2016年3月19日土曜日

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート13

Four Reasons Why The Oregon Medicaid Results Are Even Worse Than They Look

Avik Roy

左派は、証拠をすべて無視してメディケイドの拡大は何万人もの命を救う、それ故それに反対する人は大量殺人の罪にあると長年主張してきた。従って、年間45兆円のプログラムが「肉体的な健康状態に有意な改善を生み出していなかった」ことを示したオレゴンの研究に対する彼らの反応を見るのは愉快でもある。彼らは、少しでも改善されたと思った所があればそれを大きく誇張するのに必死だ。だが現実には、オレゴンの結果は彼らにとってその見た目よりもさらに悪い。以下はその理由だ。

1.抽選に選ばれた40%には署名さえしてもらえなかった。

筆者らによると、「抽選に選ばれた60%だけが応募用紙をきちんと送り返した」とある。抽選に選ばれた3万5169人のうちで、実際にメディケイドに加入したのは10405人だった。大部分が、保険に対する興味の無さとメディケイドの受給資格を結局は満たすことが出来なかったとの理由で。

実際の無作為化試験では、それらの人々も研究のコーホートに含めなければならない。保険に加入していない人と、応募用紙を送り返さなかった人たちも含んだメディケイドを提示された人たち全体とを比較しなければならない。

もし筆者らがそれを行っていれば、その研究のサンプルサイズはもっと大きくなっただろうしメディケイドと保険非加入者との差はもっと小さくなっただろう。

2.メディケイドの効果と宣伝されているものはほとんどプラセボだ。

オレゴンの研究で問題なのは、それが二重盲検化されていないことだ。メディケイドに加入している人は、当然それを知っている。保険に加入していない人も、当然それを知っている。製薬会社には、ほとんどどんな状況においても二重盲検試験が求められる。偽薬ではなく本物の薬を投与されていると知ってしまえば、症状が良くなったと自分で自分を説得してしまうためだ。これはプラセボ効果と呼ばれている。

メディケイドの肉体の健康状態に関する結果を否定するものは軽度うつ病が改善したことだけを宣伝する。対照群と比較して、メディケイドは軽度のうつの陽性と診断される割合を9%低下させた(p値は0.02)と筆者らは語っている。「これは驚異的な発見だ」とオバマケアの事実上の設計者であり、オレゴンの研究の共著者の一人でもあるジョナサン・グルーバーは説明する。「これは精神の健康状態の凄まじい改善だ」。

この研究でうつ病を測っている方法には幾つかの欠陥がある。具体的には以前に説明したのでそちらの方を見て欲しい。ここでは手短に説明する。2011には、筆者らは患者が「自己申告した健康状態」の改善の3分の2は「保険が承認されてからの1ヶ月後」、だが「ヘルスケアの消費量がわずかでも増加する」前に起こっていると述べている。言い換えると、患者は医者に掛かる前、テストを受ける前、処方箋を受け取る前に自分がメディケイドに加入していると知って健康になった気がしたと勘違いをした。

これは典型的なプラセボ効果の例だ。そしてそれを知っている人には「驚異的でも凄まじいものでも」何でもない。

さらに、プラセボ効果はオレゴンの結果が(対照群と比較して)有意な改善を示さなかった血圧値、コレステロール値、糖尿病などの客観的な健康状態にも働く。メディケイドの加入者が自分たちがメディケイドに加入していると知らなかったらそれらの指標はどれだけ悪かったというのだろうか?

3.オレゴン州のメディケイドは他の州のメディケイドよりも条件が良い。

先週に説明したように、オレゴン州のメディケイドの再償還率は全米平均よりも高い。従って、かかりつけ医へのアクセスはオレゴン州のメディケイドの方が他の州よりも良いはずだ。オレゴン州では、メディケイドはかかりつけ医に民間の医療保険が支払う62%を支払う。リベラル派の強いカリフォルニア州では、メディケイドは38%を支払う。同じくリベラル派の強いニューヨーク州とニュージャージー州では、メディケイドは29%を支払う。

従って、オレゴンの結果を他の州に当てはめるのは(特に、メディケイドの再償還率が低い州に)間違いだろう。

否定論者はオバマケアの下では、メディケイドのプライマリーケアへの再償還率は2年間だけ一時的に上昇すると指摘する。だが2年後には、再償還率は元の水準へと戻る。そして、その一時的な上昇も専門医には適用されない。

4.メディケイドは次の10年間だけでも740兆円掛かる。

否定論者のキャプテン、Paul Krugmanはオレゴンの結果を必死に誤魔化そうとしている。「保険が良いものであるならば(そうでないと考えるのはどうかしている)メディケイドは民間の保険よりも安いということを覚えておく必要がある。どこに問題があるというのか?」。

問題はこのプログラムの為に納税者は次の10年間だけでも740兆円を支払わなければならないということにある。加入者の健康に何の違いももたらさないプログラムにどうしてこれだけ巨額の税金を投入しなければならないのかの説明責任はメディケイドの支持者の方にある。

この研究の重要な一つの側面は、Robert Samuelsonが強調しているように、現在のアメリカでは保険に加入していない人が実際は医療サービスを大量に消費していることを証明したことにある。オレゴンの筆者らは、保険に加入していない人が1年間に一人あたりで32万5700円をヘルスケアに消費していることを発見した。そのほとんどは無償で行われている。メディケイドはその支出を11万7200円増加させる。保険に加入していない人の61%は過去12ヶ月間に「必要とする治療をすべて受けた」と答えている。そして保険に加入していない人の78%はこの治療が「質の高いものだった」と答えている。

61%は十分とは言えないかもしれない(この手の統計は100%に近づくことさえないし質問も過去12ヶ月間とかなり曖昧だが)。だがオレゴンの研究では、メディケイドは患者の治療へのアクセスの認識をほんのわずかに改善したに過ぎない。プラセボ効果を考慮に入れればなおさらそうだ。実際、リベラル派の州ではメディケイドは質の高い医療へのアクセスの妨げとなる場合もあるだろう。メディケイドへの支払いは今年45兆円だということをもう述べただろうか?

高血圧(アムロジン)、高コレステロール(アトルバスタチン)、糖尿病(メトフォルミン)、うつ病(シタロプラム)の主な治療薬はすべてジェネリック薬だということを思い出す必要がある。6パックのコカコーラの方が瓶詰めのコレステロール治療薬よりも文字通り高い。それにうつ病を治療するのに740兆円も必要な訳がない。ペットショップで子犬を買う方が1年間のプロザックの購入代金よりも高いだろう。

メディケイドの費用に関して他にも問題がある。CBOはオバマケアによるメディケイドの拡大は一人あたり年間で60万円掛かるだろうと試算している。2010には、オレゴン州は1成人あたり47万円を支出している。だがオレゴンの研究によると、メディケイドは患者の支出を11万7200円増加させているだけだ。では残りのお金は何処に行ったのか?

The cost-effectiveness of public spending is a moral imperative

保守派が責任を負う立場になったら何をするのかというのは、最近になってよく聞かれるようになった。「自分たちの政党がオバマケアの代替案に向かって団結できないのであれば、メディケイドの拡大に反対している共和党の知事や政策当局者がやっていることは妨害以外の他のものではない」とRoss Douthatは記している。

私はそれに強く同意する。それに私はメディケイドの代替案をすでに提案したつもりだ。だが、保守派と共和党員はメディケイドの代替案をもうかなり昔から提案していることを指摘しておくことには意味がある。2000年代に入ってからも、例えばマケイン議員は保険を購入するための50万円の一律の税額控除を提案している。オバマ大統領はそれに反対キャンペーンを行った。

フロリダ州の下院はメディケイドを重大な事故や病気に対する保険と医療貯蓄口座とで置き換えることを提案した。それは、メディケイドを拡大したい勢力からの反対にあって妨害された。インディアナのメディケイドは医療貯蓄口座と高免責額保険プランが選択できるようになったことで人気だった。だがオバマ政権はHealthy Indianaを廃止するように命じた。デモクラット(民主党員)がイデオロギー的に気に入らないというだけの理由でそれに反対したためだ。

保守派は政府のプログラムの拡大に本能的に反対している。彼らは自分たちを進歩主義者と呼ぶ人間たちが政府のプログラムの有効性と効率性にまったく関心を持っていないことを身を持ってよく体験しているためだ。メディケイド信者たちが740兆円に何の問題もないと強硬にうそぶくほど、会話が成立する可能性はゼロになる。

メディケイドが患者の12万5000円の支出のために一人あたり年間60万円を費やして健康に何の改善も見られないことを思えば、保守派がオバマケアのメディケイドの拡大に反対するのは至極当然のようにさえ思えてくる。左派が医療貯蓄口座と重大な事故や病気に対する保険に対して過去40年間のように敵意をむき出しにし続けるのであれば、対案を出さなければいけないのはどう公平に見ても彼らのほうだ。

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