2015年8月12日水曜日

経済学者は所得上位1%のシェアが上昇することと格差が拡大することとは同じことだと勘違いをしていた?Part4

Piketty's Numbers Don't Add Up

Martin Feldstein

Thomas Pikettyは、(税制に急激な変革を起こさない限り)資本主義は恒久的な所得格差と資産格差の拡大に向かっていくと主張し広く注目を集めた。彼の本は所得の再分配を支持する人達から称賛されたものの、彼の主張は資産がどのように形成されるかに関する誤った理論、アメリカの所得のデータに関する間違った解釈、家計資産の性質に関する間違った理解に基いている。

彼の分析は、資本の利潤率が経済の成長率を上回るというそれ自体は正しい事実から始まる。そこから彼は、この過程が恐慌や戦争、懲罰的な課税などによって阻害されない限りはこの差によって永続的に所得格差と資産格差が拡大していくという誤った結論に飛びついた。彼は、80%の所得税の最高税率と2%の世界的な資産課税を提唱する。

恒久的な資産格差の拡大という彼の結論は、人々が永遠に生きるというのであれば正しい可能性もあっただろう。だがそうではない。人々は働ける間に貯蓄し蓄積した資産のほとんどを退職後に支出する。人々は資産の幾らかを次の世代に継承する。だがそのような遺産の影響は相続税や遺産を相続する子供や孫の数などの組み合わせにより希釈される。

その結果として総資産の成長率は総所得の成長率と大して変わらないものになっている。連邦準備の資金循環統計によると、1960以降アメリカの実質家計金融資産は年率3.2%で増加している。商務省が計算したアメリカの実質個人所得の成長率は年率3.3%だった。

永続的に拡大する所得格差という彼の結論が抱える2番目の問題点は、彼が税制に起こった変化の重大性を認識することなく所得税の納税申告のデータを用いていることにある。IRSのデータは納税上位10%によって申告された所得は第二次世界大戦の終わりから1980まで国民所得に占める割合として相対的に一定だったがその比率がそれ以降急激に上昇していると、彼は記している。だが、納税申告書に申告されている所得は人々の実質の総所得と同じではない。1980以降の税制の変化が拡大している格差という誤った印象を生み出している。

1981に利子、配当、その他投資所得の最高税率が70%から50%へと引き下げられた。それにより資本所得の持ち主が保持することの出来る利益がほぼ2倍になった。従って、税率の引き下げが(課税が控除されている)地方債などの低収益率の資産から(課税はされても)高収益率の資産へと資産をシフトする強力なインセンティブを与えた。それ故、税のデータは実際の格差には何の変化もなかったとしても所得格差が拡大したという(誤った)信号を発してしまう。

1986のTax Reform Actにより、すべての所得の最高税率が50%から28%へと引き下げられた。それによりポートフォリオに占める課税資産の割合を上昇させるインセンティブがさらに強化された。そして労働を奨励すること、付加給付や繰延報酬などの形ではなく課税給与の形で所得がより支払われること、控除や免税の使用を低下させることなどによりその他の形態の課税所得も増加させた。

1986の税制改革はGeneral Utilities doctrineも廃止した。この法制は高額所得者に彼らの事業や専門的な活動をCコーポレーション(個人所得よりも低い税率で課税される)として行わせるインセンティブを与えていた。専門的な活動や中小企業による法人所得は彼が用いた所得税のデータの中には現れていない。

General Utilities doctrineの廃止と個人所得の最高税率の法人所得税率以下への引き下げは高額所得者に事業所得を法人所得から個人所得へとシフトさせた。このシフトのある部分は自分達の会社から利子、配当、給料を自分達へと払うことにより行われた。会社全体をその利益が個人所得として計上されるSコーポレーションへとシフトさせる動きもあった。

これら納税者の行動の変化は高額所得者の物とされる所得の額を大幅に増加させた。これにより所得の法律上の形態が変化しただけにも関わらず高額所得者の所得が急上昇したかのような誤った印象を生み出した。このシフトは何年かに掛けて徐々に起こった。納税者が徐々に行動と帳簿の付け方を変更して新しい法律に適応していったためだ。Sコーポレーションの事業所得だけでも1986には(1ドル=100円として)50兆円だったものが1992までには180兆円へと急増加している。

彼が高額所得者の所得とアメリカ国民全体の所得とを比べる際に行っている方法にも問題がある。国民所得からは社会保障、医療給付、フードスタンプなどの低所得者、中間所得者の個人所得に大きな部分を占めさらにその割合が上昇している政府の移転支払いが除外されている。人口の所得上位10%と残り全人口の個人総所得とを比較すれば、所得上位の相対的な所得シェアの上昇は遥かに小さくなるだろう。

最後に、彼が相続税のデータを用いて資産格差の拡大と彼が思ったものも問題だ。部分的には、これは相続税と贈与に関する税制の変更が原因だ。だがより根源的には、相続可能な資産が多くの人々が退職のために備えている資産のわずかな部分を占めるに過ぎないことによる。その資産には社会保障、退職後の医療給付、雇用主から提供される年金からの所得などの現在価値が含まれる。この資産が考慮に入れられれば、資産の集中は彼の数字が示唆するものよりも遥かに小さくなるだろう。

問題があるとすれば、誰かが多くの所得を稼いでいることではなく所得の少ない人がいることにある。所得が少ない人を少なくするためには、高い経済成長と教育や職業訓練に対する異なるアプローチが必要となる。彼が推奨しているような所得や資産に対する懲罰的な課税ではない。

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