2016年3月19日土曜日

医療保険に加入していないはずのヒスパニック系アメリカ人の平均寿命はヨーロッパ人よりも長い?

La Dolce Vita

John Goodman

ヒスパニック系アメリカ人の平均寿命が非ヒスパニック系白人(アメリカでは過去に(今でも?)ヒスパニック系が「白人」として定義されていた名残からか白人のことを非ヒスパニック系白人と呼んで区別することがある)の平均寿命よりも長いということを知っているだろうか?これを聞いてもピンと来ないという人がいれば以下のことを考えてみて欲しい。ヒスパニック系アメリカ人は白人の3倍以上保険に加入しない率が高い。

これを聞いてもまだ驚かないようならば多分あなたは医療政策論議の錯乱ぶりをあまり知らないのだろう。Centers for Disease Control (CDC)はヒスパニック系(3分の1が医療保険に非加入)の平均寿命が白人(90%以上が医療保険に加入)よりも2.5年長いことを発見した。これはうんざりするほど頻繁に繰り返されてきた主張を粉々にする。要するに、保険に加入していない人は医療を受けられず他の人よりも早く死亡するというものだ。

例えば、Physicians for a National Health Care Program (PNHCP)は保険に加入していないせいで毎年45000人が亡くなっていると面白い主張をしている。その数字、まるで疑問の余地のない事実かのようにオバマやほとんどのメディアで繰り返し流されてきた、はベトナム戦争全期間で戦死した兵士の数とほとんど同じぐらい大きい!

Families USAは保険に加入していないせいでフロリダで毎日6人が亡くなっているという目を見張るような主張を真顔でしている。カリフォルニアでは毎日8人が、ニューヨークでは25人が毎日亡くなっていることになっている。テキサスではアラモ砦の戦いの戦死者よりも多くの人が2ヶ月毎に亡くなっているとレポートは示唆している。全米では保険に加入していない人は12分毎に亡くなっているとレポートは主張している。

この大虐殺を前にして、生き残っている人は果たしているのだろうかと不思議に思うかもしれない。

これらすべての荒唐無稽な話は以前にここで批判されている(前の記事)。だが誤解しないで欲しい。医療経済学の楽しみの一つは経済学の他の分野ではこの種のエンターテイメントを楽しめないことにあるのだから。他をまったく寄せ付けないコメディ的なアミューズメントとしては医療経済学は独特だ。

最近の政府の報告書も大量の国際比較研究を完全に粉々にしている。1000、いやそれ以上のアメリカの医療システムをバッシングする研究(といえる水準のものがあったかは疑問だが)やエッセイ、オピニオン欄を見てみよう(10000以上?思い出せない)。それらはアメリカは他の国よりもより多く医療に支出しているのに平均寿命が短いと主張している。それらの比較はほとんどが保険に加入している人を対象にしていた。彼らがアメリカで最も保険に加入する割合が低い人種のことを知っていれば彼らは誤りを認めて発言を撤回せざるを得なくなるだろう。アメリカのヒスパニックは恐らく他のどの先進国よりも医療に対する支出が少なくそして彼らよりも平均寿命が長い!

アメリカのヒスパニックはドイツは言うに及ばずカナダやイギリス、アイルランド、フィンランド、ベルギーよりも平均寿命が長い。全体で見れば、アメリカのヒスパニックはOECD平均よりも1.5年平均寿命が長い(CDCの研究に合わせるために数字はすべて2006年のものにしている)。

何故そんなにも多くのヒスパニック系の人が保険に加入しないのかは明らかになっていない。だがその現象は所得によっては説明されない。統計局の統計はヒスパニック系はすべての所得階層で他の人種よりも2倍から3倍保険に加入しない割合が高いことを示している。そして所得が高くなるほど保険に加入しない割合も高くなる。

我々がNCPAでFamilies USAがやったのと同じような方法で研究を行ったとしよう。我々は保険に加入していないことが人々の平均寿命を長くする!と主張するだろう。私には記者発表の様子が目に浮かぶように見える。「保険に加入していないお陰で90000人が命を救われた、と研究は示した」。何百億、何千億、何兆年もの生存年が,…のお陰で,,フロリダの通りを歩く12人の人が毎日…,,毎分XXXの人が死ななかった…,,毎秒YYYの人が…,,毎ナノ・セカンド秒ZZZの人が…,,

以下、記事に寄せられたコメント

Larry C. says:

良い記事だ。それに面白い。

Devon Herrick says:

ヒスパニック系アメリカ人の平均寿命が長いのは多くが移民だからだという記事を見たことがある。メキシコ、ラテンアメリカ、南アメリカのスペイン語を話す人々の中で最も健康な人だけが移民するのに十分な体力があるというのだ。だがそれが本当に理由だというのならば何故スペイン人もアメリカ人より平均寿命が長いのか?

Brian Williams. says:

オバマケアには何の意味もなかったということか?

Tom Miller says:

ヒスパニック・パラドックスはかなり前から研究されてきた(初めて命名されたのは1986年だ)。NYTやLATなどのメディアの注目を集め始めたのは2006年だ。この話題がニュースに取り上げられるようになってきているのはアメリカのヒスパニックの寿命に関する定量データが広範に利用可能になってきたこととも関係があるだろう。最初の頃の記事は、医療以外の他の要因を意図的に無視する「医療保険がすべて」教団に大量の土砂降りを浴びせるものだった。だが同様の宗派に属する「医療政策研究者」の反発を甘く見てはいけない。彼らは自分達の教義を守るためにまたは自分達の教義に一致しない事実を説明し直すためにデータをバラバラにしたり動かしたりサイコロを回すかのように操作し始めた。データの意味するところを極めて小さく見せようとしたり基本となるデータに手を加えてみたり、「文化的適応」とか「民族居住地」などの地域の助け合いが「サーモン・バイアス」だとか「健康な移民バイアス」を発生させたり打ち消したりしているなどと好き放題やっている。以下を見よ。

Am J Public Health. 1999 October; 89(10): 1543–1548.
“The Latino mortality paradox: a test of the “salmon bias” and healthy migrant hypotheses.”

American Journal of Public Health 919-925 May 2007, Vol 97, No. 5
“The Latino Paradox in Neighborhood Context: The Case of Asthma and Other Respiratory Conditions”

The Tomas Rivera Policy Institute, August 2007, “Revisiting the Latino Health Paradox”

最近の論文をざっと読んでみたところでもこれからもこの手の論文は出てきそうだ。ところで、合法移民と不法移民の平均寿命に非常に大きな乖離があることを示唆するデータがあるのだがあまり知られていない。アメリカの全体の平均寿命は仮にこの後者の集団を現在の推計から除外していれば長くなるだろうというのは考えられることだ。

Philip Weintraub says:

ジョンへ。

これは君がPPACA(オバマケア)に対して行ってきた議論の中で恐らく最も根拠のないものだ。君が(PPACAに対して)一貫して行っている否定的な議論からは君の記事の読者に対する信じられない程の無神経さや議論になっていることに対するまったくの無視や現大統領の正統性を故意に貶めようとする意図がひしひしと伝わってくる。

君はその研究に賛同する前に、それが疫学調査で示された「healthy worker syndrome」の別種に過ぎないということを考えるべきだ(*かなり異なるものだと思うが)。最も健康な移民がアメリカに旅行するまたは入国する際の障壁を乗り越えることが出来るというわけだ。他の説明としては保険に加入していないヒスパニック系の平均寿命が長いのは彼らが重大な病気にかかった時には本国に一旦返って無料の医療を受けてくるからだ。

Tom says:

フィルへ。

君の一貫して肯定的なコメントからは君のコメントの支持者に対する深い思いやりや医療に関して議論になっていることに対する完全な知識、現大統領を正当化したいとする意図がひしひしと伝わってくる。

この研究に対する他の説明としては保険に加入していないヒスパニック系の平均寿命が長いのは彼らが重大な病気にかかった時には本国に一旦返って無料の医療を受けてくるからだ、その旅の間中、飛び交ってくる弾丸を交わしながらね(メキシコ麻薬戦争の記事へのリンク)。ちょっと待った。それって健康に悪いんじゃないのか?フィル、どうやら君の考えは問題に直面したようだよ。

Frank Timmins says:

フィル、しっかりしてくれ。君が書いたものを僕が読んでしまうとは信じられないよ。君はこの報告書が「健康な労働者」によって歪められていると言いたいのか?それはダーウィンの「自然選択」の新しい解釈だよ。Healthy worker syndromeだって?君はそんな話をカリフォルニアやアリゾナやテキサスの失業保険申請所の誰かから流すように云われてきたのか?不法移民が重大な病気を治療するために一旦本国に戻ると示唆しているのは冗談にしか見えない。君ももしかしたら知っているかもしれないが、アメリカで医療を受けたいという欲求が不法移民がこの国にやって来る理由の一つなんだよ。

Nancy says:

Tom Millerのコメントによるとヒスパニック系と白人との平均寿命の乖離はかなり前から知られていたようだ。どうしてFamilies USAやPhysicians for a National Health Care Programが保険に入っていないせいで大勢の人が亡くなっていると国中で騒ぎまくっていた時にこの点を指摘して誰も止めなかったんだ?

彼らに対するあまりにも明白な反論のように思われる。保険に加入していないことによって大勢の人が亡くなっているというのであれば、どうして最も保険に加入していない集団の平均寿命が最も長いのか?

Linda Gorman says:

場をそれほど白けさせるつもりはないけど、でもどうやって統計局は誰がヒスパニックであるということを突き止めたのか?Smith and Bradshawはこの「パラドックス」が「死因の分類の変化とヒスパニック系であると判断するのに昔はスペイン系の名字を使っていたのを質問形式に切り替えた」頃と一致していると述べている。

テキサスの1980年代(名字形式)と1990年代(質問形式)で、「65歳以上のヒスパニック系の死亡数の変化はこの集団のサイズの変化の半分でしかなかった。15%から20%の死亡が相対的に排除されている可能性を示唆する」と述べている。

Angel et alはメキシコ系移民の死亡率は移民してきた時の年齢によって変化すると述べている。

保険の有無と関連付ける前に、この分野のさらなる議論を楽しみにしよう。

Tom Miller says:

白けた場を温めようというつもりはないけど、生命表の針の上でヒスパニックの天使は何人踊れるかという問題はデータをどのように計算するかやどこからサンプルを取ってくるかに依存している。例えば、2007年の3月のHo, Shih, and SimonらによるAmerican Journal of Public Healthの記事では統計局の質問の問題(部分的に1980年の国勢調査のすぐ後から始まった)を克服しているデータファイルを用いた初期の巨大で全米規模の研究をSmith and Bradshawが見落としていることが指摘されている。そしてそこでもヒスパニック系の死亡率が低かった。そしてMarkides and Coreilによる非常に初期の1986年頃のPublic Health Reportsの記事には南西部のヒスパニック系の健康状態が含まれていたがこれも統計局のデータに依存しているようには思われないしそれにこの当時から既に名字と元来た国との混同に関する注意が記されている。もちろん、医療に関する多くの議論で頻繁に問題になっているのは偽の事実や安直な説明で、まず誰かが生の相関を指摘してくることから始まりそれを因果関係だと早合点しその後から専門家がそれに関する論文を発表し始めるということが繰り返される。その過程においてその問題はより複雑で曖昧で他の交絡要因(年齢や地域、従属変数の選択など)によるものだったりすることが明らかになる場合が多い。だが、完全ではない理論にしても遥かに無茶苦茶な理論が最近ではほとんど無制限に適用されようとしているのを止めるために用いられるのであれば恐らく構わないだろう。

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