Growth of income and welfare in the U.S, 1979-2011
Tyler Cowen
John Komlosによるこの新しいNBERからのペーパーは本当に興味深く、私の自著「average is over」で題材にした中間層の消滅という現象をよく表している。
「我々はCBOの課税後、移転後のデータを用いてアメリカの各所得階層毎の実質所得の成長率を推計した。これに退職時に発生する所得の現在価値だけを含め、CBOの所得の推計には含まれている「労働者によって負担される法人税」などのように現在の購買力や効用を増加させないものは除外して改善を加えた。高いインフレ率を示すCPIと低いインフレ率を示すPCEの2つを価格指数に用いた。主な発見は中間層の「消滅」という一語で表すことが出来る。この推計によると、中間層を示す第二階層と第三階層の所得は年率0.1%から0.7%の間で増加していた。すなわち、ほとんどゼロと区別が出来ない。その弱弱しい増加でさえも大規模な所得の移転によって達成されている。対照的に、所得上位1%の所得は年率3.4%から3.9%の間と天文学的な増加だった。従って、所得上位1%の第一階層に対する所得比は1979の21から2011の51へと増加した。だが最も所得が低い層に対して他に所得比を増加させた所得階層は存在しない。奇妙なことに、所得分布の96%タイルから99%タイルを占める層であっても所得が最も低い層に対する所得比を8.1から11.3にしか増加させていない。それから限界効用が逓減するとの仮定の下で効用の増加率の計算を行った。関数を対数効用型と仮定すると中間層の効用の増加率は0.01%から0.7%の間となりほとんどゼロと区別がつかない。相互依存的効用関数の下では第五階層の効用だけが有意な増加を示す一方で第一階層から第四階層までの効用は無視できるか負でさえもあった」。
How Not To 'Improve' Income Trend Estimates
Scott Winship
John Komlosという名前のドイツの経済学者による新しいペーパーがあり、彼はCBOの所得の推計を「改善」させると「所得上位1%を除いて多くのアメリカ人の所得は1世代前の親の所得をほとんど上回ることなく、相対所得という観点から見るとほとんどすべての人が悪くなっている」と主張した。間違い、間違い、間違いだ。
彼がどのような操作をしたのかすべてがはっきりと分かっているというわけではないが、彼はCBOの最新のスプレッドシートを使用して操作をしたと示唆している。私はそのスプレッドシートを何度も何度も使用している。だから彼の主張は間違いだという警告が私の中に鳴り響いた。私は20分程で再び推計を行い、いつも通りの結果が返ってくるのを確認したのだった。要するに、ほとんどのアメリカ人の所得は大きく増加しているという結果だ。彼の「ハイ・エンド」の推計は私のものとそれほど変わるわけではない。だが彼は「ハイ・エンド」を「ロー・エンド」として用いるべきだ。彼のロー・エンドの推計は所得を非常に低く見積もってしまうとしてとっくの昔に放棄された手法に大きく依存しているためだ。そして彼がその手法を用いているという事実だけが中間層が消滅しているという黙示録的な主張を彼にさせている原因となっている。
第一に、彼が行ったという「改善」とやらを確認してみよう。CBOは法人税によって労働者と投資家から徴収される額を所得として含めている。その一部は労働者に他の一部は投資家に割り当てられている。彼はそれを差し引いている。残された所得から法人税も差し引いているのかは定かではない。家計の所得から法人所得税を差し引きながらもそれを課税によって徴収された所得として認識していないのであれば、彼はこの形態の所得を実質的に2回差し引いていることになる。一度目はそれを所得として含めないことにより、二度目はそれを税として除外してしまうことにより。
第二に、彼は雇用主の社会保障負担分(給与税)からの所得を現在価値へと変換している。この所得は労働者が退職するまで支出することは出来ないとの理由で。だが人々は自分が負担したよりも多くの給付を受け取る傾向にあるので、割り引かれるべき将来所得は現在の雇用主の社会保障負担分よりも大きい。遥かに良い方法は退職者の所得を民間の年金、公的年金、メディケアから計算して生活費の上昇を調整するためにそれをデフレートすることだろう。何故かと言うと最初に稼いだ所得は貯蓄されそれに時間価値が加わるためだ。要するに、調整するのであればバックエンドですべきであってフロントエンドですべきではない。
彼は4番目の「改善」として価格指数に「CPI-U」と「PCE」を用いた結果を用いている。これも改善でも何でもない。大きな誤りだ。
PCEは商務省のBEAという部署で作成されている。私の記事の読者は価格指数としてPCEを用いることの正当性が極めて強いということを知っているだろう。その理由は「消費の代替」を考慮に入れているためだ。物の値段が上昇すると消費者は他の物を購入してスイッチすることが出来る。その結果として、消費者が経験する効用の損失は他の物が購入できない場合に比べると同程度の大きさとはならないだろう。
BLSが作成しているCPI-Uは代替バイアスを1999にまでしか遡って調整していない。それ以前の推計の試みはまったく行われていない。それに1999以降の修正でさえも部分的なものでしかない。CPI-Uはガーラアップルの値段が高騰した時に消費者がレッドデリシャスアップルを選択するようになるということは考慮に入れることが出来る。だがりんごが高騰した時に消費者がオレンジを選択するようになるということは考慮することが出来ない。
彼がしているような推計は民間、公的を問わず医療保険に価値をまったく割り当てていない。それは正しいとは思われない。保険に加入していてもいなくても少しも関係ないということになる。ここで和解の提案がある。CBOが医療保険の給付に割り当てている値の半分を所得に加えることを提案する。そうすることにより第五階層の所得は42%(75万円)、中間層の所得は27%(139万円)増加することになる。これらは彼の「最も高い推計」を超えている。
これらの推計は人口の高齢化の影響を受ける。彼は使用していないが、CBOのスプレッドシートには非高齢者と高齢者とを分割することを可能にするテーブルがある。非高齢者の第五階層では所得が36%(72万円)、中間層では30%(158万円)増加している。高齢者では第五階層の所得は24%(36万円)、中間層の所得は30%(129万円)増加している。
最後に、現在の大人が彼らの親よりも豊かになっているかという問題設定は現在の平均的世帯が過去の平均的世帯よりも豊かかという問題設定とはまったく異なる。中央値のトレンドから所得の上方流動性を憶測するのは大失敗へのレシピだ。個人を追跡調査したデータを用いて2005に40代前半だった大人の世帯所得の中央値は彼らが子供だった頃の彼らの親の所得よりも39%高いことを私は過去に発見している。これはCBOが示した所得中央値の変化と極めて整合的だ。
従って、現在の大人は親と比べてほとんど所得が増加していないのではなく極めて豊かになっている。この所得の上方への流動性はオイルショック以降ほとんどの先進国の成長率が低下した環境下であったにも関わらず起こっている。だが中間層の所得を大幅に上昇させるには十分だった。これ以外の結論は証拠によってはサポートされていない。
John Komlos Responds To 'How Not to Improve Income Trend Estimates'
Scott Winship
私が先週批判したワーキングペーパーの筆者であるJohn Komlosは反論をしたいと申し出てきた。彼は私が掲載すると約束したので以下の文章をメールで送ってきた。私は彼の文章を一切編集していない。彼が私の批判に答えたことに感謝したいと思う。私の最初のコラムとそれに対する彼の反論、それに対する私の再反論をまとめている(括弧の中はWinshipが触れなかったことを補足)。
私のワーキングペーパーを注意深く読んでくれたことに感謝している。あなたのコメントによりこの論文に改良を加えることが出来るだろう。だが明らかに我々の間には対立が存在する。
退職所得をフロントエンドではなくバックエンドで調整すべきだという指摘:私は2011の所得に対して計算を行った。現在雇用主が負担している支払いに対して現在の20歳が45年後にいくら受け取るのか私には分からない。従って、それをどのように行えばよいのか分からない。いずれにせよこの割引がバックエンドでの調整をほとんど無意味なものとするだろう。適当に見積もったところによると、雇用主による1ドルの負担は所得分布の第二階層の被雇用者に対して10セントの現在価値、第三階層の被雇用者に対して14セントの現在価値に相当する。さらなる調査が必要だろう。
6段落目:「雇用主の医療保険の負担分」は(割合で見て)ほとんど変化していない。よってこれを除外しても成長率(変化率)には影響を与えない。メディケアの支払いは増加しているが、これは大部分が人口の高齢化によるものと考えている。これらの推計を年齢で調整できるようになるまでは、メディケアとメディケイドを所得から除外しておいた方が適切だと思われる。
それに加えて、メディケアやメディケイドの数字は私にとってはあまり意味を成さない。ここに2011のドルで見たCBOの推計がある。
第二分位や第三分位が所得の低い第一分位よりもメディケイドの給付を多く受け取っているということは私には理解できない。メディケイドにはミーンズテストがある。第二分位と第三分位は1979まで遡ってみても第一分位より給付を多く受け取っているということはない(受給資格を満たしていないので)。第三分位の平均所得は552万円だ。彼らは受給資格を満たしていなかっただろうと私は考える。
それに加えて、どうして第二、第三分位の人々のメディケアの給付が最大で第一分位の人々が最小だと言うのか?年齢による影響のようなものを想定しているのか?
さらに、これらの金額の増加は信じられない程に大きなものだ。年齢が関係ないのは明白だ。第二分位の人々はX線撮影や他の治療を1979と比較して4倍受けている。メディケアの増分を以下に示す。ここではメディケアの支払いの増分を過去からの倍率で示している。
7段落目:BEAが医療価格指数を正確に推計出来ているとはあまり思われない。BEAのエコノミストはインフレ率に関する判断を誤っていると私は信じている。彼らは不透明なヘドニック法を用いている。よって、どのような意味を持つのか知ることが非常に困難だ。操作?不正?の余地が多くあるように思われる。例えば、BEAは1979年に4万8000円したテレビは現在では2600円の価値だとしている。それは私には馬鹿げているように思われる(1979年のテレビが未だに5万円で売れると考える方が遥かに非現実的では?)。現在のテレビの費用の残りは質の向上に割り当てられている。それを、2000年以降所得が低下している消費者に言ってみるといい。テレビの写りが良くなっているのだから悪く考えることはないのだと。ヘドニック法は消費者が両方のタイプの生産物を選択できる場合にのみに正確に行うことが出来る。だが古いテレビは購入することが出来ない。従って、私はヘドニック法が正確に行われているとは思わない。言い換えると、消費者は新しい商品を購入するように強制もしくは迫られている。そのような場合には、ヘドニック法の使用の根拠となっている仮定は現実には成立しておらず、ヘドニック回帰はそれらの機能に対する消費者の支払い意欲を正確には反映していないかもしれない(むしろ正確に反映していると考えている経済学者の方が少数派で、ほとんどの人はヘドニック法の後でもインフレは過大に評価されていると考えていると思う)
ここから分かることは、価格指数がどれほど完全からは程遠いかということだ(そのような理由で格差の拡大という捏造を受け入れろと言われる国民はたまったものではない)。私はそのことにエッセイの中で幾つか触れている。価格指数は田舎に住んでいる人々のことを考慮していない。そして最も重要な事に、価格指数は所得階層毎には利用することが出来ない。これは所得格差の分析を不正確なものにする。実際、所得階層毎の価格指数を用いることなしには所得分布を正確に推計することははっきり言って出来ない(所得階層毎の価格指数を用いると格差の拡大と云われていたものはきれいさっぱり消えてなくなることを示したBroda&Romalisを参照)。さらに、価格指数を計算する際の医療の重み付けが2つの指数で大きく異なる。これは問題だ。医療はCPIでは6.1%の比重を占めるに過ぎないがPCEでは20.3%を占める。この違いはPCEには家計による支払いだけではなく保険会社による支払いも含まれるためだ。そして医療価格指数にもヘドニック法が用いられていて、それがどれぐらい正確なのかは誰にも分からない(医療費の増加を100兆円ぐらい過大に評価しているという推計があったような)。
8段落目:CPIは重要だ。CPIはPCEより正確だと考える。PCEには卸売価格と(家計所得から直接支払われるのではない)家計の代理で行われる支払いが含まれているためだ。PCEで使用される重み付けは支出ベースではない。
9段落目:代替効果がそこまで重要だとは思わない。医療や大学の費用などのような出費の大きなものには代替となるものがそれほどないからだ。交通にも同じことが言える。自動車の価格が上昇した時、それを代替することは難しい。
10段落目:私が調べた限り価格弾力性の数字は非常に低いことを示唆している。例えば、食料などは-0.05の範囲だ。りんごの代わりにオレンジを選ぶ消費者の意欲は小さいに違いないと考える。
11段落目:CPI-U-RSの存在を教えてくれて感謝している。それには気が付かなかった。サンフランシスコ連銀のFREDデータベースにはそれが含まれていなかった。だからそれを使用して成長率の再計算を行い以下のような結果が得られた。
それに、完全に新しい製品やサービスがどのように扱われているのかも私には分からない。ケーブルTV、インターネット、携帯電話などは1979年にはどのような価値があるとされていたのか?現在ではインターネットや携帯電話なしには職探しをすることは難しい。これらは低所得者や中間層より所得が少し下の層が社会の規範についていくのを難しくしている。それが人々が苦しんでいて債務に走る理由だ(実際には債務比率は減少)。そのような効果がインフレ率に反映されているというということには強い疑いを抱いている。
15段落目:上の数字によるとCPI-UはCPI-U-RSよりも0.15%低い。
16段落目:医療保険は割合としてはこの期間に増加していない。労働所得の3.1%から4.3%だ。将来には不確実性があるので割り引かれなければならないが。どれぐらい割り引けばよいのかは分からない。さらなる調査が必要だろう。
メディケアとメディケイドの数字は私には信用できるものとは思われない。これに関してもさらなる調査が必要だろう。
17段落目:これらの数字には割り引いたものではなく「雇用主の社会保障負担分」の全額が含まれている。「投資家と労働者が負担した法人税」も含まれている。被雇用者が給与明細の中でこれらを目にすることはない。問題があると私が思っているメディケアとメディケイドの数字もここには含まれている。そしてPCEを使用した。
18段落目:最も高い推計は第二分位で57.6万円、だが第一分位では54.0万円だった。
だが低い方は第二分位でゼロ、第三分位で14.4万円だった。これは年間で4500円の増加だ。このように小さな変化を感じ取れる人が多くいるとは思えない。
その上、ドルの価値はそれほど重要な問題ではない。効用の観点から見てこれらの数字がどのような意味を持つのかを把握するためには数字を効用関数に落とし込まなければならない。そして効用の増加はほとんどない。「第二、第三分位の効用の増加率は(所得で見た場合よりも)さらにゼロに近づく(0.01%から0.20%)」。
すべての推計が効用の低下を示すというより悲観的な結果を示した相対的所得効用関数の方も考慮すべきだ。CPIを使用するかPCEを使用するかはこれには関係がない。これは決定的だ。何故ならこの結果はこの国に蔓延する不満に適合するからだ(90%以上のアメリカ人が再び生まれ変わるのだったらアメリカがいいと答えている)。ここでのポイントは誰かの効用を社会的に標準と見做されるものとの関係で測ることで、そしてその標準は中間層の所得の増加率を大幅に上回る形で上昇していっている。
19段落目:中間層の所得の増加は私の推計では14.4万円から96万円の間だ。上で述べたような理由により100万円以上の増加というのは考えられない。その増加というのもほとんどすべてが政府からの移転による(この主張もとっくに否定されている)。
あなたが言うように中間層が豊かになっているのであれば、世論調査にそれほど不満が現れたりはしないだろう。これほど多くの自殺もなければ(アメリカの自殺率は先進国で低い方)、これほどの囚人(ドイツの方が犯罪者の割合が高い)も政治に不満を抱く投票者もいないだろう(不法移民やテロを起こす可能性のあるイスラム教徒に懸念を抱くと政治に不満があると見做す論理の方が意味不明。それだったらヨーロッパは不満だらけだ)。あなたの楽観的な見方はこの国で起こっていることとは整合性が取れない(頭がおかしい)。
20段落目:興味深い研究のように聞こえる。だがそのページは現在フォーブスでは見ることが出来ない。
21段落目:以下の例を考えてみよう。所得が480万円の人がいるとしてその人の親の所得は32年前には360万円だったとしよう。だが現在のメディアンは600万円だ。この人は親よりも所得が高いことに喜ぶべきなのだろうか、それともメディアンを大きく下回っていることに不安を感じるべきなのだろうか?(メディアンが増加していないのではなかったのか?)もしくは、工場が閉鎖されたのでそして金融危機の前には所得が540万円あったのでこの人はサラリーのカットを受け入れなければならないのだろうか?(最早まったく意味が分からない)この人は親よりも所得が高いことを喜ぶべきなのだろうか、それとも最近給料がカットされたことを悲しむべきなのだろうか?
それに加えて、その人の親世代は働き手が1人で家族を養っている割合が高かった。今では働き手が2人が標準的となっている(ドイツでは違うとでも言うのか?もしくは女性の社会進出は他の国では肯定的に捉えられるのにアメリカの時だけは格差拡大の揺るぎない証拠みたいな論調になるのか?)。だがその当時の家計は現在よりも2倍貯蓄することが出来たしクレジットカードの債務もなかった(貯蓄率の統計には深刻な欠陥がある)。現在では、クレジットカードの債務は家計あたり75万円ある(住宅ローンを含むローンが一般的ではなかったというだけの話)。それに加えて、働き手が2人になったことによりそれに関わる追加の費用、子育て費用であったり旅行費であったり服代であったりが余計に掛かる。
最後に:政府移転は実際には将来世代から現在世代への所得の移転にすぎないということにもっと心を配るべきだ。だがそれはこれらの計算からは除外されている。だが、債務の増大は多くの人々を不安にさせる。よって政府債務の一部は効用から差し引かれるべきだ。それにはさらなる調査が必要になるだろうが。
Final Word On How Not To Improve Income Trend Estimates
Scott Winship
彼のワーキングペーパーに対する私からの批判への彼の反論を週末にこのウェブサイト上で掲載した。私からの批判に彼が対応してくれたことには感謝している。だがこの議論から離れる前にそれに再び批判を加えたいと思う。驚くべきことではないが、私には彼からの反論は説得的なものには思われなかった。アメリカ人の所得は過去同様に大幅に増加していることは明らかだと私は考えている。
税の取り扱いを間違えているという私からの批判に対して彼は同意しなかった。だが私は彼が間違っていると確信している。この説明は細々としているのでもし興味がなければ「医療給付を所得から除外することに対する彼の正当化への批判」の段落まで飛ばしてもらっても構わない。
別の方法で説明してみよう。課税前所得は法人税の負担(列Mと列Q)プラス他の市場所得(列Iから列L、列P、列Rから列T)プラス移転(列W-AA)と等しい。要するに、課税前所得=C+OM+Tとなる。課税後所得はこれから法人税(列AF)と他の税(列AD、列AE、列AG)を引くことにより得られる。すなわち、税はC+OTとして考えられる。その場合では、課税後所得=C+OM+T-(C+OT)=OM+T-OTとなる。
似たような問題が彼の雇用主の社会保障負担分の取り扱いでも起こっている。給与税(社会保障負担分)として所得から徴税されていなければ本来労働者が受け取るはずだった所得をここでは彼は差し引いてしまっている。だが給与税が所得から控除されている時には彼は給与税を差し引いていない。課税前所得が雇用主の社会保障負担分プラス労働者の社会保障負担分プラス他の市場所得プラス移転(E+W+OM+T)、税が雇用主の社会保障負担分プラス労働者の社会保障負担分プラス他の税(E+W+OT)であれば、課税後所得はE+W+OM+T-(E+W+OT)=OM+T-OTとなる。このように計算するのではなく、彼は代わりにE+W(1/r)+OM+T-E-W-OT=W(1/r-1)+OM+T-OTとして計算している。これでは少なすぎる。
彼は雇用主の社会保障負担分を整合的に取り扱っていない。CBOがそれを賃金と給与所得もしくはビジネス所得から区別していないために出来なかった。だからといって雇用主の社会保障負担分を異なって取り扱って良いわけではない。雇用主であれ労働者であれ給与税は所得から徴収されるので、課税後所得のトレンドを調べるのであれば割引を行う必要はない。所得として計上されているすべての税は税として差し引かれることになるので、最終的にはOM+T-OTとなる。
彼は1ドルの給与税の削減が貯蓄を生み出す可能性は民間貯蓄よりも遥かに小さいと恐らく反論するだろう。その場合には、雇用主の社会保障負担分として受け取られた1ドルを民間貯蓄の予想リターンと給与税からの貯蓄の予想リターンとの差で割り引くのが適切と思うだろう。
よって彼が「改善」と称しているものは単なる憶測以上のものではないし、繰り返しになるがこの所得は課税後所得には現れないのでそもそも割り引きを行う必要がまったくない。その議論全体が誤解によるものだ。
医療給付を所得から除外することを彼が正当化している部分に移ろう。メディケアの給付を除外することを、彼は「メディケアの支払いは(中略)大部分が人口の高齢化により増加している」と「信じている」からだとしている。
ここでも彼はCBOの推計を憶測によって「改善」させている。人口の高齢化によってメディケアの受給者が増えるというのは事実だろう。働き手が少なくなるのと同じように。だからといって賃金も除外するべきなのだろうか?もっと建設的な話に戻すと、彼は年齢の影響を所得から取り除くことを示唆している。もちろんそれが私が高齢者と非高齢者の推計を別々に分けて見せた理由だ。その改善には彼は興味を示さなかったようだ。
彼はCBOのメディケアとメディケイドの所得推計が、第二、第三分位が(所得の低い)第一分位よりも受給を受けていること、所得上位1%までもがメディケイドを受給していることをCBOが示しているのを見て「信用出来ない」としている。これらの推計が恐らくは問題ないのには幾つかの理由がある。
この問題の一部はCBOが所得分位をメディケイドとメディケアの給付を含む包括的な課税前所得で定義していることにある。彼は所得分位をそれらを除外したもので考えているのは明らかだ。CBOのスプレッドシートの表7は表6とよく似た方法で推計を行っている。唯一の違いは所得分位を課税前、移転前で定義してあることだ。これによると、メディケイドを第一分位は平均で55万円、第二分位は33万円、第三分位は15万円受給している。
所得が多い世帯がどうしてメディケイドの給付を受け取っているのかは、これはCBOがSOIの納税申告のデータをCPSの家計とマッチさせる統計的手法に問題があることを反映している可能性もある。だがメディケイドの受給資格を満たすために資産を取り崩している世帯がいる可能性も存在する。
どちらにしてもこれらはすべてポイントを外している。第五分位もしくは所得上位1%からメディケイドのこの少額の給付を取り除きたいのであれば、それ以外の世帯の所得のトレンドにはほとんど影響を与えないだろうからだ。
もちろん、第二分位の人々が同じ治療を昔よりも4倍受けているというわけではない。まず第一に、メディケアの受給者は増えている。よって人口の高齢化はメディケアからの所得を医療の利用率に変化がなかったとしても増加させるだろう。第二に、医療保険一般の傾向を反映してメディケアは昔よりも給付の範囲を遥かに拡大させている。第三に、これらすべての要因に加えて人々は医療の利用率を増加させたのかもしれない(4倍というわけではないだろうが)。
生活費の調整に話を移すと、彼はBEAのエコノミストがPCEでさえもインフレ(医療価格のインフレも含む)を過大に評価していると結論していることを拒否している。彼はPCEの消費バスケット内の数百の商品のうちのたった一つ、テレビの価格変化を引用してPCEが行っていることはすべてが「数多くの不正操作」に過ぎないと結論している。1979年では4万8000円だったテレビが現在では2600円の価値だということを受けて、「2000年以降所得が低下している消費者にそう言うといい」と語っている。
だがより包括的なCBOのデータや他のデータによると、所得は2000年以降低下などしていない。彼は自分の分析を外部からの実証的に間違っている主張によって正当化しようとしている。
彼はCPI-Uが貧困線を更新するのに用いられていると言っているが、それは1969年に旧「予算局」によって決められた政治的決定で実証に基づくものではない。CBO、BLS、国勢局、Fed、これらすべてが研究目的のためにはCPI-U以外の価格指数を用いている。それも20年以上も前から。
彼はむしろ私に効用の変化に関する彼の議論に向き合うように要求している。だが効用のトレンド(時間変化)を推計することは所得よりも遥かに疑いの余地が大きい。効用の水準と分布を推計することはモデルの仮定に強く依存する。例えば、彼は所得の相対的分布が効用にも影響すると仮定している。彼のモデルでは所得の水準ではなく所得の集中度が効用を低下させる。
もちろん生活水準に関する不満の程度というのは実証上の問題で、不満が拡大しているという彼の主張の裏付けとなるものを何一つ提示していない。
囚人の人数は犯罪のトレンドに非常に良く一致している。犯罪のトレンドは経済のトレンドとはほとんど一致を示さない。
彼はこれらの主張を補強するデータを一つも示したことがない。彼は自分の主張を思い込みによって正当化しようとしているように見える。
彼は不満が拡大しているという主張に対しても証拠を示したことがない。実際、消費者指数は過去35年間と変わらず高い水準にある(1990年代後半の好況期を除いて)。(見掛け上は高そうに見える)経済を不安に挙げる人の割合は飛行機事故や犯罪もしくはテロの被害に遭うという確率的に極めて低いイベントに対して不安を挙げる人の割合とあまり変わらないことを調査は示している。この手の反応をそのような文脈なしに解釈することは困難だ。
それに加えて、世論調査への反応は他の人々は自分自身よりも悪いと一貫して示す傾向があることが知られている。このような現象は経済に限られるのではなく、一般的に「自分は良い、他の人々は悪いと思いたがる症候群」として皮肉られている。
その世論調査では、72%のアメリカ人が自分たちは親よりも豊かになったと回答していて20%が貧しくなったと回答しただけだった。私が彼への批判として最初に示した分析の中にあったように、人々は自分たちが親よりも豊かになっていると感じていることは間違っていない。現在の大人は親が同じ年齢だった頃よりも93%豊かになっている(所得がほぼ2倍になっている)。私がかつて働いていたPew Economic Mobility Projectは現在の大人の67%から84%が親よりも所得が高くなっていることを発見した。
この点に関して、彼はこの所得の増加は働き手が2人になったことが主な原因だと反論してくるかもしれない。これは生活が苦しくなったことを反映していると彼は信じているようだ。
だがかつては働き手が1人でも達成できていた生活水準を現在では「働き手が2人掛かるようになった」という議論を支持する証拠はない。男性の賃金はそれほどは増加していなくても少なくとも低下はしていない。労働時間が最も増加したのは教育水準の高い男性と結婚した女性だ。労働時間は既婚の男性では減少しているが単身の男性では減少していないことは、既婚の男性は第二の働き手から得られる所得に反応して労働時間を短縮させている可能性を示唆している(夫の賃金が低下したために働かざるを得なくなったのではなく)。
さらに、女性の労働参加率の上昇は1940年代に始まっている。女性の労働意欲は高まっていて、それが世界中で女性の教育水準が高まった一方で結婚や出産が先延ばしもしくは減少、そして出生率が低下している理由だ。
多額の債務を抱えた少数の家計が平均を大きく引き上げる。それが中間層の所得を語る時に彼や私たちが中央値を用いる理由だ。クレジットカードの債務がある家計でも平均ではなく中央値で見ればその債務は23万円だ。38%の家計しかクレジットカードの債務を抱えていないので、すべての家計の債務の中央値は…ゼロだ。
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