2016年3月19日土曜日

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート4

LOTT'S NUMBERS: The Truth About Obama's Health Care Plan, Part 2

John R. Lott

「それから費用の増加の問題がある。私たちは他のどの国よりも1.5倍多く医療に支出している。医療はアメリカ経済の6分の1を占めている。この部屋にいる誰もが、このまま何もしなければ何が起こるだろうかを知っている。財政赤字は拡大するだろう。多くの家庭が苦しむだろう。多くの企業が倒産するだろう。多くの人が保険を失うだろう。その結果として、多くの人が亡くなるだろう」とオバマは2009年の9月9日に議会で演説した。

よく持ちだされるのがGDPの6分の1が医療に支出されているという数字だ。その数字は1400兆円のGDPを220兆円とされている医療支出で割って求められている。オバマはこれらの数字を政府が介入して医療費をコントロールする必要があることの証拠としている。だが、どちらの主張にも問題がある。よく議論で用いられる医療費の数字は二重に計上されていてしかも価格コントロールによって歪められており、そしてここ数十年間のアメリカの医療費の増加率は政府が管理しているはずの他の国よりも低いということだ。

第一に、二重計上の問題を見てみよう。220兆円という数字には保険会社、個人、政府が医療に費やしたものだけではなく、建物や医療設備に対する支出が含まれている。明らかなように、MRIの使用に際して患者によって支払われたお金と病院がMRIに支払ったお金とを両方計上することはできない。MRIの購入の為の費用は結局はMRIの使用に対する支払いでカバーされる。

220兆円という数字は「医療部門で活動する組織(プロバイダー、サプライヤー、保険会社)の手に渡る」すべてのお金を測っている、とAmerican Enterprise InstituteのJoseph Antosは語ってくれた。その数字は「医療が経済に占める割合を示すための指標ではない」と彼は述べた。

研究に支出されるお金に関する会計上の問題もある。医療費全体の数字と云われているものにはNIHの全予算とNSFの予算のかなりの部分が含まれている。だがそれらのお金の大部分は医療の研究とはほとんど関係がなくその支出されたお金も研究が生み出したものによって一部は回収される。

NIHに渡された資金は大学の運営全般に関わる費用の為にも用いられる。Tuck Business SchoolのBob Hansenは「NIHのような場所からの助成金は管理運営費の50%近くに達している。NIHの予算には大学一般の管理運営費の為の資金がかなり含まれている。国際比較は、他の国が大学に直接資金を提供している場合には問題になる」と記している。

この二重計上を合計すると36兆3000億円ぐらいになる。GDPの6分の1(16%)ではなく、正しい数字は8分の1近く、要するにGDPの13%ぐらいということになる。他の国との医療費の違いはほとんどが消滅した。フランスを例にしてみよう。フランスはGDPの11%を医療に支出している。

医療費の乖離は、他の国が薬などに価格コントロールを敷いていることを考慮すればさらに小さくなる。アメリカ人は一人あたりで見て他の国の2倍ぐらい薬に費やしている。アメリカの製薬会社は新薬の開発に膨大な費用を支出している。そしてアメリカ人はその市場価格を支払っている。一旦新薬が開発されると、薬の生産費用や再生産費用それ自体は安いので、価格コントロールを敷いている他の国は生産費用と販売費用だけを負担する結果になる。従って他の国は、アメリカが開発した世界中の人の命を救う薬の研究に「フリーライド」していることになる。

もしアメリカ人が他の国と同じぐらいの額に薬の支出を抑えれば、私たちは医療費をGDP比で見てさらに1%ポイント削減することができるだろう。だがこれには恐ろしい副作用がある。製薬会社は、膨大な研究費用と承認の負担を回収できない限りは新薬の開発を続けることができなくなるだろう。アメリカ人は世界中の薬の負担を一手に引き受けていることに不満を感じているかもしれない。だが私たちの国に価格コントロールを敷くのではなくて、その解決策は他の国が規制を廃止することかもしれない。

現在議論となっているのは、医療費がこれからどうなっていくのかだろう。議会演説でオバマが語ったように、医療費の上昇を抑えるというのが政府が医療保険を提供しようとすることや数多くの規制で医療の「無駄」を削減しようとすることの動機になっているのだろう。「連邦政府の赤字を制御下に置く唯一の方法は医療を何とかすることだ。皮肉なことに、この医療法案は財政赤字の削減に非常に重要なものだ」とオバマは語った。

OECDは30ヶ国の医療費のデータを集めている。1998年から2007年と過去10年間のデータを見てみよう。その期間に、アメリカの一人あたり医療費は年率7.2%で増加した。他の国の医療費はそれより1%ポイント多い年率8.2%で増加した。アメリカを除いた24ヶ国のうちの14ヶ国は、アメリカよりも医療費の増加率が高かった。同様のパターンは過去20年間でも当てはまる。

OECDの平均的な国では、政府支出が医療費の72%ぐらいを占めている。アメリカは45%ぐらいなので、最も割合が低いグループに位置している。政府支出が医療費の80%ぐらいを占めている国は全体の3分の1ぐらいある。だがアメリカの政府支出の割合を高めることは費用の削減には結びつかないように思われる。実際、その逆が正しい。政府の支出する割合が最も高い国々の方が、一人あたりの医療費が最も増加している。1960年から2007年までの利用可能なすべてのデータに一人あたり所得やその他の要因なども考慮に加えると、医療費に占める政府支出の割合が1%上昇する毎に医療費は0.4%ぐらい増加する傾向がある。

だが費用の水準や増加率という話以外に、もっと大きな疑問がある。そもそも費用のことを気にする必要はあるのか?どうしてアメリカ人が大きな家や豪華な車、より良い医療に対する支出を避けなければいけないなどというのか?どうしてアメリカ人が股関節置換術を受けられるようになったり早期にがんを発見できるようになったことを喜ばないのか?アメリカ人は医療よりも住宅に多くのお金を支出してきた。だがそのことは住宅にお金が支出されすぎているということを意味しないはずだ。

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