2016年3月19日土曜日

政府の保険の方が効率的とは一体何だったのか?

Does Socialism Work? Debunking the Myths

John Goodman

David Himmelsteinと彼の妻Steffie WoolhandlerはHarvard Medical Schoolの准教授だ。彼らは一組となってカナダの国民保険をアメリカで宣伝している。彼らはPhysicians for a National Health Programという団体の活動を指揮している。彼らは(Commonwealth Fundを数えないかぎりは)医療の国有化を推進させるために積極的な活動を行っている唯一の学術関係者だ。彼らは愉快な人達だ(少なくとも私にとっては)。彼らは献身的だ。そして彼らは間違っている。

私が初めてDavidと議論したのは15年前の大学のキャンパスでのことだった。彼らと最も最近に議論したものはAnnals of Thoracic Surgeryという雑誌に再び印刷されている。

私たちが最後に議論して以来、新しい情報が利用可能になっている。これらの情報は3つのよく喧伝される神話を打ち砕くのに役に立つものだ。

管理費が安いという神話:経済学系ではなくすべて医療系のジャーナルに掲載された一連の記事の中で、彼らはカナダの医療システムの管理費はアメリカより遥かに少ないと主張した。その額があまりにも少ないので、管理費の節約だけで保険に非加入の人を全員保険に加入させることが出来ると彼らは主張する。だが彼らは経済学者ではない。彼らは民間の医療保険の保険料収集費用を費用として計上している(広告費、代理店の手数料など)。だが公的保険の側では税の徴収費用を無視している。

経済学の研究は、税を徴収する社会的費用は極めて大きいことを示している。これらの中で最も保守的な推計を用いて、Ben Zycherは国民全員をカバーしていると仮定した場合でのメディケアの管理費の超過負担は国民全員をカバーしていると仮定した場合での民間保険の費用の2倍であることを示した。

質が高いという神話:彼らはカナダの平均寿命のほうが長いので医療システムに何らかの関わりがあるのではないかと示唆している。だが以前から指摘しているように平均寿命には医者がコントロール出来ない要因の方が数多い。医者が差を生み出せる所ではこの分野の研究はカナダを支持していない。NBERの研究で、David and June O’Neillはアメリカとカナダで大規模な患者の調査を行い以下のことを示した。

・高齢と若年の中間ぐらいの年齢のカナダ人の女性で一度もマンモグラフィー検診を受けたことのない割合はアメリカの2倍だった。

・子宮頸がん検診を一度も受けたことのないカナダ人女性の割合はアメリカの3倍だった。

・カナダ人男性の10人のうち8人が前立腺がん検診を一度も受けていなかった。アメリカの半分以下だった。

・カナダ人男性の10人のうち9人が大腸がん検診を受けていなかった。アメリカでは10人のうち7人だった。

これらのスクリーニング検診の差は何故アメリカのがん患者の生存率がカナダよりも高いのかを部分的に説明しているかもしれない。例えば、

・カナダの乳がんの死亡率は25%高かった。

・カナダの前立腺がんの死亡率は18%高かった。

・カナダの大腸がんの死亡率は13%高かった。

驚くことに、明らかに医者の注意を必要とするような症状にも関わらず治療を行っていない少なくない数の人が両国にいた。だが、

・高齢者の中で、喘息、高血圧、肥満の治療を受けていないカナダ人の割合はアメリカの2倍だった。

・カナダの高齢者で冠状性心疾患の治療を受けていない割合はアメリカの3倍だった。

全員を(カナダの)メディケア(カナダにもメディケアという同じ名前の制度がある)に加入させたはずなのに高齢者しか加入していないアメリカのメディケアに劣る結果となってしまった。

平等なアクセスという神話:最もよく聞かれる議論は公的保険ではお金持ちも低所得者も平等に医療にアクセス出来るというものだろう。驚くべきことに?その結果を支持する証拠は一つもない。実際、カナダの公的医療保険はアメリカよりも大きな格差を生み出している(同様の結果はイギリスに対しても当てはまっていると報告されている)。O’Neill夫妻の研究は、

・カナダでもアメリカでも健康状態は所得と相関していた。高額所得層に比べて低所得層のほうが健康状態が悪かった。

・だが明らかにカナダの方により大きな格差がある。両国の非高齢者の白人人口の中で低所得のカナダ人は低所得のアメリカ人よりも22%健康状態が悪かった。

以下、寄せられたコメント。

Bill Waters says:

素晴らしい記事だ。CABGのようにカナダ人が国境を超えて受けに来る高額な手術に対する支出もカナダの統計には含まれていない。

Steffie and Davidは、Physicians for Single Payer何とかいう団体には8000人が所属していると主張している。仮にそれが本当であるとしてもそれでもアメリカの医者90万人のわずか0.09%を占めるに過ぎない。彼女はここ、AOA Societyの地方支部に何年か前に講演に来たことがある。彼女はとても良い人だった。だが宗教じみた狂信を持っていた。あの様子では彼女はデータには関心を持たないのではないかと思う。

Daniel Patrick Moynihanが言ったように、誰もが自分自身の意見を持つ権利があるが自分だけの事実を持つことは出来ない。

Peter Pitts says:

「universal」なhealth careと「government」なhealth careでは何が異なるのか?

残念なことに、前者は政治的に聞こえがよく後者は聞こえが悪い(だからリベラル派は後者の表現を避ける)。実際には両者は同じもので-どちらも「無料」ではない。

「天から降ってきた無料の医療」などというものはない。EUの各国の市民やカナダの市民に聞いてみるといい。それよりもイリノイ州の州知事Rod Blagojevichに尋ねたほうが良いかもしれない。彼の「無料」で「ユニバーサル」な保険の計画(イリノイ州の企業への7600億円というこれっぽちも無料ではない重税で資金を捻出する計画だった)は州議会で107対0という圧倒的大差をつけられて炎上した。州知事自身も彼自身の計画に反対するというおまけ付きで…

ウォールストリート・ジャーナルが伝えている。「ユニバーサルなヘルスケアは再び政治的議題に上がった。多くの民主党員がそれが2008の選挙での勝利に繋がると信じて。彼らは先週のイリノイ州のニュースを詳しく知りたいと思ったかもしれない。民主党の州知事Rod Blagojevichによる医療費をファイナンスするための増税案がその年で最大の政治的な大敗北を喫したというニュースをだ」。

ある出馬者はその理由を理解し始めている。他の人はそうでもない。ここに、その計画の問題点を指摘したニューヨーク・タイムズの記事がある。

http://www.nytimes.com/2007/11/25/us/politics/25mass.html?_health&oref=slogin

要するに、「無料の」医療というものは存在しない。

Linda Gorman says:

あなたの記事は興味深かった。特に、outcomeに関する議論の部分は。だからここでは他のデータも紹介しようと思う。ここに小児がんの生存率(環境因子による影響を受けにくいと考えられる)、心臓病の死亡率、それぞれの5年生存率を比較したアメリカとカナダのデータがある(1年目では両国にそれほど大きな違いは見られない。だが5年目には違いが顕著になってくる)。アメリカは血圧の管理でもヨーロッパ、カナダより良い結果を出している。脊髄損傷の患者の生活の質でもカナダ、イギリスより良い結果を出している。腎臓疾患患者の割合が同じイギリスより人工透析率が高い。次に治療を待っている人々に関するデータがある。スウェーデンの研究者は心臓バイパス手術を待たされている患者の死亡率は1ヶ月毎に11%増加することを示した。患者が待たされている国では死亡率を引き下げようと色々な手段が取られている。Ray et alは「有害事象の半分は治療を待たされている患者の間に発生する。有害事象はすべての行列で均等に見られる。このことは様々な取り組みにもかかわらず手術の前に患者のリスクを低減できていないことを示唆する。重症度の分類をさらに強化したとしても死亡するリスクの高い患者を見つけることが出来るようになるとは考え難い。これらの結果から判断すると受け入れられないほどに高い死亡率の改善には大幅な待ち時間の削減が必要となるだろう」とコメントしている。カナダの待ち時間も長いがそれでも他の国よりは短い。例えば、スウェーデンとイギリスでは心臓外科手術の待ち時間は1年を超えるかもしれないことが指摘されている。ニュージーランドとアイスランドでは6ヶ月以上が当たり前だ。表8は政府が待ち時間を減らそうと色々なプログラムを組んでいるにも関わらず待ち時間が増加していっていることを示している。この問題に関して慎重に調べた研究は単にお金を医療につぎ込むのでは待ち時間が削減されないことを示唆している。政府が様々な医療サービスに関して価格と予算を決定している場合には資源の配分の問題は地域の水準で必然的に作り出される。これらの失敗はシステムの設計者の目には映らない。民間のシステムでは資源は地域のアクターが適しているかを判断しながら配分される。政府のシステムでは外科医と患者は官僚が情報を集め、編集し、調べ、判断を下すのを待たなければならない。このサイクルが終わる頃には重要な情報のほとんどが失われ解決策を示したかのように思われた出来事は時代遅れか機能しなくなっている。

Table 8 Percentage of patients waiting more than 4 months for elective surgery

                      1998    2001

Australia            17        23

Canada              12        27

New Zealand        22       26

United Kingdom    33       38

United States       1         5

Source: R.J. Blandon et al. 2002. "Inequities in Health Care, A Five Country Survey," Health Affairs, 21, 3, 182-191 as cited in Jeremy Hurst and Luigi Sicilian. July 7, 2003. Tackling Excessive Waiting Times for Elective Surgery: A Comparison of Policies in Twelve OECD Countries, Health Working Paper No. 6, Organization for Economic Co-operation and Development, Paris, France. p. 12.

Fiche, Secure, and Whiteによる2002の研究は民間と政府で結果に差があることをはっきりと示している。彼らはカリフォルニアのカイザーパーマネントとイギリスのNHSの費用と質とを比較した。ベネフィット、特殊な活動、人口構造、コスト環境などを注意深く調整した後では、一人あたりの費用は10%ほどの違いしかなかったが「カイザーの加入者はより包括的で便利なプライマリーケアを受けていた。さらにスペシャリストへのアクセスや病院への入院も遥かに速かった」と彼らは結論している。さらに「NHSは全体としてみると効率的で、一部の地域での悪い結果はほとんどが予算の削減のせいで説明できるという広く信じられている神話はこの分析から支持されなかった。カイザーはほとんど同じ費用で良い結果を達成している」とも結論している。単にカイザーは資源をよく管理し病院のベッドをうまく配分し高度に訓練されたスペシャリストをうまく使い必要とされていることを一回の訪問でこなせる技能の高い外科医を提供しているとのことだった。

[1] A. Andrew Ray et al. 2001. “Waiting for Cardiac Surgery: Results of a Risk-Stratified Queuing Process,” Circulation, 104, p.97.

[2] Richard G. Feachem, Neelam K. Sekhri, and Karen L. White. January 19, 2002. “Getting More for Their Dollar: A Comparison of the NHS with California’s Kaiser Permanente,” BMJ, 324, p.135.

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