2016年3月19日土曜日

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート8

Oregon Study: Medicaid 'Had No Significant Effect' On Health Outcomes vs. Being Uninsured

Avik Roy

この3年間、メディケイドに関して医療政策の研究者たちの間で議論が交わされていた。相当数の研究が、メディケイドに加入した人の健康状態は保険に加入していない人と比べて良くなっていない、むしろ悪くなっていることを示してきた。オバマケアのサポーターたちは、2011にオレゴン州からメディケイドが保険非加入者よりも良い結果を示したという都市伝説が流れてきた時に勇気づけられた。だが昨日、オレゴンの研究の筆者たちはその1年目の結果をアップデートした2年目の結果を公開したのだった。その結果は、今まで通りにメディケイドは「肉体的な健康状態の指標を比較群と比べて有意に改善させていない」だった。その結果はメディケイドに毎年費やされる45兆円ものお金とオバマケアが1100万人をこのプログラムに加入させようとしていることに大きな疑問符を投げ掛けた。

幾つかの理由から、私はメディケイドのこの結果に関心を寄せていた。その理由の一つとして、所得の低い人を本当に助けられるかどうかが医療政策の議論において重要だと私は考えているからだ。それと同時に、納税者にあまり負担を掛けないことも重要だと信じている。

他の理由は、私には偶然にも無作為化試験の分析を数多く行ってきた経験があるからだ。それは、この分野に特化した専門的な投資家が製薬会社、バイオテクノロジー会社、医療機器会社の株を分析する時に行っていることだ。長年に渡って、私はこれらの臨床試験を数百と見てきた。市場が新しい治療法を過小評価するのか過大評価するのか調べるためにだ。では専門的な投資家が新薬を評価するときのようなやり方でオレゴン州のメディケイドの研究を分解してみよう。

The Oregon study measured common health outcomes

どのような臨床試験であっても最初に行われるのはプライマリーエンドポイントを決定することだ。この場合では、オレゴンの筆者たちはメディケイドに加入した人たちを保険に加入しないままだった人たちと比較している。客観的な方法で彼らが測りたかったものとは、メディケイドは加入者の健康状態を改善するのか?ということだった。

(省略)

オレゴンの研究には、通常の臨床試験には見られるような分かりやすい「プライマリーエンドポイント」のようなものがない。だが筆者たちは(1)高血圧値(2)高コレステロール値(3)糖化ヘモグロビン値(4)フラミンガムリスクスコアなどを将来を見通す間接的な客観的な指標として調べることにした。

糖化ヘモグロビン値を除いて、これらのどの指標もFDAの基準を満たさないだろう。FDAでは死亡や心筋梗塞などのより重度なエンドポイントが基準として求められるだろう。だがオレゴンの研究は公共政策に関する数少ない無作為化された対照試験なので、そしてこれはあくまでも投資家であればどう判断するかという例えなので先に移ろう。

The Oregon Medicaid population was partially self-selected

その次に見なければならないことは、オレゴンの研究がバイアスをうまく排除するように設計されているか実施されているかということだ。通常の臨床試験とは異なり、オレゴンの研究は二重盲検化されていない。当然ではあるが、メディケイドに加入している人は自分がメディケイドに加入していることを知っている。そして保険に加入していない人も保険に加入していないことを知っている。通常であれば、医者も患者もその患者が処方されているのが新薬なのかプラセボなのかどちらにも知らせないようにしなくてはならない。オレゴンの研究では、そのバイアスは残っていてメディケイドの方に優位に働きかけている。

その次に見なければならないことは、加入した患者にバイアスが存在するかどうかだ。メディケイドに加入した方の人々はそうでない人々と本質的に同じような特徴を持つのか、それとも違いがあるのか?ここでは、結果は分かれている。年齢や人種などの指標では、どちらのグループも同じような特徴の人で構成されている。

だが、オレゴンの筆者たちは保険に加入していない人の健康状態の最初の数字は測定したのにメディケイドの方にはそうしなかったように思われる。「メディケイド加入の影響は操作変数を用いた2段階最小二乗法によって行われた」と筆者たちは記している。メディケイドに加入した患者がその開始時点から最終時点までどのようなデータの変化を見せたのかを実際に分析するのではなくだ。よって、メディケイドに加入した方の平均的な患者は、例えば保険に加入していない方の平均的な患者の開始時点でのデータと比較してコレステロール値が高くなったのか低くなったのかが分からないということだ。通常の臨床試験であれば、このような方法は取られないだろう。

この潜在的な違いは非常に重要だ。抽選に選ばれた35169人のオレゴン州の人たちのうちで、わずか30%だけが実際にメディケイドに加入した。抽選に選ばれた人のうちで、受給に必要な記入欄に必要な情報を書き込んだのはわずか60%だけだった。オレゴン州の、保険に加入していない人がメディケイドをどのように見ているのかを少し伝えているように思われる。

わずか60%だけしか必要な欄に記入していないという事実はバイアスをもたらす可能性がある。実際にサインをした加入者たちは、そうでない人たちと比べてより治療を必要としてより治療から恩恵を受ける傾向があったかもしれないからだ。オレゴンの筆者たちはこの問題を調整しようと試みている。だが私たちには元々の開始時のデータに違いがあったのか、生のデータを与えられていないため見ることが出来ない。例えば、元々の治療前のコレステロール値や血糖値に保険に加入していない人たちとメディケイドに加入した人たちで違いがあったのか?通常の臨床試験であれば、これは受け入れられないと受け取られただろう。

Oregon’s Medicaid program is not representative of the U.S. broadly

オレゴン州のメディケイドにはアメリカ全体の保険非加入者と比較して白人が多く(+15%)黒人が少ない(-15%)という特徴がある。(健康自体ではなく)保険が健康に与える影響に、人種がどのような影響を与えるのかを実証的に示したデータを私は知らない。だがこのことは心に止めておく必要があるかもしれない。

記しておく価値がある重要な要因は、オレゴン州のメディケイドは他の州のメディケイドよりも大幅に支払いが良いということだ。オレゴン州では、メディケイドは治療に掛かった費用として民間の保険がかかりつけ医に支払う額の62%を支払う。それは全州の平均である52%よりも高い。リベラル派が伝統的に強いと云われる幾つかの人口の多い州では40%を切る所もある。

オレゴン州のメディケイドの支払いが良いために、同州の加入者は他の州よりも相対的にアクセスが良い。オレゴン州の医者の21%は現在診ているメディケイド患者で手一杯でもう新規のメディケイドの患者を受け入れたくないと不満をこぼしているが全米平均は31%だ。

これは恐らくオレゴンの研究で最も大きなバイアスかもしれない。アクセスの向上は他の州と比較してオレゴンのメディケイド加入者に有利に働いたかもしれない(保険非加入者には見た目上不利に働いた)。

The data: No statistical benefit in health outcomes

(ここまでが前段階での説明)では、オレゴンの研究は何を示したのか?彼らは高血圧(保険非加入者と比べて、メディケイドの方が1.33%割合が少ない、p値は0.65)、高コレステロール値(2.43%割合が少ない、p値は0.37)、高糖化ヘモグロビン値(0.93%割合が少ない、p値は0.61)、フラミンガムリスクスコア(0.21%割合が少ない、p値は0.76)などで対照群と治験群とで統計的に有意な違いがないことを発見した。p値によると、血圧の結果は65%の確率で、コレステロール値の結果は37%の確率で、糖化ヘモグロビン値の結果は61%の確率で、フラミンガムスコアは76%の確率で統計的ノイズである可能性がある。繰り返しになるが、統計的に有意であるとはp値が0.05以下であることが求められる。

筆者たちが指摘しているように、「メディケイドの加入は対照群と比較して高血圧、高コレステロール値、それらの治療薬の使用量に有意な影響を与えなかった。糖尿病の診断率を高めたが糖化ヘモグロビン値には有意な影響を与えなかった」。うつ病の発症率は有意に低下していた。だが筆者たちはHamilton Depression Scaleの改善などの客観的な指標はうつ病に対しては調べなかった。

メディケイドに有利に働く要因が数多くあった。オレゴンのメディケイドの支払いが他の州より良かったこと、メディケイドの加入者の方が病気がちであったこと。それ故、対照群よりも治療の恩恵をより受けやすい立場にあったはずだ。

有意な違いが表れたのは支出額(メディケイドの患者は対照群より11万7200円平均で見て多く支出した)と医療サービスの利用量だ。コレステロール値のスクリーニングのように、その利用量の増加の幾らかは良いものだったかもしれない。だがそれは対照群と比較したコレステロール値の有意な改善には結び付いていなかった。

他には、金銭的負担に有意な違いが見られた。メディケイドが加入者自身が自分の負担で支払いたいと思ってもそれを制限していることを思えば驚きではない結果だ。だが強調しておく必要があるが、その金銭的負担の低下も対照群と比較した健康状態の改善には結び付いていなかった。金銭的負担を軽減させることが私たちがしようとしていることだというのであれば、所得の低い人に現金を渡してどのように使うか彼らに選ばせた方が遥かに良いだろう。

In 2011, media hyped flimsy early results from the Oregon study

オレゴンの研究の1年目の結果が2011の7月に公開された時、リベラル派はメディケイドは健康状態を改善させるのだとメディアを通して大々的に宣伝した。「驚きの事実!科学が医療保険が機能することを証明した」、「オレゴンからの新しく、質の高い研究がメディケイドが、実際に命を救っていることを確認した」などなど。後者はMatthew Yglesiasが書いたものだ。オレゴンの研究は、そのようなことは言っていないという事実にも関わらず。

2011に、1年目のオレゴンの研究が示したこととは実際は何だったのか?メディケイドに加入した人が健康になったように感じたということと金銭的負担が低下したと感じたということだけだ。筆者たちによって行われた加入者の主観的なサーベイによってだ。だがその時でも糖化ヘモグロビン値やコレステロール値、死亡率などのような健康状態の指標には対照群と比較して何の違いも見せていなかった。このような重要な詳細が、オバマケアのメディケイドの拡大は正しいことがこれによって証明されたと熱狂的に騒いでいた人たちからは失われていた。

医療政策のコミュニティは2012の7月に公開されることになっていた2年目の結果を待ち侘びていた。1年目の結果に対する熱狂ぶりからもそれがどれほどであったか分かるだろう。だが2012が訪れて7月が過ぎても結果は公開されなかった。そのことに対する説明も一切なかった。1年目の結果が公開されて22ヶ月が経った頃、ようやく筆者たちは2年目のデータを公開したのだった。どうして、それほど長い時間が掛かったのか理由がはっきりしない。特に、州の政策担当者らは過去4ヶ月間メディケイドを拡大するのかしないのかで大変苦労していたことを思えばなおさらだ。

Addressing the progressive pro-Oregon counterarguments

この研究が、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に掲載されて数時間が経った頃には、メディケイドは健康状態を改善したに違いないと主張する人たちから幾つかの論点が提示された。それらを一つ一つ見ていこう。

1.たったの2年しか経っていない、メディケイドにもっと時間を:5年とか10年、または20年とかしたらメディケイドは対照群に対して何らかの効果を示すかもしれないし示さないかもしれない。取り敢えず示すかもしれないという可能性は排除できないということにしておく。だが、オバマケアは次の10年間でメディケイドを拡大させるために75兆円を費やそうとしている(実際は、200兆円以上であることがこの後に暴露された)。それだけの巨額のお金を納税者から奪い健康状態に何の改善も示さないプログラムに費やすことが倫理的にも許されるのか?それに加えて、成功した新薬の臨床試験はそれらの指標を1年か2年以内に改善させている。それに、新薬への支出額はメディケイドへの支出額よりも遥かに少ない。

2.有意な影響を示すにはサンプルサイズが小さすぎた:お笑いだ。この研究は12229人のオレゴン州の人たちの健康状態を調査している。コレステロール、高血圧、糖尿病などの治療薬であれば、その規模のサンプルサイズはほとんどいつでも有益であるかどうかを示すのに十分だ。メディケイドがFDAからの承認を待っている新薬であれば、すぐにも棄却されるだろう。

3.結果は統計的に有意ではなかった、だが幾つかの生の数字はメディケイドの方を支持している:またまたお笑いだ。もしそんな主張をFDAの前でやってしまえば、部屋中が大爆笑に包まれるだろう。幾つかの生の数字はメディケイドの方を支持しているというのは確かだが他のものはそうではない。統計的なノイズである確率は極めて高い。最も重要なことに、オレゴンの結果はメディケイドは保険に加入していない人と比較して最大でも意味のある違いを生み出していないことを示している山のようにある臨床上の証拠と整合的であることだ。

4.メディケイドはうつ病の診断と治療には役立っている!:それは素晴らしい、だが繰り返しになるが、それがうつ病の客観的な指標の改善につながっているかどうかは分からない。そしてメディケイドに45兆円を毎年費やしていることを思い出して欲しい。高コレステロール、高血圧、糖尿病、うつ病の治療薬として現在最も頻繁に処方されているもののほとんどすべてがジェネリックだ。毎年45兆円より少ない金額で人々を幸せにすることが出来ないというのであれば、何か間違ったことをやっている。

5.メディケイドは金銭的負担を低下させた:素晴らしい、だがそれと同じことはその数分の1の費用で出来る。例えば、フロリダ州のWill Weatherford and Richard Corcoranが提案したプランなどによってだ。そのプランは代わりにメディケイドを拡大することを主張した人々によって妨害された。

私はメディケイドの費用に関して何度も言及している。だが、低所得の人に対してそれだけの金額のお金を支出するのに反対しているのではないということははっきりさせておきたい。私が反対しているのは、その金額を無駄にしていることだ。メディケイドよりも優れた市場寄りの代替案は数多くある。

低所得者に対して新しいプログラムを作ることは可能だ。例えば、かかりつけ医に毎月1万5000円を支払うプランが考えられる。それは「concierge doctors」への支払いと呼ばれるもので、メディケイドに加入している人に最高の診療を提供するだろう。その上に、保険料が年間20万円の重大な事故や病気をカバーする保険を組み合わせることが出来る。そのプランの費用は38万円ぐらいだろう。オバマケアのメディケイドの拡大よりも37%以上安くなる。国民にそのようなプランを提供すると同時に、残りの費用をカバーするために医療貯蓄口座を拡大させることも出来る。

リベラル派は長い間、藁人形を叩いてきた。「メディケイドを拡大させるのに反対するのならば、低所得者に医療を提供するのに反対するのも同じだ」といった具合に。だが本当の所は、もしメディケイドを拡大するのを支持するのであれば質の高い医療を必要としている人に提供する本当の改革への道を閉ざしているというのが実際の所だ。

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