2013年8月29日木曜日

スウェーデン(とその他北欧諸国)の資産格差は実は大きい?

I. Introduction

資産分布の変動に関する理論で有名なものにクズネッツの仮説がある。だがその理論が妥当かどうか評価するための長期のデータが不足していた。この研究の貢献は1873-2006のスウェーデンの資産格差の変化を示すことにある。財産税や資産税に関するデータをともに用いることによりこれまでの研究よりも頑健であると信じる。

農業から工業へと経済が変化したことに加えてスウェーデンの事例を調べることには他にも幾つかの興味深い点がある。第一に20世紀の間にスウェーデンは福祉国家になった。第二にスウェーデンの資産格差の変化をフランス(Piketty et al., 2006)、スイス(Dell et al., 2007)、アメリカ(Kopczuk and Saez, 2004)と比較することは重要だ。これらの国が経験した資産格差の大幅な減少を起こしたとされる主要な要因をスウェーデンは経験していないからだ。

分析から幾つかの点が浮かび上がる。まず1873-2006の期間は3つに分類することが出来る。第一に農業経済の中でも資産格差は大きくそれは工業化の初期段階に於いてもあまり変化がなかった。資産上位1%の資産は僅かに増加したものの工業化の初期段階に於いて資産格差が拡大するとの主張に対する根拠は得られなかった。第二に1910から1980年代の初期まで資産格差は縮小した。この期間の始め頃に幾つかの制度上の変化が見られた。1907にすべての男性に選挙権が与えられ1921に全員に拡大された。1903に所得に累進課税が導入され1911に資産に拡大された。だがこれらの変化は初期の資産格差の縮小に貢献していないように思われる。この時の資産格差の縮小は資産上位1%からそれを除く資産上位10%に対して資産が拡散した時期として特徴づけられる。それに対して1950までの展開は相対的に高所得ではあるものの以前は資産を持っていなかった集団による資産の蓄積による。所得税と資産税が申告されているので所得の異なる集団の資産シェアを計算することが出来る。それにより所得上位というわけではないものの高所得集団の資産シェアが20世紀前半に上昇していることを発見した。1950以降の資産格差の縮小は異なる形態を見せ始める。より広範な人口で主に住宅を中心として資産が増加したからだ。1950から1980には資産上位の資産シェアは一定の割合を保つようになる。全体としてこの変化はクズネッツの仮説と整合的だ。

最後に、1980年代の初期に資産シェアの水平化は終わりを迎えた。だが資産税に基づく政府の公式の推計によると資産格差は歴史的に見て低い水準にあり過去数十年で僅かに上昇しただけということになっている。と同時にそれらの推計が近年の資産格差の上昇を過小評価していると信じる理由がある。1985以降資本に対する制限が取り除かれた。株式の形態で保有されている金融資産の価値が実質で年率20%で上昇した。多くのスウェーデン人が高率の資産税、相続税を避けるために外国に移住したり外国に資産を移したという夥しい証拠がある。政府の国際収支と投資収支の統計を用いて未説明の家計の金融資産の規模を推計しそれを資産格差の推計に与える影響を把握するのに用いる。推計に関しての不確実性を考慮するためその他の情報源も用いさらに外国資産の規模と分布、収益率に関して異なる仮定の下での推計を試みる。我々の主要な発見は政府の公式統計は近年の資産格差の拡大を極めて大幅に過小評価しており我々は資本が国際化したために測定がより困難になった資産格差の拡大の新たな局面に突入したのかもしれない。

注6 居住地や市民権まで国際化した国の資産(または所得)格差を計測するのに多くの概念的問題があることを我々の分析は示している。

II. Measurement Issues and Data

Measurement Issues

我々が用いる資産の概念は純資産または純市場資産で実物資産、金融資産の市場価値の合計から債務を引いて人的資産を除いたものだ。この定義はこの分野の研究で標準として用いられている。スウェーデンの場合では純資産は財産税と資産税の対象となるものを考慮している。純資産に含められていないものに年金資産がある。年金は過去に存在しない状態から個人の資産の一部を占めるようになった。この理由により拡張した資産格差のトレンドを新たに推計する。

資産格差の定義は人口のある一定割合によって保有される資産のシェアだ。つまり資産上位5%または資産上位1%が保有する資産が総資産に占める割合を意味する。過去のデータを用いるにあたって全人口の総資産をどのように測るかという問題に直面する。資産税のデータは通常資産税の対象となる資産上位5%の世帯しか含んでいない。よって資産格差を推計するに際して全人口の総資産の推計が行われた年に分析を限定しなければならない。この調査は過去の国勢調査と数種の公式調査で行われた。だが資産上位の情報はあるが総資産に関する情報に欠ける年度が多く残った。

The Data

資産税と財産税のデータは幾つも問題があるがこれらしか長期の資産格差の研究をするに際して利用可能なものがない。資産税と財産税のデータをお互いに比較すること自体もトレンドをより深く理解する上で興味深い。これらに加えて家計が保有する外国資産の推計も用いる。スウェーデンの高率の資産税と資本移動の自由化の結果として外国に保有する資産の残高は膨大なものになった。さらにスウェーデンの超富裕層の資産に関して調べた雑誌の推計を用いて同族経営企業(納税申告のデータに現れない)の潜在的影響を評価した。

遺産に関するデータ。遺産のデータは資産分布を調べる標準的な情報源だ。死亡時が遺産の分割と課税のために個人の資産と債務が公になる唯一の場合であることがしばしばある。任意の年度に死亡する個人は同姓、同年齢の生存者の集団からランダムに選ばれると仮定することにより、異なる年齢層に属する個々の資産を年齢層別の死亡率で重み付けした死亡乗数(性別や社会的地位を制御することもある)を掛けて死亡者間の資産の分布を生存者の資産の分布に変換することが出来る。

スウェーデンのデータは有病者の集団分布の形で得られる。1873-1877から開始されていて計130年分の記録がある。1908の記録に関してだけ死亡乗数で調整した遺産の分布のデータを持っている。各遺産に有病者の年齢に基いて年齢調整した死亡率の逆数を掛けたデータが記載されている年度だ。これにより有病者の資産シェアに加えて生存者の資産シェアを計算することが可能になる。これら2つの分布が大きく異なるのかはオープン・クエスチョンだ。期間の重複する資産税に基づく分布と比較した結果から判断すれば長期の資産格差のトレンドに関してその効果は僅かなように思われる。その他の問題は外れ値の影響を受けやすいことだ。連続年のデータを用いることが出来るので外れ値に影響を受けるリスクは小さくなる。

資産税に関するデータ。先程と比べて資産税のデータはより直接的だ。資産税の納税申告のデータはその扱いやすさからスウェーデンの資産格差の研究で頻繁に用いられる。だがこのデータには幾つもの問題がある。第一に全人口のうちで僅かしか資産税を払っていない。だから総資産を推計する際に問題がある。第二に耐久消費財が極めて不完全にしか記録されていない。よって総資産を大きく過小評価する。第三に年金資産が含まれていない。これは家計が年金を自由に扱えるのではなく将来のキャッシュ・フローに対する請求権だからだ。これが一番の問題かもしれない。第四に税で評価した個人資産の価値と市場価値との歪みは時間とともに変化する。1980年代以前には規制で縛られていたスウェーデンの経済の市場価値は税評価とあまり変わらなかった。だが1980以降は市場価値は劇的に上昇した。

1975以降のデータが相対的に最も信頼出来るとはいえ問題がないわけではない。第一に持ち家の市場価値は評価するのが非常に困難だ。第二に同族企業のデータは完全に除外されている。第三にHINK/HEKデータベースは所得分布を分析するために構築されたもので資産分布を分析するためではない。考えられる結果としてキャピタル・ゲインを資産の代理として用いることにより高所得者を過剰にサンプリングする恐れがある。これが問題なのかどうかは定かではない。

1975以前のデータに関して1920、1930、1935、1945、1951のセンサスのものと1966から1970に特別に調査されたものを用いる。

家計が外国に保有している資産に関するデータ。1989にスウェーデンは資本制限を排除し資本移動を自由化したが資産と相続に関する税は高率に据え置いた。これにより富裕層が課税回避のために資産を海外に移すこと、国内の資産格差が大幅に過小評価されること、が容易に発生する状況になった。この研究では国内の資産と海外に保有する資産とを合わせた分析方法を導入する。家計が海外に保有する資産には超富裕層のスウェーデン人で資産だけでなく自身も海外に居住している事例も含めなければならない。だが彼らはスウェーデンで生活も居住もしていないので国内の課税の対象にはならないという問題が残る。

ここでの海外に保有する資産の計算方法はリクスバンクとスウェーデン統計局のものと同じだ。基本的にはバランスシートの項目の残差から推計する。国際収支の場合では貯蓄部門(経常収支と資本収支の内部の)は各年度の資金の動き(投資収支の内部の)と等しくなければならない。これは1980年代の後半ぐらいまでは成り立っていた。それ以降は誤差脱漏と呼ばれる残差は年とともにマイナス幅を拡大し未説明の資本の流出が拡大していることの証左となっている。その流出の3分の1ぐらいは実際の流出ではなく会計や評価に伴う誤差と思われる。よって誤差脱漏の65%を家計が海外に保有する資産の推計として用いる。投資収支の場合では残差は国民勘定の貯蓄(可処分所得と民間消費と民間投資の和との差)と投資収支の貯蓄(銀行預金の総額、証券投資、現金など)とを比較することにより求める。

次にスウェーデン人の誰が海外に資産を保有しているのかを判断しなくてはならない。この集団は非常に裕福であるはずだ。租税回避地にある外国銀行とのコネクションを確立する費用は無視出来る額ではないし資産税率も累進的であるためだ。分析を通して外国資産の推計値を資産最上位世帯(4万から5万世帯)に割り当てる。この数字はこれらを専門に扱うスウェーデン統計局とリスクバンクの職員と議論して求めたものだ。仮に問題があるとすれば資産上位は1980年代と1990年代初期(インターネット出現前)で僅かに過大かもしれずそれ以降は逆に僅かに過小であるかもしれない。さらに家計が保有する外国資産を分母の総資産にも加える。

雑誌による超富裕層の資産の推計。課税当局は同族経営の企業を所有する個人の資産を評価するのに大きな問題を抱えている。よってこれらの家計は極めて僅かかまたは資産税をまったく払っていない。これら資産に関する客観的情報が存在していなかったので数ヶ国のジャーナリストで主観的評価法による超富裕層の資産の推計が試みられた。そのリストの例はアメリカのForbes 400やイギリスのSunday Times Rich Listに見られる。主観的な評価に基づくのでそれらの数字を扱うには注意を要する。注意を持って扱えばこれらのリストから他にはない情報を得ることが出来る。実際これらは以前の研究でも用いられている。

我々はスウェーデンのビジネス誌(*誌名は省略)に掲載されている1983から2006までのリストのデータを用いる。これらを取り扱うに際して情報を2つの集団に分割した。スウェーデンに居住していて同族企業に関係しているスウェーデンの世帯(政府の統計には含まれていない)と海外に住んでいるスウェーデンの世帯だ。

引退世帯の資産に関するデータ。年金資産と社会保障資産は引退時の重要な所得源となる。このため研究者は時々引退時の資産の推計を試みてきた。概念的には引退資産を個人資産に含めることには問題がないわけではない。一方では個人の貯蓄行動に大きな影響を与えるがもう一方で個人は年金資産を自由に扱うことは出来ない。これは財産権の基本的側面の一つを侵害する。よって分析は別個に行う。

引退資産とその分布を計測する際に幾つもの問題がある。第一にこの資産の一部は集計的な形式でしか把握することが出来ない。第二に将来の年金に対する現在の請求権の計算には平均寿命、市場リターンなどに関して幾つもの過程をしなければならない。第三に公的年金、民間年金に積立部分と未積立部分がある。そのうちの一部は他と比べて容易に観察、測定が可能なので系統誤差を生み出す恐れがある。第四に年金の分布特性は一様でなくさらに測定するのが困難だ。

III. Wealth Concentration, 1873–2006

Long-run Trends

図1に1873-2006の資産最上位の資産シェアの展開を示す。この図によると資産格差は1945まで高い水準で安定していて1930年代にほんの僅かだけ低下している。この時期が左翼の支配の始まりであったことを考慮するとこの展開はそれと一致する。


だがよく指摘されているように資産上位の展開を見ているだけでは重要な側面を幾つか見落としてしまう。図2に資産上位1%、資産上位10%-1%、残りの人口を示したものだ。1870年代と1900年代の間では資産上位1%のシェアは僅かに拡大していてその他の人口は縮小している。1910年代以降から1980まで資産上位1%の資産シェアは3%のペースで低下している。1950まではこの水平化は資産上位内で起こっていて図1を見ているだけでは大きな変化が起こっていないという印象を持ってしまう。1910から1950の期間ではP90-99の資産シェアは1.5%のペースで上昇しているが資産上位1%の資産シェアは同率で低下している。下位9分位が保有する資産のほとんどは持ち家で増加は第二次世界大戦後に主に上昇し1950以降は資産上位のシェアを奪うような形で推移している。1980あたりから水平化は停止し資産上位のシェアは僅かに上昇したように思われる。


1870–1910: Wealth Concentration during the Industrial Take-off

(省略)

1910–1980: Wealth Equalization and the Rise of “Popular Wealth”

(省略)

1980–2006: Globalization and Higher Concentration

1980あたりから長年続いた資産格差の縮小は停止する。スウェーデンの資産格差を研究した多くが1980年代の初期が最も資産格差が小さくその後は穏やかに上昇したと報告している。1980以降の資産シェアの変動は資産価格の動きと一致しているように思われる。多くのスウェーデン人は家を持つので住宅価値の上昇は資産格差を低下させる。一方で株式価格の上昇は株式を保有しているのが資産上位に集中しているので資産上位の資産シェアを上昇させる。しかも政府の資産上位の資産シェアの推計は1980から2000の期間の年率20%以上にも及ぶストックホルム株式市場の劇的な上昇を捉えているとは思われない。

スウェーデンの資産分布に起こった潜在的に最も重要な変化の幾つかが税の統計(または調査)で捉えられていないのには主に2つの理由が考えられる。第一に過去数十年で海外に保有する資産が急激に増加した。第二にこの期間に非公開同族経営の企業の価値が上昇した(税の統計では把握されない)。これらの要因が潜在的に与える影響を我々は調べた。表2にその結果を示す。1989以前は誤差脱漏は基本的にゼロだった。その後増加を始めて2006にはその当時のドル価値(*を1ドル=100円として計算)で6兆6000億円になっている。投資収支の未説明の貯蓄も大幅な流出を示している。だがそれは1980年代初期から起こっていてこれは国内の観測できない資産の増加を反映しているのかもしれない。


図4に政府の推計に家計が外国に保有する資産と同族経営の超富裕層が保有する資産を加えた場合の影響を示す。この調整により1980頃を境として大きなトレンドの変化が発生する。資産上位の資産シェアは20%ぐらいから2000年代の初期には30%にまで上昇する。この増加はスウェーデンの1989の自由化と一致しその後も表2に示した数字と一致して増加している。さらにこれらのデータは外国に保有する資産に発生する利子を含めていないことに注意する必要がある。つまり解釈に注意が必要な推計であることを意味する。さらにこの推計と基本的にトレンドに変化が見られない政府の納税申告に基づく推計との間の歪みが大きく鳴り続けていることも記す必要がある。


外国に保有する資産が資産格差の推計に与える影響の大きさは必ずしも限定されているというわけではないにしてもスウェーデン(そして潜在的にその他の北欧諸国)で特に大きくなる現象だと思われる。資産に対する高い税率、1980年代初期に始まった金融資産(*株式価格の上昇)の大幅な増加、海外に資産を移して課税を回避するのに掛かる費用の低さの組み合わせで観察されるパターンを説明するのに十分だと思われる。同様のことをアメリカのデータに行った場合では(つまり外国に保有する資産を加える、同族経営企業の超富裕層の資産を加える)資産格差の推計にほとんど影響を与えなかった。

注47 これらの項目を追加すると2004のアメリカの資産上位の資産シェアは33.4%から34.6%に上昇してその上昇率は3%だ。スウェーデンの場合は50%上昇する。計算はSurvey of Consumer Financesに基いている。誤差脱漏の累積の80%を加えてさらに利子率はゼロと仮定している。次にForbes 400の上位400人の国内資産とさらに海外に保有していると思われる彼らの資産の1.2%を加えて計算した。

基本となる分析では家計が海外に保有している資産と同族経営企業の資産が大きな影響を与えることを示した。だが既に述べたようにこれまでの分析は利用可能な推計の一部を利用しただけでさらに海外に保有する資産の利子率に関して極端な仮定をしている。この章ではこれらの制約を外してみる。

図7にその結果を示す。結果は1980以降のスウェーデンの資産格差に与える影響の大きさを再確認している。だがその影響の度合いは大きく異なる。例えば未調整の資産シェアは2002で18.4%だがスウェーデンに居住している同族経営企業の超富裕層の資産を加えると23.9になる。全体として海外に保有する資産と同族企業の資産が与える影響は大きく海外に住んでいる市民をどのように見るかが資産格差の計測に非常に大きな影響を持つことを示している。


(一番下の線が今までの推計でW=国内純資産、BP=国際収支、FA=投資収支、I=利子率5%、DSR=国内の超富裕層、SR=国内、海外居住を含めた超富裕層の略。一番上の2つの線は国際収支と投資収支に計上されている家計が海外に保有する資産に5%の利子が付く場合でそこにさらに国内、海外に住む超富裕層の資産を加えた場合の資産上位の資産シェアを示している)

V. International Comparison

(省略)

VI. Concluding Remarks

(省略)

2013年8月9日金曜日

アメリカのCEOの給与は他の国と比べて高くない?

とりあえず最初にグラフを載せておきます。
画像はクリックすると拡大します。



Are US CEOs Paid More?New International Evidence

by Nuno Fernandes Miguel A. Ferreira Pedro Matos Kevin J. Murphy

(省略)

役員報酬の研究で定型化された事実として最も広範に受け入れられているものの一つにアメリカのCEOは他国のCEOより多く報酬を受け取っているというものがある。Towers Perrin (2006)によるとアメリカのCEOは他国のCEOの2倍を報酬として受け取っている。このことはアメリカのCEOの給与が超過していることの根拠として解釈される。

CEOの給与の差は広く受け入れられていたもののその程度と決定要因を実証的に調べることは役員報酬に関する情報開示の姿勢の違いにより困難だった。アメリカのCEOの報酬プレミアムの研究はほとんどが少ないサンプルによる比較かコンサルタント会社によって提供された全国の推計値だった。例外はアメリカと1995から情報開示が義務付けられているイギリスの会社との比較だ。Conyon and Murphy (2000)は産業、会社の規模、その他諸々の特性を制御した後にアメリカのCEOはの給与がイギリスのCEOの2倍であることを示した。Conyon, Core and Guay (2011)はこの差が2003に40%まで縮小していることを示しさらにポートフォリオリスクを調整した後では消滅することを示した。

我々の研究は最近拡大された情報開示のルールによるデータを用いて14ヶ国のCEOの給与の国際的比較を行なっている。サンプルは1648のアメリカの企業と1615の他国の企業でそれぞれの国の株式市場の時価総額の90%を占めている。

(省略)

通説は間違っている。我々はアメリカの報酬プレミアムは経済的に穏当であることを発見した。2006のアメリカのCEOの給与は外国のCEOより平均で26%多いが学会の研究で主張されていた100%や200%よりもはるかに小さい。この結論を得るに至って我々は通常の企業特有の属性(産業分類、企業の規模、株価のボラティリティとパフォーマンス、成長機会など)だけでなくさらに2つの要素(株式の所有形態、企業役員構成)を制御している。他国の企業と比較してアメリカの企業は機関投資家が株式を保有する比率が高く多くの独立した取締役会を設置している。これらの要素は高い給与と株式付与型報酬の増加と関連している。加えてアメリカ企業の株式保有はインサイダー(同族株主による株式の大量保有のような)によって所有されている傾向が小さい。この要素は給与の低さと株式付与型報酬の比率の低さと関連している。機関投資家は給与と株式パフォーマンスを結びつける監視メカニズムを必要とするが株式の大量保有者を抱える企業はインセンティブ型給与に頼る必要が小さい。さらに内部者の株式保有比率に応じてその執行役は主に給与からではなく自身の持分から報酬を受け取り経営の動機とすることが出来る。CEOの属性(年齢、任期、学歴、経験など)も考慮してみたがこれらは国際的な給与の差をほとんど説明できなかった。

さらにアメリカのCEOはストックとオプションの形で報酬を得る割合が高いことも発見した。リスク回避的なCEOはリスクの見返りにプレミアムを要求する。アメリカの26%のプレミアムはリスク回避的かつ非リスク分散型のポートフォリオを持つCEOとして適切な推定ではない。給与体系のリスクをヘッジ出来ずそして直接的、間接的にリスク分散型でないポートフォリオを保有することを強制させられるからだ。そこでリスク調整後のCEOの給与を2通りの方法で推定した。リスク調整によりプレミアムは減少したがすべて消滅したわけではない。さらにこれに先ほどの所有形態と企業役員構成を制御するとプレミアムは消滅した。

最後に機関投資家と企業役員構成が何らかの除外変数の代理である可能性を考慮した。結果は固定効果を加えても頑健だった。企業の属性の時間変化がCEOの給与と企業のガバナンスの関係を変化させている場合には固定効果モデルではこの問題を完全には修正できないという問題が残った。

全体としてここでの結果はアメリカのCEOの給与が他国を超過しているという研究とは整合的でない。第一にアメリカの給与プレミアムは産業、所有形態、企業役員構成、CEOの属性を制御した後では穏当であることを示した。第二に給与の構成の違いを考慮しないことは誤った結論を導くことを示した。実際に、先程述べた給与水準と関連がある属性は株式付与型報酬とも関連する属性でもある。第三にCEOの給与水準と株式付与型報酬は優れた監視と企業統治の代理指標として頻繁に用いられる機関投資家による株式保有と独立取締役会と正の相関を示す。仮にアメリカの企業統治が悪ければアメリカのCEOの給与は安全な基本給の割合が高く業績連動型の割合が低いと予想できるだろう。第四にCEOの給与プレミアムは国際的に多様化した取締役会や機関投資家によって要請された報酬体系の違いを反映していることを示唆している。外国とアメリカの機関投資家による株式の保有は彼らが投資するアメリカ国外の企業の株式付与型報酬の使用やCEOの給与水準と結びついていることを発見した。最後にCEOの給与水準の国際間の収束は企業の所有形態の収束と資本市場の国際化によって説明できるように思われる。

1. Background and Data Sources

1.1 The US pay premium: What we thought we knew

1930年代からアメリカが詳細な情報公開をしていたのに対してその他の国の大部分はよくて経営陣の現金報酬の総額を報告していたに過ぎない。個別のデータもなければ株式やオプションに関する情報も僅かしかなかった。

実際、我々が知っていたと思っていたことの大半はTowers PerrinのWorldwide Total Remuneration reportsに基づいていた。これらの国際間の比較はデータに基づいているのではなくコンサルタント会社の推計に基づいていた。それらは各国のコンサルタントに送られた回答書を基に推計されていた。産業と企業規模は荒くではあるが制御されていたもののこれらの調査を用いて所有形態や企業役員構成などのその他の要素を制御することは不可能だった。

情報公開に関する状況は過去10年で変化した。経営陣の給与の情報公開は2000にアイルランドと南アフリカで導入され2004にオーストラリアで導入された。2003の5月にEU委員会はEU内の企業に詳細な情報を公開するように推奨しEU加盟国はそれを承認した。2006までには6つのEU加盟国(ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェーデン)は情報公開を義務付けた。EU域内ではないもののノルウェーもEU型の情報公開を受け入れスイスも同様の動きを見せた。

1.2 Data sources

完全な報酬のデータがない企業とWorldscopeデータベースと照合することが出来ない企業はサンプルから除いた。アメリカの企業に対してCUSIPコードを非アメリカの企業に対してSEDOLまたはISINコードを用いてサンプルをWorldscopeのデータと照合して最後に企業名を手作業で確認した。最後にイギリスの小企業を過剰にサンプリングすることの影響を低下させるため分2005の売上が100億円を超えた企業に分析を制限した。表1に示すように最終的なサンプルはアメリカのCEOが1648人、アメリカ以外のCEOが1615人となった。サンプルはWorldscopeがカバーするアメリカ企業の時価総額の90%、アメリカ以外の企業の時価総額の83%を占める。

表1には主要な結果をまとめてある。貨幣価値はその年に最も近い時期の為替レートを用いてドル(以降、1ドル=100円として計算)に換算した。この結果は2006のPPPレートを用いたり各国の平均的な労働者の賃金との相対比に変更しても影響を受けない。表1に示すようにアメリカのCEOの給与の平均値と中央値(5.5億円、3.3億円)は非アメリカ企業のCEOのもの(2.8億円、1.6億円)の2倍だった。アメリカで基本給は給与の28%を占めるがその他の国の平均は46%だった。同様に株式付与型報酬の割合はアメリカで39%を占めた。その他の国の平均は22%だった。給与の水準と構成の違いはすべて統計的に有意だった。

2. The Level and Structure of Pay for US and Non-US CEOs

2.1 The US pay premium

この結果は産業、企業規模を制御していない。この2つに加えて4種の制御変数を加える。企業の所有形態、企業役員構成、CEOの属性、さらに個々の企業の特徴を示す変数(レバレッジ比、Tobin’s Q、株式リターンのボラティリティ)だ。

表2に結果をまとめる。企業規模に両者に有意な差はなかった。アメリカの企業の方がレバレッジ比が低く株価のボラティリティとTobin’s Qが高かった。さらに内部者による株式保有の割合が低く機関投資家の保有割合は高かった。取締役員の数は弱冠少なくより独立している傾向があった。CEOの属性はアメリカの方が年齢が高く経験が豊富で教育水準が高く外部ではなく内部昇進の割合が高かった。


表3に以下の回帰の結果を示す。

Log (Total Payi) = α + β1 (US dummy) + β2 (Firm characteristicsi)
+ β3 (Industry dummies) + εi (1)

鍵となる変数は“US dummy,”だ。回帰式は12の産業の固定効果を含む。

注7 CEOの給与の分布が歪んでいる可能性を考慮している。さらに外れ値の存在に対して頑健な中央値を用いても結果は影響を受けなかった。

表3の行1に産業と前年の売上だけを制御した式(1)の推定結果を示す。CEOの給与と企業規模には理論上では強い関連がある。Rosen (1981)とRosen (1982)は経営能力の限界生産物は企業規模と共に上昇すると議論した。最も優秀な経営者が最も大きい企業に務めるのが最適になるようにだ。均衡賃金は能力に対して凸になる。Gabaix and Landier (2008)はRosenのモデルを拡張してCEOの均衡賃金が企業規模だけでなく関連する市場に存在するすべての企業の規模の分布に影響を受けることを示した。平均的な企業が大きくなると優秀な経営者を獲得する競争が発生し報酬を引き上げるためだ。

表3の列1にあるように企業規模の弾力性は0.406で他の研究とも整合的だ。US dummyの弾力性は0.582で産業と企業規模を制御した後のアメリカのCEOの給与は79%高い。

表3の列2にレバレッジ比、Tobin’s Q、株式リターンのボラティリティ、株式リターンを含めた結果を示す。

CEOの給与はレバレッジ、Tobin’s Q、株式リターンと正の相関を株式リターンのボラティリティと負の相関を示した。US dummyの係数は0.629で給与プレミアムは88%であったことを示す。従って給与プレミアムは資本構成の違い、成長機会、業績、ボラティリティによっては説明できないことを示唆している。

表3の列3に企業の所有形態を制御した結果を示す。既に述べたようにアメリカ以外の企業では企業内部者が株式の相当部分を保有している。同族経営の形態や政府支配の企業の割合が相対的に高いためだ。2つの理由からCEOの給与と内部保有には負の関係があると予想している。第一に内部保有者とCEOが重複する場合では執行役は給与からではなく自身の持分から報酬を受け取り経営の動機とすることが出来る。第二に内部保有者が大口株主である場合では彼らはインセンティブ型の報酬がなくても経営者の活動を監視し指揮することが出来る。

表3の列3に示すようにCEOの給与は内部保有と負の相関を示し機関投資家の保有と正の相関を示す。内部保有、機関投資家による保有が10%上昇するとCEOの給与が8%下落、4%上昇する。列5と列6の結果と合わせて株式付与型報酬の比率は内部保有が増えると減少し機関投資家による保有が増えると増える。この結果は内部保有と株式付与型報酬に代替関係があり機関投資家は業績に対して高い報酬を払うという解釈と整合的だ。所有形態を制御するとUS dummyの係数は0.268にまで減少する。これは給与プレミアムは88%から31%にまで減少することを意味している。

内部保有と機関投資家の保有が給与水準に対して決定要因となっているが列2と列3の給与プレミアムの減少の大部分は機関投資家の保有で説明できることを示唆している。列2に内部保有の変数だけを加えるとUS dummyの係数は0.629から0.495に減少するが(給与プレミアムは88%から64%に減少)機関投資家の保有だけを加えた場合では係数は0.629から0.330に減少する(給与プレミアムは88%から39%に減少)。

表3の列4に企業役員構成の変数を加える。この変数の理論上の効果ははっきりしない。列4に示すようにCEOの給与は独立取締役会の比率と役員人数とに正の相関がある。企業規模と所有形態に加えて企業役員構成を制御するとUS dummyの係数は0.230に減少し給与プレミアムは26%になった。企業役員構成だけを加えた場合には給与プレミアムは88%から66%になった。

2.2 The US equity pay premium

CEOの給与水準の決定要因の一つとしてリスクが有る。以前に述べたようにCEOはリスクのある報酬体系に対してそれに応じたプレミアムを求める。表3の列5と列6には以下の回帰式の2006の結果を示してある。

Equity Payi/Total Payi = α + β1 (US dummy) + β2 (Firm characteristicsi) + β3 (Industry dummies) + εi (2)

“Equity Pay”は株とオプションの付与日での価値を示し企業属性は列4と同じだ。

表3の列5には産業と企業規模だけを制御した結果を示してある。ここでの株式給与プレミアム(*先程までと違うので注意)は22%だ。これは表1の17%より少し大きい。そこでは株式付与型報酬はアメリカ企業とそれ以外で全体の39%と22%を占めていた。だが表3の列6にあるように企業規模、所有形態、企業役員構成を制御した後では株式給与プレミアムは有意でなくなり6%にまで減少する。さらに列6が示すように高い給与と関連する企業属性は株式付与型報酬と関連する属性でもある。CEOの給与水準とインセンティブ型報酬は共に機関投資家の保有さらに独立取締役会と正の相関を示し内部保有と負の相関を示す。

表3の列7と列8には給与を株式の部分とストック・オプションの部分に分解した結果を示している。株式の使用に関しては有意な差がなくストック・オプションに関しては有意な差があった。

表4の列2にはCEOの属性を制御した結果を示している。年齢の高いCEOは株式やストック・オプションの形式で受け取る割合が低く学歴の高いCEOは株式付与型の割合が高かった。他の属性はいずれも有意ではなかった。

2.3 Risk-adjusted CEO pay

企業規模、所有形態、企業役員構成を制御した後では給与プレミアムはかなり縮小するとはいえそれでもまだプレミアムは存在している。リスク回避的なCEOはリスク・プレミアムを要求するので給与プレミアムはこの反映である可能性がある。実際、Conyon, et al. (2011)はアメリカとイギリスの給与プレミアムはリスクを調整すると大部分消滅することを示している。

このことに関しては広範な合意があるもののリスク・プレミアムを計測する方法にはそれがない。Lambert, Larcker and Verrecchia (1991)、Hall and Murphy (2002)は方法の一例を提案した。この方法を我々のデータに適用することによりリスク調整後のCEOの給与を得ることが出来る。

その他の実験的方法としてConyon, et al. (2011)は非分散型ポートフォリオを直接的、間接的に保有することを強制されたCEOが要求するであろうリスク・プレミアムを計測している。リスク・プレミアムはリスクのない現金報酬と制約のないポートフォリオを保有することとの差として定義される。リスク調整済み給与は総報酬から先に求めたリスク・プレミアムを引いて得られる。

これら2つの方法の差は基本給を受け取りその他の形態の報酬を受け取らないCEOに顕著に表れる。Hall and Murphy (2002)の方法ではCEOのリスク調整済み給与は単に(未調整の)基本給だ。Conyon, et al. (2011)の方法ではCEOのリスク調整済み給与は基本給から非分散型ポートフォリオを保有することによるリスク・プレミアムを引いたものだ。

これら2つの方法のどちらが適切なのかはCEOがどのように会社の株式とオプションを取得するかに依存する。雇用の条件としてCEOが会社の株式を購入するのに自己資金を要求される場合を想定する。この場合には会社は競争的給与体系に加えてリスク・プレミアムを払う必要があるだろう。その他の極端な場合としてCEOのオプション残高が他の部分の報酬の削減を伴わない寛大な賞与の結果であると想定する。この場合には非分散型ポートフォリオを保有するからといってCEOがリスク・プレミアムを得られると考える理由はない。

2.3.1 Hall-Murphy risk adjustment

表5のパネルAに結果を示す。企業規模、所有形態、企業役員構成を制御した後で給与プレミアムは27%から有意でない14%(相対的リスク回避度 rra = 2)、10%(相対的リスク回避度 rra = 3)に低下する。表5の列3と列5に示すようにリスク・プレミアムを調整して所有形態、企業役員構成を制御しない場合では55%と46%と給与プレミアムはかなり残る。

図2のパネルAにHall and Murphy (2002)の方法に従った仮想的なCEOの給与の分布を示す。アメリカのCEOの給与は2.1億円でその他の国の平均である1.46億円よりも高い。図2のパネルBに企業規模、所有形態、企業役員構成を制御した後のリスク調整済みの給与水準を示す。アメリカのCEOの給与水準はイギリス、オーストラリアよりも有意に低くカナダ、イタリア、スイスと有意な差がなかった。

2.3.2 Conyon-Core-Guay risk adjustment

給与プレミアムは列2で30%、列4と列6で有意でない18%、0%だった。

3. The Internationalization (and Americanization) of CEO Pay

4. Time Trends in the US CEO Pay Premium, 2003 –2008

この章ではアメリカとその他の国の2003から2008に掛けての給与の収束に関して調べる。表8のパネルAに産業と企業規模だけを制御した年度毎のプレミアムを示す。2006の給与プレミアムは79%で表3の列1と同じだ。給与プレミアムは2003から2008に掛けて減少していて特に2005以降の減少が顕著だった。

表8のパネルBに企業規模、所有形態、企業役員構成を制御した後での年度毎の結果を示す。2006の給与プレミアムは26%で表3の列4と同一だ。結果はすべての年度でパネルAよりも低いのでこれまでの結果を確認できた。加えて2007、2008では給与プレミアムは有意でなくなる(2%と14%)。これは2006以降に給与水準に有意な差がなかったことを示している。同様に2006と2007では株式付与型報酬の比率に関して有意な差がなくなっていた。これらはCEOの給与水準が収束したことを示す。


CEOの給与の決定要因を分析した結果、機関投資家の保有が収束の要因であるように思われる。他の国の機関投資家の保有比率はこの期間に18%から34%に上昇した。外国人投資家の保有がこの上昇の主な要因で6%から15%以上に上昇した。その他の企業属性や取締役会の属性は目立った変化を見せなかった。給与水準の2003以降の収束は株式の所有形態の収束と資本市場の国際化と関連しているように思われる。

5. Ownership, Governance, and CEO Pay

これまでの結果は所有形態、企業統治変数が何らかの代理変数であったり給与と関連がある除外変数と相関している可能性を排除できない。

5.1 Why Shareholder-Centric Governance Might Lead to Higher CEO Pay

機関投資家と独立した取締役会は株主による強固な監視と良い企業統治の代理変数として用いられてきた。この株主寄りの企業統治が給与の高さと関連するのは直感に反するかもしれないがこれは合理的であり効率的でもある。

第一に機関投資家と独立した取締役会はCEOの給与と業績を強く結びつける。リスク回避的なCEOはリスク・プレミアムを要求するが表5に示すようにリスクを調整しても給与と機関投資家の保有との正の相関は完全には消滅しなかった。

第二に機関投資家と独立した取締役会は業績に関連した解任のリスクを高めリスク・プレミアムが追加される。業績の悪化後のCEOの解任される確率は独立した取締役会の比率とともに上昇する。23ヶ国の企業に関して調べたAggarwal, et al. (2011)はCEOの業績に関連する交代率は機関投資家が保有する株式の比率とともに上昇することを示した。

さらにAggarwal, et al. (2011)は機関投資家の保有と株主寄りの企業統治の属性の間に正の関連があることを示し機関投資家の保有の変化はその後の企業統治の変化をもたらすと結論した。これらの結果は機関投資家の保有比率が高い企業のCEOは業績を挙げることが求められ“quiet life”を送ることは少なくなることを示す。従って機関投資家の保有はそうでない場合と比べCEOに何らかの行動を取ることを迫る。CEOは自然とこの行動に対する見返りとして報酬を求める。

5.2 Do Omitted Variables Explain Both Pay and Shareholder-Centric Governance?

5.2.1 Shareholder-Centric Governance as a Proxy for US Firms

表1に示すようにアメリカとその他の国で所有形態、企業統治に関して有意な差がある。従ってこれまでの結果はこれらの変数とUS dummy変数との間の高い相関を反映していてこれらの変数とCEOの給与との間の相関を示しているのではない可能性がある。

2章4節でアメリカとその他の国のCEOの給与水準と給与構成の決定要因の違いを調べた。表6の列1と列2を比較することにより機関投資家と給与、株式付与型報酬の間の関係がアメリカとその他の国の両方に見られることを発見した。CEOの給与と株式付与型報酬の比率はアメリカ企業で正の相関が見られたがその他の国では見られなかった。全体として給与水準と給与構成の決定要因に関して幾つかの違いがあるもののこの研究の結果は所有形態、企業統治変数とUS dummy変数との相関の反映ではないことを示しているように思われる。

5.2.2 Panel regressions with firm fixed effects

表3、5、6、7の結果はこれまでの仮説と整合的であるがこの結果は何らかの除外変数の存在とも整合的だ。それらの特徴が企業、産業、国に固有のものであり時間によって変化しない範囲で固定効果を用いてそれを制御することが出来る。

表9に固定効果がある場合とない場合の最小二乗法による係数の推定結果を示す。列1と列3に期間は2003から2008でUS dummyを除いて時間効果を含めた場合の式(1)と式(2)の係数の推定結果を示す。そしてCEOの給与と株式付与型報酬の比率は機関投資家と独立した取締役会の比率が高い企業で高く内部保有比率の高い企業で低いことを発見した。列2と列4に今度は固定効果を含めた結果を示す。CEOの給与は機関投資家の保有と取締役会の独立性とともに上昇し内部保有比率とともに減少することを発見した。株式付与型報酬の比率の上昇は機関投資家の保有比率と正の相関を示し内部保有比率と負の相関を示した。そして企業役員構成とは弱い関係を示した。時間によって変動し所有形態、企業役員構成、CEOの給与と相関する除外変数の存在は排除できなかったものの所有形態、企業役員構成の変数は除外変数の代理ではないことを示唆している。

5.2.3 CEO Pay and the Rise of Professional Executives

時間可変の除外変数の候補として“professional executives”のその他の国での重要性の高まりが挙げられる。

1990年代の初期はアメリカで複雑な経営形態が発生し始めてオーナー経営者が経営する同族企業に取って代わることが多々あった時期だった。経営の専門家が企業の資産を管理するために雇われた。企業の所有者と雇われた経営者の間の利害の不一致が“agency problem”だ。Murphy (2012)が調べたようにこの問題を緩和しようと様々な手段が講じられた。高い報酬はアメリカの優秀な学生を引き寄せMBAの魅力を高めることになった。報酬に占める株式の相対的比重の上昇は株主活動の活発化と機関投資家の重要性が増したことによりもたらされた。

その他の国の企業は創業者一族による支配が続いていたもののここにも経営の専門化の波は押し寄せていた。表2のパネルDは2006にその他の国の企業のCEOは外部から雇われる比率がアメリカの比率よりも高かったことを示す。加えて企業の所有形態も機関投資家の占める比率が増していった。機関投資家の保有比率と経営の専門化の時期が重なっているのでこの要因が除外変数の潜在的候補になり得る。

6. Conclusion