2015年1月7日水曜日

「大きな政府(増税)が経済成長にとって有害ではないというのは経済学者の間でコンセンサスになっている」というのは一体何だったのか?Part1

Guest Post by Arpit Gupta: Labor Supply and Taxes

by Arpit Gupta

税制に関する現在の議論の多くは経済刺激策や所得格差の関連で語られているが、本当に重要なのは税が労働供給に与える長期的な影響である。税は人々に労働時間を削減させ(経済学者がintensive marginと呼ぶもの)、同様に労働市場から完全に退出させる(経済学者がthe extensive marginと呼ぶもの)。その効果がどれぐらい大きいのかを調べることは経済研究の主要な分野で、政府の政策に与える影響も大きい。

例えばEdward Prescottは、労働供給の弾力性の高さ(税に対する家計の労働供給の高い反応性)でアメリカとヨーロッパの間の所得格差を説明できると議論している。アメリカの労働供給はドイツやフランスなどのヨーロッパ諸国に比べて50%以上多い(興味深いことに一般的なステレオタイプとは異なり、ヨーロッパの人々はこの時間を余暇に費やしているのではなく家事など(*外食ではなく自分で食事を作ったりなどいわゆるDo It Yourself)の非市場性の財の生産に費やしている)。結論は、アメリカの方が税率が低いので労働供給が多く生活水準もはるかに高い。

弾力性が低いと考えている経済学者もいる。Peter Diamond and Emmanuel Saezは最近の76%の最高税率を議論した論文の中で暗示的に低い弾力性を用いている。

大まかに分類すると、Ed Prescottのようなマクロ経済学者(経済の振る舞いを全体で考える)は高い弾力性を支持する傾向があり、Saez and Diamondのようなミクロ経済学者(個人個人の集団を考える)は引受弾力性を支持する傾向がある。この論争は政府の政策に対して極めて重要な意味を持つ。仮にDiamond and Saezが正しいならば、大幅な増税を行ったとしても(とはいえ、税引き後の所得には影響を与えるが)労働供給やGDPには影響を与えないだろう。Prescottらが正しいならば、限界税率の引き上げは労働供給を直撃しGDPを低下させアメリカ経済の主要な競争的優位の源に打撃を与えるだろう。

このパズルを和解させる方法の一つをRichard Rogersonが提案した。彼はintensive marginを計測することとextensive marginを計測することとの間にある違いを強調した。彼の議論をまとめるとこうなる。弾力性が低いと推計している人達は、すでに労働市場に参加している個人の反応だけを見ている。だが、それらの人々が労働時間を変更することにはある程度制約があるかもしれない(少なくとも、数年の間は)。一方で、人々は労働市場に参加するかどうかには大きな裁量を持つ傾向がある。例えば、主婦などは労働市場に参加するかどうかの選択を迫られる傾向がある。年配の人々も同様だ。このextensive marginを正しく考慮することに失敗すると税が労働供給に与える影響は小さいと誤って判断してしまう。実際には労働市場への参入と退出の経路を通して税が大きな影響を与えているにも関わらずだ。

Raj Chettyとその共著者は新しい論文で、このextensive marginを推計した。

「マクロ経済学の推計はミクロ経済学のものよりもはるかに高い弾力性を示す。この違いに対する最もよく知られた説明は、非分割的な労働がミクロの研究では捉えられていないextensive marginの反応を生み出すというものだ。我々はミクロの推計値がマクロの研究でこれまでに求められている(国際比較をする上で重要な)定常状態の弾力性(ヒックス弾力性)と整合的であることを発見した。だが、extensive margin弾力性のミクロの推計値は景気循環での総労働時間の変動を説明するのに必要とされる値よりは小さい。よって、非分割的な労働供給では異時点間代替弾力性(フリッシュ弾力性)のミクロとマクロの推計値の大きな差を説明することが出来ない。我々の推計ではintensive marginのヒックス弾力性は0.3、extensive marginのヒックス弾力性は0.25で、intensive marginのフリッシュ弾力性は0.5、extensive marginのフリッシュ弾力性は0.25であることを示している」。

Chettyらは、extensive marginの弾力性がRogersonらの考えていたほどは大きくないかもしれないもののそれでも相当な大きさであるということを示している。税が1%増加すると労働時間が0.55%減少する。それが意味する所は以下のようになる。労働市場への参入と退出は税に極めて敏感に反応する。筆者らは以下のように結論している。

「これらの発見は、労働供給の税に対する反応が国際間の労働時間の違いの大部分を実際に説明することが出来ることを示唆している」。

この論文の筆者らはこのことが国際間の所得の差がすべて税の違いだけで発生しているということを必ずしも意味するのではないとも注意深く記している。だが合理的な説明だ。

この研究はこれまた最近発表されたMichael Keaneの論文を補強している。彼は以下のように述べている。

「男性と女性の労働供給について書かれた過去の論文を改めて調べ直した。税や賃金の変化に対する労働供給の反応に関して過去の文献では論争が見られる。少なくとも男性に関しては弾力性が小さいと考えている経済学者は多いようだ。だが私が調査した論文の中でかなりの数のものが大きな値を報告している。よって、この点に関してはっきりとした意見の一致はない。実際、私が調査したすべての研究のヒックス弾力性の平均値は0.30だった。多くのシミュレーション研究がそのぐらいの値でさえも大きな厚生損失を生み出すのに十分だということを示している」。

「男性に関して、2つの要因がこれらの大きな違いを生み出していると結論している。第一の要因は、賃金のデータとして生のものを用いるか比率のものを用いるかの違いだ。前者のものを用いた研究は大きな弾力性を示す傾向にある。第二の要因は、ほとんどすべての研究が人的資本への報酬を考慮することに失敗していることだ。これが弾力性の推計に関して下方バイアスを生み出すことを議論している。人的資本を加えたモデルの中で、小さな弾力性でさえも巨大な厚生損失を生み出すことを私は示した」。

「女性に関して、特にextensive marginに関して多くの研究は高い弾力性の値を示している。特に、「長期の」労働供給の弾力性(ここでは、賃金が出産、結婚、職務経験に与える動学的な効果を考慮したという意味で)が極めて高いということを発見した」。

要するに、Keaneは他の研究者が推計した労働供給の弾力性を検討し直した。女性に関して、税に対する弾力性は極めて高いというのが結論のようだ。これは結婚による労働供給へのペナルティを取り除く極めて重要な理由となる。論争を呼ぶだろうが、女性に対しては男性のものとはまったく異なる税率を課したほうが経済的には理想的かもしれない。

Keaneはintensive marginに関して弾力性が小さいとする研究が多かったとしながらも、平均をしてみれば労働供給に対して税が大きな影響を与えているということを発見した。このことは、教育への投資、家族形成、起業などその他様々な要因を考慮する時には極めて重要となる。かなりの数の研究が、起業家になる意欲やさらなる教育投資を求める判断が金銭的報酬に強く影響を受けるということを示している。そしてその金銭的報酬は課税によって大きく影響される。これらの動学的反応を考慮にいれることは難しい。だがそのことは課税による各種の長期の厚生損失が高いことを示唆している。

不況から回復中の現在では、富裕層以外から税を集めようとする意欲は小さいだろう。だが、いずれは政策当局者は困難な選択に直面することになる。増税により、社会保障費をカットするという選択を避ける事が出来るかもしれない。だが、課税の長期的な影響が長期的な経済の成功に対して悪影響を与えるということを示す研究が数多くある。そしてその悪影響により債務/GDP比をバランスさせることはさらに困難となるだろう。それでもまだそれは一考の価値のある選択かもしれない。だが、増税がもたらすトレードオフを常に念頭に置くことは重要だ。少なくとも、それが課税ベースを拡大することにより限界税率を引き下げる(相対的に少ないコストで効率を向上させる)税制改革を求める理由となる。

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