2013年6月22日土曜日

嘘つき経済学者スティグリッツ「インフレ率は40%以下だったら何の問題もない」Part2

Inflation and Growth: Some Theory and Evidence

by Max Gillman Mark Harris László Mátyás

1. Introduction

Kormendi and McGuire (1985)はインフレが経済成長に与える影響について正の効果Tobin (1965)だとされていたものを負の効果Stockman’s (1981)であるに変えた。彼らは47ヶ国のデータを調べて有意に負の影響があることを発見した。最近の研究はこの結論を強化している。Khan and Senhadji (2000)はある閾値からインフレが経済成長に負の影響を与えることを発見した。インフレ率の閾値は工業国で1%、途上国で11%であるという。Ghosh and Phillips (1998)はIMF加盟国に対して同様の報告をしている。さらに効果は非線形で低いインフレ率での方が強いことも発見している。Judson and Orphanides (1998)も同様に負の効果を発見したがスプライン曲線を導入した際には10%以下のインフレ率で関係が有意でなくなることを報告している。

実証分析の結果を理論モデルに結びつける作業はこれまでほとんど行われて来なかった。TobinとStockmanが示したのは実際には生産の均衡成長率への影響ではなく生産への影響だった。Sidrauski (1967)のmoney-in-the-utilityモデルも成長率に対する一時的な影響を取り扱っているだけだった。Ireland (1994)のAKモデルもそのような一時的な影響をモデル化したに過ぎない。Chari, Jones and Manuelli (1996)はインフレが均衡成長率そのものに与える影響を示したがその程度は僅かなものでしかなかった。対照的にGomme (1993)はLucas (1988)の内生的成長の枠組みで大きな負の影響を示した。だがこれらいずれも計量モデルを用いてその関係性を検証していない。

この研究の貢献は実証分析の結果を理論モデルと強く結びつけていることにある。成長理論では成長率は主として一つの変数、資本の利潤率で決まる。利潤率を低下させる課税は成長率を低下させる。内生的成長理論では成長率は人的資本にも依存するが資本全体の利潤率は均衡成長経路と等しくならなければならない。一方の形態の資本への課税は全体の利潤率を低下させる。そのような内生的成長理論と貨幣分析を組み合わせるとインフレ税もまた資本の利潤率に影響を与えるだろう。インフレ税が財から余暇への代替を促す場合は特にそうだ。

この論文では資本へのリターンを減少させるインフレ率をモデルに組み込む。成長は物的、人的資本へのリターンを反映した要素から説明できる。実質利子率を物的資本へのリターンとしこれを貯蓄率で代替する。各国間での実質利子率に対して変更を迫る変化は(例えば税制の変更などを反映したもの)固定効果を通して説明される。資本所得への課税は直接に成長率を低下させるのに対して労働所得への課税は財から余暇への代替を促し人的資本へのリターンを低下させ成長率を低下させるのでこの効果は重要だ。容易に計測可能な人的資本への課税であるインフレ率は重要な説明変数としてモデルに加えている。ここでのモデルは均衡成長経路に沿った均衡を取り扱っていて均衡成長率への収束を暗黙に前提していることに注意が必要だ。アメリカの生産に対する各国の生産の比率をその移行過程を補足するために説明変数に加えてある。成長率はアメリカの水準を大きく下回るほど高いことが予想される。

さらに2つの要素を説明に加える。時間効果を予期されなかった国際的なインフレ率の変化として加える。インフレ率が(成長率に対して)外生的かも調査の対象になる。マネーサプライの外生的な変化率は直接インフレ率に影響を与えて再配分を引き起こし成長率を低下させるのでこの変数の成長率はインフレ率に対する操作変数として用いることが出来る。ここでの手法は例えばGhosh and Phillips (1998)のようなアドホックな操作変数の扱いとは対照的だ。

その他の説明変数はモデルに加えない。モデルは高いインフレ率よりも低いインフレ率で効果がわずかに強まるといったような非線形なものであることが予想される。そしてこの負の効果はFriedmanの最適な名目利子率であるゼロから始まることが予想される。この関係を各種の手法を用いて調査する。非線形かつ理論に即した形で設定した我々のモデルでは過去の研究に比べてより顕著な負の効果が発見できた。特に低率のインフレから効果は負かつ有意でインフレ率が低いほうがその効果は大きい。例えば0-10%から0-5%にインフレ率が移動する場合に負の係数は2倍になり有意水準も極めて高いままだ。

結果はOPEC地域とAPEC地域で分割している。OPECに対して理論はより強く当てはまる。APECに対しては操作変数を用いた方法でしか有意な結果を得られなかった。それに効果の大きさもOECDよりも低い。金融市場の発達度合いが低く中央銀行の独立性が低いAPECでは負の関係が内生的な過程としてしかも弱くしか表れていないことを示唆している。このAPEC地域でのインフレ過程の内生性は注目に値する。なぜ他の研究者が低いインフレ率の範囲で正の効果を報告したのかを説明する手助けになるかもしれないからだ。APEC地域で0-10%のインフレ率の範囲で結果は正かつ非有意だ。0-5%の範囲で結果は正かつ有意になる。だが操作変数法ではすべての正のインフレ率で負の関係しか見られなかった。よって操作変数を用いないで得られた推計結果は内生性バイアスの存在が強く疑われる。

最後にこの結果はTobin effectの存在を否定するものではなく一般均衡の形で再定式化するものだ。内生的成長かつキャッシュインアドバンス制約の設定ではインフレ税は人的資本へのリターンを低下させ物的資本へのリターンは均衡で下方に調整されなければならない。この調整は投資の増加とすべての部門での資本労働比率の増加を必要とする。この投入要素の再調整は人的、物的資本へのリターンの低下を僅かながら緩和する。よってTobin effectは(インフレ率の増加の結果として)上昇した労働に対する税率の下での資源の効率的な使用を促進する効果として再定式化される。それは労働に対して物的資本の利用の増加と均衡成長率の低下を少しだけ小さくすることを意味する。だがインフレが均衡成長率に与える影響はTobinの外生的成長、外生的貯蓄率のモデルとは対照的にそれでも負だ。我々のモデルはStockman (1981)、Ireland (1994)、Dotsey and Sarte (2000)らの資本のみかつキャッシュインアドバンス制約を課したモデルや貨幣の外生的成長を仮定したAhmed and Rogers (2000)のモデルをTobin-type effectの存在を前提としながらその最終的結果は負の効果であるというように拡張している(*ようするに一歩進んでいる間に二歩下がっているということです)。

2. Endogenous Growth Monetary Framework

代表的家計は規模に対して収穫一定な(CRS)財の部門で労働している。実効労働量は生の労働に人的資本を掛けたものとして定義する。家計はさらに2つの部門に資源を投入する。規模に対して収穫一定の人的資本を生産する部門(資本投資と実効労働を投入要素とする)と(実効労働のみを投入要素とする)収穫逓減型の信用サービス部門がある。家計は効用最大化に関して人的資本に係る4つの制約に直面する。貨幣と物理資本から構成される金融資本のフロー制約、金融資本のストック制約、交換技術の制約だ。信用サービス部門の技術はキャッシュインアドバンス制約の中に組み込まれる。

時点tの財の実質量をctとして余暇に費やされる時間の割合、信用サービスの生産に費やされる時間の割合、財の生産に費やされる時間の割合をxt、lft、lgtとする。財の生産に占める物理資本の割合はsgtとする。物理、人的資本と減耗率をkt、ht、δk、δhとする。資本と実効労働の実質限界生産物を実質利子率rt、実質賃金をwtとで記述する。財、信用サービス、人的資本の生産関数のシフトパラメータをAg、Af、Ahとする。

名目変数は財価格Pt、名目金融資本残高Qt、貨幣残高Mt、貨幣残高の一定割合である政府の現金移転Vtだ。効用関数のパラメータはρ、θ、αで区間(0,1)の技術パラメータはβ、ε、γだ。

2.1 The representative agent problem

財ytの生産を以下の関数で示す。

(1) yt=Ag(sgkt)^(1-β)(lght)^β

α∈(0,1)は財を現金で購入した割合を表す。キャッシュインアドバンス制約は以下になる。

(2) Mt=atPtct

マネーサプライは一定割合ρで政府の現金移転を通して供給される。

(3) Mt+1=Mt+Vt=Mt(1+ρ)

信用によって購入される割合は1-atになる。信用サービスは以下の関数によって生み出される。

(4) (1-at)=Af(lftht/ct)^γ

lftht/ctは実効労働×一単位あたりの消費財だ。式(4)はatに関して解を持ち式(2)に代入できる。これはMcCallum and Goodfriend (1987)のshopping-time economyの特殊形態である技術制約を表す。違いは我々のモデルはbanking timeを表していることだ。

名目金融資本制約は以下になる。

(5) Qt = Mt+Ptkt

名目所得制約は金融資本の変化をゼロとすることにより得られる。これは所得rtPtsgtkt+wtPtlgtht+Vt+dPtktから支出Ptct+δkPtktを引きゼロに等しいとすることと同じだ。

(6) dQt=rtPtsgtkt+wtPtlgtht+Vt+dPtkt-δkPtkt-Ptct

人的資本は規模に対して収穫一定で財の生産に用いられなかった資本、余暇と信用サービスの生産と財の生産に用いられなかった時間によって生み出される。人的資本への投資は以下で与えられる。

(7) dh=Ah(1-xt-lgt-lft)^δht(1-sgt)^(1-δ)kt

代表的家計の最適化問題をAppendixで示す。

2.2 The Effect of Inflation on the Balanced-Growth Path

モデルの主要なトレードオフは財と余暇の間の限界代替率によって与えられる。時間を表す添字を取り除いてその関係は以下のようになる。

(8) αc/xh=w/(1+aR+wlfh/c)

Rは名目利子率を示す。式(8)は限界代替率が余暇のシャドープライスwを財のシャドープライス1+aR+wlfh/cで割ったものに等しいとする。財のシャドープライスは財価格1と現金の平均費用aRと信用の平均費用wlfh/cの合計だ。この関係はRを直接上昇させるインフレ率の上昇が一次のオーダーでxに対して相対的にc/hを低下させることを示す。さらに二次のオーダーで逆方向へ向かう変化がある。インフレ率が上昇した場合にaは下落しwは上昇する。だがGillman and Kejak (2000a)が示したようにRの上昇によりインフレ率の水準はハイパーインフレーション以下に抑えられよってc/hは下落しxは上昇する。

均衡成長経路まわりの均衡は均衡成長率gで与えられる。

(9) g=dc/c=dk/k=dh/h=[r-ρ]/θ

財の生産に用いられる物理資本へのリターンと人的資本の生産に用いられる実効労働へのリターンは等しい。

(10) r=(1-x)Ahβ(shk/lhh)^(1-β)

式(9)と式(10)は余暇xの上昇はrと成長率の下落に強い効果を持つことを暗示している。式(8)と併せてこれらの式はどのようにインフレ率が余暇の増加を通して成長率を低下させるのかを示している。

カリブレーションはこの負の効果が極めて頑健であることを示す。負の効果は広範な範囲のパラメータに対して見られる。他の研究では滅多に用いられない信用部門のパラメータγ∈(0,1)などに対しても全範囲で負の効果が見られる。さらに物理資本のない場合に於いて均衡の存在と一意性を解析的に証明することが出来る。負の効果はある非常に高いインフレ率までのみで見られる。標準的なパラメータの下ではこの値は100-200%の間にあり定常状態のインフレ率としてはどの国も経験することがないであろう水準にある。一般的に言ってそのような高率のインフレになっている国はハイパーインフレーションの領域に入っていると言ってよくここでのモデルが対象とするようなものではない。

2.3 Non-linearity of the Inflation-Growth Effect

負の効果の非線形性はモデルの新たな側面だ。インフレ率がある極めて高い値を超えて上昇した場合に負の効果はゼロになるまで単調に下落しその後は正に変化する。よって効果は名目利子率ゼロでわずかに強くそこから減少していく。

この非線形性の元は(ミクロ基礎を持った)交換技術の使用にある。インフレ率が低い水準にある場合には消費者は主に現金を用いて信用をわずかしか用いない。理論は低いインフレ率では貨幣需要の利子弾力性は極めて低いまたは非弾力的でありインフレ率が上昇するに従って弾力的になると暗示している。非弾力的な貨幣需要の下で消費者は財から余暇へとシフトするが貨幣から信用へのシフトはあまり起こらない。利子弾力性が上昇してくると消費者はここでも財から余暇へとシフトするものの今度は貨幣から信用へのシフトも起こすようになる。次第に信用への代替の経路が余暇への代替の経路を支配するようになりよって余暇の上昇率は逓減し成長率の低下速度も小さくなっていく。これが高いインフレ率で効果が次第に小さくなっていく理由だ。

2.4 Tobin Effect and the Savings Rate

ここでのTobin effectは一般均衡的なものでインフレ率の上昇がw/rと資本労働比率を上昇させる。カリブレーションはインフレが人的資本へのリターンが抑圧されるので資本へのリターンrを低下させることを示す。実質賃金wは消費者がより余暇を選好する結果として上昇する。これは労働から資本への代替を引き起こしTobin-typeの資本集約度の上昇を生み出すがそれでも成長率は全体として低下する。

貯蓄率も投入価格比率w/r、余暇、名目利子率に依存していることが示される。実質利子率rの上昇の効果は貯蓄率を上昇させることにある。この原理を元に我々は実質利子率が成長率に与える効果を貯蓄率を使用して代理にする。これは貯蓄率に影響するその他の効果(例えば実質賃金など)を無視しており貯蓄率を実質利子率の不完全な代理としてしまっている。

3. The Data and Preliminary Analysis

(省略)

πと成長率の相関を表1に示す。有意かつ強い負の関係が確認できる。


その相関は線形の関係を示しただけで非線形の効果に関して何も教えてくれない。図3に各種インフレ率の範囲と平均成長率との関係を示す。ここでも関係は負でインフレ率5%以上でより強まるように見える。

単純な相関は負の効果をはっきりと示したものの重要なのは節2でも述べたように経済成長に影響する他の要因を制御して調べることだ。

4. The Econometric Model

節2で述べた内容を以下の形式として表現することが出来る。

(11) yit=αi+λt+βgg(πit)+βI/yln(Iit/yit)+βy/yln(yUSAt/yit)+uit

yitはi国のt年の年間成長率を示す。bは未知の係数ベクトルだ。Iit/yitは投資がGDPに占める割合を示す。 yUSAt/yitはアメリカとi国の生産の比率でαiは国特有かつ時間不変の影響(例えば物理資本への税率など)を捉える。λtは時間効果だ。uitは撹乱項を示す。投資/貯蓄率と所得水準比は符号が正でインフレ率は符号が負であることが予想される。

5. Robustness and Endogeneity

頑健性の確認をハイパーインフレーションの定義を変更して行う。基準ではインフレ率50%以上をハイパーインフレーションとするが100%や150%も定義として確認する。

インフレーションが成長率に対して外生的であるかの確認を行う。操作変数としてマネーサプライの現在値とラグ値を用いる。マネーサプライはほとんどのモデルで外生的であると仮定されていて重要なことに経済モデルではこれが実際にインフレーションを起こすものとされているので操作変数として適切だ。これはGosh and Phillips (1998)やKhan and Senhadji (2000)のようにアドホックな操作変数群を用いているのとは対照的だ。さらに異なる操作変数群が用いられる場合には結果はそれらに左右されるようになる。追加の操作変数は厳密に外生性を満たしていないかまたはインフレ率に関係がないかもしれないからだ。

6. General Results, Diagnostics and Robustness

(省略)


(OECD加盟国)

(全サンプル)


(APEC加盟国)

7. The Inflation-Growth Effect

OECD加盟国に関して推計方法等に無関係に負の効果がはっきりと確認できる。さらに各インフレ率の範囲でのインフレの効果は少なくとも10%水準で有意だ。操作変数法を用いてもほとんど同一の結果を返すので内生性バイアスは小さいことを示唆している。

この結果はKhan and Sedhaji (2000)の結論と整合的だ。彼らは工業国に関しては1%以上のインフレが負の効果を持つことを発見した。ここでの0-10%の範囲でも負の効果が見られる。さらに0-5%の範囲に関しても極めて有意な負の関係が見られる。

APECが対象では有意水準は下落し非線形の関係も対数型でのみ幾らか見られた。だが標準誤差が大きいので操作変数法を用いていない結果には注意を要する。

例えば図10は低いインフレ率で正の効果で10%以上のインフレ率で負になっていくことを示唆している。だがこうした非線形の特定化は適切であるように思われない。インフレの二乗項のみが有意でその有意水準も低いからだ。物価指数に関して対数型を用いた推計結果も低いインフレ率で正の効果または非線形の負の効果を示した。しかしどの特定化に対してもインフレ変数は有意ではない。一方で操作変数法を用いた場合にはインフレ変数は有意になりさらに期待された非線形の負の関係も見られるようになる。

OECDとAPECの全体を対象にした場合ではインフレ変数の有意水準は低下する。すべてのインフレ率の範囲で結果はすべて有意であるものの係数は絶対値で見て小さくなり有意性も低下する。この結果はサンプルをOECDとAPECで分割することの重要性を示している。OECDに於いて負の効果がより強くより有意だからだ。だが操作変数法の結果が示すように金融市場の発達度合いが一般的に低いAPECでも負の効果が働いていることが示された。

8. Conclusion

(省略)

その結果はインフレが低下した場合に負の効果が表れるだろうことを意味していない。経済活動を低下させる外的ショックがモデルの説明変数(インフレ率)を支配する可能性がある。つまり世界経済が急激な成長率の低下に見舞われていない場合のみにインフレの低下による正の効果が見られるだろうからだ。世界経済が外的ショックに直面していない場合にはインフレ率の低下は高い成長率を生み出すように思われる。そしてその効果は資本と労働に対する限界税率がインフレ率と同時に下げられた場合により強くなると考えられる。

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