2012年9月26日水曜日

北欧諸国はそもそも大きな政府じゃなかった?

財務省が国民負担率という指標を用いていることには批判が多かった。


批判が多かったためか、最近の財政関係資料には以下のグラフが記載されている。


こちらは国際的にも使われている標準的なものだ。上と比べて差がずいぶん小さくなったのが分かる。数%ポイント増えれば支出の順位は入れ替わるので支出がチェコやカナダより少ないというのはあまり意味がない。実際にはこのように刷り込まれてきたどこそこの国は大きな政府でどこそこの国は小さな政府だという概念は間違いだらけとまでは云わないものの大きな問題を抱えていると指摘されているということを紹介する。

Net Social Expenditure, 2005 Edition More comprehensive measures of social support

by Willem Adema and Maxime Ladaique

1. Introduction

社会支出/GDP比は国際比較によく使われる。しかし、2つの理由によりこれは全体像を捉えているとはいえない。第一に、グロスの支出は課税が社会支出に与える影響を考慮していない。第二に、民間の社会的支出を考慮に入れていない。これらの影響は国によって異なり、国際比較の結果を歪める。

税制が社会支出に影響する3つの経路がある。1.直接的な課税、2.給付に対する間接的な課税、3.優遇税制だ。ネットの社会支出はこれらの影響を考慮に入れ、全体像を明らかにする。

公的社会支出と民間社会支出のトレンドは大きく異なっている。公的社会支出は1960年から1980年まででほぼすべてのOECD諸国で2倍になった。しかしそこから公的社会支出のトレンドはビジネスサイクルに影響されるようになり、公的支出が社会支出の大きな部分を占めているので近年の総支出のトレンドにこの動きが反映されている。

3. The tax system and social benefits

課税は様々な支出をファイナンスするために用いられる。ここでは、税制がどの程度影響してグロスの社会支出が真の範囲を反映するのを妨げているのかに焦点をあてる。大まかにいって、税制が社会支出に影響を与えるのに3つのパターンがある。

1. 給付所得に対する直接課税

政府は受給者の現金給付に対して直接的に課税したり社会保障負担を課すことが出来る。

2. 受給者による消費に対する間接課税

給付所得は財やサービスの消費をファイナンスするために支給される。間接税はその消費量を減少させる。

3. 社会的目的のための税優遇措置

政府は特定の政策目標を達成するために税制を用いる。社会的目的のための課税の控除は直接、家計に恩恵を与える。雇用主への減税措置もまた最終的には家計に恩恵を与える。

3.1 Direct taxation of transfer payments

OECDのいくつかの国では給付は勤労所得と同様に課税される。その他の国では軽減税率で課税される。残りの国では課税されない。失業給付の扱いは国によって大きく異なる。例えば、オーストリアでは、2人の子供がいる夫婦世帯で以前は平均所得と同額の所得があった失業給付の受給者は2001年ではEUR 13 828を受け取る。この給付は課税されない。対照的に、スウェーデンでは、同様なケースだとEUR 22 005を受け取るがEUR 5 853を所得税と社会保障負担として支払い、ネットの給付所得はEUR 16 152となる。純所得はスウェーデンの方がオーストリアよりまだ多いが、その差はグロスでみるよりはるかに小さくなる。総計でみると、移転した所得のかなりの部分が財務省の金庫に返ってくることになる。スウェーデンにおける失業給付に対するネットの支出はグロスでみた場合の70%の水準になる。

3.1.2 The value of direct taxation of transfer income

受給者により支払われる直接的な税と社会保障負担の水準には国際間で大きな違いがある。デンマークとスウェーデンでは給付受給者により支払われた現金移転に対する直接的な課税と社会保障負担はグロスの公的支出の27%と25%に相当する。OECDの平均では公的移転のほぼ10%が税制を通して回収される。この平均を下回るのはドイツ、フランス、カナダ、アメリカ、アイスランドで、5%を下回るのはアイルランド、日本、オーストラリア、イギリス、韓国、チェコ、メキシコ、スロベキアだ。民間給付所得は一般的により高い税率が課される(平均で13%)。デンマーク、アイスランド、スウェーデンでは30%以上の税率が課される。

受給者により支払われた直接税はデンマーク、スウェーデンでGDPの4.5%に相当する。直接税を通じた公的移転所得の回収はGDPの4%近くになる。受給者により支払われた直接税はオーストリア、ベルギー、フィンランド、イタリア、ノルウェー、オランダで1.8-2.6%の範囲にある。ドイツ、フランス、ニュージーランド、スペインでは1.2-1.5%、オーストラリア、カナダ、アイスランド、アイルランド、日本、イギリス、アメリカでは0.6%以下だ。チェコ、韓国、メキシコ、スロバキアではほとんど無視できる。

3.2 Indirect taxation of consumption out of benefit income

社会的給付は家、食糧、衣服などの財やサービスの消費をファイナンスするために与えられる。政府は消費に対して課税をする。そしてこれらの財、サービスに掛かる税はかなりの額になる。例えば、フィンランドでは付加価値税による租税収入は2001年でEUR 11. billionに及ぶ。フランスでは電気、暖房に掛かる税金はEUR 1 billionに、水の消費に対してはEUR 1.5 billion掛かる。

いくつかの国では低所得世帯に対する間接税の影響が考慮されている。例えばオーストラリアでは2000年に10%で付加価値税に相当するものが導入された時には、社会保障給付受給者に対する補償が同時に導入されている。カナダも低所得世帯に対する払い戻しを行っている。

3.2.2 The value of indirect taxation of consumption out of benefit income

インプリシットな平均間接税率は一般消費税と物品税の和と全体の課税ベースの比として求められる。税率はUS (4.4%), Japan (6.5%) and Mexico (7.7%)で低く、Australia and Canadaで10-11%だ。大体のヨーロッパ諸国の税率は13-21%の範囲で、Norway (23%) and Denmark (26.5%)が高い。給付所得の消費に掛かる間接税はOECD平均でGDPの2%に及び、デンマークで3.5%に及ぶ。政府から家計へのネットの移転はヨーロッパ諸国においてグロスの支出が示すよりも少ないことを意味する。

3.3 Tax breaks for social purposes

税制を通じてなされる支出、または租税支出は様々な形をとる。租税支出の定義は国により異なる。特に基準となる税制に対して国際的な合意が存在しない。租税支出が定義されるベンチマークは大幅に異なるので国際間の比較は困難だ。だが、租税支出の部分(社会保障に関するような)に関する比較は可能だ。ここで採用したアプローチには参照となるベンチマークが必要ないからだ。

OECDの多くの国は税制を通じて社会的目的の達成を目指している。大まかにいってそのような手段は2種類存在する。第一は特定の所得源、または家計に対する減税措置だ。例えば現金給付の幾種類かの税率はゼロか軽減税率が課される。この措置は給付課税に対する直接課税の変動額に等しい。この点についてはすでに説明をした。よって給付の課税からの控除、または給付所得に対する軽減税率は直接課税の項ですでに計算に含まれているので、社会的目的のための税優遇措置(以下TBSP)としては記録しない。

3.3.2.2 TBSPs aimed at stimulating take-up of private social benefits:

政府は税制を民間の社会保険の先導をとるために利用する。これらの優遇措置は2種類のグループに分けられる。一番目のグループは現在の給付者に向けた優遇措置、例えば当年度内の民間社会給付(自発的な失業保険、医療保険等)の供給を刺激する種類のものがある。この種類の優遇措置はドイツで重要だ(人口の18%が民間医療保険でカバーされている)、さらにアメリカでは保険料と費用の雇用主負担の控除がUSD 82.8 billionに及ぶ(GDPの0.8%)。他には寄付に対する控除がUSD 32.4 billion(GDPの0.3%)に及ぶ(いずれも2001年のドル)。

二番目のグループは議論の余地なく最も重要だが、すでに述べたように、特に年金に関して比較可能なデータが存在しない。しかしながら2001年現在で利用可能な情報によると民間の年金給付に対する優遇措置はAustralia, Canada, Ireland, the UK and the USでGDPの1%を超えている。これらの推計は以下の章では全体の計算には含まれていないが、参考として記述してある。

4. Net social spending across countries

4.1 The framework: a concise overview

グロスの公的社会支出は平均で要素費用表示されたGDPの23.4%を占める。ネットの公的社会支出は平均で20.4%を占める。オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェーのネットの支出はグロスの支出を4%ポイント下回る。デンマーク、スウェーデンのネットの支出はグロスの支出を8.9、7.2%ポイント下回る。日本、韓国ではネットとグロスの支出はほぼ同水準で、メキシコ、アメリカではネットの支出がグロスの支出を1%ポイント以上上回る。

4.1.3 Social effort from the perspective of households

全体像を把握するために、ネットの公的支出とネットの民間支出が考慮されなければならない。そのためのデータの質は公表データと同程度の高さがないということを念頭に置いたとしても。すべての社会的給付と税制の違いを考慮に入れることにより、その国が国内生産のどの程度の割合を社会的目的に費やしているかを知ることができる。

5. Conclusions

省略


上記の内容を表にまとめたもの。


(クリックすると拡大する。グロスで見ると福祉国家だったはずのスウェーデンだったがネットで見るとGDP比34.2%でアメリカの31.1%とほとんど変わらない。OECDはこの調査を実は今でも継続していて、現在ではアメリカの方がスウェーデンよりも社会支出で上回っている)

右側の画像はネットの社会支出を降順に並べてある。社会支出≠政府支出だとしても(社会支出は政府支出の中に含まれる)ネットとグロスの差は北欧諸国で特に大きい。

2012年9月20日木曜日

スウェーデンで格差が急激に拡大している?

グラフはStephen Gordonから引用した。OECDのデータと違いがあるように見える。OECDはIncome Distribution Surveyから、Gordonは各国の統計局の数字を参照したようだ。国際比較は定義の違い等が影響するので、水準の比較には注意が必要だ(というわりには水準の比較ばかりだが)。




市場所得のジニ係数が90年以降急激に上昇している。

市場所得に遅れて、移転後のジニ係数も上昇している。
というわけで普段目にするOECDのデータと大きく食い違うことがわかった。
しかも水準だけでなくトレンドが一致していないように見える。
というわけでスウェーデンの統計局にあたってみた。



そっくりだ。上のグラフと少し違って見えるのは縮尺の違いと思われる(それと2010年度までと2005年度までの違い)。というわけで違いはキャピタルゲインを含むか含まないかということがわかった。

On the Role of Capital Gains in Swedish Income Inequality

by Jesper Roine and Daniel Waldenström

アブストラクト:キャピタルゲインの実現益(以下、単にキャピタルゲイン)は、普段は所得格差の研究においては対象から外されている。スウェーデンのケースでは、この扱いは実際の所得格差の拡大を大幅に過小評価することを示す。ミクロのパネルデータを用いて長期に渡って所得を平均し、さらにキャピタルゲインを除外した所得で個人を並べ直すことにより、上位1%の個人にとってキャピタルゲインが単なる一時的な所得ではなく更なる所得の増加となっていることを示す。同じことを低所得層に行っても結果に変化がなかった。さらにこの上昇の要因の元を調べてみた。その結果、1980以降の急激な株式市場の上昇が疑わしいと思われる。

1 Introduction

キャピタルゲインは、長期においては大抵の国で、上位1%の所得シェアに大した重要性を持たない。例えば、Saez and Veall (2003) and Veall (2010)は、カナダにおいてキャピタルゲインを含む系列と含まない系列は非常に似通っていてほとんど同じ特徴を持っていることを示した。Piketty and Saez (2003, p. 18)は同様の結論をアメリカのデータに対して示した。

だが、いくつかの国、特に近年になって、キャピタルゲインの重要性は増してきているように思われる。表1に上位1%の所得シェアで、キャピタルゲインを含むものと含まないものを示す。現在利用可能なデータがあるのは数カ国しかない。表にあるように、フィンランド、スペイン、スウェーデンでこの比率が上昇している。キャピタルゲインの重要性が増しているのは特にスウェーデンで顕著だ。1990年から2008年の間、上位1%の所得シェアは、含めた場合が含めない場合に比べて平均40%高い。これは、この期間のスウェーデンのキャピタルゲインを含めた場合と含めない場合の平均の乖離が、(1986年のアメリカの税制の変更を除いて)他国で最も乖離が大きかった年さえも上回っていることを示す。

キャピタルゲインをすでに所得分布の上位にいる個人が得ているならば、キャピタルゲインを所得格差の分析から除外することは実際の格差の上昇を過少評価してしまう。ここでの目的は、スウェーデンにおいて、80年代に始まった所得格差の上昇におけるキャピタルゲインの真の役割を知ることにある。

初めに、キャピタルゲインを含む上位1%の所得シェアを年毎に計算する。それからキャピタルゲインを含む場合、含まない場合の所得に従って、個人を配列する。これにより、どの程度キャピタルゲインがすでに上位1%にいる個人の所得に加わるのかに答えることができる。

次に、上位1%の所得シェアをキャピタルゲインを含めた場合と含めない場合で再計算する。今度は、個人を数年間の長期平均所得に従って配列する。これにより、階層間の移動を一定にしたままで、キャピタルゲインの影響を知ることができる。

高い所得が一時的なものならば、長期平均を取ることにより上昇していたシェアは下落する。これが特にキャピタルゲインにあてはまるならば、これを含めた時に差は大きくならなければならない(*年収500万の人がある年に株を売って5000万のキャピタルゲインを得たとする。翌年以降の年収は500万なので長期平均を取るとこの値に近づく)。

注9 ここでは3年と5年しか掲載していないが、期間を5年以上に延長しても結果は変わらなかった。

我々の主要な貢献は以下にある。スウェーデンでのキャピタルゲインによる所得格差拡大効果は実際の現象で、以前に使用されていたデータにあった問題によるものではない。そして、これはスウェーデンの所得格差の全体像を大きく塗り替える。キャピタルゲインを含む場合、含まない場合の所得に従って個人を並べ替えても、上位1%の所得シェアを長い期間に渡って計算しても、キャピタルゲインの影響が残る。さらに量的違いが重要だ。上位1%の所得シェアに、キャピタルゲインが与える影響は拡大している。1980の50%(4.3%から6.5%)から今日の70%(4.3%から7.4%)へとだ。キャピタルゲインの影響は上位1%にほぼ限定されていて、その他の階層にはほとんど影響を与えていなかった。

この変化の要因を特定することは出来なかったが、株式市場の上昇が主な要因と思われる。

2 Data and method

納税データの使用は優れた面も持つ一方、問題点を持つ。

グループ化されたデータを用いて、キャピタルゲインの分析を行うにあたっての主な問題点は、実際の個人にそれを割り当てられないことにある。おそらくより重要なのは、多くのキャピタルゲインを得た上位集団が次年度も同一人物で構成されているのか分からないことだ。

キャピタルゲインを適切な個人に割り当てるためには、さらに、上位1%の入れ替わりの問題に対処するためには、水平的なデータを必要とする。我々はスウェーデンのパネルデータであるLINDAを用いる。

分析の整合性はキャピタルゲインの適切な取り扱いにかかっている。データは納税申告にもとづいているので税制に影響を強く受ける。例えば、税率の変更や損失の控除の可能性は実現のタイミングと同様に課税対象となるキャピタルゲインの割合に影響を与える。

初めに、20歳以上の個人すべてをキャピタルゲインを除いた時の総所得に従って配列する。この順序を保ちながら、各個人の総所得にキャピタルゲインを加える。これにより、すでに上位にいる個人に対してキャピタルゲインの付加がどの程度の影響を持つのかの示唆を得る。

注18 これは、Piketty and Saez (2003)がアメリカにおいてキャピタルゲインの影響を調べた時に用いた方法と同一のものだ。

次にキャピタルゲインを含めた場合、含めない場合の総所得の3年、5年平均を計算する。それから対応する期間の総所得に従って個人を配列する。そして上位1%の所得シェアを計算する。

3 Main Results

3.1 The role of capital gains across the distribution of market incomes

3.2 Are capital gains mainly transitory and unrelated to other incomes?

表3に、上位1%の所得シェアを3つの異なる方法で表示してある。1番目はキャピタルゲインを含み課税単位が含めた場合に従って配列されている。2番目はキャピタルゲインを含むが課税単位が含めない場合に従って配列されている。3番目は最初からキャピタルゲインが含まれていない。表から分かるように、キャピタルゲインがなくてもすでに上位1%にいる個人に対して、キャピタルゲインは更なる所得を追加している。すなわちキャピタルゲインの大部分はすでに上位1%にいる個人に向かっている。さらにこの効果は近年になるほど増してきている。





3.3 Are large capital gains a top phenomenon only?

3.4 Are the capital gains associated with labor earnings or wealth returns?

上位1%が獲得した全体のキャピタルゲインに対する割合を調べることにより、2つのことがわかった。第一にそれは極めて高い。キャピタルゲインを含めないで個人を配列した場合でさえ全体の20-25%は上位1%が獲得している。第二に1980以降明確なトレンドは存在しない。

3.5 Have capital gains become a more important source of income in the economy?

1980年代の初期以来、利子所得と配当所得は総所得に占める割合が4%から2%に下落してきた。2004からはまた上昇してきたが。キャピタルゲインは1980の1%以下から近年の平均でみると4%以上に上昇してきた。現在では8%だ。


4 The Swedish Transition – a possible explanation?

スウェーデンの株式市場は大幅な変化を経験してきた。1960から1979の20年間、スウェーデンの経済は年率3.4%の成長率で成長してきた。しかし同時期の株式価格は平均2.6%下落していた。新株発行に対する制限がこの要因の一つと思われる。1980頃からスウェーデンの株式市場はブームを迎え、80年代の平均上昇率は13%、90年代の上昇率は16%を超えるようになった。参考として、ニューヨーク株式市場は80年代に3%、90年代に6%の上昇率だった。スウェーデンとアメリカの実質株式価格とスウェーデンの実質GDPを示した表7にこれらがはっきりと示されている。



2012年9月16日日曜日

アメリカの製造業が衰退は間違い?

アメリカの製造業は衰退したと根拠もなく語っている人たちをよく見掛けるが…

これだけ見ると確かに衰退しているように見えるが


点線を見ると非常に安定している。実線はインフレ調整していない生の数字だ。つまり製造業の製品の価格が他より大きく下がったため名目で見た製造業のシェアが低下した。欧米のメディアが騒ぐのは名目の数字だけを見ているからと思われる。


価格が(相対的に)低下しているのは他より生産性が高いから。

参考
・米国製造企業の経営革新と産業構造の変化
http://www.mof.go.jp/international_policy/research/fy2005tyousa/1803us_current_account_7.pdf

2012年9月13日木曜日

欧州の貧困率は実はアメリカの数倍?補足

以前の続き。リンクはこちら


まず、相対的貧困率について、その特徴

・所得中央値以上の所得の分布がどうであろうと相対的貧困率には影響はない
・グラフは所得中央値を100%としたもの
・黒い太線は中央値以下を全体とした場合の、25%~75%(ボリュームゾーン)の範囲を示す
・この範囲に人数が集中している
・よって、この部分と貧困線との関係で相対的貧困率が決まる
・貧困線が所得中央値の40%だったら、おそらく貧困率に差はほとんどなくなる
・貧困線が所得中央値の90%でも同様
・所得中央値の40%と50%の間、45%でも差は小さくなる
・50%に根拠があるわけでもない(45%にもないが)


絶対的貧困率について、その特徴

・絶対的貧困率に大きく影響するのは所得中央値
・アメリカとルクセンブルグが圧倒的に高い(あのルクセンブルグより高い)
・一人あたりGDPと所得中央値は意外に一致しない
・絶対的貧困線は1965年のアメリカの低所得世帯を基準にしている
・この線を下回ることは1965年のアメリカの低所得層の生活水準と同じか下回ることを意味する
・Za/Y(m)は所得中央値と貧困線の割合を示す
・ポルトガル、ギリシャ、スペイン、イタリアはこの値が高い
・よって、絶対的貧困率が高くなる


GICについて、その特徴

・赤丸は低所得世帯の所得成長率が中央世帯の所得成長率を下回った国
・黒丸はその逆だけど、すべて塗るのは意味がないので特定の国を選んだ
・パネルデータを用いているので見かけの上昇ということはないと思われる
・この点に関して詳しい説明はなかった
・赤丸の国の相対的貧困率は上昇していることが予想できる
・黒丸の国の相対的貧困率は下落していることが予想できる
・そして、その結果は…


・赤丸の国は例外なく相対的貧困率が上昇している
・赤丸以外の国はすべて低所得世帯の所得成長率が中央世帯を上回った国(すなわち黒丸)
・黒丸の国の相対的貧困率はほとんどが下落している
・なぜかアメリカだけは上昇している(フランスもわずかだが上昇)
・絶対的貧困率もなぜかアメリカは上昇している
・筆者はGICは相対的貧困率の動きをよく説明すると言っていたが…
・アメリカに関しては当てはまっていないようだ
・この点に関して説明が欲しかった

ついでに、絶対的貧困率と相対的貧困率は相互変換が可能。
特定年に相対的貧困線を定め、インフレ率で更新していけば絶対的貧困率に
特定年に絶対的貧困線を定め、所得中央値の伸び率で更新していけば相対的貧困線になる

2012年9月8日土曜日

そうだ、拡大していないのだ?短縮版

要約と補足(長文版はこちら)

・ウォールストリート占拠運動でスローガンになった所得上位1%の云々は元々Thomas Piketty and Emmanuel Saezの2001年の研究が基になっている(という事は知られていない)
・今までの所得格差の研究と違い、彼らは内国歳入庁の納税申告のデータを用いて所得上位1%の納税者の所得が全体の所得に占める割合が上昇していることを示した
・今までの研究には、聞き取り調査であるためあまり正確でない、高額所得は上限値が定められ一定の上限値にまとめられる(トップコーディング)という問題点が指摘されていた
・納税申告のデータを用いることにより彼らはこれらの問題点を克服しようと試みた
・彼らは所得上位1%の所得シェアが70年代の8%から15%まで上昇していることを示して、メディアの注目を集めた
・だが、この方法には税制の変更に極めて弱いという問題点が以前から知られていた
・1980年代以降、アメリカで様々な税制の変更が行われてきた
・1986年のTax Reform Act(以下TRA1986)が代表的なものだ
・個人最高税率が50%から28%に引き下げられた
・1985、1986年には所得上位1%の所得シェアは9.1%だったが、税率引き下げ後の1988年には13.2%に上昇した
・この間にC-corporationsからS-corporationsへの大幅な申告の切り替えがあった
・C-corporationsでは法人所得として、S-corporationsでは個人所得として申告される
・所得上位1%の納税に占める事業所得の割合は1981年の7.8%から2002年の27%にまで上昇した
・この申告シフトだけで所得上位1%の所得シェア拡大に4%ポイント寄与している
・さらに近年では一般層に優遇措置のある貯蓄口座が急速に普及している(401(k)sなど)
・この口座内の資金は引き落とし時まで課税されない
・課税されないということは当然納税申告のデータにも表われない
・所得上位1%の所得シェア=所得上位1%の所得/全体の所得なので、分母が過小評価される
・2002年ではこれらの口座残高は1010兆円に上っている
・これが通常のリターンを稼ぐとすると利子だけで70兆7000億円になるだろうと試算されている
・これは所得上位1%の所得88兆6500億円に匹敵する

・納税申告における所得の計算方法であるadjusted gross incomeは所得と見做して妥当と思われるものを所得のうちに認めていない
・さらに納税申告はadjusted gross incomeのすべてを捕捉しているわけではない
・BEAはadjusted gross incomeに基づく個人所得の推計と納税申告された個人所得の差が1988年の9.7%から1994年の12.7%へ、さらに2003年の14.4%へ拡大していると推計している
・所得上位1%がこの差の5%を占めたと仮定すると、所得シェアの1%ポイントの上昇の理由になる

・彼らの推計の中には政府のプログラムが含まれていない
・1970年には賃金と給与は所得の65.8%を占めていた
・移転支出は8.5%だった
・2005年では賃金と給与が占める割合は55.3%まで低下し、代わりに移転支出が14.5%を占めるようになっている

・CEOの給与の上昇をPiketty and Saezは所得シェア上昇の理由として挙げたがそれは違う
・2003年の所得上位100人のCEOの給与の合計は1850億円で、所得上位1%の所得の合計である88兆6500億円のわずか500分の1でしかない

・高額納税者に申告シフトが顕著なのはこの層の課税所得弾力性が高いからだ
・多くの研究が、最高限界税率に直面する所得が税率の変化に敏感であることを示している

・所得上位1%により支払われた実効個人所得税率をCBOが試算している
・1979年の実効税率は21.8%(最高税率は70%)で、1988年の実効税率は20.7%(最高税率は28%)、2003年の実効税率は20.8%(最高税率は35%)だった

・課税所得弾力性の研究が示したのは、最高税率の引き下げは申告所得の大幅な上昇を伴うということだ
・Emmanuel Saezによると、「1980年代の減税は所得上位1%の所得シェアの変動は減税に対して大幅に、即時に反応を示すことの著しい証拠になった、そしてその規模は高額所得者で最大になる」と以前には語っていた

・最高税率を半分に引き下げた国(アメリカ、イギリス、インド、ニュージーランド)では所得シェアが上昇している
・半分ほどではないにしても引き下げた国(カナダ、オーストラリア、)では上昇幅は相対的に小さい
・ほとんど変化のない国(フランス)では変化は小さい

・これらの国際比較はアメリカでの課税所得弾力性の推計と整合的だ
・これは所得上位1%が実際に持っている所得や財産がどれぐらいあるかを示すというより、彼等がどう税率に反応するかを示しただけだ

・2004年のコラムでクルーグマンは、「Thomas Piketty and Emmanuel SaezはCBOのデータから1973年から2000年の期間に、所得低位90%の納税者の実質所得が7%下落していることを説得的に示した」と述べた
・ところが(私たちからの批判を受けた)Piketty and Saezは、「我々の推計は所得上位層の所得と財産のシェアしか対象にしておらず、その他の層の所得分布がどのようになっているのかは我々のデータからは分からない」と最近になってようやく彼の主張を渋々と否定するようになった

・そのグラフの脚注で彼らは、「1973年から2000年の間、仮にすべての移転所得が含まれたら(+7%)、CPI-U-RSが使われたら(+13%)、所得が一人あたりで定義されていたら(+20%)、所得低位99%の納税者の平均所得は実質で40%上昇していただろう」と小さく説明している(メディアの前ではそのことに言及することは一切ない)
・所得低位99%の一人あたり実質所得の40%の上昇は、所得低位90%の納税者の所得が7%下落したという主張をほとんど不可能にする

・センサスの推計は所得低位80%の所得上昇率が加速していることを示している
・1970年から1980年では、上昇率が7.6%だったのが、1980年から1990年では9.6%へ、1990年から2000年では12.4%へ加速している

・Piketty-Saezの推計を除くと、1980年代後半からは、所得、財産、賃金、消費に関して格差の拡大を示すデータはわずかしか存在しない
・図5に所得上位5%の世帯所得シェアを示してある
・1993年から2004年まで20%から21%の間を往復しているだけだ
・センサスの所得上位5%の所得シェアの推計は、ここで説明した理由により、Piketty-Saezの推計に対して疑問を投げかける

・センサスはジニ指数も調べている
・課税後移転後世帯所得のジニ指数は上昇していない
・1986年0.409、1993年0.398、2002-2003年0.394だ
・課税後移転後ジニ指数は分位数の平均所得に基づいている事に注意が必要だ
・例えば所得上位5-20%の平均所得は中央所得よりもずっと大きい
・他のグループと違って、極端な外れ値を除く天井がない
・だから所得最上位グループとその他のグループの平均所得を比較することは誤解につながる
・表4に所得グループ毎の実質所得中央値を示す

・1989年から2004年まで、第九、第十十分位の実質所得中央値は20%上昇した
・第一、第二四分位(ようするに低所得層)も20%とほぼ同じだ
・20年間格差が拡大し続けたという印象は、消費や賃金のデータとも一致しない
・2005年に発表された労働局の研究によると、消費格差を示すジニ指数は、1986年0.283、1990年0.293、1994年0.294、1999年0.281、2001年0.280でほとんど変化していない
・1986年に比べて最近の数値は生活水準(消費)で見て指数が下落している
・Wojciech Kopczuk and Emmanuel Saezは資産格差を調査している
・彼等は1980年代に所得上位1%の資産シェアは1970年代のリセッション前の水準に戻っただけで、1990年代はそのシェアは安定していると結論している
・David Card and John DiNardoは1980年以前には賃金格差は上昇していない事、80年代の上昇の85%は1985年以前に起こったことを示した
・1988年から2000年の間、賃金格差に目立った変化がないと結論づけた
・多くの研究は、所得、賃金、資産、消費の格差が1981年から1986年の間にいくらか上昇したことを示した
・だが1981年は急激なスタグフレーションや株式や債権価格の下落などを経験した非定型な基準年だった


所得上位1%の所得に占める事業所得の割合


 事業所得を除いた推計


CBOの推計と、右端が事業所得を除き、移転所得を加えた推計


その時系列変化


所得上位1%ではなく所得上位5%の所得シェアの推移


各所得階層ごとの所得の中央値の1989年から2004年までの変化率

そうだ、拡大していないのだ?

Has U.S. Income Inequality Really Increased?

by Alan Reynolds

Introduction

・2006の二月にエコノミスト誌は、Thomas Piketty and Emmanuel Saezを引用して、上位1%の所得シェアが60年代や70年代の8%から15%に上昇したと述べた
・六月には、25年間に渡る所得集中のトレンドがあると述べた
・その他のエコノミスト(CBOを含む)も納税データに基づいて推計を試みた
・その推計結果には大きな違いがあった
・上位1%の所得を何と見做すか(分子)、全体の所得を何と見做すか(分母)で違いがあったからだ
・考えられる最も広範な所得の定義を上位1%に用い、最も狭い所得の定義を全体の所得に用いれば、上位1%の所得シェアは大きくなるし、上昇することになるからだ
・Piketty-Saezの2001の研究はメディアで最もよく引用されていた

Tax Rate Cuts and the Conversion of Corporate to Individual Income

・エコノミスト誌は上位1%の所得シェアの上昇を連続したトレンドだと述べたが、それは事実ではない
・上位1%の所得は、税制が変更された時に大きく変化している
・Piketty and Saezは、はっきりと述べている
・所得シェアの上昇の大部分は、1986のTax Reform Actの後の1987、1988の二年間に集中して起こっていると
・最高税率が50%だった1985、1986年には9.1%だった上位1%の所得が、1988年に13.2%に上昇している
・それはこの二年の間に突然格差が拡大したのではない
・それまでは法人所得として申告されていた所得が個人所得として申告されるようになった
・多くの研究が示すように最高税率が引き下げられる時、納税申告される所得も増加する
・この急激な増加の理由は、Saez自身も含めて、エコノミストにはよく知られている(Piketty-Saezの推計を引用するジャーナリストの口からは決して語られることはないが)
・「理由ははっきりしているように思われる」とSaezは2004年に書いている
・1986から1988にかけての急激で前例のない所得の上昇はちょうどその間に起こった最高税率の下落に関連していると
・続けて、彼の説明によると、「法人納税申告(businesses reporting as C-corporations)から個人納税申告(businesses reporting as S-corporations and other business structures)への申告の切り替え」であると

・以下引用
・1980年代以前にはS-corporation incomeは極めて小さかった
・標準的なC-corporation formが高額所得の個人事業主にはより魅力的だった
・個人最高税率は法人税率よりずっと高く、キャピタルゲインへの税率は相対的に低かったから
・S-corporation incomeは1986から1988に急激に上昇し、その後ゆっくりと上昇した
・TRA1986の直後のS-corporation incomeの急激な上昇の大部分は確実に、低い個人税率の恩恵を受けるためのCからSへの形態の変更の反映だ
・引用終わり

・1986の前の1981のEconomic Recovery Tax Actの時にもS-corporation incomeの上昇が起こっている
・1981から1984の間の高所得層の所得シェアの上昇はS-corporation incomeの上昇が原因であるとSaezは述べる
・1970年代の後半には、最高税率は70%だった
・法人税率は46%だった
・1981と1986に個人税率が下げられた時、法人申告されていた事業所得をS-corporations,limited liability companies(LLCs),partnerships, or proprietorshipsとして分類することにより個人所得税として申告する強い動機が生まれた
・法人申告から個人申告への切り替えは富裕層をより富裕にしない
・単に個人所得として表れるだけだ
・2002からの上位1%の個人納税申告に占める事業所得の割合は27%だ
・1981には7.8%だった
・これらを図1に示す


・広く報道された上位1%の所得シェアの上昇の大部分は、この所得申告シフトによる
・内国歳入庁のエコノミストKelly Luttrelは述べている
・S-corporationの長期の上昇は四つの法律の変更から来ている
・Tax Reform Act of 1986,Revenue Reconciliation Act of 1990,Revenue Reconciliation Act of 1993,Small Business Protection Act of 1996(銀行にSubchapter S corporationsとして登録することを認めた)
・1986からS-corporationとしての申告は年率9%のペースで伸びている
・同期間に、Subchapter-Cとして課税可能な法人は1.3%のペースで減少している
・所得申告のシフトには三つのタイプがある
・(1)法人と個人の間の納税申告のシフト
・(2)インセンティブ・ストックオプションとキャピタルゲインとして課税される制限株、給与所得として課税される非適格ストックオプションの間のシフト
・(3)納税申告される投資所得と繰り延べされる貯蓄勘定の間のシフト
・ここでは(1)しか調整しないが、この調整後には1988から2003の上位1%の所得シェアの上昇が大部分消えることを表2に示す


・表2の第一列はPiketty-Saezの推計だ
・表2の第二列はPiketty-Saezの推計からS-corporations, LLCs, and other businessesから来る個人申告を除いてある
・1987まで両者の差はわずかだった
・だが、2004には両者に4%ポイントの差ができた
・ここでの調整は多くの要素の一つに過ぎない
・だが、この要因だけでも、納税申告データを所得シェアの比較に用いるのには問題があることが浮き彫りになる

Increasingly Invisible Investment Income

・もし、低所得層または中間所得層の所得の多くの部分が納税申告されていなかったら、上位1%の所得シェアは過大評価されることになる
・1980年代以前にはほぼすべての投資所得(配当、利子、キャピタルゲイン)は個人税として申告されていた
・近年では、優遇措置のある401(k)s, Individual Retirement Arrangements(IRAs), and 529 college savings plansなどの口座が急増している
・これらは納税申告されていない
・税優遇口座に蓄えられた利益は、キャピタルゲイン、配当、利子が所得であるのと同じ意味で所得だ
・この要因は分母を減少させることにより上位1%の所得シェアを上昇させる
・対照的に、上位1%の投資所得はいまだ申告されたままだ
・様々な優遇口座が作られ拡大していった時、課税可能な口座から繰り延べまたは控除される口座へとどのぐらいシフトが起こるか活発な議論があった
・この大規模なシフトにも関わらず、所得分布の変化を調べるのに納税申告データを用いることの妥当性に関する議論はほとんど行われなかった
・MITのJames Poterbaは1998には中間所得層の資産の32.1%は繰り延べ口座であると推計した
・2002の終わりには1010兆円が税繰り延べプランで、そのうち900兆円が引き落とし時に課税可能であるとCBOは述べる
・その1010兆円が7%のリターンを稼ぐなら、初年度に投資所得だけで70兆7000億円になるだろう
・これらは納税申告のデータには表れない
・その大部分は引き出し時に通常所得として表れる
・しかしそれには多くの時間がかかる(または世代)

・これらの貯蓄口座が普及する前は、投資所得のほとんどは課税所得として申告されていた
・今日では、中間所得層の投資所得のほとんどは課税されることはない
・納税データの使用は、90年代と比べて70年代に中間所得層が多額のキャピタルゲイン、配当、利子所得を得ていたかのように見せてしまう
・その結果、上位1%の所得/全体の所得の比率は分母が縮小することにより上昇してしまう

・納税データから消えたその他の種類の所得がある
・納税申告における基本的な所得の定義であるadjusted gross incomeは所得のすべてを把握しているわけではない
・さらにadjusted gross incomeベースの個人所得の推計は納税申告されたadjusted gross incomeよりも大きい
・The Bureau of Economic Analysisはこのadjusted gross income gapが1988の9.7%から1994の12.7%へ、さらに2003の14.4%へ拡大していると推計している
・上位1%がこのギャップの5%を占めると仮定して、2003にはこれにより1%ポイントの所得シェアの上昇の理由になる

Top 1 Percent of What?

・メディアはこの最も基本的な質問に答えることがない
・「何の」上位1%なのか?
・ほとんどの人は上位1%とその他の所得シェアが、1パーセンタイルの「世帯、または家族」の所得と想定している
・実際は世帯や家族(はるかに少ない)ではなく、課税単位を意味している
・Piketty and Saezは平均的世帯所得は平均的課税単位所得よりも28%高いと述べる
・あるケースではその差はもっと大きい
・二人の未婚者が一緒に住んでいて一つの世帯を形成するが課税単位は二つであったとする
・彼等の世帯所得は1課税単位あたりの所得の二倍大きい
・または投資所得が7万5000円(申告義務がある)を超える未成人のいる世帯を想定する
・実際には裕福な世帯なのに、Piketty-Saezの推計では極端に貧しい課税単位として表れる

・さらに、彼等はすべての所得を計測していない
・彼等はSocial Security, Temporary Assistance for Needy Families, the Earned Income Tax Credit, Supplemental Security Income, or other government programs等を所得に含めていない
・すべての所得が含まれていないので上位1%の所得のシェアについて示すことはできない
・1970には賃金と給与は個人の所得の65.8%を占めていた
・移転支出は8.5%だった
・2005には賃金と給与は55.3%を占め、移転支出は14.5%を占めるようになった
・これらを無視することは上位1%の所得シェアが上昇したように見える(その他の所得が除かれているので)
・上位1%の所得シェアは上位1%の所得を分子、全体の所得を分母に取った比率だ
・分母から移転支出を除くことは、この比率を実際よりも大きくさせる
・さらに、移転支出が全体の所得に占める割合が上昇しているのでこの比率を上昇させ続ける要因になる

Income Share Trends Since the 1980s

・表3に上位1%の所得シェアに対するキャピタルゲインと移転支出の効果を示す


・第一列はキャピタルゲインを含めた上位1%の所得シェアのCBOの推計を示した
・CBOの推計とPiketty and Saezの推計をより比較できるように、第二列はキャピタルゲインを調整した
・実現したキャピタルゲインを含めると推計が大幅に変動する
・1986の上位1%の所得シェアに4.3%ポイント追加され、同様に2000には2.6%ポイント追加される
・CBOの推計は移転支出を含んでいる
・第二列の調整されたCBOの推計は第四列の調整したPiketty-Saezの推計(キャピタルゲインを除き、移転支払を含めてある)と比較可能だ
・二つのCBOの系列のどちらも1980年代から現在まで、上位1%の所得シェアの上昇を示していない

・上昇傾向を発見したというものは大抵所得シェアの数字が相対的に低い年から始めて、例年以上に高い年で終了している
・そしてその間の変化を示して上昇傾向があると主張している
・キャピタルゲインを含むCBO系列は1990年代の株式市場の上昇期を含む
・だがキャピタルゲインを除いてもこの系列は上昇している
・1986以降に与えられた非適格ストックオプションが1991のリセッション以降からの株式市場の回復により実行されたためと思われる
・1993の税法の改正がこれに貢献した
・表3の最後の二列は最も重要だ(図2にも示してある)。


・これらは単に移転支出(BEAの個人所得データから)をPiketty-Saezの計測した総所得に付け加えただけだ
・この推計の中では全体の所得がより速く成長しているので、上位1%の所得シェアの上昇トレンドは消失する
・1988から2003にかけて、移転支出が分母に含められた時には0.8%、含められなかった時には1.7%の上昇になる
・表3の第五列(図2の最下線)は、移転支出を分母に含め事業所得を分子から取り除いてある
・これは上位1%の非事業所得を表す(大部分が給与、行使されたストックオプション、配当)
・Piketty-Saezの結果は二つの要因に依存している
・(1)全体の所得から移転支出を取り除くこと
・(2)法人税から個人税への申告シフトを実際の所得の増加のように取り扱うこと
・ここまでの結果をまとめると、2003までは(1)と(2)の要因で大部分説明ができる
・上位1%の所得シェアの上昇は1986から1988のうちに起こった
・1997にキャピタルゲイン税率が下げられてからも四年間上昇が続いた
・この点は以下で説明する

Before-Tax and After-Tax Income

・CBOの納税申告に基づく推計も同様の欠点を抱えている
・だがCBOは独自に税引き後の推計も行っている
・CBOの税引き後の推計は1984の9.9%から1986に13.2%に上昇した後、1988に12%になっている
・株式市場が好調だった1997から2000に掛けて上昇した後、2001から2003までには1988の水準まで下落した
・2001に12.6%、2002に11.5%、2003に12.2%だ
・エコノミスト誌が起こったとほのめかしたような連続した上昇トレンドを見出すことは困難だ

・CBOは、対照的に、可処分所得の分布を調査している(高所得者からの税を除いて、低所得者に移転支出を加える)
・CBOの所得の範囲にも、非課税の地方債の利子所得を含むという問題がある
・このせいで1986の前後でデータを比較するのが難しくなる
・1987以前にはこの利子所得は納税申告されていなかった
・1970年代(投資への税率が70%を超えていた)に高額納税者に大人気だったこの所得を納税申告のデータでは示すことができない
・これが納税申告のデータが過去との比較に適さないもう一つの理由だ
・上位1%により支払われた実効個人所得税率のCBOによる推計も目を引く
・1979の実効税率は21.8%(最高税率は70%)で、1988の実効税率は20.7%(最高税率は28%)、2003の実効税率は20.8%(最高税率は35%)だった
・最高税率が低下したのに納税額にほとんど影響がなかったのが信じられないというのであればこの点は課税所得弾力性の章で説明する

Capital Gains and Stock Options

・所得シェアの研究においてキャピタルゲインの取り扱いは様々な問題をはらむ
・CBOの推計は納税申告された、キャピタルゲインの全体のうちのわずかな部分しか含んでいない
・税繰り延べ貯蓄口座や、1997以降の持ち家の売却、未実現のキャピタルゲインを含んでいない
・各年に実現したキャピタルゲイン額は税率に大きく影響を受けることが知られている
・1986の大幅な上昇は1987の増税を避けたためであるとCBOは推計している
・また1997-2000に税率が28%から20%に下げられた時にも大幅に上昇した
・Piketty and Saezはキャピタルゲインを基本とする系列から除いている
・だが他の系列では含めている
・この違いを調べることによりキャピタルゲインの重要性が見えてくる
・図3は所得全体に占めるキャピタルゲインの割合を示している


・(1)インセンティブ・ストックオプション(キャピタルゲイン税率が適用される)または制限株(同様)から(2)非適格ストックオプション(所得税率が適用される)へと大幅な切り替えがあった(最高税率とキャピタルゲイン税率が並んだため)
・1987の後の10年間のキャピタルゲインのシェアの平均は7.3%に下がった
・経営幹部にとって、キャピタルゲインのシェアの低下は、給与、ボーナス、非適格ストックオプションからの受取の増加を反映しているにすぎない
・受取形態の変化は彼等の所得に影響を与えないが、Piketty-Saezの推計はキャピタルゲインが除かれているため影響を受ける
・このため、彼等の推計は1979から1986にかけて1987から1995に対して相対的に低められている(キャピタルゲインのシェアが大きかったのに、それが取り除かれているから)
・そしてこの両期間にかけて見掛けの上昇を作り上げた
・この形態の申告シフトが、上位1%の所得シェアを1986の前と後で正しく比較できない別の理由だ
・キャピタルゲインの実現は所得の概念として意味のあるものではないし、未実現のキャピタルゲインの代理指標ともならない
・株を売ることは(資産としての)家を売ることや車を売ることと変わらない
・それは富を増加させないし、所得でもない

・税率の変化に対する投資家の反応がキャピタルゲインが含まれるか含まれないかに関わらず推計にさらなる問題を引き起こす
・CBOの推計(含む)は明らかに、税率の変化に反応した資産売却の時期や頻度によって歪められている
・Piketty-Saezの推計(含まない)は、別の形態の申告シフトによって歪められている
・キャピタルゲインとしてSchedule Dに申告される報酬と、行使時に給与としてW-2に申告される報酬の間の代替によって
・重要な例外は役員に与えられるストックオプションとその他の従業員に与えられるストックオプションだ
・ストックオプションの一定割合は非適格で、行使された時にW-2に給与として申告される
・インセンティブストックオプションは行使されてからもしばらく保持されなければならない
・それゆえ長期キャピタルゲインとして課税される
・制限株も長期間保持され、うまくいけばキャピタルゲイン課税として売却できる

・John Karl Scholzは述べる
・近年、報酬体系に重要な変化があった
・特に非適格ストックオプションの使用の急激な拡大があった
・外部からは上位1%の所得のかなりの割合を占めるように見えただろうと

・1970年代以前にはストックオプションからの利益は個人税として課税されていない
・それゆえ個人納税申告には記載されておらず、納税申告データは偏った推計を与える
・1972以前には、通常所得に対する最高税率は70%で、税率に敏感な役員はインセンティブストックオプションの形で受け取る交渉をすることに神経を尖らせていた
・はるかに低い25-34%のキャピタルゲイン税率で課税されるからだ
・1972以降に与えられた非適格ストックオプションから得られる利益はすべて勤労所得として50%低い税率が適用される
・ただし、行使権を得て、かつ行使したときからさらに3-10年後にではあるが
・1980以前のストックオプションの行使から得られる利益はキャピタルゲインとして表れる
・それゆえ1970年代の給与データからは不可視になっている
・これも1970年代のデータと比較が出来ない理由だ
・給与に対する最高税率が50%から28%に下げられた時、1988まで非適格ストックオプションを現金化するのを遅らせる巨大な動機を与えた
・これが給与所得が1988に急激に上昇した理由の一つだ
・そして1987にキャピタルゲイン税率が20%から28%に引き上げられたので、過去のインセンティブストックオプションを1986に現金化する動機を与えた
・それがキャピタルゲインを含むCBOの推計が、1988よりむしろ1986に最も上昇した理由だ
・両年の年間所得の急激な上昇は、単にいつ所得が実現したであろうかの時期の問題だ
・1986には給与税が下げられ、キャピタルゲイン税が引き上げられたので、非適格ストックオプション(給与として課税)の使用を促し、インセンティブストックオプション(キャピタルゲインとして課税)の使用は強く制限されるようになった
・その効果は1986から1988への巨額な申告シフトとして表われる
・1988から1992の間に与えられた非適格ストックオプションは1991から1995までは行使権がない
・1991のリセッション時にそのようなオプションを行使しようとする人は少ない
・そのオプションの大部分が行使されるだろうとしたら時期は1993だ
・その年に税率が引き上げられた
・これは税率に反応していないことを意味しない
・非適格ストックオプションは与えられてから行使されるまで3-10年を要し、その間に単にルールが変わっただけだ
・株式ブーム時に現金化されたストックオプションの大部分は給与とされたのに対し、1970年代の類似のストックオプションは給与データの中に表われなかった
・ストックオプションの行使時期とキャピタルゲインの実現時期を選べるので、好況期に大部分を申告し、不況期にほとんど申告をしない
・結果として、格差を計測するのには逆説的な状況を生み出している
・不況は失業率と貧困率を上昇させる傾向があるはずだが、この基準によると格差は減少することになる
・キャピタルゲインが発生しないし、ストックオプションが行使されないからだ
・Piketty-Saezのようなキャピタルゲインを含まない推計でさえ、例外なく、不況期と株式市場が下落している時には格差が縮小している
・上位1%のシェアは、1920、1929-32、1938、1949、1953、1957-58、1960、1970、1975-76、1981、1991、2001-2001に下落している

CEOs and Celebrities

・Piketty and Saezが挙げる上位1%の所得シェアの上昇の理由としてCEOの給与の上昇がある
・CEOの市場は英語圏に限られているのでなぜ英語圏でこの指標が上昇しているのかの説明として用いられる
・上位1%の課税所得者は140万人以上いる
・Piketty and Saezが唯一証拠として提示したものは、毎年変化する上位100人のCEO(特定年度にストックオプションを実行したであろう)のサンプルだけだ
・さらにPiketty-Saezが推計したその100人の平均給与は2000から2003にかけて54%以上下落した(4040億円から1850億円に)
・この大幅なCEOの給与の下落は上位1%の所得シェアの下落と明らかに一致しない
・そもそも大きな影響を与えると考える理由がない
・2003年の上位100人のCEOの給与の合計は1850億円で、上位1%の所得の合計である88兆6500億円のわずか500分の1でしかない
・図4にS&P500のCEOの給与の上下落を示す

・S&P500指数自体の動きと殆ど一致している
・これはCEOの給与が株式市場のパフォーマンスと強く結びついていることを示している(Piketty-Saezのサンプルでは上位100人のCEOの給与の78%はストックベース)
・CEOの給与は上位1%の所得シェアの上昇の説明として明らかに不十分だ
・普通の数百万人の従業員への非適格ストックオプションの浸透のほうがはるかにもっともらしい説明だ
・上位1%の所得シェアは1997年から2000年にかけて上昇し2001年から2003年にかけて下落した
・この関係はキャピタルゲインを除いても成り立つので、非適格ストックオプションが支配的要因であったことを示唆する

Reported Income Depends on Marginal Tax Rates

・所得申告シフトは課税(対象)所得の弾力性というもっと根源的な現象の表面にすぎない
・限界税率の下落は課税所得を様々な形に分散させる
・取締役はこじんまりした給与や特典よりも株を要求するかもしれない
・企業家はさらなる事業を始めるかもしれない
・高額納税者の配偶者は労働市場に参加するかもしれない
・以前は地下経済で働いていた者は仕事につくかもしれない
・専門職についている者は以前より仕事に取り組み、退職を先延ばしにするかもしれない
・取締役は特典よりも現金を望むかもしれない
・投資家は税額控除のある債権の保有を減らして株を取引するかもしれない
・納税者は以前ほど課税控除に熱心に取り組まなくなるかもしれない
・多くの研究が、最高限界税率に直面する所得が税率の変化に極めて敏感であることを示している
・課税所得の弾力性とは限界税率が変化した時、どのぐらい申告所得が変化するかを意味している
・Wojciech Kopczukは全納税者に関して弾力性が0.53と報告している
・The Federal Reserve’s Adam Looney and Harvard’s Monica Singhalは基準年次の所得が350万円から850万円の家族に関して0.75であると報告している
・高額納税者に焦点をあてた研究ではさらに高い弾力性が示されている
・低いものでは(Jon Gruber and Emmanuel Saez)、1000万円超の所得がある納税者は0.57だ
・高いものでは(Martin Feldstein)、1に近い
・最高税率が40%から30%に下落すれば、納税者の手元に残る資金は17%上昇する
・弾力性1は、申告される所得もまた17%上昇するだろうことを意味する
・追加の100ドルが40%で課税されていた場合(40ドル)には、歳入庁は117ドルに30%の税率が課された35ドルを受け取るだろう
・課税所得弾力性の研究が示したのは、最高税率の引き下げは申告所得の大幅な上昇を伴うということだ
・実際その通りのことが起こった
・Emmanuel Saezによると、「1980年代の減税は上位1%の所得シェアの変動は減税に対して大幅に、即時に反応を示すことの著しい証拠になった、そしてその規模は高額所得者で最大になる」と述べた
・キャピタルゲインに関して、弾力性はさらに高くなる
・この分野で認められている研究では平均で0.9だ
・1997年の減税時に大幅に上昇したであろうことを暗示する
・図3にそれが表われている
・Raj Chetty and Emmanuel Saezは2003年に配当税率が35%から15%に下げられた時に、配当支払が上昇したのを示した
・2002から2004の間に、納税申告上の配当所得の額はおよそ二倍になった-10兆3200億円から19兆8800億円-
・配当税率の減少は表2にある2004年の所得シェアの上昇の説明の手助けになる
・この配当支払の増加は単に所得申告シフトの表れだ

・これらの研究にも関わらず、Piketty and Saezは大陸欧州で所得シェアが安定的な一方、英語圏で上昇したのはわからないと困惑する
・課税所得弾力性の研究が示唆する結果が表れただけだと解釈すれば何一つ不思議なことはないというのに

・フランスで上位1%の所得シェアが安定的な一方、アメリカや他の税率を引き下げた国で上昇していることが予想できる
・最高税率を半分に引き下げた国(アメリカ、イギリス、インド、ニュージーランド)では所得シェアが上昇している
・半分ほどではないにしても引き下げた国(カナダ、オーストラリア、)では上昇幅は相対的に小さい
・ほとんど変化のない国(フランス)では変化は小さい
・これらの国際比較はアメリカでの課税所得弾力性の推計と整合的だ
・これは上位1%が実際に持っている所得や財産がどれぐらいあるかを示すというより、彼等がどう税率に反応するかを示しただけだ

Income Trends since the 1970s

・2004年のコラムでクルーグマンは、「Thomas Piketty and Emmanuel SaezはCBOのデータから1973から2000の間、低位90%の納税者の実質所得が7%下落した事を確証した」と述べた
・クルーグマンにとっては、その事例が中間所得層の生活水準の長期下落を意味しているように聞こえるようだ
・クルーグマンの驚くほど不正確な主張はPiketty-Saezの推計を経済学者でさえいかに無批判に受け入れるかの良い実例となっているようだ
・Piketty and Saezは、「我々のデータは上位層の所得と財産のシェアに限られていて、その他の層の所得分布に関してわずかな情報しか含んでいない」と最近認めた
・さらに彼等の2001年の論文から(図A-1)は逆の印象を受ける
・グラフは低位90%ではなく低位99%の納税者の実質所得が停滞(下落ではなく)していることを示しているように見える
・だが、そのグラフの脚注で彼等は、「(停滞を示すグラフとは違い)1973から2000の間、低位99%の納税者の平均所得は実質で40%上昇していただろう、仮にすべての移転所得が含まれたら(+7%)、CPI-U-RSが使われたら(+13%)、特に、所得が一人あたりで定義されていたら(+20%)」と説明する
・低位99%の一人あたり実質所得の40%の上昇は、低位90%の納税者の所得が7%下落するのをほとんど不可能にする
・さらにCBOの推計は1979年からで、1973年ではない

・CBOの推計は低位80%の納税者の平均実質所得が課税前で12%、課税後で15%上昇したことを示した
・中間層の課税後実質所得は389万円から447万円に上昇した
・統計局の推計では第一四分位の平均所得は327万円から406万円に上昇した-1973年から2000年にかけて-
・すなわち、低位80%の課税後実質所得が24%上昇したことを統計局は示している-上昇のほとんどは1982年以降に起こっている-
・統計局の推計は低位80%の所得上昇率が加速していることを実際に示している
・1970から1980では、上昇率が7.6%だったのが、1980から1990では9.6%へ、1990から2000では12.4%へ加速している

・Piketty-Saezの推計を除くと、1980年代後半からは、所得、財産、賃金、消費に関して格差の拡大を示すデータはわずかしか存在しない
・統計局の伝統的な手法では、1993の調査方法の変更による一度限りの急激な上昇を除いて、ほとんど変化がない
・図5に上位5%の世帯所得シェアを示してある

・1993から2004まで20%から21%の間を行ったり来たりしている
・統計局の推計はPiketty-Saezの推計と対照をなしている
・上位5%の課税単位所得シェアは統計局のよりずっと高く、株式市場の変動とともに連動していて、個人納税申告上の事業所得とも、強く連動している(両者ともキャピタルゲインと移転支払を取り除いてあるというのに)
・統計局の上位5%の所得シェアの推計は、ここで説明した理由により、Piketty-Saezの推計に対して疑問を投げかける

・統計局はジニ指数も調べている
・既に述べた1993のデータの不連続性にも関わらず、課税後移転後世帯所得のジニ指数は上昇していない
・1986年0.409、1993年0.398、2002-2003年0.394だ
・課税後移転後ジニ指数は分位数の平均所得に基づいている事に注意が必要だ
・例えば上位5-20%の平均所得は中央所得よりもずっと大きい
・他のグループと違って、極端な外れ値を除く天井がない
・だから最上位グループとその他のグループの平均所得を比較することは誤解につながる
・表4に所得グループ毎の実質所得中央値を示す


・Federal Reserve Board’s Survey of Consumer Financesを参照した
・1989から2004まで、第九、第十十分位の実質所得中央値は20%上昇した
・第一、第二四分位(ようするに低所得層)も20%とほぼ同じだ
・20年間格差が拡大し続けたという印象は、消費や賃金のデータとも一致しない
・2005年に発表された労働局の研究によると、消費格差を示すジニ指数は、1986年0.283、1990年0.293、1994年0.294、1999年0.281、2001年0.280でほとんど変化していない
・1986年に比べて最近の数値は生活水準(消費)で見て指数が下落している
・Wojciech Kopczuk and Emmanuel Saezは資産格差を調査している
・彼等は1980年代に上位1%の資産シェアは1970年代のリセッション前の水準に戻っただけで、1990年代はそのシェアは安定していると結論している
・David Card and John DiNardoは1980年以前には賃金格差は上昇していない事、80年代の上昇の85%は1985年以前に起こったことを示した
・1988から2000の間、賃金格差に目立った変化がないと結論づけた
・多くの研究は、所得、賃金、資産、消費の格差が1981から1986の間にいくらか上昇したことを示した
・だが1981年は急激なスタグフレーションや株式や債権価格の下落などを経験した特殊な基準年だった