2013年3月31日日曜日

母子家庭の家庭環境がアメリカとスウェーデンで変わらない?Part1

ちなみに筆者はスウェーデン出身。

Krugman fundamentally misunderstands Sweden

by Tino Sanandaji

Paul Krugmanはスウェーデンに感銘を受けたようだ。彼の夢見た理想の社会は1980頃のスウェーデンだという。彼はアメリカを空想の社会へと変貌させようと努力しているみたいなので彼の理想郷を理解する手助けをしたいと思う。不幸にも彼の望んだ結果にはならないだろうが。

Ross Douthatsのコラムに対する応答として彼は「スウェーデンでは半数以上の子供は未婚の両親から生まれてくる。だが彼等はその境遇を苦にしていないように見える。それは福祉が充実しているからだ。我々も同じことが出来るはずだ。だろう?」と述べている。

これはとてもミスリーディングだ。スウェーデンでは家族の伝統がアメリカとは大きく異なる。同棲は社会的に認知され法により婚姻とほぼ同等として扱われている。標準的なスウェーデンのカップル同士は同棲をして子供を作りその後になって初めて結婚する。スウェーデン統計局は以下のように説明している。

「結婚をせずに共に生活することは一般的だった。そしてスウェーデンの子供の大多数は同棲している未婚の両親から生まれてきた。同棲はほとんど結婚と変わらず未婚のまま子供を持つことが受け入れられていた。このような状況にも関わらず多くのカップルは最終的には結婚を選んだ。このレポートで調査した2010の終りまでに共に生活しているカップルのうち73%が結婚を選択し残りの27%が同棲を選択していた。カップルの10%は子供が誕生した時に一緒に生活していなかった。だが大多数のカップルは子供が生まれる前と後でも一緒に生活していた。カップルのうち3%が一度も一緒に生活をすることなく子供を設けた。

だからわずか10%の子供が誕生時に結婚していないまたは同棲していないカップルから生まれたことになる。これでもまだ誇張がある。なぜなら子供が誕生してから同棲を始めるカップルも多いからだ。関心があるのは明らかに2人の親から生まれた子供で伝統的(キリスト教的)な結婚をしているまたは同棲をしているカップルの子供ではない。スウェーデンの子供のわずか3%!しか片親から生まれていない。スウェーデン人は普段の行動が恐ろしく社会保守的なために政治的にリベラルなイデオロギーを保持し続けているのだ。

公平を期すとヒスパニックの子供の半数以上が未婚の両親から生まれてくるといったときそこにも同棲が含まれている。離別や離婚を考慮するとスウェーデンで片親しか子供のいない世帯が全体に占める割合は18.7%だ。アメリカのヒスパニックでは対照的に37%だ。

New York Times自体がこのことを記事にしている。「片親しかいない家族のもとで暮らしているラテン系の子供の割合は2000から6%上昇し38%になった。黒人や白人よりも増加率が高い」と。Krugmanはスウェーデンの片親世帯で育つ子供(私のような)は「その境遇を苦にしていないように見える。福祉が充実しているからだろう」と考えているようだ。これもまた正しくない。アメリカと同様にスウェーデンの片親家族の子供も両親のいる家族の子供と比べて社会的問題を抱える確率がはるかに高い。

「貧困に陥るリスクは片親しかいない子供の方が両親のいる子供よりも3倍以上高い。2009で28.2%、9.1%だ」

中道左派の経済学者Anders Björklundとその共著者はアメリカとスウェーデンの子供を直接比較している。

「我々は家族構成と子供の教育達成度、所得との関係をスウェーデンとアメリカのデータを用いて調査した。アメリカとスウェーデンの比較は両国の家族構成や政策の違いが大きいので興味深いものになる。両国の福祉の違いを要因としてスウェーデンにおいて家族構成は子供に負の影響を少ししか与えない可能性が考えられる。。だが我々は両国の政策や社会的環境の違いにも関わらず家族構成と子供との関連は驚くほど似通っていることを発見した。つまり家族構成は子供に対して負の影響を与えていた」

スウェーデンでもアメリカでも母子家庭の子供の所得は低く大学への進学率も低かった。この結果がどの程度家庭環境自体からよるのか交絡要因によるのかはわからない。両国で片親環境は低い社会資本へとつながり他の社会問題とも関連していた。結局片親しかいない子供の家庭環境は悪かった。

Krugmanは福祉国家では家族が崩壊していても大した問題ではないと考えていたようだ。上で示したようにこれは正しくない。Krugmanは実際の分析ではなく自身の頭の中にある空想のお花畑に依拠しているようだ。

真の問題はKrugmanのようなリベラル派がスウェーデンについての子供じみたファンタジーを信じていることではない。問題なのは彼等がスウェーデンについての表面的な理解にもとづいて急進的な提言をしていることだ。KrugmanのRoss Douthatsに対する返答は従って「多分、我々も同じことが出来るはずだ。だろう?」という(要領を得ない)ものになる。

私にRoss Douthatが何を伝えようとしていたのか言わせて欲しい。彼は何十年に渡る戦いの末、リベラル派は保守派との戦いに勝利したかのように見える(注 大統領選挙が終わった直後のこと)、だがリベラル派はその勝利を一般のアメリカ人に福祉国家を受け入れるように説得する形で手に入れたのではない、仮に選挙民の人種構成が十数年前のままだったとしたらRomneyは地滑り的な勝利を収めていただろう、リベラル派は人口構造と社会的分断という2つの力学により勝利を得たに過ぎないのだと(注 おそらく何のことかわかりにくいと思われるので補足する。ヒスパニック層は民主党に投票する傾向があるといわれている。そのヒスパニック層の総人口に占める割合が上昇したので選挙に対して一定の影響を与えるようになったといわれている。日本の例に例えるなら日本に住む韓国人の人数が増える→(仮に本当に日本の民主党が韓国びいきだとすれば)日本の民主党の支持率が高まる→支持基盤に有利な政策を行う→さらに支持を確保するというまさに普段ネトウヨが妄想している自体が現実にアメリカで起こっていることになる。ネトウヨの妄想が実現した非常に珍しい例といえる。ただしこの結果は非常に流動的なものなので本当に民主党に有利に働くかは定かではない)。

1980のスウェーデンを特徴付けるものは高い最高税率ではなく両親の揃った家族構成をもとにした極めて同質的な社会の方だ。リベラル派の勝利したというやり方では妄想の中のスウェーデンを再現するよりむしろ事態を悪化させるだけに終わるだろう。

UPDATE

Reihan Salamはこの記事に対してコメントしている。

「(*前後の文脈がはっきりしないので意味が取れないが)スウェーデンの社会政策が家族の分離の悪影響を緩和している可能性がある。そして外部の観察者はスウェーデンの福祉国家それ自体が家族を一つにしていると結論を下すだろう」

この点に関してスウェーデン人を祖先に持つアメリカ人を対照群として何らかの結論を出したいと思う。2006-2010の American Community Surveyを用いてこの群の子供を持つ未婚世帯の割合を計算してみた。

スウェーデン人を祖先に持つアメリカ人でこの割合は18.1%だった。これはスウェーデンでの数字と大体同じでアメリカの平均値より下だった。彼等はアメリカで生まれたスウェーデン人を祖先に持つアメリカ人だということを強調したい。よってスウェーデンの福祉国家に影響を受けていない。スウェーデン系アメリカ人がスウェーデンの家族と似たような結果だったことは文化や社会資本が経済政策よりもより重要な要因であることを示唆している。

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