Linda Gorman
誰が誰を殺しているというのだろう?
NYTでPaul Krugmanは先日、このようなことを書いている。
「オバマケアのホラーストーリーとされているものが誤りである一方で、メディケイドを拡大することを拒否した州があるせいで人が亡くなっている事例を見ることができる。最近の一つの研究によると、メディケイドを拡大しないことによって死亡する人の数は毎年7000人から17000人に及ぶそうだ」。
本当に?毎年17000人?この馬鹿げた主張は本物の経済学者によって為されたまともな研究と相矛盾する。医療保険と死亡率の間にほとんど何の関係もないことを示したものだ。以前にもここで紹介したように、
「それぞれ独立した実証研究の中で、Richard Kronick and David Cardとその共著者たちは医療保険が死亡率を低下させるという証拠はほとんど存在しないことを示した。CBOの前責任者June O’Neillとその夫Daveもまた保険の有無は死亡率にわずかまたはまったく影響を与えていないと結論した」。
ではクルーグマンの主張はどこから生じたのか?それは経済学者ではなく、Sam Dickman, David Himmelstein, Danny McCormick and Steffie Woolhandlerらのブログの記事を参考にしている。驚くことに?、彼らはまともな研究であれば行うべきはずのことを当然のように行っていない。この話題を取り扱った他の学者の研究を調べるということだ。
彼らの数字は、保険に加入していない人の数を過大評価していることがよく知られている調査とこれまた方法論に深刻な問題があることが広く知られている論文に依拠している。メディケイドを拡大しなければ年に7115人から17104人が亡くなるという彼らの主張はイデオロギーと学問を混同している。
ソマーズらの論文はメディケイドの拡大によって基準の10万人あたり320人から死亡者数が19.6人減少すると結論している。その論文は2000年代前半にメディケイドを拡大した3つの州(ニューヨーク、メイン、アリゾナ)の死亡者数をメディケイドを拡大しなかった近くにある4つの州(ペンシルバニア、ニューハンプシャー、ネバダ、ニューメキシコ)と比較している。ニューヨーク州がその論文のサンプルの45%を占める。彼らは自分たちの論文の結果が「ほとんどニューヨークの影響」であると記している。
比較の期間は州のメディケイドが拡大される前の5年間と拡大されてからの5年間だ。
ソマーズらが用いたモデルに固有の問題は取り敢えず置いておくとして、彼らの結果は2001年の世界貿易センタービルへの攻撃によって引き起こされた死亡率の急上昇と他の州に比べて極めて高いニューヨーク州のHIVの感染率によって大きく影響されている。
(CDCとニューヨーク州からのデータを用いて)テロ攻撃で亡くなった人を除外すれば拡大した州の2001年の死亡者数は10万人あたり326人から10万人あたり314人へと低下する。これにより図の急増加は消えてなくなる。これにより拡大した州の死亡者数の低下のかなりの部分も消えてなくなる。
拡大した州で死亡率が低下したように見えたのはHIVの感染が非高齢者では死因の第一の原因だったその当時に、ニューヨーク州のHIV感染による死亡率が最も高かったことを反映しているように思われる。HIVの死亡率は1990年代後半に極めて高かったのが1995年に治療薬が導入されたことによって顕著に減少していった。丁度、メディケイドの拡大と重なる時期だ。
これらの問題が修正されないかぎりソマーズらの論文は説得力のないものとして扱われ続けるだろう。よってDicksらのブログ記事の死亡者数の上限もまったく説得力を持たない。
「彼らの論文はメディケイドの拡大によって得られるという死亡者数の減少を大幅に過大に見積もっていると自信を持って言うことができる。メディケイドが成人の死亡者数にプラスの影響を与えるという主張の証拠とされているものはハーバードとニューヨーク大学のチームが信じさせたがっているのとは異なって遥かに弱い」。
ウィルパーらの論文はFranks, Clancy and Goldらによる1993年の論文と同じ方法を用いている。1988年から1994年に保険に加入していなかったと自己申告した人は6年後から12年後の2000年に死亡している率が40%高いと試算したものだ。この結果をすべての州に拡大して保険に加入していないことにより44789人の人が毎年亡くなっていると主張している。
この結論は1988年から1994年に行われたNHANES IIIという調査に参加した成人が自己申告した保険の有無の状態に依拠している。調査に参加して政府の保険に加入していた個人をすべて除外すると12112人が残る。その中で、9004人が最後までインタビューと健康診断に応じたので2000年に生存しているか死亡しているかが確認できる可能性があることになる。生存しているか死亡しているかのエラー率は明かされていない。初期の調べによると、参加者の4%が死亡していると誤って分類されているかもしれないと推計されている。
彼らの方法論の問題点は集中的に議論されてきた。その2つの例がこのブログのこことここで見つかるだろう(省略)。第一に、その時に保険に加入していなかった人はずっと保険に加入していないままという訳ではない。第二に、ウィルパーらも指摘しているようにその他の研究は保険に加入していないと申告している人の7%から11%は実際は保険に加入していることを示している。第三に、保険に加入していない人は加入している人と比べて健康に与える生活習慣が大きく異なるということがよく知られている(要するに、タバコをよく吸う)。第四に、死亡は所得と負の相関をしていることを示した研究がある。メディケイドとオバマケアは所得を低下させるのでそれらの支持者が主張するのとは異なりメディケイドの拡大は健康に有害な影響を与える可能性がある。
以下、寄せられた怒りのコメント。
Ken says:
良い記事。Himmelstein and Woolhandlerは学者じゃない。嘘つきだ。
Thomas says:
クルーグマンが彼の無茶苦茶な主張の根拠にまともなソースも持ってこれないことに呆れている。
Fred Y says:
クルーグマンは経済学の評判を地の底まで落としている。
Walter Q. says:
真の恥だ。
Elena Siddall says:
それはキリンとりんごに共通点があるかどうかを探しているようなものではないのか。何故、1)民間の保険と、2)メディケイドと、3)メディケアと、保険に加入していない人とを比べないのか?
John R. Graham says:
それは実際には悪い考えだ。何故ならば人がある特定の状態に生まれてそのままずっと変化しないと仮定しているからだ。
事実、保険の状態は移り変わる。オバマケア以前では、メディケイドに加入していた人の50%は翌年には民間の保険に加入していた。
これがメディケイドに加入している人と民間の保険に加入している人を比べるのが難しい理由の一つだ。
Alieta Eck, MD says:
ニュージャージー州ニューアークの大学病院では、所得が少なく保険にも入っていない人は「無料の医療」を受けられる。無料で病院サービスが受けられる。地域の病院で患者を受け持っている地域の医者はこの仕事をしている(同様の病院は全米に存在する)。病院はその損失を年度の終わりに州から補填することができる。
ところが、それら同じ患者が今ではメディケイドにサインしなくてはならないと云われるようになった。そこの外科医たちは一般的にメディケイドに加盟していない。先週は数人の患者が「無料の医療」の下、手術を行う予定だった。外科医たちは手術を無料で行うはずだった。
保険に加入していないことによりではなくメディケイドの下で人が苦しむまたは亡くなることさえあるということがここに証明された。
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