RUCHIR SHARMA
世界の指導者たちがダボスに集まる来週に、政府支出拡大キャンペーンに誰が加わるか予想してみるのは興味深い。オバマと財務長官のジャック・ルーはヨーロッパにもっと支出せよと命令している代表例だ。IMFと前財務長官のラリー・サマーズは道路や空港を建設するために借りたお金はそれ以上の税収を生み出すとまで主張している。彼らの主張によると、先進国の政府がもっと支出さえすれば、世界経済の将来は明るいという。
だがその忠告に駆け込む前に、中国、ロシア、ブラジルなどの所謂新興国と呼ばれた国々がどうなったのかを振り返ってみる必要がある。中国を除く新興国の成長率は支出キャンペーンが始まる前には平均で7%以上だったのが現在では2.5%まで低下している。この成長率は世界中を襲った不況以外では過去40年間で最も低い。これらの国の指導者にとっては、景気刺激というのは悪い意味となっている。
彼らの実験は2008の後半に始まった。西側の不況が深刻なことが明らかになると、これらの国々の指導者は、1930年代に消費者支出の減少を政府支出の拡大によって埋め合わせることにより不況と闘うようにアドバイスした英国人John Maynard Keynesの考えに従った。
かつて新興国と呼ばれた国々はアメリカやヨーロッパを凌ぐ支出拡大キャンペーンを行っていた。先進国が2009年と2010年の合計でGDPの4.2%を政府支出に費やしたのに対して、新興国と呼ばれた国々は6.9%を支出していた。
皮肉なことに、少なくとも2009年までは貧しい国の方が豊かな国よりも支出を行う余裕があった。ヨーロッパの政府とは異なり、新興国と呼ばれた国々の政府債務は相対的に少なく、外貨準備を持ち、財政は黒字であるか僅かな赤字という状態だった。彼らは浪費するお金を持っていたので、実際に浪費し、一時的には印象的な経済成長を生み出した。2009年に3%で底をつけたと思われた後、2010年には新興国と呼ばれた国々の成長率は2倍になった。
この結果に世界中のケインズ信者は勇気づけられた。2011年にはILOはヨーロッパ連合や他の組織と一緒になって、アジアが「急速に」、それよりは劣るがラテンアメリカが回復したのは景気刺激策のおかげだと宣伝する大キャンペーンを行った。リベラル派はGDPの12%を迅速に支出できた中国の統制経済をこれからの世界経済のモデルだとして絶賛した(スティグリッツを含む)。ところがその頃には、危機の火種は世界中にばら撒かれていた。
2010年以降、中国の成長率は3分の1以上低下し7%を下回るようになった。ブラジルは不況に突入し、GDPの10%も支出に費やしたロシアは、今では急激にGDPを低下させている(これは原油価格が急激に下落する前の記事)。
これらの負担はどうしてIMFや他の機関が2020年までの新興国と呼ばれた国々の成長見通しを4%(経済危機が頻発した1990年代の水準)にまで引き下げたのかを説明している(その見通しもどう見ても高すぎる)。1990年代だけが非常に異なっていた。この時にはそれらの国々には浪費するお金はなかった。頼ることが出来る貸し手もいなかった。彼らは改革を行うよう迫られていた。不良債権を整理し企業の競争力を高める必要があった。そして厳しい改革は過去10年間にそれらの経済に好況をもたらした。2008年以降、それらの国々が支出の拡大に走って改革を無視した。
フリーランチは存在しなかった。Mr. Summersは道路や他のインフラ投資のための政府借り入れが大きなリターンを生み出す可能性があるとのIMFの分析を根拠に政府支出の拡大を正当化した。だがインフラ投資に注力したはずの新興国と呼ばれた国々で起こったことはILOによれば投資リターンの激減だった。
新興国と呼ばれた国々すべてで、(工業)資本産出比率と呼ばれる生産性の重要な指標が急激に増加した。これは同じ規模の経済成長を生み出すのにより多くの資本(この場合はわかりやすく言うと債務)を必要とするようになったことを意味する。この減衰は中国全土の誰も通らない橋、入居者が誰もいないマンション、テナントがガラガラのショッピング・モールなどによってよく表されている。これらの大部分は2009年に慌てて建築が決定された無駄だらけのプロジェクトで、将来の経済成長を大きく犠牲にする。
メキシコ中央銀行総裁のAgustín Carstensは、長期では「財政政策と金融政策は経済成長を生み出すことは出来ない」と最近語ってくれた。そしてインドの前財務大臣P. Chidambaramは巨額の財政赤字とインフレを生み出した支出キャンペーンのせいでインド政府は「経済のコントロールを失った」と認めたのだった。
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