EUGENE KONTOROVICH
ケリー長官は外交上の2つの大きな問題であるロシアのクリミア侵攻とヨルダン川西岸へのイスラエルの実効支配を解決するため奔走して回った。だが彼は自身が世界の歴史の皮肉に直面しているということにまったく気が付いていないように見える。これはどちらもまったく同一の国際法上の原則を適用すべき事例だ。事実、アメリカがこれらの原則を一貫して適用することが出来ずにいることが中東問題を長年に渡って解決できない原因であり、ロシアの侵攻への口火を切らせた原因でもある。
よってウクライナがクリミアを自国の領土だと主張する根拠のすべては亡くなった長官の気まぐれということになる。だが国際法ではそれこそが重要だ。新しい国が古い国から生まれた時や植民地支配から独立した時には、最後の公式の国際線上の国境が新しい国境と認められる。このドクトリンはuti possidetis iuris(ウティ・ポシデティスの原則、国は法の下に領土を保有する)原則として知られる。この原則は世界中の新しい国の国境に適用され国際司法裁判所による国際法の基本原則として認識されてきた。一つの国から複数の国が誕生した時でさえ、丁度USSRからロシアとウクライナが誕生したように、内部行政機関による以前の決定が新しい国際線上の国境線となる。
驚くことに、この原則は古い国境線が植民地によるものであっても、もしくは非民主的に課せられたものであっても完全に適用される。そうでなければ新しく誕生した国の国境線はすべてが領土紛争の対象となるだろう。そして国境線を巡る近隣諸国との終わりのない争いが繰り広げられるに違いない。それが国際法が、植民によるものでさえも、最後の公式の国境線を恒久的なものとして定めた理由だ。それ以降の武力侵略はそれを覆すことは出来ない。ロシアのクリミア攻撃への反応が示すように。
では、この原則をイスラエルに適用してみよう。
第一次世界大戦時のオスマントルコの崩壊により、中東に多くの国が誕生することになった。オスマントルコの核はトルコという新しい国となり、そのトルコがオスマントルコの領土の所有権すべてを放棄した(イスラエルだけではなく、イラク、シリア、レバノン、ヨルダンへと)。イギリスとフランスは征服したオスマントルコの領土の一部を自らの領土とするのではなく生まれたばかりの国際連盟を通してそれらの領地を「委任統治領」とした。ヨーロッパの国々はそれらの委任統治領を新しい国々として独立させようと働き掛けた。国際連盟は、「以前はオスマントルコに属していた」領土の委任統治を根拠付ける国連規約に従ってそれを実行した。
1922年に、国連はユダヤ人の国家的郷土を定めた新しい「国」を承認した。これが委任統治領パレスチナだった。委任統治の規約によって、ヨルダン川東にトランスヨルダン(現在ではヨルダンと呼ばれている)を建国するためにパレスチナはヨルダン川で分割された(パレスチナ委任統治領は本当はもっと広大だったが、イスラエルはヨルダン川を境界にそれを放棄することを了承した)。それ以降は、委任統治領パレスチナの国際上の境界線はヨルダン川から西側を指すようになった。国際連盟の委任統治領パレスチナはイスラエルの国境に法的根拠を与えているのみならずヨルダンの国境にも、というよりもヨルダンの全存在にも法的根拠を与えている。
イスラエルは委任統治領パレスチナに建国された。従ってウティ・ポシデティスの原則により、イスラエルは委任統治領の国境線を受け継いでいる。唯一の論点は、その国境線を法的に修正するような出来事が1920年代以降に起こったかどうかだ。
The Partition Proposal
国連決議181は、多くの人が誤解しているのとは異なりユダヤ国家を「生み出して」などいない。ユダヤ国家の建国は25年前に国際連盟によってすでに、そして後のイスラエルの独立宣言と独立戦争によって行われている。国際連合はイスラエルが生き残るための手助けを一切行っていない。
The Green Line
イスラエルは1949年に近隣諸国と休戦協定を結んだ。これらは無論平和協定ではない。それらは一時的な戦闘の停止に対する合意だ。1949年の所謂「グリーンライン」はイスラエル兵とアラブ兵が超えてはならないという境界を単に定めただけだ。国家の国境線を定めるものでも何でもないので、委任統治領の国境線は完全に保存されている。イスラエルが結んだ休戦協定にはすべてにこれが反映されている。イスラエルとヨルダンとの休戦協定を例に見てみよう。「この協定の規定はパレスチナ問題の最終的平和的な解決を目指す本協定の両当事者の如何なる権利、主張、立場を侵害してはならない。この協定の規定は軍事に関してのみ限定的に適用されるものとする」。その他の規定も両当事者は委任統治領の国境線をパレスチナの唯一の国際上の国境線だと認めるとはっきりと言及している。唯一の論争は最終的に誰がそれをコントロールするかということだ。
よってグリーンラインを策定したまさにその文書が、これはイスラエル兵とアラブ兵を隔てるための一時的な休戦ラインであって国境線を定めるものではないとはっきりと語っている。6日間戦争の間にフセイン国王が休戦ライン周辺で攻撃を仕掛けてきた後、そしてイスラエルがヨルダンの占領軍を追い出した時にそのような境界線の必要性は完全に終わりを告げた。
国連の安全保障理事会は6日間戦争に対して安保理決議242を下した。これがその後の安保理の行動の指針となっている。実際の文書を見て見る前に、1947年の国連総会の場合と同様に、安保理もすでに存在している国境線を書き換える力はないということを知っておく必要がある。安保理は特定の「拘束」を課す権限を保有しているが、国際的平和が破られた場合に経済的、軍事的手段で対応することに限られている。国連加盟国の国境線を書き換えるようなことは出来ない。
決議242は「最近の衝突で占領した土地からのイスラエル軍の撤退」を求めていることはよく知られている。起草者は、占領したすべての領土からイスラエルは撤退するようにとの要求を退けるために言葉を注意深く選び、そして撤退の規模は将来の外交に委ねるとしている。決議242の条文は「すべての」領土から撤退することを求めたであろう他のバージョンに対する牽制としてイギリス人によって起草された。
最近の衝突でという部分は占領した土地という部分に先行していない(掛かっていない)とクレームをつける人たちが大量に現れた(恐らくは英文を見ないと意味がわからないと思うが)。だがアラブ-イスラエル間の他の多くの議論と同じように、そのような議論はイスラエルだけを異世界の法で解釈してしまうという問題が発生する。実際、安保理がすべての領土からの完全撤退を求める場合に領土という単語の使い方が標準的であったのかどうかを見ることは極めて簡単だ。私は軍事撤退を要求する16の他の決議を調べた。そのうちの4つは1967年より前のものだ。完全撤退の要求は「withdraw from the whole territory(すべての領土からの撤退)」とか「the territory(その領土)」といった具合にはっきりと明文化されている。その際には、武力衝突が起こる前の領土を記した特定の文書が必ずと言っていいほど参照されている。決議242の条文は安保理の歴史としては異端だ。だが条文の起草の歴史や条文の意図とは整合的だ。従って決議242が完全撤退を求めているというのは決議の読み違えであるだけではなく他の重要な16の決議をも意味の通らないものにしてしまう。
まとめると、国連憲章に従って行動する国際連盟(連合)は委任統治領パレスチナの領土を1922年に確定した。他の委任統治領の領土が現在の中東諸国の国境線となったのとまったく同じように。1947年の分割決議提案を見ても分かるように、国連総会はその領土を変更させるような権限を持たない。1948年から1949年のアラブによる武力侵攻も、それ以降の国際社会の解釈もイスラエルの領土に対して一切の法的影響力を持たない。
国際社会の感情はイスラエルに対して極めて攻撃的だというのは事実だ。だが国際法は人気投票ではない。もしそうであれば、イスラエルはとっくの昔に地球上から消滅していただろう。
これらのいずれもパレスチナ国家の建設を妨げるものではない。そのような議論は完全に外交的、人口的配慮に従って進められている。仮に、委任統治領はイスラエルに広大な領土を与えすぎているという考えを受け入れたとしても、1948年から1949年のアラブの武力侵略により実効支配が成立したとか国境線となったというのは以ての外だ。いずれにしてもパレスチナ国家の建設というのはイスラエルとパレスチナ双方の同意によってのみ行うことが出来るしそうするべきだ。
もし(ヨルダン川から地中海までのどこかに)パレスチナのアラブ人の国があるはずなので(曖昧な概念ではあるが)国際法上の民族自決の原則が該当するはずだと考える人がいたとしても、uti possidetisの原則はそれでもなお重要性を持つ。
イスラエルがその不安定化を食い止めようとすると、ユダヤ人には非ユダヤ人を治める権利などないとか様々な難癖が始まるだろう。それからロシアの主張(ソビエト連邦の復活)と比較すれば多くの人が不思議とマシだと錯覚してしまう様々な正当化が始まるだろう(アラブ連邦の復活など)。それらの主張/スローガン(アラブは一つ、カリフ制の復活、再び大アラブを復活させようなど)はイスラエルに住むアラブ人を駆り立てるには十分だろう。そのような状況で、国際法上完全に正統だったイスラエルの国境線に対して半世紀以上の間嘘をつき続けてきた国際社会がイスラエルを守ろうとするだろうか?
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