2016年1月18日月曜日

トリクルダウンは嘘だったは嘘だった?パート2

Faulty evidence that ‘inequality’ harms growth

Alan Reynolds

OECDとIMFによる最近の2つの報告書は大きな所得格差は経済成長を低下させるということを発見したと主張していてオバマ政権(2013年に所得税の最高税率を引き上げた)とIMFにいる彼らのお仲間(ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに所得税の最高税率を引き上げるよう甘い言葉で言い包めた)の主張の正当化に用いられている。

レポーターたちは「所得格差」という用語が所得上位1%の所得と同義であるかのように勘違いしているが、所得上位1%の所得の高さまたはその増加が経済成長に有害であることを少しでも示した経済学者は誰もいない。

不幸なことに、不注意なレポータのせいでOECDとIMFが彼らの考えを公式に支持したとの間違った印象を与えてしまった。

昨年12月のウォールストリート・ジャーナルの「所得格差の拡大は経済成長を阻害する、とOECDが述べた」とのセンセーショナルな見出しの後にはOECDの研究が「高額所得者に対する税率の引き上げ」を正当化するというレポーターのコメントが載せられている。

だがそのFederico CinganoによるOECDの研究には「富裕層の所得が経済成長に有害であることを示した証拠は一つもない」とはっきりと書かれている。

彼は限界税率の引き上げが経済成長に有害でないという証拠も一つも示していない。OECDのワーキング・ペーパーにはこれらは「OECDの公式見解とレポートしてはならない」とはっきりと警告されている。だがこの論文はOECDの公式見解として広く報道されてしまった。

2014年の2月のIMFの職員によるものも同様にIMFの公式見解として間違って報道されてしまった。Jonathan D. Ostry, Andrew Berg, and Charalambos G. Tsangaridesによる「Redistribution, Inequality and Growth」のことだ。

その論文ではUniversity of Iowaの政治経済学者Frederick Soltが編集した153の国のジニ係数を用いている。

この論文は壮大なファンファーレとともに公表された。「IMFは所得格差が経済成長を阻害すると警鐘を鳴らした」とウォールストリート・ジャーナルは叫び声を上げた。その記事ではDavid Liptonを「ファンドのNo.2、そしてホワイトハウスの前特別顧問」として紹介し、彼が「再分配は所得格差を低下させるので経済成長を促進させることが出来る」と自身満面に断言しているのを引用している。

2011年の後半にホワイトハウスからIMFに送り込まれた彼はオバマの政治的議題を一緒に持ち込んだ。だが彼の強い宣言はとても弱い根拠に基づいている。IMFの経済学者は「再分配に関するデータはひどく不足していてとても信頼できるものではない。所得格差に関するデータとなるとさらにそうだ」とはっきりと警告している。

そのような信頼出来ないデータによる彼らの「証拠」とはネットのジニ指数をその後の10年間の一人あたり実質成長率と比較して散布図にしてあるものだ。不幸なことに、その結果はまるで的外れなもののように思われる。

それにも関わらずためらいがちにではあるが「大きな所得格差は経済成長を低下させているように見える」そして「再分配はそれがジニ指数の13ポイントを超えた辺りから直接の負の影響を持ち始めるように見える」と結論している。

散布図がわずかにランダムではないように見えたとしてもさらに外れ値による影響が小さそうに見えたとしても所得と実質GDPに関する統計が多くの途上国でとても信頼できるものではない。Diane Coyleの「GDP: A Brief But Affectionate History」には「国際比較をするために経済学者によって頻繁に用いられるデータの中で45の国のうち25の国で物価調査がまったく行われていない」と(恐ろしいことが)記されている。そして他の国は「1968年以降更新されていない」固定ウェイトの価格指数を用いている。

所得格差と実質GDP成長の間の関係を探すとなると(たった45の国でさえこの有様であるのに)153の国からの推計などではとても信頼できるものではないしアメリカに当てはめるのは間違いなく不適切だ。

その一方で分析をG20に限定すると所得格差、再分配、経済成長の間の関係はOstry, Berg, and Tsangaridesが主張したのとは真逆になる。少なくとも1990年以降で最も高い経済成長を示したのは最も所得格差が大きく再分配の最も少ない国々、インド、中国、インドネシア、トルコなどだ。

以下の表にはG20の最新のネットジニと再分配がジニに与えた影響を示してある。ネットジニに再分配の影響を加えれば課税前移転前の市場ジニになる。

表の最後の列には世界銀行からロシアを除いた1990年から2013年までの実質GDPの年間成長のデータを記載している。ロシアのデータはフラット税が開始された2000年からのものを用いた。アルゼンチンの政府発表の成長率(4.1%)からはARKEMSによって報告されているように2008年以降のインフレの過少申告を調整するために20%を差し引いた。

G20の中で最も格差が大きく最も再分配が少ないのはインド、中国、インドネシア、トルコだった。これらはすべて1990年以降4.2%から9.9%の間の高い経済成長を見せている。

再分配を多く行っているにも関わらず格差が大きい国には南アフリカ、ブラジル、メキシコ、ロシアが含まれる。最初の3つの国は1990年以降2.5%から2.9%の成長を示している。2000年以降のロシアはさらに速く成長している。ロシア、ブラジル、アルゼンチンはもちろん最近になって大惨事となっているがそのことは過去の成長率とは関係ない。

Ostry, Berg, and Tsangaridesは再分配によるジニ指数の低下が13ポイントを超えると経済成長が低下しているように見えると報告している。G20のリストの下半分で韓国を除いて再分配は遥かに大きい。そしてフランス、日本、ドイツの成長は最も低い。カナダとイタリアも同様に低い。南アフリカは格差が大きく平均的な成長を示している。一方で韓国は格差が小さく成長も速いがどちらの国も大きな再分配は行っていない。

この表の欠点の一つは所得格差の指標がもっとも最近の単年度のものであることだ。所得格差が大きく変化した稀な事例の場合にはミスリーディングかもしれない。だが所得格差の水準ではなく変化に着目したとしても結果は変化しない。

北欧で所得格差が大きく拡大したという理由だけでOECDのエコノミストFederico Cinganoは「スウェーデン、フィンランド、ノルウェーの成長率はもし所得格差が拡大していなければ5分の1以上高かっただろう」と(誤った)主張をしている。皮肉なことにブラジル、アイルランド、ウクライナの所得格差は低下している。だが経済成長もだ。

IMFの論文の解釈者たちのほとんどは、それが(1)所得格差の大きな国は経済成長が低かった(2)再分配は無害であることを示したと頑なに信じている。ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストWilliam A. Galstonは「IMF(再分配の擁護者として有名ではない)による2014年の研究は所得格差の拡大は経済成長を低下させ再分配は経済成長を促進させることを発見した」と書いている。

だがその研究で用いられているのと同じ指標をG20に当てはめるだけでそのどちらの結論も簡単にひっくり返ってしまう。事実としては、どちらの結論も現実の真逆だ。

リストを拡大しても彼らの理論を救出することは出来ない。例えば、アジアの虎と呼ばれる国々はいずれもジニ指数が高い。シンガポールは42.2、香港は43.9、マレーシアは46.6、タイは51.9だ。

その逆にジニ指数が30以下の国でGDPが継続的に2%以上の成長を示した国はわずか3つしかない。それらはモーリシャス(23.6)、台湾(30.1)、ポーランド(29.3)だ。だがそれらの国の最高税率はモーリシャスが15%、台湾が17%、ポーランドが32%と低い。

稀な例外を除いて、1990年以降高い成長を示した国の所得格差の水準は非常に大きい(アメリカよりも遥かに大きい)。再分配の多い国で高い成長を示したものはない。

(遥かに所得格差が大きい国が他に幾らでも存在するということが明らかになったというのに)明らかにアメリカが再分配イデオロギーのターゲットとされている。そのスローガンはもちろんアメリカの所得格差が拡大し続けているという誰もまともに調べたこともない主張だ。

このグラフはCBOの推計した所得上位1%の所得を含めたアメリカのネットのジニ指数を示している。1986の税制改革以降この指標にははっきりとしたトレンドは見られない(1997年と2003年にキャピタル・ゲイン税率が引き下げられた時にキャピタル・ゲインの実現が急増加したのが原因で急上下しているだけだ。

最新のCBOの推計は2011年で止まっている。だがそれ以降の所得上位1%のデータは入手可能だ。

Piketty and Saezは「所得上位1%の2012年から2013年の実質所得は14.9%低下している。(中略)この低下は2013年の最高税率の引き上げが原因だ」と報告している。高い税率を逃れるための所得のシフトを調整するために2012年と2013年の所得を平均させたとしてもこの期間の所得上位1%の実質平均所得は2007年を20.6%下回り2000年を11.2%下回る。所得上位1%の所得がずっと上昇していると主張している者は明らかにまともにデータを見ていない。

アメリカ経済が所得格差の拡大によって成長を阻害されていて所得の再分配によって成長を高めることが出来るという主張の証拠としてOECDやIMFの論文を引用する者は自らがでっち上げた問題への対処法として致命的な欠陥を抱えた推計を用いている。

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