2016年3月19日土曜日

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート4

LOTT'S NUMBERS: The Truth About Obama's Health Care Plan, Part 2

John R. Lott

「それから費用の増加の問題がある。私たちは他のどの国よりも1.5倍多く医療に支出している。医療はアメリカ経済の6分の1を占めている。この部屋にいる誰もが、このまま何もしなければ何が起こるだろうかを知っている。財政赤字は拡大するだろう。多くの家庭が苦しむだろう。多くの企業が倒産するだろう。多くの人が保険を失うだろう。その結果として、多くの人が亡くなるだろう」とオバマは2009年の9月9日に議会で演説した。

よく持ちだされるのがGDPの6分の1が医療に支出されているという数字だ。その数字は1400兆円のGDPを220兆円とされている医療支出で割って求められている。オバマはこれらの数字を政府が介入して医療費をコントロールする必要があることの証拠としている。だが、どちらの主張にも問題がある。よく議論で用いられる医療費の数字は二重に計上されていてしかも価格コントロールによって歪められており、そしてここ数十年間のアメリカの医療費の増加率は政府が管理しているはずの他の国よりも低いということだ。

第一に、二重計上の問題を見てみよう。220兆円という数字には保険会社、個人、政府が医療に費やしたものだけではなく、建物や医療設備に対する支出が含まれている。明らかなように、MRIの使用に際して患者によって支払われたお金と病院がMRIに支払ったお金とを両方計上することはできない。MRIの購入の為の費用は結局はMRIの使用に対する支払いでカバーされる。

220兆円という数字は「医療部門で活動する組織(プロバイダー、サプライヤー、保険会社)の手に渡る」すべてのお金を測っている、とAmerican Enterprise InstituteのJoseph Antosは語ってくれた。その数字は「医療が経済に占める割合を示すための指標ではない」と彼は述べた。

研究に支出されるお金に関する会計上の問題もある。医療費全体の数字と云われているものにはNIHの全予算とNSFの予算のかなりの部分が含まれている。だがそれらのお金の大部分は医療の研究とはほとんど関係がなくその支出されたお金も研究が生み出したものによって一部は回収される。

NIHに渡された資金は大学の運営全般に関わる費用の為にも用いられる。Tuck Business SchoolのBob Hansenは「NIHのような場所からの助成金は管理運営費の50%近くに達している。NIHの予算には大学一般の管理運営費の為の資金がかなり含まれている。国際比較は、他の国が大学に直接資金を提供している場合には問題になる」と記している。

この二重計上を合計すると36兆3000億円ぐらいになる。GDPの6分の1(16%)ではなく、正しい数字は8分の1近く、要するにGDPの13%ぐらいということになる。他の国との医療費の違いはほとんどが消滅した。フランスを例にしてみよう。フランスはGDPの11%を医療に支出している。

医療費の乖離は、他の国が薬などに価格コントロールを敷いていることを考慮すればさらに小さくなる。アメリカ人は一人あたりで見て他の国の2倍ぐらい薬に費やしている。アメリカの製薬会社は新薬の開発に膨大な費用を支出している。そしてアメリカ人はその市場価格を支払っている。一旦新薬が開発されると、薬の生産費用や再生産費用それ自体は安いので、価格コントロールを敷いている他の国は生産費用と販売費用だけを負担する結果になる。従って他の国は、アメリカが開発した世界中の人の命を救う薬の研究に「フリーライド」していることになる。

もしアメリカ人が他の国と同じぐらいの額に薬の支出を抑えれば、私たちは医療費をGDP比で見てさらに1%ポイント削減することができるだろう。だがこれには恐ろしい副作用がある。製薬会社は、膨大な研究費用と承認の負担を回収できない限りは新薬の開発を続けることができなくなるだろう。アメリカ人は世界中の薬の負担を一手に引き受けていることに不満を感じているかもしれない。だが私たちの国に価格コントロールを敷くのではなくて、その解決策は他の国が規制を廃止することかもしれない。

現在議論となっているのは、医療費がこれからどうなっていくのかだろう。議会演説でオバマが語ったように、医療費の上昇を抑えるというのが政府が医療保険を提供しようとすることや数多くの規制で医療の「無駄」を削減しようとすることの動機になっているのだろう。「連邦政府の赤字を制御下に置く唯一の方法は医療を何とかすることだ。皮肉なことに、この医療法案は財政赤字の削減に非常に重要なものだ」とオバマは語った。

OECDは30ヶ国の医療費のデータを集めている。1998年から2007年と過去10年間のデータを見てみよう。その期間に、アメリカの一人あたり医療費は年率7.2%で増加した。他の国の医療費はそれより1%ポイント多い年率8.2%で増加した。アメリカを除いた24ヶ国のうちの14ヶ国は、アメリカよりも医療費の増加率が高かった。同様のパターンは過去20年間でも当てはまる。

OECDの平均的な国では、政府支出が医療費の72%ぐらいを占めている。アメリカは45%ぐらいなので、最も割合が低いグループに位置している。政府支出が医療費の80%ぐらいを占めている国は全体の3分の1ぐらいある。だがアメリカの政府支出の割合を高めることは費用の削減には結びつかないように思われる。実際、その逆が正しい。政府の支出する割合が最も高い国々の方が、一人あたりの医療費が最も増加している。1960年から2007年までの利用可能なすべてのデータに一人あたり所得やその他の要因なども考慮に加えると、医療費に占める政府支出の割合が1%上昇する毎に医療費は0.4%ぐらい増加する傾向がある。

だが費用の水準や増加率という話以外に、もっと大きな疑問がある。そもそも費用のことを気にする必要はあるのか?どうしてアメリカ人が大きな家や豪華な車、より良い医療に対する支出を避けなければいけないなどというのか?どうしてアメリカ人が股関節置換術を受けられるようになったり早期にがんを発見できるようになったことを喜ばないのか?アメリカ人は医療よりも住宅に多くのお金を支出してきた。だがそのことは住宅にお金が支出されすぎているということを意味しないはずだ。

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート3

The U.S. Is The Third Lowest Health Spender of 13 Developed Countries

John R. Graham

Commonwealth Fundと提携した経済学者たちが、最近になってまた医療システムの国際比較の報告書を作成した。これらの報告書はいつもメディアによって歓迎され、アメリカの医療システムはなんて高額なのかと嘆く一連の記事が紙面に並ぶことになる。アメリカと他の国との違いは他の国が公的医療保険を持っていることだとCommonwealth Fundに結論を煽動され、多くの人はそのような「改革」によってアメリカの医療費を削減することができると刷り込まれる。

その結論は的はずれだ。その報告書によると、アメリカの医療支出は2013年でGDPの17.1%ということになっている。2番目のフランスは11.6%だ。ドルに換算すると、アメリカの医療支出は一人あたり90万円ほどでスイスは63万円ほどしか支出していないということになっている(これらの価格はPPPレートで表示されている。その問題点は以前に指摘した)。

これらの数字を見ていると、このお金に見合うだけの価値を得ているのかという疑問が浮かんでくる。だがこの支出がアメリカの負担になっているのかどうかはアメリカの所得が非常に高いことを考えればまったくもってはっきりしない。表1はアメリカのGDPから医療支出を引いたものを表示してある。医療支出を差し引いてもまだ一人あたりで見て他のものに440万円をアメリカ人は支出できることが分かる。これより多いのは、ノルウェーとスイスのたったの2ヶ国しかない。例えば、医療支出を差し引いた後のイギリスの一人あたりGDPは348万円でしかない。従って、もしアメリカの医療支出がイギリスより本当に多かったとしてもそれを差し引いた後でさえアメリカ人はイギリス人よりも91万円以上多く支出できることになる。同様に、カナダ人に対しても60万円以上多い。


実際、高い一人あたりGDPが高い医療支出の原因だということを示した幾つかの証拠がある。David Cutler and Dan Lyは外科医の所得がアメリカの医療支出を幾らか押し上げていると主張した。アメリカの外科医の平均所得は2010年で2300万円ほどで他の12ヶ国は1290万円ほどだ。

これは見た目には大きな違いだ。だが医療システムとはほとんど関係がない。むしろ、労働所得の分布に関係がある。他の国の高額所得者の所得自体がアメリカよりも低い。Cutler and Lyは「高額所得」を所得分布の95パーセンタイルから99パーセンタイルと定義している。彼は、アメリカの外科医は平均的なアメリカの高額所得者よりも37%所得が高いことを示した。だが、他の国の外科医はそれぞれの国の高額所得者よりも45%所得が高い。

アメリカの外科医が給料が低いと嘆くのは他の職業の方が所得が高いからだ。従って、アメリカの外科医の所得を低下させながらも十分な供給が保たれるなどということはまったく起こりそうもない。

興味深いことに、Commonwealth Fundに協力した経済学者たちは医療サービスだけではなく社会サービスに対する支出も調査している。これは極めて妥当だ。何故なら社会サービスは医療サービスを容易に代替するからだ(アメリカでは医療費に計上されているものが他の国では社会サービスに計上されているので)。だがGDPに占める割合として社会サービスの支出が医療サービスの支出に加えられると、アメリカの支出は外れ値ではなくなる。両者の合計はGDPの25%で、アメリカはノルウェーと同じ位置でスイス、オランダ、ドイツ、スウェーデン、フランスを下回る(表2を参照)。社会サービスと医療サービスを差し引いた後で残った所得を比べてみると、アメリカよりも高いのは最早ノルウェーしかない。平均的なフランス人の所得は平均的なアメリカ人よりも150万円も所得が低い。


最後に、アメリカの医療システムと他の国の医療システムは本当にそれほど大きく異なるのか?ということをよく考えてみる必要がある。医療システムが「ユニバーサル」かどうかで定義するのは他の特徴に比べればほとんど重要ではないだろう。表3は13の国を自己負担の割合と政府、民間を問わず第三者が支払う割合とで並べている。アメリカの自己負担率はたったの11%でしかないので、この指標ではアメリカは9番目に位置する。スイスは25%以上を自己負担で支払っている。カナダでさえアメリカよりも自己負担率が高い。


自己負担率の上昇は患者にコスト意識を持たせる上で重要だ。それにも関わらず、Commonwealth Fundは未だに「自己負担率の高さ」がアメリカで問題になっていると主張している。この国際的なデータからは、その結論は真逆であるように思われる。

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート2

Hospital Pricing And The Uninsured: Do The Uninsured Pay Higher Prices?

Glenn A. Melnick and Katya Fonkych

アメリカの医療システムは過去10年間に多くの構造変化を経験してきた。その中でも最も重要な変化の一つが病院の価格の決め方とその支払い方法の変化だ。1980年代の前半とは保険プランによる選択的契約とメディケアによるprospective payment system (PPS)の導入だ。この両者の下で、病院は治療に掛かった費用または病院が請求した請求価格(リストプライス)に基づいて再償還されるのではなく、その治療費はPPSのルールまたはマネジドケアプランとの交渉を通して決められる一定の定額に基づいて支払われるようになった。その期間に価格競争は加速し病院による価格のディスカウントが広範に行われるようになった。その一方で、病院は請求価格を引き上げ続けていった。アメリカの病院の請求額は1994年には治療の費用の174%だったものが2004年には治療費の254%になった。

病院の請求額のこの増加トレンドはアメリカの医療システムにとってほとんど無害だと考えられてきた。何故なら、「病院が請求する請求価格(リストプライス)を実際に支払う人は誰もいない」と考えられてきたからだ。だが、Wall Street Journalと最近になって他の新聞社も保険の非加入者がリストプライスに基づいて支払いを求められるかもしれないみたいな記事を書いた。仮にそうだとすると、保険の非加入者は請求価格が継続的に上昇しているので保険の加入者が支払うよりも同じ医療サービスに対して高い価格を支払っているかもしれない。

病院側の代表者はこの主張に対して幾通りもの方法で何度も反論している。第一に、多くの病院は保険の非加入者や低所得の患者に対して補助金やディスカウントを行う援助プログラムを行っていると指摘した。だが幾人かの非加入者はそれらのプログラムの存在を知らずに応募しないかもしれない。従って、保険の非加入者は保険の加入者よりも高い金額を払うかもしれない。それに対して、病院の代表者は毎年多額の債務の帳消しを行っていると語っている。そして自己負担のある患者が不利な状況に追い込まれているのではないと語っている。最後に、メディアの注目と弁護士による集団訴訟が起こったことで多くの病院は援助プログラムの存在を報告するようになっている。

注3 AHAの代表Dick DavidsonのStatement on the House Subcommittee on Oversight and Investigation’s Look at Hospital Billing and Collection Practicesでの演説。

(省略)

Study Data And Methods

データ: California Office of Statewide Health Planning and Development (OSHPD)は2001年から2005年の期間の病院レベルでの請求額と実際の収支とを保険非加入者と加入者とに分けたデータを提供している。この研究にはカリフォルニア州のほぼすべての病院がサンプルに含まれる。例外は、1年に50人以下しか保険非加入者が入院しなかった病院と子供向け病院と特別病院だ。最終的には、サンプルには300の病院が含まれカリフォルニア州で保険の非加入者が受ける治療の全体の80%をこれらの病院が提供している。

「保険に加入していない」の定義: OSHPDは患者を5つに分類している。メディケア、メディケイド、民間の医療保険、所得の低い患者、そして「その他」だ。OSHPDはそれぞれのカテゴリーを重複がないように設定しているので、「その他」のカテゴリーには自己負担患者とチャリティケアを受ける患者だけが入っていることになる。郡が費用を負担する(州よりも小さい行政単位)所得の低い保険の非加入者はOSPHDでは郡が支払うというカテゴリーに分類されている。従って、自己負担の保険非加入者に含まれていない。自己負担の保険非加入者の中には高度な治療を求めてやってくるアメリカ国外からの患者が含まれている。だがそれが全体に占める割合は低いので分析には影響を与えないと思われる。保険非加入者のグループには自動車などの事故による患者が含まれているかもしれない。それらの支払いは実際には自動車保険によってカバーされている。だが自動車事故に関連したすべての入院の12%を保険非加入者が占めるだけなので、この誤分類による影響は限られるかもしれないことが示唆される。最後に、登録時に患者が間違って分類されて後に再分類される可能性が考えられる。請求は最初の登録時の分類に基づいて行われるかもしれないので(支払いは最終的には正されるものの)、これは測定誤差を生み出す。

(省略)

注7 専門家へのインタビューを試みたところ、保険非加入者からの高い回収率はありえずそのように記載してあればそれはデータエラーの結果か保険非加入者からの支払いは一纏めにして記載されるからだとしている。

Study Results

図表1は保険非加入者が病院をどのように利用したかがまとめられている。2005年には、保険非加入者の入院回数は14万9000で入院日数は84万2000以上、外来回数は396万だった。2001年では、保険非加入者は請求額の39%を支払っていた。民間の保険の支払い率もこれと大体同じだった(41%)。メディケアとメディケイドは35%、30%だった。この比率はすべての支払者に対してその後低下した。これはリストプライスが上昇したことを反映している(請求額/支払額比率はこの期間に3.1から3.8に上昇した)。2005年には、保険非加入者はメディケア、メディケイドよりはまだわずかに支払い率が高いものの民間の保険よりは支払いが少ない。2000年から2001年では、保険非加入者の57%がメディケアよりも支払い率が高い病院に行っていた。民間の保険よりも支払い率が高いのは41%だった。この期間の最後では、民間の保険よりも支払い率が高いのは大体25%ぐらいでメディケアよりも高いのは50%ぐらいとなっている。


Discussion

保険非加入者の人数が問題だとされている。だが保険に加入していないにも関わらず、彼らは病院での治療を相当量受けていることを私たちは発見した。2005年には、保険非加入者はカリフォルニア州の病院治療の5.5%を利用している。その支払い率はメディケア、メディケイドよりはわずかに高いが民間の保険よりは低いように思われる。この期間に、メディケアよりも支払い率が高い保険非加入者の割合は57%から49%へと低下した。民間の保険に対する変化はこれよりもさらに大きかった(41%から27%だった)。これらの変化は病院が保険非加入者に対してネットの価格を低下させたか保険非加入者がこの期間により安い価格を提示している病院へと向かうようになったかあるいはこれらの組み合わせの反映かもしれない。

(それほど重要ではないので、以下省略)

メディアはどのようにしてアメリカの医療費が高いという話をねつ造したのか?パート1

THRILLS, CHILLS AND HOSPITAL BILLS: MAYBE THEY'RE NOT SO CRAZY AFTER ALL

John R. Graham

先日、私はサンディエゴ市のScripps Health hospitalsに対する集団訴訟の無意味さを調査していた。保険に加入していない人たちのほとんどは医療費をどちらにしても払っていない!にも関わらず、「多額の」医療費を請求された(と主張するように弁護士にそそのかされた)と主張する保険の非加入者に対してディスカウントを与えるようにと訴えた裁判のことだ。

今日、私たちは2001年から2005年の期間にカリフォルニア州の病院に入院した患者で医療保険の非加入者、加入者、メディケア加入者、メディケイド加入者それぞれの支払額と請求額の比率を知ることができた。その論文の筆者たちは、民間の医療保険は請求額の38%、保険非加入者は28%、メディケア加入者は27%、メディケイド加入者は27%を支払っていたと結論している(アメリカの病院にはリストプライスというものがあってメディアがアメリカでは盲腸の手術が200万円もするとか騒ぐ時に使っている元ネタがこれ。このリストプライスというのは参考にならないメーカー小売希望価格のような偽の価格だということがアメリカ社会では常識となっていた。そのことを知らなかったもしくは知っているのに意図的に一連の捏造記事を書き始めたのがWSJと云われている。今回の論文はそれを改めて確認したもので、例えば病院側が医療費として100万円を請求したとすると実際に支払われる額はというより正確にはそれぞれの保険が実際に病院に支払う額は民間の保険で38万円、保険に加入していない人で28万円、メディケアで27万円、メディケイドで27万円だったということが明らかにされている)。

これは興味深い発見だ。私の以前の記事では、緊急救命室(ER)にやってくる保険非加入者のほとんどは医療費を支払っていないと指摘した。従って、病院が提示する請求額の一部を支払っている人がわずかにいるのかもしれない。この歪みにも関わらず、保険の非加入者が支払う額は民間の保険よりも少ない。

これは私の論文で議論したことを確認している。保険の非加入者は、保険の義務付けを行うために病院側が主張していることとは異なり病院にとって大した負担ではないということだ。その期間の患者全体の入院日数のわずか5.5%を保険の非加入者は占めるにすぎない。その論文では2005年では請求/費用比率が3.8だったと報告している。従って、保険非加入者が請求額の28%を支払ったと仮定すれば、病院側の費用の106%(0.28×3.8)を説明することになる!

私の論文で、カリフォルニア州の病院は恐らく黒字で保険加入の義務付けを通した政府による救済をほとんど必要としていないだろうと議論した。この論文はそれを確認している。

より詳細な説明はパート2

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート6

The Scope of Vitamin D Deficiency in African Americans

10代の黒人が示唆となるのであれば、アメリカの黒人の半数近くはビタミンDが不足していることになる。これらの人々はビタミンDが不足している人全体の5人に3人、57.2%を占めている。

それをどうやって知ったのかはここにある。今年の始めに、ニューヨーク市のWeill Cornell Medical Collegeの研究者たち、Sandy Saintonage, Heejung Bang and Linda M. Gerberによって行われた研究、Implications of a New Definition of Vitamin D Deficiency in a Multiracial US Adolescent Populatuion: The National Health and Nutrition Examination Survey III in March 2009がPediatricsに掲載された。

その研究はビタミンD不足の閾値の引き上げが提案されているのに対応して、アメリカの成人でどの程度ビタミンDが不足しているのかを把握するとの目的で行われた。その当時では、ビタミンDの不足は血清中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が1mlあたり11ナノグラム(ng/mL)を下回ることとして定義されていた。最近になって、新基準として20 ng/mLにまで引き上げられた。

その研究にはNational Health and Nutrition Examination Survey IIIのデータが用いられた。これは1988から1994の期間の12歳から19歳までの全国的に代表的な2955人のサンプルを社会人口統計学的な特性を考慮に入れた上で横断的に調べたものだ。その過程において、その研究の筆者たちはビタミンD不足が旧基準では2%であったものが新基準では14%または2955のサンプルのうちで414に上昇したことを示した。

10代の黒人に対しては、ビタミンD不足の増加はより広範だ。旧基準の下では、11%がビタミンD不足とされていただろう。新基準の下では、その数字は50%にまで跳ね上がる。

その研究が元にした調査には12歳から19歳までしか含まれていなかったので、そのサンプルに含まれていた黒人の人数をアメリカの人口全体に占める黒人の割合で拡張することにした。その調査は1988から1994に行われていたので、1988に19歳だった人の誕生年、1994に12歳だった人の誕生年を調べることにした。それにより1969から1982の期間に生まれた人を調べれば良いことが分かった。

それからCDCに記録されているその期間に生まれた人の人数を人種ごとに調べることにした。1969から1982にアメリカで生まれた人の人数は4783万1224人だった。その中で、765万4595人が黒人と数えられていた。それは全体の16.00%に相当する。

その割合を元にして、2955のサンプルのうち何人が黒人だったのかを今では計算することが出来る。この数字に16%を掛けるとサンプルのうちで473人が黒人だったことが分かる。このうちの50%が新基準ではビタミンDが不足していると数えられている。それは236になる。

サンプル全体では、14%がビタミンD不足ということなので414になる。従って、414のうちの236なので黒人が占める割合は57.2%ということになる。

その研究は非ヒスパニック系の黒人は非ヒスパニック系の白人よりも20倍以上ビタミンDが不足している傾向にあることも示している。236を20で割って数字を丸めると、白人でビタミンDが不足していると数えられたのは12人、サンプル全体の2.9%ということになる。

ビタミンDが不足しているとされた残りの165人は全体の40%を占める。その筆者たちの他の観察結果もこのブログの長年の読者には驚きではないだろう。ここに、2009の4月27日のLempert Reportに寄せられたLinda Gerberのコメントの一部がある。

「以前のガイドラインはくる病の防止を目的に策定されていた。研究者たちは血清中のビタミンD濃度の高さが生涯を通した最適な骨の形成に必要であることを示した、とその研究の共著者のDr. Linda Gerberは語った」

「牛乳が子供たちの主なビタミンDの摂取源だった。成人になってくると、牛乳はソフトドリンクやジュース、他の飲料などのビタミンDをあまり含まない飲み物に取って代わられていく。さらに、特定の民族の10代の多くはラクトース耐性を持っておらず牛乳を避ける。他にもビタミンDの供給源となる食品は存在するが、10代の多くはビタミンDの栄養価の低い食品を食べている、とGerberは語った」

「体重過多ぎみの子供に適量のビタミンDレベルを達成させることはまた別の問題だ。ビタミンDは脂溶性なので、もしビタミンDが脂肪の中に隠れてしまうとビタミンD不足の問題はさらに深刻になるかもしれない。体重過多ぎみの子供に対しては上限である2000 IU/dayの経口からの投与が必要となるかもしれない、とGerberは語った」

「ビタミンDの不足は多くの慢性疾患病のリスク因子となっているかもしれないと新しい証拠は示唆している。それ故、成人を研究することにより、これらの病気の発症を防ぐことが出来るかもしれない、と彼女は語った」。

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート5

A Seemingly Simple Solution

黒人と白人の平均寿命の違いは黒人のビタミンDの不足で説明することが出来るのか?このビタミンD不足を解消することによってその乖離を解消することが出来るのか?

どちらの質問に対する回答も、そうだと仮定しておく。そしてそれが見た目ほど簡単な話ではないということを見ていく。

理由を理解するために、人体においてビタミンDがどのような働きをしているのかを詳しく見ていく。そして黒人に多い慢性疾患病にビタミンDがどのように作用するのか、黒人のビタミンD不足が彼らの死亡率にどのような影響を与えているのかを見ていく。さらに、どうしてアメリカ政府がビタミンDの摂取を強化することを義務付けるよう制度化しているのにそれが黒人に対してほとんど効いているようには見えないこと、ビタミンD不足を有効に解消するにはどうしたら良いのかを最終的には議論する。

Background Information on Vitamin D

The Role of Vitamin D in Human Physiology

体内におけるビタミンDの主な働きは血液内のカルシウム濃度を一定に保つ手助けをすることだ。ビタミンDは消化器系内の食物源からのカルシウムの吸収を促進したり骨の成長を促したりミネラルの吸収を促したりする。以前の結核の記事で見たように、ビタミンDはカテリシジンの生成においても重要な働きをする。これは免疫システム内において感染性の病気に対する抵抗力を高めるのに重要な枠割を果たすものだ。

Where Vitamin D May Be Obtained

ビタミンDは2つの主要な源から得られる。一つ目は、太陽の光だ。二つ目は、食物やサプリメントだ。ビタミンB同様にビタミンDにも様々な種類がある。太陽の光から生成されるのはビタミンD3で多くの食物にやサプリメントに含まれるのはビタミンD2やビタミンD3だ。サプリメントとして最も推奨されているのがビタミンD3だ。

How Much Vitamin D Do People Need?

19歳から50歳までの成人に対してU.S. Food Nutrition Boardは一日のビタミンD摂取量を200 IU (International Units)と定めている。これは5 mcg (micrograms)に相当する。American Academy of Pediatricsはこの秋にビタミンDの摂取量の新たなガイドラインを発表する予定になっている。それによると乳幼児、児童、成人は400 IU (or 10 mcg)を摂取することが求められることになっている。これは51歳から70歳までも同様だ。70歳以上の人には600 IU (or 15 mcg)を摂取することが求められている。

これらの水準は、太陽の光から皮膚に浴びる紫外線の量は予測が立てにくく天候や住んでいる地域によって影響されることを理由に求められている。北部に住んでいる人たちにとっては特に不利となる。他の要因、衣服や紫外線防止用品、皮膚に含まれるメラニンの量なども紫外線への暴露によって生み出されるビタミンDの量に負の影響を与える。

ビタミンDの取り過ぎも問題だ。一日に2000 IU (50 mcg)以上を継続的に摂取することは有害な効果を生み出すかもしれない。この量は初期には吐き気などに推奨されていたが腎臓へのダメージ、腎石、筋肉量の低下、過度の出血に繋がる恐れが指摘された。限定された期間であれば高用量の使用も問題ないかもしれない。

How Vitamin D Deficiency Contributes to Shorter Lifespans

皮膚のメラニン色素が多い黒人は白人よりもビタミンD不足の影響を遥かに受けることが予想される。ビタミンDと密接に関連していてビタミンDが体内の量を制御しているカルシウムに関しても同様だ。

下に、黒人に特に影響している慢性病や健康状態を表にまとめた。さらにそれらとビタミンDの不足、カルシウムの不足との関連の有無、さらにそれらの関係性が確立されているのであればそのつながりの証拠となっている論文を一覧にした。

この表からは、ビタミンDの不足が黒人に多いとされる病気や健康状態に深く関連していることが分かる。

Accounting for Disparities Between Black and White Life Expectancy

ここまでで、私たちは慢性疾患が黒人の死亡率を高めていることビタミンDの不足がそれらすべての病気のほとんどの主要な原因となっていることを突き止めてきた。

私たちが提示しようとしている仮説とは、黒人のビタミンD不足が黒人と白人の死亡率の違いのほとんどすべてを説明するというものだった。その詳細を見ていこう。

1.生存率は1年目から違いが発生していることを最初の記事で見た。黒人の母親は白人よりも遥かにビタミンDが不足している割合が高いので、これが未熟児の誕生、低体重の主要な原因である妊娠中毒症の割合の高さの原因となっていると仮説を立てる。未熟児、低体重ともに黒人の乳幼児死亡率の高さの大きな原因となっている。

1歳から20歳までの間で黒人と白人の間に死亡率の違いはほとんど見られない。これは乳幼児や成人と比べてこの年代は日光を浴びる量が増加するのとアメリカ政府の児童に対するビタミンD摂取の義務付けが有効であったとの複合仮説を立てる。だが以下で手短に説明するように、ビタミンDが強化された食物からの日常的な摂取は成人になるにつれて有効性が失われていくと考えている。

黒人が成人に達してビタミンDが強化された食物を摂取しなくなると、日光量の相対的な低下が黒人に対して大規模なビタミンD不足を引き起こすと仮説を立てる。その結果として、ビタミンDの不足が主な原因となっているすべての慢性疾患が黒人の死亡率を大幅に高める。

ビタミンDの不足は、どうして黒人の10代の母親の方が20代や30代の黒人の母親よりも未熟児、低体重の割合が少ないのかも説明している(普通は、10代の方が圧倒的に多い)。ビタミンDは脂溶性なので、10代の黒人の母親は、すでに毎日の食物からの摂取をやめているとしても、体内に十分な量のビタミンDを蓄えている可能性がある。それより上の年代の母親は他の食物源からの補給がなければかなり前に体内のビタミンDを消費してしまっていると考えられる。

メラニン色素の増加は紫外線によって生み出されるビタミンDの量を低下させる。都市部近郊に住む黒人は郊外や田舎に住む黒人と比較して太陽の光に曝される量が遥かに少ない。この違いが都市部近郊の黒人の死亡率の高さをほとんど説明すると仮説を立てる。

さらに緯度の高い地域に住む黒人は同様に負の影響を受けると記すべきだろう。地球の曲率はこれらの地域の地表面に降り注ぐ太陽光の密度を低下させるからだ。

ネイティブの黒人と黒人の移民との死亡率の違いも、黒人の移民は恐らくは田舎に住む黒人と同程度の太陽の光を浴びているのかもしれないということによって説明できるのではないかと疑っている。たばこ消費量の少なさも相まって、この要因は黒人の移民の方が遥かに死亡率が低いことを説明するのだろうと思われる。

一方で、80歳以上の黒人の平均余命が長いのは彼らが主に何処に住んできたのかと関連しているのではないかと思っている。恐らく、アメリカの郊外や田舎の地域と一致していてビタミンDを多く含む食生活を送っている地域なのではないかと予想している。

Why Dairy Doesn't Work For the Adult Black Population

以前にどうしてビタミンDの食物摂取からの有効性は失われていくのかを説明すると約束したと思うのでそれを今行う。アメリカの黒人の圧倒的大多数はサハラ砂漠以南の西部を起源としている。その結果として、彼らは大人になるに従いラクトース耐性を失っていく。乳製品を消化できるようには出来ていないからだ。

アフリカを起源に持つ人のすべてがこのグループに属するという訳ではない。アフリカ東部の人々は乳製品を消化する能力を持っている。この違いは酪農を営んできた何世代にも渡る人たちが発展させてきた遺伝的適応を原因とする。アフリカ東部の人々は牛を飼いならしてきた長い歴史を持つ。それは3000年から7000年前まで遡る。対照的に、アフリカ西部の人々は酪農の歴史が遥かに短く同じような遺伝的適応を経験していない。

そして、それがアメリカ政府によるビタミンDを多く含んだ乳製品の摂取の黒人の成人に対する義務付けがどうして機能していないのかを説明している!恐らくは、アフリカ東部からの移民にしか機能しないのだろう。アメリカへの黒人移民の平均寿命の長さも部分的にはこのことによって説明されるかもしれない。

What Would Work Better

ビタミンDを自然に含む食品はほんのわずかしかない。乳製品以外ではこのようになる。タラの肝油、サーモン、サバ、ツナ、いわし、マーガリン、卵、牛の肝臓。サーモン、ツナ、卵、マーガリンぐらいだったら知っているかもしれない。でも他のものとなると食欲をそそるだろうか(タラの肝油…)?

より真面目には、政府からも推奨されているビタミンDを多く含むシリアルがある。もちろん、乳製品に替わる直接の代替物もある。それらの中で、第一の選択肢となるのはラクトース耐性を持たない人も摂取できるように改良された乳製品となるだろう。豆乳のような他のミルク代替物(これも食欲をそそるだろうか?)も役に立つかもしれない。だが豆乳は男性よりも女性によく機能するだろうと思う。

一方で、ビタミンDタブレットはいつでも利用可能だ。スーパーマーケットに行けば400 IU分のビタミンD錠剤が90日分400円ほどで購入できる。これは年間の購入代金も1200円から2000円で購入できることを意味する。

Conclusion

しばしば、答えるのが最も困難な質問には「ここではこうなっていて、でもこっちではこうなっていないのか?」といったようなものが含まれる。

この一連の記事を通して、それが私たちの挑戦だった。何故黒人の乳幼児死亡率は白人よりも高くて、だが1歳から20歳までの死亡率は白人とほとんど変わらないのか?何故黒人成人の死亡率は白人よりも高くて、だが80歳以降ではそれが白人よりも低くなるのか?何故都市部近郊の黒人は(医療機関へのアクセスに大幅に恵まれているにも関わらず)田舎に住む黒人よりも平均寿命が短いのか?何故10代の黒人の母親は黒人の他の年代よりも未熟児、低体重児を出産する割合が低いのか?何故統計を見ると母国では遥かに平均寿命が短いにも関わらず彼らがアメリカに移民してくるとネイティブのアフリカ系アメリカ人を平均寿命では圧倒するのか?

これらの疑問に答えるために、私たちは何度か自問自答を繰り返した。白人と比較して各年代毎に黒人の死亡率に大きな影響を与えている健康状態とは何か?どのような要因または要因たちがこの原因となっているのかというのもこの質問の答えとなっているだろう。

次回は、この一連の記事の最後のまとめとなる。そこでは、これまで見てきたすべてのデータに対して回答を与え一つの統合された説明を提供することになるだろう。

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート4

African Blessings, African Curses

「人を死に至らしめなかったものが、人を強くする」。

80歳以上の黒人の方が白人よりも死亡率が低いということをここで記事にして以降、eメールで何度も私たちの元に送られてきたのが上記のような内容の文章だ。公平に言うと、上記の内容にも一欠片の真実があるかもしれない。もし人が困難を乗り越えたならば、その人は技を磨き将来の他の困難にも立ち向かえる力を身に付けるかもしれない、よってそれらの困難を防ぐこともできるようになるだろうとその論理は続く。

だが人間の生態学がそれに関わるようになると、物事はそのようには一般的に動かなくなる。

水疱瘡の例を考えてみる。アメリカでは比較的一般的な児童の病気だ。一度子供が水疱瘡を発症すると、その人はその後はその病気に再び罹ることはない。だが免疫システムを強化させるのではなく、他の病気によって身体の免疫力が低下するまでウィルスは活動を休止する。そしてウィルスは以前に水疱瘡に罹ったことがある成人にのみに、だが今度はより悪い形で再び表れるかもしれない。

人を死に至らしめなかったものが、人を強くするとは限らない。生態学では、むしろそのような事例の方が少数派だ。人を死に至らしめなかったものが人をむしろ脆弱にし、現実的にはこちらの事例の方が多いだろうが有害なものから人を守った(祝福)と思われたものが実際には人を死に至らしめるものに対しては人をより脆弱にする(呪い)。

この概念は、どうしてサハラ砂漠より南を起源とする人たちは多くの病気に対してこれほどまでに脆弱なのかを考える際に繰り返し繰り返し登場することになるだろう。

そして、アフリカの呪いと祝福は相互に結びついていることをこれから見ていく。

The Challenges of Sub-Saharan Africa

他の地域と比較して、サハラ砂漠以南のアフリカ人は健康に対して最も大きなチャレンジに晒されている。よく知られている感染症が毎年何百万人もの命を奪っている。あまり知られていない感染症もこの地域全体に蔓延していて何百万人もの健康に影響を与えている。

HIVのような幾つかのウィルス性の病気も、この地域に最も集中している。

寄生性の感染症に最も脆弱なのは子供たちだ。サハラ砂漠以南の乳幼児、幼児の死亡率は衝撃的だ。下の図は、アメリカのアフリカ系アメリカ人のために組織されたGivewellという団体が作成した資料を参考にした。

そこからは、マラリア、呼吸器系の感染症、下痢、周産期の病気、麻疹、HIV/AIDSによって生まれた子供の90%が5歳までに死亡することが分かる。これらの病気による死亡を除くと、5歳未満のサハラ砂漠以南の子供の96%が5歳の誕生日を迎えることが出来る。それらの数字を99%が5歳まで生存するアフリカ系アメリカ人の数字と比較する。

サハラ砂漠以南のアフリカ人と黒人との間の生存率の差は60歳から縮小し始めるまではどんどん拡大していく。

Blessings and Curses

様々な種類のマラリアを引き起こす様々な種類のマラリア原虫に数千年も晒されてきたことを思えば、生き残った人たちはそれらに対する遺伝的な防御機構を発展させてきたことは不思議ではないのかもしれない。2008の6月に掲載されたWeijing Heによる研究、Duffy Antigen Receptor for Chemokines Mediates trans-Infection of HIV-1 from Red Blood Cells to Target Cells and Affects HIV-AIDS Susceptibilityによると今ではほとんど絶滅したマラリアの一種からサハラ砂漠以南のアフリカ人を守ってきた突然変異がHIV-1に罹患する確率を大幅に高めることを示しているように思われる。その論文の筆者たちはアフリカのHIVの約11%はこの遺伝的適応によって引き起こされた脆弱性に直接的に関係していると試算している。

アフリカ系アメリカ人に対しては、この遺伝的突然変異を持たない人と比較して、これはHIVに感染するリスクが40%高まることを意味する。これは何故、アメリカの黒人のHIV感染率が他の人種と比較してそれほどに高いのかをよく説明している。ただ、良いニュースもある。それをそのように思えばだが。その遺伝的適応はそれを持っていない人と比較してHIVの進行をも遅らせているように見えることだ。他の研究がこれらの事柄をすでに確認し始めている。

HIV/AIDS and Parasitic Worms

話は異なるが、3日熱マラリア原虫を原因とするマラリアへの遺伝的適応だけが寄生虫由来の感染症とHIVへの脆弱性との唯一の相関ではない。Agnès-Laurence ChenineらによるAcute Shistosoma mansoni Infection Increases Susceptibility to Systemic SHIV Clade C Infection in Rhesus Macaques after Mucosal Virus Exposureという新しい研究は、住血吸虫症の背後にあるのと同じ寄生虫が感染したものをHIVに対して脆弱にすることが示唆されている。サハラ砂漠以南のアフリカは寄生虫の感染が蔓延している地域なので、これは他の地域に比べてこの地域にHIVがこれほど蔓延しているのかを説明する手助けとなるかもしれない。

Melanin and Tuberculosis

この地域は日射量が地球で最も多い熱帯に属するので、遺伝的適応の最たるものがメラニンレベルの増加だ。皮膚のメラニン色素が多い人たちは(黒い皮膚の色に対応する)、そうでない人たちと比較して太陽の光と紫外線の直射に遥かに強い。

その太陽の光への耐性には非常に高い代償が伴っていたことが最近発覚した。結核は、主にサハラ砂漠以南のアフリカではあるが世界的に800万人に感染し200万人を死亡させている結核菌によって引き起こされる病気だ。2006の2月に掲載されたPhilip T. LiuによるToll-Like Receptor Triggering of a Vitamin D-Mediated Human Antimicrobial Responseによると、アフリカを起源に持つ人たちに見られるメラニン濃度の高さは日光への暴露によって生み出されるビタミンDの少なさを説明している。そしてそれが結核菌への脆弱性に対応している。

紫外線は人体においてビタミンDの生成を促す。皮膚のメラニン色素が多い人は紫外線をより吸収するので、紫外線からによるビタミンDの生成は制限される。

ビタミンDは感染症に対して免疫システムの中で重要な枠割を果たすので、このことは非常に重要となる。血液内のビタミンD濃度が低いと病原菌が体内に侵入した時に生み出されるカテリシジンの量は遥かに少なくなる。カテリシジンは殺虫剤のような働きをする。結核菌のような感染性の病原菌を殺す働きをするということだ。これはどうしてアフリカを起源に持つ(そしたら全員だろうという批判はなしで)人たちが、結核に対してそれほどまでに脆弱なのかを説明している。

アメリカでは結核の感染や死亡はほとんど存在しないが、黒人は他の人種/民族集団と比較して8倍結核に対して脆弱であることが示されている。研究者たちは、ビタミンDの増加が黒人に与える影響を調査するため実験室での実験を行った。

ビタミンDの増加は血液サンプル内のカテリシジン濃度を上昇させた。この結果はビタミンDを補うサプリメントが黒人の結核率を低下させるのに非常に有効な方法となりうることを示唆している。結核が蔓延しているアフリカやアジアでこれらの結果が大きな規模で再現できるか結核の感染率が低下するかをテストする提案が出されていた。

A Simple Vitamin Deficiency?

ビタミンDの不足はどうして黒人が白人に比べて様々な慢性疾患病に弱いのかを説明できるだろうか?そしてビタミンD不足を解消することでこの乖離は消滅するのだろうか?

明日見ていくように、それが答えのように思われる。そしてそれから、解決策は思ったほど簡単ではないのかということも見ていく予定だ。

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート3

The Disproportionate Killers

慢性疾患が黒人と白人の平均寿命の違いのほとんどを説明することをここまで見てきた。昨日議論したように、その影響を最も受けているのは20歳から80歳で、さらに都市部近郊に住む黒人は郊外や田舎に住む黒人に比べて慢性病の影響を遥かに強く受けていることも研究は示している。ここでは、他の集団には見られない黒人の死因の中で顕著となっているものを取り上げたいと思う。

以下に示すグラフのほとんどは2007の1月のKaiser Family FoundationのKey Facts: Race, Ethnicity & Medical Careというレポートによるものだ。特に、そのレポートの2章は人種と民族間の健康状態の違いを扱っている。血管系の病気、感染症などの死亡率はU.S. Centers for Disease Controlを参考にした。

Infant Mortality

以前に示したように、10万人あたりの生存者の人数の違いの0.8%は初年度に表れている。下の図は、2003の黒人の乳幼児死亡率がアジア系、ヒスパニック系、白人の2倍以上でアメリカ・インディアン、アラスカ系のネイティブよりも3分の1以上高いことを示している。

黒人と白人の乳幼児死亡の原因の詳細は2008の4月のJournal of PerinatologyのEthnic differences in infant mortality by cause of deathという記事で見ることが出来る。特に、未熟児の死亡/低体重による死亡が黒人の乳幼児死亡のほとんどを占めている。完全に意外だったのが20代の黒人の母親と30代前半の黒人の母親の方が10代で出産した黒人の母親よりもこの症状に遭遇する確率が遥かに高いということだ(10代で出産した方が未熟児が生まれる確率が高いと云われている)。

Heart Disease

心臓の病気はアメリカ人の死因で最も多いものだ。従って、黒人でも最も多い死因だったとしても驚くことではない。

下の図に見られるように、非ヒスパニック系の黒人のこの病気による死亡率はアジア系の2倍以上、アメリカ・インディアン/アラスカ・エスキモーのちょうど2倍、そしてヒスパニック系の2倍よりちょっと少ないというものになる。黒人は白人よりも4分の1以上この病気による死亡が多いということになる。これらの比率は男性、女性問わず当てはまる。女性の方がこの病気による死亡は遥かに少ないということは別にして。

Cancer

Kaiser Family Foundationは「黒人の乳がん、肺がん、大腸がんによる死亡は他のどの人種、民族集団よりも多い」としている。

下の図で、黒人は他のどの人種/民族集団よりも乳がんか大腸がんに罹患していることが示されている。一方で、肺がんに関しては白人と黒人とで差は遥かに小さい。これは黒人のたばこ消費量が白人よりも少し多いこと、他の人種/民族間ではたばこ消費量が黒人や白人と比較して遥かに少ないことが原因だと思われる。

Cerebrovascular Disease

血管系の病気(CVD)には血管に関連するすべての病気や症状が含まれる。

下の図からは、黒人が血管系の病気による死亡に特に脆弱であることが見て取れる。74歳まで死亡率が他のすべての人種、民族集団の2倍以上高い。

Infectious Diseases

ここでは、感染症の代理指標としてHIVだけを取り扱う。とは言え、人種間の感染率の大きな違いは他の感染症にも当てはまる。

HIVによる死亡率の違いは相当に大きい。黒人の死亡率は他の人種、民族集団と比較して3倍から30倍高い。

肺炎、敗血症、腎感染症、尿路感染症などの他の感染症に対しても、黒人の死亡率は他の人種、民族集団に比べて高いということを記しておく必要がある。2001のJan H. Richardus and Anton E. KunstのBlack-White Differences in Infectious Disease Mortality in the United Statesというこの研究によると感染症は黒人と白人の死亡率の違いの10%を説明するとある。この乖離は社会-経済的な要因を制御した後でも存在したという。

Contributing Conditions

すべての症例や病気が直接的に死亡に関連するという訳ではない。幾つかの症例や病気は間接的な死亡の原因となる場合がある。黒人の方が白人よりも罹患率が高い(とは言え、ヒスパニック系とは同じぐらいではあるが)、糖尿病はそのような症例の一つだ。

一方で、肥満も糖尿病や循環器系の病気など他の病気の原因となりうる。

他の人種、民族集団に比べて、過体重または肥満の割合は黒人で特に高いということはないというのが取り敢えずの結論だ。

ここまで見てきたことから、何を調査の対象にすればいいのかが比較的明確になって来た。次の記事では、アフリカ系アメリカ人とアフリカ人の平均寿命を比較して、アフリカの呪いと祝福とここでは呼んでいるものが黒人の死因にどれほどの影響を及ぼしているのかということを調べていく。

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート2

Erasing the Gap for Racial Life Expectancies

アメリカの80歳以上の黒人の高齢者が80歳以上の白人よりも遥かに死亡率が低いということに気が付いた後に、私の頭の中には80歳以下ではどうしてこうも話が変わってしまうのだろうかという疑問が浮かんだ。もう一度黒人と白人の生命表を確認してみよう。

80歳以下では、黒人の死亡率は同年齢の白人よりも高い。逆に、80歳を超えた黒人の死亡率は低くなる。黒人と白人の平均余命の差は年齢が上がるに連れて縮小し75歳から80歳の間にほとんど消えてなくなる。80歳を過ぎると、黒人の方が平均余命が長くなる。

The Percentages of Survivors

ここからは、2つのグループの生命表を直接比較することにしようと思う。それぞれのグループの生存率(またはそれぞれのグループで任意の年齢に達した10万人あたりの人数)を示した表Bに移ろう。その数字を%表記にしそれぞれのグループの差を図に表示した。

それぞれのグループの20歳までの生存人数または生存率の差はとても小さいことが確認できる。それが75歳から80歳の間に差が拡大し、100歳までの間に差が劇的に縮小する。

これをもっと分かりやすく見るために、白人の生存率から黒人の生存率を引く。その結果を下に示す。

予想通りだったもの、予想していなかったものが浮かび上がってきた。第一に、死産でなかった黒人のおよそ1%は初年度を生き残ることが出来ない。これは黒人の乳幼児死亡率の高さに対応している。

では予想していなかったものの方に移る。1歳から20歳までの間に、白人と比較して黒人の死亡率に上昇はほとんど見られない。これはそのあいだの年齢での曲線が水平であることからも分かる。もし黒人の乳幼児死亡率が高くなければ、10万人あたりの生存人数は白人と黒人で20歳までほとんど違いがないということも記しておくべきだろう。

予想していたものの方に戻ろう。20歳から70歳の半ばまでは、黒人の死亡率の方が白人よりも高い。死亡率の差が最も大きいのは78歳辺りのように見える。そこから急速に縮小していき、黒人の方が白人よりも死亡率が低くなる。

それが100歳まで続くので、世紀を生きる黒人の数は白人の人数よりも多くなる。

もし人種差別が黒人と白人の平均寿命の差の原因だというのであれば、黒人の子どもとティーンエイジャー、同様に黒人の高齢者もその影響をまったく受けていないというのは極めて奇妙なことのように思われる。特定の年齢の集団だけを差別するなどという話を聞いたことがあるだろうか?

取り敢えずの結論としては、ここには何か他の要因が働いているに違いないというのが私たちの考えだ。何か別のものが20歳から80歳までの黒人の死亡率の高さ、そして白人と比較した1歳から20歳までの死亡率の等しさ、80歳以上の死亡率の低さを説明するのだろう。

More Pieces of the Puzzle

実は白人と黒人の間だけに死亡率の違いがあるのではなく、黒人の集団自体の間にも死亡率の違いがある!(ここで言っているのは、男性と女性の間にある平均寿命の違いのことではない)。

例えば、アメリカに移民してきた外国生まれの黒人(現在でもアメリカには黒人が大量に移民してきていてしかもその人数は急速に増えている)はアメリカで生まれた黒人よりも平均寿命が遥かに長い傾向にある。そのことを示したのは2004のNational Institute of HealthのGopal K. Singh and Barry A. MillerによるHealth, Life Expectancy, and Mortality Patterns Among Immigrant Populations in the United Statesという研究だ。

「アメリカ生まれの黒人と比較して、移民してきた黒人男性と黒人女性の平均寿命は9.4歳、7.8歳長い傾向にある」。

移民の寿命の増加は、ネイティブの黒人の方が所得が高いという事実にも関わらず起こっている。

「その研究は1986から1994の間の数百万の死亡と健康の記録を調査した。その数字は少し古いものだが、より最近のデータを調べた多くの研究も同じパターンが成立していることを示している。そして平均寿命は全般的に上昇傾向にある」

「アフリカ生まれの黒人の移民がアフリカに留まっていたとすれば、その人は50歳の誕生日を迎えるかなり前に高い確率で亡くなっていただろう」。

最も驚くことは、アメリカ生まれの黒人と比較して所得が相当低く医者に掛かる頻度も低いにも関わらず黒人移民の方が平均寿命が長いことだろう。

一方で、黒人が住んでいる地域が平均寿命に大きな影響を与えているように見える。都市部近郊に住んでいる黒人の死亡率は郊外や田舎に住んでいる黒人よりも遥かに高い。Arline T. Geronimusによって率いられたミシガン大学の2004の研究、Urban/Rural Differences in Excess Mortality Among High Poverty Populations: Evidence from the Harlem Health Survey and Pitt County Hypertension Studyは予想していなかった違いを明らかにしている。

「表1に示されているように、貧困率が非常に高いにも関わらず田舎の地域に住む黒人の死亡率は都市部近郊の黒人と比較して高くない。実際、田舎に住む黒人の死亡率は黒人全体の死亡率と変わりがない。例えば、1990の15歳から65歳までの白人と比較して黒人全体の10万人あたりの超過死亡数は374だった。貧困率が47%のルイジアナ州のデルタの田舎ではそれは391だが、一方で貧困率が43%のハーレムでは1296だった。黒人女性の場合は、黒人全体は217、ルイジアナ州のデルタでは249、ハーレムでは534だった(同様の結果を示したGeronimus et al. 1996, 1999を参照)。さらに、同じ地域の1980と1990の死亡率を比較した分析ではその10年間に都市部近郊と郊外の差が拡大したことを私たちは発見した。それは都市部近郊で超過の死亡が増加したことによる。この影響は男性に特に顕著で、その原因は慢性病による死亡によって説明されるものがほとんどだった。例えば1980年代に、循環器系の病気またはがんによる超過の死亡は若年層と中年齢層のハーレムの黒人男性でそれぞれ2倍になった」。

ここで、次に何処に向かえばよいのかの初めての手がかりが得られた。

Where We're Going Next

上記の証拠は、黒人と白人の死亡率の違いは差別ではなく慢性病によって遥かによく説明できることを示唆している。次に、その原因は何なのかを私たちは調べる予定でいる。

その後に、私たちがアフリカの呪いと祝福と呼ぶものが黒人にどのような影響を与えているのかを議論し、アフリカで多くの人の命を奪っているがアメリカではそうではない病気が黒人と白人の死亡率の差をなくす鍵となることを議論する。

比較的シンプルな要因によって、この記事で紹介した集団間の死亡率の違いをほとんどすべて説明できるという仮説を私たちは提示する。さらに、黒人と白人の死亡率の違いを解消する一見した所では簡単で高くない解決策も指摘しようと思う。

「簡単そうに見える」と言ったのは、その解決策がアメリカ政府がすでに提供していたものでだが大部分の黒人にはほとんど効果がなかったようだからだ。その理由を説明し、それから市場ですでに後半に利用可能でより効果的な解決策を指摘する。

黒人の平均寿命が短いのはやはりアメリカの医療と関係がなかった?パート1

Blacks Living Longer Than Whites

黒人の寿命よりも白人の寿命の方が長いということは多くの人が知っている。多くの人はそれが白人による黒人への差別の結果だと思っている。これからここで示すように、その考えは間違っているようだ。

アメリカの2004の生命表を見ているうちに、昨日私たちはユニークな発見をした。それをゼロ歳から120歳までのアメリカ人の平均余命として残りを計算して表にまとめた。

表を作成するのに用いたデータはNCHSの生命表の表1から得た。その報告書のデータを幾つか比べたらどういうことが分かるだろうかと興味を持ったのが始まりだ。表4はアメリカの白人の生命表で表5はアメリカの黒人の生命表だ。

ここに生命表から直接得られたデータを元にした図がある。クリックすると拡大されるが、その内容は皆が予想していたものとは違うものだ。

データから幾つかのことが分かる。第一に、若い年代では白人の方が黒人よりも死亡率が低い。だが予想していなかったことは高齢になってくると、特に80歳を超えてくると、黒人の方が白人よりも死亡率が低くなってくることだ。

もし平均寿命が組織的な差別による影響を受けているというのであれば、それを最も体験したはずの高齢の黒人が白人よりも遥かに死亡率が低いなどということがありえるのだろうか?

あなたが「多くの人」から聞かされてきたことから判断して、この結果を予想できただろうか?もし差別がマイノリティの平均寿命を本当に低下させているというのであれば、差別的な医療システムがある年齢を境に差別を止めるというのは奇妙ではないだろうか?

さらに、白人と黒人の平均余命の曲線も1歳からその後まで非常に滑らかなことが見て取れる。どの年齢に対しても、他と際立って変わった特徴というものは見られない。これは、高齢の黒人の死亡率の低さがデータの欠陥によるものではなくその集団の実際の特性であることを示唆している。

例外はゼロ歳から1歳までに見られる。これはよく知られた乳幼児の突然の死亡率の増加に対応している。それは白人にも黒人にも見られるものの、黒人に対する影響の方がより大きいことが分かる。

では、これらを一度に説明することが出来るものはあるのか?年齢層の低いアメリカの黒人に対しては平均余命を低めるような働きをして、それが今度は高齢の黒人に対しては死亡率を低めるような働きに変わるものがあるのか?上記のデータはそのようなものがあることを仄めかしている。

では、どうして差別を原因と言う人がいるのか?

この記事の最初に例として挙げた「多くの人」、「黒人は差別のために白人より平均寿命が短い」というマントラを唱え続けている人たちとは一体どのような人たちなのか?

人種対立のイデオロギーを煽ることによって政治的、経済的利益を得ている人たちのことはここでは取り敢えず置いておくとしても、このトピックに関するシンポジウムに出席している人たちにHarvard School of Public Healthが出資しているということを聞いて信じることが出来るだろうか?

「アメリカの白人はマイノリティよりも平均寿命が長く健康だ。実際、白人の健康と平均寿命が顕著に改善し続けている一方で、人種間の病気や死亡率の違いは1950よりも今のほうが大きいと、Institute of Medicineの昨年のレポートは報告している」。

より興味深いのは、ハーバードが主催しているシンポジウムに出席している人たちというのは、かなりずれた世界観の持ち主だということだろう。

「人種間、民族間の健康の違いは本当で、多くの人々、多くの医者やマイノリティの多くでさえもが違いが存在するということを認識していない、と最近開かれたハーバードのシンポジウムに出席した人は語った。そのことは問題だ。医療政策に対する大きな変化は大衆からの圧力から生まれたことを歴史は示唆しているからだ」

「大衆は健康の格差が存在しているということを認識していない、とKalahn Taylor-ClarkはRobert Blendonと共同でプレゼンテーションを行った。多くのコミュニティで、マイノリティは健康の格差が存在するということを認識していない。このことを修正しようとする機運は盛り上がっていない、とこのシンポジウムを主催したClarkは語った」。

その解決策?ここにハーバードの公衆衛生学科の記事からの引用が2つある。

「アメリカの政策に科学は大きな役割を果たしてきた。健康格差の研究がハーバード大学の至る所で研究の分野として確立されることが重要だ、とBlendonは語った」

「問題を認識すること、差別が健康を害しているのだとしっかりと教育すること、それを実証することが研究を進める上で重要だ、とDepartment of Health and Social BehaviorのNancy Kriegerは語った」。

ハーバードのシンポジウムに出席した人たちによる提案には、彼らに直接的に利益をもたらす活動がかなり含まれていることに気が付かれただろうか?恐らく、「人種対立のイデオロギーを煽ることによって政治的、経済的利益を得ている人たち」のことをあまりにも性急に話から除外すべきではなかったのだろう!

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート16

Does Lack of Health Insurance Kill?

Linda Gorman

5月2日にNew England Journal of Medicineに掲載されたオレゴン州の実験の結果は、低所得者にメディケイドを提供することが健康状態を改善させていないことを示した。その結果を踏まえると、保険に加入していないことによって毎年4万5000人が亡くなっているという主張を少しでも信じることはますます不可能になってきた。だがその数字がphysicians for a National Health Programという団体とメディアによって広められてきた数字だ。

オレゴンの結果はまともな文献に注意を払っていた人には恐らくそれほど驚きでもなかっただろう。それぞれ独立した実証論文の中で、Richard KronickとDavid Cardと彼の同僚は医療保険が死亡率を低下させるという証拠はほとんどないということを発見した。CBOの前責任者June O’Neillとその夫Daveも保険の有無は死亡率にわずかまたはまったく影響を与えていないと結論していた。このブログでも何度も何度も取り上げている。

普段は論文の質にきちんと注意を払っている人の一人が、Austin Fraktだ(あまりにも周りが酷いためにAustin Fraktでさえもが相対的にまともに見えてくるという錯覚なのでは…)。それにも関わらず、彼はひどく怒りを露わにしてこのような主張を行っている。保険が健康を改善して「死亡リスク」を低下させるというのは「よく確立された事実」で「社会科学では論争の余地のない事実に近いものとして」受け入れられていると。

別の記事では、彼はMegan McArdleがAtlanticという雑誌の記事の中で、保険に入っていないせいで人々が亡くなっているという主張を支持する証拠はほとんどないと書いているのを「この分野の記録を歪めている」として糾弾している。彼は彼女が「その結論を支持しているように見せるために一連の論文を内容を歪めて紹介し、さらに保険と死亡率との関係を示した論文が存在しないかのように読者を欺いている」と糾弾している。

FraktはMcArdleに謝罪すべきだ。

Fraktが彼の主張を支持する根拠として挙げた参考文献を一つ一つ見ていこう。彼は読者にリンクを張っている。それらには、Ezra Kleinブログ上のUrban InstituteのStan Dornの記事やNew Republicという雑誌上のUniversity of Chicagoの社会福祉学教授Harold Pollackの記事やHarvard Medical Schoolの准教授J. Michael McWilliamsの記事などが含まれている。そのそれぞれの記事の中にも他の記事が引用されている。それらを足し合わせるとかなりの数になる。だがその数は今、問題となっている議題に何の意味ももたらさない。

その引用は2002年と2009年のInstitute of Medicine (IOM)のレポートに極めて強く依存している。Dornは読者に2009年のIOMのレポート、America’s Uninsured Crisis: Consequences for Health and Health Careの表3-3とHarvard Medical SchoolのJohn Ayanianの議会証言を見るように促している。Ayanianは2009年のレポートの内容を要約している。Urban InstituteのDornの論文もまた引用されている。その論文は、保険に加入していないことによって亡くなったとされる人の数をIOMの結論を鵜呑みにしてそこから外挿することによって決めている。

IOMのレポートを参考にすることの問題点は死亡率が保険に加入していないことによって起こされたのか保険に加入していないことは他の行動的な要因によって起こされたのかまったくと言っていいほど区別していないことにある。

このブログで前に説明したように、2002年のIOMのAppendix Dには保険と死亡率との関連の議題に関してわずか2つの論文しか引用されていない。Franks et al. (1993)とSorlie et al. (1994)だ。そのレポートはFranksが保険に加入している人の死亡率を1とすると保険に加入していない人の死亡率を1.25と試算しているのを説明もなく採用している。これがどうして問題なのかというと、Franksは保険の状態が19年間同じと仮定している所にある。非現実的な仮定だ。そして政府の保険に加入している人は全員サンプルから除外されている。そのハザード率1.25の95%信頼区間は1.00から1.55だ。

Wilper et al. (2009)はIOMの結論を支持しているかのように見える。その筆者らは1988年から1994年の期間に行われたNHANES IIIという調査の自己申告された保険の状態に基づいて保険加入者と非加入者の死亡率を比較している。非加入者は40%死亡率が高いかのように見えた。95%信頼区間は1.06から1.80だった。

不幸なことに、Wilperのサンプルのほぼ30%はデータの欠損により除外されている。保険の状態も自己申告されたもので7%から11%が間違って保険に加入していないに分類されているとその論文自体も記している。その論文は保険に加入していない期間にもまったく触れておらず所得にも触れていないばかりかメディケイド、軍の保険、メディケア、退役軍人の保険など「公的保険」に加入している人が全員除外されている。

Kronick (2009)は死亡率と相関することがよく知られている所得や他の変数を制御している。彼は1986年から2000年の期間に行われた加入者と非加入者とにインタビューされたNational Health Interview Surveyの調査から2002年の死亡率を調べて比較している。サンプルの20%が保険に加入していないと答えていた。そしてほとんどすべての測られた指標から見て、彼らはリスクの高いグループだった。Kronickは「人口統計学的な特徴や健康状態、生活習慣に関する特徴などを調整すると、民間の保険に加入している人たちと保険に加入している人たちの間には死亡リスクに違いが見られなかった」ことを発見した。彼は「IOMの毎年1万8000人が亡くなっているという主張は完全に誤りだ」と結論している。

参考文献として挙げられている他の文献はそもそもこの議題とほとんど関係がない。それらは非常に少ないサンプルの病人とか所得の低い人の治療が途中で中断された場合の影響を調べているものだからだ。治療が途中で中断された人の結果は、人数が多くほとんどが健康で自発的に保険に加入しないことを選んでいる人々には当てはまらないだろう。Lurie et al.による1980年代の研究である、「Termination from Medi-Cal — Does it Affect Health」と「Termination of Medi-Cal benefits. A follow-up study one year later」はUCLAのクリニックに通っていた所得の低い164人とカリフォルニア州のメディケイドから郡の医療施設に移送された人たちの状態を追跡して報告している。

Fihn and Wicher (1988)は予算の削減により外来治療が中断されたシアトルの退役軍人メディカルセンターの患者157人を調べている。外来治療が途中で中断された人たちの健康は治療がそのまま続けられた74人と比べて悪化した。その研究は、「政策当局者が定めた基準は健康状態が安定している患者を正確に選ぶことが出来ていなかった」と結論している(補足すると、予算のカットで治療が続けられなくなったので政府が基準を定めて大丈夫だと思った患者の治療を中断することにしたがその基準がそもそも正確ではなかったということ。ヨーロッパやカナダでは日常の光景)。

Carlson et al. (2006)はオレゴン州のメディケイドから外された人はプライマリーケアへのアクセスを減少させた。外されなかった人と比べて満たされない需要がある傾向があった。ランダムに回答を求められた人の返答率は34%だった(100人にこの調査への参加を求めると協力したのは34人だけだったということ。それだけで問題が発生するというわけではないがバイアスの存在が強く疑われる。例えば、残りの66%は別に不満がなかったから積極的には回答に参加しなかったのかもしれない)。

他に挙げられているのは治療に対する支払いの率が変わった時にどのような変化があるのかを調べたものだ。Dornの記事は2009年のIOMのレポートへランダムにリンクが貼られているように見える。彼は交通事故にあった保険の非加入者が受ける医療消費量が20%少ないこと、死亡率が39%高いことを挙げている。彼が読者に交通事故の後に受ける医療消費量に保険が与える影響を調べたDoyle (2005)の実証研究のことを言っているのだと仮定してみよう。

その研究には1992年から1997年の期間のウィスコンシン州の交通事故に関連したすべての入院の80%が含まれている。人口統計学上の違いは被害者が居住していたZIPコードによって制御されているとした。

Doyleは脊髄固定、骨格牽引、脳オペ、腎臓、膀胱、胸部、大腸、血管、形成手術が保険に加入していない人で少ないと報告した。頭蓋骨縫合、アルコール、薬物のリハビリテーション、解毒治療が保険に加入していない人で多かった。保険に加入していない人の死亡率は5.3%で保険に加入している人の死亡率は3.8%だった。

その結果に基づいて、彼は施設利用の10%の増加によって死亡率が1.1%低下すると結論している。Doyleの計算によると、加入者と非加入者の生存率の違いは非加入者の交通事故による年間の死亡リスクを0.01%増加させているかもしれないとのことだ(保険に加入していない人の方が良い外傷治療を受けているとの論文をこの前見たばかりだが…)。

Card et al. (2009)は(救命から運ばれてきて治療が延期されれば亡くなってしまうような)重篤な患者の健康状態がメディケアの受給資格を得る65歳前後で影響を受けるのかどうか調べた。そのサンプルには1992年から2002年の期間のカリフォルニア州の病院に搬送された60歳から70歳までの人々全員が含まれていた。予想されたように、それらの緊急入院は年齢とは関わりがなかった。そして死亡率は年齢が上がるに連れてスムーズに上昇していた。

Card et al.は65歳時点で「穏やかな」治療量の増加があったと報告している。入院日数などの指標で見て約3%ほどということだ。治療量の増加は急性心筋梗塞などの特定の疾患で大きかったことをデータは示唆している。だが結論を導くにはサンプルが小さすぎた。

Card et al.が見たという治療量の増加は重篤な患者の死亡率を低下させているように見える。死亡率は0.7%から1%低下している。7日死亡率は65歳直前には5%だったが65歳では4%に低下している。治療から1年後の死亡率は23%から22%に低下している。

だが重篤な入院というのは患者全体の12%を占めるだけだ。退院した患者全体の65歳を過ぎたことによる影響は28日死亡率がわずかにそれもかろうじて有意に低下したというものだった。

彼らは、死亡率の低下が「65歳を過ぎた時点で重篤な患者全体の8%を占めるにすぎない保険に加入していない状態からメディケアに加入した人たちによって引き起こされたと考えるのは」あり得ないと言っていい規模だと結論している。彼らは死亡率を低下させるかもしれない他の要因に関して議論している。だがメディケアの方が治療に対して制約を少なくしているかもしれないとかメディケイドが65歳以下よりも65歳以上により質の高い医療を提供しているのかもしれないとか憶測するに留まっている。

最後に、彼らは「将来の研究に対して重要な問題を提起している。保険の影響と尤もらしく思われたものは他の変数の影響によって容易く打ち消される。実際、これまでに行われた唯一の無作為化対照試験は人口全体に保険が与える影響は有意ではなかったことを示している」と強調している。

Volpp et al. (2003)は「メディケアの再償還率がカットされたことが病院死亡率に与える影響」を調査した。彼らは、ニュージャージー州が保険非加入者を治療している病院への補助金を削減した時に病院が行う心臓カテーテル手術、機械的血管再建術は心臓の病気で入院した非加入者の患者に対して減少しているかもしれないことを示した。

Meyers et al. (2006)は2日と半日の間に各々が診た409人の患者への調査を行ったワシントンD.C.に勤務する25人の外科医へ調査を行った。彼らは民間の保険に加入している人よりも保険に加入していない人に臨床管理への変更をよりよく行っていると報告した。

McWilliamsと「同僚たち」と記事では触れられているが、具体的には参考文献が挙げられていない。恐らくMcWilliams et al. (2009)の「以前に保険に非加入だった人の医療支出」とMcWilliams et al.  (2007)の「メディケアに加入した後の以前に非加入だった人の健康状態」のことを言っているのだろう。2007年の論文のサンプルは51歳から61歳が含まれる1992年のHealth and Retirement Studyのデータからの分析だ。調査の対象となったのは2004年から2年おきのサンプルが自己申告した健康状態とこれまた自己申告した保険の状態だ。その論文のサンプルの15.1%が死亡して14.9%が2004年の前に様々な理由から調査を離脱している。そのような理由でこのグループに対する結果は単なる憶測に留まった。彼らは年齢以外の人口統計学上の変数を調整していない。

65歳以前では、主要な健康評価の点数は加入者よりも非加入者の方が悪かった。両方のグループがメディケアに加入する65歳以後では、以前に保険に加入していたグループの健康は悪化した一方で以前に保険に加入していなかったグループの健康は安定的だった。改善は心臓病や糖尿病を抱えていた患者に留まっていた。

Polsky et al. (2009)は「高齢期に近い保険非加入者に対してメディケアが健康状態に与える影響」という論文の中で、先程のHealth and Retirement Studyからのデータを用いて各2年間おきの健康状態の推移を調べている。McWilliamsとは対照的に、メディケアへの加入は健康状態にわずかな影響しか与えていなかったことが示された。調査の対象とされたのはサンプルが自己申告した健康状態と死亡率だ。性別、年齢、教育、民族、人種、住んでいる統計区域が制御された。以前に保険に非加入だった人がメディケアに加入した時の健康状態の変化は小さく「統計的に有意ではなかった」としている。具体的には、メディケアに加入することが73歳までに与える影響は、以前に保険に加入していなかった各100人毎に対して(以前に保険に加入していた人と比較して)健康が素晴らしいまたは非常に良いが0.6人少ない、健康が良いが0.3人多い、健康が普通または少し悪いが2.5人少ない、死亡者が2.8人多いというものだった。

McWilliams et al. (2010)は死亡を含めることはバイアスを生む恐れがあると示唆している。「以前に保険に加入していなかった人は加入していた人よりもより病気を抱えている傾向が高く、そのような傾向がある人は死亡する可能性がより高いからだ」としている。死亡を含めることにより、「その研究のデザインと統計モデルは健康状態と死亡率に関して等しく適切と暗黙的に仮定していることになる」と語っている。

Polsky et al. (2010)は、死亡は「健康状態の変化の重要な側面で」そして自分たちのモデルはハザード率が人々がメディケイドに加入している期間が増えれば増えるほど変化するように出来ていると反論している。2009年の論文の補論の中で、問題は65歳以後に以前に保険に非加入だった人が死亡した場合、その人が健康状態が素晴らしいまたは非常に良いと答える割合が高かったことにあり、健康状態の比較は保険加入者と非加入者との間にある死亡の異なる性質に特に敏感だと結論している。

Fraktの挙げた参考文献の最後のグループは、色々なものがごちゃ混ぜになっている。そのほとんどは保険や死亡率と関係がない。McGlynn et al. (2003)は都市部の成人を調べほとんどの人が推奨された治療を受けていることを発見した。Decker and Remler (2004)はカナダとアメリカの調査から所得の勾配と自己申告の健康とを比較した。彼らは中央所得を下回る人が健康が少し悪いまたは普通と答える割合がアメリカの方で7.5%高いと報告した。

彼らはアメリカ/カナダの所得/健康勾配が年齢とともに拡大、横這い、縮小する時に他の国でも所得/健康勾配が拡大、横這い、縮小すると段落を2つも使って議論していたのに、それにも関わらず皆保険が所得による健康の違いを縮小しアメリカの格差を「大きく」低下させると結論している。

最後に、RANDの医療保険実験(HIE)が挙げられている。これは自己負担率の異なる5つの保険を比較している。保険に加入していないものではない。PollackはBrook et al.による1983年のアブストラクトを見るように促している。彼はそれをRANDのHIEが高免責額の保険に加入した低所得者は無料の保険に加入した人と比較して高血圧のために38%死亡率が高くなると予想したという主張への支持として用いている。だが、そのアブストラクトは拡張期血圧が無料の保険に加入した人で3mm Hg低かったと単に言っているだけにすぎない。

Joseph P. NewhouseとInsurance Experimental Groupによって書かれたRANDの実験の解説本「Free For All?」によると、この血圧の低下の効果は予想死亡率を10%低下させるとある(339ページ)。さらに、Newhouse et al.は「無料の保険に加入したグループに見られたこの血圧の低下はほとんどすべてがこのグループの高血圧の診断の精度が高かったことによる。誰かが一度高血圧と診断されたとすると、治療の結果は費用負担の違いによって影響されてはいなかった」(352ページ)。RANDのHIEの研究者たちはほとんどのアメリカ人にとって「無料の保険は費用に見合った価値が無い。低所得者と慢性疾患の患者の負担は別の問題でそのように扱われるべき」と結論している(357ページ)。(きちんと本まで読んでいる専門家と自称専門家とのこの差)。

以下、寄せられた怒りのコメント。

Kyle says:

お疲れ様でした。引用を挙げて丸投げにするのではなくきちんと研究の質にまで言及してくれている人がいるのを見て安心した。

Jordan says:

恥を知れ、Frakt。恥を知れ。

Gary Fradin says:

空気、水、交通などの公共への医療投資の方が医療そのものよりも健康への恩恵が大きいということを私たちは学んでいる最中のように思われる。Richmond & FeinはThe Health Care Messという本の中でそのような議論をしている(第二次大戦以降の寿命の増加はほとんどが医療の改善ではなく健康に関する知識が向上したこと、病気の予防が改善したことの結果だというのが専門家のコンセンサスになりつつあると92ページに書かれている)。

言い換えると、寿命の増加はほとんどが医療以外の要因によるものだということだ。医療費への巨額の支出が実際には寿命の増加に繋がるものへの投資を妨げることになっているのではないかと懸念している。

Huda says:

Austin Fraktは言わなくてはいけないことがあるんじゃないのか?

Greg Scandlen says:

素晴らしい記事でした。11年前に書いた短い記事も付け加えさせて欲しい。保険の有無に関わらず、5つの国で教育水準と健康には相関があることを述べたものだ。これはあまりにも基本的なことなので、所得と教育を制御していない「研究」はすべてその時点で即座に捨て去られるべきだ。

Ken says:

素晴らしいレビューでした。

Al says:

Austin Franktのブログをこれまで私が見てきたところでは、彼は自分の文章を引用するのが好きなようで彼の黄金のペンで綴られた考えに反対するものは目に入らないようだ。反対コメントは書き込んでも無駄だし書き込んでも削除されると覚悟しておいたほうがいい。あのブログの意見と無礼な暴言はどうやら一方通行に出来ているようだ。

それがAustin Franktのジレンマ、「It seems like TIE doesn’t count」、「It seems like we’re stuck at the kids’ table.」 (2/21/13)への答えではないのかと私は思うが。

Linda Gorman says:

これらの結果はアメリカ限定だということは意識しておくことは重要だと思う。支払うことが出来るかどうかに関わりなく高度な医療を広範囲に受けることが出来るアメリカ限定ということだ。低所得もしくは所得がまったくなくても基本的な医療サービスも広範囲に渡って受けることが出来る。

それらは外傷センターや救命が門前で患者の支払い能力をチェックして十分なお金がない人には治療を拒否するような国には明らかに当てはまらない。

Wanda J. Jones says:

LindaとJohnと仲間たちへ。

これは非常に重要なポイントだ。これは古くからある都市伝説を見事に破壊している。私たちは恐らくこれからも誤った議論に付き合わされる羽目になるのだろうが。すべきことはそのような神話の内容とそれに対する反論を合理的な法律と規制の根拠として委員会の職員に渡すことだと思われる。

mark fahey says:

数年前に、IOMは医療ミス、不注意、医者によって外傷/感染症などによって年間10万人(日本では4万人)が死亡していると言っていた。

よって、保険に加入することによってより治療を受けることになるのであれば、そして加入しないことによる死亡が4万5000人とIOMは言うのであればそちらの方が分が良いということになるように思われる。IOMはどちらを勧めているのだろうか?私は、他の多くのIOMの主張と同様に、そのどちらの主張も等しく間違いで誤りだらけのデータから引き出されたものだと思う。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート15

Commonwealth Explains Away the Oregon Study

John Goodman

オレゴンの研究に関して、David Blumenthal and Sara Collinsが記事を書いている。

「オレゴンの研究は、肉体の健康状態の指標に有意な改善が見られないことを示した。これらの発見がメディケイド、ひいては医療保険全般が健康を改善させないかもしれないことを示唆していると述べている人もいる。私たちの考えでは、その結論は正しくないと思われる。その理由を理解するためには、保険と健康状態との関連を調べたこの分野の多くの論文の中にこの研究を置いてみるだけでいい」。

そうして、彼らは酷く偏った論文だけを選んできた。それらの論文を反証したものはすべて無視してだ。Linda Gormanが示したように、オレゴンの研究はこの分野の文献と極めて整合的だ。読者には疑問符を投げ掛けられているのは医療保険の価値だけではなく、医療それ自体の価値だということを知っておいてもらいたいと思う。Robin Hansonから引用する。

「私は声を大にしてはっきりと、未だに十分に声を大にしてはっきりと言われていないことを言いたいと思う。集計的に見て、医療支出の変動の違いと健康との間には有意差がほとんど見られない(少なくとも、その他の要因がよく制御された論文の中では)。この分野の文献をレビューしたことのある人たちの間では、運動などの他の要因と比較して地域ごとの医療支出の集計的な違いは健康の違いとはほとんど関連が見られないということはかなり前からほとんどコンセンサスのようになっていた。私はこの点をはっきりとさせたいだけではなく、他の医療政策の専門家にこの主張に対して公式に賛成するのかしないのかを突き付けそしてそれが政策に対して意味する所をはっきりとさせるように問いたいと思っている」。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート14

Oregon Study Throws a Stop Sign in Front of ObamaCare’s Medicaid Expansion

MICHAEL F. CANNON

今日、アメリカのトップ・ヘルスエコノミストたちがオバマケアのメディケイドの拡大に強烈なストップサインを叩きつけた。

オレゴン州の医療保険実験、略してOHIEは医療保険に関して行われたこれまでの研究の中で最も重要なものかもしれない。オレゴン州はメディケイドの加入を希望する人たちを抽選で選んだ。オバマケアのメディケイドの拡大の中で保険を提供されると見られている人たちの中でも最も所得が低い人達と言ってもいいだろう。それからヘルスエコノミストは抽選でメディケイドに加入した人と保険に加入しないままに留まった人とを比較した。OHIEは保険に加入した人と「その後もまったく一度も保険に加入しなかった人」とを比較したこれまでに行われた唯一の無作為化対照試験だ。ランダム化された対照試験はそのような研究のゴールドスタンダードだ。

2年間に分けて行われた1年目のぱっとしない結果よりもひどく、OHIEの2年目の結果はメディケイドが肉体の健康状態を改善したという証拠を見つけることが出来なかった。うつ病と金銭的負担にはわずかな改善が見られた。だがそれは費用の遥かに少ない他の方法でも出来ることだ。ここにその研究の結果と結論がまとめられている。

(繰り返しなので省略)

この無作為化対照試験は、メディケイドが肉体の健康状態を対照群と比較して有意に改善させなかったこと、利用サービスの消費量を有意に増加させたこと、糖尿病の診断率と治療薬の使用量を増加させたこと、うつ病の発症率を低下させたこと、金銭的負担を低下させたことを示した。

この論文の筆者らの一人が私に説明した所によると、死亡率にも対照群と有意差を見つけることが出来なかったという。19歳から64歳までで所得が連邦貧困基準100%を下回っているこのグループの死亡率はすでに極めて低い。従って、仮にメディケイドがこのグループの死亡率を低下させたとしても、その仮定には疑問だらけだが、その効果は小さすぎてこの研究は検出出来なかっただろう。それもまたメディケイドの拡大に反対する理由だ。このグループは、州がメディケイドを拡大しなくても死亡する人たちではない。

この結果を、メディケイドを拡大しようとしている人たちへの最後通牒と解釈する以外の道はない。オバマ政権は州に100兆円ものお金を支出するように迫っていた。これまでで最良の研究がメディケイドが肉体の健康状態を改善するという証拠を見つけることが出来なかったと言っている時にだ。OHIEはメディケイド拡大の中でも最も所得が低い人たちを対象に調査している。連邦貧困基準100%を下回る人たちだ。それにも関わらず、健康状態に(対照群と比較して)改善を見つけることは出来なかった。

メディケイドの支持者がそれでも抵抗したいというのであれば、唯一の責任ある道は他の州で似たような実験を行って、サンプルサイズも増やして、OHIEが見落としたかもしれないものがないかを調べることだ。それが出来ないというのであれば、うつ病と金銭的負担を低下させるよりターゲットを絞った、小規模で費用の少ない代替案を提案すべきだろう(私は医療の規制緩和を提案している)。この研究は、メディケイドを拡大させることに根拠がまったくないことを示した。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート13

Four Reasons Why The Oregon Medicaid Results Are Even Worse Than They Look

Avik Roy

左派は、証拠をすべて無視してメディケイドの拡大は何万人もの命を救う、それ故それに反対する人は大量殺人の罪にあると長年主張してきた。従って、年間45兆円のプログラムが「肉体的な健康状態に有意な改善を生み出していなかった」ことを示したオレゴンの研究に対する彼らの反応を見るのは愉快でもある。彼らは、少しでも改善されたと思った所があればそれを大きく誇張するのに必死だ。だが現実には、オレゴンの結果は彼らにとってその見た目よりもさらに悪い。以下はその理由だ。

1.抽選に選ばれた40%には署名さえしてもらえなかった。

筆者らによると、「抽選に選ばれた60%だけが応募用紙をきちんと送り返した」とある。抽選に選ばれた3万5169人のうちで、実際にメディケイドに加入したのは10405人だった。大部分が、保険に対する興味の無さとメディケイドの受給資格を結局は満たすことが出来なかったとの理由で。

実際の無作為化試験では、それらの人々も研究のコーホートに含めなければならない。保険に加入していない人と、応募用紙を送り返さなかった人たちも含んだメディケイドを提示された人たち全体とを比較しなければならない。

もし筆者らがそれを行っていれば、その研究のサンプルサイズはもっと大きくなっただろうしメディケイドと保険非加入者との差はもっと小さくなっただろう。

2.メディケイドの効果と宣伝されているものはほとんどプラセボだ。

オレゴンの研究で問題なのは、それが二重盲検化されていないことだ。メディケイドに加入している人は、当然それを知っている。保険に加入していない人も、当然それを知っている。製薬会社には、ほとんどどんな状況においても二重盲検試験が求められる。偽薬ではなく本物の薬を投与されていると知ってしまえば、症状が良くなったと自分で自分を説得してしまうためだ。これはプラセボ効果と呼ばれている。

メディケイドの肉体の健康状態に関する結果を否定するものは軽度うつ病が改善したことだけを宣伝する。対照群と比較して、メディケイドは軽度のうつの陽性と診断される割合を9%低下させた(p値は0.02)と筆者らは語っている。「これは驚異的な発見だ」とオバマケアの事実上の設計者であり、オレゴンの研究の共著者の一人でもあるジョナサン・グルーバーは説明する。「これは精神の健康状態の凄まじい改善だ」。

この研究でうつ病を測っている方法には幾つかの欠陥がある。具体的には以前に説明したのでそちらの方を見て欲しい。ここでは手短に説明する。2011には、筆者らは患者が「自己申告した健康状態」の改善の3分の2は「保険が承認されてからの1ヶ月後」、だが「ヘルスケアの消費量がわずかでも増加する」前に起こっていると述べている。言い換えると、患者は医者に掛かる前、テストを受ける前、処方箋を受け取る前に自分がメディケイドに加入していると知って健康になった気がしたと勘違いをした。

これは典型的なプラセボ効果の例だ。そしてそれを知っている人には「驚異的でも凄まじいものでも」何でもない。

さらに、プラセボ効果はオレゴンの結果が(対照群と比較して)有意な改善を示さなかった血圧値、コレステロール値、糖尿病などの客観的な健康状態にも働く。メディケイドの加入者が自分たちがメディケイドに加入していると知らなかったらそれらの指標はどれだけ悪かったというのだろうか?

3.オレゴン州のメディケイドは他の州のメディケイドよりも条件が良い。

先週に説明したように、オレゴン州のメディケイドの再償還率は全米平均よりも高い。従って、かかりつけ医へのアクセスはオレゴン州のメディケイドの方が他の州よりも良いはずだ。オレゴン州では、メディケイドはかかりつけ医に民間の医療保険が支払う62%を支払う。リベラル派の強いカリフォルニア州では、メディケイドは38%を支払う。同じくリベラル派の強いニューヨーク州とニュージャージー州では、メディケイドは29%を支払う。

従って、オレゴンの結果を他の州に当てはめるのは(特に、メディケイドの再償還率が低い州に)間違いだろう。

否定論者はオバマケアの下では、メディケイドのプライマリーケアへの再償還率は2年間だけ一時的に上昇すると指摘する。だが2年後には、再償還率は元の水準へと戻る。そして、その一時的な上昇も専門医には適用されない。

4.メディケイドは次の10年間だけでも740兆円掛かる。

否定論者のキャプテン、Paul Krugmanはオレゴンの結果を必死に誤魔化そうとしている。「保険が良いものであるならば(そうでないと考えるのはどうかしている)メディケイドは民間の保険よりも安いということを覚えておく必要がある。どこに問題があるというのか?」。

問題はこのプログラムの為に納税者は次の10年間だけでも740兆円を支払わなければならないということにある。加入者の健康に何の違いももたらさないプログラムにどうしてこれだけ巨額の税金を投入しなければならないのかの説明責任はメディケイドの支持者の方にある。

この研究の重要な一つの側面は、Robert Samuelsonが強調しているように、現在のアメリカでは保険に加入していない人が実際は医療サービスを大量に消費していることを証明したことにある。オレゴンの筆者らは、保険に加入していない人が1年間に一人あたりで32万5700円をヘルスケアに消費していることを発見した。そのほとんどは無償で行われている。メディケイドはその支出を11万7200円増加させる。保険に加入していない人の61%は過去12ヶ月間に「必要とする治療をすべて受けた」と答えている。そして保険に加入していない人の78%はこの治療が「質の高いものだった」と答えている。

61%は十分とは言えないかもしれない(この手の統計は100%に近づくことさえないし質問も過去12ヶ月間とかなり曖昧だが)。だがオレゴンの研究では、メディケイドは患者の治療へのアクセスの認識をほんのわずかに改善したに過ぎない。プラセボ効果を考慮に入れればなおさらそうだ。実際、リベラル派の州ではメディケイドは質の高い医療へのアクセスの妨げとなる場合もあるだろう。メディケイドへの支払いは今年45兆円だということをもう述べただろうか?

高血圧(アムロジン)、高コレステロール(アトルバスタチン)、糖尿病(メトフォルミン)、うつ病(シタロプラム)の主な治療薬はすべてジェネリック薬だということを思い出す必要がある。6パックのコカコーラの方が瓶詰めのコレステロール治療薬よりも文字通り高い。それにうつ病を治療するのに740兆円も必要な訳がない。ペットショップで子犬を買う方が1年間のプロザックの購入代金よりも高いだろう。

メディケイドの費用に関して他にも問題がある。CBOはオバマケアによるメディケイドの拡大は一人あたり年間で60万円掛かるだろうと試算している。2010には、オレゴン州は1成人あたり47万円を支出している。だがオレゴンの研究によると、メディケイドは患者の支出を11万7200円増加させているだけだ。では残りのお金は何処に行ったのか?

The cost-effectiveness of public spending is a moral imperative

保守派が責任を負う立場になったら何をするのかというのは、最近になってよく聞かれるようになった。「自分たちの政党がオバマケアの代替案に向かって団結できないのであれば、メディケイドの拡大に反対している共和党の知事や政策当局者がやっていることは妨害以外の他のものではない」とRoss Douthatは記している。

私はそれに強く同意する。それに私はメディケイドの代替案をすでに提案したつもりだ。だが、保守派と共和党員はメディケイドの代替案をもうかなり昔から提案していることを指摘しておくことには意味がある。2000年代に入ってからも、例えばマケイン議員は保険を購入するための50万円の一律の税額控除を提案している。オバマ大統領はそれに反対キャンペーンを行った。

フロリダ州の下院はメディケイドを重大な事故や病気に対する保険と医療貯蓄口座とで置き換えることを提案した。それは、メディケイドを拡大したい勢力からの反対にあって妨害された。インディアナのメディケイドは医療貯蓄口座と高免責額保険プランが選択できるようになったことで人気だった。だがオバマ政権はHealthy Indianaを廃止するように命じた。デモクラット(民主党員)がイデオロギー的に気に入らないというだけの理由でそれに反対したためだ。

保守派は政府のプログラムの拡大に本能的に反対している。彼らは自分たちを進歩主義者と呼ぶ人間たちが政府のプログラムの有効性と効率性にまったく関心を持っていないことを身を持ってよく体験しているためだ。メディケイド信者たちが740兆円に何の問題もないと強硬にうそぶくほど、会話が成立する可能性はゼロになる。

メディケイドが患者の12万5000円の支出のために一人あたり年間60万円を費やして健康に何の改善も見られないことを思えば、保守派がオバマケアのメディケイドの拡大に反対するのは至極当然のようにさえ思えてくる。左派が医療貯蓄口座と重大な事故や病気に対する保険に対して過去40年間のように敵意をむき出しにし続けるのであれば、対案を出さなければいけないのはどう公平に見ても彼らのほうだ。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート12

How Not to Cherry-Pick the Results of the Oregon Study (Ultrawonkish)

Megan McArdle

先週、私はJim Manzi氏にオレゴンの実験のことをどう思うか尋ねてみた。彼は、他の会社が実験を行うのを手助けするという事業を行う非常に成功した会社を設立した非常に賢い人物だ。彼は、無作為化試験を用いてビジネス、政策、生活全般を改善することに関して書いたUncontrolledという素晴らしい本の筆者でもある。彼は非常に長く有益な考えを送ってくれた。それを以下に記そうと思う。もしオレゴンの結果に関心があるのであれば全文を読むべきだ。

Some Observations on the Oregon Health Experiment

政策議論に無作為化試験を用いることを強く提唱している身としては、最近のオレゴン州の実験にまつわる議論に深い関心を持っている。私が以前に医療費の自己負担額の話題に関して書いたのはRANDの医療保険実験のレビューだけだったと思う。それは、保険の寛大さの違いが肉体上の健康状態に影響を与えるかどうかをテストした他の唯一の無作為化試験だったと思う。RANDの実験は(1)寛大さの低下は「ほとんどすべての医療サービスの使用量を低下」させた、だが(2)そのサービスの使用量の低下は「肉体の健康状態に悪い影響を少しも与えていなかった」としている。その結果は非常に重要なものだと私に印象づけた。

オレゴンの方も、そのRANDの結果の前半部分を再現した。無料のヘルスケアを提供することにより医療サービスの消費量は増加した。だが、後半部分に関してAustin Frakt, Kevin Drum, Avik Roy, Meganと他の人たちの間で論争が持ち上がった。このサービスの使用量の増加は肉体的な健康状態の改善につながっているのか?

この論争は有益なものだったと思う。だがあまり大きくは触れられていない大事な点が幾つかある。

1.無料の医療保険を提示された人の半分ぐらいが応募用紙を送り返すのさえ面倒だからと断った。

9万人が抽選に参加した(単位は世帯単位ではあったが)。3万5000人が抽選に選ばれその人たちに応募用紙が送られた。だが実際に応募用紙を送り返したのは抽選に選ばれたうちのわずか60%の人だけだった。これは、保険に加入していない人が保険の価値をどのように見ているかを顕示選好という形で非常によく物語っていると少しでも常識があれば分かるはずだろう。

もしあなたの保険に加入していない人のイメージが、病院の外で、貧しい家庭が咳き込んでいる子供に抗生物質を与えるお金もなくて困り果てているというようなものであれば、この結果はそのイメージを大きく大きく覆さざるをえないものとなるだろう。貧しい家庭の抱える問題は些細なものだと言おうとしているのではない。だが抽選に選ばれた人がどうして応募用紙を送り返さないで保険に加入しなかったのかは2つの可能性しかない。(1)保険に加入することにより得られる利益が記入欄を埋めて用紙を送り返すだけの時間と労力に見合わなかった(2)抽選に選ばれた人が非合理的に行動した。保険の有効性という意味において、どちらの説明も都合の悪いものとなるだろう。前者であれば、それは保険が加入者に対して大して価値を持っていないことを意味する。後者であれば、今回の実験で測られたような指標(血圧、血糖値、コレステロール値など)の改善を達成するために必要な治療に対する患者側のコンプライアンスが非常に良いとは言い切れないことを意味する。

もちろん、この議論は応募用紙を送り返さなかった40%だけに当てはまると主張する人もいるだろう。だがそれにも大きな問題がある。

第一に、それは分析に深刻な問題を生み出す。それは抽選に選ばれた60%(順守者)と抽選に選ばれた40%(非順守者)との間に大きくてシステマチックな合理性プラス従順性(ここでは、これをまとめて慎重さと呼ぶことにする)の違いがあることを示唆することになるだろう。これは、抽選に選ばれて応募用紙をきちんと送り返した人と抽選に選ばれなかった人とを単純には比較できないことを意味する。抽選に選ばれなかった人の中で、もし選ばれていたら誰がきちんと応募用紙を送り返した人だったのだろうかを私たちは知らない。本来であれば、抽選に選ばれた人とそういう人とを比較しなければならない。もちろん、オレゴンの研究者たちは対照群の中から人種、性別、以前の健康状態などに基づいて計量モデルを用いて「そういう風に見える人」を選んできてそれと比較している。だが誰かが私に人種、性別、以前の健康状態などに基づいて誰が慎重で誰がそうでないのかを自信を持って(それも高い精度で)言えない限りは、順守者と非順守者との間に慎重さに大きな違いがあるとの仮説の下では、抽選に選ばれたすべての人と抽選に選ばれなかった人とを単に比較したものだけを正式な結果として公表している今回の結果は「治療に対する態度」の影響によって歪められたという方向により近づけざるをえないだろう。この研究の補論のデータによると、治療に対する態度の影響は順守者に対する効果の4分の1ほどの大きさとされている。これは推計された影響の75%を消し去るだろう。

第二に、これは非現実的な仮定だということがより重要だ。応募用紙にきちんと記入した人とそうでなかった人との間にそれほど大きな断絶があるとは極めてありそうもない。従順さは違いがあるとしてもその変化は遥かになだらかなもののはずだ。平均的に見て、順守者の方がそうでない方よりもより従順であるとは言えるかもしれない。だが従順さの欠如は無料の保険を受け取った方にも程度の問題として存在するはずだ。すなわち、無料の保険を受け取った人たちが健康に関する判断を行う際のその慎重さの平均は一般的なアメリカ人よりも低いと考えられる。その明らかな証拠として、オレゴンで今回無料の保険を受け取った人たちの半分(48.4%)は喫煙をしている。それに対して、アメリカ人の成人の喫煙率は25%以下だ。これは受給者を責めているのではない。無料の保険を受け取った人たちが平均的なアメリカ人よりも治療のプロトコルに従う傾向が低いとどうして思われるのかという議論をしている。保険に加入した結果として、どうして非常に小さな影響しかなかったのかが少しは不思議ではなくなる。それ故、この実験の分析において順守者の結果の方がより信頼を置けるものと言っていいだろう。それらの結果は衝撃的なものだった。

2.もし統計的に有意でないというこの結果を信頼できるものとして受け入れるのであれば、病気になっている人の心臓は保険に入ることにより悪くなる。

治験群は対照群と比較して血圧が高い、コレステロール値が高い、糖化ヘモグロビン値が高いと診断される割合が低かった。だがそれらのどれ一つが統計的に有意ではなかった。言い換えると、95%の確率でその違いが単なるノイズの結果であるということを棄却できないということを意味している。

これは、保険が何の効果もないと言っているのではない。実際、保険はそれらの指標に何らかの影響を与えたと私なら答えるだろう。ある程度大きな行動を取って、それが文字通り何の効果もないということはそうそうあるものではない。もし誰かが私を脅迫して保険に加入することによる真の影響を言えと言われたとすれば、この論文で示されている値をそのまま伝えるだろうと思う。だがその値に自信があるかと言われればほとんどないし、その値に従って政策当局者として行動するかと自問しても相当に躊躇われるだろう。

この実験がある程度の確証を持って私たちに伝えていることとは、それらの影響がほぼ間違いなくある値Xよりも小さいということだ(哲学的には、それでさえも確実には言えないのではあるが)。この話題の中心は、保険の真の影響がXよりも小さいのかどうか、小さいとしてもそれでも無視できないほどには大きいといえるのかどうかだろう。これは、本人たちは無自覚のうちによく尋ねている以下のような質問によく表れている。その実験の「検出力」はどうだったのか?

Frakt, Drumや他の人たちの考えは以下のように分類できると思う。(1)この実験には肉体的な健康状態へのあるXという影響を95%の有意差で検出する力があった(2)Xという影響は95%の有意差では検出されなかった(3)これは影響がXよりも小さいということを排除しない(4)これは影響がゼロであることも意味しない(5)実際、それぞれの影響は有意ではなくても正ではある。上で述べた欠点を考慮するとこれら一連の言明に賛同できる所もある。だが、それではまったく不十分だ。

死亡率の例を考えてみる。死亡率が少し変化しただけでも保険に加入していない人の人数と掛け合わせればある程度の人数になる。それを倫理的には重要だとここでは呼ぶことにしよう。それぐらいに小さな変化を検出できるかどうかには非常に懐疑的だ。それ故、「この影響は今回の実験では検出されなかった、だがそれでも無視できないほどには大きい」という議論は完全には反証できない。

では、そもそも分析自体を行うべきではないというのか?第一に、無料のものは存在しない。どのような介入にも費用が掛かる。そのような態度ではより効率のよい他の選択肢も閉ざされてしまうだろう。第二に、保険が死亡率を増加させるのではなく低下させるのかは定かでは全然ない。保険が負の効果を持つことは理論的にも十分に考えられる。

ここではフラミンガム・リスク・スコアを例に取り上げる。

フラミンガム・リスク・スコアは年齢、コレステロール値、血圧、血糖値、喫煙などに基づいて心臓病のリスクを予想するものだ。オレゴンの研究では、慢性的に疾患を抱えている人々(糖尿病、高血圧、コレステロール血症、心筋梗塞、うっ血性心不全などを研究の前に抱えていた人として定義)のフラミンガム・リスク・スコアへの影響を調べている。この調べによると、それらの人々に対して保険はリスクを引き上げている。言い換えると、保険は病気がちな人の心臓の状態を悪くしている。そしてこの影響は高血圧(p値が0.65)、高血糖値(p値が0.61)、高コレステロール値(p値が0.37)よりも遥かに有意水準に近い(p値は0.24)。

もし統計的に有意ではなくてもそれぞれの部分は正の効果を示しているという議論を受け入れるのであれば、保険の心臓病への効果は負であるという結果を拒否できる理由はない。

だが、この負の影響(有意ではないものの)は表面的には不可解に見える。血圧値、血糖値、コレステロール値がよくなっているのだとすれば全体のリスクが悪くなっているのはどうしてか?答えは、喫煙にある。

3.…大部分は、保険が喫煙を招くから。

保険に加入していない人たちの喫煙率は42.8%だ。保険に加入したグループでは、これが48.4%に上昇する。この違いも統計的に有意ではないが他の指標よりも遥かに有意水準に近い(p値は0.18)。これは難しいことでも何でもない。保険に加入した人たちは(四捨五入して)48%が喫煙するのに対してそうでない人たちは(四捨五入して)43%が喫煙する。これは、はっきりと保険に加入したグループの健康に対して悪い。

保険が人々に危険な行動を促すようになるというのはまったくもってありうることだ。保険に加入した人のうちの何割かが喫煙の害を無視してそれ故タバコを吸うようになるというのは直感的にも理解しやすい。もしあなたが社会的介入の非実験的分析により重きを置くようなタイプの人間であれば(私はそのようなタイプの人間ではない)、この結果は保険が実際に危険な行動を誘発するようになることを示した過去の幾つかの非実験的研究の結果をむしろ補強する。

従って、この一連の影響(有意ではないけれども)は皮肉かつ有害だ。誰かが保険を提供されたとする。これは医療サービスの消費量を増加させる。それが今度は非常に小さな肉体の健康状態の改善に繋がるとする。だが保険はそれらの人々に喫煙をも促す。最終的な結果はその実験の始めに病気がちであった人の心臓の状態を悪くするということになる。

公平を期すと、サンプル全体のリスクスコアはほんのわずかにそれも有意とはかけ離れているが(p値が0.76)低下している。これは心臓病のリスクが0.2%低下したことを意味する。従って、この統計的に有意ではないが的な論理を極限にまで押し上げると、保険が心臓病に与えた全体のリスクは、病気だった人(文字通り悪くなった)から健康な人(遥かに数が多い、ほんの少しだけ健康になった)へと健康を再分配することによってサンプル全体がほんの少しだけ健康になったと議論することが出来るだろう。

そして、この「健康の逆進的な再分配」やメディケイドに掛かっている費用(50兆円)、他の改革の選択肢を閉ざしてしまうことその他すべてを考慮しないとしてさえも、これが人口全体にとって改善を意味しているのかどうかは少しも定かではない。保険の影響の組み合わせを考えだすと(肉体的な健康状態の指標の非常に小さな改善に対して喫煙の増加)、信頼区間の左側が極めて重要な意味を持ち始めるようになる。今回の実験で、心臓の状態は本当に悪くなったというほうが遥かに妥当に思えてくる。それ故、保険を提供するのに掛かる費用を考慮するまでもなく、保険を拡大することのリスクに慎重にならなければならない。

以下のような賭けに参加していると仮定してみる。60%で1億ドルを得る、40%で1億ドルを失うとする。資産が1億ドル以下であればすぐに破産し以後は生存に必要な以上の賃金はすべてその借金の支払いに回されるとする。この賭けに参加するだろうか?期待値が正であるにも関わらず多くの人はこの賭けに参加しないだろうと自信を持っている。これは、リスクを取るのに代償を支払わなければならないからだ。この種のリスク調整は、95%の確率またはそれ以上でいえるならば特に問題とはならない。だが全体的な改善がほんのわずかで病気の人にとって負の効果が大きくその賭け率も76%であるならば、合理的意思決定の計算に非常に重要になってくる。

まとめると、(1)最も有意水準に近かった影響は保険が喫煙を増加させて病気の人の心臓の状態を悪くするというものだった(2)サンプル全体の心臓の状態の改善効果は信じ難いほどに小さい(3)この影響は病気の人をより悪くすでに健康だった人の健康をほんのわずかに改善することによって為されている(4)この影響はリスク調整ベースの下ではほとんど確実に魅力的でない。今回の結果からは、健康が改善したという議論を正当化することは出来ない。

4.結局、何なのか?

(それほど重要ではなかったので省略)

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート11

Oregon’s Verdict on Medicaid

Michael F. Cannon

アメリカ人は、医療保険を拡大することが保険に加入していない人の健康状態と金銭的保護を改善するという主張に根拠のしっかりした証拠がまったくないと聞くと驚くかもしれない。過去の研究は医療保険の拡大が健康を改善するのかに対して疑問を呈してきた。幾つかの研究は拡大は費用に見合わないかもしれないとさえ示唆していた。これまで工業国で保険に加入するかどうかをランダムに決めた国は存在しないので決定的といえる証拠に欠けていた。これまでは。

2008に、オレゴン州は新たにメディケイドに加入する1万人を誰にするかを決めるために抽選を行った。アメリカで最高のヘルスエコノミストたちがこの機会に飛びつき、「連邦貧困基準100%を下回る保険に加入していない健常者」の医療消費量、健康状態、金銭的負担などを比較した。その人たちの半分はランダムにメディケイドに割り当てられ、もう半分は保険に加入しないままに留まった。オレゴン州の医療保険実験(以下、OHIEと略)は特に政策とも深い関わりがある。何故なら、2014頃からオバマ大統領の新しい医療法案は1600万人から2000万人をメディケイドに加入させることになっているからだ。

今日、OHIEの研究者たちはその1年目の結果を公表した。

かなり昔から、左翼は皆保険を提唱してきた。それが利益を生むのかを知らないにも関わらず。予想されたことかもしれないが、メディケイドの加入は医療消費量を増やしていた。病院への入院率は約7%から9%へと上昇していた。外来訪問の平均的な回数は1.9から3へと増加していた。40歳以上の女性のマンモグラフィ検査は30%から49%へと上昇していた。糖尿病検査率は60%から69%へと上昇していた。医療費の支出額の平均は25%(または7万7800円)増加していた。

他の結果はより直感に反するものだった。例えば、医療消費量はその年の最初の半年間では増加していなかった。治療を「受けられないで鬱積に鬱積されていた需要」などというものがなかったことを示唆している。オバマ大統領は保険の拡大と予防的サービスの拡大が緊急救命室(ER)への訪問を減らすだろうと主張しているが、メディケイドの加入者とそうでない人たちにERへの訪問の違いはなかった。

メディケイドの膨大な費用に対して与えられる恩恵とはどのようなものなのか?予想している人もいるかもしれないが、メディケイドは金銭的負担を低下させた。医療費をほんの少しでも自分で負担した人の割合は56%から36%へと低下した(逆に言えば、保険に加入していなくても44%は医療費をまったく負担していないということ)。

健康状態はどうだったか?オバマ大統領は彼の医療法案が「毎年数万人の命を救う」だろうと主張しているが、OHIEの結果は救われた命がなかったことを示している(メディケイドに加入した人と保険に加入していない人とで死亡率に違いがなかった)。19歳から64歳までの死亡率は相対的に低いのもあって1年では効果を見ることが出来ないと思うかもしれないが、この結果はメディケア(65歳以上が全員加入する政府の保険、高齢者が多いため加入者には病気を抱えている傾向がその他の層と比べて高いはず)が導入されて10年経った後でさえも一人として救われた命がなかったことを発見した(OHIEの研究者たちのうちの一人が共著者の)以前の研究と整合的だ(来年には、OHIEの研究者たちは血圧やコレステロール値などの他の客観的な指標を報告することが出来るようになるだろう)。

健康の主観的な指標に関して、うつ病と診断される割合は33%から25%へと低下した。自分たちの健康が良いまたは非常に良いと答えた割合は55%から68%へと上昇した。だが、この改善の3分の2は医療消費量が少しでも増える前の加入したすぐ直後に起こっている。筆者たちはこの改善を「客観的な肉体の健康状態の改善の反映」ではなく「主観的な健康感の改善の反映」だと推測している。

オバマ大統領の医療法案の支持者たちはこれらを大いに宣伝するかもしれない。だがOHIEは彼らが求める証拠をなど提供していない。第一に、メディケイドの受給資格を持っていたにも関わらず対照群の13%は民間の医療保険を持っていた。これは、メディケイドの受給条件がすでに広すぎることを示唆している。

第二に、OHIEは保険に加入していない人の中で最も所得が低い人たちに保険を拡大した。だというのに、健康状態と金銭的負担の改善はごくわずかなものだった。所得が高くなるに連れて、保険を拡大することの利益は小さくなっていき費用は(所得が高くなるに連れてクラウドアウト率が高くなる程度に応じて)大きくなっていくだろう。

第三に、支持者たちは保険の拡大が健康状態を改善させるだけではなく他の政策と比較して低い費用で出来るということを示さなければならない。ヘルスエコノミストは非常に有効な治療(高血圧や糖尿病などに対して)を奨励する個別のプログラムは医療保険を拡大するのと同じぐらいの効果を、だが遥かに低い費用で生み出すことが出来るというのに恐らく同意するだろう。税を減らすことも雇用創出を拡大するのと同程度に金銭的負担を低下させることが出来るだろう。

2010に、オバマ大統領は50兆円を代償に納税者が何を得ているのか明らかにしてくれるはずだったこの研究の結果の公表を待たずにメディケイドを大幅に拡大した。この法律の支持者が医者にエビデンス・ベースドの医療を行うようにと指導教育を行っている矢先に、彼ら自身がエビデンス・フリーな政策を行っていることは決して小さくはない皮肉ではある。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート10

How the Liberal Press is Spinning the Oregon Medicaid Study

Shikha Dalmia

Peter Sudermanが昨日伝えたように、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌にオレゴン州のメディケイドに関する研究の結果が発表された。そしてその結果はACAのサポーターを意気消沈させた。その研究はサンプルサイズが大きくしかもランダムに選ばれていたのでとても有益なものだった。それ故、その発見はACAにとって致命的なものとなった。ACAの目的が4000万人のアメリカ人に保険を加入させて健康を改善し命を救うものだと一応は云われていたことを思い出す必要がある。

その研究は、連邦貧困基準100%を下回る保険に加入していない1万2000人以上の健康状態を比較したものだ。その半分がランダムにメディケイドに加入し残りの半分が保険に加入しないままに留まった。このようにサンプルがランダムに振り分けられたものは実験室で行われる実験の環境にとても近い。何故なら人種、所得、健康状態などの変数の影響を取り除いてメディケイドの影響だけを識別することが可能になるからだ。

ここに、その結果のまとめがある。

「抽選(ランダム)が行われた約2年後、ランダムにメディケイドに加入した6387人の成人とそれ以外の5842人の成人のデータが得られた。指標として、高血圧、コレステロール値、糖化ヘモグロビン値、うつ病の診断と投薬、自己申告された健康状態、健康状態、ヘルスケアの使用量、医療費の自己負担額などが含められた」

「メディケイドは高血圧、高コレステロール症の発症率と診断率またはそれらの症状に対する治療薬の使用量などに(対照群と比較して)有意な影響を与えていなかった。メディケイドは糖尿病の診断率と糖尿病薬の使用量を有意に増加させた。だが糖化ヘモグロビン値(糖尿病の重要な指標)の平均値または6.5%を上回ったサンプルの割合に有意な違いはなかった。メディケイドはうつ病と診断される人の割合を有意に低下させた(-9.15%ポイント、95%信頼区間は-16.70から-1.60でp値は0.02だった)。スクリーニングなどの予防的サービスの使用も増加させた。そして自己負担額を低下させた」

「この無作為化試験は、メディケイドが肉体的な健康状態に(対照群と比較して)有意な影響を与えていないことを示した。だが医療サービスの使用量、糖尿病の診断率とその治療薬の使用量は増加させ、そして金銭的負担を低下させた」。

ではリベラル派のメディアはこれをどのように伝えたのか?その見出しと内容をそれほどランダムにではなくサンプリングしてみよう。

New RepublicのJonathan Cohnの見出しは、

「メディケイドを拒絶した共和党は必ず読まなければならない新しい研究」

「その報告書はメディケイドが低所得者の生活を改善するのにどれほど重要かを示した」

「メディケイドは低所得層の医療費の負担を低下させたというのが大きなニュースだ。医療費の自己負担額が所得の20%を上回った人の割合が5.5%から1%ぐらいへ低下した。加えて、金銭的問題を経験する人の割合が低下した」

「他の大きなニュースは、メディケイドが精神病に与えた影響だ。うつ病の割合は比較対象と比べて30%低かった。それは、医療政策として良いというだけではなく財政面から見ても良い。精神の問題が社会に掛ける費用のことを考えれば。生産性の低下、犯罪の増加、自己破壊的な振る舞いなどなど」

「だが改善が見られなかったように思われる一つの場所は肉体の健康状態だ。これは少し驚きだ…」。

Mother JonesのKevin Drumの見出しは、

「メディケイドは恐らく結局は健康状態を改善しているのだろう」

「実際、その研究はうつ病、高血圧、高コレステロール値、糖化ヘモグロビン値に対して著しい改善を示した(思いっきり嘘じゃないか…)。問題はその研究のサンプルサイズが小さいことにある。だから結果が95%水準で有意にならなかった」

「だが、そのことはメディケイドに何の効果もないと言うこととはまったく異なる。メディケイドに効果があると高い精度で言えないことは確かだが、だが最もありうる結果とはメディケイドが実際には効果があったということだろう」

「まとめ: メディケイドは恐らく健康状態を改善した。サンプルサイズが小さすぎてこのことを確かな精度で言えないだけに過ぎない」。

Washington PostのSarah Kliffの見出しは、

「メディケイドは金銭的負担を軽減した、すぐには肉体の健康状態を改善させなかった」

「メディケイドを拡大させるかどうかで論争が繰り広げられている時に、メディケイドがすぐには肉体の健康状態を改善させることはありそうもないという新しい研究が登場してきた」

「その研究は最近にオレゴン州のメディケイドに加入した低所得者は医療サービスの使用を増やすことを示した」

「新規の加入者の金銭的負担は低下した。精神的な健康状態は改善を見せた。うつ病と診断された割合は30%低下した」

「だがコレステロール値、血圧値などを含むシンプルな健康状態の指標は抽選に応募したが選ばれなかった他のグループと比較して違いがなかった」。

Incidental EconomistのAaron Carroll and Austin Fraktの見出しは、

「オレゴン州とメディケイドと証拠、そして人々は凍りついた!」

「兎にも角にも、私たちはその研究の結果がプレスリリースやジャーナリストに送られ、私たちのような専門家の所に送られなかったことにうんざりしている。何故なら今ではその研究に関して既に書かれた山のような論説に対して反論しなくてはならなくなったからだ。彼らは誰か知識のある人間にもっと早くそれを見せるべきだっただろう。または皆に伝わるまで待つべきだっただろう。だが順番が外れてしまった。仕方がないのでこのまま話を進めよう」(社会主義にいたら真っ先に秘密警察を組織したがるような人間だな)

「初期の結果(1年目の結果)は幾らか期待させる結果を示していた。メディケイドは自己申告された健康状態を改善させ金銭的負担を低下させたと示していた。今回のアップデート、2年目のものは、強固な証拠を私たちに示すことを狙いとしていた。その結果は「入り混じったものだった」…」。

New York TimesのAnnie Lowreyの見出しは、

「メディケイドはヘルスケアの使用を増加させたことを研究が示した」

「メディケイドに加入した人はヘルスケアへの支出を増加させた。医者や病院へ行く回数を増やした。だがメディケイドはその加入者を健康にはしていなかった。少なくともその研究の調査期間である2年の期間では。だがうつ病の割合は大きく低下させた。金銭的負担も低下させた」。

読者は元記事を読んで、自分で彼らのピノキオ度(嘘つき度)をゼロから5までで判定して欲しい。

一つ重要なことを記しておく。この研究はメディケイドが保険に加入していない人と比較して肉体の健康状態を改善させていないということを示した他の多くの研究と整合的であるということだ。

更新: Ezra Kleinの古い記事が誤ってサンプルの中に含まれていた。

更新2: この研究に関する新しい見出しと内容をアップデートし続けるだろう。ここに新しいものがある。

Associated PressのRicardo Alonso-Zaldivarの見出しは、

「メディケイドは精神的な健康状態を改善させた」

「メディケイドははっきりと精神的な健康状態を改善させた。だが肉体の健康状態にはあまり大きな違いを与えてないように思われる」

「この直感に反する発見はハーバードとMITの研究者たちによって実施され、オレゴン州の所得の低い人がこれに参加していた。その研究はオバマ大統領の医療法案の下でのメディケイドの拡大に再考を促すだろう」

「その研究は、メディケイドに加入している人が保険に加入していない人よりも良くない、むしろ悪いかもしれないという広く広まった認識も打ち砕いた」。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート9

Oregon Health Experiment Shows That Having Health Insurance Is Different Than Being Healthy

David Whelan

オレゴン州からの新しい研究は古くからある質問に答えようと取り組み、同じ答えに辿り着いた。医療保険に加入することは健康であることと同じなのか?

答えは違う、だ。人々は保険に加入していても毎日死んでいる。他の人は保険にまったく加入していなくても長生きしている。私が住んでいる場所から南に20マイル離れたアーミッシュのコミュニティにはその2番目のグループの人たちが多く含まれている。だがこの重要な違いが1000マイル離れたワシントンでは失われてしまうようだ。

保険と健康は、皆保険の支持者によってよく関連付けられ混同されてきた。保険は医療へのアクセスを保証するので保険自体が健康の重要な決定要因だと彼らは主張してきた。言うまでもなく、健康と医療もまた混同されてきた。だがそれはまた別の話だ。

誰が正しいのか、どうやって判断すればよいのか?

オレゴン州のことを調べた経済学者に聞くのがいい。彼らは製薬会社が治験を行うのと似た方法で、保険は本当に重要なのかという疑問に答えた。これはこの種のもので初めてのものではない。1972から1982に行われた有名なRANDの研究は、自己負担額が増えるように設定すると人は医療の利用を減少させるが、肉体的な健康状態には少しも影響を与えないことを示した。この結果は、HMO運動を誕生させるきっかけとなった。

MITの経済学者Amy Finkelsteinに率いられたオレゴンの研究は、2008のオレゴン州の置かれていた状況が重要な鍵となっている。オレゴン州は当時メディケイドを拡大させようとしていたが予算が足りなかった。そこで人数を制限するため希望者に対して抽選を行った。彼らは抽選に選ばれて保険に加入した人とその人たちと同じ特徴を持ちながら抽選に選ばれなかった人とを比較した。この研究は彼らが2つのグループの健康状態と金銭的負担とを調べ続けられ間、続けられた。

去年、最初の結果が公開され2つのグループは健康にわずかな違いしか見られないというのが主な結果だったが、結論を出すには早いということになった。

今日、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に2年目の結果を含んだ論文が掲載された。その結果は、またもや健康と保健は同じものではないだった。

引用すると、

(繰り返しになるので省略)

どうやらメディケイドは人が病院に行く回数を増やしているようだ。金銭的負担を低下させてもいるようだ。だが一方は抽選に選ばれて一方は抽選に選ばれなかったにも関わらず、2つのグループは同じ健康状態だった。

(話がそれるが、第二のグループとはどういうものか私は関心がある。彼らが入院した時にその時点に彼らはメディケイドに加入するだろうことを思えば。もしくは所得の低い人がいつもやっているように、彼らが病気になった時に治療を受ける方法が幾つかある。ERは患者を容体が安定するまで必ず受け入れなければならない。低費用の治療が存在する。コミュニティ・ヘルス・センターでもまたは単に自己負担で払う場合でもだ。保険に加入していない人たちがやっていることがどれであるにせよ、それは第一のグループに対して彼らを害することにはならない)。

この研究を巡って、政治的議論がこれから巻き起こるだろう。その話題は他の人に任せようと思う。

だが、オレゴンの結果は医療保険に関する研究をよく知っている者にとっては驚きでも何でもないということを指摘しておきたい(ワシントンの政策当局者はもちろんこの中には含まれない)。

経済学者は、オレゴンの筆者たちによって回答されたのと同じ質問を長い間してきた。医療保険は人々を健康にするのか?1962から1972の間にこの話題を巡ってケネス・アローとゲイリー・ベッカーは討論してきた。

アローは、医療保険はマイナスの影響を与える(与えうる)と論じた。シートベルトやエアバッグが危険な運転を誘発するのと同じように、保険に加入した人は健康に気を使わなくなるからだと論じた。ベッカーは、医療保険を買おうとする人は「自己防衛」に価値を見出している人である傾向が相対的に高いはずだと反論した。避雷針を備え付けているビルの持ち主は煙探知機も備え付けている傾向があるのと同じように。ベッカーが論じているように、防空壕が戦争を起こすわけではない。

その議論はずっと続いたが、理論面での議論は実証面での研究に席を譲ることになった。

自己負担率の異なる5つのタイプの保険にランダムに加入させた2750の家族を追跡調査したRANDの研究は、保険が人々を健康にするのか?という疑問に答えることを特に目的にしているのではなかった。だが、それは自己負担額がゼロかあまりないタイプの保険に加入した人とほぼ全額自己負担か自己負担が大きいタイプの保険に加入した人との間に健康に関する生活習慣や健康状態に違いが見られないことを発見した。

「リスクの高い行動は影響されていなかった。例えば、喫煙率や肥満率などは変化していなかった」とその研究を指揮したジョセフ・ニューハウスは語った。医療へのアクセスは健康への投資を増加させなかった。

この結果は、オレゴンの結果が公開される前でさえも何度も何度も再現された。

2006に、Dhaval Dave and Robert Kaestnerは保険に加入していないアメリカ人で65歳になってメディケアの受給資格を得たグループを調べた。この枠組により保険の有無以外の要因を制御することが可能になった。興味深いことに、65歳になって保険に加入した女性は健康に関する生活習慣や健康状態を変化させなかった。だが男性は、メディケアに加入するとリスクの高い行動を取るようになった。肉体を使った運動は40%減少した。喫煙は16%増加した。毎日のように飲む飲酒は32%増加した。

言い換えると、保険に加入することによって彼らはそれまでほどには健康に気を使わなくなった。この研究に関して気になっていることがあるのは、それらの変化が単に退職による行動の変化の表われではないのかということだ。多くの人にとって、退職も65歳という年齢と一致している。この研究を行った経済学者は就職しているかどうかをコントロールしていると主張している。だがそれでも少し疑問は残る。

2008に、他の経済学者Anderson StancioleがPanel Study of Income Dynamics(調査される人が毎年ランダムに選ばれて変わるような普通の調査ではなく、最初に選ばれた人がその後の調査にも続けて参加するタイプの統計。これにより例えばその人の5年間の所得の推移であるとか今まで明らかでなかった情報を得ることが出来、普通の統計を用いるのでは出来なかった生涯賃金の格差などの分析が出来るようになる)を用いて水平的なデータを分析した。その統計は8000の家族を追跡調査した。年齢、雇用状態、所得、人種、性別やその他の要因を制御した後で、彼は保険が飲酒の増加、喫煙の増加、運動の低下と結びついていることを発見した。ここでも、保険は健康的な活動をもたらしてはいなかった。むしろ逆かもしれない。

Jay Bhattacharyaによる「保険は人々を太らせるか?」という挑発的なタイトルが付けられた2009の論文は保険と肥満との間の関連を見つけている。彼が用いたのは15歳以上の1万2000人の10代を追跡調査したNational Longitudinal Survey of Youthだ。彼は、保険に加入していない場合に比べて10代の児童がメディケイドに加入している場合にはBMI指数が2.1ポイント、民間の保険に加入している場合には1.3ポイント高いことを発見した。

オレゴンの研究は、同じような結果を示した最も新しいものだ。保険に加入していることと健康であることとはまったく異なるものだ。これらを混同するのはもうやめよう。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート8

Oregon Study: Medicaid 'Had No Significant Effect' On Health Outcomes vs. Being Uninsured

Avik Roy

この3年間、メディケイドに関して医療政策の研究者たちの間で議論が交わされていた。相当数の研究が、メディケイドに加入した人の健康状態は保険に加入していない人と比べて良くなっていない、むしろ悪くなっていることを示してきた。オバマケアのサポーターたちは、2011にオレゴン州からメディケイドが保険非加入者よりも良い結果を示したという都市伝説が流れてきた時に勇気づけられた。だが昨日、オレゴンの研究の筆者たちはその1年目の結果をアップデートした2年目の結果を公開したのだった。その結果は、今まで通りにメディケイドは「肉体的な健康状態の指標を比較群と比べて有意に改善させていない」だった。その結果はメディケイドに毎年費やされる45兆円ものお金とオバマケアが1100万人をこのプログラムに加入させようとしていることに大きな疑問符を投げ掛けた。

幾つかの理由から、私はメディケイドのこの結果に関心を寄せていた。その理由の一つとして、所得の低い人を本当に助けられるかどうかが医療政策の議論において重要だと私は考えているからだ。それと同時に、納税者にあまり負担を掛けないことも重要だと信じている。

他の理由は、私には偶然にも無作為化試験の分析を数多く行ってきた経験があるからだ。それは、この分野に特化した専門的な投資家が製薬会社、バイオテクノロジー会社、医療機器会社の株を分析する時に行っていることだ。長年に渡って、私はこれらの臨床試験を数百と見てきた。市場が新しい治療法を過小評価するのか過大評価するのか調べるためにだ。では専門的な投資家が新薬を評価するときのようなやり方でオレゴン州のメディケイドの研究を分解してみよう。

The Oregon study measured common health outcomes

どのような臨床試験であっても最初に行われるのはプライマリーエンドポイントを決定することだ。この場合では、オレゴンの筆者たちはメディケイドに加入した人たちを保険に加入しないままだった人たちと比較している。客観的な方法で彼らが測りたかったものとは、メディケイドは加入者の健康状態を改善するのか?ということだった。

(省略)

オレゴンの研究には、通常の臨床試験には見られるような分かりやすい「プライマリーエンドポイント」のようなものがない。だが筆者たちは(1)高血圧値(2)高コレステロール値(3)糖化ヘモグロビン値(4)フラミンガムリスクスコアなどを将来を見通す間接的な客観的な指標として調べることにした。

糖化ヘモグロビン値を除いて、これらのどの指標もFDAの基準を満たさないだろう。FDAでは死亡や心筋梗塞などのより重度なエンドポイントが基準として求められるだろう。だがオレゴンの研究は公共政策に関する数少ない無作為化された対照試験なので、そしてこれはあくまでも投資家であればどう判断するかという例えなので先に移ろう。

The Oregon Medicaid population was partially self-selected

その次に見なければならないことは、オレゴンの研究がバイアスをうまく排除するように設計されているか実施されているかということだ。通常の臨床試験とは異なり、オレゴンの研究は二重盲検化されていない。当然ではあるが、メディケイドに加入している人は自分がメディケイドに加入していることを知っている。そして保険に加入していない人も保険に加入していないことを知っている。通常であれば、医者も患者もその患者が処方されているのが新薬なのかプラセボなのかどちらにも知らせないようにしなくてはならない。オレゴンの研究では、そのバイアスは残っていてメディケイドの方に優位に働きかけている。

その次に見なければならないことは、加入した患者にバイアスが存在するかどうかだ。メディケイドに加入した方の人々はそうでない人々と本質的に同じような特徴を持つのか、それとも違いがあるのか?ここでは、結果は分かれている。年齢や人種などの指標では、どちらのグループも同じような特徴の人で構成されている。

だが、オレゴンの筆者たちは保険に加入していない人の健康状態の最初の数字は測定したのにメディケイドの方にはそうしなかったように思われる。「メディケイド加入の影響は操作変数を用いた2段階最小二乗法によって行われた」と筆者たちは記している。メディケイドに加入した患者がその開始時点から最終時点までどのようなデータの変化を見せたのかを実際に分析するのではなくだ。よって、メディケイドに加入した方の平均的な患者は、例えば保険に加入していない方の平均的な患者の開始時点でのデータと比較してコレステロール値が高くなったのか低くなったのかが分からないということだ。通常の臨床試験であれば、このような方法は取られないだろう。

この潜在的な違いは非常に重要だ。抽選に選ばれた35169人のオレゴン州の人たちのうちで、わずか30%だけが実際にメディケイドに加入した。抽選に選ばれた人のうちで、受給に必要な記入欄に必要な情報を書き込んだのはわずか60%だけだった。オレゴン州の、保険に加入していない人がメディケイドをどのように見ているのかを少し伝えているように思われる。

わずか60%だけしか必要な欄に記入していないという事実はバイアスをもたらす可能性がある。実際にサインをした加入者たちは、そうでない人たちと比べてより治療を必要としてより治療から恩恵を受ける傾向があったかもしれないからだ。オレゴンの筆者たちはこの問題を調整しようと試みている。だが私たちには元々の開始時のデータに違いがあったのか、生のデータを与えられていないため見ることが出来ない。例えば、元々の治療前のコレステロール値や血糖値に保険に加入していない人たちとメディケイドに加入した人たちで違いがあったのか?通常の臨床試験であれば、これは受け入れられないと受け取られただろう。

Oregon’s Medicaid program is not representative of the U.S. broadly

オレゴン州のメディケイドにはアメリカ全体の保険非加入者と比較して白人が多く(+15%)黒人が少ない(-15%)という特徴がある。(健康自体ではなく)保険が健康に与える影響に、人種がどのような影響を与えるのかを実証的に示したデータを私は知らない。だがこのことは心に止めておく必要があるかもしれない。

記しておく価値がある重要な要因は、オレゴン州のメディケイドは他の州のメディケイドよりも大幅に支払いが良いということだ。オレゴン州では、メディケイドは治療に掛かった費用として民間の保険がかかりつけ医に支払う額の62%を支払う。それは全州の平均である52%よりも高い。リベラル派が伝統的に強いと云われる幾つかの人口の多い州では40%を切る所もある。

オレゴン州のメディケイドの支払いが良いために、同州の加入者は他の州よりも相対的にアクセスが良い。オレゴン州の医者の21%は現在診ているメディケイド患者で手一杯でもう新規のメディケイドの患者を受け入れたくないと不満をこぼしているが全米平均は31%だ。

これは恐らくオレゴンの研究で最も大きなバイアスかもしれない。アクセスの向上は他の州と比較してオレゴンのメディケイド加入者に有利に働いたかもしれない(保険非加入者には見た目上不利に働いた)。

The data: No statistical benefit in health outcomes

(ここまでが前段階での説明)では、オレゴンの研究は何を示したのか?彼らは高血圧(保険非加入者と比べて、メディケイドの方が1.33%割合が少ない、p値は0.65)、高コレステロール値(2.43%割合が少ない、p値は0.37)、高糖化ヘモグロビン値(0.93%割合が少ない、p値は0.61)、フラミンガムリスクスコア(0.21%割合が少ない、p値は0.76)などで対照群と治験群とで統計的に有意な違いがないことを発見した。p値によると、血圧の結果は65%の確率で、コレステロール値の結果は37%の確率で、糖化ヘモグロビン値の結果は61%の確率で、フラミンガムスコアは76%の確率で統計的ノイズである可能性がある。繰り返しになるが、統計的に有意であるとはp値が0.05以下であることが求められる。

筆者たちが指摘しているように、「メディケイドの加入は対照群と比較して高血圧、高コレステロール値、それらの治療薬の使用量に有意な影響を与えなかった。糖尿病の診断率を高めたが糖化ヘモグロビン値には有意な影響を与えなかった」。うつ病の発症率は有意に低下していた。だが筆者たちはHamilton Depression Scaleの改善などの客観的な指標はうつ病に対しては調べなかった。

メディケイドに有利に働く要因が数多くあった。オレゴンのメディケイドの支払いが他の州より良かったこと、メディケイドの加入者の方が病気がちであったこと。それ故、対照群よりも治療の恩恵をより受けやすい立場にあったはずだ。

有意な違いが表れたのは支出額(メディケイドの患者は対照群より11万7200円平均で見て多く支出した)と医療サービスの利用量だ。コレステロール値のスクリーニングのように、その利用量の増加の幾らかは良いものだったかもしれない。だがそれは対照群と比較したコレステロール値の有意な改善には結び付いていなかった。

他には、金銭的負担に有意な違いが見られた。メディケイドが加入者自身が自分の負担で支払いたいと思ってもそれを制限していることを思えば驚きではない結果だ。だが強調しておく必要があるが、その金銭的負担の低下も対照群と比較した健康状態の改善には結び付いていなかった。金銭的負担を軽減させることが私たちがしようとしていることだというのであれば、所得の低い人に現金を渡してどのように使うか彼らに選ばせた方が遥かに良いだろう。

In 2011, media hyped flimsy early results from the Oregon study

オレゴンの研究の1年目の結果が2011の7月に公開された時、リベラル派はメディケイドは健康状態を改善させるのだとメディアを通して大々的に宣伝した。「驚きの事実!科学が医療保険が機能することを証明した」、「オレゴンからの新しく、質の高い研究がメディケイドが、実際に命を救っていることを確認した」などなど。後者はMatthew Yglesiasが書いたものだ。オレゴンの研究は、そのようなことは言っていないという事実にも関わらず。

2011に、1年目のオレゴンの研究が示したこととは実際は何だったのか?メディケイドに加入した人が健康になったように感じたということと金銭的負担が低下したと感じたということだけだ。筆者たちによって行われた加入者の主観的なサーベイによってだ。だがその時でも糖化ヘモグロビン値やコレステロール値、死亡率などのような健康状態の指標には対照群と比較して何の違いも見せていなかった。このような重要な詳細が、オバマケアのメディケイドの拡大は正しいことがこれによって証明されたと熱狂的に騒いでいた人たちからは失われていた。

医療政策のコミュニティは2012の7月に公開されることになっていた2年目の結果を待ち侘びていた。1年目の結果に対する熱狂ぶりからもそれがどれほどであったか分かるだろう。だが2012が訪れて7月が過ぎても結果は公開されなかった。そのことに対する説明も一切なかった。1年目の結果が公開されて22ヶ月が経った頃、ようやく筆者たちは2年目のデータを公開したのだった。どうして、それほど長い時間が掛かったのか理由がはっきりしない。特に、州の政策担当者らは過去4ヶ月間メディケイドを拡大するのかしないのかで大変苦労していたことを思えばなおさらだ。

Addressing the progressive pro-Oregon counterarguments

この研究が、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に掲載されて数時間が経った頃には、メディケイドは健康状態を改善したに違いないと主張する人たちから幾つかの論点が提示された。それらを一つ一つ見ていこう。

1.たったの2年しか経っていない、メディケイドにもっと時間を:5年とか10年、または20年とかしたらメディケイドは対照群に対して何らかの効果を示すかもしれないし示さないかもしれない。取り敢えず示すかもしれないという可能性は排除できないということにしておく。だが、オバマケアは次の10年間でメディケイドを拡大させるために75兆円を費やそうとしている(実際は、200兆円以上であることがこの後に暴露された)。それだけの巨額のお金を納税者から奪い健康状態に何の改善も示さないプログラムに費やすことが倫理的にも許されるのか?それに加えて、成功した新薬の臨床試験はそれらの指標を1年か2年以内に改善させている。それに、新薬への支出額はメディケイドへの支出額よりも遥かに少ない。

2.有意な影響を示すにはサンプルサイズが小さすぎた:お笑いだ。この研究は12229人のオレゴン州の人たちの健康状態を調査している。コレステロール、高血圧、糖尿病などの治療薬であれば、その規模のサンプルサイズはほとんどいつでも有益であるかどうかを示すのに十分だ。メディケイドがFDAからの承認を待っている新薬であれば、すぐにも棄却されるだろう。

3.結果は統計的に有意ではなかった、だが幾つかの生の数字はメディケイドの方を支持している:またまたお笑いだ。もしそんな主張をFDAの前でやってしまえば、部屋中が大爆笑に包まれるだろう。幾つかの生の数字はメディケイドの方を支持しているというのは確かだが他のものはそうではない。統計的なノイズである確率は極めて高い。最も重要なことに、オレゴンの結果はメディケイドは保険に加入していない人と比較して最大でも意味のある違いを生み出していないことを示している山のようにある臨床上の証拠と整合的であることだ。

4.メディケイドはうつ病の診断と治療には役立っている!:それは素晴らしい、だが繰り返しになるが、それがうつ病の客観的な指標の改善につながっているかどうかは分からない。そしてメディケイドに45兆円を毎年費やしていることを思い出して欲しい。高コレステロール、高血圧、糖尿病、うつ病の治療薬として現在最も頻繁に処方されているもののほとんどすべてがジェネリックだ。毎年45兆円より少ない金額で人々を幸せにすることが出来ないというのであれば、何か間違ったことをやっている。

5.メディケイドは金銭的負担を低下させた:素晴らしい、だがそれと同じことはその数分の1の費用で出来る。例えば、フロリダ州のWill Weatherford and Richard Corcoranが提案したプランなどによってだ。そのプランは代わりにメディケイドを拡大することを主張した人々によって妨害された。

私はメディケイドの費用に関して何度も言及している。だが、低所得の人に対してそれだけの金額のお金を支出するのに反対しているのではないということははっきりさせておきたい。私が反対しているのは、その金額を無駄にしていることだ。メディケイドよりも優れた市場寄りの代替案は数多くある。

低所得者に対して新しいプログラムを作ることは可能だ。例えば、かかりつけ医に毎月1万5000円を支払うプランが考えられる。それは「concierge doctors」への支払いと呼ばれるもので、メディケイドに加入している人に最高の診療を提供するだろう。その上に、保険料が年間20万円の重大な事故や病気をカバーする保険を組み合わせることが出来る。そのプランの費用は38万円ぐらいだろう。オバマケアのメディケイドの拡大よりも37%以上安くなる。国民にそのようなプランを提供すると同時に、残りの費用をカバーするために医療貯蓄口座を拡大させることも出来る。

リベラル派は長い間、藁人形を叩いてきた。「メディケイドを拡大させるのに反対するのならば、低所得者に医療を提供するのに反対するのも同じだ」といった具合に。だが本当の所は、もしメディケイドを拡大するのを支持するのであれば質の高い医療を必要としている人に提供する本当の改革への道を閉ざしているというのが実際の所だ。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート7

Does the Oregon health study show that people are better off with only catastrophic coverage?

Christopher J. Conover

先週、NYTは興味深い疑問を提起した。「オレゴン州の結果は、公的医療保険は重大な事故や病気に対する保険に限定すべきであることを示したのか」。オレゴン州の研究(以下、OHS)は「メディケイドの加入は肉体的な健康状態の指標を有意に改善させなかった」ことを示した。血圧値、血糖値、コレステロール値に何の改善も見られなかった。

驚くべきことに、ある論者、Austin Fraktはこの陰鬱な結果を簡単に説明できると主張している。「この検証を行うにはサンプルサイズが小さすぎた」というのだ。正気ですか?RANDの有名な医療保険の実験(費用の負担率の違いがヘルスケアの使用量、支出、健康状態に与える影響を調べたヘルスエコノミストの間でのゴールドスタンダード)でもサンプルは5809しかなかった。それも5つの保険の種類に分割されていた(無料の保険プランには1893、医療費の自己負担率25%の保険プランには1137、医療費の自己負担率95%の保険プランには1120など)。実際には14の異なる種類の保険が調べられた。従って、それぞれのサンプルサイズはそれらの数字が示すよりもさらに小さかった。その上、RANDの研究(以下、RAND HIE)には幅広い所得階級から62歳以下のすべての年齢の個人がランダムにサンプルに含まれていた。一方、OHSでは所得が低い人、非高齢者、身体的障害を持っていない人、これらの対象の中からメディケイドの受給資格を持っていてランダムに選ばれた6387のサンプルと、メディケイドの受給資格を持っていながらもランダムに選ばれなかった5842のサンプルが比較された。

これは留意すべきことだが、RANDの研究ではその単位として個人-年(実施期間が10年だとすると、1000人いたとして1000×10でサンプルは10000とするという意味)が用いられた。この単位では多いもので無料の保険プランの6822から少ないものでは自己負担率50%の1401までの幅がある。だがこの基準を用いるのであれば、OHSの実施された期間は2年間だからサンプルサイズは報告されているものの2倍となる。これも留意すべきことだが、抽選に選ばれた6387人の1903人しか実際にはメディケイドに加入しなかった(全体の26%)。だがそれら全員が所得が低く19歳から64歳までの非高齢者である一方で、RAND HIEの方は参加者の36%が子供で大部分が低所得者ではなかったことに留意する必要がある。RANDの研究では所得分布の下5分の1が低所得と定義されていた。従って正しく比較すれば、HIEには所得の低いと定義された非高齢者が750人、各種の保険に分散されたことになる。大体、その3分の1が費用の負担率がメディケイドと同じ位の無料の保険に加入したことになる。その250人を個人-年に単位を移して膨らませたとしても、HIEのサンプルは850でOHSのサンプルは1903となるだろう(単位を揃えれば、1903の2倍で3806となる。厳密には、肉体的な指標を測ったのが2年目だけだけどこの研究に参加した期間は2年間だから2年間治療を受け続けていたのに改善しなかったということを踏まえればサンプルサイズを2倍にしても問題ない気もする。どのように考えるかは難しい所かもしれない)。

このことは何の関係もないと思っている人もいるかもしれない。だが低所得者のサンプルサイズが大幅に小さかったにも関わらず、RAND HIEが示すことが出来たもののことを考えてみよう。

・当初、血圧が高かった人(20%が血圧が高かった)で、無料の保険に加入した人の血圧は負担率が高い保険に加入した人に比べて大幅に血圧が低下した。

・疫学的なデータは、この規模の大きさの低下によって無料の保険に加入したグループの死亡率は10%低いだろうことを示唆している(この死亡率の低下が参加者の間であったかを実際に測るにはそれこそサンプルサイズが小さすぎた)。

それにも関わらず、Austin Fraktは真面目な顔をしてOHSのサンプルサイズが「小さすぎた」と信じ込ませようとしている。彼の主張の証拠として、Mother JonesのKevin Drumが「その研究は統計的に有意な改善を見つけることが出来なかった。それは最初から不可能だったのだ」と大胆にも主張しているブログ記事を挙げる。

そのような荒唐無稽な(実証的に支持できないような)一般化だけでは満足できなかったのか、彼はハーバードの研究者たちがこの研究をどのように行うべきであったかと叱りつけ、このような驚くべき主張に辿り着いた。

「彼らは結果を報告するべきでさえなかった。彼らは、検出力が低すぎてどのような妥当な条件下においても統計的に有意な結果を示すことは出来なかったと単に報告すべきだった。だが彼らはそうしなかった。その代わりに、彼らは結果を報告して結果の解釈はプレスに任せた」。

医療政策の研究者たちは、Mr. Drumが自分で何を言っているのか分かっていないのだとすぐに認識した。だが素人の大衆にはそれが分からないかもしれない。Mr. DrumがOHSの研究を行ったヘルスエコノミストたちにどのように研究を行ったらよいかを指導しているさまなどはコミカルとしか言いようがない(「まず第一にその研究を始める以前に、彼らは臨床的に有意な結果とはどの位のものであるかを調べておくべきだった」)。OHSにはDr. Joseph Newhouseが含まれているだけではなく(RAND HIEの責任者で、アメリカを代表するヘルスエコノミストの一人)、Amy Finkelsteinが含まれていた。OHSを見た人または62ページに渡る補論を読んだ人であれば誰でも、これが利用可能な指標と方法の中で最も優れたものが用いられた最先端の研究であることが分かるべきだ。もしメディケイドに肉体的な健康状態に対する有益な効果があるのであれば、彼らは間違いなくそれを見つけていただろう。

OHSの結果はすべてが悪かったのではないと記しておく必要はあるかもしれない。

・メディケイドへの加入は糖尿病の診断率と糖尿病治療薬の使用を有意に高めた。だが糖化ヘモグロビン値や基準値である6.5%を超える参加者の割合には有意な影響を与えていなかった。

・メディケイドへの加入は医療費の自己負担額を低下させた。保険に加入していないグループで支出が所得の20%を超えたのは5.5%だったがメディケイドは1.1%だった。だが統計的に有意であるとはいえ医療費の自己負担額の違いは驚くほどに小さかった。保険に加入していない人の医療費の自己負担額は年間で5万5300円だった。メディケイドの方はそれよりもわずか2万1500円少ないだけに過ぎない(3万3800円)。

・メディケイドへの加入はうつ病と診断された割合を30%から21%へと低下させた。少なくともこの3分の1は抽選後にうつ病と診断される割合が低下したことから来ている(保険に加入していないグループが診断された割合は全体の4.8%で抽選に選ばれたメディケイドのグループは1.0%だった)。

・メディケイドへの加入は健康状態が1年前に比べて同じまたは良くなったと答えた人の割合を上昇させた(保険に加入していないグループは80.4%、メディケイドに加入したグループは88.2%だった)。

・メディケイドへの加入は自己評価された精神の健康状態を非常にほんの少しだけ改善させた(1標準偏差の5分の1)。

・メディケイドへの加入は医療へのアクセス、質を改善させたのではなく医療へのアクセス、質を改善させたと加入者に思わせた。

・メディケイドへの加入はコレステロール値の診断、女性の子宮頸がん検診、女性の乳がん検診、男性の前立腺がん検診などの予防的サービスの使用を高めた。

それらわずかばかりの改善には当然費用が掛かっている。年間の支出はメディケイドの方が11万7200円(35%)高かった。同様に記しておかなければならないのは、医療へのアクセス、使用量、質、精神の健康、金銭的負担などのこれらのわずかばかりの改善は自己申告された幸福度にも有意な違いを生み出さなかったということだ。保険に加入していない人の74.9%は非常に幸せまたはとても幸せと答えた。メディケイドの方は76.1%だった。

従って、すべてはお金の価値の問題という所に帰着する。これらのわずかな改善は一人あたり12万円(全体で見れば50兆円以上)の価値に相当するのか?判断は人によって異なるだろう。だが大多数の人は、医療費の自己負担額を平均で見てわずか2万1500円しか減らしていないのであれば12万円の価値に見合わないと同意するだろう。その場合であれば、何らかの合意の元に定められた一定の閾値以上の支払いに対して個人に単に払い戻すという方が遥かに遥かに安く済むだろう。OHSは、保険に加入していない人をメディケイドに加入させれば緊急救命室の過剰利用が魔法のように消えてなくなるという神話も粉々に打ち砕いている。医者への訪問が平均で見て50%増加しているにも関わらず、メディケイドの方がわずかにERへの訪問が多い(有意ではないが)。よって、ERへの訪問が激減するはずだからメディケイドを拡大させた方が結果的に費用が抑えられると今まで何の根拠もなく執拗に声高に主張してきた人たちはOHSの結果を用いてその主張を正当化することは出来ない。

金銭的負担は置いておくとして、残りの9万5000円はあのわずかばかりの改善に果たして見合っているのか?それらが幸福度に影響を与えているようには見えないというのに。目標が低所得者の厚生を改善するということであれば、50兆円以上のお金を他のことに使った方が彼らの厚生を遥かに改善するのではないのか?Ross Douthatはこのことに同意してくれると思う。

OHSはオバマケア以前のアメリカの医療システムが保険に加入していない人たちに33万5000円の無料の医療(先程も述べたように自己負担額は約5万円)を提供していたことを改めて示した(リベラル派はそれを必死に否定していた)。さらに、低所得の保険に加入していない人たちは十分に賢く、システムを有効に利用して最も有効な治療を見つけ確保するのに十分な情報を持っていることも証明した。その結果として、メディケイドの加入者たちと肉体的な健康状態は同じということになった(33万5000円も使っていたら健康状態に差が出ないのは当たり前じゃないか。すべてがコント)。このことは、州は低所得者に医療を提供するのにイノベーティブな方法を奨励する必要があることを示している。例えばHealthy Indiana Planは、

「各加入者に妥当な額の金銭的負担を求め、加入者に健康で居続ける、費用意識を持たせる、コスト効率の高い医療サービスを利用するインセンティブを与える。このプランは必要な医療サービスをすべてカバーしており民間の保険ともそれほど遜色ない。それに比べて、メディケイドは加入者に無制限の給付とサービスを与え、受給者には健康状態に気を配る、コストを気に掛ける、医療サービスを効率的に利用するインセンティブをまったく与えない」。

オバマケアにはメディケイドとも共通する2つの重大な問題がある。第一に、オバマケアは保険に加入していない人たちと差がないメディケイドを大幅に拡大しようとしている。第二に、オバマケアは中央集権化をさらに強めようとしている。実際、最高裁が止めていなければACAは各州にメディケイドの拡大を強制していたはずだ。私たちが今、目撃していることは、選択の自由を与えられた州はその半分が拡大に反対したということだ(しかもそれはOHSの結果が報告される前でさえある!)。連邦政府の官僚たちがメディケイドを管理しようとするのを止めて州に包括補助金(裁量権付きの補助金)を与えれば私たちは大きな利益を得ることが出来るだろう。包括補助金は財政規律を大幅に強化しさらに州がお互いから何が最も機能するのかを学び合える各種の実験を大量に開放するインセンティブを生み出すだろう(現在は、規制により出来ないことが圧倒的に多い)。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート6

Amazing Fact! Science Proves Health Insurance Doesn’t Improve Health (Maybe)

Peter Suderman

ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に掲載された新しい研究はメディケイドの拡大が肉体上の健康状態を有意に改善させなかったことを発見した。これは保険加入の半分以上をメディケイドに頼っているオバマケアにとっては間違いなく悪いニュースだ。オバマケアの支持者らは、サンプルサイズが小さいからその研究は無効だと主張している。だがメディケイドに遥かに友好的に見えたこの研究の最初の1年目の結果が公開された時はそのように報道されたことも解釈されたこともなかった。2011の6月に最初の第一ラウンドの結果に関して書いていた多くの人たちはその研究の設計の見事さ、その結論の間違いなさなどを絶賛していた。

例えば、Kaiser Health Newsに宛てた記事でNew RepublicのJonathan Cohnはその研究の設計を「他のものとは比べられないほど有益なものにしている」と断言している。左寄りのCentury Foundationはその研究の「発見は反論不可能なもの、論破不可能なもの、絶対的なもの」と声明を出している。Incidental EconomistのAaron Carrollはその研究の厳密性を強調している。「これが無作為化比較対照試験であるということを何度でも何度でも強調したい」と書き、「RCTは因果関係を証明するのに本当に最良の方法だ」と語った。そしてそれがRCTだったので、彼は「私たちは因果関係を語り始めることさえ出来るようになった」と結論した。Ezra Kleinは以下のような見出しでそれを絶賛した。「驚くべき事実!科学が公的医療保険が機能することを証明した」(言うまでもなく、彼は皮肉のつもりでこのタイトルをつけている)。彼はどうしてRCTがそれ程価値が高いのかを説明していた。「研究のゴールドスタンダードは誰が治療を受け誰が受けなかったのかをランダムに選ぶものだ。そのように選ぶことにより、その結果がその2つのグループの違いによって歪められたものではないということを知ることが出来る」と書いている。

そして時間が経った現在、彼らにとって物事はすべてが不明瞭になったようだ。「オレゴンの研究の問題点は」、とKleinは今日の朝に書き記し、「この結果から何を学んでいるのか私たちには分かっていないことにあるのだ」と語った。最初の結果が公表された時には、因果関係を語る準備が出来たはずのCarrollは今では皆に警戒を呼び掛けている。「魂を奪われたかのようなリベラル派の同志たちへ。これは単なる一つの証拠に過ぎない。これは、メディケイドに加入した人々の間で幾つかのことが改善したことを示した。他のことでは、変化は有意ではなかった。それは何の効果もなかったと同じではない。さらに他のことでは、判決はまだ出ていない」と語っている。

最初の1年目の結果は今週公開された結果よりも実はよりロバストなものではなかったということは特筆に値する。1年目の結果は当然1年しか調べていないというのもあるが、それには肉体的な健康状態に関する客観的な指標がまったく含まれていなかった。代わりに、筆者たちは自己申告された健康状態に改善が見られたことを発見した。メディケイドに加入することになった人々は、単に健康になったと感じたと述べたに過ぎない。そしてその改善の3分の2は治療が始まる遥か前に起こっていた。だがオバマケアの支持者にとっては絶対的な勝利宣言をするにはそれで十分だったようだ。実際、客観的な指標を欠いていたにも関わらず、多くのレポーターたちはメディケイドが健康を改善する(というより命を救う)ことの論破不可能な証拠を手に入れたと宣言するのにさえ十分だったようだ。

例えば、The White Houseのブログではこの研究の1年目の結果に対して「Health Insurance Leads to Healthier Americans」というタイトルが付けられていた。ABC Newsは「メディケイドに加入することにより肉体的な健康が改善することが証明された」とこれを紹介した。医療政策を分析しているHarold Pollackは1年目の結果を用いて「保守派は、医療保険は健康を改善していないと主張するのを止めることが出来るか?」と問い掛けている。Incidental EconomistのAustin Fraktは「彼らはメディケイドが健康を改善するという証拠を見つけるだろう」と自信を表明し、さらにこの研究の方法論と設計の見事さを絶賛した。New York Timesのアナリストは「保険を拡大することは社会的に見てお金を節約することにはつながらないだろう。予防的医療を提唱している人が主張しているのとは異なる。だが保険は人々を精神的に、肉体的に健康にしているように思われる」と結論している。Harvardで医療政策を教えているJohn McDonoughはこの研究を絶賛しその結果に対して注意を促している人をけなしている。「否定論者はすでに活動を開始して、この研究は加入者の実際の健康状態が改善したかどうか識別するのに失敗したと主張している」と彼は記した。「その手の結果(ここでは、実際の健康状態の改善のこと)は来年出るに決まっているのに」と続けた。

今がまさにその時だ。だが私たちはその手の結果を見ることはなかった。彼らたちが必要だと言っていたまさにその厳密さで。客観的な健康状態の指標は確かに少しの改善を見せた。だが有意ではなかった。メディケイドが因果だと言うにはとてもではないが十分ではなかった。何もなかったと言っているのではない。潜在的には興味深くさえある。だがそれは決定的な証拠からはかけ離れているし、メディケイドが客観的な健康状態に観察できる違いを生み出すことが出来るのかと疑いを抱く強い理由にさえなる。

左派の一部はまだ勝利を主張しているが、少し考えただけでも彼らの主張が危機に陥っていることが分かる。

メディケイドのようなプログラムの主な目的が金銭的負担から個人を保護することだと言うのであれば、どうして遥かに遥かに安いcatastrophic insurance program(重大な事故や病気に対する保険)を支持しないのか?所得の低い人が本当に欲しているものが金銭的保護だと言うのであれば、どうして単に現金を渡さないのか?

うつ病が減少したという結果は奇妙なものだ。うつ病の治療薬の使用が増加していないのもその一因だ。うつ病の減少という結果は今回オレゴン州のメディケイドに加入することになった人が抽選で選ばれたという事実にかなりの部分起因するものかもしれない。私たちも知っているように、抽選に選ばれたら嬉しいと感じるものだろう?

サンプルサイズが小さくて客観的指標が改善していたとしても有意かどうか検出できないという主張に対しては、百歩譲って改善がメディケイドのおかげだと仮定しても、それはメディケイドの膨大な費用に見合うものだろうか?現在、メディケイドは連邦政府だけで毎年25兆円の費用が掛かっている。その数字は次の10年で57兆円を超える見通しだ。それには各州の費用が含まれていない。その費用に対して、受給者が健康になったかどうかは良くても極めて不明だ。

私は、今ではリベラル派の医療政策コミュニティにも反省を促している人がいるのを見て希望を持っている。この研究の結果を踏まえれば、それが正しい姿勢だ。だが、その人たちには最初からそうして欲しかったと思う。そして彼らにはこれからは自分たちの考えに対して懐疑的な姿勢を取って欲しいと願う。オレゴン州の第二ラウンドの結果は、メディケイドが幾つかの指標に改善をもたらしたかもしれないという可能性を完全には排除していないということを示唆している。今回は有意ではないけれども一応は改善を示した指標もあったということで左派はそのことだけを強調した。だがさらなる研究は改善がないこと、今回の改善も単なる統計上のノイズでしかないことを容易に示しうる。言い換えると、科学はメディケイドが有効だとも無効だとも本当には証明していない。だが客観的な肉体の健康状態の指標に対して、メディケイドを通して保険に加入した人は保険に加入していない人と比較して大した違いがないかもしれないということを強く示唆している。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート5

No, Really, It's Possible That Health Insurance May Not Make Us Healthier

MEGAN MCARDLE

先週のオレゴン州の研究の記事をもう一つ書くタイミングが訪れたようだ。

今日は暖かい小春日和で、貴重な休暇を有意義に使いたいと思っているのは分かっている。だが今回も付き合って欲しい。何故ならば、この議論は医療政策において文字通り最も重要なものだからだ。オレゴンの研究が正しいならば、それは医療政策における私たちの考えを大きく変えるだろう。

すでに左派があなたに嘘を吹き込んだとは思われるが、この研究は奇妙で何事も意味しないような無価値な単発の研究などではない。医療保険が健康状態に与える影響は驚くほど小さいことを示した研究は他にもある。Levy and Meltzerのこの分野の文献の2008以降のレビューを紹介しよう。彼らは、結果がどれ位入り乱れているかを指摘している。

「医療保険は健康に影響を与えるのか?この分野の文献をレビューして、私たちは3つの結論に辿り着いた。第一に、保険と健康との間に正の因果関係を見つけたと主張している研究のすべてが少しも説得的ではない。観察された相関関係は他の、未観察の要因によるものかもしれないからだ。第二に、保険が一部の人々に影響を与えると主張しているものは先程のものよりは少し説得力がある。第三に、政策の目的としてはそれらの研究の結果が一般化出来るものなのかどうかを知る必要がある。社会実験に多くの資源が投入されればこれらの疑問への答えが明らかになるだろう」。

ここに、彼らがレビューした研究の一覧表がある。

これは、その1年後の2009にKronickによって書かれたものだ。保険と死亡率の関係を調べたものの中で、これまでで最大規模のものだ。彼の結論は、

「人口統計学上の違い、健康状態、健康に関わる生活習慣などを調整すると、保険に加入していない人と民間の保険に加入している人との死亡リスクに有意な違いはなかった(保険に加入していない人のハザード率は1.03で、95%信頼区間は0.95から1.12だった)。制御変数から健康状態を表す変数を取り除くと、ハザード率は1.10へと上昇した(95%信頼区間は1.03から1.19)。喫煙の変数とBMIを制御変数から取り除くと、ハザード率は1.20へと上昇した(95%信頼区間は1.15から1.24)。防ぐことが可能な死亡原因に分析を限定した時には(自殺などを除くという意味)保険の有無と死亡率に有意な違いはなかった。調査のフォローアップ期間を短くした時にも(長期間保険に加入している人と長期間保険に加入していない人とが比べられる確率が上昇する)、人々が65歳以上になってメディケアに加入した後でも死亡率に違いと変化はなかった」。

保険が人々を健康にしているという証拠が一つもないというのではない。幾つかの研究はそれを示している。例えば、メディケイドを拡大させた3つの州を調べた研究は死亡率との関わりを示唆している(それにも大きく疑問が付けられている)。だが証拠は入り乱れている、とても入り乱れている。保険が健康(ここでは死亡率の意味)に大きな影響を与えるとの極端に強い考えは「Reality Based Community」によって支えられていると私は言うだろう。事実、研究が大規模になればなるほど調整が適切になされればなされるほど保険の影響は消滅していくとさえ言えるだろう。

保険が健康に与える影響がまったくのゼロとは直感的には信じ難い。だがこれまでの証拠はその影響は極めて小さいと示唆しているように思われる。保険と健康との関連がリベラル派が言うようにそれほど強くて明白なのであれば、質の高い研究であればあるほどしかも数多くあるそれらすべてがほんのわずかな影響またはまったく何の影響も示さないのは何故だろうか?

このように私は考えているので、オレゴンの研究に対して寄せられた左派からの反応の幾つかを正そうと思う。まず始めは、Brian Beutlerからのものだ。

「保険に加入していない人が2000人、そのうちの1000人がメディケイドに加入を許され残りの1000人がそのままであることを求められた1年掛かりの研究のことを想像してみよう。1年後に、メディケイドは最初の1000人に金銭的負担の低下とうつ病の減少という恩恵を与えたことをデータは示唆した。だが心臓病には無視できるほどの影響しか示さなかった」

「総体的なデータからは明らかではないものの、各グループから選んだ一人の男性が胸の痛みを感じ始めたと仮定する。数日後に、メディケイドに加入していたその男性は病院に行き治療を受けた。彼は助かった。対照的に、メディケイドに加入していなかった男性は大きな胸の痛みに苦しむまでは何もせず病院へ向かう救急車の中で亡くなったと仮定する」

「言い換えると、私の設定では保険に加入していないことによって一人の男性の命が失われたということは起こり得る。その研究では集団全体的な心臓病の改善が見られなかったにも関わらずだ。同様に現実の世界では、オレゴンの研究は超過に死亡しているかどうかの問題に答えられるように設計されていない。保険と死亡率の関係を調べた研究が集団全体の健康状態の指標への影響を調べるように設計されていないように」

「だがもちろん、多くの現実世界での研究は保険に加入していないことを毎年何万人もの死亡と結びつけている。それはアメリカで保険に加入していない人のほんのわずかの割合でしかない。だが私は、メディケイドを最も声高に批判する人であっても毎年1万人または2万人の防ぐことが出来る死亡を取るに足りない人数といって切って捨てるかと云われれば疑っている」

「だから、彼らは頭を砂の中に押し入れた。オレゴンの研究が結論の分かれた他の研究全体を決定的に打ち砕いたと扱った」。

すでに見ているように、「多くの現実世界の研究」はそのようなもの(彼が主張しているようなこと)を示していない。オレゴンの研究がその手の「超過の死亡」を取り扱うように設計されていないというのもまったくもって事実ではない。

例えば、胸の痛みを感じた時にERに行かないという彼の例えを取り上げてみよう。緊急救命室の使用率はこの研究で実際には調べられている。彼らはERへの訪問または病院への入院にメディケイド加入者と保険に加入していない人との間に統計的に有意な差がないことを発見した。

他の点でも間違えている。彼らは、実際に死亡率を調べている。それらの結果は2011に公開された第一ラウンドの結果発表時に示された。彼らは2つのグループの間に統計的に有意な死亡率の差がないことを発見した。

サンプルサイズが小さくて死亡率の違いを拾えなかったのだと主張することは可能だ。Kevin Drumは実際、そのように主張している。

「彼らがまず第一にしておかなければならなかったことは、そもそもその研究を始める以前に、臨床的に有意な結果とはどれ位かを調べておくことだ。例えば、過去の経験からすると、メディケイドの加入によって糖化ヘモグロビンが正常値を超えている人の割合が20%削減されたとすれば彼らはそれを成功だと判断するだろう」

「それから、彼らはステップ2に移るだろう。彼らは臨床的に有意な削減を目にするだろうか?臨床的に有意な結果が統計的にも有意なように彼らの研究は設計されているだろうか?明らかなことに、そうなっていなければならない」

「ここで算数をしよう。オレゴンの研究では、コントロール群の5.1%が糖化ヘモグロビン値が正常値を上回っていた。治験群の方を見てみよう。メディケイドを提供された人は6000人いた。そのうちの1500人が実際にサインした。そのうちの5.1%が正常値を上回っていたとしたら、それは80人ぐらいの人になる。20%の削減であれば16人だ」

「ではここに質問がある。彼らが予想していた結果を見つけることとなった暁には(16人の削減)、この結果が統計的に有意である可能性はあるのか?もっとデータにアクセスしてみなければ確かなことは言えない。だがその答えはほぼ確実にノーだ。その数字は単に小さすぎる。他の指標に関しても同様だ。言い換えると、例え彼らが望んでいた結果を得たとしてもそれらが統計的に有意になることは確実にない。それらが統計的に有意でなければ、見出しの結果は「影響がなかった」を意味する」

「問題は、この結果が生み出される前にゲームはすでに始まっていることにある。それは、彼らのせいではない。彼らはオレゴン州の抽選を調べた。彼らには抽選の規模を変えることは出来なかった。その結果、残ったのが1500人の人たちだ。糖化ヘモグロビン値が正常値を上回っていたのはそのうちの5.1%だ。それを変えることは出来ない」

「ここまでのことを踏まえると、彼らは結果を公表すべきでさえなかった。検出力が低すぎてどのような妥当な条件下においても統計的に有意な結果を示すことは出来なかったと単に報告すべきだった。だが彼らはそのような行動を取らなかった。彼らは結果を公表して解釈はプレスに任せた」。

私は、幾つもの理由からこのような批判をオバマケアのサポーターがするべきではないと思う。

そもそもの話として、補論を読めば、彼らが細心の注意を払って検定力のことを考えているのが明らかだ。彼らは、65歳間近のように測ろうとしている問題に関して大きな変化が予想できるサブグループを予め幾つも指定していた。それらのサブグループにも有意な影響は見られなかった。

第二に、高血圧などの割合は低くない。彼は糖化ヘモグロビン値(血糖値の代理)だけを選んで、正常値を上回ったのが5%だけであれば大きな改善を見つけることは出来ないと主張した。

そう言う割りには、医療費の支払いは有意に減少している。偶然にも、これも支払いがあったのはコントロール群の5%だ。だというのに、オレゴンの糖尿病のサンプルが小さすぎると言う人は医療費の支払いのサンプルは小さすぎるとは考えないようだ。彼の発言から引用する。

「メディケイドは医療費の自己負担をほとんど削減した。これはメディケイドに加入していない人たちは治療を主に緊急救命室で受けたことを示唆する。健康状態を改善させなかったとしてもメディケイドはこの部分において改善を確実に示した」。

どうして医療費の支払いを見ている時には5%が大きな数字で、糖尿病を見ている時には5%は小さすぎる数字だというのか?医療費の支払いの減少はそこそこに大きくて、糖尿病の減少はまったくと言っていいほどなかったからに他ならない。

もし肉体上の健康の指標に同様の影響を検出することを期待することが彼らにとってそれほどまでに不合理であると言うのならば、文字通り専門家の誰一人がこれがこの研究の結果だと予想していなかったのか?私は、多くの面においてオバマケアの設計者である、Jonathan Gruberのようなアカデミックの人間のことについて話している。彼もこの研究に参加しているし結果を「大変失望した」と言っている。Austin Frakt and Aaron Carrollは言うに及ばない。金銭的負担が改善した以外は見るべきものは何もないとはっきり言っていた二人だ。2011には、この研究は保険と健康状態との関係を証明するだろうと彼らは自信満々に断言していた。

今では、彼らがこの研究を検出力が弱いと宣言することに用いているそれらの情報(この研究の規模、18歳から65歳の間の人の高血圧の頻度など)はもちろんその時にもきちんと公開されていた。その時にはどうして彼らは、保険が健康を改善するという考えをこの研究が証明してくれるだろうと考えていたのか?それは高血圧、コレステロール値、血糖値の改善が大きなものだろうと彼らが考えていたからに他ならない。そして、結果は彼らの予想したものではなかった。それが大きなニュースだ。

ここには見るべきものが何もないと主張している人たちは、以下の3つに分類できる。

1. 「保険に加入していない人たちの中に病気の人がほとんどいなかった」

2. 「慢性疾患病は保険に加入している人たちに対してでさえも一般的にあまり良くコントロール出来ない」

3. 「メディケイドに加入した人の多くはそれでも病院に行くのを嫌がっている」

これらがどうしてオレゴンの研究に対する反論になるのか私には分からない。

もちろん、あまりにも性急に結論を出すべきではない。オレゴンの研究は高血圧、コレステロール値、血糖値などしか調べていない。だがそれを小さく見積もるのは誤りだ。ここに、アメリカ人の主な死亡原因をまとめている。

これらは主に3つに分類できる。

慢性疾患病関連としては、心臓関連、脳血管関連、糖尿病関連のもの。

すでに政府の保険に加入している高齢者や児童が罹りやすい病気。腎臓病(透析を政府が保証している)や非感染性の肺の病気、アルツハイマー。

保険によって改善するかもしれないが、測っていないもの。事故やがん。

直接には測られていないものの、事故死は死亡率の即時の改善として表れるべきだと強く主張したい。そのようなことがあれば、外傷治療と病院への入院を通して改善が表れるはずだろう。それらの指標が有意であれば、1年目の結果に死亡率(死亡者数)の大幅な改善として私たちは目にするはずだろう。ところが、そうではない。

保険ががんに与える影響は分かりにくい。一見すると、大きな改善が期待できるように思える。早期の発見が効果的で治療が高額な場合があるからだ。

一方で、高血圧症や心臓病などの治療を私たちは得意にしているもののがんの治療はまだそこまでではない。がんと診断された人の30%から40%の人は治療をしても5年以内に亡くなっている。そして診断の平均年齢は60歳代なので、ほとんどの人がすでにメディケアによってカバーされている。

しかも来年から良いテストが始まる。もし大勢の人を保険に加入させることによってがんで死亡するリスクが大幅に低下するのであれば、それは死亡者数統計に目に見える不連続となって表れるはずだ。私が間違っていることを願おう。そしてオバマケアががんとの戦いや死亡者数統計において記念碑となることを願っている。そして、Frakt and Carroll, Beutler and Drumらが改善がどれ位と期待しているのかを非常に興味を持って見守っている。

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート4

散文的な文章なので読みにくいと思う人もいるかもしれないが…

Study: Giving People Government Health Insurance May Not Make them Any Healthier

Megan McArdle

One of the most important health insurance studies ever done shows surprisingly little effect

衝撃的なニュースがオレゴン州から飛び込んできた。(医療保険に加入していなかった人が)メディケイドに加入した時に何が起こるのかを調べた大規模な無作為化比較対照試験はメディケイドの加入が健康状態を表す指標を何ら改善させなかったことを示した。病院の利用率は増加した、自己負担額は減少した、うつ病と診断された人の割合は低下した。だが健康状態を計る上での3つの重要な指標、糖化ヘモグロビン値、血糖値レベル、血圧値とコレステロールレベルは統計的に有意な改善を示していなかった。

退屈に聞こえるのはよく分かっています。糖化ヘモグロビン値!チャーリー・ブラウンに出てくる大人が大きなあくびをして、さあ寝ようと言っているシーンが思い浮かんだのではないですか?

だが医療政策に関心を持っているのであればこれはとんでもないニュースだ。それもオバマケアという国家的な規模の人体実験が行われようとしていることを思えば尚更だ。

私がこれまでに会ったニュースレポーターたちはこの結果がもたらすすさまじい意味を最小化しようと努めているようだ。

「研究: メディケイド、金銭的負担を低下させる。すぐには肉体的健康を改善させない」とWashington Postは伝えた。

Associated Pressの見出しは、「研究: 保険非加入者のうつ病率がメディケイドの加入によって減少した」だった。

New York Timesは、「メディケイドの拡大がヘルスケアの使用を増加させた」と伝えた。

Slateは、ほんの少しだけ内容をきちんと報道しようとしていたと思う。あくまでもSlate流にではあるが。「オバマケアにとって悪いニュース: 公的皆保険は人々を(ほんの少しだけ)幸福にさせるけれども健康にはしないことを最新の研究が示した」。

この研究は本当に本当に重大なものだ。理由を説明したい。

私たちは、人々に安い価格で医療にアクセスさせることによって彼らを健康に出来ると考えていた。深く考えたこともない、そうでしょう?そうでなければ、私たちはどうして毎月PPO(マネジドケアにとって代わってかなり前から台頭している新しいタイプの医療保険。何故か日本では未だにアメリカではHMOが主流であるかのように嘘を流し続ける人がいる)に保険料を支払おうかどうかで迷う必要があるのか?

だが、そんな気がするといったようなものは、実際に知っているということと同じではない。

2011までは、医療保険に関する無作為化試験はたったの一つしかなかった。医療保険に関するほとんどの研究はパネル研究だった。国勢調査のように、またはNational Health and Nutrition Examination Surveyのように、同一の人から何年間かのデータを集める。初年度から始めて人々を幾つかの集団に分ける。保険に加入している人、そうでない人など。それから時間の経過によって何が起こるかを調べる。このやり方には、もちろん重大な問題がある。その一つは、保険に加入していなかった人はそのままの状態でいるという訳ではないということだ。それらの人にとって、保険に加入していないのは数ヶ月間でしかない。その上、それらの調査は保険が健康に与える影響を調べるのに適したすべてのデータを備えているという訳でもない。だから、それらの研究は死亡率に焦点を絞る傾向があった。ほとんどすべての調査がデータを集めているし曖昧な所が極めて少ないからだ。私たちは「死亡」という単語の意味にほとんど全員が賛同するだろう。そして、死亡というのは非常に悪いことだからだ。

あなたがたの多くは、保険に加入していない人が毎年1万8000人(それが原因で)死亡しているというニュースを聞いたことが多分あるだろう。その数字は2万7000人と聞いたかもしれないが。それらの数字はInstitute of Medicine(後には、Urban Instituteがアップデートするようになった)という機関が流している。その手の研究を元にしてだ。

それらの研究の最大の問題点は、保険に加入している人とそうでない人とでは属性が異なるということだ。

それらの属性の違いとして私たちが知っているうちの幾つかには所得の違い、結婚しているかどうか、移民であるかどうかなどなどが挙げられる。所得が低いことや所得が低い国からの移民などはすべて死亡率と相関するものでもある。

それから、私たちが知らない、ほとんどの統計には現れない属性の違いがある。例えば、欲望の制御に違いがあるかもしれない。離婚をしたり、刑務所に入ったことがあるなどの理由で平均的な市民よりも保険の加入から外れる傾向があるかもしれない。平均的な市民よりもシートベルトをしない傾向、お酒を飲んでヘルメットをしないでバイクに乗る傾向、スナック菓子や炭酸飲料だけで生活している傾向が高いかもしれない。最後には、その人がそのハーレー・ダビットソンで木に衝突した時には、その人の死亡は保険に加入していない人の死亡率を引き上げるだろう。保険の有無とはほとんど関係がないにも関わらずだ。これは社会科学者が「除外変数バイアス」と呼んでいる問題で、医療保険に関する研究のほとんどすべてを駄目にしている問題だ。

問題の一端を少し紹介したいと思う。パネル研究は、メディケアやメディケイドが人を殺すと結構な頻度で示している。私は冗談を言っているのではない。それらの研究の幾つかのものによると、メディケアやメディケイドに加入している人の死亡率は保険にまったく加入していない人よりも高い。年齢や喫煙などを調整した後でさえもだ。

分かった。メディケイドが実際に人を殺しているというストーリーを創作することも出来るだろう。悪い医者だけがメディケイドの患者を診て、悪い医者に掛かることは医者に掛からないことよりもずっと悪いといった具合に。だが現実的には、そのような事例がどれぐらいあるだろうか?その研究の筆者たちは、メディケイドに加入している人々は所得が低い傾向が高く、薬物中毒の問題を抱えている傾向があり、そして死亡率を高める他のすべての要因を抱えている傾向があると(説得的に!)説明している。だから、あなたが目にしているものは実際はメディケイドに加入していることの影響ではなくて、メディケイドに加入する人の影響を受けているということだ。

その問題は、保険に加入していない人のデータを歪めているものと同じだ。

一方で、幾つかの観察研究は医療保険にわずかの効用も見出していない。例えば、メディケアが設立された前と後の高齢者を調べたある研究は、65歳以上の高齢者全体が保険に加入したというのに死亡率に少しの改善も見られなかったことを示した。そして、観察研究の中でも最大のもの、60万人以上を対象にした研究は、保険に加入しても死亡率に違いがなかったことを示した。これは、保守派の手によって行われたものではない。その筆者はサンディエゴ大学のRichard Kronickで、彼はクリントン政権のアドバイザーだった。

医療保険は命を助けているのか?いないのか?観察研究の結果からは何とも言いにくい。データを見る限りでは、人々を保険に加入させても救われる命はゼロという可能性を排除できない。さらに言えば、オバマケアがネットで見て人を殺すという結果も排除できない(私はオバマケアが人を殺すだろうと言っているのではない。その可能性が幾つかの基礎のしっかりした観察研究の結果の範囲内に十分に入っていると言っているに過ぎない)。

上記までのものが、2010にアトランティック誌に私が書いた記事の要約だ。その記事では、「4万4000人の人が保険に加入していないために毎年亡くなっている」というような統計をメディアが絶賛しようが、私たちには何人ぐらいの人が亡くなっているのか、仮に数字がゼロ以上であったとしてさえも、分からないと指摘した。だが今回のオレゴン州の結果は、私にとってさえも驚きだったと告白せざるを得ない。その記事の最後に、保険が何の影響も与えていないとは考え難いと思うと私は書いていた。そのような結果が出るのは検出しにくいからかもしれないとも書いていた。保険の影響は恐らく小さいのだろうと私は考えていた。その記事がオバマケアのサポーターを激怒させてしまったとはいえ、その記事は実際に保険に効用がまったくないかどうかの議論ではなく、この種の研究を行うことの困難さに関して主に書いたつもりだった。

Enter the RCT

理想的には、保険の影響を見るには調査データによるものではなく無作為化試験によるものが望ましい。人々を2つのグループに分けて、一方には保険をもう一方のグループは保険に加入しないままにさせておく。言うまでもなく、これを行うには問題がある。一旦コントロール群に入れた人々をそのままにしておくことは難しいし、彼らのうちのどれぐらいが病気に罹るかを見るためだけに多くの人を保険に加入させるのは非常にお金が掛かる。

私たちにとって幸運なことに、はるか前の1971にランド研究所が先頭になりこれを行った。少なくともそれに近いものだった。彼らは数千世帯の家族を集め5つのグループに分けた。グループ1には完全に無料のヘルスケアが与えられた。グループ2からグループ4には費用負担率が20%から95%まで異なる(グループ4には、掛かった医療費の5%だけが支払われるということを意味する)当時から見ての「伝統的な」保険プランが与えられた。費用負担プランには自己負担額が所得に占める割合に上限も設けられていた。グループ5にはHMOプランが与えられた。その次に、彼らは健康状態にどのような違いが表れてくるかを調べた。

ショッキング。何も表れてこなかった。

そうそう、小さな影響が幾つかあった。低所得層の間で、高血圧がほんの少し改善した。これまた低所得層の間で、歯科治療がほんの少し改善した。視覚も同様だった(ヒント: 安い時には、人は頻繁に眼鏡を取り替える)。だがその他のものでは、何らの違いもなかった。より寛大な保険を与えられた人々はよりヘルスケアを消費した。だが彼らは健康にはならなかった。事実、より寛大ではない保険を与えられた人々は健康を心配しなくなったと答え病欠も少なくなった。

保守派はこの研究をヘルスケア研究の「ゴールドスタンダード」と呼ぶことを好んだ。リベラル派はこれを嫌った。彼らはそれはたった一つの研究にすぎないと主張した。その研究は、1971から1982とかなり昔に行われたものでもあった。医療システムが現在とはかなり異なるかもしれない時代だ。そして、保険に加入していない人と保険の影響を比較したものでは厳密にはなかった。それは、ベーシックな保険の影響とより寛大な保険の影響とを比較したものだった。これらの批判は、(現在のリベラル派とは完全に異なり)まったく妥当な批判だ(ただし、だからといってランドの研究の正当性を損なわせるものではまったくない)。

オレゴン州の研究の話に戻ろう。

2008に、オレゴン州は自然実験の完全なる機会を提供してくれた。彼らは1万人を新たにメディケイドに加入させようとしていた矢先だった。不幸なことに、希望者はその人数よりも多かった。だから彼らは抽選を行った。

ヘルスケアの専門家たちは一番かわいいボンネット帽と一番のシルクのエプロンを持って、「Oh frabjous day! Calloo!  Callay! An actual RCT!」と歌いながらメイポールの周りを回りながら踊り始めた。それから、非常に賢い人達がその周りに集まり始めて、この大規模で豪華な研究のための参加者を集め始めた。最終的には、抽選に選ばれた1万人の中から6400人がサインをし、参加はしたが抽選に選ばれなかった5800人がコントロール群となった。アメリカは次の質問の答えを本当に試す初めての大規模な国家的実験の機会を得た。人々をメディケイドに加入させると、どのぐらい健康状態は改善されるのか?

2011に、研究者たちは参加者たちの初年度の結果を発表した。その時に私が書いたように、その結果はロールシャッハ・テストのようだった(心理学のテスト。ここでは見る人によって結果が変わるようなの意味で用いられている)。オバマケアを支持していた人たちは、それをメディケイドが命を救っている証拠として解釈した。私はそれを複雑な気持ちで見ていた。

「その結果は…私の考えを非常によく確認したものに思えた。推奨されていた幾つかの予防的スクリーニングを含めて、ヘルスケアの使用量は増加した。金銭的負担は低下した。自己申告された指標は改善した。他の結果はより不明瞭だった」

「例えば、彼らが発見した最も大きな影響は自己申告された健康状態の指標だった。有意とはいえ、とてもわずかなものだった。うつ病は減少した。抽選に選ばれた人は自分たちの健康状態が良い、非常に良い、素晴らしく良いと答える傾向が少し高くなっていたが。これは、より医者に掛かるようになった人は医者が患者に不安になるようなことを言うため健康状態が損なわれたように感じるという理論を否定しているように見える。だがFinkelstein et. alが指摘しているように、彼らが実際に健康になったということをまったくもって示していない。実際、自己申告された健康状態の改善の3分の2は抽選に選ばれて即時に、人々が治療を受ける前に発生している。このことは、この影響が肉体的健康状態の改善ではなく心理的なものであることを示唆している。筆者たちが言っているように、「全体として、この証拠は保険によって健康状態が改善したように感じるということを示唆している。だが現在のデータでは、この改善が本当には何によってもたらされたのかを判断することは難しい」ということだと思う」

「一方で、使用量の増加ははっきりしたものであるが「質の」指標はというと明らかに結果が悪い」

[第一に、私たちは7つの代表的な症例に対するヘルスケアの使用量の変化を調べた。その7つとは心臓病、糖尿病、感染症、精神障害、アルコールと薬物中毒、背中または腰の問題、肺の炎症全般がある。心臓病に対してのみヘルスケアの使用量が有意に増加していた。私たちは保険が外来治療に与える影響と入院治療の質を示す3つの指標(患者を危険に晒すような有害事象を起こさないこと、退院から30日以内の再入院がないこと、病院の質)に関しても調べた。このどちらの指標においても改善が見られなかったという帰無仮説を棄却することは出来なかった。だが信頼区間も極めて広かったため、定量的に大きな効果があるという可能性も排除できない。最後に、保険の有無が患者が公立病院に向かうか市立病院に向かうかに影響を与えるかも調べたがそこでも統計的に有意な違いは得られなかった]

「死亡率が低下したかどうかに関して、経済学者は「メディケイドが、実際に命を救っていることが確認された」と声を大にして叫んでいたが、その筆者たちはそのようなものを発見していなかった。私は「パネルAは生存確率に何らの統計的に有意な改善を見いだせなかったことを示している」とはっきり書かれている部分を引用した。死亡率とそれに関連する平均寿命などの指標は測るのが簡単な部類の指標だ。誰が死んでいるか、ということに関してはほぼ全員が同意するだろうし、死亡というものはとても悪いものだ。プログラムの推進者にとって、感情的に最も訴えやすいものでもある」

「だが、死亡は65歳以下ではほとんどない。よってメディケイドが死亡率に大きな影響を与えない限り、1年間の研究では表れないのかもしれない」(ここで、前の記事からの引用終わり)。

問題は、1年目の結果では客観的な健康状態の指標(心筋梗塞や、脳卒中、四肢の切断のような)を見ることが出来なかったことだ。彼らは死亡率を調べたが、有意な影響はなかった。従って、この結果を報道した大部分のメディアは「メディケイドが健康状態を改善した」と伝えていたが、その研究が本当に言っていたこととは人々が健康になったと感じたと自己申告した(主観的な指標)ということだ。客観的な指標の方は2年目に行われることになっていた。それが、もう過ぎてしまったが今年の夏頃に公開される予定になっていた。だがオバマケアのサポーターは客観的な指標の方も良いに決まっていると頭から決め付けていた。健康になっていないのならばどうして人々は健康になったと感じたと語ったのか?

The Data Speaks

悲しいことに、何らかの理由により2年目の結果は公表が延期された。それは本当に残念なことだ。先程の11月に投票を行った多くの有権者、オバマケアの一部であるメディケイドの拡大をするかしないかこの春に迷っていた多くの州知事たちはこのデータを早く見たかっただろうからだ。

ここに、その結果がある。

「私たちはメディケイドの拡大が高血圧または高コレステロール値の発症率または診断率、またはそれらの症例を治療する薬の使用量に何らの有意な影響を与えていないことを発見した。メディケイドの拡大は糖尿病の診断率と糖尿病治療薬の使用に有意な正の影響を与えた。だが糖化ヘモグロビン値には統計的に有意な影響は見られなかった。メディケイドの拡大はうつ病と診断される割合を低下させた(-9.15%ポイント、95%信頼区間は-16.70%ポイントから-1.60%ポイント、P値は0.02)。予防的サービスの使用を増加させた(スクリーニング検査)。そして金銭的負担を低下させた」。

どの客観的な指標も有意な改善を示さなかった。高血圧も。糖化ヘモグロビン値も。コレステロール値も。一方で、うつ病の診断率は確かに低下した。だがこの結果ははっきり言って奇妙だ。先程した説明に加えて、抗鬱剤の有意な使用の増加が伴っていないというのもある。従って、メディケイドがうつ病に本当に影響を与えたのかは定かではない。私は、うつ病が大きな問題ではないとか、これは大きな影響には見えないとか言っているのではない。これが何を意味しているのかはっきりしないと言っている。メディケイドを拡大させるとうつ病が減少するということを知っても何か意味はあるだろうか?

政策に対するインプリケーションもはっきりしない。うつ病を治療したいのであれば、メディケイドはそのために設計されたものではないだろう。

コレステロール値と血圧値に戻ると、これらこそがメディケイドが対象にしていると想定されていたものだ。それに関してはこの研究は何と言っているのか?メディケイド、もっと言えば医療保険全般が役に立たないと言っているのか?

それはさておき、Slateがこれがオバマケアにとって悪いニュースだと言ったのは正しい。覚えているかもしれないが、保険の拡大の半分以上はメディケイドを通して行われることになっている。

最近では、オバマケアのサポーターが過去にしていた発言を歴史修正主義的に改変しようとするのが流行になっている。私たちが最初から知っていたように、オバマケアは「医療費の増加率を低下させる」ためのものでもなければ、保険料を低下させるためでもなく、財政赤字を削減させるためのものでもなければ、そしてさらに今ではこれに肉体的な健康状態を改善させるためのものでもないというのが追加されたようだ。実際、多分私たちが最初からオバマケアに期待していたものとは軽度のうつ病を治療するための100兆円のプログラムだったというように改変させられるのだろう。

よろしい、それは私が記憶していたこととは異なる。私が覚えている所によると、オバマケアは何万人もの命を毎年救うためのものだとリベラル派は言っていた。この研究を見た後では(見る前でも)その数字を信じることは到底不可能になった。

目を血眼にしてデータを凝視してみれば、ええ、多分、影響は有意ではなくてもほんの少しは改善がある所が見つかるかもしれない!そのような海の中から針を見つけ出そうとするような作業をリベラル派は現在行っている。だがもしそのような作業で、メディケイドの加入者の健康状態が有意ではなくても逆に悪くなっているのを見つけてしまったならば、目を血眼にして探している我らがリベラル派諸氏がそれら小さな影響が有意ではなかったのは検出力が低かったからだ!と大いに宣伝してくれるかは甚だ疑問だ。

1万2000人以上が参加した無作為化試験を行い、それに対して自分の持論の擁護がその研究は多分十分な検出力を持っていなかったのだろうといったようなものであれば、その人が実際に言っていることとは「有益な効果は恐らく極めて小さいのだろう」と言っているのと同じことになる。注意しておかなければならないのは、私たちはLipitorやCaduet、Avandiaのように高コレステロール値、高血圧、糖尿病などの治療に用いられる新薬のフェーズ3に匹敵するサイズの研究に関して話しているということだ。もちろん公平に言って、それらの新薬の治験は対象とする病気の人だけに行われる。だから、より検出力は高いかもしれない。だがこれも公平に言って、それらの治験の参加者は1万2000人よりも遥かに少なくそれでも統計的有意差を確立することが出来ている。

そして、この研究の筆頭研究者であるKatherine Baickerが2011に述べているように、「サインした人々はかなり病気がちだった」とされている。それにも関わらず、この研究は最も代表的な慢性疾患に関連する3つの指標に改善が見られなかったと結論している。これらは、私たちが治療するのを非常に得意としているもので、そして直接的かつ有益な影響を健康に与えると強く考えているものでもある。

高血圧症の治療薬やインシュリン濃度/血糖値の測定などは抗生物質の発見には及ばないかもしれない。だがそれらは20世紀の医療のトップ5には入るだろう。私が見た推計によると、高血圧症の抑制は脳卒中からの死亡率を半分に低下させ心臓発作からの死亡率を3分の1に低下させた。これらの治療は簡単で、低コストで、労力も少なく、副作用も極めて小さい。最も難しい部分は患者に薬を飲ませることだったりする。高血圧は心臓に重大な症状が現れるまでは痛みを伴う自覚症状が見られないからだ。

スタチンの副作用はそれよりは大きい。それに糖尿病の治療はより困難を伴う。だがそれでも、以前には保険に加入していなかった6400人を治療した研究であれば十分な検出力があると見做していいと思う。

他の見方としては、「治療が必要な人数」から考える方法もある。ある悪い結果を避けるためにはどれぐらいの人が治療されている必要があるのか?私が今までに見た推計によると、5年の期間内で一人の脳卒中を防ぐためには29人の重度の高血圧が治療される必要がある。そして高血圧が重度のものでなければその数字は118人になる。オレゴンの研究によると、コントロール群と比較して(保険に加入していない人)血圧が正常値に戻った人は追加で85人多かった。従って、6400人をメディケイドに加入させることにより5年の期間内で多くて3人の脳卒中を防いだかもしれないことになる。もしくはゼロ人だ。

Josh Barroがツイッターで指摘しているように、メディケイド加入者の血圧値の平均は0.81ポイントしか低下していなかった。これはその85人の血圧値がすべて非常に大きく低下したということを示していないだろう。数人だけが大きく低下させたか、閾値を少しだけ下回った人がまあまあの人数いたかどちらかだろう。血圧値を例えば、111から109に低下させることは脳卒中のリスクを劇的に低下させるものではないという意味で私は話している。だが定義上は、「血圧が高い」から「正常な範囲内にある」というカテゴリーに移るだろう。

だがそれはメディケイドが健康に何の影響も与えないということを意味しない。統計的に有意ではなかったということを意味している。それらは関連しているが、同じではない。実際、3つの指標はすべて改善の方向に一応は向かってはいる。これが単なるランダムなノイズであるという可能性を排除するほどには大きくなかったかもしれないということだ。

だがこの結果の過小評価も避けたいと思う。これらはメディケイドが助けになると期待されていた主な3つの慢性疾患だ。私はツイッター上で、がんや、パーキンソン病、アルツハイマー病などへの効果は見つけるのに恐らくもっと長い時間が掛かるだろうと指摘した。実際、メディケイドの患者の大部分は50歳以下でそれらの病気の症状が表れるのは平均で67歳、60歳、72歳なので、効果を見つけるのに何十年も掛かるだろう。治療の効果を見つけるのにはそれよりもさらに長い時間が掛かるかもしれない。だがそれらの人々はすでにメディケアで治療されているだろうから実際には効果を見つけることは出来ないだろう。彼らと比較するコントロール群は存在しない。

それら研究デザインの問題が解消されたとしてもまだ問題は残る。それらの病気の進行は非常に遅いので、早期の発見を寿命が伸びたと簡単に混同してしまうだろう。もし誰かが85歳までに亡くなる病気に掛かったとして、84歳ではなく72歳でそれが見つかったとすればその病気の「生存確率」は劇的に改善するだろう。だがそのことは実際には、その人の生存を助けた訳ではない。アメリカでがんの生存率が素晴らしく高いと保守派が指摘する時にリベラル派が決まって口にする反論だ。

But What About Non-Health Measures?

最後に、金銭的負担に移ろう。コントロール群の約5%、300人ぐらいが医療費が所得の20%を上回ったと申告している。メディケイドでは1%だった。メディケイドのグループは2万1500円、別の言い方をすれば40%、コントロール群よりも自己負担額が少なかった。

2011に書いたように、この結果はそれほど驚くべきことではないように思える。メディケイドは所得の保護としては機能しているように見える。健康の保護として機能しているかは定かではない。「誰かの医療費を他人が支払えばその人の手元にはよりお金が残る」というのは興味深い話題ではないし驚く結果でもない。意味のある結果ではあるしデータが得られたことは喜ばしいことだ。だがほとんどの人は、オバマケアに最も敵対的に反対している人であっても、オレゴン州の研究がその逆の結果を示すとは考えていなかったはずだと思う。正確な数字が得られたというだけのことだ。

本当に興味深いのは、むしろこっちだ。コントロール群は極めて頻繁に何の問題もなくヘルスケアにアクセスしている。セイフティ・ネットがなかったとしてもだ。

「この研究は検出力が足りない」と言っているのを他の方法で言い換えると「保険に加入している人と保険に加入していない人の差があまりにも小さすぎて1万2000人では検出できない」と言っていることになる。ここから色々な憶測が成り立つ。保険に加入している人は主な慢性疾患の治療をすべてしっかりと受けている。またはメディケイドの患者が受けている治療は彼らにあまり有益に働いていない。

メディケイドがここで見ているよりも大きな影響を与えているとあなたが主張するとしても、保険に加入していない人は驚くほど良好に医療にアクセスしているということも認めなければならない。この研究が対象とした市場では、保険に加入していない人の大多数は(糖尿病患者、高血圧症、コレステロール値の高い人たちの大部分の人たちでさえもが)オレゴン州のメディケイドと同等以上に医療にアクセスしている。主観的な指標は同じではないかもしれないが、だが外部から見れば彼らに違いはほとんど見られない。

これは、Richard Kronickが示したこととも非常に良く一致する。保険に加入していないことによる死亡リスクの上昇は見られないと彼が示した時のものだ(彼自身も驚いたと告白している!)。

ここで尋ねなければならないことがある。メディケイドまたはオバマケアは、精神的な問題を解決するためにデザインされたものだっただろうか?精神科の無料クリニックかまたは現金を手渡した方が良いと思う人の方が多いだろう。

もし2年前にこの研究が有権者の前に知らされていれば、彼らが「はい、これを聞いて1600万人を新たにメディケイドに加入させたくなった。全員に保険の購入を義務付けることも必要になったと感じたね」と答えるようになるとは到底思えない。だが、もちろん2年前にはこの情報は知らされていなかった。その代わりに私たちが毎日のように聞かされていたのは、2000から2006の間に15万人の保険非加入者が亡くなっているというトンデモ情報だけだった。もっと多い人数を耳にしたかもしれない。そこには、この新しい法案を通過させればそれだけの数の人の命が救われるだろうという暗示が掛けられていた。

それが、オバマケアのサポーターたちのこの研究に対する反応が率直に言ってがっかりさせられる理由の一つだ。彼らががっくりと膝を落として、「おお、神よ。公的医療保険はとんでもない過ちでした!」と叫ぶ姿を期待していたからではない。それが、明らかに正しい反応だと私が思っていたとしてもだ。私は彼らと以前に会っていたし、彼らの反応も先程述べたようなものではなかった。

だが現時点で、2つの大規模な無作為化試験がともに驚くほど小さな効果を示している。オレゴン州の研究の最初の結果が2011に公開された時、オバマケアのサポーターはこの結果を予想していなかった。彼らはこの研究の第二フェーズでは、血圧値、血糖値、コレステロール値などの主な健康状態の指標が大きく、有意に改善していることが示されるだろうとはっきりと言っていた。そして結果は見ての通りだ。

ベイジアンであれば、新しいこの情報に基づいてアップデートすべきだろう。この結果を踏まえると、オバマケアがアメリカ人の健康に良い影響を与える確率はどれ位だろうか?私たちの一人残らず、その確率を下方に修正しなければならない。全員がゼロにしなければならないと言っているのではない。以前までは高く設定していたとしても、現在では(大幅に)下げなければならない。

私が読んだコメントのトーンはそのようなものではなかった。金銭面の負担に関する影響が全面的に強調された。それはそれほど驚くべきものでもなければ意味がある結果でもないというのに。うつ病も全面的に強調された。健康面の話はほとんど触れられなかった。

公平に言えば、データは2年間でしかない。私が聞いた話では、この研究はこれ以上続けられないそうだ。オレゴン州は財政難を乗り越えてもっと多くの人をメディケイドに加入させるためのお金を十分に確保したからだそうだ。そのことが残念だと言っているのではない。失われたデータのことが悲しいと言っているだけだ。がんなどの病気に対して有益な効果が表れる可能性はほんの少しはあったかもしれない。そのことはもう分からない。またはもしかしたら、今度の結果は偶然だったのかもしれない。信頼区間には正の影響が含まれる。今回は特に運が悪く、たまたま非常に悪いサンプルに出会わせたのかもしれない。

それでもだ。この結果がすべてだ。この研究は医療保険に関するこれまでに行われた大規模な無作為化試験の2つのうちの1つだ。そして一つ目のものと同様に、今回も有意な影響は見られなかった。これはとてつもないニュースだ。明らかに、良いニュースではない。人々にお金を与えれば健康になるというほど話が単純であれば良かったかもしれない。だが大きいニュースだ。

そして、オバマケアなどより遥かに意義が大きく重要だ。私たちは全員が、医療保険(またはメディケイド)がどれ位健康を改善するかという事前の考えを更新しなければならない。この研究が本当に伝えてくれたこととは、ヘルスケアに関して私たちが知っていたことがどれ程少なかったか、または人々を健康にするということに関して何も知らなかったかということだろう。そして、私たちが最も直感的だと思っていたことでさえ、データによって安々と反証されてしまうのか?ということだろう。