Tim Worstall
このような見方は世間一般のものからはもちろんかけ離れている。だが間違いなく正しいことだ。キャメロン首相の名前がパナマ文書にあったことは課税逃れがいかに少ないものであったかをはっきりと示している。税収の損失の推計は今まで試算されてきたものよりも遥かに少ないものになるだろう。Tax Justice Networkという正体不明の団体による2000兆円という試算を信じるにしてもGabriel Zucmanによる870兆円という試算を信じるにしても、課税逃れによる税収の損失は今まで宣伝されてきたものよりも遥かに少なかったことが判明することになる。そのように断定できる理由はキャメロン首相がオフショアに隠していたと云われる所得は実際はすべて申告されていて正しくしかも正当な手順で課税されていたからだ。
これは目新しいことでも何でもない。これとまったく同じことを我々は最近でも経験している。課税逃れが大規模に行われているという騒ぎがあって、正式な調査が行われると、ごく少額の課税逃れは確かに行われていたがオフショアを利用する圧倒的大多数は支払うことになっていた税金を全額支払っていたことが明らかにされている。
それにより、彼らは世界全体で見て数十兆円が課税されていないと主張している。そのような資産が5%のリターンを生むと仮定されているとしよう。そこから年間に100兆円の所得が生まれることになる。富裕層の税率は40%ぐらいなのでそこから税額が40兆円と試算できる。これは彼らが実際にした計算というわけではない。ロジックにより簡単に推測できることだ。Gabriel Zucmanも数字は違えこそ同じロジックを用いている。
「ここまでのところはそれほど論争にはなっていない。この数字(Gabriel Zucmanの出した数字)は(政治)活動家が宣伝したがるものよりは少ないがオフショアに携わる専門家のものとは一致している。Boston Consulting Groupによると、2014年には1000兆円の資産が投資家の本国以外に記帳されていたという。その多くはスイス、チャネル諸島、カリブ海諸国、アイルランド、イギリス、アメリカなどだ」
キャメロン首相とパナマ文書に戻ろう。彼の父、Ian Cameronはオフショアに投資ファンドを設立した。そのようなファンドにとってはごく当たり前のこととして、そのファンド自体は課税の対象外である場所に設立された。このことを課税逃れと勘違いする人もいるだろう。だが実際にはこれは課税逃れではない。これが行われる理由はそれぞれの投資家が正確な税率を支払えるようになるためだ。国際的なファンドは、その定義からも分かるように、世界各国の投資家を対象にしている。ここでフランス、ドイツ、イギリスを拠点とする投資家を顧客に持つファンドのことを考えてみよう。そのファンドをドイツで設立するとすればファンドに関するドイツの課税がどのようなものであったとしてもドイツの税法が適用される。そこからフランスとイギリスの投資家は自国の所得税を支払わなければならない。だがフランスとイギリスの投資家にはドイツの投資家に与えられているような補償ルールが与えられていない。これはどこにファンドを設立しようとも同じだ。ファンドにまったく課税をしない場所に設立する以外には。これによりそれぞれの投資家は自国の税率だけを正しく支払うことが出来るようになる。これは課税逃れではまったくない。これによりそれぞれの投資家は正しい額をそれも正しい額だけを払うことが可能になる。
再びTJNとZucmanの主張を振り返ってみよう。彼らはこれらの資産はほとんど課税されていないと主張した。だがキャメロン首相の登場で明らかになったこととは何か?オフショアのファンドはイギリスの税率をきっちりと全額払っていた。これまでのところ詳細な投資家のリストの100%全員がイギリスの税率を全額支払っていた。資産は確かにオフショアにあった。だがそれは課税逃れを意味しない。イギリスの税率はきちんと支払われていた。従って、課税逃れがなかったばかりではなくわずかの税収の低下でさえもなかったことになる。
ここから、誰一人としてオフショアを課税逃れに用いていなかったと結論することは少し極論のように思われるかもしれない。だが課税逃れは恐ろしいほどに誇張されていると結論するに足るだけの十分な情報は我々はすでに持っている。ほぼ確実にそのように結論すべき理由としては実はパナマ文書のような馬鹿騒ぎは以前にもあってその結果がどうなったかを我々はすでに知っているからだ。以前にも指摘したように、
「それと並行して課税回避(こちらは合法なもの)の政治活動も行われていた。だがそれはここでのポイントではない。その主張は何度も繰り返され、多くの人は例えばスイスの銀行に誰にも知られていない、それ故課税を逃れている資産が存在すると信じるようになっていった」。
ここでは仮にそれが正しいと仮定してみよう。我々はどうするべきか?明らかなことに、その主張が本当なのかどうか調査する必要がある。それがスイスとイギリスの政府の間で行うと合意されたことだ。スイスの銀行はイギリス国籍の口座をすべて精査して課税逃れが行われているかどうかをチェックした。その答えは実際に何人かの違反者はいたというものだった。だがそういう人たちは本当に少なかった。それがあまりにも少なかったので押収された実際の税額は(押収にも費用が掛かるためにこの金額を下回ったら押収しないと予め定めて置いた)最小金額を下回るほどだった。
最終的な結果は数百億円の新たな税収が入るということではない。そのようなことは事実からはかけ離れている。最初に主張されていた金額のほんの僅かにしかならないだろう。多くの人々(ここで言う多くとは圧倒的大多数のことを意味する)はオフショアでの所得を実際にはイギリスで申告していることが判明した。
スイスがイギリス国籍者の口座をすべて調べて回った時に、彼らが見たものとは大量の課税逃れではなくイギリス在住で永住権は持っていない人々とイギリス国籍ではあるがイギリスには(現在)在住していない人々の大量の口座だった。極めて合法的にスイスの口座に置かれている所得に対して、彼らの誰一人もイギリスの税を支払う必要がない。だがこれは欠陥でも抜け穴でも何でもないということは記しておかなければならない。これは税制の基本的機能だ。唯一アメリカ人だけがどこに住んでいようとも本国の税率を支払う必要がある(これが今回の騒ぎでアメリカ人の名前がほとんどない理由の一つでもある)。
そしてこれらすべてがパナマ文書が明かした最も興味深いことだ。オフショアに流れ込んでいるお金は確かにある。だがそのほとんどは活動家たちが払うべきだと言っている場所と時において正しい金額の税を支払っている。パナマ文書などが明らかにしたこととは普段信じられていることからは対極にあった。ヒステリックな主張とは異なり、それらはオフショアに置かれている所得のほとんどがきちんと税を全額支払っていたことを明らかにした。従って、課税逃れは普段云われていたよりも遥かに小さな問題だったということが出来るだろう。
キャメロン首相の父も彼も少しも課税逃れをしていなかったと今ではイギリス人の全員が完全に同意している。よって、オフショアのお金がすべて課税逃れをしていると仮定することはもう出来ない、そうだろう?そしてスイスの銀行の例とより最近のこれらの文書の例により、オフショアの所得のほとんどは支払うことになっていた税を全額支払っている。よって課税逃れは我々が信じるように仕向けられていたよりも遥かに小さな問題だということが明らかになった。そっちの方が本当に興味深いことではないだろうか?(要するに、情報弱者はいつになったら自分が操られていることに気が付くのか?)。
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