Alan Reynolds
「IMFが所得格差の危険に対して警鐘を鳴らした」とウォールストリート・ジャーナルのIan Talleyはセンセーショナルな見出しで世間の注目を集めようとした。(彼が「世界最高の経済学の研究機関」と呼ぶ)IMFが「所得格差の拡大が経済成長の足枷となり政治的不安定性に油を注いでいると警鐘を鳴らした」と言われている。
彼は「IMF(中略)は先進国と発展途上国は税、特に社会保障費、医療費、その他の給付の負担を高額所得者にシフトさせる累進的な税によって税収を引き上げる必要があると述べた」と書いている。これもニュースではない。IMFには各国に増税をアドバイスして悲惨な結果を引き起こしてきた歴史がある。今回の騒ぎもIMFが過去の失敗を繰り返すための口実でしかない。
記事の中で唯一ニュースと呼べる部分があるとすれば「67ページに及ぶペーパーの中には所得格差の拡大を押させるために188のIMF加盟国に対して税制と公共支出をどのように用いればよいかの詳細が書かれてある」という部分だ。そのペーパーは数多くの「staff discussion notes」の一つに過ぎず当然「その意見は筆者達のものであってIMFのものと見做すべきではない」と書かれてある。その論文の筆者たち(Jonathan Ostry, Andrew Berg, and Charalambos Tsangarides)からの主な「警鐘」は「再分配に関するデータはひどく不足しておりとても信頼できるものとは言えない。格差に関するデータになるとさらにそうだ」というものだ。信頼できるデータではないと認めているにも関わらずIMFの経済学者は「所得格差の拡大は経済成長を低下させているように見える。再分配は対照的に僅かな統計学的に有意ではない(僅かに負の)影響しか与えていないように見える」と何故か主張している。
このIMFのディスカッションドラフトは「(グロスの)市場所得とネットの所得の所得格差を区別し移転の影響を計算することを可能にした最近になって編集されたデータセット(Solt 2009)」に依存している。Southern Illinois UniversityのFrederick Soltは課税前移転前のジニ係数を再構築して「ネットの」ジニ係数を推計している(直接税と現金による移転は調整してあるが売上税や現物による移転は調整していない)。
ソルトのジニ指数はゼロから100までで表される。例えばアメリカの2011年の課税前移転前のジニ指数は46.5だが現金移転を加えて税を引いた後では遥かに低い37.2となる。アメリカが他の国とはまったく異なり払い戻し可能な税額控除と現物移転に大きく依存している(これにより現金による移転を行っている他の国と比べてアメリカの所得格差を見掛け上大きく見せている)ということをデータが反映していればネットのジニ指数は遥かに低くなるだろう。
彼の記事によると「アメリカを含む幾つかの先進国の所得格差は大恐慌以前の水準に達している、とIMFは述べた」とある。まったくのナンセンスだ。IMFの研究に用いられたデータは1960年までのものしかない。この記事の記者は自分のブログ上で現代と1928年との無意味な所得格差の比較を行っていたがそれはThomas Piketty and Emmanuel Saezが批判を省みることなく繰り返し行っている完全な誤謬だ。彼らは戦前の所得のデータを比較可能ではない遥かに狭く定義された戦後の所得のデータと誤って比較している。
不幸なことにIMFへローンを要請した国は最高税率をさらに引き上げそこから得られた税収を政治的利益団体へと再分配せよというIMFのアドバイスを飲まなくてはならない。そのようなローンは役に立たない政府を存続させる手助けにはなるかもしれないが民間経済を確実に疲弊させるだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿