2013年1月31日木曜日

医療保険に加入していない人はカナダのほうが多い?

当初の予定が狂ったため、後で加筆することにします。

Canadian Health Policy Failures

by Brett J. Skinner

Introduction

US-Canada comparisons

医療資源へのアクセスという面に関してアメリカの医療システムはカナダの医療システムを凌駕している。これは特に最先端の医療技術や治療に関して顕著だ。カナダ政府が医療に必要なすべての治療に関して保険を提供しているというのはある意味で事実だ。だがカナダ政府は「医療に必要な」を政府の支払う意思にもとづいて定義している。カナダ政府は医療保険給付の実質的な経済価値を急速に減少させている。実質的な医療へのアクセスという面でカナダはアメリカよりも優れていない。行列へのアクセスは医療へのアクセスと同じではない。

The ‘cost’ of health care in Canada and the US

幾人かの研究者はカナダとアメリカの医療費の伸びを比較してカナダは医療費の伸びを抑制していると主張している。実際、メディケアの導入以前には両国のGDP比はほぼ同一だった。1970にメディケアが導入されてからはアメリカのGDP比がカナダのGDP比よりも速く伸びている。

だが、Ferguson (2002a)は両国の1人あたり医療費の伸び率を両国の1人あたりGDPの伸び率から分離して分析した。彼は両国の総医療費は80年代の後半までほぼ同率で増加したことを示した。だがアメリカのGDPは70年代と80年代前半を通してカナダよりも伸び率が低かった。

彼によるとこれがこの期間にGDP比がアメリカの方がカナダよりも速く増加した理由だ。この要因が考慮されなければカナダが医療費の抑制に成功したとの錯覚を作り出してしまう。さらに彼は仮にカナダのGDPがアメリカのGDPと同率で成長したらカナダのGDP比はアメリカのGDP比よりも高くなっていただろうということも示した。彼によるとカナダの医療費がアメリカの医療費よりも低くなり始めたのはカナダ政府が保険給付の範囲を制限し、価格を制限し、医療の割当を行うようになってからだという。カナダが70年代と80年代に医療費の抑制に成功したという主張は両国のGDP成長率の差が作り出した錯覚だ。80年代後半からの医療費の抑制方針は医療の割当によってもたらされたのであって効率的な医療資源の配分によってもたらされたのではない。

Hidden costs of Canadian health policy

カナダの医療政策は膨大な隠れ費用をもたらしている。その費用とは例えば以下のものだ。

膨大な隠れ債務と政府が直面している財政危機。
医療資源の不足、特に最先端の技術や治療に関して。
実効的な医療へのアクセスを欠く多くの国民。
医療に必要な治療の範囲の縮小とそれへのアクセスの遅延。
医療従事者への政府の所得制限。
技術開発に対するディスインセンティブ。

カナダと比較してアメリカの方がより多く所得を医療に費やしているというのは事実だ。だがアメリカ国民がアクセスの速さとより良い治療を受けているというのもまた事実だ。表1に両国の医療資源の利用率と医療保険加入者の割合を示す。アメリカ国民が医療資源を多く利用できるという傾向がはっきり見て取れる。

Health insurance coverage in Canada and the US

利用資源の利用に関して返ってくる反応はカナダは国民全員が医療資源にアクセス出来るがアメリカではそうではないというものだ。だがその保険の実効加入率に目を向けるとカナダはアメリカとそれほど変わらない。待ち行列へのアクセスは医療へのアクセスと同じではない。例えば第2章ではカナダでの医者の不足に関して論じている。その章ではかかりつけ医へのアクセスがない、または救急救命室を通してしかかかりつけ医へのアクセスがないカナダ国民の人数に関するカナダ統計局の推計を示している。その分析によるとカナダ人の7.4%はこの分類に該当する。これらのカナダ人は実効的な医療へのアクセスという点に関して保険に加入していないとされるアメリカ人とほとんど同一だ。家庭医へのアクセスがなければ診療や専門医への紹介、処方箋を得るのは非常に困難だ。カナダ人が医療へのアクセスを得られないのは医者が見つからなかったり待ち時間が非常に長いのが要因でこの意味で保険に加入していないのとあまり違いがない。

アメリカ政府は国民全員への保険加入を義務付けていないが救急医療へのアクセスは義務とされている。アメリカ政府は医療機関へ救急の治療が必要な患者への治療を行うことを法律として定めている。保険に加入していない人は病院の救急救命室や慈善機関や地域の医療機関へ支払いの前払いなしに緊急でない通常の範囲の治療を頻繫に受けに行くというというのもまた事実だ。

この点を見るために実際の保険に加入していないアメリカ人の人数は統計局の報告している人数の半分以下でさらにその状態は一時的なものだということを示す研究を示す(Herrick, 2008; Graham, 2006)。統計局によると最も最近のCurrent Population Survey (CPS)では4500万人(不法移民等1100万人を含む)が保険に加入していないと報告している。だがその推計値に関してはアメリカ国内で大きな論争になっている。表2はその問題点を簡潔に示す。この表はそれぞれの医療保険に加入しているアメリカ国民の人数を示している。民間医療保険加入者と公的医療保険加入者と医療保険未加入者の合計は統計局のアメリカ国民の全人口の推計値を大幅に上回っている。明らかにありえないことだ。不正確な回答者の人数は少なくとも3200万人に及ぶ。


Herrick (2008)はCPSのデータを分析しメディケイドの受給資格を得るには所得が高すぎるが120万円する高価な家族向け保険を購入する余裕のない国民の人数を推計している。彼によるとアメリカ国民の85%は何らかの形の保険に加入している。保険未加入者に関して、1800万人は所得が500万円を超えていて保険を購入する余裕がある。1400万人は政府プログラムの受給資格があるがまだ加入していない。彼によると3200万人、つまり保険未加入者の70%は保険を購入することが出来るがそれを先延ばししている。95%のアメリカ国民は保険に加入しているか保険へのアクセスがある。

彼によると2007の実際の保険に加入していない人の割合は全人口の5%だ。この数字は概念的に同一なカナダ人の割合(7.4%)よりも低い。実際カナダ統計局が推計しているかかりつけ医へのアクセスがまったくなく、それ故非常に限られた医療へのアクセスしか持たないカナダ人の割合(3.25%)とあまり変わらない。これらの数字にはかかりつけ医へのアクセスはあるものの治療を受けるために待っている人の人数は含まれていない(注 ついでにこちらも参照)。

2013年1月23日水曜日

医療保険に加入していない人は高所得者が多い?

Crisis of the Uninsured: 2008

by Devon Herrick

How Big Is the Problem?

統計局の2007のデータによると、

85%(2億5350万人)のアメリカ人は民間医療保険かメディケア、メディケイド、S-CHIPなどの公的医療保険に加入している。

保険未加入者のうち1800万人が暮らす世帯の年間所得は500万円(1ドル=100円)を超えていて保険を購入する余裕がある。

ブルークロス・ブルーシードによると保険未加入者のうち1400万人は政府のプログラムの受給資格があるが加入していない。

3200万人、または保険未加入者の70%は保険に加入することが容易であるが保険に加入することを渋らせている。これは全人口の95%が保険に加入しているかそれへのアクセスがあることを意味する。残りの5%は年間所得が500万円を下回っている。このグループはメディケイドの受給資格を持っていないし家族向けの保険を購入する余裕がない。定額の税額控除がこのグループが保険を購入する手助けになるだろう。

How Serious Is the Problem?

過去10年で保険に加入した人の数は2600万人増加した一方で保険に未加入だった人の数は140万人しか増えなかった。数が増加したのは人口が増えたからだ。概して保険未加入者は短期間保険に加入していない。CBOは2100万人から3100万人が1年間保険に加入していないと2002に推計している。現在保険に加入していない人の半分以上は12ヶ月内には保険に加入している(こちらも参照)。

Who Are the Uninsured?

よく保険未加入者は全員低所得層だと仮定される。だが250万円以下の所得の世帯ではこの10年で保険未加入者の数は21%減少している(グラフを参照)。保険未加入者は多様な集団で構成されていてそれぞれ異なった理由を持っている。


移民:外国生まれの住民の1240万人は保険に加入していない(保険未加入者の27%を占める)。2007では外国生まれで市民権を持たない住民の44%は保険に加入していない。最近のEmployee Benefits Research Instituteのレポートによると1994から現在までの保険未加入者の増加の55%を移民が占める。所得も要因かもしれないが唯一のものではない。この増加の部分的な説明は移民の多くは民間の保険を購入する慣習があまりない地域から来ていることにあるかもしれない。加えて移民が公的保険の受給資格を得るには合法の住民になってから5年以上経たなければならない。

若年者:18歳から34歳のうち1800万人は保険に加入していない。彼等の大多数は健康で付随的な支払いは自己負担で払うことが出来ることを知っている。稼いだお金を保険の支払いに廻すことは彼らにとって優先順位が低い。

高額所得者:グラフで示したように保険未加入者の中で過去10年最も速く増加したのは中所得層、高所得層だ。1998から2007の期間に500万円以上の所得で保険に加入していない人の数は500万人以上増加した。500万円~750万円の所得がある世帯では27%増加し750万円以上の所得がある世帯では65%増加した。

Why the Poor Are Uninsured: The “Free Care” Alternative.

多くの人々が政府の公的保険に加入しないのは彼等が病気になった時に無料の医療を受けられることを知っているからだ。連邦法は保険の有無や支払い能力の有無に関係なく、救急患者を拒否することを禁じている。最近のUrban Instituteの研究によると保険未加入者は毎年16万8600円相当の医療行為を受ける。このうちで、5万8300円が自己負担で残りの11万300円が地方と民間の慈善医療だ。これは連邦と地方政府による30兆円以上の無料の公的保険であるメディケイドやS-CHIPを含まない。さらに治療の必要性が発生した時にいつでも家族が契約できるので公的保険に加入する動機がわずかしかない。

How to Reduce the Number of Uninsured: Uniform Tax Credit.

Lewin Groupによると1000万円以上の所得がある世帯は250万円の世帯に比べて4倍の控除を受け取る。最大の補助金は必要性の乏しい人が受け取る。定額の税額控除ならば低所得層と中所得層は高額所得者と同額の税額控除を受け取るだろう。

How to Increase the Number of Insured: Allow Competition.

Arizona Rep. John Shadegg (R)により導入された法案は任意の州の住民に他州のコストの低い保険を購入することを認める。これは地方の市場に競争をもたらすことと住民に高価な保険以外の選択肢を与えることにより保険を手軽なものにするだろう。消費者はインターネットや電話または地方の代理店を通して保険を購入することが出来る。プランは保険会社の本部がある州の法律に従うだろう。消費者はより自分に合ったプランを選択できる。さら州間の競争は州の政策担当者にコストの掛かる規制を緩和させるように働きかけるだろう。ミネソタ大学のSteve Parenteらはこの変化により新たに1200万人の人々が保険に加入するだろうと推計している。

Conclusion.

(省略)

2013年1月17日木曜日

カナダの方がアメリカよりも医療費/GDP比が高かった?

EXPENDITURE ON MEDICAL CARE IN CANADA: LOOKING AT THE NUMBERS

by Brian S. Ferguson

EXECUTIVE SUMMARY

なぜカナダの医療システムは世界最高と謂われていたかつての姿ではないのか?なぜシステムは慢性的に資金不足で債務を抱えているのか?かつてシステムが機能していたのならばなぜ現在の我々はその負担に耐えられないのか?メディケアの黄金期から何が変わったのか?

答え:一言で言えば何も変わっていない。変わったのは医療ではなく我々の支払い能力の方だ。

過去の政策担当者は支払いをしなくてもいいと考えていたようだ。だから我々は借りた。支払いをクレジットカードで済ませた。最初からメディケア(カナダの医療システム)の支払いを全額負担させられていたら現在我々が直面している負担の苦しみも感じることはなかっただろう(最初から苦しんでいただろうからという意味と負担を先送りしなければ現在の苦しみはもう少し軽減されていただろうにという2つの意味が込められている)。そしてシステムを持続可能な形に設計することも出来ただろう。

政府は最早借金をする余裕がない。医療費は歳入から支払われなければならなくなった。選択肢は増税か支出の削減か民間の関与に絞られる。90年代を通して政府はサービスを制限することにより支出を削減しようとした。その結果アクセスは制限されるか不可能となり待ち時間は長くなり医療従事者は群れを成してアメリカへ向かった。

メディケアの利点とされていることにメディケアはアメリカに対して費用の面で優位に立っていると主張されることがある。この主張の問題点はそれが事実ではないということだ。メディケアが費用逓減に成功してきたという錯覚が生まれた理由は両国の経済成長率の違いを考慮し忘れたことにある。データの取り扱いが適正であればメディケアの導入が費用の逓減に貢献していないことが分かる。

我々の所得をどの程度医療に支出しているかという質問に対してはカナダは特にうまくやっていない。単に運が良かっただけだ。

カナダの医療費/GDP比がアメリカの数字よりも低い理由は両国の医療費の伸び率に違いがあるからではなくメディケアを導入した時期にカナダの実質成長率がアメリカの実質成長率を上回る時期と重なったという幸運に恵まれたからだ。カナダの成長率が70年代、80年代を通してアメリカの成長率と同じであればカナダの医療費/GDP比はアメリカの数字よりも高くなっていただろう。

この状況は90年代に入って政府が医療費の削減に真剣に取り組み始めるようになって初めて変化した。

増税が選択肢になくメディケアの費用抑制効果が錯覚だったのなら我々に残された選択肢は民間の関与だ。現在の政策は経済が良い時に支出を増加して経済が悪い時に支出を減少させているように思われる。

SECTION 1 INTRODUCTION

医療費全体に占める民間部門の割合は1975の23%から1998の30%以上へと上昇してきた。民間部門の割合はメディケアが導入される以前よりも現在の方が高いぐらいだ。この状況はメディケアに対する民間部門の成長からの脅威として受け取られてきた。だがこの民間部門の成長が人々がより高価な眼鏡を購入するためであったりマッサージ治療を受けるためであったり歯科の治療やサプリメントの購入などに関連するようなものであれば然したる問題ではないはずだ。

(省略)


(カナダの医療費全体に占める公的部門の割合)


(アメリカの医療費全体に占める公的部門の割合)

SECTION 2 RATES OF GROWTH OF EXPENDITURE

我々が真に関心があるのが医療費の増加率であるならばそれを直接見たほうが良い。図8に3つの系列の年間成長率を示す。カナダの1961-98の期間の名目医療費、実質医療費、1人あたり実質医療費だ。図から明らかなようにインフレーションの影響は大きい。

図8が示すようにこの期間の医療費の成長率は継続してプラスだ。しかしその増加率は減少傾向にある。実質と1人あたり実質の系列は全体の系列と同様のパターンを示している。それら2つの系列は1995と1996にマイナスの年間成長率を示している。そして1人あたり実質の系列も1993にわずかにマイナスになっている。

SECTION 3 CANADA–US COMPARISONS

カナダでの医療費に関する議論はカナダとアメリカとの支出の比較になる。それらの議論の大半は図11、図12、図13で示すようなグラフで始まる。


図11は1960-98の期間の医療費/GDP比を示している。両国は医療費に関して同様の定義と計算方法を用いているので最も直接的に比較可能だ。

図11は両国の支出の比較に関してよく聞かれる特徴を示している。1970まではカナダの医療費/GDP比はアメリカの数字とほとんど同一でそして同率で増加していた。

だが1970以降カナダの比率は増加しなくなる一方、アメリカの比率は増加を続けた。アメリカが増加を続ける一方70年代を通してカナダは7%のままだった。

医療費/GDP比が一定であるためには医療費の増加率とGDPの増加率が同率でなければならない。これはカナダは70年代を通して全体の医療費は増加したがGDPも同率で増加したために医療費が国民所得を飲み込むことがなかったことを意味する。

両国の医療費/GDP比が乖離し始めた現象に対する最もよく為される説明はメディケアの導入だ。

この議論は図12を見た時に説得力を増すように思われる。この図は1948-98年間の両国の診療サービスがGDPに占める割合を示している。



50年代と60年代を通してアメリカのMDの割合はカナダのMDの割合よりも一貫して高かった。両者は1968まではほぼ同率で増加していた。1968-72の期間にカナダはメディケアを導入した。カナダの割合はアメリカの割合を上回って増加した。

1972にカナダのGDP比はわずかに減少しそれから80年代初めまで横ばいで推移した。そこから再び上昇を開始し90年代初めにもう一度横ばいになる。カナダのGDP比は最初に増加した後下落する。90年代後半を通してほぼ横ばいで推移した。アメリカのGDP比は70年代以降増加を続けた。アメリカのGDP比は90年代初めに落ち着きを見せ始めるがそれはカナダのGDP比とほぼ同一の時期だった。

議論はしばしばGDP比の乖離のタイミングについて為される。図12と図13が示すのはメディケアの導入の直接的な効果だと説明される。カナダで導入されたメディケアが医療費の抑制に成功した一方でアメリカは医療費の抑制に積極的ではなかったとされる。

両国のGDP比が1968以前にほぼ同一なのはメディケアの導入以前にはカナダ人は民間から医療保険を購入していて実質上アメリカと同一のシステムだったという事実に求められる。正確に言えば1968にメディケアが導入されたとはいえそれが適用されたのは医師の診療サービスだけだった。両国が同時期に病院での治療に費やした費用のGDP比を見るとMD比よりもはるかに穏やかにしか増加率が減少していないことが見て取れる。入院治療費/GDP比の増加率が大幅に減少を始めたのは1990あたりでおそらく政府による費用の削減が原因だと思われる。

ここまでの所、メディケアの導入が医療費の抑制にある程度の成果を挙げてきたという見方に支持を与えるように見える。

だがその見方は極めて明快な疑問へと結び付く。メディケアが70年代と80年代に費用の抑制に成功してきたのならばなぜ我々は現在費用の急騰に苦しめられているのか?なぜ90年代に医療へのアクセスを制限することなしに支出を抑えることが出来なかったのか?なぜ70年代と80年代にしたことを今してしまわないのか?

現在起こっていることをより理解するために過去のGDP比の変化に何が起こったかを調べる必要がある。

診療サービスをMDXとしてそれをGDPで割ることにより診療サービス/GDP比(SHMD = MDX/GDP)とすると以前に述べた。図12はそれぞれの国のSHMDの系列で図11と図13はそれぞれ医療費全体と入院治療費に対応する。

この計算で最も重要なことはSHMDはMDXが変化した場合かGDPが変化した場合に変化するということだ(または同時に変化した場合)。

図14にカナダの1961-99年間の1人あたり実質GDPと1人あたり実質医療費の年間成長率を示す。


図15に2つの系列を示す(グラフの形がほとんど同じなので一つのように見えるがよく見れば2つあるのが分かると思う)。四角の印があるものは図11から計算したカナダの医療費/GDP比の変化率だ。砂時計の(ような)印があるものは図14で示した2つの系列の差から求めたカナダの医療費/GDP比の変化率の推計値だ(つまり毎年の医療費の変化率からその年のGDPの変化率を引いたもの)。近似は非常に近い。1961-98年間で2つの系列が正確に一致しないのはわずか3年しかない。


図16にカナダとアメリカの1人あたり実質GDPを対数表示したものを示す。


(グラフが不鮮明なので分かりにくいが下側から急速に伸びて上側の線を一時上回っているのがカナダのものだ。ただ下の文章で書いてあるようにこれはカナダの1人あたりGDPがアメリカの1人あたりGDPを上回ったことを意味するのではない)

ここでの対数表示の利点は任意の2地点間のグラフの傾きはその2地点間の増加率を示す。両国のグラフの傾きが等しい場合は1人あたり実質GDPの成長率が等しいことを意味する。

両国の系列は自国の通貨建てで表示してある。後で比率を取る時に通貨単位の変換は打ち消しあうからだ。従ってカナダの系列がアメリカの系列よりも高くなることがあるのは(共通の通貨単位で見た場合に)カナダの1人あたり実質GDPがアメリカの1人あたり実質GDPよりも高いからではなくて(どの期間でもそのようなことは起こっていない)、カナダドルで見たカナダのGDPがアメリカドルで見たアメリカのGDPよりも高いからだ。傾きの比較によれば1948-98年間にカナダの1人あたり実質GDPがアメリカの1人あたり実質GDPよりも速く成長した期間が確かにある。

このグラフで我々にとって興味深いのは70年代初めのリセッションだ。アメリカのGDPでは減少がはっきりと表われているのに対してカナダのGDPでは成長率の減少は見られるものの横ばいの期間があるだけで実際のGDPの減少は見られない。この期間に対して医療費/GDP比を計算した場合(カナダの州がメディケアを導入した初めての年と一致する)アメリカの医療費/GDP比がカナダの医療費/GDP比よりも速く増加する傾向があったことを意味する。

1960-1968年間の年率平均成長率を見るとカナダは3.6%、アメリカは3.1%だ。1968-1972年間ではカナダが3.5%、アメリカが1.6%だ。1972-1975年間ではカナダは3.5%、アメリカは0.4%だ。この期間にはプラス成長した年もあればマイナス成長した年もあったからだ。1975-1987年間ではカナダは2.4%、アメリカは1.8%だ。明らかにカナダはこの期間において速く成長している。

もちろんこれはGDPの側を見ただけに過ぎない。図17に両国の自国通貨建ての1人あたり実質診療サービス支出を対数表示したものを示す。ここでもグラフの傾きは両国の成長率の違いを示す。


前回示した診療サービス/GDP比の図とは違い両国の診療サービスは60年代を通してほぼ同率で成長している。つまり2つのグラフの傾きはほぼ平行だ。

60年代後半と70年代前半にカナダの支出は加速する。そしてその後元に戻る。これは以前に述べたメディケア導入の効果で(注 省略している)アクセスが容易になったことによる。

メディケア導入の効果が剥落した後、カナダの支出はメディケア導入以前よりも低い率で成長を再び始める。1960-1968年間の年間平均成長率を見るとカナダは5.5%、アメリカは5.2%だ。1968-1972年間ではカナダが8.8%、アメリカが4.7%だ。1972-1975年間ではカナダは-0.81%、アメリカは2.9%だ。1975-1987年間ではカナダは4.2%、アメリカは4.8%だ。成長率に違いはあるが大きなものではない。

図18と図19に今度は各年の成長率を直接比較したものを示す。

図18に両国の1人あたり実質GDPの年間成長率を示す。そして図19に1人あたり実質診療サービス支出の年間成長率を示す。


目を引くのは図19だろう。ここでもメディケアの導入による支出の増加とその効果が剥落したことによる支出の一時的減少がある。


70年代後半まで両国の支出の成長率はほぼ同調していた。実際他のどの期間よりもこの期間の関係が似通っている。2つの系列が再び乖離を始めるのは80年代の中頃から後半のことでカナダ政府が支出の削減を真剣に考えるようになってからだ。

このグラフの中に、メディケア導入による過渡的な効果を見ることが出来る。だがそれは診療サービスに対して永続した効果を与えていない。基本的に支出の成長率に対して何の効果も与えていない。カナダの診療サービス/GDP比がアメリカの診療サービス/GDP比よりも低いのは支出の成長率とは関係がない。カナダはメディケアの導入時期にカナダの成長率がアメリカの成長率を上回るという幸運に恵まれた。

その幸運の効果がどのぐらいの規模かを知るために図20に3つの系列を示す。1つは実際のカナダの診療サービス/GDP比で、1つはアメリカの診療サービス/GDP比で、最後がカナダの1人あたり実質GDP成長率がアメリカの1人あたり実質GDP成長率と同じだったと仮定した場合の仮想的なカナダの診療サービス/GDP比だ。


(本文中では診療サービス/GDP比とあるがおそらく誤植でグラフでは医療費/GDP比となっている。1990あたりからそれまでは一致していたアメリカの比率と仮想的なカナダの比率が乖離し始めるのは本文中でもあるようにカナダ政府が行った医療費抑制方針が仮想的なカナダの比率にも影響を与えているからだと思われる)

楕円の印がついた仮想的な系列は実際のカナダの系列とは大きく異なっている。カナダのGDP成長率が70年代、80年代を通してアメリカの成長率と同じであればカナダの医療費/GDP比はアメリカの医療費/GDP比よりも高くなっていただろう。繰り返しになるがこの状況が変化したのは90年代に入ってからだ。

最初になぜカナダの最近の費用の抑制の努力は70年代や80年代のように混乱をきたすことなしには行えないのかと尋ねたが今となってはその費用の抑制に成功したという考えがそもそも錯覚だったように思われる。

メディケアの導入は費用を抑制した時期や費用を抑制する効率的なメカニズムをもたらしたということはない。我々が所得のどの程度を医療費に費やしているかという疑問に関して言えばうまくやったのではなく単に運が良かっただけだ。

SECTION 4 INTERNATIONAL COMPARISONS

SECTION 5 CONCLUSIONS

不幸なことに、現在または当時の社会支出に関する意思決定を行った人々は自分達自身の財布から支払わなくてもよいという考えを持っていたように思われる。だから借金をした。

図27にカナダの統合政府の1人あたり実質純借入額(基本的に統合政府の赤字額の合計に等しい)を示す。

図28と図29は1人あたり実質で見た連邦政府と統合政府の純債務水準を示す。図30に再度、統合政府の純債務とGDPを示す。

図31に1人あたり実質医療支出と統合政府の1人あたり実質赤字額を1970-1997年間に渡って示す。ほとんどの年で赤字額は医療支出とよく一致する。


(ただこの後筆者は債務は極めて流動的なものなので医療費と他の支出によって引き起こされたであろう赤字とを区別することにそれほど意味はないと述べている)

(追記1)ここでの議論は日本に対しての方がより大きな効果として成立すると思われる。

(追記2)以前から論文筆者と同じ疑問を持っていたがこんな単純なことを誰も指摘しないのは何か理由があるのかと思っていたが別にそういうわけでもなかったようだ(笑)。ただ医療水準の低い国は医療に多額の投資を行う必要があるので医療費の伸び率は高くなる傾向があっても不思議ではないように思われる。ここでの議論は両国の医療水準が同一でない場合には少し修正が迫られる気がする。出発時点の両国の医療費/GDP比が同じで1人あたりGDPがアメリカ>カナダならば1人あたり医療費もアメリカ>カナダとなるのでアメリカの方が医療水準が高いと仮定しても差し支えないと思われる。そうだとすると素直に考えれば医療費の伸び率はカナダ>アメリカとなりそうな気がするが本文中でもあったように医療費の伸び率は大体アメリカ=カナダだったのでそういう意味ではカナダに医療費抑制効果が働いていた気もする。しかしそういうことがあったとしてもそれがメディケアと関係があるのかははっきりしない。導入以前以後でほとんど変化がないとあったのでやっぱり関係がないのだろう。

2013年1月9日水曜日

ヨーロッパはアメリカよりも低福祉だった?

Public Transfers to the Poor: Is Europe really more Generous than the United States?

by M. Dolores Collado Iñigo Iturbe-Ormaetxe

1 Introduction

通説では低所得層への所得移転はヨーロッパの方がアメリカよりもはるかに多いということになっている。この研究の目的はこの主張が正しいのかどうかを確認することにある。簡潔に言えば低所得層に対してどちらが寛大であるかを比較したい。

2種類の公的移転を考慮する。第一には現金移転のみで、第二には現物移転を含める。

最初の定義を用いた場合は低所得層1人あたり平均現金移転はアメリカの方がヨーロッパよりわずかに高くなる(21万円と19万円)。現物移転を含めるとこの差はさらに大きくなる。低所得層1人あたり平均移転額はアメリカが52万円、ヨーロッパが35万円になる。こうなる理由はアメリカの現物移転がヨーロッパに比べて低所得層に集中しているからだ。

つまり公的移転の額がアメリカとヨーロッパで大体同じだとしても、その分布はアメリカの方が遥かに累進的だということを意味する。低所得層1人あたりが受け取る移転額はアメリカの方がヨーロッパよりも20%大きい。

2 Aggregate Data

表1の列1に2001年のデータを示す。公的社会支出がGDPに占める割合はアイルランドの13.8%からスウェーデンの29.8%まで幅がある。ヨーロッパの平均値は23.8%だ。対応するアメリカの数字は14.7%なのでヨーロッパの方が62%高い。アイルランドだけがアメリカの数字を下回っている。だがこの結果には2つの欠点がある(注 他にも欠点がある。各国の高齢化の違いを考慮していない点だ)。

第一に上のデータはグロスの社会支出を示している。多くの国では現金移転は課税所得として扱われる。課税前の移転額は実際に受け取る個人へ与える影響を正確に反映していないことを意味する。移転に対する各国の課税の取り扱いの違いは社会支出が可処分所得に転換される程度に異なる影響を与える。例えばオランダではほとんどすべての社会給付は課税所得である一方、ドイツでは給付に対する課税は制限されている。我々が知る限りではネットの社会支出を計算した唯一の研究はAdema and Ladaique (2005)だ。彼等はネットの社会支出をグロスの社会支出-受給者が支払った税額+社会目的のための税控除として定義している。彼等は23のOECD加盟国のネットの社会支出をGDP比として計算している。それらのデータを表1の列2に示す。ヨーロッパのすべての国で政府は控除よりも多くの額を課税により徴収している。これはネットの社会支出はグロスの社会支出よりも常に少ないことを意味する。最大の差はデンマーク、スウェーデン、フィンランド、オーストリアで見られる。例えばデンマークのネットの社会支出が21.8%であるのに対してグロスの社会支出は29.2%だ。平均でデンマーク人の家族はグロスの移転額の4分の3しか受け取っていないことになる。ヨーロッパの12の国のネットの移転の平均は21.8%でグロスの移転は24.0%だ。これは9%の減少を意味する。アメリカはこのパターンに該当しない唯一の例だ。ネットの社会支出はグロスの社会支出よりも多い(ネットは15.9%、グロスは14.7%で8%の増加)。この増加の理由の一つにはEarned Income Tax Credit (EITC)のようなプログラムの存在がある。グロスの移転の代わりにネットの移転で考慮すればアメリカとヨーロッパの社会支出の差はかなり縮小し62%から37%になる。

(注6 Adema and Ladaique (2005)に含まれていないヨーロッパの3つの国が含まれれば差はさらに縮小する。)

第二に仮にA国がB国より社会支出が多かったとしてもこれはA国で低所得層がより保護されていることを意味しない。それを知るには社会支出がどのように分布しているかを調べる必要がある。例えばA国で移転の大部分は中間所得層が受給していてB国で移転の大部分は低所得層が受給している状況を想定する。これは実際にB国の低所得層がより保護されている事例といっていいだろう。ヨーロッパでは多くの公的プログラムは直接的に低所得層をターゲットとしていない。例えば年金給付は過去の負担と強く関連していて多くの国で所得代替率はほぼ一定だ。取り得る手段としては貧困削減を狙いとした移転だけを考慮することが考えられる。だがヨーロッパではそのような移転は移転全体のわずかしか占めないためにこの方法でアメリカとヨーロッパを比較することは困難だ。アメリカでは低所得層をターゲットとした公的プログラムが多くある。それらは福祉プログラムと呼ばれる。実際アメリカでは福祉という単語は公的補助と同義で低所得世帯への基本的援助を提供するプログラムを意味する。これらプログラムの受給資格は純粋に所得により決定される。年金や失業保険のような他のプログラムは福祉プログラムとは見做されない。よって原則的には低所得層を対象とした移転と全体を対象とした移転とに区別することができる。2002年のアメリカの所得制限のある給付の支出はGDPの5%以上だ。

注8 アメリカには低所得層を主な対象とした80以上の政府プログラムがある。これらにはTANF (Temporary Assistance to Needy Families)、Medicaid、SSI (Supplemental Security Income)、Food Stamps、EITC(Earned Income Tax Credit)、Pell Grantsがある。

注9 この表現は完全には正しくない。年金給付は低所得層により多くの給付が与えられるように算定されているからだ。これは年金もある意味で福祉プログラムと見做されうることを意味する。

注10 総額は52兆2200億円(1ドル=100円で計算。さらに数字が古く現在ではさらに増加している可能性がある)に相当する。このうち37兆3200億円が連邦政府の拠出で14兆9000億円が州政府や地方政府の拠出だ。最大のプログラムはメディケイド(25兆8000億円)でSupplemental Security Income(3兆8000億円)、Earned Income Tax Credit(2兆8000億円)、Food Stamps(2兆4000億円)、Low-Income Housing Assistance(1兆8500億円)、Temporary Assistance for Needy Families(1兆3000億円)、Federal Pell Grants(1兆1000億円)だ。

表1の列3に所得制限のある社会支出がGDPに占める割合を示す。ヨーロッパのすべての国でアメリカよりも少ない。割合はルクセンブルグの0.65%からイギリスの4.09%まで様々だ。ヨーロッパの平均は2.7%だ。別の表現にすると社会支出の90%に所得制限がないことになる。社会支出の大部分は直接的に低所得層を対象としていない。だがこれは低所得層が社会支出の最大の受給者ではないということを必ずしも意味しない。

以下に簡単な計算を行う。所得にもとづいて人口を5つに分割する。そして(所得制限のない)社会支出が5等分されていると仮定する。所得制限のある社会支出に関してはすべて低所得層が受給すると仮定する。人口の20%として定義されるヨーロッパの低所得層は2.7%+4.2%(所得制限のない支出の5分の1)=6.9%を受給する。アメリカでは5.0%+1.9%=6.9%を受給する。この計算ではグロスの社会支出を用いた。ネットの社会支出を用いるとヨーロッパは2.7%+3.8%=6.5%、アメリカは5.0%+2.2%=7.2%になる。この試算はかなり粗いものだがマクロのデータが如何に誤解を生むかを示している。より正確な情報を得るにはミクロのデータを用いる必要がある。

3 Micro Data and Methodology

3.1 Public Transfers in Cash

3.2 In-kind Health Transfers

現金移転のみを考慮するならば公的支出のかなりの部分を除外してしまうことになる。大まかにいってOECDの分類の9つのうちの6つが現金移転に対応している。この6つの分類が総支出に占める割合はヨーロッパでは69%、アメリカでは57%だ。現物移転を含めるとヨーロッパでは95%、アメリカでは99%になる。

4 Main Results

列4と列5に低所得層とその他への現金移転の平均値を示す。ここでの低所得層(その他)は貧困線を下回る(上回る)かで判断される。列4と列5の値は国際間で比較できるようにPPPで示してある。ヨーロッパでは低所得層への現金移転はイタリアの10万円からベルギーの37万円まで幅があり平均値は19万円だ。アメリカの低所得層への現金移転は21万円でヨーロッパの平均値を少し上回る。ヨーロッパのうち7つの国がアメリカよりも少なく8つの国がアメリカよりも多い。貧困線よりも上の層への現金移転になるとベルギー、デンマーク、アイルランドを除くすべてのヨーロッパの国で低所得層よりも多くの現金移転を受け取っている。ヨーロッパでは貧困線を上回るすべての個人が平均で低所得層よりも37%多く受け取ることからこの傾向が確認できる。逆にアメリカでは低所得層とその他はほぼ同じ額の現金移転を受け取る。列6に総支出のうち低所得層が受け取った割合をそれぞれの国について示す。列6の値が対応する列3の値を上回れば低所得層が全体として自らの割合よりも多くの移転を受け取ったことを意味する。例えばオーストリアでは貧困率は7.1%だ。仮に総支出がすべてのオーストリア人で等分割されていれば低所得層は総支出の7.1%を受け取る。だが列6にあるようにオーストリアの低所得層は総支出の5.6%しか受け取っていない。

列7-9に現物移転の貨幣価値を加える。結果は大きく変化する。ヨーロッパの低所得層への平均移転額は35万円に増加するが、アメリカの低所得層への平均移転額は52万円にまで増加しヨーロッパよりも46%高くなる。ヨーロッパの15の国のうちベルギーとデンマークだけがアメリカよりも多い。結果が変化した理由はアメリカの現物移転はメディケア、メディケイドなどの存在によりヨーロッパよりもはるかに累進的だからだ。その他の層への移転については結果は逆になる。ヨーロッパでは平均で42万円である一方、アメリカでは39万円になる。

表3と表4に移転額と受給者の所得との関係を示す。この表を作成するために以下の作業を行った。すべての個人を所得にもとづいて分類し人口を5つの集団に分割した。第一階層は所得分布の下位20%が占める。ここでは第一階層を低所得層を表わすものとする。次にそれぞれの階層が受け取る移転の平均値を計算する。この計算を2回繰り返す。表3には現金移転のみを示し表4には現物移転も加える。表3の列1にすべての個人の平均現金移転額を示す。アメリカの平均移転額は21万円でヨーロッパは25万円だ。列2から列6に5つの階層の平均移転額を示す。列7-11に総移転額に対するそれぞれの階層が受け取った移転額の割合を示す。ヨーロッパの9つの国とアメリカで最上位の階層の割合は最下位の階層の割合よりも高かった。ヨーロッパを全体としてアメリカと比較した場合にも同様の結果になった。よって現金移転は各階層で大体同じだと結論できる。

図1に表3と表4から得られた結果を示す。点線は階層毎の平均現金移転額だ。太線は階層毎の現金移転と現物移転の合計額の平均だ。ヨーロッパの場合は全体として現金移転だけの場合とあまり変化がない。すべての所得階層はより多くの移転を受け取る。だがその上昇はそれぞれの階層で大体同じだ。アメリカの場合は現物移転が強く累進的なのを確認できる。アメリカの分布の所得下位20%が寛大に扱われていて所得上位40%がその逆だということをはっきりと観察できる。

5 Discussion

我々は分析をアメリカとヨーロッパの9つの国に絞る。これはこの9つの国がヨーロッパの中で相対的にアメリカと比較可能な集団だからだ。この集団はオーストリア、ベルギー、フィンランド、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、スウェーデン、イギリスだ。対象を限定しても主要な結論は変わらない。現金移転は20万円で、対応するアメリカの数字は21万円だ。EU-15では19万円だ。

現物移転を加えても先程の結果とほとんど変わらないがその差はわずかに縮小する。EU-9の現物移転も含む平均移転額は36万円で、アメリカの平均移転額は52万円なのでまだアメリカの方が42%高い。低所得層以外も分析に加えるとEU-9の平均移転額は少し減少することが分かった。平均現金移転額はEU-9で25万円、EU-15で26万円、アメリカで21万円だった。低所得層以外の総移転額はEU-6(注 おそらくEU-9の誤字と思われる)で42万円、EU-15で43万円、アメリカで39万円だった。

6 Conclusions

(省略)

2012年12月23日日曜日

Measuring the Impact of Health Insurance on Levels and Trends in Inequality and How
Health Reform Could Affect Them

by Richard V. Burkhauser Kosali Simon

Introduction

アメリカの所得とその分布の水準とトレンドを調査するのに最もよく用いられるのはCPSだ。統計局は前年の中央世帯の課税前現金所得(政府と民間からの所得源)とこの所得がどのように分布しているのかを毎年報告している。CPSを用いる統計局外の多くの研究者はこの現金所得に注目している。数少ない例外を除いてこれらの研究は非賃金報酬の重要性を考慮していない。(所得の研究と)類似の賃金の研究でもCPSを賃金とその分布の水準とトレンドを計測するのに用いている。賃金格差の研究では単に個人の賃金の違いを比較するだけでその個人の世帯に他の稼ぎ手がいるかどうかは考慮しない(市場での様々な種類の労働者への報酬に主に焦点を絞っているため)。だが所得格差の研究と違い、数少ないけれども重要な研究が賃金格差の研究では行われてきた。賃金報酬にのみ焦点を絞ることは個人に支払われる報酬を過小評価するのみでなくその水準と分布にも影響を与えることを認識した研究だ(Pierce 2001, 2007)。

ここでは賃金格差の研究から得られた考察を非賃金報酬の最も重要な部分を占める医療保険の雇用主負担分(無償の非賃金報酬の32%を占め、非賃金報酬全体の22%を占める)に焦点を絞ることにより所得格差の研究に適用する。家計が利用できる資源としての医療保険の重要性を整合的に示すために雇用主の提供する保険と政府が提供する保険が家計の所得とその分布に与える影響をともに考慮する。

以下の手順が用いられる。

1.医療保険の雇用主負担を従来の課税前移転後所得に加えたより広い範囲の所得を推計する。重要なのは雇用主が負担する保険の事前の費用を家計が受け取った価値として用いることであって家計が医療サービスに用いた事後の医療費支払いではないことだ。

2.所得の水準と分布を示す従来の方法が非賃金報酬の等価所得価値の付加に対してどのように影響を受けるかを示す。我々が注目しているのは世帯人数調整後の個人所得だ。人口全体を調べるとともに各年齢ごとの集団も調べる。全体の人口を4つの年齢に分類する。0歳から17歳(子供)、18歳から24歳(青年)、25歳から61歳(労働人口)、62歳以上(引退人口)だ。

3.従来の方法が公的保険の等価所得価値の付加に対してどのように影響を受けるかを示す。

4.課税前移転後世帯人数調整後の所得格差が1995-2008の期間にどのように変化したかをこの広い範囲の所得の定義を用いて調べる。

5.この方法を用いて現在議論されている医療保険改革が所得の水準と分布に与える影響を示す。

Related Studies

いくつかの研究が労働報酬の測定に付加給付を含めることの重要性を認識していた。Pierce (2001, 2007)はEmployment Cost Index (ECI)を用いて付加給付に対する雇用主負担が含められた場合に労働報酬の水準とトレンドがどのように変化するかを考察した。Chung (2003)はこの考察をECIからのデータをCPSのデータに統合することにより拡張した。Levy (2006)は性別と人種による賃金格差が医療保険の付加によりどのように影響を受けるかを調べ、性別の賃金格差は縮小する一方、人種間の賃金格差は大きくは変化しなかったことを示した。これらの研究はいずれも従業員に対する雇用主負担に焦点を絞っており報酬の付加が所得分布全体に与える影響を示していない。労働者は家族や世帯員と住み賃金を彼等と共に使うので非賃金報酬の付加が全体の所得分布に与える影響を示すためには世帯人数の組み合わせを考慮し医療保険が与える影響を把握する必要がある。

医療保険の雇用主負担かメディケア、メディケイドを所得の測定に含める研究がわずかしかなかった一方で統計局は独自にこれらの値を推計して1995以降公表を行っている。統計局は民間の医療保険の事前の保険価額を推計し、さらにメディケアやメディケイドの保険価額を推計している。民間の医療保険の場合と違い統計局はメディケア、メディケイドの低所得層に対する事前の保険価額部分しか勘定に入れていない。

我々は民間の医療保険の雇用主に掛かる費用をメディケア、メディケイドに掛かる費用と同様の方法で推計することを試みる。この推計が保険の概念になるべく沿うように行う必要がある。我々はこの事前価額を加入者全員に割り当てるので、保険料を支払ったものの事後に医療を受けなかった場合にゼロを割り当てるという計算は行わない。ただしメディケア、メディケイドを通して医療保険を提供された低所得世帯に対してはゼロを割り当てる。

Method and Data

外部の情報源から医療保険に対する雇用主負担分と政府の医療保険の事前価額を帰属させなければならない。その後にこれらの値を両方のデータに含まれる属性を用いてCPSのデータと照合させる。雇用主負担に関するデータはMedical Expenditure Panel Survey Insurance Component (MEPSIC)を用いる。この調査は統計局により実施されAgency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)から資金が提供されている。これは1996以降毎年実施されていて最も新しいデータは2008のものを含む。

Results

統計局は世帯所得の中央値を毎年公表している。図1に1995-2008の期間に関して再現したものを示す。所得中央値は1990年代に増加し2000にピークをつけた後2004まで下落しその後は2007まで上昇している。だが2007まで課税前移転後所得中央値は2000のピークまで戻っていない。推計した医療保険の価額を含めて再計算した場合には驚くべきことではないが所得中央値はすべての年度で高くなる。注目に値するのはこの期間に渡って雇用主負担は増加しているので賃金の下落をある程度相殺していることだ。図1とAppendixの表1に示すように所得中央値は増加していて2008の所得中央値は2000のそれを上回っている。


図1に医療保険の付加が平均的な世帯にどのような影響を与えるかを示す。次の表で医療保険が世帯人数調整後の所得の分布に与える影響を示す。表1に2008時点での所得の分布を示す。最後の列に総価値を示す。行1にあるように平均所得は最上位層の1361万円から最下層の56万円まで分布している(1ドル=100円で計算)。全体の平均所得は446万円だ。次の4つの行に民間の医療保険とメディケイド、メディケア、そしてその和の平均値を階層毎に示す。最後の2つの行に所得と医療保険の和の中央値、さらに医療保険が全体に占める割合を示す。医療保険が(世帯人数調整後)全世帯所得に占める割合はわずか9.93%しかないが低所得層の所得に占める割合はこれより大きい。

所得分布の変化と医療保険の与える影響を把握するために表2aに1995(列1)の所得分布と2008(列2)の所得分布を示す。表1と同様にこの計算はそれらに課税前移転後世帯所得を割り当てることによりなされる。最後の行に全世帯の平均を示す。列3に階層毎の平均所得の変化を示す。一番下の階層を除いたすべての階層の平均所得はほぼ同率で増加したことを示す。次の3つの列では同様の計算を今度は所得に医療保険の価額を加えて行っている。結果は大幅に変化した。この所得の定義では下から3つの階層の所得が他の階層の所得よりも明らかに速く増加した。最後の2つの列に民間と政府の医療保険の価額の増加を示す。医療保険は低所得層の所得のポートフォリオの一部分として急激に増加している。表2aに医療保険の価額の増加が低所得層の相対的な所得の増加の理由であることを示す。表2bに表2aで示したパーセンタイル比の変化を示す。


(%Change in Incomeと%Change in Total Incomeに注目して欲しい。左側では第一階層を除いてほぼ同率の増加率なのに対して右側では低所得層の方が増加率が高い。)

前の4つの表は所得の水準とその14年間の変化を所得格差とその変化を計測する手段として用いた。表5では所得格差の研究で最もよく用いられるジニ係数に焦点をあてる。さらに4つの年齢階層毎のジニ係数も調べる。

賃金格差の研究ではよくp90/p10が用いられるがBurkhauser, Feng, and Jenkins (2009)で論じたようにトップコードの問題が取り除かれればジニ係数や他の指数を所得格差の研究に用いることができる。(注 ここでは示していない)表にp90/p10、p90/p50、p50/p10、p75/p25も示してある。

表5の列1に1995-2008の期間の全世帯の課税前移転後所得のジニ係数を示す。この期間に所得格差はゆっくりと増加し2006にピークをつけた後、2007に減少し2008に再び増加している。列2に民間の医療保険の付加がすべての年度の所得格差を減少させることを示す。この結果は表1の列2で示した結果と一致する。民間の医療保険の付加が所得格差のトレンドに与えた影響を識別することは困難だ。列3に民間の医療保険を加えずメディケイドのみを加えた場合にもすべての年度で所得格差が減少することを示す。この減少の大きさは民間の医療保険の場合と大体等しい。列4に同様にメディケアの付加がすべての年度で所得格差を減少させることを示す。減少の大きさはメディケイド、民間の医療保険の場合よりも大きい。最後の列にすべての医療保険を加えた場合の所得格差に与える影響を示す。


(ここではTotal Incomeに注目して欲しい。1995と2008でほとんど変化がない。さらに水準自体もIncomeに比べて低い。)

Discussion and Conclusion

我々は民間の医療保険の付加が所得中央値の水準を増加させるだけでなく2000のピークを超えていることをまず示した。所得の改善と所得格差の減少は階層平均やジニ係数でも見られた。民間の医療保険の付加は所得格差を減少させるとともに計測された所得格差の増加自体も減少させた。メディケア、メディケイドが加えられた場合には効果はより大きくなる。表6で示したようにすべての医療保険が加えられた場合に所得格差は大きく減少し1995-2008の期間に増加した所得格差の増加のすべてを打ち消している。

2012年12月14日金曜日

アメリカで盲腸の手術費が200万円するというのは嘘だった?

この表は比較的最近になってOECDによって立ち上げられたタスクフォースの資料を参考にしている。


上から、急性心筋梗塞、狭心症、胆石症、心不全、乳房の悪性新生物、気管、気管支及び肺の悪性新生物、正常分娩、肺炎、虫垂切除、帝王切開、胆嚢切除、大腸切除、冠状動脈バイパス術、除細動器挿入(修復、交換、除去)、椎間板切除、血管内膜切除、股関節置換、子宮摘出、膝関節置換、乳腺切除(4分の1切除)、乳房切除、前立腺切除、ペースメーカー挿入(修復、交換、除去)、経皮的冠動脈形成術、末梢血管バイパス術、肺切除、鼠径ヘルニア修復術、甲状腺切除、経尿道的前立腺切除を意味する。比較対象とするのはオーストラリア、カナダ、フィンランド、フランス、イタリア、ポルトガル、スウェーデン、ノルウェー。その他の国は所得水準が大きく違うのでここでは比較の対象にしない。それと質の違いは考慮されていない。

個別に見ていくと200万円すると言われていた盲腸が80万円(他の国は50万円~60万円)、300万円すると言われていた出産が40万円(他の国は30万円)となる。他国と比較して価格があまり変わらないケースとして狭心症(30万円)、心不全(50万円)、肺炎(50万円)、帝王切開(70万円)、大腸切除(160万円)、椎間板切除(80万円)、血管内膜切除(80万円)、子宮摘出(70万円)、末梢血管バイパス術(160万円)、甲状腺切除(70万円)、経尿道的前立腺切除(60万円)がある。興味深いのは空欄が多いものの大体のケースでノルウェーの方が価格が同じか高いことだ。

Comparing Price Levels of Hospital Services Across Countries

by Francette Koechlin Luca Lorenzoni Paul Schreyer

アブストラクト:医療サービスはGDPのかなりの部分を占めしかも増加している。その支出も国によってかなりの違いがある。その違いが消費量の違いによるのか価格の違いによるのかは政策に大きく関わってくる。医療サービスの価格の国際比較が行われることはほとんどなくしかも測定の問題を抱えている。この研究ではOECD加盟国の医療サービスの国際比較を行う。データは病院サービスの産出の準価格を反映しているという点で特徴がある。従来では産出価格は投入の価格(医療従事者の賃金率)を比較することにより算出されていた。新しい方法は投入ではなく産出へと焦点を切り替えている。この方法だと国による生産性の違いを捉えることが可能になり(注 ここではそれは行われていない)より意味のある比較への第一歩となる。

BACKGROUND

医療支出はGDPのかなりの割合を占めしかも増加している。支出が増加した時、政策当局者や市民はその増加が消費量の増加によるのか価格の増加によるのかに興味を持つと思われる。同様の疑問が国際比較においても持ち上がる。Bに対してAの支出が多い時、それはAの消費量がBに対して多いからなのかそれとも価格が高いからなのか?この質問に答えるためには医療サービスの相対価格に関する情報が必要になる。国際比較では特定の財、特定のグループの相対価格はPPPと呼ばれる。この研究の主目的は医療サービスの大きな部分を占める病院サービスのPPPの測定方法を示すことにある。

INTRODUCTION

財やサービスが政府などによって供給される場合、消費者に課される価格は市場価格を大きく下回ることがある。いくつかの場合では価格はゼロかもしれない。そのような価格を比較することには何の意味もない。それ故、市場によって供給されていない財やサービスの費用の比較を(一般の)PPPで行うことが慣例になっていた。

費用を比較するには主に2通りの方法がある。投入によるものと産出によるものだ。投入ベースの方法は例えば外科医の賃金率を比較する。言い換えると、価格の比較は投入1単位あたりの賃金や価値の比較を通して代替される。国際間で賃金を比較するのは非常に難しい(経験や年功賃金の影響を制御するのは難しい)という点の他にこの方法の主要な欠点は生産性の違いを無視するということにある。つまりある国で医療サービスが効率的に供給されているとしても投入価格にもとづくPPPでの比較では区別がつかない。

費用を比較する2番目の方法は産出にもとづくものだ。ここではPPPは産出1単位あたりの費用を比較することにより計測される。医療サービスの場合ではこれは治療1単位あたりの費用になる。医療では産出1単位あたりの費用は簡単には観測できない。だが産出の価値を示す替わりとなる情報源がある。多くのOECD加盟国では医療サービスは医療費償還制度を通じて管理される。治療1単位あたりの償還価額は価格が他の財やサービスに対して行っているのと同様の役割を果たす。我々は交渉価格、管理価格を準価格(必ずしも市場取引の結果でない、または生産者と消費者の間の取引に適用される価格ではない)と呼ぶ。治療1単位あたりの準価格の比較は産出ベースのアプローチで基本的に各国の生産性の違いを反映することが可能だ。従って、投入ベースのアプローチより概念的には好ましい。この研究では医療サービスの主要な部分の一つである病院サービスのPPPの結果を示す。

方法論に移る前に新たに内外価格差の概念を導入する必要がある。内外価格差は普段人々が特定の財の価格を国際間で比較する時に自然に行っているものだ。A国通貨で表示されたA国のある財を市場為替レートを用いてB国の通貨に変換する。その結果の価格(現在はB国通貨で表示されている)はB国の実際の同一の財の価格と比較される。変換されたA国の財の価格がB国の財の価格を上回ればA国の財の価格はB国よりもより高いということになる。内外価格差はこの計算をPPPレート(A国で観察される価格とB国で観察される価格の比)を市場為替レートで割ることにより代行する。その比が1を超えたらA国の物価水準はB国の物価水準よりも高いということになる。内外価格差のもう一つの表示方法は同量の財を購入するのに要した共通通貨の量を示すものだ。注意しなければならないのは内外価格差は市場為替レートに依存していることでこのレートは短期間に変動しまたその変動幅も大きい。内外価格差は注意を持って見る必要があり特定の基準年への参照を必要とする。

内外価格差の概念はhospital PPPを対応する為替レートで割った比較の結果に適用される。結果は二国間ではなく多国間のものとして得られる。計算は複雑になるが基本的な内外価格差の概念は不変のままだ。

METHODOLOGY

The products: case types

産出ベースのhospital PPPの推計方法は2つの特徴を持つ。(1)産出は症例に関して計測される。(2)準価格はこの産出を評価するのに用いられる。この2つの特徴を順番に見ていく。

以下の基準が代表的な症例を決定したり症例の比較を行うのに用いられる。

・一般的(稀なものではない)な医療行為、または診断を表す

・病院の支出のある程度の割合を占める

・一回の入院期間に行われるであろう主な医療行為を表す

・分類可能な状態を表す

財はさらに内科的と外科的に分類される。臨床上での行為は各国によって異なる可能性がありある国で内科的と分類される行為が他の国では外科的と分類されるかもしれない。

The valuation: quasi-prices

管理データは準価格を作成するための情報を提供してくれる。準価格には交渉価格と管理価格がある。前者は個々の交渉を通じて決定される。そして必ずしも直接的に費用を反映しているとは限らない。この研究に参加している国の中で、7ヶ国は交渉価格を使用していると報告しており7ヶ国が管理価格を使用していると報告している。これが結果にどのようなバイアスを生んでいるのか評価するのは難しい。

例えば、交渉価格は利潤を含む可能性がある(サービスが他からの補助金によって賄われている場合には損失も含む)。一方で管理準価格は平均費用を反映している可能性がある。交渉価格、管理価格は医療行為に対する評価のもとを形成する。サービスの平均費用を反映している管理準価格の場合は管理価格の費用の範囲が各国で共通なことが重要だ。一般的な原則として、各国はすべての費用が反映されているか確認を求められる。これには従業員の報酬、資本の減耗、中間財投入、生産に対する課税等が含まれる。どちらの費用も直接費、間接費が反映されなければならない。費用の要素の全リストはAnnex 1 Table A.1.3に示してある。

Linking quasi-prices to case types

価格、準価格の比較は医療サービスの質の違いが考慮されなければならない。そこには2つの側面がある。医療サービス自体の質の違いと補助サービスの質の違いだ。この研究では価格の比較を行う際に質の違いを考慮に入れていない。これはそのような調整を行うのが単に難しいからだ。さらに治療の適切さも考慮に入れていない。これは患者と支払い側の観点からは重要な問題だ。だがこの研究の範囲から外れている。

PILOT STUDIES

OECDはthe Australian Institute of Health and Welfare, the Australian Government Department of Health and Ageing, the Canadian Institute for Health Information, the National Institute for Health and Welfare (Finland), the Agence Technique de l’Information sur l’Hospitalisation and the Institut National de la Statistique et des Études Économiques (France), the German Federal Statistical Office, the Ministry of Health (Israel), the Ministry of Health (Italy), the Yonsei University and the Health Insurance Review and Assessment Services (Korea), Statistics Netherlands, the Norwegian Directorate of Health and Statistics Norway, the Instituto Nacional de Estatistica (Portugal), Statistics Slovenia, Statistics Sweden and the National Board of Health and Welfare (Sweden), the Office of National Statistics (United Kingdom), and the Agency for Healthcare Research and Quality (United States)と共同でこの研究を行った。

Box 1. A note regarding the United States

病院費用:試験研究ではNationwide Inpatient Sample (NIS)からの推計を用いた。これはアメリカの地域病院のおよそ20%に相当する1000の病院の500-800万の入院日数のデータを含んでいる。この記録は総請求額の情報を示している。それからCenters for Medicare and Medicaid servicesから利用可能な病院全体とすべての支払い側の入院費/請求率の記録が費用の推計に用いられる。

RESULTS OF THE PILOT STUDY FOR THE YEAR 2007

How results were compiled and how they should be interpreted

結果を見る前に、イントロダクションで説明したが医療PPPを一般のPPPにリンクさせるのが役に立つ。治療は生産物の役割を果たし準価格は市場価格の役割を果たす。2種類の生産物(内科的治療、外科的治療)が病院サービスを構成する。

結果は12の国について編集してある。参加国の平均を100とした指数の形式で表示している。PPPは基準国の選択に対して不変となるように計算している。計算はアメリカを基準国として開始し、それからPPPを市場為替レートで割ることにより内外価格差が求められる。そしてグループ平均は各国の内外価格差の幾何平均として求められる。この平均は100に設定され各国の内外価格差はこれとの対比で表示される。内外価格差は価格水準の違い(同量の財を購入するのに必要な共通通貨の量)を示す。我々の例では、共通通貨は存在しないので価格水準の絶対水準を参照しているのではなく相対水準を参照していると見る必要がある。例えば、表1の数字は以下のように読む。2007のアメリカの入院患者の病院サービスの価格水準はグループ平均を100とした場合の163で44%(163と113)カナダより高い。


注10 ノルウェーとドイツは準価格の推計に固定資本の消費が含まれていないことから除いてある。オランダの結果も示されていない。対応するオランダのデータが埋められていないからだ。しかしグループ平均の計算にはオランダは含まれている。

Significant spread of quasi-prices across countries and correlation with income levels

内外価格差は為替レートに依存していて為替レート変動の影響を大きく受けるかもしれない。病院サービスの内外価格差と全体の内外価格差の比較により為替レートとは独立したその他の財と病院サービスの相対価格の示唆を得ることができる。グラフ2にその比較とさらに各国の1人あたりGDPで定義された1人あたり実質所得を補完する情報として示してある。

表1とグラフ2にあるように病院サービスの価格水準には57(韓国)から164(アメリカ)と大きな幅がある。イタリア、オーストラリア、フランス、スウェーデン、フィンランドの価格水準は高い。価格水準が低い国はポルトガル、スロベニア、韓国のように所得と全体の価格水準も低い。


(注 このグラフは左のバーが病院サービスの価格水準、右のバーが一般の物価水準、折れ線が1人あたりの所得水準を示している。アメリカの例だと一般の物価水準が低くそれと比較して病院サービスの価格水準が高いが所得水準も高い、イタリアの例だと一般の物価水準と病院サービスの価格水準が高いが所得水準は大幅に低く結果として所得と病院サービスの価格水準との差は最大になっている)

Similar results for medical and surgical inpatient services

外科的治療と内科的治療で価格水準はかなり似通っている。2つのカテゴリーで韓国の例外を除いて並びは同一だ。韓国の場合には、例外的に長い外科的治療の入院日数がこの違いを説明している。外科的治療の内外価格差は似通っているが内科的治療のデータにはある程度ばらつきがある。外科的治療が内科的治療よりも大きな割合を占めることは記しておく必要がある。そして総病院サービスの内外価格差の違いの大部分を説明する。大抵の場合で、外科的治療は総病院サービスの費用の70%以上を占める。

Consistency of results within categories

Large variations in costs per hospital day and average length of stay

平均入院日数(ALOS)はノルディック諸国、アメリカ、オーストラリアで短く、韓国で長い。平均入院日数はイタリア、ポルトガルで非常に長い。平均的に、外科的治療で内科的治療よりも大きな違いがある。


各国によって報告された入院日数の違いは生産物レベルでも見られる。これは全体の入院日数の違いは各国の制度や慣行上のものが重要な要因であるかもしれないことを意味する。

表3に入院一日あたりの価格水準を示す。従って、各国の入院日数の違いを制御してある。いくつかの国では一日あたりの準価格は総合の価格水準とは大幅に異なっている。オーストラリア、カナダ、フィンランド、スウェーデンでは外科的治療の価格水準は大幅に上昇(150くらい)する。OECDの2009の報告では入院日数について以下のようにコメントしている。「入院日数は効率性を表す指標と見做される。その他の条件を一定にして入院日数の短さは費用を抑え一般急性期の施設への移行を可能にするだろう。しかし入院日数の短縮化により一日あたりの費用は高くなる。入院日数があまりに短すぎると健康に対して副作用をもたらす可能性があり患者の回復を遅らせる可能性がある。これが患者の再入院率の増加につながれば費用は下落しないかもしれない」。ここで与えられた2つの説明は価格の比較に対してまったく異なる意味を持つ。入院日数の短さが集中的な治療によってもたらされたものであれば価格の比較は入院日数の違いを考慮しないで行われるべきだ。入院日数の短さは効率性の高さの指標となるからだ。逆に、追加の入院が治療の結果を高めるのなら、またはより多くの治療へとつながるのなら入院日数の違いを考慮することが正当化されるかもしれない。各国が異なる治療の組み合わせを行っている場合には一般的な命題は引き出せないかもしれない。この問題を取り扱うためには、治療全体に関する膨大な情報が必要になるだろう。この研究ではこの問題を代表的な症例にのみ焦点を絞ることにより取り扱おうとしている。まとめると、入院日数の違いを考慮していない表1を見出しの数字として用いることが妥当だと判断した。

Results by case type

各国の価格の違いをよりよく理解するために詳細な結果を見る必要がある。表4に例として2つの生産物の平均価格を示す。正常分娩と膝関節置換の事例だ。


Annex 3に内外価格差を計算するのに用いた基本表を示す。表A3.1に各国の症例数を示す。表A3.2と表A3.3に平均入院日数とその変動係数を示す。表A3.4に各国通貨で表示した症例の平均準価格を示す。表A3.5にドルで表示した症例の平均準価格を示す。これは参照表となる。カナダは部分的にしか準価格が推計されていない。表A3.4と表A3.5のいくつかのセルが空白な一方、表A3.1-A3.3の対応するセルが空白でないのはこれが理由だ。表A3.6に症例の比重を示す。表A3.7に症例の内外価格差を示す。さらに平均と変動係数も示す。


結果が通常の枠に収まらないいくつかの事情がある。情報の不足であったり各国の事情であったりを反映しているかもしれない。これらの背景を特定するためにより調査が必要になるだろう。

CONCLUSIONS AND NEXT STEPS

いくつかの情報が研究に参加した各国から引き出された。

hospital-PPPの試験研究は質の違いをサービスを区別することにより行った。つまり、質の違う生産物は別の生産物として取り扱った。この仮定に関して再検討が行われるかもしれない。十分に同質と思われるサービスに関する情報がすべての国で利用可能でない場合には特にそうだ。さらに異なる技術が利用可能で医療の提供に用いられている場合にも検討が必要になる。

最後に、この研究はまだ試験段階であることを述べておく必要がある。他の国が参加したり、参加国が利用可能なデータを向上させたら、結果は改定され改善されるだろう。よって、ここでの結果は注意を持って見る必要がある。だがこの初期段階のものでさえ分析者や政策当局者は関心を持つだろう。

(追記)入院日数を考慮するかしないかについて他の可能性も考えられる。ある国では考慮した方がよく、ある国では考慮しない方がよいという選択的な場合だ。本文中ではさらりとしか触れられていなかったが基準は必要と思われる治療が施されたか否かになる。こちらで触れた点が関係してくるかもしれない。

2012年12月7日金曜日

アメリカの健康格差は縮小?

An alternative perspective on health inequality

by Benjamin Ho Sita N. Slavov

1. Introduction

所得格差の研究はメディアの注目を集めている(e.g., Picketty and Saez 2003; Autor, Katz, and Kearney 2008; Heathcote, Perri, and Violante 2009; CBO 2011)。

注1 これらの研究に対して論争がある。例えば、Burkhouser, Larrimore, and Simon (2011)は他の見方を示している。

しかし所得は幸福度の一要素にしか過ぎない。そして幸福度の格差はほとんど上昇していない、または下落しているかもしれないことを示す研究がいくつかある。

例えば、Aguiar and Hurst (2008)は低所得層の余暇の時間が他の集団に比べて大幅に増加していることを発見した。さらに、Stevenson and Wolfers (2008)は主観的な幸福度の格差は減少していることを示した。

最後に、消費の格差は所得の格差ほど増加していないことを示す研究がある(e.g., Krueger and Perri 2006; Hassett and Mathur 2012)。

注2 またもや、これらの研究に対して論争がある。例えば、(e.g., Aguiar and Bils 2011)だ。

幸福度のその他の重要な側面は健康だ。多くの健康格差の研究は人種や所得によって定義される社会経済的な集団間の格差に焦点を絞っている。

だが集団間の格差に焦点を絞ることは主要な健康格差の源泉を無視することになる。健康格差の大部分は集団間ではなく集団内で発生するからだ。つまり集団内の最高の健康状態と最悪の健康状態の差は集団間の平均的な健康状態の差よりもはるかに大きい。ここではその他の研究とは対照的に集団間、集団内の健康格差について調べる。言い換えれば、最も健康状態が悪い人が最も健康状態が良い人に比べて利益を得たかどうかを調べる。そしてこのトレンドを集団内と集団間の健康格差に分解する。

ここでは健康状態を、実現した寿命によって計測する。この方法によれば、早い年齢で死亡した個人は貧しいと定義され80歳を超えて生存している個人は豊かと定義される。我々は、過去100年間に渡って寿命の分布のほとんどで健康格差は劇的に減少していることを発見した。所得格差が上昇したといわれる過去40年間に渡っても健康格差は減少していることがわかった。quality-adjusted life year (QALY)を用いると、最も健康状態の悪い人は最も健康状態の良い人の8倍の利益を得ていることがわかった。金額に換算すると相対的利益は4000万円(1ドル=100円で計算)になる。個人の生涯所得に対してかなりの額だ。この健康格差の減少は集団内での健康格差の減少からもたらされている。この結果は主観的な幸福度格差の減少を示した研究とも整合的だ。

2. Literature and Conceptual Framework

寿命格差が劇的に減少していることを示す研究は他にもいくつかある(e.g., Wilmoth and Horiuchi 1999; Edwards and Tuljapurkar 2005; Smits and Monden 2009; Edwards 2010; Shkolnikov, Andreev, and Begun 2003; Fuchs and Ersner-Hershfield 2008)。だがこれらの研究はその結果が示す社会的意味までは考慮していない。

その一方で、Gakidou, Murray, and Frenk (1999)は正しい健康格差の計測方法は実際の健康格差ではなく健康リスクの分布にもとづくべきだと議論した。つまり、健康リスクが全員にとって同じである限り実現した健康格差に焦点を絞るべきではないと議論した。そのような健康格差は個人の属性に対して無関係という意味で純粋にランダムなものだ。この議論を受け入れるならば、我々の研究は所得格差に関する伝統的な分析への挑戦と見做されるかもしれない。寿命格差の純粋にランダムな部分が重要でないのならば、実現した所得格差の純粋にランダムな部分がどうして重要なのかはっきりとしなくなるからだ。しかも所得格差の研究は実現した所得格差と所得形成過程内にある格差との区別をほとんど行っていない。

我々の研究にはいくつかの制約がある。第一に寿命と健康との相関は集団間で異なるかもしれない。そしてその違いは我々が行った分解に対して特に意味を持つかもしれない。第二に寿命には他の指標と異なり生物学的上限があるかもしれない。これらの制約はあるがそれでもなおこの研究は価値があると思われる。

3. Data and Methodology

寿命格差の傾向を調べるためにここではSSAのコーホート生命表を用いる。この表は性別や誕生年によって分割される。コーホート死亡表は特定の誕生年のコーホートの年齢に関連した死亡率を生涯に渡って示す。例えば、1900に誕生したコーホート表は1900の0歳の死亡率、1901の1歳の死亡率、1920の20歳の死亡率を含む。まだ生存しているコーホートには将来の死亡率に関する見通しが必要になる。ここではSSAの生命表を用いて1900から2012までのコーホートの0歳と25歳の全体の寿命の分布の変化を調べる。寿命の確率分布は個人が各年齢で死亡する確率の男性と女性の平均を取ることにより決定される。ここでは分布のnパーセンタイルを累積死亡確率がnを超える最少年齢と定義する。寿命の平均値は死亡がその死亡年のちょうど中間地点で起こったという仮定で計算する。例えば、25歳で死亡した個人(つまり25回目の誕生日と26回目の誕生日の間)は25.5歳まで生存したとして記録される。

寿命格差は2つの部分に分割できる。集団間の寿命格差と集団内の寿命格差だ。

Var(L)=E(Var(L|G)+var(E(L|G),

Gは社会経済的集団を示す。Lは寿命を示す。Eは期待値演算子で、varは分散を示す。つまり全体の寿命の分散は集団内特定の分散の平均と集団間の分散の和に等しい。寿命格差の減少は集団間の寿命格差の減少からかもしれないし集団内の寿命格差の減少からかもしれない。

4. Results

表1に0歳時(表の上段)と25歳時(表の下段)の寿命の分布の1、10、50、90、99パーセンタイル値の変化を示す。それぞれのパネルはいくつかの主要な数字を含んでいる - 99と90パーセンタイル値と50パーセンタイル値の比率(分布の上段の寿命格差を示す)、50パーセンタイル値と10、1パーセンタイル値の比率(分布の下段の寿命格差を示す)、90パーセンタイル値と10パーセンタイル値の比率(上段と下段の間の寿命格差を示す)。0歳時での寿命格差は1900以来劇的に減少している。1900生まれのコーホートでは分布の10パーセンタイルは1年間でさえ生存していなかった。2012になると10パーセンタイルは64歳まで生存する。そして1パーセンタイルは18歳まで生存する。対照的に分布の上段での伸びはより穏やかだ。従ってp90-p10比率は1900から1950の間に劇的に減少した。そしてその後穏やかになった。0歳時での減少の多くは乳幼児死亡率の減少からもたらされている。だが25歳時(表の下段)での死亡率を見ても寿命格差は1900以降一貫して減少し続けている。分布の10パーセンタイルで寿命が22年伸びた一方で90パーセンタイルでは8年しか伸びていないからだ。


表2に性別にもとづく集団間、集団内の寿命格差がどのように変化したのかを示す。今度も上段は0歳時の結果で下段は25歳時の結果だ。この表から寿命格差の大部分は集団内の寿命格差からもたらされていることがわかる。集団内、集団間の寿命格差はともに減少している。0歳時ではどちらも同じ割合で減少している。25歳時では集団間の分散の方が大きく減少している。従って、性別間の寿命格差が減少しただけでなく(男性の方がより寿命が伸びている)それぞれの性別内での寿命格差も劇的に減少している。


表5に人種毎の結果を示す。分解を男性と女性別々に行う。0歳時では人種内、人種間の寿命格差は男性、女性ともに減少した。集団間の寿命格差の減少は人種間の寿命格差の減少によってもたらされている。25歳時では集団内、集団間の寿命格差の減少は男性に関しては停滞している。女性に関しては両方とも減少している。今度も寿命格差の大部分は集団間ではなく集団内の寿命格差によってもたらされている。


5. Discussion

ここでの結果はアメリカで健康に関する格差が劇的に減少したことを示す。この結果を用いてこの利益がどの程度であったかを簡単に試算する。最近の研究はQALYに対して2000万円(1ドル=100円で計算)が妥当な値だと示している。この値は多くの連邦機関で用いられるValue of Statistical Life (VSL)と整合的だ。我々の計算では寿命の増加とQALYの増加は一対一に対応する。もちろんQALYは寿命と同義ではない。だが簡単な試算のためにはそれほど非現実的な想定ではないと思われる。

表1によると1975から2012の間に10パーセンタイルは56年から64年へと8年間寿命を延ばした。誕生時からの実質割引率を2%として10パーセンタイルの寿命の延びは現在価値で4833万円になる。年間所得に換算すると64年間に渡って130万円になる。対照的に90パーセンタイルは97年から99年へと2年間寿命を伸ばした。現在価値では568万円に相当し年間所得に換算すると12万円にしかならない。

我々の結果は社会経済的集団間で健康格差が拡大したと報告した過去の研究と矛盾するものではない。つまり集団間での分散が大きくなったとしても集団内や全体の分散が小さくなることは十二分にあり得ることだからだ。さらに我々の結果は集団内の分散が集団間の分散をはるかに凌駕するので集団間の分散にのみ研究の焦点を絞ることは重要な側面を見落とさせることを示唆している。

健康のその他の指標がここでの結果と違うトレンドを示す可能性があるかもしれない。ここでの結果は健康の指標として寿命を選んだことによる産物である可能性もあり得る。過去には乳幼児の死亡と集団間の寿命格差に政策の焦点が絞られてきた。

(省略)

6. Conclusions

(省略)