2016年5月21日土曜日

日本でリフレ派が総崩れしていたその頃、アメリカではケインズ派が悲惨な総崩れをしていた?パート1

・記事を訳したからといってこの筆者ら(market monetaristと呼ばれる人々)の主張を自分が全面的に支持しているという訳ではない。2013年のアメリカの緊縮をまとまった形で記事にまとめている人が他にはあまりいなかった、彼らの主張である緊縮の負の影響を金融政策が打ち消したという部分以外は正しいと思われるからというのが取り上げた理由。金融政策による打ち消しがあったという主張が間違っている理由は簡単で単年度で50兆円という巨額の財政赤字の削減に対してQE3(量的緩和)がその影響を打ち消したというのはまずあり得ないから。

・それに乗数がケインズ派のいうように流動性の罠では2にも3にもなるというのであれば(ケインズ派がいつも行っているように議論をすごく単純化させると)短期的な負の影響は100兆円から150兆円にもなるはずでそれを量的緩和で打ち消したのであればどうしてそのような巨大な効果に誰も気が付かないのか、どうして今さらに量的緩和をやらないのかという答えるのに苦慮すると思われる疑問が出てくるから。

・素直に考えて、(ここでは増税も財政支出の削減も緊縮とひとくくりにしているが、経済に悪いのは増税であって財政支出の削減ではないと両者をはっきりと区別するべき)不況期であろうと流動性の罠の時であろうと平常時であろうと緊縮には経済に対する負の影響など初めからなかったと考えるべきだと思われるが、そのことはどちらの陣営からも指摘されることはないのであった…

・少し込み入った内容を見ていくと、2013年にはファニーメイ、フレディマックからの10兆円の一時的な払い戻し、富裕層に対する増税はケインズ派的には増税とは見做せないと主張するかもしれないがそれらの影響がほぼ消えている2014年、2015年、2016年現在でも財政赤字は大きく削減されたまま一度も増加しておらず、だというのに恐慌にも不況にもなっていないのだった。

・本文中の名目GDPというところは実質GDPに置き換えても内容はほとんど変わらない。

Is Monetary Policy Capable of Offsetting Fiscal Austerity?

David Beckworth

Mike Konczalはアメリカ経済に大きな自然実験の機会が訪れたと主張する記事を書いた。それはRamesh Ponnuruと私が2011辺りに提案していたものによく似ていた。巨大でしかも国家的な経済実験の機会というのはそうは訪れない。だが2013はそれを試す良い機会のように思われる。去年途中からのマクロ経済政策を観察していれば2つの大きな流れがあることが見て取れる。連邦準備制度理事会(以下FRB)はエバンス・ルールとQE3を採用した。同時に、アメリカでは緊縮が行われた。FRBの政策は経済活動の縮小を打ち消すのに十分だったか?それを議論するには今はまだ時期が早すぎるかもしれない。経済学者は恐らくこの出来事を1世代に渡って議論するだろう。だが昨日の低調だったGDPレポートを見る限りではまるで財政政策が優勢であったかのように見えなくもない。

従って、Mike Konczalは金融政策は緊縮の影響を打ち消すことが出来ないと評価を下したようだ。Paul Krugmanは流動性の罠での金融政策の有効性に疑問符を付ける他の人同様にそれに賛成した。私は興味深い実験が行われているということには同意する。だが彼ら(以下K&K)はその意味を過大に売り込み金融政策の最近の他の側面を無視している。

手始めとして、この実験はQE3が緊縮の影響を打ち消すのに十分かどうかを見ているに過ぎないということを指摘したい。これは私たちが2011に提案していた実際の主張、名目GDPターゲッティング(NGDPLT)は緊縮の影響を打ち消すことが出来るかどうかを試したものではない。QE3はFRBの政策上の大きな変化だ。だがNGDPLTからは大きく異なっている。その違いを見る手っ取り早い方法は、QE3は経済がFedの目標とするインフレ率、失業率にどれぐらい早くもしくは遅く近づいていようとも月額で8兆5000億円の資産(国債)を購入することに限定されているということだろう。結果として、もし悪い経済ショックが発生したとすれば(ユーロ危機、政府のシャットダウン、中国の経済危機などなど)貨幣需要は突然増加し、8兆5000億円の資産購入は十分ではなくなるかもしれない。このケースでは総需要は低下しFedのターゲットへの収束は遅れを見せることになるかもしれない。

その意味でQE3は山道を登っているのか、下っているのかもしくは平坦な道なのかに関係なくペダルを踏んでいる自動車旅行に似ている。その走行距離は道の勾配(ショック)に依存するだろう。そして例え目的地(ターゲット)を知っていたとしても走行距離を前もって知ることは難しいだろう。QE3は目的地すらも分からないQE2よりは優れてはいる。だがその旅行時間がどれぐらい掛かるかにはそれでも不確実性が残る。今度は勾配に関係なく速度が自動的に70マイルに保たれるところを想像してみよう。確実性ははるかに向上し期待の管理ははるかに容易になるだろう。これはNGDPLTにはるかに近いもので金融政策が緊縮の影響を打ち消せるかどうかの真のテストとなる。これはQE3の資産の購入額を毎月変更することぐらいでしか似せることは出来ないだろう。それ故、QE3は理想的とは到底言えない。そしてMatt O'Brienが主張しているように、FedがQE3に乗り気であるかどうかでさえも定かではない。

これらの欠陥を踏まえた上でも、アメリカの財政緊縮を見ることによって金融政策の効果を推測することは可能だ。以前に指摘しているように、アメリカでは2010の中頃以降財政緊縮が行われている。それにも関わらず、FedはNGDPの成長率を一定に保っている。これはアメリカ経済を襲った様々なショック(ユーロ危機、中国経済の危機、石油価格の高騰、新興国の成長率の大幅な低下などなど)のことを考えればさらに印象深い。K&Kはこれを無視している。

Evan Soltasはアメリカ経済とユーロ圏の経済とを比較することによって金融政策の影響を知ることが出来ると記している。下の図ではその比較をしてある。最初の図は両地域のドル建て、ユーロ建てで見た政府支出額を比較している。このグラフは両地域ともに2010の中頃辺りから政府支出がほとんど増加していないことを示している(総連邦支出はアメリカでは実際に減少している。ユーロ圏では対応する数字は見つからなかった)。


今度はこれをNGDPの割合で見てみる。政府支出のシェアは両地域で低下していることが見て取れる。アメリカの政府支出のシェアの低下の方が急激だ。


従って、2つの経済圏で財政緊縮が行われていることが見て取れた。両地域ともに財政緊縮の実験を受けていることになる。ではNGDPに与えた影響はどうなっているのか?下のグラフは両地域のNGDPの成長率を示している。


アメリカの方はNGDP成長率が4%ぐらいで安定している。だがユーロ圏のNGDP成長率は2010辺りから低下していっている。両地域ともに緊縮が行われた。だがアメリカだけが安定的な成長を保っている。これを最も手っ取り早く説明する方法は金融政策の違いだ。FedはECBよりもはるかにアグレッシブだった。これは決定的な証拠というには程遠い。だが示唆的ではある。

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