Brian M. Riedl
議会上院多数派の民主党はブッシュ減税を拡大するのか延長するのか廃止するのか決定しなければならない。この減税は政治的な思惑に用いられやすいことが容易に想像できる。2001に政府支出が42%増加したにも関わらず批判者はこの減税のせいで予算が抑えられたと主張する。2003以降に経済成長が拡大して500万の新たな雇用が創出されたにも関わらず批判者はこの減税が経済に貢献しなかったと主張する。所得税がより累進的になったにも関わらず批判者はこの減税のせいで所得格差が拡大したと主張する。
ブッシュ減税に関する通説はすべて誤りだ。現実には、
減税は当期の税収を大きくは減らしていない。事実、2006の税収は減税前の2000時点での税収予測と減税前の2003時点での税収予測と大きな違いがない。
子供向け税額控除の拡大、新しい10%の税率区分、AMTの固定化の方が「富裕層のための減税」よりもはるかに税負担を軽減させた。
最適な税制を考える上では巷に流れる民間伝承ではなく事実が必要となる。だからブッシュ減税にまつわる10の神話を打ち砕くことにより歴史をきちんと正すことが重要だ。
Ten Myths About the Bush Tax Cuts-and the Facts
神話1 税収は低いままだ。
事実 税収は減税の後でさえも歴史的平均を上回っている。
神話2 ブッシュ減税は2006の税収を大幅に減らし財政赤字を拡大させた。
事実 2006の財政赤字のほぼすべては基準予測を上回る政府支出の拡大により発生した。
神話3 サプライサイド経済学はすべての減税が即時に自己回収すると仮定している。
事実 サプライサイド経済学は(必ずしもすべてではなく)税収減の何割かが回収されると仮定している。
神話4 キャピタル・ゲイン減税は自己回収されない。
事実 キャピタル・ゲイン税収は2003の減税以降2倍以上になった。
神話5 ブッシュ減税は長期の財政赤字の見通しの原因だ。
事実 見通しは義務的給付が税収の大幅な増加を上回ると予想していることを示している。
神話6 税率の引き上げは税を集める最良の方法だ。
事実 税収は税率ではなく経済成長と相関している。
神話7 富裕層への減税を取りやめれば税収が大幅に増える。
事実 低所得層への減税が最も税収を減らしている。
神話8 減税は「人々の財布にお金を入れる」ことにより経済を成長させる。
神話9 ブッシュ減税は経済成長の助けとなっていない。
事実 経済は2003の減税に対して強く反応した。
神話10 ブッシュ減税は富裕層を優遇するためのものだ。
事実 富裕層の税負担はむしろ拡大している。
神話1 税収は低いままだ。
事実 税収は減税の後でさえも歴史的平均を上回っている。
2006の税収はGDPの18.4%だ。これは税収の20年平均、40年平均、60年平均を上回っている。インフレを調整した2004から2006の20%の増加は1965から1967のもの以降で最大だ。アメリカの納税者は歴史的水準から見て税を払っていないという主張(思い込み)は完全に間違いだ。
ブッシュ減税の批判者の中で幾人かは税収が歴史的平均を上回っていることを認めながらも尚も税収は好景気に入って4年目の経済にしては少ないと主張している。その好景気を生んだ要因の何割かが減税だという点は置いておくとして数字は批判者の主張を支持していない。過去3回の不況期の終わりから4年経過した時点での税収を比較してみるとほぼ同じであることが見て取れる。
1995の税収はGDPの18.5%
2006の税収はGDPの18.4%
税収がGDPに占める割合は不況前の水準(2000の20.9%)に戻っていないもののその水準は一時的な株式のバブルによってもたらされた歴史的に例外的なものだった。
神話2 ブッシュ減税は2006の税収を大幅に減らし財政赤字を拡大させた。
ブッシュ減税の批判者は飽きることもなく1998から2001の財政黒字から2006に(1ドル=100円として)24兆7000億円の財政赤字になったのを「無責任な」ブッシュ減税のせいだと言い張っている。この主張は政府支出が2001にGDPの18.5%から2006に20.2%へと歴史的水準に急速に拡大したことを無視している。
財政黒字から財政赤字への変化の原因を知る最良の方法は減税前のCBOの税収予測と実際の税収を比べることだ。2000の1月の税収予測は2006に32兆500億円の財政黒字と予想していたものの、2006の予算は24兆7000億円の財政赤字で57兆2000億円の違いとなっている。これは政府支出が予想を51兆4000億円上回り税収が5兆8000億円下回っている(18兆8000億円の減税の後でさえも)ことに起因している。言い換えればこの違いの90%は予想を上回る政府支出の増加(ちなみに軍事費が要因ではない)が原因で税収は10%でしかない(図1を参照)。
さらに、2006の税収は実際に減税前の2003の税収予測を上回っている。2003の減税の前にはCBOは2006の財政赤字が5兆7000億円だと予想していた。実際の2006の財政赤字は24兆7000億円だった。この19兆円の違いは政府支出が予想より23兆7000億円上回っていたことが起因している。実際に税収は予想を4兆7000億円上回っていた。基準線が計算された後に7兆5000億円の減税が実施された後でさえもだ。この基準で見れば政府支出は2006の財政赤字の125%の原因を占める。そして税収の増加はその支出の増加が原因の125%のうち25%を打ち消していることになる。
2006の税収はブッシュ減税前の税収予測から大きく離れているわけではない。減税により2006の税収は18兆8000億円減少するだろうと予想されていたものの2000の1月に予想されていた減税前の税収予測を5兆8000億円下回っていたに過ぎない。
事実 サプライサイド経済学は(必ずしもすべてではなく)税収減の何割かが回収されると仮定している。
強力な理論を反駆しようとする試みには藁人形を用意して代わりにそれを叩くという行為が非常に効果的だ。批判者はサプライサイド経済学をすべての減税が自己回収されると考えていると故意に誤って定義する。そして完全に自己回収されなかった減税を持ってきてサプライサイド経済学が反証された決定的な証拠だと言って専門家からは相手にされずに内輪で自分達だけで盛り上がっている。
・税収は税率だけではなく課税ベースにも依存している。
・税率の引き上げは行動に変化を与えそれ故課税ベースは縮小する。そして税収増の何割かはそれにより打ち消される。
・税率の引き下げは行動に変化を与えそれ故課税ベースは拡大する。そして税収減の何割かはそれにより打ち消される。
政策当局者が喫煙を減らすためにたばこ課税を考えているのであれば投資課税は投資を減少させ所得課税は労働を減少させるとも考えなければならない。税率を引き下げることは対象となる行動を奨励し課税ベースを拡大させ税収減の何割かが回収される。これが減税の「フィードバック効果」だ。
税収減の100%が回収されるかどうかは税率がラッファーカーブに占める位置に依存している。それぞれの税は税収最大化税率を持つ。税率がそれを上回れば税収は減少する。税率がその水準を上回った場合に、税率の引き下げによって税収は増加する。そうでない場合には税収減の何割かが回収される。
フィードバック効果の大きさは納税者がどのぐらい行動を変化させるかに依存している。売上税や財産税の引き下げは一般的に法人税や所得税と比べ小さなフィードバック効果を引き起こす。納税者はこれらの税率の引き下げに対して大きくは購入を増やしたり家を買ったりなどの反応をしないからだ。所得税はより高いフィードバック効果を持つ。Ed Prescottは税率の低さと労働時間の多さに強い結び付きが国際的にあることを示した。投資課税は最も高いフィードバック効果を持つ。投資家は税率の高い投資を簡単に回避することが出来るからだ。驚くべきことではないが投資税率の高さが投資を大幅に減少させ結果として税収はわずかしか得られなかったことを歴史は示している。
それでもなお(批判者による基準を用いれば)予想されていた税収減の95%を回収した減税でさえサプライサイド経済学の「失敗」と看做されるだろうし(これを地でやっているのがスティグリッツだ)サプライサイド経済学の完全廃止を主張するだろう。
事実 キャピタル・ゲイン税収は2003の減税以降2倍以上になった。
以前にも述べたように減税が自己回収されるかどうかは人々がどのぐらい行動を変えるかに依存している。投資家は税制に最も敏感に反応することが示されている。キャピタル・ゲイン減税は税収減を打ち消す以上の新しい投資を奨励するからだ。
神話5 ブッシュ減税は長期の長期の財政赤字の見通しの原因だ。
事実 見通しは義務的給付が税収の大幅な増加を上回ると予想していることを示している。
アメリカの長期の財政赤字の話はよくニュースになっている。だがこれを2001と2003の減税が原因だと勘違いしている(または責任をすり替えようとしている)リベラル派は多い。実際には税収は歴史的平均を上回って増加すると予想されているが義務的給付がそれを上回ると予想されている(図3を参照)。
過去半世紀に渡って税収は大体GDPの18%で推移してきた。CBOは2000と2003の減税が恒久化されたとしてもそれでも税収は現在の18.4%から2050に22.8%へと上昇すると予想している(ここでは減税の正のフィードバック効果は考慮されていない)。ブッシュ減税が廃止された場合には税収は2050に23.7%へと上昇すると予想している(ここでは増税の負のフィードバック効果は考慮されていない)。実質的には税収がGDPの4.4%増加するか5.3%増加するかでブッシュ減税は(CBOで)議論されている。
過去半世紀に渡って政府支出は大体GDPの20%で推移してきた。だがベビーブーマー世代の引退により年金、メディケア、メディケイドを併せた支出が10.5%増加すると予想されている。これが財政赤字を引き起こし利払いを増加させると仮定すると政府支出はGDPの38%またはそれよりはるかに高くなるかもしれない。
まとめると税収はGDPの18%から23%へと増加すると予想されている。政府支出はGDPの20%から少なくとも38%以上へと増加すると予想されている。2001と2003の減税を廃止したとしても予想されているGDPの15%の赤字を1%ポイント以下低下させるに過ぎない。それも増税による負のフィードバック効果を仮定しない上での話だ。明らかにフランス型の政府支出の増加が問題だ。法律作成者は義務的給付を抑えることに焦点を絞るべきだ。
神話6 税率の引き下げは税を集める最良の方法だ。
事実 税収は税率ではなく経済成長と相関している。
増税を支持する人々(メディア)は議会に税率を引き下げるように要求している。だが税収は2つの変数、税率と課税ベースの関数だ。課税ベースは税率とは逆の方向へ変化し税率の変化の影響を相殺する。図4は税率と税収にわずかの相関しかないことを示している。1952以降、最高限界税率は92%から35%へと低下してきた。だがインフレを調整した後で見た税収はGDPの一定の水準のままだ。
税収はGDPとともに変動するので税収を増加させる常識的な方法はGDPを拡大させることだ。これは成長促進的な政策(限界税率の引き下げ、政府支出の削減、規制の最小化、自由貿易など)が自己破壊的な増税よりも多くの税収をもたらすことを意味している。所得を減少させる政策では税収を大きく集めることは出来ない。
事実 低所得層への減税が最も税収を減らしている。
それにも関わらず減税の批判者の多くがブッシュ減税による子供向けの税額控除、結婚に対する罰則の軽減、新しい10%の税率区分を廃止することに反対している。これらの政策が低所得層に大きく恩恵を与えているからだ。さらに批判者は広範で大規模な増税を防ぐためにAMTがインフレに対して調整されることも支持している。批判者は富裕層や投資家への減税を取りやめて2001以前の相続税の水準に戻せば税収が大幅に増加すると主張している。繰り返すが数字はこの主張を支持していない。
CBOとJCTのデータによると子供向け税額控除、結婚に対する罰則の軽減、10%の税率区分、AMTの固定化で併せて2007に11兆4000億円の財政に対する影響があったことが示されている(表2を参照)。これらの政策はその費用を最小化させるような強力なサプライサイド効果を持っていない。
比較として悪く言われているキャピタル・ゲイン、配当、相続税の減税は大きくて正のサプライサイド効果を考慮に入れる前でさえ2007の税収を3兆6000億円減らしただけと想定されている。従ってこれらの減税を廃止したとしてもわずかの税収しか得られないだろうし税収が減る可能性すらある。そのような増税は経済成長に不可欠な貯蓄と投資を確実に減らすだろう。
所得税の減税は2007で5兆9000億円で実際の所は富裕層に対する減税ではない。課税所得が620万円以上のすべての家計(納税者が1人で課税所得が310万円以上の家計)は恩恵を受けている。この減税を廃止することは労働のインセンティブを減らし何百、何千万という家計と中小企業に対する増税となるだろう。それにより経済は打撃を受け得られる税収は最小化させるだろう。
神話8 減税は「人々の財布にお金を入れる」ことにより経済を成長させる。
事実 成長促進的な減税は生産的な行動へのインセンティブを強化する。
政府支出は「新しいお金を経済に注ぎ込む」ことが出来ない。何故なら政府は初めに課税か借入によってお金を集めなければならないからだ。減税は「人々の財布にお金を注ぎ込む」ことにより経済を成長させるという主張は益生刺激策の誤謬を逆から見たものだ。正しい減税の理解とは、減税は経済に対する政府の影響を減らし人々がより市場メカニズムに反応することを可能とさせそれによってより生産的な行動を奨励するので経済を成長させる、だ。
税の払い戻しなどの特定の減税はお金を貯蓄家から浪費家へと移すことにより需要を増加させると言う人もいるだろう。この議論は貯蓄家がマットレスの下などにお金を隠して経済の循環から隔離していると暗に仮定している。現実にはほぼすべてのアメリカ人が貯蓄を投資して事業投資へのファイナンスをしているか銀行へお金を預けている(そのお金もすぐに支出または投資の目的で貸し出される)。それ故、(最初には)消費されたものだろうと貯蓄されたものだろうとお金は誰かによって支出される。従って税の払い戻しは新しい経済活動を生み出さないし「景気を刺激する」こともない。
これは税制が経済成長に影響を与えることが出来ないということを意味しない。減税は資本と労働という生産的な資源を大幅に増加させることが出来る。経済成長にはより多くの財とサービスを企業が効率よく生産することが必要になる。そして生産の拡大には継続した投資と生産的な労働力が必要になる。だが高い限界税率はそのような活動を阻害する。限界税率の引き下げにより労働、貯蓄、投資へのリターンは増加し、それ故投資と生産的な労働力が増加する。
それでも、「人々の財布にお金を注ぎ込んで」そして「人々にお金を支出させる」ための需要側の減税を提唱する者がいるだろう。2001の税の払い戻しを例に見てみよう。ワシントンは投資家からお金を借りてそのお金を6万円の小切手の形で郵送した。簡単に予想できたことだがこの既存の富の単純な移し替えは一時的に消費支出を増加させたものの同額の投資を減少させたので何の足しにもならなかった。税の払い戻しは生産的な行動とは無関係だったので新しい富が形成されることもなかった。払い戻しを受けたからといって誰も労働したり貯蓄をしたり投資をしたりすることはなかった。既存の富を再分配することによっては新しい富は生まれない。
対照的に限界税率は1920年代、1960年代、1980年代に引き下げられた。これら3つの年代すべてで投資は増加しその後経済成長率が上昇した。実質GDPは1921から1929に59%、1961から1968に42%、1982から1989に31%拡大した。より最近では2003の減税が過去3年間に高い経済成長をもたらした。
労働、貯蓄、投資を奨励する政策が消費者の財布にお金を流しこむことを目的とした政策よりもはるかに有効だ。
神話9 ブッシュ減税は経済成長の助けとなっていない。
事実 経済は2003の減税に対して強く反応した。
2003の減税は所得税率、キャピタル・ゲイン税率、配当税率を引き下げた。これらの政策は労働、貯蓄、投資のインセンティブを高め雇用を創出し経済成長を高めることを目的としていた。2003の減税の6期前からと6期後までの分析(2001の不況の影響を取り除くのに十分な時間枠)はこれが丁度起こったことであることを示している。
2003の減税の6期前からは経済は平均で1.7%で成長していた。減税が実施されて以降の6期では経済は平均で4.1%で成長している。
2003の減税は批判者が最も反対するサプライサイドの政策だったから成功した。所得税の限界税率の引き下げ、キャピタル・ゲイン税率と配当税率の引き下げなどだ。2001の減税は税の払い戻しや再分配など需要側に基づく政策であったため失敗した。
事実 富裕層の税負担はむしろ拡大している。
民間伝承によると2001と2003の減税により低所得層の税負担が増えたことになっている。高額所得者は低所得層よりもより恩恵を受けたもののそれはそもそも初めから低所得層が所得税をほとんど払っていなかったからだ。同じ1%の減税でも富裕層の方が恩恵が大きいのは減税の前から富裕層が税を多く支払っていたからだ。
それらの人達を対象から外すのではなく法律作成者は税制を変更した(これによってその集団の税負担は負になったと経済学者は言うだろう)。第一に、法律作成者は税率区分を15%から10%へ引き下げた。それから払戻可能の子供向けの税額控除を拡大した。これにより標準的な低所得層の税負担はゼロをはるかに下回るようになった。結果としてアメリカの財務省は今では多くのアメリカ人に税を「納める」ようになった。所得税の納税額がゼロまたは負の納税者の人数は3000万人から4000万人または全納税者の30%に増えた。残りの70%の所得税、投資税、財産税の税率は引き下げられた。
結果として2000から2004の期間に、納税下位40%が支払った所得税の割合はゼロ%から-4%へと低下した。それらの平均的な納税者はIRSから補助金を受け取っていることを意味する(図6を参照)。対照的に所得上位が支払った所得税の割合は81%から85%へと上昇した。
すべての連邦税に対象を拡大したとしても所得上位が支払った税の割合は2000の66.6%から2004の67.1%へと上昇している。一方で所得下位40の割合は5.9%から5.4%へと低下した。明らかに減税によって富裕層の税負担は増加し低所得層の税負担は減少している。
Conclusion
(省略)
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