2012年9月26日水曜日

北欧諸国はそもそも大きな政府じゃなかった?

財務省が国民負担率という指標を用いていることには批判が多かった。


批判が多かったためか、最近の財政関係資料には以下のグラフが記載されている。


こちらは国際的にも使われている標準的なものだ。上と比べて差がずいぶん小さくなったのが分かる。数%ポイント増えれば支出の順位は入れ替わるので支出がチェコやカナダより少ないというのはあまり意味がない。実際にはこのように刷り込まれてきたどこそこの国は大きな政府でどこそこの国は小さな政府だという概念は間違いだらけとまでは云わないものの大きな問題を抱えていると指摘されているということを紹介する。

Net Social Expenditure, 2005 Edition More comprehensive measures of social support

by Willem Adema and Maxime Ladaique

1. Introduction

社会支出/GDP比は国際比較によく使われる。しかし、2つの理由によりこれは全体像を捉えているとはいえない。第一に、グロスの支出は課税が社会支出に与える影響を考慮していない。第二に、民間の社会的支出を考慮に入れていない。これらの影響は国によって異なり、国際比較の結果を歪める。

税制が社会支出に影響する3つの経路がある。1.直接的な課税、2.給付に対する間接的な課税、3.優遇税制だ。ネットの社会支出はこれらの影響を考慮に入れ、全体像を明らかにする。

公的社会支出と民間社会支出のトレンドは大きく異なっている。公的社会支出は1960年から1980年まででほぼすべてのOECD諸国で2倍になった。しかしそこから公的社会支出のトレンドはビジネスサイクルに影響されるようになり、公的支出が社会支出の大きな部分を占めているので近年の総支出のトレンドにこの動きが反映されている。

3. The tax system and social benefits

課税は様々な支出をファイナンスするために用いられる。ここでは、税制がどの程度影響してグロスの社会支出が真の範囲を反映するのを妨げているのかに焦点をあてる。大まかにいって、税制が社会支出に影響を与えるのに3つのパターンがある。

1. 給付所得に対する直接課税

政府は受給者の現金給付に対して直接的に課税したり社会保障負担を課すことが出来る。

2. 受給者による消費に対する間接課税

給付所得は財やサービスの消費をファイナンスするために支給される。間接税はその消費量を減少させる。

3. 社会的目的のための税優遇措置

政府は特定の政策目標を達成するために税制を用いる。社会的目的のための課税の控除は直接、家計に恩恵を与える。雇用主への減税措置もまた最終的には家計に恩恵を与える。

3.1 Direct taxation of transfer payments

OECDのいくつかの国では給付は勤労所得と同様に課税される。その他の国では軽減税率で課税される。残りの国では課税されない。失業給付の扱いは国によって大きく異なる。例えば、オーストリアでは、2人の子供がいる夫婦世帯で以前は平均所得と同額の所得があった失業給付の受給者は2001年ではEUR 13 828を受け取る。この給付は課税されない。対照的に、スウェーデンでは、同様なケースだとEUR 22 005を受け取るがEUR 5 853を所得税と社会保障負担として支払い、ネットの給付所得はEUR 16 152となる。純所得はスウェーデンの方がオーストリアよりまだ多いが、その差はグロスでみるよりはるかに小さくなる。総計でみると、移転した所得のかなりの部分が財務省の金庫に返ってくることになる。スウェーデンにおける失業給付に対するネットの支出はグロスでみた場合の70%の水準になる。

3.1.2 The value of direct taxation of transfer income

受給者により支払われる直接的な税と社会保障負担の水準には国際間で大きな違いがある。デンマークとスウェーデンでは給付受給者により支払われた現金移転に対する直接的な課税と社会保障負担はグロスの公的支出の27%と25%に相当する。OECDの平均では公的移転のほぼ10%が税制を通して回収される。この平均を下回るのはドイツ、フランス、カナダ、アメリカ、アイスランドで、5%を下回るのはアイルランド、日本、オーストラリア、イギリス、韓国、チェコ、メキシコ、スロベキアだ。民間給付所得は一般的により高い税率が課される(平均で13%)。デンマーク、アイスランド、スウェーデンでは30%以上の税率が課される。

受給者により支払われた直接税はデンマーク、スウェーデンでGDPの4.5%に相当する。直接税を通じた公的移転所得の回収はGDPの4%近くになる。受給者により支払われた直接税はオーストリア、ベルギー、フィンランド、イタリア、ノルウェー、オランダで1.8-2.6%の範囲にある。ドイツ、フランス、ニュージーランド、スペインでは1.2-1.5%、オーストラリア、カナダ、アイスランド、アイルランド、日本、イギリス、アメリカでは0.6%以下だ。チェコ、韓国、メキシコ、スロバキアではほとんど無視できる。

3.2 Indirect taxation of consumption out of benefit income

社会的給付は家、食糧、衣服などの財やサービスの消費をファイナンスするために与えられる。政府は消費に対して課税をする。そしてこれらの財、サービスに掛かる税はかなりの額になる。例えば、フィンランドでは付加価値税による租税収入は2001年でEUR 11. billionに及ぶ。フランスでは電気、暖房に掛かる税金はEUR 1 billionに、水の消費に対してはEUR 1.5 billion掛かる。

いくつかの国では低所得世帯に対する間接税の影響が考慮されている。例えばオーストラリアでは2000年に10%で付加価値税に相当するものが導入された時には、社会保障給付受給者に対する補償が同時に導入されている。カナダも低所得世帯に対する払い戻しを行っている。

3.2.2 The value of indirect taxation of consumption out of benefit income

インプリシットな平均間接税率は一般消費税と物品税の和と全体の課税ベースの比として求められる。税率はUS (4.4%), Japan (6.5%) and Mexico (7.7%)で低く、Australia and Canadaで10-11%だ。大体のヨーロッパ諸国の税率は13-21%の範囲で、Norway (23%) and Denmark (26.5%)が高い。給付所得の消費に掛かる間接税はOECD平均でGDPの2%に及び、デンマークで3.5%に及ぶ。政府から家計へのネットの移転はヨーロッパ諸国においてグロスの支出が示すよりも少ないことを意味する。

3.3 Tax breaks for social purposes

税制を通じてなされる支出、または租税支出は様々な形をとる。租税支出の定義は国により異なる。特に基準となる税制に対して国際的な合意が存在しない。租税支出が定義されるベンチマークは大幅に異なるので国際間の比較は困難だ。だが、租税支出の部分(社会保障に関するような)に関する比較は可能だ。ここで採用したアプローチには参照となるベンチマークが必要ないからだ。

OECDの多くの国は税制を通じて社会的目的の達成を目指している。大まかにいってそのような手段は2種類存在する。第一は特定の所得源、または家計に対する減税措置だ。例えば現金給付の幾種類かの税率はゼロか軽減税率が課される。この措置は給付課税に対する直接課税の変動額に等しい。この点についてはすでに説明をした。よって給付の課税からの控除、または給付所得に対する軽減税率は直接課税の項ですでに計算に含まれているので、社会的目的のための税優遇措置(以下TBSP)としては記録しない。

3.3.2.2 TBSPs aimed at stimulating take-up of private social benefits:

政府は税制を民間の社会保険の先導をとるために利用する。これらの優遇措置は2種類のグループに分けられる。一番目のグループは現在の給付者に向けた優遇措置、例えば当年度内の民間社会給付(自発的な失業保険、医療保険等)の供給を刺激する種類のものがある。この種類の優遇措置はドイツで重要だ(人口の18%が民間医療保険でカバーされている)、さらにアメリカでは保険料と費用の雇用主負担の控除がUSD 82.8 billionに及ぶ(GDPの0.8%)。他には寄付に対する控除がUSD 32.4 billion(GDPの0.3%)に及ぶ(いずれも2001年のドル)。

二番目のグループは議論の余地なく最も重要だが、すでに述べたように、特に年金に関して比較可能なデータが存在しない。しかしながら2001年現在で利用可能な情報によると民間の年金給付に対する優遇措置はAustralia, Canada, Ireland, the UK and the USでGDPの1%を超えている。これらの推計は以下の章では全体の計算には含まれていないが、参考として記述してある。

4. Net social spending across countries

4.1 The framework: a concise overview

グロスの公的社会支出は平均で要素費用表示されたGDPの23.4%を占める。ネットの公的社会支出は平均で20.4%を占める。オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェーのネットの支出はグロスの支出を4%ポイント下回る。デンマーク、スウェーデンのネットの支出はグロスの支出を8.9、7.2%ポイント下回る。日本、韓国ではネットとグロスの支出はほぼ同水準で、メキシコ、アメリカではネットの支出がグロスの支出を1%ポイント以上上回る。

4.1.3 Social effort from the perspective of households

全体像を把握するために、ネットの公的支出とネットの民間支出が考慮されなければならない。そのためのデータの質は公表データと同程度の高さがないということを念頭に置いたとしても。すべての社会的給付と税制の違いを考慮に入れることにより、その国が国内生産のどの程度の割合を社会的目的に費やしているかを知ることができる。

5. Conclusions

省略


上記の内容を表にまとめたもの。


(クリックすると拡大する。グロスで見ると福祉国家だったはずのスウェーデンだったがネットで見るとGDP比34.2%でアメリカの31.1%とほとんど変わらない。OECDはこの調査を実は今でも継続していて、現在ではアメリカの方がスウェーデンよりも社会支出で上回っている)

右側の画像はネットの社会支出を降順に並べてある。社会支出≠政府支出だとしても(社会支出は政府支出の中に含まれる)ネットとグロスの差は北欧諸国で特に大きい。

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