2016年3月19日土曜日

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート7

Does the Oregon health study show that people are better off with only catastrophic coverage?

Christopher J. Conover

先週、NYTは興味深い疑問を提起した。「オレゴン州の結果は、公的医療保険は重大な事故や病気に対する保険に限定すべきであることを示したのか」。オレゴン州の研究(以下、OHS)は「メディケイドの加入は肉体的な健康状態の指標を有意に改善させなかった」ことを示した。血圧値、血糖値、コレステロール値に何の改善も見られなかった。

驚くべきことに、ある論者、Austin Fraktはこの陰鬱な結果を簡単に説明できると主張している。「この検証を行うにはサンプルサイズが小さすぎた」というのだ。正気ですか?RANDの有名な医療保険の実験(費用の負担率の違いがヘルスケアの使用量、支出、健康状態に与える影響を調べたヘルスエコノミストの間でのゴールドスタンダード)でもサンプルは5809しかなかった。それも5つの保険の種類に分割されていた(無料の保険プランには1893、医療費の自己負担率25%の保険プランには1137、医療費の自己負担率95%の保険プランには1120など)。実際には14の異なる種類の保険が調べられた。従って、それぞれのサンプルサイズはそれらの数字が示すよりもさらに小さかった。その上、RANDの研究(以下、RAND HIE)には幅広い所得階級から62歳以下のすべての年齢の個人がランダムにサンプルに含まれていた。一方、OHSでは所得が低い人、非高齢者、身体的障害を持っていない人、これらの対象の中からメディケイドの受給資格を持っていてランダムに選ばれた6387のサンプルと、メディケイドの受給資格を持っていながらもランダムに選ばれなかった5842のサンプルが比較された。

これは留意すべきことだが、RANDの研究ではその単位として個人-年(実施期間が10年だとすると、1000人いたとして1000×10でサンプルは10000とするという意味)が用いられた。この単位では多いもので無料の保険プランの6822から少ないものでは自己負担率50%の1401までの幅がある。だがこの基準を用いるのであれば、OHSの実施された期間は2年間だからサンプルサイズは報告されているものの2倍となる。これも留意すべきことだが、抽選に選ばれた6387人の1903人しか実際にはメディケイドに加入しなかった(全体の26%)。だがそれら全員が所得が低く19歳から64歳までの非高齢者である一方で、RAND HIEの方は参加者の36%が子供で大部分が低所得者ではなかったことに留意する必要がある。RANDの研究では所得分布の下5分の1が低所得と定義されていた。従って正しく比較すれば、HIEには所得の低いと定義された非高齢者が750人、各種の保険に分散されたことになる。大体、その3分の1が費用の負担率がメディケイドと同じ位の無料の保険に加入したことになる。その250人を個人-年に単位を移して膨らませたとしても、HIEのサンプルは850でOHSのサンプルは1903となるだろう(単位を揃えれば、1903の2倍で3806となる。厳密には、肉体的な指標を測ったのが2年目だけだけどこの研究に参加した期間は2年間だから2年間治療を受け続けていたのに改善しなかったということを踏まえればサンプルサイズを2倍にしても問題ない気もする。どのように考えるかは難しい所かもしれない)。

このことは何の関係もないと思っている人もいるかもしれない。だが低所得者のサンプルサイズが大幅に小さかったにも関わらず、RAND HIEが示すことが出来たもののことを考えてみよう。

・当初、血圧が高かった人(20%が血圧が高かった)で、無料の保険に加入した人の血圧は負担率が高い保険に加入した人に比べて大幅に血圧が低下した。

・疫学的なデータは、この規模の大きさの低下によって無料の保険に加入したグループの死亡率は10%低いだろうことを示唆している(この死亡率の低下が参加者の間であったかを実際に測るにはそれこそサンプルサイズが小さすぎた)。

それにも関わらず、Austin Fraktは真面目な顔をしてOHSのサンプルサイズが「小さすぎた」と信じ込ませようとしている。彼の主張の証拠として、Mother JonesのKevin Drumが「その研究は統計的に有意な改善を見つけることが出来なかった。それは最初から不可能だったのだ」と大胆にも主張しているブログ記事を挙げる。

そのような荒唐無稽な(実証的に支持できないような)一般化だけでは満足できなかったのか、彼はハーバードの研究者たちがこの研究をどのように行うべきであったかと叱りつけ、このような驚くべき主張に辿り着いた。

「彼らは結果を報告するべきでさえなかった。彼らは、検出力が低すぎてどのような妥当な条件下においても統計的に有意な結果を示すことは出来なかったと単に報告すべきだった。だが彼らはそうしなかった。その代わりに、彼らは結果を報告して結果の解釈はプレスに任せた」。

医療政策の研究者たちは、Mr. Drumが自分で何を言っているのか分かっていないのだとすぐに認識した。だが素人の大衆にはそれが分からないかもしれない。Mr. DrumがOHSの研究を行ったヘルスエコノミストたちにどのように研究を行ったらよいかを指導しているさまなどはコミカルとしか言いようがない(「まず第一にその研究を始める以前に、彼らは臨床的に有意な結果とはどの位のものであるかを調べておくべきだった」)。OHSにはDr. Joseph Newhouseが含まれているだけではなく(RAND HIEの責任者で、アメリカを代表するヘルスエコノミストの一人)、Amy Finkelsteinが含まれていた。OHSを見た人または62ページに渡る補論を読んだ人であれば誰でも、これが利用可能な指標と方法の中で最も優れたものが用いられた最先端の研究であることが分かるべきだ。もしメディケイドに肉体的な健康状態に対する有益な効果があるのであれば、彼らは間違いなくそれを見つけていただろう。

OHSの結果はすべてが悪かったのではないと記しておく必要はあるかもしれない。

・メディケイドへの加入は糖尿病の診断率と糖尿病治療薬の使用を有意に高めた。だが糖化ヘモグロビン値や基準値である6.5%を超える参加者の割合には有意な影響を与えていなかった。

・メディケイドへの加入は医療費の自己負担額を低下させた。保険に加入していないグループで支出が所得の20%を超えたのは5.5%だったがメディケイドは1.1%だった。だが統計的に有意であるとはいえ医療費の自己負担額の違いは驚くほどに小さかった。保険に加入していない人の医療費の自己負担額は年間で5万5300円だった。メディケイドの方はそれよりもわずか2万1500円少ないだけに過ぎない(3万3800円)。

・メディケイドへの加入はうつ病と診断された割合を30%から21%へと低下させた。少なくともこの3分の1は抽選後にうつ病と診断される割合が低下したことから来ている(保険に加入していないグループが診断された割合は全体の4.8%で抽選に選ばれたメディケイドのグループは1.0%だった)。

・メディケイドへの加入は健康状態が1年前に比べて同じまたは良くなったと答えた人の割合を上昇させた(保険に加入していないグループは80.4%、メディケイドに加入したグループは88.2%だった)。

・メディケイドへの加入は自己評価された精神の健康状態を非常にほんの少しだけ改善させた(1標準偏差の5分の1)。

・メディケイドへの加入は医療へのアクセス、質を改善させたのではなく医療へのアクセス、質を改善させたと加入者に思わせた。

・メディケイドへの加入はコレステロール値の診断、女性の子宮頸がん検診、女性の乳がん検診、男性の前立腺がん検診などの予防的サービスの使用を高めた。

それらわずかばかりの改善には当然費用が掛かっている。年間の支出はメディケイドの方が11万7200円(35%)高かった。同様に記しておかなければならないのは、医療へのアクセス、使用量、質、精神の健康、金銭的負担などのこれらのわずかばかりの改善は自己申告された幸福度にも有意な違いを生み出さなかったということだ。保険に加入していない人の74.9%は非常に幸せまたはとても幸せと答えた。メディケイドの方は76.1%だった。

従って、すべてはお金の価値の問題という所に帰着する。これらのわずかな改善は一人あたり12万円(全体で見れば50兆円以上)の価値に相当するのか?判断は人によって異なるだろう。だが大多数の人は、医療費の自己負担額を平均で見てわずか2万1500円しか減らしていないのであれば12万円の価値に見合わないと同意するだろう。その場合であれば、何らかの合意の元に定められた一定の閾値以上の支払いに対して個人に単に払い戻すという方が遥かに遥かに安く済むだろう。OHSは、保険に加入していない人をメディケイドに加入させれば緊急救命室の過剰利用が魔法のように消えてなくなるという神話も粉々に打ち砕いている。医者への訪問が平均で見て50%増加しているにも関わらず、メディケイドの方がわずかにERへの訪問が多い(有意ではないが)。よって、ERへの訪問が激減するはずだからメディケイドを拡大させた方が結果的に費用が抑えられると今まで何の根拠もなく執拗に声高に主張してきた人たちはOHSの結果を用いてその主張を正当化することは出来ない。

金銭的負担は置いておくとして、残りの9万5000円はあのわずかばかりの改善に果たして見合っているのか?それらが幸福度に影響を与えているようには見えないというのに。目標が低所得者の厚生を改善するということであれば、50兆円以上のお金を他のことに使った方が彼らの厚生を遥かに改善するのではないのか?Ross Douthatはこのことに同意してくれると思う。

OHSはオバマケア以前のアメリカの医療システムが保険に加入していない人たちに33万5000円の無料の医療(先程も述べたように自己負担額は約5万円)を提供していたことを改めて示した(リベラル派はそれを必死に否定していた)。さらに、低所得の保険に加入していない人たちは十分に賢く、システムを有効に利用して最も有効な治療を見つけ確保するのに十分な情報を持っていることも証明した。その結果として、メディケイドの加入者たちと肉体的な健康状態は同じということになった(33万5000円も使っていたら健康状態に差が出ないのは当たり前じゃないか。すべてがコント)。このことは、州は低所得者に医療を提供するのにイノベーティブな方法を奨励する必要があることを示している。例えばHealthy Indiana Planは、

「各加入者に妥当な額の金銭的負担を求め、加入者に健康で居続ける、費用意識を持たせる、コスト効率の高い医療サービスを利用するインセンティブを与える。このプランは必要な医療サービスをすべてカバーしており民間の保険ともそれほど遜色ない。それに比べて、メディケイドは加入者に無制限の給付とサービスを与え、受給者には健康状態に気を配る、コストを気に掛ける、医療サービスを効率的に利用するインセンティブをまったく与えない」。

オバマケアにはメディケイドとも共通する2つの重大な問題がある。第一に、オバマケアは保険に加入していない人たちと差がないメディケイドを大幅に拡大しようとしている。第二に、オバマケアは中央集権化をさらに強めようとしている。実際、最高裁が止めていなければACAは各州にメディケイドの拡大を強制していたはずだ。私たちが今、目撃していることは、選択の自由を与えられた州はその半分が拡大に反対したということだ(しかもそれはOHSの結果が報告される前でさえある!)。連邦政府の官僚たちがメディケイドを管理しようとするのを止めて州に包括補助金(裁量権付きの補助金)を与えれば私たちは大きな利益を得ることが出来るだろう。包括補助金は財政規律を大幅に強化しさらに州がお互いから何が最も機能するのかを学び合える各種の実験を大量に開放するインセンティブを生み出すだろう(現在は、規制により出来ないことが圧倒的に多い)。

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