一定の規模の債務の削減期でアイルランド、オランダ、フィンランドの事例で拡張的財政再建が示唆される。もっと広範な事例を見てみればEUの過去30年間の財政再建の事例の半分ぐらいに財政再建の開始時と比較して短期においてパフォーマンスが改善している現象が見られる」。

最近査読誌に掲載された論文の中でBrian Lee Crowley, Niels Veldhuis, and Iが説明しているようにカナダの事例が参考になる。David R. Henderson (2010)による初期の研究もカナダの事例を明快に説明している。1990年代の中頃までカナダ政府は20年以上に渡って財政赤字を出していた。そして税収の3分の1が利子の支払いに充てられていた。1995の6月12日のWSJの記事はカナダを「(中略)債務を制御できない第三世界の名誉ある住人になった」と記した。

だがカナダはこの危機を大規模な改革によって乗り越えた。1995から1997の2年間で政府支出は7%以上減少する一方、(当時のドルを1ドル=100円として))3兆2000億円(GDPの4%に相当)の財政赤字は2500億円の財政黒字に転換した。増税も行われてはいたが政府支出の削減と増税の割合は5対1ぐらいだった。カナダの連邦政府は11年連続の黒字を達成し債務/GDP比は1996の78%から2007の39%へと低下した。

改革が行われてからの10年間はカナダは他のG7を経済成長、投資、雇用で凌駕している。IMFのデータによると1996から2005に掛けてカナダの実質GDPの成長率は平均で3.3%だった。アメリカは3.2%だった。そしてカナダを除いたG7の成長率はわずか2.1%だった。短期においてでさえ1990年代中頃のカナダの大規模な政府支出の削減は(失業率を一時的に上昇させるなどの)マイルドな副作用を伴っただけだった。

これら「拡張的緊縮」の事例で面白いのは今日のケインズ派たちは歴史的記述の正確性に疑問を投げ掛けているのではないということだ。そうではなく例えばKrugmanはこれらの事例が我々の現在の状況に対して重要性を持つということを否定している。彼は緊縮の影響を打ち消すその他の要素(特に、利子率の低下または通貨の下落)という言い訳を必死に探している。だが中央銀行がすでに短期の金利をゼロに引き下げ世界全体で見れば純輸出を増加させることは出来ないから(別にすべての国が不況というわけでもないのに)彼はこれら拡張的緊縮の歴史的事例が今日の政策当局者にとってのガイドとならないと考えているようだ(*緊縮しても経済が不況にならなかったのは為替が下落していたからだという主張はアイルランドなどを除いて否定されている)。

これはこの記事の冒頭で紹介した彼らの意見の要約からのまったくの変節だ(*ケインズ派に不利な証拠は一切ないと言っていたのに現実には山のようにありさらにその存在を否定するのではなく現在の状況という言い訳に走っているから)。現実には財政緊縮の成功事例が大量にある。だがケインズ派の中傷者たち(*ケインズ派を批判している者たちの意味ではない)はその意義を割り引く理由として現在の状況を挙げる。

けっこうだ。ではテーブルを逆さまにして彼らに尋ねてみよう。ケインズ的な景気刺激策が成功した事例はあるのか?今日のケインズ派は2009の巨額の財政赤字は正しい政策だった、だが規模が小さすぎたと我々に押し付けがましく説教してくる。あれさえもっと大規模であれば我々自身の目でケインズ派のモデルが成功するのを目撃することが出来たのにと彼らは主張している。質問を繰り返そう。過去においてケインズ派のモデルが宣伝通りに実際に機能した事例があるのか?

ここで、とある経済学者が書いた評価を引用することは興味深いだろう。

「ここでのポイントは大恐慌の終わり(一時的な景気刺激策が継続的な景気回復を生み出すことが出来るという考えが形成される原因になった恐らく唯一にして単一の事例)は実際にはそのストーリーに適合しているわけではないということにある。その流動性の罠からの回復は実質利子率を負にまで低下させたインフレ期待に大部分依存しているように思われる」。

「だが一時的な景気刺激策が経済の継続的な回復に寄与しないのであれば財政政策に頼った戦略は景気刺激策をほぼ永続的に継続しなければならないだろう。問題はどれぐらいの量がどのぐらいの期間必要となりそしてその債務が維持可能なのかどうかにある」。

この分析の筆者は他でもないPaul Krugmanだ。そしてこれは流動性の罠の間では昔ながらのケインズ派の分析が役に立つと彼が勘違いを始めた後に書かれている。上記の引用がはっきりと示すように1998頃には彼自身が景気刺激策が深刻な不況から経済を救い出した事例は歴史的にゼロと考えていた。彼自身が大恐慌でさえも戦時の支出によって終わったのではなくインフレ期待の変化が実質利子率に与えた影響によって終わったと認めている。

Conclusion

今日の財政赤字の擁護者と高額所得者への増税の支持者たちの主張とは真逆にサプライサイド経済学と(政府支出の削減に基づく)財政緊縮が歴史的に成功したことを示す研究が数多くある。研究の結果は完璧に一致しているわけではないもののケインズ派の景気刺激策の根拠はケインズ派の主張とはまったく異なり強固でない。事実、ここで取り上げた2人の例では彼ら自身の過去の仕事がその理由を語っている。

0 件のコメント:

コメントを投稿