・「所得」格差と「資産」格差を(意識的にしても無意識にしても)同じものまたは似たようなものと思っている人が多いと思われるが両者は異なり、ここでの話題は「資産」格差。
・ここも重要だが、資産格差の研究は(まともなもので自分の知っている限り)すべてがアメリカの資産格差はほとんど拡大していないということを示している(細かく見ると、資産上位1%の資産シェアはほとんど変化しておらず資産上位10%の資産シェアは少し上昇している)。
・その中にはピケッティの元共同研究者でIRSのデータを用いてアメリカの所得格差が拡大したと主張したサエズも含まれる。
・そのサエズが、フランスの経済学者ザックマン(何年か前に、富裕層がタックスヘイブンに保管している資産の推計を行った。興味深い点が幾つかあったので実は訳そうと思っていたけど面倒になったので止めた)と一緒になって、昔は使用されていたが今では誰も使用することがなくなった方法で、今度はアメリカの資産格差が拡大(しかも大きく)していると主張しだした。
・ピケッティは本の中で、自分の本のデータはサエズ・ザックマンのもので置き換えられるべきだと主張している。
・これに対して、これまたサエズの元共同研究者でサエズと一緒に所得格差(こっちは拡大したと主張)や資産格差(こちらは低下したとの結論)の研究を行ったコプチャックが今度はサエズ・ザックマンに対して批判論文を書いた(それぞれの方法論が抱える問題点の整理という体裁を取っているから批判という部分は主観だが)。
・Kopczukは所得格差は拡大しているが資産格差は拡大していないと主張していて、実際Kopczuk and Saez (2004b)では相続税のデータを用いて資産上位1%の資産シェアに変化がない(というより資産格差が拡大したことを示した研究はここで批判されているものを除いて存在しない、というかあれば取り上げている)ことを示している。
WHAT DO WE KNOW ABOUT EVOLUTION OF TOP WEALTH SHARES IN THE
Wojciech Kopczuk
Pikettyは「Capital in the Twenty-First Century」の中で将来富の分布が極端に偏ると論じている。彼によると、金利生活者達は歴史的に数が多く政治的、社会的な影響力を持っていたという。資産のほとんどは相続されるので現在の資産の分布は金利生活者がどの程度重要度を持つかによって少なくとも弱くまたは恐らくは強く予想できる。「the rentier, enemy of democracy」のような描写を真に受けるかどうかに関係なく、富裕層が労働から所得を得るのか利子から所得を得るのかその程度は社会がどの程度能力主義なのかを評価する際に一つの判断材料となり得る。
Basic Patterns in the Concentration of Wealth
富裕層の資産を調べるのに主に4つの方法がある。第一は、富裕層を重点的に過重にサンプルする方法だ。Survey of Consumer Finances(以下、SCF)はその唯一の物だ。第二は、アメリカには毎年課されるような資産税はないが(フランスやノルウェーなど2,3の国で存在する)相続税はある。その相続税を用いる方法だ。第三は、資産自体は税として申告されないものの資産が生み出す資本所得(の一部)は課税所得として観測可能だ。それにより年間の資本所得に基いて資産の分布を推計する機会が生まれる。最後は、富裕層のリストだ。フォーブス誌はそのようなリストを1982以降出版している。
以下で議論するように4つの方法それぞれに強みと弱点がある。それに触れる前にグラフから読み取れることを確認しておこう。図1は資産上位1%と資産上位0.1%の資産シェアの推移を図解することが可能な方法を用いて示している。図2は資産上位10%の資産シェアの推移をsurvey-based methodとcapitalization methodを用いて示している。それとは別に資産上位90%から資産上位99%(資産上位10%から資産上位1%を除外したもの)の資産シェアの推移も示してある。幾つかの特徴が注目に値する。
Four Methods of Measuring the Wealth Distribution
Survey of Consumer Finance
SCFは家計の金融資産を補足する目的で作成された。Bricker et al. (2014)とKennickell (2009b, 2009c)はその設計を詳細に説明している。この調査での資産の定義には資産と聞いて人々が普通思い浮かべるような種類の資産が含まれている。Kennickell (2009b)はこの調査から除外されている最も重要なもの(資産)には確定給付型の年金からの予定支払額(それに合わせて、自然に社会保障の資産も除外されている)、年金や信託からの所得、人的資本などが含まれると結論している。これら除外されたものは取引することが難しいか不可能な(所得を生み出す)資産で、そして(資産の保有者の死亡時に支払いが停止するので)相続税からも逃れている。
SCFに寄せられている懸念は富裕層の回答率が25%だということだ。Kennickell (2009a)は回答率の問題と富裕層に接触することの難しさに関して議論しインタビューに掛かる時間が回答を得る際の最大の問題だと結論している。この富裕層のサンプルは外部の所得税の情報に基いて選ばれていることから(観察可能な特性に従って体系的に変化する)潜在的な非回答バイアスを調整することが基本的に可能だ。例えば、回答率の低さが原因で若年層または富裕層のサンプルが少なければ同様の特性を持っていてインタビューに回答した人がより重点的に重み付けされるだろう。だが、Kennickell (2009a)は非回答バイアスがあるという証拠がほとんどなかったことを発見している(*これは恐らく加重サンプリング前と後との結果を比べてほとんど変化がなかったことから簡単に判明すると思われる)。回答の拒否(そしてその理由)は所得税の情報から得られる資産の指数と関連していないように思われると彼はコメントしている(*回答の拒否が何らかの要因、例えば所得などと関連していれば富裕層が回答を拒否しやすい→富裕層がサンプルから外れやすい→推計にバイアスが掛かるということが考えられるが、回答の拒否がランダムであれば例え回答率が低くても推計にバイアスは掛からない)。もちろん、サンプルが何らかの非観測の特性と関連しているという可能性を排除できるわけではない。だが、サンプルは所得税のデータを用いて把握することが出来る特性に対してバイアスが掛かっていないという検査を通っているように思われる。
注3 この点を確認することがSCFの職員の研究課題となっている。そしてこの結論が最近のほとんどの研究でも確認されていることを彼らに聞いて確認した(私的な会話で)。
Estate Tax Data
1916以降(相続税の要件が一年間だけ削除された2010を例外として)、ある一定額以上の遺産の相続は相続税の納税申告書に記載しなければならないことが定められている。その閾値となる額は時とともに大きく変化しているが20世紀のほとんどの期間でその額は相続税の対象となる遺産の被相続人の1%ぐらいに対応している。これにより相続税の納税申告書から富裕層の被相続人の死亡時の資産のスナップショットを推計することが可能になる。
相続税乗数の技法を適用する際に重要になってくるのが死亡率の選択だ。人口全体の死亡率は年齢と性別に関して相対的に簡単に知ることが出来るが、富裕層の死亡率は他と比較して低いと言われているもののその正確な死亡率を知ることは遥かに難しい。Kopczuk and Saez (2004a)は(年齢と性別毎の)大学卒業者と全人口との間のある一時点での死亡率の差の推計(Brown et al. 2002)を用いて他のすべての年度の人口死亡率を調整している。この方法で最も懸念される所とは大学卒業者と富裕層との死亡率の差が大学卒業者と全人口との死亡率の差と同じではないという所、ではない。一次近似としてそのような差は推計された富裕層の資産の水準には影響を与えるだろうが時間経過によるトレンドには必ずしも影響を与えるとは限らない。より大きな懸念は大学卒業者の死亡率と富裕層の死亡率の差が時間によって変化しているかもしれないということだ。capitalization methodとestate multiplier methodの結果を比較する時にこの問題を再び取り扱う。
survey-based methodやcapitalization methodとは異なり、estate multiplier methodは資産を世帯ではなく個人のものとして扱う。世帯構成や世帯内での資産の分割のされ方に応じてこの方法では世帯に基づく推計よりも資産上位の資産シェアが理論上は高くもなり得るし低くもなり得る。
その他の潜在的な問題には被相続人の遺産は様々な理由から生きている富裕層の資産とは異なるかもしれないということが挙げられる。一つの例として遺産は終末期の医療に対する支出によって消滅するかもしれない。相続税のデータは富裕層が相続税対策を通して行う課税逃れ(節税)を反映するだろう。課税逃れによるバイアスの程度は評価することが難しい。だが影響は表れている。Kopczuk (2013)では利用可能な証拠に関して議論している。多くの相続税対策と課税逃れが確実にあるだろう。同時に、この現象は新しいものでもなければ相続税逃れが近年になって増加しているとするはっきりとした証拠もない。Cooper (1979)は1970年代に相続税のことを「ボランティア税」と呼んでいた。彼は多くの大胆な相続税対策の技法がその頃に可能だったことを示した。彼が議論した抜け穴の多くは最早使用することが出来ない。だが新しい方法が利用可能になっている。Schmalbeck (2001)が強調している大胆な相続税対策の主な障壁となっているのは資産に対するコントロールを譲渡することへの躊躇いだという。効果的な相続税対策には何らかの非可逆的な資産の移転が付き物になる。実際、利用可能な証拠は税を完全に最小化することを目的とする納税者であれば行うであろう仮想の相続税対策と比較して現実にはわずかしか相続税対策が行われていないことを示している(Kopczuk, 2013)。
相続税のデータは人口全体をカバーしていない。従って、資産総額を直接的に推計することは出来ない。資産総額は資産上位0.1%、1%、10%の資産シェアを推計するのに必要だ。Kopczuk and Saez (2004a)ではこの問題をFlow of Funds(資金循環統計のようなもの)のデータを用いて修正しようとしている。Saez and Zucman (2014)でも資産総額を推計するために同様の方法を採用している。
capitalization methodの背景にある考えは単純だ。仮に資本所得k=rW(Wは基となる資産の価値、rは既知の利潤率)が観察できるとすれば、資本所得と適切な利潤率の選択によって資産を推計することが出来るというものだ。資本所得のカテゴリーの多く(利子や配当など)は所得税の課税対象なので所得税のデータがこの方法の実施に際して用いられる可能性があるだろう。所得税のデータは「課税単位」がベースだ。この方法を用いて得られる推計は(個人ではなく)世帯の資産分布といったものにより近いだろう。Saez and Zucman (2014)が説明しているようにこの方法には長い歴史がある。だが最近ではほとんど用いられることがなくなった。Saez and Zucman (2014)はこれを実施しそして彼らが「distributional Flow of Funds」と呼ぶものを作成するためにこの方法を一般化した。
第二に、資本からの期待収益も実現した利益も資産毎に異なるが所得税の納税申告書からは資本所得がどの資産から生じたのか非常に粗い分類でしか得られない。具体的には配当、利子、キャピタル・ゲイン、賃料、使用料などだ。Piketty (2014)は大きなポートフォリオの利潤率は小さなポートフォリオの利潤率を上回ると議論している。Saez and Zucman (2014)では(その空想上の)利潤率の違いを所得分布間のアセットクラス内の利潤率の相関を許容しないことで(所得税の納税申告書に記載されている所得源に対応する)主要なアセットクラスに対するポートフォリオの構成比率の違いに実質的に組み込んでしまっている。
第三に、capitalization methodでは納税申告書に記載されている資本所得の利潤率は正常利潤率であると仮定されている。この仮定が疑わしいと考える理由が幾つもある。例えば、ある一部の市場は有利な立場にいる個人に対して有利に働くように構成されているかもしれない。極端な例ではインサイダー取引が挙げられる。より極端ではない例としては高い初期投資額を要件とするヘッジファンドなどによって作られるような高利回り金融商品へのアクセスの違いが挙げられるだろう。好ましいものでその上重要な例はスキルを持った起業家や投資家に対する極めて大きな利潤率だろう。これらの例に対してcapitalization methodでは資産の水準を過大推計する。実際の実現した利潤率で割るのではなく小さな正常利潤率で割るためだ(*例えば200%で割る所を2%で割るため)。
第四に、納税申告書上では資本への利潤として扱われているある種類の所得であっても実際の資産には対応していないかもしれない。例えば、「carried interest(成功報酬のようなもの)」に関する取り決めにより投資ファンドのマネージャーには報酬の一部を税率の低いキャピタル・ゲインとして扱うことが許されている。これは高い限界税率に直面する納税者が強いインセンティブに従って行動している多くの例のうちの一例だ。他の例には条件付きストック・オプションからの支払いや非公開会社の報酬形態の選択に関する選択などが含まれる。報酬が資本所得として偽装されているそのような状況が何故資本所得が正常利潤率が示唆するよりも多いのか(そして結果として資産を過大推計するのか)のその他の理由となっている。
第五に、富裕層とは実際、回顧的に見て非常に高い利潤率を受け取った人々かもしれない。これにはマイクロソフト、アップル、グーグルなどの成功したテクノロジー会社が例として含まれる。capitalization methodでは(資産が通常の配当を支払っていれば)株式価値が増加した後に資産を把握する。とは言え、急成長している会社は配当を支払わないことが多いのではあるが(グーグルはまだ配当を払っていない。アップルは2012になってからで、マイクロソフトは2003の配当税率の引き下げに反応して支払いを始めた)。だがcapitalization methodでは個人がキャピタル・ゲインを実現するまではキャピタル・ゲインを把握することが出来ない。仮に把握しようとするとしても急成長の間に実現したキャピタル・ゲインに対応するのは非常に大きな利潤率だろう。だがcapitalization methodではそれを正常利潤率の結果として解釈し従って資産を過大に推計するだろう。この問題は資産分布の上位で特に深刻なように思われる。そしてIPOの増加とともに近年ではこのような事例が増加しているように思われる。従って、そのような問題は幾分かは平均化されるという主張を弱めている。事実、キャピタル・ゲインの問題はcapitalization method全般についてまわる問題だ。所得税の納税申告書には正しく資本化を行うのに必要な資産の保有期間に関する情報が記載されていないからだ。
第六に、capitalization methodは課税逃れ(節税)によるバイアスを強く受ける。事実、相続税のデータを歪める課税逃れ/課税対策の多くは所得税のデータにも同様に痕跡が残る。資産の譲渡などが小さな例として挙げられるだろう。
これらの問題にも関わらずcapitalization methodは図1で示したように1986辺りまではestate multiplier methodを用いて得られたものと大まかに一致している。ここで浮かび上がってくる疑問はそれ以降のトレンドの乖離の原因は何かということだ。それを次の章で説明する。
Lists of the Wealthiest
富裕層のリストはジャーナリストによって報告されているという不利を抱えている。エラーやバイアスが含まれていると考える理由が幾つかあるだろう。だが富裕層のリストの最大の利点は個人を識別出来ることで従って資産が賃金、その他の労働所得、資本所得、相続のどれから生じたものかも識別することが出来る。さらに富裕層の年齢、所属している産業、その他の要素なども知ることが可能だ。
最も良く知られた富裕層のリストはフォーブス400だろう。この集団は1983から2013の資産上位の資産シェアの上昇とされているものの2%ポイントを占めている。だが、このデータの質を懸念する理由がある。例えば、Piketty (2014, pages 441-443)は相続財産が過小推計されているかもしれないとしてデータの質に懐疑的だ。それではということでIRSの研究者が相続税の納税申告書とフォーブス誌のデータを直接比較してみた所(Johnson et al., 2013)、実際の資産はフォーブス誌に掲載されている資産の半分しかなかったことが判明した。この乖離の一部分は課税逃れや資産の割り当て方の違い(相続税は個人で、フォーブス誌は「家族(親族)」の資産であることが多い)。だが乖離はそれでも非常に大きい。フォーブス誌が資産を過大に推計している理由としては債務が把握できないことや資産価値の評価方法に違いがある可能性などが考えられるかもしれない。
Understanding Discrepancies between Different Series
どの方法が大恐慌時の資産分布の変動を把握しているのかという疑問がある。大恐慌の前の時期と後の時期とで2つの方法が似たような動きを示していること、相続税は資産を直接的に調べている一方でcapitalization methodは資本所得と資産との関係に関して正当化するのが困難な仮定に依存していることなどを考えると、後者の方法が大恐慌直後の資産分布の変動を捉えるのに問題を抱えていると考えるのが妥当なように思われる。特に、何故estate multiplier methodの方が1930から1932の非固定収入資産の減少の度合いを誇張したのかを理解するのは困難だ。
1960頃から1980年代の初期に掛けてSCFの前身を用いたsurvey-based methodが利用可能になった。3つの方法はこの期間の資産分布が(資産上位1%の資産シェアの水準には違いがあるものの)ほぼ一定であったということで一致している(capitalization methodとestate multiplier methodで資産上位0.1%の資産シェアもこの期間には驚くほど一致している)。
この乖離はどのように説明することが出来るのか?その理由には、富裕層の死亡率が低い可能性(estate multiplier methodにバイアスが掛かる恐れ)、調査の代表性に関する懸念(survey-based methodにバイアスが掛かる恐れ)、capitalization methodの利潤率のバイアスにあるトレンド、例えば税法の変化(capitalization methodにバイアス)や課税逃れ(capitalization methodとestate multiplier method両方にバイアス)などのような、資産と納税申告書に記載されている個々の資本所得との間にある関係性の変化などが挙げられる。
Composition of Top Wealth and Tax Incentives
税のデータを用いる2つの方法が抱える問題は税のインセンティブの変化から生じる。第一に、どちらの方法も課税逃れ(節税)と課税回避(脱税)によって歪められる。このことは資産格差を小さく見せることになるもののトレンドに対して大きな影響を与えるかどうかははっきりとしない。課税逃れは新しい現象でも何でもないし課税逃れが増加したのか減少したのかはっきりしたことが分からないからだ。国際的なタックス・シェルタリングが恐らく近年では大きな話題になっているかもしれないが、法人税のタックス・シェルタリングの方が過去には遥かに大問題だった。課税逃れが時間とともに増加しているという考えは税率の推移から見ても受け入れることは難しい。所得税の最高税率は1930年代の中頃から1981までは60%を超えていた。そして最も高い時には94%だった。それが1981から1986の間に28%へと大幅に引き下げられる。そしてそれ以降も40%を下回ったままだ。さらに、課税逃れは2つの方法に同時に影響を与える可能性が高い。特に、相続税を逃れるには資産とそれに関連する所得の移転が普通は伴う。従って、相続税乗数とcapitalization method共に影響を受けるだろう。
乖離を理解する上で重要な税に関する出来事があった。1986のTax Reform Actは特に所得を法人から個人の納税申告書へとシフトさせるインセンティブを生み出し非常に大きな行動の変化を引き起こした(Gordon and Slemrod 2000)。Piketty and Saez (2003)で所得上位の所得シェアの単一にして最大の上昇は1986から1988に発生している。そしてまさしくこのインセンティブを反映している。この時がcapitalization methodが上昇ドリフトを始めたまさにその時だ。estate multiplier methodにはその時期にそのような反応は見られない。このことは(所得税の情報に基づく)capitalization methodは(他の直接的な方法には影響しない)税によって引き起こされた申告行動の変化またはキャピタル・ゲインの実現に反応している可能性がある。より一般的に、インセンティブの変化と1986以前に法人税のタックス・シェルタリングの原因となっていた法制の廃止(「General Utilities doctrine」の廃止のような)によって資産が(法人税ではなく)所得税のデータの方に現れる度合いが上昇した。そのようなトレンドは、少なくとも基本的には税の変化によるバイアスの影響を受けないSCFの方が1960年代と1980年代前半でcapitalization methodよりも大きな資産格差を示していることとその差が時間とともに消滅したのは何故なのかの潜在的な説明になる。
大恐慌の直後と同じように、2つの方法で生じた乖離は資産上位の資産の構成の乖離にも求められるかもしれない。図3が示すように、2つの方法の1986の急激な乖離は最初には固定収入部分の変化によってもたらされている。1986のTax Reform Actに関連した2つのインセンティブの変化がこのことの潜在的な理由として挙げられるだろう。第一に、この税制改革は利子支払いの控除可能性を大幅に削減した。そして所得税の納税申告書に記載される純資本所得を増加させたかもしれない。それによりcapitalization methodの資産上位の資産シェアが上昇させられることになった。第二に、法人税から所得税へのシフトは固定収入として分類されるカテゴリーを含めたすべての種類の事業型の所得を増加させるだろう。
年度を進めて、estate multiplier methodは1990年代後半の株式市場の上昇を完全に把握できていないように見える。これはSCFもそうだ(SCFは3年に1度の調査なのでそのことが理由かもしれない)。一方で、capitalization methodではバブルがはっきり見て取れる。これは非常に不可解だ。estate multiplier methodは相対的に若く従って死亡率の低いと思われる成功したテクノロジー会社の株主を幾分か把握できていないということはあり得る。とは言っても、若くして死亡した個人が重点的に重み付けされるだけなので基本的には問題にならないはずだ。また、他の人のポートフォリオが部分的にテクノロジー株に投資されるので急増が見えるはずだと思われるかもしれない。ところがそのどれも解答であるようには思われない。一つの潜在的な説明としては所謂「alternate valuation」の選択が挙げられる。これは資産を死亡時よりも後で評価することを可能にするものだ(とは言っても、普通は1年以内に行われる)。これによりバブルのピークが平滑化される。だが、その存在を完全に消し去るとは考え難い。従って、この部分だけを見ればcapitalization methodを支持しているように見える。だが、それは同時にcapitalization methodの仮定の一つにも疑問を投げ掛けることになる。相続税の納税者が株式価格の急増を見逃すのであればcapitalization methodが想定しているのとは異なり多様化(分散化)が不十分でなければならない。言い換えると、この部分は所得税の納税申告書に記載された多額の資本所得は正常利潤率ではなく非常に大きな利潤率を反映しているという考えを支持している。
Mortality Rates for the Wealthy
最初の方で触れたように、相続税から全体像を把握するには死亡率を用いる必要がある。この方法では死亡した人を集団の代表的なサンプルとして扱う。だが、富裕層の死亡率は人口全体と比べて低いかもしれない。Saez and Zucman (2014)は社会/経済的な死亡率の差が近年拡大しているかもしれないことを示唆するものを引用している。さらに、富裕層の死亡率の変化を把握するために彼らは機密のIRSのデータを用いて大学卒業者の死亡率は資産上位10%の死亡率に対してはよい近似となっているがそれ以外に対してはまだ過大に評価していると主張している。例えば、彼らは65歳から79歳までの資産上位1%の男性の死亡率は資産上位10%の死亡率の4分の3だと主張している。それは非常に大きな死亡率の差だ。さらに、彼らはこの差が1970年代以降拡大していると主張している。そして彼らの主張するこのバイアスによってestate multiplier methodとcapitalization methodとの間にあるトレンドの乖離を説明できると主張している。
彼らの主張するバイアスで説明できる乖離の部分というのもまた限られている。パラメータaがパレート分布していると仮定して、1+xの因子で死亡率の差が比例的に増加したとするとestate multiplier methodでは資産上位の資産シェアが(1+x)1/aで上昇することになる。x=0.3(Saez-Zucman, 2014が主張する極めて大きな値だ)としてa=1.5(Kopczuk and Saez, 2004a)とすると資産シェアの20%の調整となるだろう(2000時点で)。それは資産上位1%で4%ポイント、資産上位0.1%で2%ポイントの調整となる。capitalization methodとestate multiplier methodの間に発生している乖離を説明するには完全に不足している。
最初の方で触れたように、SCFは明示的にフォーブス400に掲載されている個人を除外している。Saez and Zucman (2014)はSCFとcapitalization methodに乖離が発生するのは何故なのかに対する理由としてSCFがこれらの個人を除外しているからだとしている。だがアメリカには1億以上の世帯があること、資産上位1%の世帯も100万以上存在することを思い出す必要がある。仮にフォーブス400が超富裕層を正確に捕捉していたと仮定しても(最初の方で説明したようにこの仮定は疑わしい)、資産上位400の変化はcapitalization methodが示す1983から2012の期間の資産上位1%の資産シェアの15%ポイントの上昇の2%ポイントを説明するに過ぎない。
資産上位400を除外した資産上位1%に対して、SCFがそれらの人々を見逃し重み付けによってもそれを修正できていないということはあり得る。とは言っても、Kennickell (2009a)はその主張を裏付ける証拠は何一つ発見できなかったと報告している。SCFのサンプリング方法は所得税の情報に基いている。従って、実質的にcapitalization methodと同じような方法で富裕層を識別している。どちらの方法でも資産は前もって観測されているわけではない。富裕層は所得からの資産の予想に基いてサンプルされている。もしこのサンプリング方法が失敗だというのであれば、capitalization methodも同様の問題に直面する。同様に、SCFが年金や人的資本へのリターンなどを除外しているのと同じようにcapitalization methodもこれらの資産を除外している。これらの資産からの所得が所得税として課税される範囲ではそれらは労働所得として課税されるだろう。
全体として、資産格差に関する既存の証拠は最終的なものではない。良いのはSCFを用いたsurvey-based methodやestate multiplier methodだろう。何故ならば時間の経過に対して整合的な結果を生み出すのに必要となる仮定と補完がcapitalization methodでは強すぎるからだ。
(省略)
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