2012年11月22日木曜日

医療費が個人破産の半数を占めるはエリザベス・ウォーレンの作り話?(前編)

Medical Bankruptcy:Myth Versus Fact

by David Dranove Michael L. Millenson

David Himmelsteinとその共著者はこのケース(医療破産が半数を超える)が増加していると主張している。「医療費が個人破産の原因の半分を占めている」と彼等は書いている。「普通の世帯が困窮に追いやられている」と彼等は主張している。そして公的医療保険の導入を主張する。

メディアや政治家は彼等の発見に関心を持ち彼等の研究をケネディ大統領の言葉を引用しながら説得的だとして賞賛した。不幸なことに彼等の研究を詳細に調べればこの結論が非現実的だという3つの理由が浮かび上がってくる。

第一に医療費が個人破産の原因の半分を占めるという彼等の主張の因果関係を立証できていない。彼等のデータを用いて我々が分析したところ因果関係らしいと思われるものは個人破産の17%だった。のみならず彼等のデータは普通の世帯の生活が脅かされているという彼等の主張も支持していない。個人破産と医療費の関係を調べた40年間のこの分野の研究の蓄積が我々の見方を支持している。これらの研究では半分よりはるかに小さい数字を報告している。Himmelsteinとその共著者が普通のアメリカの世帯だと報告した世帯の平均世帯所得は250万円だが、その水準はむしろ低所得層に近いものだ。

第二に以下の政策的議題に対する回答を彼らは示していない。公的保険は個人破産にどのように影響を及ぼすのか?最大に大きく見積もって、彼等は医療費の支払いが個人破産の17%の要因になっていることを示したがこのことは医療費が最も重大な因果関係であることを意味しない。彼等は因果関係の強さを示していないばかりか、他の要因(失業、教育費、住宅費等)を制御していない。実際Himmelsteinとその共著者が引用した研究では(彼等は述べていないが)健康問題等の事態が起こったとき家計が破産に追い込まれるという主張に対してほとんど支持をしていない。

第三に彼等の主張である公的保険が個人破産を大きく減少させるはミスリーディングだ。彼等はその影響度は保険の範囲に依存していることを認める。我々の分析では彼等の意味するこの文脈での(包括性)ははるかに広範な定義を必要とすることを示す。

Himmelsteinとその共著者は2001に個人破産に分類された1771人の個人を調査した。彼等は同時に債務を持つ332の世帯に質問をしているがこれらの質問は医療破産の件数を計算するのに用いられていない。よって我々は前者に焦点をあてる。

彼等は(3つの節からなる)Exhibit 2に結果を纏めてある。第一の節では以下の特定の理由のうちから1つを回答した世帯の割合を報告している(病気または怪我、家族の誕生または死亡、アルコール、薬物、ギャンブルの問題)。彼等が示したという医療費と破産の間の因果関係を推量できる箇所は調査の中でわずかこれだけしかない。理由として最も頻繫に回答されたものは病気と怪我で回答者の28.3%だった。

第二の節では医療に関連する様々な質問に対して回答した人数を報告している(病気による少なくとも2週間の所得の喪失、前2年の間に医療費の支払いが10万円を超えた等)。筆者等はこれを医療に関連する破産としている。回答者が病気や怪我を破産の原因と主張していないにも関わらずだ。彼らはこのようにして回答者の54.5%が医療破産したと報告している。

彼等の論文が発表されてすぐにNational Review Onlineに批判が表われた。多くの批判は医療破産の定義に集中していた。特に2年間で医療費が10万円以上という定義に対して批判が向けられた。批判者はそれらの人々は支払い能力があったはずだと述べる。Himmelsteinとその共著者は それに対して2つの理由を挙げる。第一にこのグループの平均医療費支払いは110万円を超えていて負担になりうると主張している。だが平均はほんのわずかな外れ値に影響を受けている可能性が高い。Leslie Conwell and Joel Cohenは2002に20%のアメリカ人は医療に32万円消費したと報告している。そして5%が115万円以上消費した。それでも後者の集団が全体の消費の半分を占める。回答者の消費の中央値と分布を知ることは有意義な情報となるだろう。

第二にHimmelsteinとその共著者は回答者の何人かは支払い能力があったことを認める。しかし彼等は医療に関連する債務がなければその他の支払いにお金を費やすことができただろうと主張する。さらに医療に関連する債務の残高は過小評価かもしれないと述べる。クレジットカードで支払われたかもしれないからだ。第一の議論はすべての支出にあてはまりほとんど無意味だ。どのような支出でも破産の原因になりうるからだ。第二の議論はすべての債務は代替可能なので破産の原因を一つの債務形態に限定して特定することは不適当だという事実を単に強めたにすぎない。

低所得世帯の金銭的状況を統計局のデータから示す。年間所得が220~400万円の家計は平均で200万円を住宅に、90万円を食費に、80万円を交通に、25万円を衣服に、45万円を医療に消費する。

この所得水準はHimmelsteinとその共著者の言う平均所得と比較的近い。そして筆者等のいう「普通の世帯」よりも低所得層と普通の世帯の狭間という特徴に近い。年間所得250万円の世帯は中央所得よりも4人世帯の貧困線の水準により近い。

220~400万円の所得範囲にある多くの世帯にとって、(仮に破産したとしたら)破産の前の2年間に医療に費やした数千ドルは債務の一角を占めるに過ぎない。彼等は他に支払わなければならない多くの債務を抱えている。さらにいくらかの医療の支払いに対して前もって準備しておくことは合理的だろう。医療費の支払いはそのタイミングは予想できないだろうがそれが起こるかどうかはある程度予想可能だからだ。

さらに過去との比較は注意を要するとはいえ、1960年代の中頃から続けられている研究は一貫して医療の支払いは債務のマイナーな部分を占めるに過ぎないと結論している。

司法省はCharles Grassley議員からの要望に答えて5203件の個人破産の事例を調査している。調査は2000から2002の間でHimmelsteinとその共著者らと同時期だ。司法省は申請者の90%の医療費の債務残高は50万円以下だったと報告している。医療に関連する債務があると答えた申請者でそれらの債務残高は全体の債務残高のわずか13%を占めるに過ぎなかった。司法省はHimmelsteinとその共著者らの主張に対して「個人破産の50%が医療費に関連しているという主張は公式の文書からは立証されていない」と述べている。

Himmelsteinとその共著者らの方法論に関するより深い問題をはっきりさせなくてはならない。医療費が個人破産と関連していると示すだけでは不十分だ。医療費が破産を起こしているかどうか、そしてそうだとしたらその程度を判別しなければならない。つまり相関から因果へと進まなければならない。そうすることによりHimmelsteinとその共著者らのデータを再分析することができる。

彼等の研究で因果関係を述べた部分はExhibit 2の初めの部分だけに過ぎない。病気と怪我が破産の要因と答えた人でその支払いが破産にどの程度影響したのかを識別しなければならない。

Himmelsteinとその共著者によると回答者の28.3%が病気と怪我が破産の要因であると述べたという。彼等は医療費の支払いがこのグループの60%で要因になったという。2つの数字を掛けることにより(あくまでも彼らの言うことを真に受けるという前提のもとであれば)サンプルの17%が医療費に関連する破産だったというように結論することができる。その17%に対してさえ医療費が破産の最大の要因だったかどうかを判断することはできない。

多くの要因を考慮に入れた過去の研究はHimmelsteinとその共著者とは違った結論を導き出している。以下にその結果をまとめる。

CBOは1994から1998までに75%増加した個人破産申告者を夥しい量の文献を調べて分析した。調査期間中は従業員1人あたりの医療費の増加率は5%以下で、退職者まで含めた増加率は1994に初めて減少した。それにも関わらず破産率が急激に増加したのは医療費以外の要因が影響したことを示唆している。

CBOは破産に影響した多くの要因を挙げている。医療費支払い、離婚、失業による所得の喪失、債務管理の甘さなど。破産を容易にする法律の変更も要因に含まれるかもしれない。CBOは破産に至る要因でどの要素が相対的に重要だったのかを判断するにはまだ多くのことがわかっていないと報告している。

Fay, Hurst, and Whiteの研究はHimmelsteinとその共著者が唯一引用した経済学、ファイナンスの分野の論文だ。しかしそれもほんの一部分だけからに過ぎない。彼等の研究を全体に渡って読むとHimmelsteinとその共著者の結論とは対立する点がいくつも見つかる。個人破産の情報を含む1996からのパネルデータを用いてFayとその共著者は影響した要因を判別するためにプロフィット分析を行った。前年に家長か配偶者が健康問題を抱えていたかどうかもその要因の中に含まれる。債務水準を制御することにより彼等は破産と健康の間には何のつながりもないことを発見した。これは医療費に関連する債務は他の債務同様に一因ではあり得るものの最も重大な要因ではないという考えと整合的だ。彼等は破産は債務の累積に対する反応であって何か特定の一因によるものではないと結論した。

Domowitz and Sartainは1980に破産申請をした827世帯を調べ破産申請をしなかった1832世帯と照合させた。彼等はロジット分析を行って破産に至った特定の要因を識別しようとした。彼等は最初に高額な医療費に関する債務(所得の2%を超過)が破産の確率を引き上げる最大の要因だと述べた。彼等はこの結果に対して2つの考察を加えた。第一に国民のほんのわずかしか高額な医療費に関する債務を抱えていない。第二に雇用の喪失と相関しているかもしれない。この要因が破産に影響しているならば医療費に関する債務の係数には上向きにバイアスが掛かっているかもしれない。債務の元となる多くの要因を考慮に入れた後で彼等は破産の唯一最大の要因はクレジットカードの債務残高だということを発見する。

Himmelsteinとその共著者は以下の論点を暗示的に持ちかける。医療費支払いがどの程度個人破産を引き起こし、公的保険でそれがどの程度減少するのか?彼等の論文が事実を取り違えて非現実的な結論を導き出しているのはこの政策議題に関する部分だ。

彼等はカナダの医療破産率が低いことを要因としてあげる。彼等が挙げた数字の根拠となるものはカナダの個人破産の7.1-14.3%が健康に関連しているというTexas Law Reviewの記事だけだ。多くの研究が否定しているにも関わらず彼等は医療費と破産の間に強い結びつきがあると仮定している。実際両国の急激な破産率の上昇を分析したこの研究ではこの上昇を信用へのアクセスが容易になったことと結論している。

この要因はHimmelsteinの共著者の1人であるElizabeth Warrenが2001のインタビューではっきりと述べている。「今日では消費者が多くの債務を抱えるようになったのでわずかな医療費の支払いでさえ金銭的問題に追いやってしまう」と。このような要因がある中でHimmelsteinとその共著者の1人であるSteffie Woolhandlerが共同出資しているPhysicians for a National Health Planからのプレスリリースは正当化することが難しい。そこにはHimmelsteinとその共著者が公的保険だけがこの問題を解決できることを示したと書かれてある。

Himmelsteinとその共著者は公的保険が自己破産を減少させる程度は保険の範囲に依存していることを認める。彼等はこれ以上詳細に踏み込まないが、2004の肺がんと診断された女性の費用に関する調査が、彼等の言う範囲がどの程度なのかを示している。調査では月額の直接費用の平均値は$597(計算の便宜上1ドル=100円にしてきたが実際のレートは80円なのでここではドル表示にする)で総費用$1,455(労働から離れることによる費用を含む)の41%だった。これは雑多の費用(スピーチセラピー等)や備品(洗浄剤等)に掛かった$134を含む。治療に関連しない直接費用は$131(子供の世話等)で間接費用は$727(患者とその家族の労働から離れた時間等)だった。つまり雑費と治療に関連しない費用が月額支払いの2/3を占める。これらの費用を制限するためには現在のどの公的保険が持つよりもはるかに広い範囲の包括性を必要とするだろう。

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