2013年12月17日火曜日

所得上位とは何だったのか?

Deconstructing Income and Income Inequality Measures: A Crosswalk from Market Income to Comprehensive Income

by Philip Armour Richard V. Burkhauser Jeff Larrimore

財政の負担に関する議論はアメリカの現在の所得分布とそれがどのように変化してきたかに基いて行われる。その議論に於いて所得のデータが重要となるにも関わらず所得分布の分析に際して何を所得と見做すかに関してほとんど意見の一致が見られない。多くの経済学者は労働賃金、利子、配当のような市場所得を含めることに賛成するだろう。だが所得は課税前、課税後のどちらで見るべきか?社会保障、失業給付、障害者給付のような現金移転を含めるべきか?医療保険、メディケア、メディケイド、フードスタンプ、学校給食のような現物給付はどうか?さらにキャピタル・ゲインは含めるべきか?仮にそうだとすれば発生主義の原則に基づくべきか実現時か?

我々はこれらの質問に対する答えが「所得」の水準とトレンド、さらにその分布に多大な影響を与えることを示す。これまでは所得の定義の選択はデータの利便性から単位が課税単位で課税前移転前現金市場所得のIRSのデータか単位が世帯でキャピタル・ゲインを除いた課税前移転後現金所得のCPSのデータかに研究が集中していた。

データの利便性に関する懸念が所得の計測に於いて問題となり続けてきたものの理論上の観点からはHaig-Simonsの所得の定義がより望ましい。この定義の下では個人の年間所得は個人の消費+その年度の純資産の変化として定義される(Auerbach, 1989、Barthold, 1993)。この定義は年間の消費と所得を整合的に捉えることが出来る。

Burkhauser, Larrimore, and Simon (2012)とCongressional Budget Office (CBO) (2012)はIRSの所得税の記録に基づく所得の定義からHaig-Simonsの所得の定義への拡大を試みた。データの制限から帰属家賃なども含む完全なHaig-Simonsの所得の定義にはどちらも至らなかったが既存の研究に比べて所得の定義を大きく拡大することには成功した。Burkhauser et al. (2012)はIRSの現金市場所得からCPSの現金所得へと定義を変更することで1979以降の中央所得の成長率が大幅に増加し各所得階層の所得の成長率がほぼ等しくなることを示した。これは医療保険の価値を含めるとより顕著になる。医療保険は現物給付の大きな部分を占めるもののBurkhauser, Larrimore, and Simon (2012)はCPSのデータの制限によりその他の現物給付を含めておらずさらにキャピタル・ゲインも含めていない。それとは異なりCongressional Budget Office (2012)はIRSとCPSの両方のデータを用いて医療保険の価値だけでなくフードスタンプや学校給食を含めている。だが最も重要なのはCBOがIRSのデータに基いてキャピタル・ゲインの課税実現益も含めていることだ。それにより所得上位の所得の成長率が高くなる。

CBOのこの判断はIRSのデータを用いているその他の研究とも整合的だ。ここで我々はHaig-Simonsにより提唱された所得の定義により整合的なキャピタル・ゲインの計測方法を示す。この方法は資産がキャピタル・ゲインの課税実現益として売却されたかどうかに関わらず発生主義の原則に基いてキャピタル・ゲインを含める。キャピタル・ゲインの課税実現益は取引のタイミングを通して節税の目的でいつ売却するかを選ぶことが出来るので現在の所得の増加は数年前または数十年前に起こった資産価値の増加までをも含んでいる可能性がある。従って今年度のキャピタル・ゲインの課税実現益として記録された所得は今年度の純資産価値の増加によるものではないかもしれない。さらにキャピタル・ゲインの課税実現益は資産が売却されていない、または売却されたが税から隔離された口座に保有されている、税制から取り除かれているなどの理由により今年度の納税申告に記録されていない資産から発生した今年度のキャピタル・ゲインを除いている。

注2 Auerbach (1989)とRoine and Waldenstrom (2011)が記しているようにHaig-Simonsの所得の定義は実現益だけでなくその年度に発生したすべてのキャピタル・ゲインを含めなければならない。

我々はPiketty-Saez (2003)の市場所得の定義からBurkhauser, Larrimore, Simon (2012)のキャピタル・ゲインを除いた所得の定義さらにはCBO (2012)のキャピタル・ゲインの課税実現益を含めた所得の定義へと順番に見ていくことにする。そうすることによりキャピタル・ゲインの課税実現益がCBOの所得格差の指標の上昇にどの程度影響を与えているのかを示すことが出来る。さらにキャピタル・ゲインの課税実現益から毎年度に発生したキャピタル・ゲインへと定義を変更することによりそれまでのものとは完全に異なる所得のトレンドが生み出されることを示す。

I. Data and Methods

トップコーディングの問題を克服したLarrimore et al. (2008)の一般公開のCPSが今回用いるデータだ。質問はキャピタル・ゲインを除くすべての現金所得を直接尋ねている。さらにCPSはフードスタンプ、住宅補助、学校給食などの特定の政府の現物給付の価値の情報を提示している。

最後にキャピタル・ゲインに対して2通りの処理を行う。一つは課税実現益に対するものでもう一つは各年度に発生した利益に対するものだ。課税実現益に対してすべての課税単位を各年度のCPSの課税所得の百分位数に配列する。Joint Committee on Taxation 2007から得た非納税者の分布に基いて各課税単位に納税申告を行うと思われる確率を割り当てる。非納税者の多くは課税最低限を下回る課税所得分布の下位に属する。非納税者の分布はすべての年度に関しては利用できないので分布を時間に対して一定であると仮定する。

CPSに組み込んだ納税者に対してもう一度課税単位を百分位数に並べる。同様の処理を各年度のIRSの納税申告のデータに対して行う。それからCPSの各課税単位にIRSの課税所得分布で同じ百分位数に属する課税単位の平均課税実現益を加える。その際に非納税者は課税実現益を持たないと仮定する。

同様の処理をSCFのデータを用いて各年度に発生した利益に対して行う。SCFから各百分位数の課税/非課税口座の平均資産と資産配分に関するデータを得る。Smeeding and Thompson (2010)に従い各年度のダウ工業平均の上昇率×株式とミューチュアル・ファンドに投資されている資産を発生益とする。そして債券からの発生益を各年度の10年物国債の利子率×債券に投資されている資産とする。Smeeding and Thompson (2010)とは異なりここでの処理と不動産の発生益に対してHaig-Simonsの所得の成長率を正確に反映させるため複数年度の平均ではなく単年度の増加率を用いる。

この処理が現在最も良いものだと我々は考えているものの幾つかの問題があることを記しておかなければならない。特に資産が投資口座ではなく非公開企業に投資されている範囲ではその発生益は観察することが出来ない。だが課税実現益はそれらの事業が売却された場合にのみ観察可能で課税実現益を用いた手法も同様にそれらの利益の大部分を捉えることが出来ないだろう。加えて発生益を割り当てる際に投資がその資産クラスの平均の収益率を得ると仮定している。ある特定の個人が超過収益率を得る程度に応じてその超過収益は反映されない。これは完全に会社を買収し生産過程やビジネスモデルを再構成するプライベート・エクイティ投資家にとっては問題となるかもしれない。従ってプライベート・エクイティ投資の収益は発生益としては過小評価されるかもしれない。そしてその種類の投資の頻度と規模が時間に対して変化する程度に応じてプライベート・エクイティ投資家の所得の成長率を完全には捉えることが出来ないかもしれない。

投資からのキャピタル・ゲインに加えて居住用住宅の発生益も考慮する。住宅の持ち主だけが住宅からの発生益を得ることが出来るのでCPSの持ち家に対して用いたのと同じ処理をSCFの持ち家に対して行う。住宅のキャピタル・ゲインは住宅価格指数の成長率×住宅価値として計算する。重要なことはSCFのデータは州や地域の情報を含んでおらず住宅のキャピタル・ゲインは国レベルでの住宅価値と住宅価格の上昇の推計に基づいていて地域の住宅市場の違いを把握できていないことだ。それでもこれが利用可能なうちで最も良い住宅のキャピタル・ゲインに関する情報でありこの処理はSmeeding and Thompson (2010)の方法と非常に整合的だ。最後にSCFのデータに1989の前後で構造変化が発生したので整合性を保つため1989以降の発生益だけを比較する。

注10 投資からの収益を計算するためS&P 500指数をさらに住宅からの収益を計算するためCase-Schiller住宅価格指数を代わりとして考慮してみた。これらの指数のトレンドは元の指数のトレンドとほとんど変わらず従って結果もほとんど変わらなかった。だがCase-Shiller住宅価格指数を用いた場合には住宅の収益はより変動が大きくなり特に2007の価格下落局面においてそうだった。結果として元の指数と比べてこの年度の所得は低くなった。

II. Results

表1は各所得階級と所得上位5%の所得の成長率を異なる所得の定義の下で比較している。列1は定義の狭いPiketty and Saezの市場所得によるものでキャピタル・ゲインの課税実現益を除いている。列4はより定義の広いCongressional Budget Office (2012)の定義によるもので単位が世帯で現物給付と課税実現益を含んだ課税後移転後の所得だ。比較は1979-2007の3つの景気循環期に跨って行う。1979と2007は景気循環の山で長期のトレンドと景気循環の影響の混同を避けるために選んだ。所得上位1%のトレンドは一般公開のCPSのデータの制約のため示していない。


注11 Piketty and Saez (2003)の元の研究では焦点は課税実現益を除いた課税所得だった。Burkhauser et al. (2012)はCPSのデータからも彼らの結果を再現することが出来ることを示した。より最近の研究で彼らは課税実現益を含めた課税所得により焦点を移している。我々が以下で示すようにこれは所得上位の所得の成長率に劇的な違いをもたらす。

列1は課税単位の市場所得の平均成長率を示している。IRSのデータを単に用いる研究ではありがちなことだがこの方法を用いると富裕層は豊かになり(所得上位5%は37.9%の増加)低所得層は貧しくなり(33%の減少)中間所得層は停滞している(2.2%の増加)ことになる。だがこの所得の定義は移転、税、キャピタル・ゲインを含んでいない。

列2は所得の定義を現金移転を含めることにより拡大し単位を資源の共有を反映するために世帯に拡大している(Gottschalk and Danziger, 2005、Smeeding, Rainwater, and Burtless, 2001、Burkhauser et al., 2011)。伝統的な所得格差の指標に合わせて規模の影響を反映させるために分析の単位を個人にしている。これらの処理を行った場合にはすべての所得階級で所得の成長率が上昇する。特に所得の下位の所得の平均成長率は9.9%で所得の中位の成長率は列1の市場所得で見た場合の10倍以上の22.8%に上昇した。これは部分的には政府の移転が特に低所得層を対象としているためだ。だがこれは同棲世帯や親と同居する子供の増加を単に課税単位の市場所得を見るのでは把握できないということを反映している。

このCPSを用いた伝統的な所得の指標には移転を支払うための税を考慮していないという問題がある。加えてこの方法は移転を部分的にしか含んでおらず非現金移転や税制を通した移転などを除いている。列3は課税と現物移転と給付を反映させて所得の定義を拡大している。この定義は納税義務がある者の所得を減少させEITCのような税額控除を受け取る者の所得を増加させる。この列はさらに医療保険、フードスタンプ、住宅補助、学校給食など幾つかの現物給付と政府移転を含んでいる。重複を避けるためDB型の年金の負担は含めない。これはCPSのデータで退職後の支払い時に含まれているからだ。同様の理由により社会保険料の負担も含めない。

税と現物給付を含めると分布全体で所得の成長率が上昇する。特に下の2つの所得階級でそうだ。結果として1979から2007の4つの各所得階級の所得の成長率は驚くほど等しくなる。一番上の所得階級と所得上位5%の所得の成長率は54%、68.9%だが所得階級の下位との差は現金市場所得、課税単位を用いた場合と比較して劇的に低下する。

表1の最後の列はCBO (2012)が用いたようにキャピタル・ゲインの課税実現益を加えている。そうすることによりCBOの結果を再現することが出来た。資産と所得が多い個人の実現益が相対的に大きいので1979以降の所得の成長率のパターンは列3のものとは劇的に変化する。一番上の所得階級と所得上位5%の所得の成長率は今度は83.1%、136.7%となり下3つの所得階級の成長率は以前とほとんど同じだ。

この指標を用いた場合のCBOの所得の成長率に関する発見を我々は概ね妥当と判断しているがそれに1979以降の各景気循環期の所得の成長率を表2のパネルA、B、Cに加える。パネルDに各景気循環期の山でのジニ係数を示す。


こうすることにより課税実現益を加えた後でさえも所得格差は各景気循環期で拡大しているもののその拡大の大部分は1980年代に起こっていて1990年代にそれより小さく2000年代にほんの僅かの拡大であったことを示せる。1980年代では所得上位5%の所得の成長率は55.6%で所得中位の11.7%の4.5倍、所得下位の2.6%の20倍だった。

1990年代ではパターンはU字型になる。所得下位の成長率は所得中位の成長率よりも高い。これらの成長率は所得上位より低いもののその差は1980年代よりも小さく所得上位5%の成長率は43.4%、所得下位の成長率は21.8%、所得中位の成長率は16.4%だった。

以前の2つの期間と比較して2000年代初期では各階級の成長率は相対的に同じであったもののこれまでよりも低かった。上位2つの所得階級で成長率は4%、7%で下位3つの所得階級よりも僅かに高かった。

パネルDのジニ係数でも同じ傾向が見られる。この指標を用いた場合にジニ係数は1980年代に0.303から0.359(18%の上昇)に1990年代に0.359から0.380(6%の上昇)となる。だが2000年代では0.8%上昇し0.383だった。よって所得格差は上昇した水準であるものの課税実現益を考慮した場合であっても所得格差は劇的に上昇していない。

Including accrued capital gains

課税実現益を加えた所得の定義の結果は所得格差が1979から2007に(所得上位の所得の上昇によって)劇的に拡大したという主張を裏付けたように思われるかもしれない。この拡大は列3のキャピタル・ゲインを除いた課税後移転後の所得で見られたものをはるかに上回っている。

だが以前記しておいたようにキャピタル・ゲインの実現益はHaig-Simonの所得の定義から乖離している。特にこのような方法でキャピタル・ゲインの課税実現益を含めることは過去に起こったが今年に申告された資産価格の上昇と今年に実際に発生した利益とを混同してしまう。従ってHaig-Simonsの原則では所得と見做すべき所が課税実現益ではその受け取りに遅延が発生する可能性がある。加えて5000万円以下の居住用住宅はキャピタル・ゲインの課税が免除されていることから課税実現益は住宅のキャピタル・ゲインを完全に無視している。加えて非課税口座のキャピタル・ゲインも完全に無視している。住宅資産が所得中位の最大の資産であるためこれらの非課税の資産のキャピタル・ゲインを税に基づくデータが把握できていないことはHaig-Simonsの原則と比較してキャピタル・ゲインの影響を歪めるだろう。よってHaig-Simonsの原則をより忠実に反映するためキャピタル・ゲインの発生益を用いた場合に所得格差のトレンドがどのように変化するかを表3に示す。


この分析はSCFに依存している。だが1989以前のSCFのデータはそれ以降とは比較できないので1989から2007の2つの景気循環期のみを考慮する。加えてSCFは3年に1度の調査なので2000の景気循環の山を含んでいない。従って2つの景気循環期だけの完全な結果を示すことになる。だが以下で3年に1度の所得上位のシェアに関して我々は詳細に議論するだろう。比較のため今までの系列も一緒に表示する。

1989以降の市場所得のみを見れば所得格差は拡大していることになる。だが景気循環期の山での所得上位と所得上位5%の所得の成長率を見れば1979以降で見るのと比較して著しく低下している。繰り返しになるが所得の定義を拡大すると列2と列3にあるようにここでも結果が変化する。1989以降のすべての所得階級間の成長率とさらに所得上位5%との成長率の差までもが1979以降で見るのと比較して劇的に小さくなる。列3では所得下位の成長率が最も高く所得上位5%の成長率が最も低い。所得上位と所得上位5%の成長率がその他の階級よりも高くなるのはキャピタル・ゲインの課税実現益を加えた場合のみだ。

だが列5で住宅を除いたキャピタル・ゲインの発生益を加えた場合には分布の下2つの階級を除いてすべての所得階級の成長率が低下する。従ってHaig-Simonの所得の原則に整合的なこの方法を用いれば分布の上位の成長率が最も低く分布の下位の成長率が最も高い。結果として発生益を加えた場合には1989から2007に所得格差は縮小している。

何故キャピタル・ゲインの取り扱いの違いによってこのような劇的な変化が発生するのか?それはキャピタル・ゲインの実現の時期と各個人が課税口座に資産を保有する頻度の違いによって発生している。

表4にSCFの課税/非課税口座の各所得階級(世帯人数調整済み課税後移転後現金所得+現物給付で見た)の平均投資額を示す。この表は資産保有が所得分布全体に渡って増加していることを示している一方で所得上位と比較して所得下位で資産の成長率が高かったことを示している。例えば所得下位の平均資産保有額は1989の71万3200円から2007の426万3400円とほぼ6倍に上昇している(*1ドル=100円として計算)。これと比較して所得上位の2007の平均資産保有額は1989の3.2倍だ(6093万3000円と1886万3200円)。


さらにこの資産保有の増加は非課税口座で発生している。この期間に非課税口座の使用は各所得階級の投資の半分を占めるようになった。1989では非課税口座に投資を40%以上行っていた所得階級は存在しない。従って課税実現益はこの重要性を増した所得源を捉えることが出来ない。そして所得下位、所得中位が資産を非課税口座に保有する割合が高まるに従って課税所得のみを対象としている研究者はこれら個人が受け取る所得を捉えることが出来ないだろう。

上で記した要因も重要であるが実現益と発生益とで異なる結果をもたらすことになったその他の要因として株式と債券のキャピタル・ゲインのトレンドが挙げられる。特に1989のダウ工業平均株価指数の上昇は27%で2007は6.4%だった。従って株価の成長率が低いので2007の資産保有が1989よりも劇的に多いという個人を除いて発生益の水準も低いことが予想される。

これは1979以降のダウ工業平均株価指数の実質増加を描いた図1に見られる実現益を用いた手法に固有の変動の大きさを部分的に反映している。だが系列の変動が大きく異なる年度で比較すれば結果が変化するかもしれないが上記の結果は1980年代、1990年代と比較して2000年代のキャピタル・ゲインの成長率が低いことの反映でもある。インフレ調整後のダウ工業平均株価指数は1980年代(1980-1989)が8.2%、1990年代(1990-2000)が11.2%、だが2000年代(2001-2007)は1.1%の上昇率でしかなかった。だから2001-2007のどの年度の発生益もその他の期間と比較して低いだろう。

債券も変動はより小さいが同様の傾向を見せる。債券の実質収益率は1989に4.2%だった。2007では1.8%だ。1980年代の平均収益率は5.4%で1990年代は3.9%、2001-2007では1.8%だった。よってその他の期間と比較して2000年代の投資の収益率は低い。

株式価格の上昇と債券がキャピタル・ゲインの主な源泉なのでキャピタル・ゲインが多く発生したのは2000年代ではなく1980年代や1990年代だと言うことが出来る。これを課税実現益の観点から見ると1980年代と19990年代の投資の上昇は後の日付になるまでは納税申告に表れないかもしれない。よって多くの課税実現益が現在申告されているからといってそれが必ずしもHaig-Simonsの意味での現在所得の反映を意味するとは限らない。そうではなく過去に発生したキャピタル・ゲインが今になって実現したことの影響を反映している可能性が高い。

表3の列5はHaig-Simonsの原則により近いものの多くのアメリカ人にとって主な資産構築の源泉である住宅価格の価値の増加を除いている。表3の列6に住宅の発生益を加える。

投資の発生益と同様に2007の住宅の実質の発生益(-4.7%)は1989の発生益(0.7%)より低い。よってこの所得を含めると表3の列5よりも住宅の所有者の所得は低くなる。だが住宅価格の下落は所得下位、所得上位の両方に影響を与える。

表5はそれが実際に起こっていたことを示す。高額所得者はより住宅を保有する傾向が高くまたより高価な住宅を保有する傾向がある。よって所得の減少額の絶対値は所得下位よりも所得上位で大きくなるはずだ。だが住宅の発生益を除いた所得上位の総所得に比較して住宅価値は相対的に小さくよってその影響も所得上位で小さくなる。

表3の列6にそれが実際に起こっていたことを示す。所得の成長率は表3の列5と比較してすべての所得階級で低下している。だが所得下位で-17.6%(32.2%から14.6%)と所得上位の-11.2%(12.8%から1.6%)を上回っている。

それにもかかわらずキャピタル・ゲインをすべて除いた表3の列3と同様に1989から2007の所得上位の成長率は最も低く所得下位の成長率は最も高い。さらに所得上位5%の所得は低下した一方その他の所得階級は所得が増加している。従ってキャピタル・ゲインの増加により所得格差が急激に拡大したと主張する根拠は雲散霧消するだけでなく所得格差はむしろ縮小したことになる。

Annual Top Income Shares

所得の成長率に加えて所得のシェアを考慮する。これは絶対的な厚生の変化ではなく相対的な厚生の変化を捉える。それを現物給付を含めるがキャピタル・ゲインを含めない、現物給付を含め課税実現益を含む、現物給付を含め住宅以外の発生益を含む、現物給付を含め投資と住宅の発生益を含む4つの定義に行う。第一のものはBurkhauser, Larrimore, and Simon (2012)とよく一致し第二のものはCongressional Budget Office (2012)とよく一致する。SCFのデータは3年に1度なので発生益に関しては3年に1度のデータしかない。図3は所得上位5%のシェアを示す。図4は所得上位のシェアを示す。キャピタル・ゲインを含まない場合にシェアが低いことは驚きではない。だが1989以降シェアがほとんど変化していないことは特筆に値する。1989以降所得上位5%のシェアは15.7%から16.5%だった。所得上位のシェアは40.4%から41.3%だった。従ってキャピタル・ゲインを除くがより定義の広い所得を考慮した場合に1989から2007に所得上位のシェアが拡大したとする証拠はない。



もちろんキャピタル・ゲインは重要な所得源だ。キャピタル・ゲインの課税実現益もしくは発生益を加えた場合に結果がどのように変化するか?課税実現益を加えた場合に所得上位のトレンドはCBO (2012)と整合的になる。

だがそれは発生益を用いた場合には成立しなくなる。課税実現益を含めた場合には所得上位のシェアはSCFのデータに制約があるとしても変動が大きくなる。だがこの変動の大きさを考慮してもトレンドを見出すことは可能だ。課税実現益を用いた場合に所得上位5%と所得上位のシェアは1990年代に発生益のものよりも低い。対照的に2000年代以降は課税実現益の所得上位のシェアの方が発生益のシェアよりも高い。これは課税実現益が部分的に過去の利益の残差で現在の所得の反映ではないという考えと整合的だ。

この点を認識し課税実現益を用いた場合にはトレンドが変化する。課税実現益を含めた場合には1989以降所得上位のシェアが上昇するのを上で見た。だが発生益を用いた場合には2000以降の所得上位5%と所得上位20%のシェアは1989のシェアよりも低い。だからHaig-Simonsの原則に則って発生益として加えた場合には所得上位のシェアは変動が大きいものの過去20年で上昇しているようには思われない。

IV. Conclusion

(省略)

対照的にキャピタル・ゲインを除くが広い定義の所得を用いる場合には1989以降すべての所得階級でほぼ同率で所得が上昇しているのを観察することが出来る。他にもHaig-Simonsの原則に則ってキャピタル・ゲインの発生益を含めた場合には変動が大きくなるもののキャピタル・ゲインを除いた場合と比較して成長率が低くなる。これは過去の景気循環期と比較して直近の景気循環期でキャピタル・ゲインの発生率が低いことを反映している。だがこれは所得格差が拡大していないことの反映でもある。1989から2007の所得上位の成長率は最も低く所得下位の成長率は最も高かったからだ。

変動の大きさと3年に1度のデータは毎年の所得と所得格差のトレンドに関心をもっている研究者には制約となることは理解している。加えてキャピタル・ゲインは不安定な所得源なのでこの変動の大きさを取り除くために幾人かの研究者はキャピタル・ゲインを(統計局が伝統的にそうしているように)そもそも含めないことを好むかもしれない。キャピタル・ゲインを含めたいと思う者は課税実現益を含めるのではなく発生益で含めたほうが適切だ。発生益は非課税口座のものも含んでいるしタイミングの問題も回避することが出来る。この方法によりキャピタル・ゲインの影響で所得格差が急激に拡大したという主張と矛盾する証拠を提示することが出来る。