2017年6月9日金曜日

リベラルはどうして嫌われているのか?

だいぶ前に、リベラルはどうして嫌われているのかという主張が話題になっていた。その時に云われていたのは日本のリベラルは弱者の味方だと言っているのに実際には(自覚なしに)強者の味方をしているからだという幼稚な主張が結構見られた。それと比較してアメリカ人がリベラルを嫌いな理由ははっきりしている。リベラルには一切の論理が通用しないからだ。その嫌われ方はテロリストをもしのいでいるように思われる。どうしてリベラルがここまで嫌われるに至ったのかを簡潔にまとめた(と言ってもここで挙げている理由は一部に過ぎないだろうが)。

・格差の是正を訴えているふりをしているが、実際に格差が大きいのは民主党の州




・犯罪率が高い地域はほとんどが民主党の支配的な地域(さすがにこれには幾らか誇張が入っているだろうが)

>興味深い質問だ。犯罪率の高い都市を見てみれば、それらは例外なく民主党が市長でCity CouncilもしくはBoard of Supervisorsのほとんどは民主党だ。共和党員はどこにいるのか?

>さらに興味深いデータがある。銃犯罪でアメリカは多い方から4番目に位置している。ここで最も興味深いのは、ワシントンDC(人口65万人)、シカゴ(271万人)、デトロイト(68万人)、セントルイス(31万人)、ニューオリンズ(37万人)をその統計から除いてしまうだけで(すべて民主党が支配している)、アメリカは世界で銃犯罪が少ない方から3番目に位置することになるということだ。なんという違いだろう。

・インフラの建設を邪魔しているのは(環境原理主義の)自分たちなのに中国やヨーロッパのインフラはすごい、アメリカは衰退しているとはしゃぐ

>バラク・オバマはインフラを整備する必要性を国民に訴えるためのキャンペーンを行った。だが資金集めは大した問題ではない。道路、橋、電力、水道、港湾らの施設が老朽化している最大の要因は果てしなく続く規制当局によるレビューだ。

インフラストラクチャーの建設の認可はRegional Plan Associationという団体が調べたところでは10年以上掛かる。Savannah Riverの川底の泥などをさらい上げる作業の環境評価には完了するまでに14年掛かった。環境に僅かもしくはまったく影響を与えないプロジェクトであっても数年は掛かる。

例えば、ニューアーク湾の入口付近にあるBayonne Bridgeの高さを引き上げる作業は新たな資金を必要としていなければ権利の買い取りも必要なく航行可能な水路の範囲を拡大させる以外はまったく認可を必要としていない。この橋の高さを引き上げることにより効率の良い新型の大型貨物船が港湾内へ入ることが可能になる。だがこのプロジェクトは規制当局によるレビューに入ってからすでに5年が経過しており、環境保護団体による訴訟によって身動きが取れなくなっている。

>これらの費用は足し合わされる。パブリック・プロジェクトの6年の延期は370兆円以上掛かっていることがこのレポートによって明らかにされた。それと比較して橋、水道管などなどを更新/補修する費用は10年間に渡って、その金額の半分170兆円で済むことも明らかにされている。

・経済に凄まじい被害を与えているのに、それを是正しようとする試みには新自由主義などのレッテル貼りに終止して妨害工作をする

>ニューヨークやサンフランシスコなどの生産性の高い都市は新しい住宅の建設を規制によって制限している。それにより生産性の高い地域へとアクセスできる労働者の数を実質的に制限している。一般均衡Rosen-Robackモデルと220のメトロポリタンエリアからのデータを用いてこれらの規制が1964年から2009年のアメリカ経済の成長を50%以上低下させていたことを私たちは発見した。

>50年間もアメリカ経済の成長を半減させていたというのは凄まじい損害だ。1964年のGDPが370兆円で2009年のGDPが1450兆円だとすると3.05%の成長率だ。これが6.1%だったとすると370兆円×(1.061)^(2009-1964)=5360兆円にも相当する!

・医療費が高いのは自分たちの州だけなのにまるで全体の医療費が高いかのように騒ぎ立てる


(保険のカバレッジは同じにして比較している)

・金融危機の自作自演

(マイノリティを差別しているとしてシティバンク相手に1994年に集団訴訟を起こした時の弁護士。この時の裁判がきっかけで銀行は貸出基準の緩和を余儀なくされた。その後、シティグループはサブプライムローンが原因で破綻している)

もう一人のマッチポンパーの談(自分で火をつけて自分が消化してみせたかのように小細工を弄する人たちのこと)

「GSEがデフォルトする確率は極めて小さいとその論文は結論している。従ってGSEが債務不履行に陥ったとしても、予想される金銭的費用は比較的小さい。GSEの債務は極めて巨額で、債務不履行時に政府が債務のすべてを負担すると仮定してさえもだ。例えば、ストレステストで想定されているような事態が起こる確率が50万分の1だとしてGSEがストレステストに耐えうるだけの十分な資本を持っているとすると、100兆円のGSEの債務に対して政府が与えている暗黙の保障の費用はわずか2億円以下と予想することができる。ストレステストで想定されているような、極めて低い確率のイベントを分析することは難しい。だがこの分析が大きく的を外していたとしても予想される政府への費用はそれでも極めて小さい」

Russ Robertとのインタビューで、Charles Calomirisはほとんど過去の記録から抹消され掛かっている興味深い事実を明らかにしている。(金融機関に低所得者への住宅ローン貸付を強制させたクリントン政権時にCEAの議長を務めていた)スティグリッツとジョナサン・オルザグ、ピーター・オルザグらはこれからもGSEが危機に陥る可能性は極めて低いとの主張を擁護させるための論文を書かせるために2002年にファニーメイによって雇われていたということを明らかにしている(ちなみにクルーグマンは破綻したエンロンのアドバイザーだった)。上記は彼らの論文からのアブストラクトだ。ファニーメイはそれをウェブサイトから回収している。スティグリッツのウェブサイトにはその痕跡が見られる。だがウェブ上では全文を探すことはできなかった。誰か全文を知っている人がいたら教えて欲しい。

以下、コメント

Neal W. writes:

自分たちの論文は出鱈目だと彼らは知っていた。お金が欲しかっただけだ。情けない。

Greg ransom writes:

スティグリッツは今ではソロスからのお金を受け取っている。

私たちが目にしているものは大金を受け取った経済学者たちのデータバンクだ。サマーズはウォールストリートから大金を受け取っている。クルーグマンはエンロンとニューヨーク・タイムズからだ。他にどれだけの経済学者が大金を受け取っているんだろうか?

Marc writes:

彼らの分析はファニーとフレディによって少なくとも2度は議会の公聴会に持ち込まれている。

ファニーメイのCEO、Franklin D. Rainesの議会公聴会での証言とそこで用いられた資料の24ページ目「ファニーメイが深刻な経済危機に直面した時のexposureは(ファニーメイが現在採用している)リスク・ベースド・キャピタル・テストによってより十分に把握することができる。このリスク・ベースド・キャピタル・ルールは厳格なもので金融機関が取っているリスクに対して必要とされる資本を正確に割り出すことができる。スティグリッツによって書かれた最近の論文はこのテストの厳格さを改めて確認している。このテストを通過することができた金融機関の金融的頑健性を政策当局者は真剣に受け止めるべきだ。スティグリッツの論文「Implications of the New Fannie Mae and Freddie Mac Risk-Based Capital Standard」はリスク評価された資本が様々な経済的環境の下でどのように変動しそのシナリオが実現する確率を評価している。彼の分析によると、ストレステストシナリオが実現する確率は保守的に見て50万分の1で、300万分の1よりも小さいかもしれないと結論している。十分な資本を保有していれば、ファニーメイがデフォルトする確率は「実質的にゼロだ」と彼は結論している。ストレステストの下でファニーメイがデフォルトする確率が実質的にゼロであるのであれば、ファニーメイが潜在的に納税者に与えていると云われているリスクも実質的にゼロに違いないだろう」

(2003年から2004年に掛けて開かれていたPROPOSALS FOR IMPROVING THE REGULATION OF THE HOUSING GOVERNMENT SPONSORED ENTERPRISESの資料の129ページ目を見ろと書かれているが、関連する内容は見当たらなかったので省略する)

ファニーとフレディが改革の試みをすべて潰してしまうことができたのはこれが理由だと考えている。

(ストレステストの意味がわかってない人)q writes:

ここには矛盾なんてないよ!GSEの2002年のポートフォリオは問題ではなかった。堅牢なポートフォリオだった。住宅ローンが問題になり始めたのは2005年、2006年、2007年からだよ。この間に、市場の変化やGSEのビジネス慣行上に変化があった。

Peter Lentz writes:

どうしてそのように思ってしまったのか?君はスティグリッツが論文を書いた後に大量のサブプライムローンが発生したかのようにミスリーディングしている。ここに(スティグリッツにとって)不都合な事実がある。

「GSEは1990年代の終わり頃にこの市場に興味を示し始め2002年の今ではAマイナスの住宅ローンを通常の業務の一環として購入している。住宅ローンの残高を調査している会社の調査では、2001年の両社を併せた市場シェアは74%増加しサブプライムローン全体の11.5%に達していると推計している。ある市場アナリストはGSEが市場全体の半分をすぐにでも買い占めてしまうだろうと推計している」

セントルイス連銀によるとその当時にはすでにサブプライムローンは小さな市場ではなくなっていた。

「過去10年間のサブプライムローン市場の規模の拡大は極めて急激なものだった。Inside B&C Lendingという雑誌の調べによると、サブプライムローンの残高は1995年の6兆5000億円から2003年の33兆2000億円へと急激に拡大している」

規制の効率性を強く主張しているはずの彼は、自分がまったく予想さえもできなかった危険性を他の人であればうまく察知することができたはずだと言いたいのだろう。

補足

'Reckless Endangerment' by Gretchen Morgenson and Joshua Rosner

by John B. Taylor

その本は連邦政府の2つの機関、ファニーメイと連邦準備に焦点を当てている。住宅ローンを購入しそれを証券化し、債務保証を与えそしてそれを投資家に販売することにより住宅ローン市場を支えていたGSEの役割、特にファニーメイの果たした役割が詳細に語られている。連邦政府はファニーメイともう一つの政府支援機関、フレディマックに暗黙の政府保障と規制上の優遇措置、競争からの保護を与えることによりそれらの機関を支援した。それらの恩恵によりファニーメイは2000億円の超過の利益を上げることができたと1995年のCBOの研究は示している。

彼らは1991年から1998年に掛けてファニーメイのCEOだったジム・ジョンソンのことを深く掘り下げている。彼らは「ファニーメイの絶対的守護者」として知られるバーニー・フランク議員(民主党)などの友人や親族などに職を与えた。そして全米にパートナーシップオフィスを設立した。彼らは、マイノリティに住宅ローンを提供するというファニーの役割は連邦政府によって支援されるべきだと訴えている書き手の出版物に金銭的支援を与えていた。彼らは、「ファニーとフレディは納税者に対して深刻なリスクを与えていると批判していた人々を黙らせる」ためにスティグリッツを雇い入れて、自分たちは納税者にリスクを与えていないとする論文を書くように依頼していた。彼らは民主党に多額の献金を行い、(オバマが所属していた)ACORNという極左の活動団体に活動資金を提供していた。彼らは、GSEにとって打撃となるレポートを書いた財務省の職員たちに対して当時財務省の副長官だったサマーズを通して書き直させるよう圧力を掛けた。その一方で、ファニーメイと深い協力関係にあった住宅ローン関連会社カントリーワイドはコネチカット州のクリス・ドット議員(民主党)に条件の良い特別の融資を行っていた。

ファニーの工作活動は他の政府関係者によっては退けられており、彼らはこの本の中では英雄として扱われている。CBOの責任者ジューン・オニールは、連邦政府の支援のお陰でファニーの利益が2000億円嵩上げされているという報告書を差し止めるのを拒んだことにより称賛されている。彼はファニーの役員「Frank RainesとBob ZoellickがCBOを訪問してきた時のことをよく覚えている。私たちは全員が同じ感想を抱いていた。マフィアに訪問されたようだと」と回顧している(マフィアの手先となって働く自称弱者の味方)。もう一人は他でもないスノー財務長官だ。彼は2003年にファニーとフレディを規制し監督する新たな機関を設立することを強く提案していた。彼はファニーと戦う覚悟を決めていて対立姿勢を強めていたブッシュ政権側の心強い味方となった。その後2004年の大統領選挙が接戦となったせいで、「ブッシュ大統領の支持率の低下がファニーの支持者たちの最大の盾になった」と筆者たちは記している。

連邦準備制度は本の中で一貫して叩かれ続けている。筆者たちはボストン連銀を、特に調査部門の監督責任者だったAlicia Munnellを糾弾している。彼女は、他の職員たちがその欠陥を指摘していたにも関わらず、住宅ローンの貸出に人種差別的な傾向が見られると主張した論文を最終的な結論であるかのように振りかざしてクレジット基準の緩和を正当化し続けた。さらに彼らは(バーナンキが理事だった頃の)グリーンスパン議長の低金利政策を「変動金利型の住宅ローンへの需要を増大させローン残高の急増の大きな原因となった」と非難している。


(経済学者も誰も予想できなかったはずの金融危機を2001年~2004年頃どころか1990年代から容易く予想していたのにメディアや経済学会からは無視され続けている共和党の議員たち)

・不況の押しつけ

>それぞれの政党は経済に影響を与える異なる哲学を保有している。単純に言うと、民主党は目先の利益(雇用の拡大)ばかりを重視し共和党は長期の成長(インフレ)を重視する。それにより何が起こるかというと、民主党政権の下では(インフレを犠牲にした)雇用の拡大が優先的に追求され共和党政権はその後片付け(不況)に苦しめられることになる。

第二次世界大戦後の経済を学習した生徒であれば、このサイクルのことをよく知っているだろう。その最たる例が1960年代のケネディ-ジョンソン政権下での雇用の拡大だ。この時には1969年までに失業率が3.5%まで低下したがインフレ率は6%にまで上昇してしまった。この後には、FRBがインフレ退治に舵を切り替えたためにニクソン-フォードの時代は2度の不況に襲われることになった。カーター政権の下で雇用は拡大した。だがインフレ率は1980年には13%にまで達してしまった。カータ時代に昂進したインフレは、FRBがインフレ退治に舵を切り替えたために、レーガン政権下の1981年~1982年に2008年の金融危機に次ぐ規模の最悪の大不況を生み出した。それにより失業率は10.8%にまで押し上げられたが二桁にまで達していたインフレ率はようやく収束することになった。

ここから得られる教訓ははっきりしている。共和党の大統領が民主党の大統領よりも不況に襲われる傾向が強かったのであれば成長率も雇用の増加率も共和党政権下の方が悪いかのような印象を与えるだろう。そしてそれこそがブラインダーとワトソンの論文が示したことだ。1940年代以降、アメリカ経済は総計すると12年間の不況期に襲われた(その被害はGDPで見て数百兆円に達する)。だがその12年間のうち10年間は共和党の大統領だった時に起こっている(偶然ではありえないとブラインダーらは計算から結論している)。民主党の大統領だった時にはわずか2年間でしかない(2008年の金融危機も原因はほぼすべてが民主党にあるので、実質的にほとんどすべての不況が民主党のせい)。

利子率とクレジット・コンディションに影響を与えるFRBがこのサイクルを生み出している主な原動力だ。FRBは政治から「独立している」と表面上は装っているのかもしれない。だが政治的空気やメディアからの圧力を無視したりなどしていない。FRBの政策は民主党の政権下で緩和的で共和党の政権下で引き締め的だった。

民主党はまさに厄災そのものといった感じだが、どうしてこんな無茶苦茶な政党が未だに存在し続けていられるのか?それはアフリカ系アメリカ人(90%以上)とヒスパニック(80%)から圧倒的に支持されていることに原因がある。これまで見たようにそこには一切の論理的な理由はないのだが、メディアによって保守派はレイシストと毎日のように分断工作が行われていることを思えば不思議ではない。

これ以降は一般的な理由だけを挙げる(大体のことはどこの左翼にも当てはまるかもしれないが)

・犯罪被害者の気持ちを逆なでするな!と普段は言っているが、テロが起きると頼まれもしてないのにイスラムは平和の宗教、それに異議を挟む人間はレイシストとテロ被害者の気持ちを逆なでにする言動ばかり行う

・起きてもいないイスラムに対するヘイトクライムを捏造、しかも決まって犯人は保守派という設定、イスラムを無駄に挑発しテロを間接的に呼び起こしている殺人行為

・他人をレイシスト呼ばわりするその傲慢さ

・幼稚で単純なその世界観、そして何故か不思議な上から目線

2017年6月1日木曜日

経済学者の質が急速に低下している?(もしくは最初から高くなかった?)Part4

Roosevelt Instituteというカルト教団のようなシンクタンクが存在している。そこに在籍しているMarshall Steinbaumという人がどうして経済学者たちはピケティを酷評するのかという擁護論を展開している。ピケティの本に対する批判を幾つか取り上げた後で(と言ってもピケティの格差拡大論自体に対する強烈な批判などはすべて無視しているが)、大衆に人気がある彼を批判するなと主張している。

もう少し分かりやすく説明すると、ピケティが取り上げたr>gの話などを取り扱っているもしくは関心を持っている経済学者を探してみたが誰一人見つからず、最初からピケティの本など存在していなかったようだと嘆いている。そして大衆に人気のあるピケティの主張を無視することは経済学者たちは自分たちとは隔絶された世界に住んでいるとの印象を大衆に与えてしまうとして警鐘を鳴らしている。

前置きはこのぐらいにして、彼は自分の主張に対するサポートとして幾つかの論文を紹介している。そのいずれもピケティを引用していないから彼が無視されていることの証拠だと主張しているがそのうちの幾つかは非負制約とジョブレス・リカバリーとの関係を調べたものであったり金融政策が所得分布に与える影響を調べたものであったりとピケティを引用しないのがむしろごく当たり前といえる内容となっている。

結局、彼が紹介していたものでピケティの主張(r>g)に直接関係があるといえるのは大まかに言って4つの論文だけだった(Orszag&Furmanなどはここでは取り敢えず無視する)。Karabarbounis and Neimanの論文が2つとBarkaiの論文が1つだ(他のは似たような内容だったので特に取り上げる必要はないように思われる)。

初めはKarabarbounis and Neiman(以下ではKNと省略する)を紹介する。資本と労働の分配率は一定だと結論されていたが1980年以降は労働分配率が低下トレンドにあると彼らは主張している。内容を紹介する前に多くの経済学者たちが(つなぎ合わせてみると互いに整合性の取れない)ばらばらのことを主張しているのでそれらの整理も兼ねて事前に知っておいたほうがいいと思われることを説明する。

・サマーズという経済学者が、資本財の価格が低下しているために経済が長期停滞状態にあると言い始めた(きちんと見ているわけではないので正確に何を言っていたのか把握しているわけではない)。これは例えば今までならば工場の建設などに1億円ぐらい掛かっていたのが現在では7000万円ぐらいで済むようになったことを意味する。悪いことがないどころか良いことにしか思われないがケインズ派には変な人が多いのか彼らはこれを需要不足(絶対額で見た投資が減少したため)だと無茶苦茶な解釈をしている。まさかサマーズがそんな基本的な見落としをするはずがないと思われているせいか現在でもその点があまり批判されていない。

・生産には生産要素の投入を必要とする。生産要素には大まかに資本(工場や機械のようなもの)と労働が存在しこれらを用いることによって生産物が生み出される。生産に用いられたそれぞれの割合に応じてその生産物を販売した際に得られる所得が分配される。経済全体で見た場合、資本に対して相対的に労働が余っている場合では労働が生産に用いられるが次第に労働が不足し始めると賃金が上昇を始めるので資本に対する優位性が消滅しいずれかの時点で資本に対する分配率と労働に対する分配率が一定の値に収まると理論では考えられていた。

・実際に労働分配率を調べてみると一つの国の間で一定であるばかりか多くの国の間である程度一定(大きな違いはない)であることが示された。労働組合などはほとんど影響を与えていなかった。このせいでマルクス主義者を含む多くの左翼が主張の根拠を失った。

・資本は資本家(富裕層)の取り分、労働は労働者(低所得者)の取り分だと思われているせいか資本分配率が上昇(労働分配率が低下)すると格差が拡大する、もしくは格差の拡大には資本分配率の上昇が必然的に伴うと勘違いされているが、所得上位1%の所得シェア上昇の要因としてピケティが挙げていたのは労働所得であって資本所得ではない(と言ってもころころと主張を翻すのでまったく信用に値しない)。

・完全競争の下では長期において超過の利潤はゼロになる(どの生産者においても利潤は等しくなる)とされている。これが不完全競争(独占的競争)だと生産者は自分たちが生産している財をある程度独占的に販売できるようになるため、一定の超過利潤が生まれると説明されている(マークアップ)。一定のというところがポイントで生産者は好きなだけいくらでも販売価格を引き上げられるという訳ではない。例えばパソコンを生産している業者であれば外部からの参入からはある程度守られているが、お互いの業者同士では競争しているため自分だけが価格を引き上げれば販売シェアを落とすことになる。

・要するに(マクロ)経済学では費用に上乗せされるマークアップ率は一定のために利潤はある程度無視できると考えられていた(景気循環の問題を考えるのでなければ)。上でも説明しているように生産要素は資本と労働しかないために(税などの細かい例外を除けば)所得はすべて資本と労働に分配されると考えられていた。ところがbarkaiという経済学者が資本にも労働にも属さない利潤に分配されるシェアが無視できないほど大きくなっていると主張し始めた(要するに共産党がいつも騒いでいる企業の内部留保がどうこうとかいう話と似たようなもの)。

・彼の主張で興味深いのは(もし彼が正しいのであれば)労働分配率だけではなく資本分配率も大体同じ大きさで低下しているという点だ(労働分配率が約7%、資本分配率も約7%で利潤分配率はその合計の14%の増加)。要するに裕福な資本家が労働者を搾取しているという話ではなく労働者も資本家もともに取り分を減らして(実体のない)企業だけが(無駄に?)お金を溜め込んでいるという構図だ。その原因は企業が以前より利益を上げるようになったからというよりも企業から投資家に支払われる投資に対する報酬が大きく低下したせいだと彼は主張している。ここからは所得格差が拡大しているのかしていないのか何も言うことは出来ない(barkaiも所得格差の話にはほとんど触れていない)。

・これが何を意味しているのか判断が難しい。それにこの後で紹介するKNのもう一つの論文の内容とも密接に関わっている。barkaiとKNの1番目の論文とは対立する部分が多く見られるがKNの2番目の論文はbarkaiに対する部分的な回答にもなっている。

・本来お金を貯め込むべきではない(というのは単なる誤解だが)企業がお金を貯め込んでいるせいで効率的な資源配分が妨げられ、産出が8%低下しているとbarkaiのモデルでは予想されている。

・barkaiは自分の主張を補強するために簡単な実証分析も行っている。例えば1990年から2015年の労働分配率の変化率を非説明変数としてそれぞれの産業毎の1990年から2015年までの市場占有度(上で説明したマークアップの代理変数)の変化率でもって回帰分析を行っている。そして市場占有度と労働分配率の間には負の相関が見られると主張している。

次にNKの1番目の論文を見ていく。barkaiとNKでは後者の方が説得力が高いと思われる。barkaiはアメリカのデータだけを用いているのに対してKNは60ヶ国に近い国のデータを用いているためだ。それらがほとんど1つの要因で同じ時期に似たような動きを示し始めたというのであれば説得力が高いのは言うまでもない(説得力が相対的に高いと言うだけで両方とも間違っているという可能性は十分に考えられる。そもそも労働分配率は低下していないと主張する論文もある)。

・KNによると1980年頃からアメリカだけではなく世界中の多くの国で労働分配率が低下トレンドにある(Marshallはこのことを都合よく無視している)。その原因は主に資本財価格の(消費財価格に対する相対的な)低下が考えられるという(というよりデータに見られるような労働分配率と資本財価格の正の相関は資本と労働の代替の弾力性が1以上でなければ説明できないというのが彼らの本当の主旨だが)。

・労働分配率の低下が他の要因、マークアップ率の上昇であれば(barkaiの言っているように)労働分配率と資本分配率が同率で低下しているはずだがデータを見れば明白に異なっている。またマークアップ率の上昇であれば利潤シェアの上昇が見られるはずだがrotemberg&woodford(1995)ではシェアがゼロ、その後の調べでも5%を超えるものはないというようにこれまでの結果と食い違う。

・また、資本財価格が大きく低下している国で労働分配率が大きく低下している傾向にあり少ししか低下していない国では労働分配率もあまり低下してない(所得格差が大きく拡大しているはずのイギリスやアメリカではわずかしか低下していない。イギリスに至ってはむしろ労働分配率が上昇している。逆に労働分配率を大きく低下させたのは所得格差があまり拡大していないと云われていたはずの国々)。

・これも重要なことだがこの変化は例えば労働分配率が低い特定の産業(例えば想像しやすいように金融業とすると)がシェアを増加させたから起こったというのではない。この変化は産業間のシェアの増減ではなく広範な産業内で見られる。それも新興国で特に大きく低下しているのでグローバリズムとも関係がない。

・彼らのモデルによるシュミレーションによると資本財価格の低下が労働分配率の低下のほぼ半分を説明する。そしてマークアップ率の上昇が原因である場合は穏やかな産出の減少、資本財価格の低下が原因である場合には(当然のことながら)産出の大幅な増加を伴うと結論している。



(世界同時的な資本財価格の低下がレーガン大統領やネオ・リベラル政策のせいだと主張する愚かな人たちの図)

次はKNの2番目の論文「The Global Rise of Corporate Saving」を見ていく。今回は紹介する内容があまりないので手短に済ませる。

・時価総額世界最大のアップルは付加価値の20%から30%を現在でも安定的に投資に回している。だがアップルのフローの貯蓄は1980年代や1990年代では20%から30%だったのが現在では60%にまで上昇している。

・貯蓄は家計部門から企業部門へとシフトしている。世界の企業の貯蓄は1980年には世界のGDPの10%ぐらいだったのが現在では15%ほどにまで上昇している。この変化は特定の産業で起こっているというものではなく多くの産業で広範に見られる。それにより企業部門は資本の借り手ではなく資本の貸し手に立場を変えた(要するに、愚かな人たちが主張しているのとは異なり企業部門が資本の貸し手になるというのはそれほどありえないということでもなく不況の原因でもない)。

・税や利払い費は一定で配当は利益の増加に併せては増加していないので企業の貯蓄が増加することになった。重要な事に、貯蓄の増加トレンドは企業の規模や企業の年齢とはあまり関係がなかった(要するに、大企業とかのせいではない)。

・さらに彼らは(よく非難の槍玉に挙げられる)多国籍企業(定義の説明はあったがここでは省略する)がこのトレンドの原因を生み出しているのかどうかを調べているが、多国籍企業の利益は各国間で打ち消し合うので見た目ほどは企業の貯蓄に影響を与えていない。さらに、他の企業に比べて多国籍企業の貯蓄が多いように見えるのは利益率が高いためで税や配当とはあまり関係がない。そして総付加価値に占める多国籍企業の割合はずっと前から安定したままなので、最近の企業貯蓄の上昇トレンドには影響を与えていない(要するに、ウォールストリートとかグローバル企業とかのせいではない)。


(企業が貸し手から借り手になったとしても政府が借り手になる必要はない。このように家計の貯蓄率が減少するだけだから。むしろこれ以外の影響、例えば少子高齢化の影響で貯蓄率が減少どころかマイナスに陥っている日本の場合、政府が財政赤字を増やすと資本の取り崩しが起きる)


(労働分配率の時もそうだったが、経済学者が格差は拡大していないと必死に言い続けていた国ほど企業の貯蓄は増加していて格差が拡大していると必死に言い続けていた国ほど企業の貯蓄は増加していないの図)

要するに、Marshall Steinbaumが自説の根拠として挙げていた論文のほとんどが彼の主張をサポートしていない。

IMFのブログで関連する記事が書かれていたのでついでに紹介する。driver of declining labor share of incomeという記事にこのようなグラフが掲載されていた。


各国の労働分配率の平均値からの乖離とジニ係数の平均値からの乖離とを散布図にしているものだが、確かに1%水準で有意となってはいるが決定係数が0.08しかない。要するにグラフを見ても大体の察しはつくように、労働分配率の平均値からの変動はジニ係数で表される所得格差の平均値からの変動の8%しか説明していないことになる。むしろジニ係数の上昇(下落)は労働分配率の下落(上昇)とはあまり関係がないと言う方が適切な気さえする。Blanchard体制になってからのIMFはイデオロギーを優先し狂い始めたと指摘されているが、こんなところにもその影響が現れているのかもしれない。