2016年3月19日土曜日

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート4

African Blessings, African Curses

「人を死に至らしめなかったものが、人を強くする」。

80歳以上の黒人の方が白人よりも死亡率が低いということをここで記事にして以降、eメールで何度も私たちの元に送られてきたのが上記のような内容の文章だ。公平に言うと、上記の内容にも一欠片の真実があるかもしれない。もし人が困難を乗り越えたならば、その人は技を磨き将来の他の困難にも立ち向かえる力を身に付けるかもしれない、よってそれらの困難を防ぐこともできるようになるだろうとその論理は続く。

だが人間の生態学がそれに関わるようになると、物事はそのようには一般的に動かなくなる。

水疱瘡の例を考えてみる。アメリカでは比較的一般的な児童の病気だ。一度子供が水疱瘡を発症すると、その人はその後はその病気に再び罹ることはない。だが免疫システムを強化させるのではなく、他の病気によって身体の免疫力が低下するまでウィルスは活動を休止する。そしてウィルスは以前に水疱瘡に罹ったことがある成人にのみに、だが今度はより悪い形で再び表れるかもしれない。

人を死に至らしめなかったものが、人を強くするとは限らない。生態学では、むしろそのような事例の方が少数派だ。人を死に至らしめなかったものが人をむしろ脆弱にし、現実的にはこちらの事例の方が多いだろうが有害なものから人を守った(祝福)と思われたものが実際には人を死に至らしめるものに対しては人をより脆弱にする(呪い)。

この概念は、どうしてサハラ砂漠より南を起源とする人たちは多くの病気に対してこれほどまでに脆弱なのかを考える際に繰り返し繰り返し登場することになるだろう。

そして、アフリカの呪いと祝福は相互に結びついていることをこれから見ていく。

The Challenges of Sub-Saharan Africa

他の地域と比較して、サハラ砂漠以南のアフリカ人は健康に対して最も大きなチャレンジに晒されている。よく知られている感染症が毎年何百万人もの命を奪っている。あまり知られていない感染症もこの地域全体に蔓延していて何百万人もの健康に影響を与えている。

HIVのような幾つかのウィルス性の病気も、この地域に最も集中している。

寄生性の感染症に最も脆弱なのは子供たちだ。サハラ砂漠以南の乳幼児、幼児の死亡率は衝撃的だ。下の図は、アメリカのアフリカ系アメリカ人のために組織されたGivewellという団体が作成した資料を参考にした。

そこからは、マラリア、呼吸器系の感染症、下痢、周産期の病気、麻疹、HIV/AIDSによって生まれた子供の90%が5歳までに死亡することが分かる。これらの病気による死亡を除くと、5歳未満のサハラ砂漠以南の子供の96%が5歳の誕生日を迎えることが出来る。それらの数字を99%が5歳まで生存するアフリカ系アメリカ人の数字と比較する。

サハラ砂漠以南のアフリカ人と黒人との間の生存率の差は60歳から縮小し始めるまではどんどん拡大していく。

Blessings and Curses

様々な種類のマラリアを引き起こす様々な種類のマラリア原虫に数千年も晒されてきたことを思えば、生き残った人たちはそれらに対する遺伝的な防御機構を発展させてきたことは不思議ではないのかもしれない。2008の6月に掲載されたWeijing Heによる研究、Duffy Antigen Receptor for Chemokines Mediates trans-Infection of HIV-1 from Red Blood Cells to Target Cells and Affects HIV-AIDS Susceptibilityによると今ではほとんど絶滅したマラリアの一種からサハラ砂漠以南のアフリカ人を守ってきた突然変異がHIV-1に罹患する確率を大幅に高めることを示しているように思われる。その論文の筆者たちはアフリカのHIVの約11%はこの遺伝的適応によって引き起こされた脆弱性に直接的に関係していると試算している。

アフリカ系アメリカ人に対しては、この遺伝的突然変異を持たない人と比較して、これはHIVに感染するリスクが40%高まることを意味する。これは何故、アメリカの黒人のHIV感染率が他の人種と比較してそれほどに高いのかをよく説明している。ただ、良いニュースもある。それをそのように思えばだが。その遺伝的適応はそれを持っていない人と比較してHIVの進行をも遅らせているように見えることだ。他の研究がこれらの事柄をすでに確認し始めている。

HIV/AIDS and Parasitic Worms

話は異なるが、3日熱マラリア原虫を原因とするマラリアへの遺伝的適応だけが寄生虫由来の感染症とHIVへの脆弱性との唯一の相関ではない。Agnès-Laurence ChenineらによるAcute Shistosoma mansoni Infection Increases Susceptibility to Systemic SHIV Clade C Infection in Rhesus Macaques after Mucosal Virus Exposureという新しい研究は、住血吸虫症の背後にあるのと同じ寄生虫が感染したものをHIVに対して脆弱にすることが示唆されている。サハラ砂漠以南のアフリカは寄生虫の感染が蔓延している地域なので、これは他の地域に比べてこの地域にHIVがこれほど蔓延しているのかを説明する手助けとなるかもしれない。

Melanin and Tuberculosis

この地域は日射量が地球で最も多い熱帯に属するので、遺伝的適応の最たるものがメラニンレベルの増加だ。皮膚のメラニン色素が多い人たちは(黒い皮膚の色に対応する)、そうでない人たちと比較して太陽の光と紫外線の直射に遥かに強い。

その太陽の光への耐性には非常に高い代償が伴っていたことが最近発覚した。結核は、主にサハラ砂漠以南のアフリカではあるが世界的に800万人に感染し200万人を死亡させている結核菌によって引き起こされる病気だ。2006の2月に掲載されたPhilip T. LiuによるToll-Like Receptor Triggering of a Vitamin D-Mediated Human Antimicrobial Responseによると、アフリカを起源に持つ人たちに見られるメラニン濃度の高さは日光への暴露によって生み出されるビタミンDの少なさを説明している。そしてそれが結核菌への脆弱性に対応している。

紫外線は人体においてビタミンDの生成を促す。皮膚のメラニン色素が多い人は紫外線をより吸収するので、紫外線からによるビタミンDの生成は制限される。

ビタミンDは感染症に対して免疫システムの中で重要な枠割を果たすので、このことは非常に重要となる。血液内のビタミンD濃度が低いと病原菌が体内に侵入した時に生み出されるカテリシジンの量は遥かに少なくなる。カテリシジンは殺虫剤のような働きをする。結核菌のような感染性の病原菌を殺す働きをするということだ。これはどうしてアフリカを起源に持つ(そしたら全員だろうという批判はなしで)人たちが、結核に対してそれほどまでに脆弱なのかを説明している。

アメリカでは結核の感染や死亡はほとんど存在しないが、黒人は他の人種/民族集団と比較して8倍結核に対して脆弱であることが示されている。研究者たちは、ビタミンDの増加が黒人に与える影響を調査するため実験室での実験を行った。

ビタミンDの増加は血液サンプル内のカテリシジン濃度を上昇させた。この結果はビタミンDを補うサプリメントが黒人の結核率を低下させるのに非常に有効な方法となりうることを示唆している。結核が蔓延しているアフリカやアジアでこれらの結果が大きな規模で再現できるか結核の感染率が低下するかをテストする提案が出されていた。

A Simple Vitamin Deficiency?

ビタミンDの不足はどうして黒人が白人に比べて様々な慢性疾患病に弱いのかを説明できるだろうか?そしてビタミンD不足を解消することでこの乖離は消滅するのだろうか?

明日見ていくように、それが答えのように思われる。そしてそれから、解決策は思ったほど簡単ではないのかということも見ていく予定だ。

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